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松井誠君 私は、ただいま
議題となりました三法案について、
日本社会党を代表して反対の討論をいたします。本会議における反対討論の機会がございませんので、少しく詳細に申し上げることをお許しいただきたいと思います。
反対の
理由を一言で申しますならば、いつものことながら、この三法案は、大
企業、高額所得者の公然たる優遇が保証され、
国民政党を僣称する
政府自民党の階級的
性格があざやかに貫徹されているからであります。
最初に、
所得税改正法案について申し上げます。
政府は、今回の
減税をみずから称して、史上最高と宣伝これつとめましたが、その
減税総額がその名に値しないものであることは、すでに多くの指摘するところであります。真に関わるべきは、むしろだれのための
減税かということでありましょう。今回の
改正によって、課税最低限は、夫婦子二人の四人家族で、給与所得者の場合百二万八千円、専従者のいない事業所得者の場合は六十一万一千六百円、実に月五万円余の所得に
所得税が課せられるのであります。さらに、独身者に至っては、年三十四万円をこえれば課税されるのであります。本年度中卒者の初任給が年三十九万円といわれておりますから、中学を卒業したばかりのいたいけな少年の肩に、情け容赦もなく
所得税の重圧がかかるのであります。これに反し、年間二百万円ないし三百万円の所得を得るいわゆる中堅層は、給与所得控除及び
税率改正のいずれにおいても最も恩恵をこうむるものであることは、すでに周知のとおりであります。
なお、この際注目したいことは、
税負担の軽重については、単に軽減率だけではなく、軽減される税額の絶対値の
比較が重要であるということであります。今回の
改正によって、年所得百万円の給与所得者は、
税率において約四二%の
減税であるのに対し、年所得五百万円の所得者は約二四%の
減税であります。しかし、税額においては、前者は年間わずか六千五百円の
減税、後者は二十六万四千円の
減税となるのであります。その生活に対して持つ実質的な重味の違いは、言わずして明らかでありましょう。
次に、
法人税法及び
租税特別措置法の各
改正案につき、一括して反対の
理由を申し上げます。
最初に、
法人税について申し上げます。
法人税は、
昭和四十年、四十一年の二回にわたり、
経済的不況を
理由に
合計三%引き下げられ、
現行の三五%となったのであります。したがって、むしろ
景気過熱の危惧せられるに至った今日では、これを旧に復する
意味も含めて三%
引き上げるのが当然のこととして期待されたのであります。ところが、財界の公然たる圧力に屈し、その
内部留保分に限り、
法人税率三五%の五%すなわち一・七五%を
法人税に付加する
形式で、しかも二年間の
臨時措置として
引き上げるにとどまったのであります。これによって、
引き上げ税率が低く押えられたばかりでなく、
基本的な
税率は三五%に
固定する道をも開いたものと言い得るのであります。
日本の
法人税率は、
実効税率においても
表面税率においても、英、米、仏のそれより低率であることは、まぎれもない事実であります。にもかかわらず、
国民総生産世界第三位の
経済大国にのし上がった
日本の
政府のとった道がこれであります。もし
税率を
国民の期待するように三%
引き上げれば、それによって
改正案より増収となる額は約六百億円をこえ、この増収分によって、
所得税の
基礎控除及び配偶者控除を各一万円ずつ
引き上げることが容易にできたのであります。だれのための
減税か、言わずして明らかでありましょう。
しかも、
政府は、この
法人税率を
改正するにあたり、二年間の
臨時措置であることを
理由に、これを
法人税改正案に含めず、
特別措置法改正案に譲ったのであります。このことによって、当然
改正すべき
法人税の問題を、二年後の
改正の
基本的
方向を示さぬまま、臨時特則的
性格を持たせてしまいました。
法人税率改正の重大性にかんがみ、
政府のこのような
基本的姿勢に反対せざるを得ないのであります。
次に、その他の
特別措置について申し上げます。
これらもろもろの一連の租税
特別措置は、その実施当初は、
日本経済の戦後性あるいは後進性を克服するための措置として、ある程度の正当性を主張することができました。しかし、その後、
日本経済の成長につれて、その政策目的は、貿易自由化、さらには最近は資本自由化に備えることに変わり、
国民的同意は全く失われてしまいました。
政府は、そのために、
特別措置の中に、大
企業だけではなく、その他の
国民階層にも
影響のある
特別措置を少しずつ導入することによって、
特別措置に対する
国民的非難を回避しようとしてまいりましたが、しかし、
政府のこの涙ぐましい努力は成功せず、
特別措置は、
税負担の公平を害し、善良な納税者の納税意欲を阻害している元凶として怨嗟の的となっているのであります。
この
特別措置の中の中核的部分は、
特別措置による減収額の三八・六%を占める
利子・
配当の
特別措置であります。この二つの措置が本年三月末をもって
期限が到来するだけに、
政府の措置が注目されたのでありますが、
国民のわずかに抱いた期待はむなしい幻想にすぎなかったのであります。この
利子・
配当の
特別措置がいかに高額所得者を利してきたか。たとえば
利子所得は、これを総合課税した場合に、分離課税の場合よりも
負担増になる所得階層は、年間二百万円以上の所得者に限られますが、このような所得者は、
昭和四十三年度において全体の三・三%にしかすぎません。また、
配当所得についても、
昭和四十三年度の
所得税申告納税者中二百万円超の者は一二・二%にすぎませんが、これらの少数の人々が
配当所得の八七・六%を占めているのであります。また、
昭和四十年度に導入された
配当の源泉選択制度にしても、源泉選択分離制度の適用者の分布
状態を見れば、年間所得百万円未満ではその利用
状況は二一%にすぎませんが、一千万円以上では実に六六%にのぼっているのであります。
これらの厳正な
数字に目をつむり、
政府は、これらの
特別措置の存続を、
貯蓄奨励あるいは
自己資本充実などにその口実を求めているのであります。しかし、事実が教えるところによると、
日本の
貯蓄率は、GNPに対する
国民総
貯蓄の比率にしても、個人所得に対する個人
貯蓄の比率においても、連年上昇の一途をたどり、現在諸外国に比べてはるかに高率であり、これ以上さらに
貯蓄奨励を必要とする
理由はないのであります。また、
貯蓄率の上昇は、
利子課税制度の内容とは
関係なく、むしろ可
処分所得の増加率と密接な
関係があること、そして、
利子課税制度は、
貯蓄総額にでなく、この
貯蓄が預貯金に向かうか、株式投資に向かうか、その資産の運用
方法に
影響するにすぎないことが立証せられているのであります。
また、
配当の
特別措置が
企業の
自己資本充実に資するという
理由も、何ら証明されていないのであります。
法人企業の
自己資本比率の統計によれば、
昭和二十九年ころから大勢として
自己資本比率は下降の一途をたどり、
配当軽課措置によって特に変動を生じたことは認められないのであります。
日本の
企業が
自己資本比率の低いのは、高度成長下における成長金融のあり方そのものの中にその原因があるのであります。
このように
利子・
配当の
特別措置は、その政策目的そのものに問題があるか、または政策目的との関連が立証せられないにかかわらず、今回、またもや大筋は五年間の
据え置きとし、その範囲内で小幅な
改正を行なったにすぎません。
利子所得については源泉分離課税を認めることになり、
政府はこれを総合課税への道を開いたと称していますが、しかし、分離選択の
税率は、当初の三〇%ないし四〇%の案から、二〇%ないし二五%へと大きく後退し、これでは、高額所得者は、
配当の場合と同じように、依然として分離課税を選ぶようになるでしょう。また、
配当課税についても、たとえば
配当控除率を
昭和四十六、四十七年の二年は、本則の一〇%より高い一二・五%の特則を在置したため、
配当のみの所得者の免
税率は、本年度の二百八十二万円からさらに上がって三百四万円となり、また、控除率が一五%に据え置かれた本年度は、実に三百四十六万円までが無税なのであります。
以上、三法案の反対
理由の主たるものだけを述べて、反対討論を終わります。