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政府委員(松尾正雄君) 先般四つほどの大きなテーマにつきまして宿題をいただいておりました。いろいろ内外の文献等も要約いたしまして御報告申し上げたいと思います。
第一の問題は、いわゆる局所振動障害と言っておりますところの体の障害がチェーンソー以外に何が起こるかという問題でございます。振動工具によりますところのいわゆるレイノー症候群というものは、欧米でも早くから注目されておりました。一九一一年にロリガという人が報告したのが
最初のようであります。それ以来、さく岩工とか、あるいはびょう打ちをします
作業員、あるいはかんをつくります製かん員でありますとか、あるいは鋳物の
作業の
関係者などからもいろいろな報告が出ておるわけでございます。振動工具の種類といたしましてこれに
関連しますのは、チェーンソーのほかに、さく岩に使いますロックドリルというもの、あるいは鋳物を製造いたします場合、あるいは製かん等に用いられておりますところのピッチングハンマー、あるいはびょう打ちに使いますリベッテングハンマー、鋳物の型を込めるために使いますランマー、線路等の保線のときに使います枕木のタンパー、それから造林のときの刈込み機、こういうものが振動工具としてこれらに
関連するといわれておるところでございます。
一般に振動工具というものには、ピストン運動をいたします打撃工具と称せられるものと、それから回転をいたします回転工具というものの二つの種類に分けられるようであります。そのいずれにつきましても、手で持って使います手持ち工具、固定をいたしまして使います固定工具と分けられると思います。言うまでもなく、固定工具のものでは
白ろう病の発生は非常に少ない、こういうことが報告されております。
それから、第二の問題としまして、
白ろう病の発生と局所振動がどのような結びつきになるかというものでございます。
一般に
白ろう病の症候群は、
外国では、いわゆる圧搾空気等を用いましたハンマー病とでもいうような、そういう表現が使われております。それにあらわれておりますように、振動工具を日常使用するということによりまして、腕の関節の周辺の骨に変形を来たしましたり、あるいは前の腕の筋肉の変性、肥大というものが起こるというふうにされております。特に手の指に発作性の血行障害が起こりまして、漸次これが血管運動障害に発展をいたします。最後には要するに寒さに曝露しただけでも、いわゆる白ろう症状を呈する。こういうふうになっているものでございます。
この
関係といたしましては、振動が有力な問題ではありますけれ
ども、同時に
作業環境、それから器具の持ち方、保持の方法というものがそれぞれ
関係をしておる。どの程度の
関係であるかということは非常にむずかしいようでありますけれ
ども、その
三つともが
関係をするというふうに考えられておるわけでございます。そのほかに、同じ
作業条件の中でも、
白ろう病を発病するものとそうでないものとがあるということから、本人の体質的な素因というものが相当
関係するというふうに考えられておるわけでございます。それで、この
白ろう病の変化というものが実際にチェーンソーを使用しているというときょりも、むしろ単車でたとえば通勤をしておりますとか、あるいは雨にぬれましたとか、こういうときに起こりやすく、また、そういう仕事と
関係のない睡眠時間中にも起こるということが報告されておりますことから見て、そういう何らかの振動が加わるということあるいは寒さの問題のほかに、精神の興奮
状態というようなことにもこの点は
関連しているのではないかということが示唆されているわけでございます。
なお、後ほどの問題にも
関連いたしますけれ
ども、そういう振動工具というものじゃなくて、バイクによりまして
日本でこういう症状を呈した報告が
昭和四十一年、四十二年、それぞれ二例、一例というような報告をされておるわけでございまして、これはいろいろな問題を考える上に、比較的少ない例ではございますけれ
ども、
参考になる症例ではなかろうかと存ずるわけでございます。その意味におきまして申し上げますと、四十一年に報告された二例につきましては、三十二歳と十九歳の健康な男子が、日常業務として、自動二輪車で一日平均二時間ぐらい山道をずっと走っておった。こういう場合に、約一年前後で指に蒼白現象を来たしたというのが報告されております。
それから、もう
一つの例は、保険の外交員でございますが、一日三時間ぐらいずつを約三年間バイクに乗って走っておった。そのときのバイクが非常にいたんだものでございまして、手に相当振動を感じるということが言われております。そういったことによっても、チェーンソーに
関係なく起こったという例が
わが国でも報告されておるわけでございます。
第三の問題としましては、振動の防止、それから就業時間との
関係等でございます。いままでに申し上げた報告にもございますように、振動を少なくするということが、一番
白ろう病の発生防止のために必要でございまして、そのためには、やはり振動の少ない工具の開発が第一であろうと思われます。それから振動数と
白ろう病との
関係につきましては、イギリスのアゲートという人や、アメリカのディ・タカツという人が、大体振動数が毎分二千四百から二千七百サイクルというような場合にはレイノー症状が起こる。それから毎分九千六百サイクル以上というような高い振動になりますと、むしろ神経症状や筋肉、骨のほうに萎縮があらわれてくる、こういうふうな報告がございます。
わが国の例としましては、ピッチングハンマーを使用したところで、振動数が毎分やはり二千から三千サイクル、一日の使用時間平均二時間ぐらいで、ハンマーの使用者十九名のうち、十名にそういう症状を発見したということが四十二年の報告に載せられております。振幅との
関係も、実は先般もいろいろ
議論されておりますが、先ほど申し上げましたアゲートというイギリスの人の研究によりますと、二千四百から七千サイクルの間では、大体振幅が四ミリから〇・一ミリメートルぐらいの程度のものが最も起こしやすいのではないかというような報告がございます。使い始めてから発病までの期間は必ずしも一定しておりませんけれ
ども、
一般には大体二年から三年で症状が頂点に達しまして、その後はほぼ横ばい
状態を続けるということがイギリスのジェプソン等の報告で、一九五四年に報告されております。また一方では、この一万サイクル以上のような工具の場合には、毎分四千サイクル以下のものに比べまして、そういう症状の発現が数カ月前に出てくるという報告もございました。これは一九四六年の報告ですけれ
ども、さような報告もございます。さらに伝達防止の問題としましては、振動自体がからだに伝わることを防ぐということで、工具の取っ手に何らかの緩衝物をつける、あるいはゴムやバネ等を用いたり、非常に厚い手袋を使いまして、そこで振動が手に伝わらないようにするという方法等が考えられておるわけでございます。
それから第四の問題としまして、就業者の健康管理の問題でございます。この一番の目的といたしますところは、やはり疾病を予防するというところに置くわけでございまして、広い意味では労働管理、工具の改良等も含まれるわけでございますが、また、
作業環境の改善ということも非常に大事な問題でございます。アメリカにおきましても、工具の改良とかオートメーション化によって手
作業というものを省略する、あるいは労働時間の短縮、あるいは工具の間欠的な使用及び振動に対する感受性の強い者については転職というようなことが大事である、これはペコラという人の報告によるものでございます。したがいまして、健康診断といたしましては、
一つは医学的に振動に対する感受性の強い者を発見するということが次善的には非常に大事な考えではなかろうかと存じます。この振動に対する感受性の強弱につきましては、自律神経の不安定な者が非常に多いということが言われておりますので、そういう自律神経系統の安定性というものについての各種の検査を取り入れておけば、ある程度こういうものの発病しやすい人々というものを早く発見することができるのではないかと思います。それからもう
一つは、あくまでそういう症状を早く発見をするということによって、早期発見、早期治療という
方向へ持っていくべきであろうかと思います。これらの点につきましては、
昭和四十一年、四十二年の厚生の科学研究費によります研究の結果といたしましても、単に末梢神経の障害
——末梢循環障害だけに着目するんではなくて、もっと全身的な自律神経系の機能障害でありますとか、あるいは末梢の神経障害ということにも着目をして十分配慮する必要があるということを報告されておりますので、そういう観点に立って健康診断、管理ということを行なう必要があろうかと感ずるわけでございます。
なお、これらに
関連いたしまして、たとえばそういう適性を発見することが可能かどうかという問題がございますけれ
ども、いろいろな医学的な検査の中で、こういうものについても適用できるというような検査が幾つかあげ得るようでございます。もちろん自律神経系統の機能の検査といたしましては、一定の薬を与えまして、それによっていろいろな反応を見るという、薬物による検査方法もございます。それから皮膚の温度を測定いたします方法、たいていレイノー現象の方々は、指先の温度が腕の温度に比べて平常の人よりもはるかに低い、温度勾配の急なことも報告がされておりますが、そういったことがある程度客観的に把握する上に役立つかと思います。
それから、そういう適性と申しますか、いま
一つの早期発見の診断といたしましては、指を冷たい水の中につけておきますと、
最初は指の温度が急速に下がります。なお一定の間たちますと、逆に水中でも温度が上がってまいります。それから手をさらに水の中から出しますと、その後さらに温度が上がる。こういうことは冷水摩擦等の経験でよく知られておるわけでございます。こういったような問題をとらまえますと、
白ろう病の場合には、いわゆる
最初に水の中に入れて、次に上がってくる温度上昇ということが非常にあらわれにくいということが言われております。また水から出しましても、それからあと温度が上がるということが非常に緩慢であるということが言われておりますので、これらもやはり客観的な判断のものさしになろうかと存じます。そのほかにこまかい指の先の血流の
状態というものが、通例の脈搏等ではかるわけにまいりませんので、手の指の容積をはかる方法がございます。こういったものを使いますと、
一般にレイノー
関係の方々、
白ろう病の方々は、冬には非常に強い血管収縮がある、要するに指の容積が小さくしか出ない、こういうこともわかっております。それからこういう症状のある方では、夏でもそういう血管収縮
状態が強く見られる、冬にはさらに増悪するということが言われております。それから症状のない方では、夏にはそういう血管収縮
状態が見られないのでございますけれ
ども、冬になれば相当程度が血管収縮が見られるということが言われておりますので、こういったような検査を適時使うことによりまして、先ほど来申し上げましたような早期発見なりあるいは振動に対する適性ということの判定に用い得るのではなかろうかと感じておるわけでございます。
たいへん簡単でございますが、要約いたしまして以上のとおり御報告申し上げます。