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国務大臣(
橋本登美三郎君) 私は、反論を申し上げるわけじゃありませんけれ
ども、赤軍の
犯人たちが北朝鮮の平壌に行けということを、
機長の命令のごとくに御理解なさるのはどうかと思うのです。
機長がそのとき言ったように、自分は平壌に行ったことはないのだ、朝鮮の地図もない、どんな飛行場かわからぬ、こういう場合に、何でもかんでもいいからおまえは行けと、こう言っていわゆる凶器を持っておどかして、それじゃ平壌に行きましょうと言ったのですが、ほんとうにこれは
機長が間違いなく平壌に行けるという判断のもとにそう言ったとは私は
考えられません。いま御承知のように、
皆さんもその後の情勢でごらんのように、やはり
犯人に対しても、私は
機長がそういう判断をし得る能力があっていいと思う。少なくとも、
犯人も人間であり、
機長ももちろん人間で、人命であります。まして百余名の乗客を持っておるんです。そういう人たち、安全なところに行くというその
機長の判断も、私は
考えなきゃならぬ。単に
犯人がそう言ったからここへ行け、これだけでもって私はいいと
考えません。そういう
考え方があるところに、私は間違いがあるんじゃないのか。したがって、あの機内において、たとえば
機長がそこは自分は知らないんだ、まだ、はたして十分なるこれだけの近代的な
飛行機をおろせる飛行場であるかどうかはわからない、地図一枚板付飛行場でもらって——事実
日本の飛行
会社が持っていないんですよ。そういうような
状態でありますから、したがって、
機長の判断はわれわれ尊重しなけりゃならぬ。であるけれ
ども、その
犯人が言うとおりになることが人命の安全であるかどうか、これはやはりまじめに
考えなくちゃいけないと思うんです。したがって、
機長が自分としては困難な場合は、あるいは
犯人に向かって、そこはどうしても行けない、上海飛行場ならば、行ったことはないけれ
ども、こうこうこういう航空
会社が飛んでいるから、これならば着く自信はあるんだ、こういう判断もあり得ると思うんです。ですから、
犯人が言うとおりにどこまでも行けというのが、私は
人命尊重じゃないと思うんです。でありますからして、その点については私は、
機長の正確なる自由なる判断にまかせなきゃならぬ。脅迫された判断が決して
機長の判断ではない。こう言いたいのであります。
こういう
意味におきまして、しかしながら、それがりっぱな飛行場であり、そしてそこには安全に到着できる場合においては、未
承認国といえ
どもこれはやむを得ないから、そこに
機長は飛ぶでありましょう。そういう場合において今後どうするかという問題があります。それには、いまお話がありましたが、
政府間協定は実際上の問題として今日ではできません。しかし、人道上の問題として、赤十字社なり、何らかの形を通じて何らかの協定がないであろうか。あるいはまた、航空
会社同士で、航空
会社が、たとえそれが政治的な
関係があろうがなかろうが、航空
会社というものが
世界の航空の実情から見て、航空
会社自身があるいはそういうような話し合いをつけることがないだろうか、こういうことは
考えられます。しかしながら、いま言ったように、
犯人が言うところに持っていけ、こういうことが私は人命の尊重だとは
考えられません。この場合には、自由な
機長の判断によって、
犯人がそう言ってもそれはだめだ、実際上危険であると言って
機長がそういう説得をする場合もあるだろうし、あるいは、外部からして、こういうところはどうしても自分のところには
資料がない——事実板付においては、全く
資料がなかった。わずか、小学校の、京城と平壌がくっついたような地図しかないのですから、乗っておる諸君も、操縦士も、あるいは機関士もまだ行ったことがない、こういう場合において、ただ
犯人が言うとおりに言うところに動くことがいわゆる生命を安全にし得るかどうかということは問題があろうと思います。もちろん今回において、相当の
期間、一億の人が総神経衰弱の
状態になったということは、それはまことに相すまない次第でありますけれ
ども、しかし、金浦飛行場に着きましてからこの
解決の時間は二十三時間と五十分であります。私にとってみれば、決して長時間とは
考えません。ただその間において、いわゆる報道等が十分に材料が提供されなかった。そのために、御承知のような、機内には神経衰弱、狂人が出たであろうとか、あるいは病人がさぞ出たであろう。こういうことのために必要以上の
心配をかけたことは、われわれ現地におる者としては申しわけないと思いますけれ
ども、私
どもは現地にあって最善の
措置を講じて、そうしてできるだけの機内の状況等も知りつつ、そこで最善の
措置を講じたのであります。でありますからして、今後の問題につきましては、私はマスコミの諸君にも言っているんですが、できるだけ冷静に報道してもらいたい、そして、できるだけ事実に従って報道してほしい。もちろん虚偽の報道をしたとは思いません。あの飛行場周辺における空気というものを伝える、こういうことのために起きたことではありますけれ
ども、非常にこの問題がああいうようなショッキングな問題の場合に、かなり
お互いが冷静でないというと、かえって間違いの問題が起きる。もしそのような状況を
犯人が知っておったならば、私はああいう結果にはならなかったのじゃなかろうか。この点においては、幸いにも機内が冷静を取り戻すことができて、そうして、各自が冷静な判断のもとにやられましたから、ああいうまあまあいろんな途中においてはジグザグのことがありましても、結果としてあそこまでいったということは、私はいわゆるこの
関係者の御協力に心から感謝しておる次第であります。