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参考人(小林純君) ただいま、厚生省が以前は〇・四PPMをもって暫定的な
基準としておられましたが、最近急にそれを
基準を引き上げられまして、白米は〇・九PPM、玄米は一PPMというふうにお引き上げになったわけでございます。
私は、実はこちらへ参りますまで、そのどういう
根拠によってそういうふうになさったかということを知らなかったのでありますが、けさほどこの厚生省がお出しになっております印刷物を拝見いたしまして、一つは黄色い表紙の「要観察
地域におけるカドミウムの摂取と蓄積に関する研究、
昭和四十五年三月三十日、日本公衆衛生協会」それからもう一つはガリ版刷りになっております「カドミウム環境
汚染要観察
地域に関する四十四年度研究・
調査の要約および厚生省の
見解と今後の
対策、厚生省
公害対策連絡
会議、
厚生省環境衛生局
公害部」この二つを先ほどずっと大急ぎで読ましていただきました。
で、どうして
基準が急にあのように引き上げられたかという
根拠をさがしてみたのでございます。そういたしますと、このガリ版刷りのほうの二一ページに、注の一というのがございまして、それがどうもその
根拠らしいということになります。この二一ページの注の一を拝見しますと、この刷り物の前のほうに図の五というのがあります。それから先ほど言いました黄色いほうの印刷物ですと、一番裏の表紙に図の十というのがございます。この図の十と、それからこのガリ版刷りの図の五というのは、同じものらしく受け取れました。問題はこちらの黄色いほうでいきますと、図の十ですが、一日当たりカドミウムを住民が何ミリグラム摂取した場合に、その尿中に何ミリグラム排泄されるかというその
関係を図にしたものがこの図でございます。この図で拝見いたしますと、非常に散らばりがありまして、斜めに線が引っぱってはありますけれ
ども、いろいろの点がこの線の上につながっておらない。極端な例といたしまして、このずっと右の一・二ミリグラム・パーゼロと書いたその上のほうにかけじるしがございます。これはもう、この斜めの線からいいますればずいぶんとはずれた位置にあります。こういうふうに線からものすごくはずれたものをも含めまして、そしてこういうぐあいに、ごく少数の
データからこういう
関係線を導き出されておるわけでございます。しかもこれは、中をちょっと拝見しますと、ある一日だけのカドミウムの摂取量を食物について調べた。それから、同じその日に小便から出たカドミウムを調べたというわけでございますが、その日に食べたカドミウムがすぐ直ちに小便に出るわけではありませんでして、当然時間的なズレがございます。それを無視して、同じ一日にカドミウムを幾ら食べたらその同じ日に幾ら小便からカドミウムが出たという
関係を示すわけの図でござます。ところが、今回の〇・九PPMをきめますにあたりまして、この図が非常な大きな
基礎になっています。この図にものをいわせておきめになっているということがわかったのでございます。そのいろいろの計算の
基礎が、こちらのガリ版刷りの二一ページの注の一にずっと計算が示してあります。ところが、私のほうで同じことを――私のほうでは、
汚染地区の住民を六名、これは安中と富山の住民ですが、六名選びまして、一カ月間近く毎日毎日陰ぜんの食事を送ってもらいまして、これは萩野さんと高柳さんと二人にお願いしまして陰ぜんを送ってもらい、また大便、小便を毎日毎日送ってもらいまして、私
どもでカドミウムその他の
分析をしたのであります。ところが、私
どもの
データから見ますと、この図の十のようにならないのでありまして、この斜めの線がはるかに立ち上がって、非常に急な線となってまいります。そうしますと、一日にカドミウムをとった摂取量と尿から出た量の
関係が、この図とはまるっきり違ってまいります。二倍からの開きが出てまいります。厚生省のこの図からいけば、なるほど一・九幾らPPMまではだいじょうぶだと、一・九四PPM、二一ページの下から二行目に一・九四PPMとありますが、こういう
数字まではだいじょうぶだと。それで、安全度を見越して、その半分の〇・九PPMにきめた。こういうことになるわけでありますが、私
どもの尿の
データからいたしますとそうはなりません。この
関係した直線がこれよりも倍くらい急に立ち上がります
関係で、ちょうど半分の値に出てまいります。ですから、厚生省でおきめになりました〇・九PPMの半分の〇・四ないし〇・五PPMというほうが正しいのじゃないか、こういう結論になってまいりまして、私は、前から厚生省が暫定的におきめになっておった〇・四PPMのほうが妥当ではないか、こう考えるわけでございます。その原因は、先ほど申し上げましたように、厚生省のほうでは一日だけ陰ぜんをつくってお調べになった。そのつくったものがその瞬間に小便になって出るわけじゃないわけですが、その瞬間に出た小便をお調べになって、
関係ありとしてこういう計算をおつくりになった。そこに問題があるのじゃないか。しかも、非常に件数もわずかですし、それから非常にこういうぐあいに、とんでもないところにかけじるしがありましたりして、ただこれだけの
データをもってああいう重大な結論を導き出すというそういう計算には相当問題があるのじゃないか。まあこれは私のほんとうに
感じたことを率直に申し上げまして、そういう
感じがするわけでございます。ですから、私としましては、前々から厚生省でおきめになっておりました〇・四PPMのほらが妥当である。厚生省の今度計算なさったその計算は、むしろそういう結果になるのじゃないか。これは、摂取量とそれから尿の中のカドミウムの量の
関係をもう少し正確に
分析なさったならば、あるいは私のように一カ月ぐらい継続してお調べになれば、当然あのような
データが出るのじゃなかろうか、こういうように考えております。
それからまた、別の方面から考えまして、イタイイタイ病の重症患者が出ました神通川の流域の場合を考えてみましても、農家の保有米が一・九PPMはここではだいじょうぶと出ておりますが、私は、一・九、あるいはラウンドナンバーで言えば二PPMですが、この二PPMぐらいの農家の保有米を三十年間食べ続けたならば、神通川のあの悲惨な重症患者が出るのじゃないか。萩野さんはよく三十年のキャリアということをおっしゃっておりますし、それからまた私は、
昭和十八年の神通川の
汚濁が一番ひどかったときを見ております。また、その前後の模様を勘案いたしまして、農家の保有米は大体二PPMあるいは一・九PPM内外であったろうと、こういうふうに推定いたしまして、ただそれが三十年という長い期間のうちにたまりたまってああいう病気が出たのじゃないかということを申し上げたいと思います。
それから第三番目としまして、先ほどの厚生省の計算では一・九四までがだいじょうぶと出たけれ
ども、安全度を見てその半分の〇・九PPMをとったということをお示しになっておりますが、やはり国民の健康の総元締めであります厚生省としましては、危険性のある
濃度の半分というよりは、四分の一とか五分の一におきめになったほうがいいのじゃないか。そうして住民の健康を守ったほうがいいのじゃないか、そういう
感じがいたします。
で、カドミウムというものはもともと有害無益なものでありまして、人体に何ら必要のない有毒物質であります。ですから、理想からいえばカドミウムの摂取量はゼロであることが理想でありまして、世界の中にはアフリカ人のようにカドミウムの摂取量がゼロという国民もありまして、じん臓や肝臓を見てもカドミウムが出ないという国民もありますね。不幸にして日本はカドミウムが非常に多い国でありまして、それも主食のお米が大きなその原因をなしておる。それから今度は、パンの原料にします小麦にしましても、オーストラリアとかカナダの小麦を私のほうで一度
分析しましたところではカドミウムは検出されなかったにもかかわらず、日本のパン用の小麦からはカドミウムが出てまいりました。それからまたお米にしましても、いわゆる外米、タイとかビルマのそういったお米のほらが日本の米に比べてカドミウムは非常に少ない、こういう
分析結果が出ておるのであります。ですから、いずれにしましても、カドミウムを非常にたくさん日本人は食べておる。そうして日本人の体内にカドミウムがたまっておる。そのことは、アメリカの人体の重金属の
分析で私が昔十年前に習いましたテネシー大学のティプトン、この人が東京と京都大学から――東京のほらは大学ではありませんが、東京とそれから京都大学から人体を三十数名分取り寄せましてティプトン博士が
分析いたしておりまして、その結果を見ましても、日本人の内臓にはカドミウムが非常に多いという値が出ております。ですから、そういったいろいろな意味でカドミウムの
規制は厳重にしていただいたほうが日本人の健康のために、長生きのためにいいのではないか、こういうふうに考えます。
それからもう一つの問題としまして、
汚染米というのは全体から見れば非常にわずかな微々たる量であります。現在日本ではお米はもう不足しておらない。ですから
汚染地区の明確な図をつくりまして、たとえば赤と黄と青で塗りつぶしまして、カドミウム
汚染地区で赤に相当するところは農家に休耕をさせる。それから青に相当する非
汚染地区の米を
県外に、たとえば富山県ですと
県外へ移出したならば富山県産米の信用は非常に高まってくる。それにもかかわらず、非常にこの
基準をゆるめて〇・九PPMもあるような米を富山産米に混ぜ込みますと、結局富山県全体の非
汚染米の信用ががた落ちになりまして、かえって富山県の不利になり、やぶへびの結果になるんじゃないか、こういうような
感じがいたしますので、むしろそうやって休耕するなりなんなりしまして、厳重にその
汚染米を選別しまして、そして
汚染されない米だけを送り出すということのほうが国民の健康のためにも、またお米の主産地であるたとえば富山なんかにしましても、そのほらが有利でないか、こういうふうに考えます。ですから、何にしましても、このカドミウム
汚染の問題は、
企業がもっと早く取り組んで
対策を立てておったならばこんな大きな問題にならず、
企業の損害も、また住民の
被害も少なくて済んだわけでありますが、かえってその
公害対策がいままで怠られておりましたために、問題が大きくなって、
企業のコストも高くなってしまったんじゃないか。早く
対策を組めば
企業のコストは安くて済んだんじゃないか、こういうふうに考えております。