○国務大臣(坂田
道太君) 確かにおっしゃるように、生涯
教育ということばは最近使われ出したことばだと思います。私
どももこの概念をどう考えたらいいのか、実はまだ確たる
考え方はないわけでございますけれ
ども、ただ
学校教育あるいは
学校教育制度、これだけで一体、
教育はなされるのかどうかというと、なかなか
学校教育制度だけでは人間は
教育できないのだと思います。昔は
学校教育というだけで知識を吸収し、そして高等
教育を受ければ、それで生涯、それが
基本になって社会に適応していける、こういうふうに考えられたわけでございます。あるいは社会そのものを引っぱっていくというか、指導していくというか、
大学を卒業すれば
大学でおさめた
教育あるいは研究の成果が、それが直ちに社会に還元され、そうして社会自身が引っぱられていく、進んでいくのだ、こういうふうに素朴に考えたものですから、こういう世の中になって、しかも情報社会、あるいはテレビだとかラジオだとか、そういうようなものがこれほど繁雑をいたしますと、幼少の段階におきましても、
学校だけでは
教育は成り立たない。家庭との
関係を考えずしては幼児
教育は成り立たない。あるいはまた
大学を卒業しても、社会がどんどん進んでまいりますから、一たん得ましたその知識だけでは、あるいは
大学でおさめた技術だけではとうてい社会に適応できない。再び何らかの知識を
大学に求め、また
大学もその研究の成果を、新たなる要請に対しこたえていかなければならぬ、そういう役目も
大学自体に出てきた。あるいは
学校教育制度の中にも出てきたと思いますけれ
ども、しかし、同時に社会全体の繁雑の中においていろいろな知識が吸収される世の中に変わってきており、
大学だけが唯一の知識の源泉ではないのだ、こういうようなふうに変わっております。そういう
意味から考えますと、やはり
学校教育と同時に社会
教育全体として
学校教育制度も考えなくちゃならないのじゃないか、こういう
意味において、生涯
教育というとらえ方でまいらなければ社会にも適応できない。あるいは
大学あるいは
学校制度そのものにも生かされない、こういうふうに考えられるわけでございますし、さらに老人問題にしぼりましても、ただいま厚生省のほうからいろいろ
お話がございましたように、単に所得を保障するだけでは、老人の精神的、情緒的安定というものは必ずしも得られない。たとえばスエーデンのように社会保障の行き届いた国ですらかなり老人に自殺その他が多いということは、やはり、生きがいというものは単に所得が安定すればそれで終わりというものではないのだ、ということから、老人に対するいろいろの
教育が必要である。また老人の生きがいのために、今度は青少年の老人に対する
考え方というものもやはり
教育がなされなければならないということで生涯
教育こいうものが叫ばれてきたのではないかというふりに考えておるわけでございます。私、たまたまいまから十一年前、
昭和三十四年に厚生大臣をいたしまして、国民年金を
国会で御審議をわずらわしました責任者の一人でございます。そのことを考えまして、いかに国民年金の制反というものが非常に大事であるか、と同時に老人にとって医療というものの保障というものが大手であるかということを痛感いたしましたが、いま文部大臣になりまして、また老人の心のささえといいますか、精神を、どうやって生きがいを感ずるようなふうに考えていったらいいかということをいま考えさせられておるわけでございます。
私、二週間ヨーロッパの新しい
大学を見に行ったわけでございますが、イギリスでたまたま労働党の議員で、ミスター・ディエルという人ですが、この方が昨年日本を訪れましたときに、私イギリスに行ったらぜひあなたとも
お話をしたいといっておりましたら、土、日をスコットランドの自分のうちに泊めてくれたわけでございます。このディエルさんに老人ホームを、自分の選挙区内におけるりっぱな老人ホームを見せていただきました。これは多少自分たちでもお金を出して有料の老人ホームですばらしい建築でございますし、アットホームな
感じがいたしました。しかしそのときにこの労働党のディエルさんが言われたことは、こういうふうにして老人が子供や孫というものとは隔離されて、そしてただ死を待つばかりというのは人間生活をやる上においてどうだろうかという疑問を自分は持っておるということを申しておりました。たまたまディエルさんのうちに行きましたら、この人は労働党の議員でございましたけれ
ども、三百年来の名門でございましてやかたというか、お城と言ってもいいぐらいのりっぱな由緒あるうちでございました。しかしいまは貧乏でもう何か財団法人みたいなものに一応管理権を預けて、これは税金の
関係かと思いますが、しかし一晩泊まりましたら家族あげてサービスをしていただいて、ほんとうにディエル夫人というものはりっぱな人だなあという
感じがしたわけでございます。ところがそのうちに、自分のうちが非常に財源的に不如意であるにかかわらず、おかあさんをちゃんと自分のうちでやはり養っておられるというさまを見てまいりまして、なるほどなあという
感じがしたわけです。でございますから、戦後まあ経済的な理由もございまして、あるいは住居の
関係もあって核家族ということで出生率が非常に少なくなった。そしてまた親とは離れて生活をするという習慣がだんだん日本にでき始めました。それが今後老齢人口の高まりと老齢者が非常にたくさんになるとともに、やはり問題が出てくるのではないだろうかというふうに思います。先ほど厚生省から御発表になりましたように、まだ日本では現在でも老人を含めた同居者が八〇%ということを申されておりますが、しかしだんだんその八〇%が低下していくんじゃないかということでございまして、何かここで老人問題に対してわれわれも、そしてまた厚生省のほうでもよくお考えいただき、また適切なひとつ施策もこれから考えていかなきゃならぬというふうに思っておるわけでございます。