○細谷
委員 私は
日本社会党を代表いたしまして、ただいま議題となりました
昭和四十五
年度一般会計予算、
昭和四十五
年度特別会計予算及び
昭和四十五
年度政府関係機関予算の三案につき、これらを撤回のうえ編成替えを求めるの動議について、その概要を御説明し、
委員各位の御理解と御賛同を得たいと存ずる次第であります。
わが国
経済の高度成長は、
政府自民党の大企業本位、生産優先の財政金融
政策に強くささえられて、民間設備投資の急速な拡大と産業の重化学工業化をもたらし、ばく大な資本蓄積を達成いたしたのであります。しかしながら、その陰では資金と資源のアンバランス、富の偏在を招き、さまざまな形の格差と不公平を拡大させるとともに、過疎、過密、公害、交通事故、有害食品のはんらん等を引き起こし、国民
生活や福祉などを、耐えがたいほどに犠牲に供してまいったのであります。
特に、
佐藤内閣以後の
昭和四十年から、四十四年末までの
消費者物価三二・六%の
上昇に加え、最近の
卸売り物価の連騰が示すように、高度成長の中に計画的
インフレが組み込まれております。このため実質賃金の
上昇が抑制され、通貨価値の減少により、勤労者の
生活はその基礎を奪われ、大衆貯蓄者もまたばく大な損失を負わされているのであります。その反面、巨額の借り入れをして、土地や実物資産を手に入れた投資者には巨大な利得がころがり込み、富の不均衡を一段と激化させているのであります。
かてて加えて、
政府の不公平な税制は、たび重なる大法人の税率軽減や悪名高い租税特別措置を中心とする大企業、金持ち優遇、勤労者に対する酷税によって、格差と不公平がいよいよ助長されておるのであります。
労働生産性の著しい
上昇にもかかわらず、賃金は生産性を下回り、労働者は、
生活様式や消費構造の変化によって、支出の増大を余儀なくされ、ますます
生活が圧迫されるに至っております。その結果、
昭和四十年から四十三年にかけて、国民所得に占める雇用者所得は、五六・六%から五四・二%と低下し、国民総支出に占める個人消費支出もまた五六・六%から四・五ポイントも下落し、さらに製造業における労働者の分配率も、三八・三%から三三・八%へと、大きく下落しておるのであります。
こうして、大企業は、記録的な八期連続増益、増収を続け、繁栄を謳歌する一方で、中小企業は、大企業の踏み台とされ、好不況にかかわらず、常に倒産は増大を続け、石炭産業などはいわばやっかい扱いを受け、急速に整理が進んでおるのであります。
また、
政府の農業破壊
政策によって、米価は据え置かれ、食管制度のなしくずしが始まり、農産物の輸入自由化と相まって、四十五
年度は水田の休耕、転作による米の減産が、場当たり的に打ち出されてまいりました。かくして生産者米価と兼業収入で、かろうじてささえられていた農家
経済は、まさに破綻に瀕し、農村は、過去の新規労働力給源として、大企業のための農業として再編成されようとしておるのであります。
そればかりでなく、成長
政策の矛盾は、資本主義の物質中心、金権万能、弱肉強食の生存競争を激化させ、人間精神の荒廃を招き、汚職、犯罪をはびこらせ、暴力、売春、ギャンブル等の横行を許しておるのであります。
このような、人間疎外と人間性破壊による社会の腐敗が、国民に抜きがたい政治不信を植え付けており、青少年を衝撃的な直接行動へとかり立てているのであります。
政府は、七〇年代は
内政の年と称し、
昭和四十五
年度の
予算編成にあたり、
物価の根強い
上昇基調を抑制しつつ、
経済の効率化と国民
生活の充実向上をはかっていくとうたつております。だとするならば、以上に述べたような成長
政策の矛盾を解消するため、
経済財政の運営を
根本的に改め、平和
経済の
実現をはかり、もって、
経済成長の成果を民生の安定と福祉の向上に振り向けて、真の繁栄時代を切り開くべきでありましょう。にもかかわらず、
政府提出の
予算案は、相も変わらず、大企業、資産所得者を優遇し、勤労者の
生活を圧迫し続けるものであり、日米安保体制の持続、いなその拡大強化のもと、自主防衛の美名で、防衛力の増強を推し進めようとする、
インフレ予算、軍事優先の
予算となっておるのであります。
政府は、この
予算を警戒中立型と呼んでいますが、その規模が
経済成長率を大きく上回るばかりか、
内容においても、公共投資や防衛
関係の器材費など、民間設備投資を刺激するものとなっております。国債発行も四千三百億円と巨額が予想され、その残高は三兆円にものぼり、一年おくれで日銀引き受けとなるため、通貨信用の膨張を引き起こしているのであります。また、卸売
物価対策も、金融を引き締めながら財政で刺激するという、しり抜けであり、
インフレと高度成長とが同居しています。したがって、
経済運営の基本的態度の中心に
物価安定を据えながら、実際には、何ら有効な対策を取ろうとせず、四十四
年度同様、
消費者物価の大幅
上昇は、もはや避け得ないものとなっております。
政府の税制改正案は、重税と不公平是正を
要望する国民大衆の期待を裏切るものであります。
法人税率引き上げを当初の二%、財界や金融界の圧力で留保所得に対してのみ一・七五%と値切り、他方で引き当て金制度の拡充をはかるなど、優遇を続けております。さらに、悪名高い
利子・配当優遇の撤廃を渋り、その温存をはかり、不公平を一そう拡大しております。税の自然増収が一兆三千七百七十億円にものぼるのに、所得減税は、わずか二千四百六十一億にすぎず、課税最低限は数年前の
目標百二万円にとどめ、他方、税率緩和の恩典を属領所得層にまで広げています。しかも、財源計画のないまま十兆三千五百億の新道路計画、全国九千キロに及ぶ新幹線網を決定するなど、自動車新税構想をはじめ、間接税増徴の土台づくりを行っていることは、全く言語道断と申さねばなりません。
わが国の社会保障水準は、依然、西欧の三分の一程度にとどまっており、社会保障
関係費の増額分は大半が医療費で占められています。特に、老人、母子、障害者に対する福祉年金の増額は、わずか二百円にすぎず、
生活保護基準は一四%アップにとどまり、一般勤労者世帯との格差は、一向縮まっていません。また、
政府の三年越しの公約であった
児童手当の創設は、今度もまた見送りになっております。
都市化が急速に進展する中で、公害や交通事故が記録的な発生を見ているにもかかわらず、国民の生命と健康を守るために必要な
予算措置がとられておりません。
政府の住宅建設五カ年計画は四十五
年度で満了するのでありますが、住宅難は解消するどころか、逆に、
政府公約の一世帯一住宅の
実現はかえって遠のいています。上下水道、公園清掃施設など
生活環境施設の整備は、いよいよおくれるばかりであります。
大学紛争の
原因の
一つである教育研究機能の貧弱さは放置されたまま、学生の七五%を占める私学の援助はわずか認られはしたものの、現実には焼け石に水でしかありません。加えて、義務教育の父兄
負担や地方自治体の超過
負担は一向に解消されず、幼児教育の振興も放置されています。
予算編成に際し、最大の焦点であった農政に目を転じてみましょう。
歴代自民党
政府の小農切り捨て農政は、米の百五十万トン減産によって一そう強められ、両米価据え置き
方針のもとで、食管制度の空洞化が進められています。かくして、稲作の土台は崩壊し、農産物輸入
政策によって食糧自給率も低下し、畜産、果樹など
国内農業全体が追い詰められて、農業の将来に対する希望はいよいよ完全にうせつつあります。なかんずく何らの
見通し計画を持たず、五十万トン分、十一万八千ヘクタールの土地買い上げの責任を、何らの
予算措置も行なわず、地方団体や農協に押しつけ、地方交付税の配分によって糊塗せんとするがごときは、
国会軽視、地方自治の侵害であって絶対許されないことであります。
中小企業
予算は、相変わらず
予算総額の〇・六%にすぎず、特に恵まれない中小企業労働者に対する施策は、皆無といっても差しつかえないのであります。
労働省
予算は、
佐藤内閣以来伸び悩み、三千万人をこえる労働者対策が
予算総額のわずか一・二%にすぎないことも、
政府の労働者軽視を証明するものであります。しかも、
インフレ抑制に名をかりて、賃金引き上げ抑制をねらいとした実質的な所得
政策すら導入されようとしています。労働力不足がいよいよ深刻化しつつある今日、失対事業は一万人のワクを削減し、転職困難な中高年齢労働者に一方的な犠牲を強要しています。
政府、特に大蔵省は、地方財政富裕論を宣伝し、地方住民の
要望と行政水準の低さに目をつむり、地方交付税からの三年連続の借り上げ、一部補助金への肩がわりなど、覚え書きと法律無視の態度であり、住民福祉と地方自治を抑圧し、新中央集権化をねらうものと断じて差しつかえありません。
沖繩関係予算は、米軍の施政権下、過去二十五年にわたる投資不足分をまかなうには、あまりにも不十分であります。現在
沖繩では、基地労働者の大量解雇など、深刻な問題が山積していますが、これらの解決に最善を尽くすとともに、
沖繩県民の意志に基づいて、早急に平和
経済開発に着手し、基地依存
経済から脱却するために十分な財政措置がぜひとも必要だと思うのであります。
以上、申し述べましたように、国民大衆の要求を無視した
予算案にもかかわらず、防衛
予算のみは聖域として最優先扱いをされ、七〇年安保対策としてその伸び率も一七・七%とこれまでの最高となっています。いまや
日本はアメリカのアジアにおける防衛責任の肩がわりに協力し、七二年から始まる第四次防にかけて、自主防衛、軍事化路線を強力に進みつつあるといえます。准尉制度の新設、海空自衛隊の強化に力が注がれているのが大きな特徴点であります。
また、海外
経済協力は、東南アジアの反共諸国に片寄って行なわれ、アメリカの援助の肩がわりとドル防衛協力を進めております。特に来
年度予算では、わが国の資本市場と資源確保に重点が置かれており、エコノミツクアニマルへの道を依然歩み続けようとしているのであります。
以上のような観点と分析から、社会党は、次のような基本
方針に基づいて
予算を編成すべきであると強く主張するものであります。
その詳細は、組みかえ要求動議に示してありますが、これを要約いたしますと、まず
物価安定対策を強力に推進するとともに、勤労者の税の軽減と公平化をはかり、あわせて社会保障の大幅な拡充、住宅、
生活環境の整備と、すべての公害一掃のための施策を重点的に実行に移し、人間回復のための措置を講ずべきであります。
次に、農漁民、中小企業者に
目標と希望を与える施策を確立することであります。特に危機に直面している農業については、
関係予算を大胆に編成がえを行ない、米、畜産、果樹を柱とする農民の農政を推進するとともに、全額国庫による土地改良、基盤整備事業を進め、共同化の推進、農業機械ステーションの設置、指導機関の充実等をはかることであります。
また食管制度を守り抜き、生産者米価は生産費及び所得補償方式で決定し、消費者米価を据え置き、並行して備蓄米制度の創設、貯蔵施設の拡充、消費増大のための研究、宣伝などに
努力すべきであります。
同時に、畜産振興のため、田畑転換を可能とする土地改良事業の通年施行、草地造成による飼料増産等をはかり、牛乳、豚肉などの価格支持制度の確立が必要であります。
これらと関連して、急速に進みつつある農山漁村の過疎化現象を食いとめるため、集落の再編成、産業の再配置等、抜本的な改造計画を強力に推し進めねばなりません。
長い間米国の支配下で苦悩した
沖繩に報いるため、平和
経済開発のため、すみやかに
沖繩開発基本法を制定し、本土類似県以上の財政支出を行ない、九十八万県民が喜んで祖国に復帰し、将来に希望の持てる格段の措置を講ずる必要があります。
防衛費については、平和憲法の精神を貫き、自衛隊の増員をやめ、装備費を中心に防衛
予算の削減を断行すべきであります。また反共諸国に偏した海外
経済協力を改め、いずれの国とも平等互恵の精神に基づいて対処すべきであります。
以上、私は
予算編成に関する基本
方針を申し述べたのでありますが、当面とりあえず緊急に確保すべき最低限のものとして、かつ、各党の御賛同をいただけるものとして、次の諸項目につき、
政府は直ちに組みかえを行ない、
国会に再提出するよう要求するものであります。
その第一は、給与所得者のうち、特に低所得層及び独身者の所得税
負担の軽減をはかるとともに、四人世帯年収百万円まで無税とするため給与所得控除の定額部分を十万円引き上げ、
政府案による八百万円以上の
金額の税率軽減措置を一時停止すること、普通法人の所得のうち留保部分についての法人税を現行の一〇%増、
利子・配当所得の税率是正、租税特別措置の合理化、交際費課税の強化などであり、これによる増減収は相殺する見込みであります。
第二は、
物価安定対策の推進、社会保障給付の改善、
児童手当制度の創設、住宅対策の充実、交通安全緊急対策の推進と一元化、公害対策の強化、義務教育
関係費の増額、労働災害対策の拡充などであり、大よそ千七百三十五億円の増が見込まれるのであります。
第三は、農漁業
政策の確立と中小企業対策の強化であります。国、地方を通ずる農業
関係予算は巨額に達するのでありますが、これを
根本的に編成がえすることを前提に、経営高度化のための共同化を促進し、これを柱として農業機械ステーションの設置、指導機関の充実をはかり、さらに、畜産の振興と経営の安定をはかるため、牛乳、豚肉等の価格支持と、あわせて飼料自給度の向上のため土地改良事業の通年施行、草地造成などを推進することであります。
第四は、
沖繩関係援助費を大幅に増額し、特に立ちおくれの著しい社会福祉及び医療に重点を置き、さらに産業振興、国土開発をも推進すべきであります。
以上による増加経費は、合計で大よそ二千八十億円と見込まれるのでありますが、すでに申し述べましたような基本
方針に基づいて、防衛
関係費から大よそ千四百二十億円を削減し、一般物件費の節減、経費の効率化等によって、約六百六十億円を捻出することによって、収支をバランスさせるべきであります。
最後に、
予算編成の進め方について一言いたします。
予算復活折衝中、ある与党議員が朝早く起き、朝食会をかけめぐる、会館に入れば地元の陳情団、まさしくかき入れどきだと語っていました。また、ある議員は、
物価が上がり、名目所得が増加しているので
予算が組めるのですと、
インフレをたたえ、
物価上昇を賛美しておりました。ここに
予算案の本質が見出されるのであります。弱肉強食のぶんどり合戦、非民主的な
予算編成と申さなければなりません。私は
予算編成の抜本的改革を要求する次第であります。
以上、
政府の
予算三案に対する
日本社会党の基本態度、
予算編成の基本
方針及び当面緊急に組みかえすべき諸点を具体的に述べたのでありますが、
政府はすみやかにわが党の組み替え動議に基づいて編成がえを行ない、
国会に再提出されるよう要求するとともに、
委員各位の御賛同をお願い申し上げまして、趣旨説明を終わります。(拍手)