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1970-02-21 第63回国会 衆議院 予算委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十五年二月二十一日(土曜日)     午前十時六分開議  出席委員    委員長 中野 四郎君    理事 小平 久雄君 理事 田中 正巳君    理事 坪川 信三君 理事 藤枝 泉介君    理事 細田 吉藏君 理事 大原  亨君    理事 田中 武夫君 理事 大野  潔君    理事 今澄  勇君       足立 篤郎君    赤澤 正道君       植木庚子郎君    江崎 真澄君       大野 市郎君    大村 襄治君       奥野 誠亮君    上林山榮吉君       小坂善太郎君    笹山茂太郎君       塩谷 一夫君    田中 龍夫君       登坂重次郎君    西村 直己君       野田 卯一君    福田  一君       藤田 義光君    松浦周太郎君       松野 頼三君    赤松  勇君       江田 三郎君    川崎 寛治君       北山 愛郎君    久保 三郎君       楢崎弥之助君    西宮  弘君       細谷 治嘉君    相沢 武彦君       坂井 弘一君    松尾 正吉君       矢野 絢也君    麻生 良方君       河村  勝君    谷口善太郎君       不破 哲三君  出席国務大臣         内閣総理大臣  佐藤 榮作君         法 務 大 臣 小林 武治君         外 務 大 臣 愛知 揆一君         大 蔵 大 臣 福田 赳夫君         文 部 大 臣 坂田 道太君         厚 生 大 臣 内田 常雄君         農 林 大 臣 倉石 忠雄君         通商産業大臣  宮澤 喜一君        運 輸 大 臣 橋本登美三郎君         郵 政 大 臣 井出一太郎君         労 働 大 臣 野原 正勝君         建 設 大 臣 根本龍太郎君         自 治 大 臣 秋田 大助君         国 務 大 臣         (内閣官房長         官)      保利  茂君         国 務 大 臣         (総理府総務長         官)      山中 貞則君         国 務 大 臣         (国家公安委員         会委員長)         (行政管理庁長         官)      荒木萬壽夫君         国 務 大 臣         (北海道開発庁         長官)         (科学技術庁長         官)      西田 信一君         国 務 大 臣         (防衛庁長官) 中曽根康弘君         国 務 大 臣         (経済企画庁長         官)      佐藤 一郎君  出席政府委員         内閣法制局長官 高辻 正巳君         内閣法制局第一         部長      真田 秀夫君         防衛庁長官官房         長       島田  豊君         防衛庁人事教育         局長      内海  倫君         防衛庁経理局長 田代 一正君         外務省アジア局         長       須之部量三君         外務省アメリカ         局長      東郷 文彦君         外務省経済局長 鶴見 清彦君         外務省条約局長 井川 克一君         外務省国際連合         局長      西堀 正弘君         大蔵省主計局長 鳩山威一郎君         大蔵省主税局長 細見  卓君         大蔵省国際金融         局長      奥村 輝之君         文部大臣官房長 安嶋  彌君         厚生省児童家庭         局長      坂元貞一郎君         厚生省保険局長 梅本 純正君         厚生省年金局長 廣瀬 治郎君         農林大臣官房長 亀長 友義君         農林大臣官房予         算課長     大場 敏彦君         農林省農地局長 中野 和仁君         倉糧庁長官   森本  修君         通商産業省通商         局長      原田  明君         通商産業省繊維         雑貨局長    三宅 幸夫君         建設大臣官房長 志村 清一君         建設省計画局長 川島  博君         建設省都市局長 竹内 藤男君         消防庁長官   松島 五郎君  委員外出席者         予算委員会調査         室長      大沢  実君     ————————————— 委員の異動 二月二十一日  辞任         補欠選任   川崎 秀二君     塩谷 一夫君   細谷 治嘉君     江田 三郎君 同 日  辞任         補欠選任   塩谷 一夫君     川崎 秀二君   江田 三郎君     細谷 治嘉君     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和四十五年度一般会計予算  昭和四十五年度特別会計予算  昭和四十五年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 中野四郎

    中野委員長 これより会議を開きます。  昭和四十五年度一般会計予算昭和四十五年度特別会計予算昭和四十五年度政府関係機関予算、以上三案を一括して議題とし、総括質問を行ないます。江田三郎君。
  3. 江田三郎

    江田委員 先般の総選挙におきまして、私ども社会党が敗北をいたしましたが、これは、私どもは私どもなりにいろいろ反省をし、国民の期待に沿うように努力をしたいと考えております。しかし、同時に大切なことは、この選挙で二千万の人が棄権をしたということでありまして、これは歳末が忙しかったというようなこともありましょうが、しかし、何といっても政治不信の大きなあらわれだと受け取るほうが正しいと思うのであります。したがって、自民党が三百の議席をおとりになった。しかし、これを票数から見ていきますならば、七〇%以下の投票率の、その五〇%ということになると、わずか三五%の票しかとっていないということになるのでありまして、この点は、私は、自民党としてもよく考えていただかなければならず、さらにこの国民政治不信ということに対しましては、各党が真剣に考えていかなければ、議会政治は墓穴を掘ることになると思うのであります。  しかし、国会が始まりましての総理答弁というのは、何か官僚のつくった作文を読み上げておるのじゃないのかというような批評がございます。やはり三百議席にあぐらを組んでいるのじゃないかという批評新聞の上にも出ておるわけでありまして、私はただ総理答弁だけでなくて、たとえばあの予算編成のときの陳情合戦をどのようにごらんになっておるのか。新聞を見ましても、役所の廊下にみやげものや酒のびんがころがっておる。ある新聞解説によりますというと、昨年陳情に使った地方自治体の経費が約十億、ことしはあの予算陳情に使われたものはそれに数倍するであろうということが書かれておるのでありまして、おそらく国民だれしもが苦々しい気持ちをもってこれを見たろうと思うのであります。そういうことについて、やはり政府自民党として、もっとかようなことを押える措置をとるべきじゃないのか、そこにも私たちが非常に不満を感ずるのでありますが、あるいは続いて高級官僚天下りが大々しく新聞に報道されまして、しかも、新たな公社公団が設立されるということもございます。これを一体国民はどう見るだろうか。  さらに私は、総理民主主義の擁護なりあるいは社会道徳を云々されたり、さらには家庭のしつけまでを取り上げておられるのでありますが、そういう総理は、かねて問題になっておる政治資金規正法についてはどういう態度をおとりになるのか。あるいは議員定数改善、これもまた今日世論の一致しておるところであると思うのでありますが、これに対してどういう態度をおとりになるのか。  政治資金規正法につきましては、政府が提案を予定されているところの今国会法案の中にはこの名前は出ていないのでありまして、私は、三百議席自民党総裁として、総理はただいま私が言ったようなことについてどういう感じ、お考えを持っておられるのか。特に政治資金規正法なりあるいは議員定数改善の問題についてはどう取り組まれようとしておるのか、このことをまずお伺いしたいと思います。
  4. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 江田君にお答えいたします。  昨年末の選挙、これは時期といたしましても私はよくなかったと思っております。ただいまも言われるように、二千万の棄権者が出た、これは忙しくもあっただろうが、同時に政治不信でもあるのだ、こういう御指摘でございます。私は、むしろ忙しかったということのほうが主たる理由じゃないだろうか。もちろんこの政治不信というような問題が芽を出しておれば、これこそたいへんだ、かように考えております。私は、現代の情勢は、民主政治というものがだんだん国民の間に根を張ってきた、かように考えておりますから、いわゆる政治不信だという、そういう意味からの棄権というような形での批判よりも、むしろそれは他の形において出てくるのじゃないだろうか、かように実は思っております。ただ、時期が非常に不適当であった、このことだけは私どもも率直に認めざるを得ない。総選挙などは、年末押し迫ってやるようなものではない、かように私は考えております。  また、いろいろわが党に対しても御批判がありまして、もっと謙虚によく聞け、こういうお話でございます。私はつとめてそういう批判を受けないように、できるだけ一そう謙虚に国民に耳を傾ける、国民の声を聞く、こういう態度政治を取り進めてまいりたい、かように実は考えております。  また、予算編成に対するいろいろの陳情問題等につきましても、御批判がございました。私は、いまの民主政治のもとにおきまして、ある程度の予算編成上の要望が各方面から出てくることは、これはむしろ望ましいことではないだろうか、一党一派がかってな予算編成をしないということ、そういうことは望ましいことではないかと思います。しかし、それが陳情合戦といわれるような表現になりますと、これは慎まなければならない。ことに威力を用いて予算編成を、特にある者、ある団体のために有利につくる、こういうようなことは、戒めなければならない、かように思っております。大蔵大臣も特にこれらの点については注意をいたしまして、各党の御要望等も事前に一応承った。もちろんそれが全部盛り込まれておるとは私思いませんが、それだけのゆとりのある態度予算編成をしたように聞いております。また、それは望ましいことであったと思います。また、私自身は、直接いわゆる陳情団というか、そういうものからの陳情は承っておりませんけれども、しかし、特殊の団体等、ことに府県知事やあるいは市町村長等とは、特に私もそれらの意見を聞いていることはございます。その程度でございまして、私はかつて大蔵大臣をいたしましたが、その当事のいわゆる圧力による陳情合戦とよほど変わってきた、こういうように私は思っておりまして、それはむしろ民主政治がだんだん定着しつつあるのじゃないだろうか、かように思います。そういう意味で私どももできるだけ各界、各方面の御意見を承って、そうして国民のための政治をしたい・かように思っております。  また、公社公団等の問題もただいま御指摘になりましたが、これは公社公団等は全面的に抑制する方向でございますので、今回なども特殊な公団はつくりましたけれども、いわゆるこの公社公団等がはんらんするというようなことはまずない。これもまあまあのところじゃないだろうかと思います。  その中に、さらに天下り人事等にも触れられましたが、公社公団等の性格上から、やはり行政の延長みたような見方もありますので、比較的に官僚あるいは事務当局等の入る余地が多いだろう。しかし、これもいま御指摘になりますように、天下り人里というような形になれば、これは国民批判を受ける、かように思っておりますので、十分注意するつもりであります。  そこで、大事な問題として政治資金規正法は一体どうしたか、こういう御指摘でございます。私も過去三回、政治資金規正法は提案いたしまして、それぞれ鋭い御批判をいただき、いずれもこれが不成立に終わっております。この過去の経験にかんがみまして、私ども、今回出すとすれば必ず成立を見なければならない、そういう意味からさらに私ども反省をし、十分中身皆さん方納得のいくようなものにしなければならない、こういうことで、この政治資金規正法、これとも取り組んでおる次第でありまして、ただいま——今回はこの法案を提出しておりません。しかし、私ども、全然検討を放棄したとか、こういうものではならないことだけつけ加えさしていただきます。  また、定数是正の問題、これこそ民主主義のもとにおきまして最も大事なことではないだろうか、かように考えます。ただいま参議院方面につきまして定数是正の問題をまず取り上げて、選挙制度調査会でいろいろ研究してもらっておる次第であります。私は、ひとり参議院だけでなく、今回の選挙の結果等にかんがみまして、衆議院関係におきましても、この定数是正、これは総定員数との関係をも考えながら、さらに取り組んでいかなければならない問題じゃないだろうか。私も、江田君と同じような考え方を持つものであります。おそらく、私がいま指摘したような点も、別に江田さんと変わっているような話じゃないだろう、かように考えます。
  5. 江田三郎

    江田委員 政治資金規正法の問題については、出す限り今度は通さなければならぬ。しかし、あなたのほうがそういう気持ちになれば、いつでも通るんじゃありませんか。前の国会におきましても、大学法案でもあるいはその他の法案でも、自民党はずいぶん強引なことをおやりになったわけです。政治資金規正法については、野党にこぞって早くつくれと言っておるんでしょう。それがいつまでももたもたしているのは、要するにあなたのほうの党内意見がまとまらないということにほかならないんじゃありませんか。いま三百議席で大総裁だといわれるこの佐藤さんが、これらの党内を取りまとめる力がないとは私は思いません。そうでなくて、やはり政治をもっと国民のものにする、きれいなものにするという意欲がないんじゃないかとしか思えないのでありまして、私は、政治資金規正法の問題だけでなくても、たとえばこの選挙に、あなたの党に所属される人々に相当の選挙違反が出ております。中には、当選した人で、本人が書類送検になっているのもあります。総括責任者書類送検になっているのもあります。私は、総理がほんとうに民主主義を確立しなければならぬという信念に徹しておられるならば、まずこういう問題についても党内辞任勧告その他の措置ができるはずだと思うのでありまして、それらも一向に手をつけられないことを見ますならば、政治資金規正法についても何かこう顧みて他をおっしゃっているだけであって、やる気がないんじゃないかとしか思えないのでありまして、これで一体議会政治がどうなるのか。あなたがどんなに施政方針演説でりっぱなことをお述べになりましたところで、国民はこれは単なる官僚がつくった作文としか思わないでしょう。はっきりしたことをひとつおやりになったらどうでしょう。政治資金規正法をこの国会にお出しになるのかならないのか、それだけもう一ぺん念を押しておきます。
  6. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いま申し上げましたように、この国会出しません。  ただいま江田君から御批判があって、政治資金規正法自民党の内部でまとまらないからだろう、こういうお説がございます。私はそういうことをも全部含めて、さらにもう一度よく内容を検討して、皆さん方納得のいくようなものにしたい、これが私の考え方でございます。今回は出しません。
  7. 江田三郎

    江田委員 今回はお出しにならぬ、非常に遺憾に思います。しかし、これ以上そのことについて問答はしようとは思いませんが、国民が、あなたの態度がいいか悪いかを判断するだろうと思います。  総理施政方針演説というものは、官房長官解説によると、きわめて格調が高いということでありましたが、なるほど抽象的なりっぱなことばが並べてある。しかし、私はいまの総理のこの態度とあの施政方針の基調とが、どこに共通項があるのか。今度は総理だけじゃございません。大蔵大臣外務大臣あるいは経済企画庁長官、そろって大蔵官僚出身演説で、珍しいことでございましたが、私は何かこういうものを見ていると、もはや日本政党政治というものは官僚政治になってきたんじゃないのか、官僚がつくり出すものにただ政党は名目だけ乗っかっているだけじゃないのか、こういう印象をぬぐい去ることができないのであります。  しかし、そのことはそのことといたしまして、次に話を進めていきたいと思うのでありますが、今度の施政方針で、総理はいわゆる七〇年代ということを取り上げておられる。国際政治の面において、軍事力以外のものが探求されるようになってきた。同時に、国内政治各国が多くの精力を注ぐようになってきた。そこに世界が大きな転換期を迎えているんだということが施政方針演説の中にあるわけでありますが、これはもっと具体的にいうと、どういうことになるかということであります。世界内政優先になったということは、何を意味するのか。私は、この問題は、一九六〇年代において先進国がいずれも爆発的な内政問題をかかえ込んできたということ、たとえば人間疎外のことがそうです。あるいは物価、環境汚染、あるいは過疎と過密、あるいは農業あるいは教育、これは日本だけの問題でもなければ、あるいはアメリカだけの問題でもなく、いわゆる先進国が共通してこういう問題にもう手のつけられないところまで追い詰められたということだと思うのであります。これをどう処理するかということが、七〇年代の最大の課題だと思うのであります。  そこで、こういう中におきまして、最もその矛盾を痛感したのが、アメリカでしょう。だから、ニクソン内政優先ということを言っておるのでありますが、このニクソン内政優先ということを言わなきゃならぬことの中には、ただいま申しましたようないろいろの問題が手のつけられない大きさで出てまいりました。そのことは、要するに物質的な富の最だけでは問題は片づかないのだということ、経済をどんなに大きくし、物質的な富の量を大きくしてみたところで、あるいは社会福祉の面におきましても、人間の精神という面におきましても、解決がつかない。そこにアメリカヤングパワーの問題もある、黒人の問題もある、あるいは麻薬がアメリカを滅ぼすのじゃないかという叫びをニクソンが言わなければならぬ問題が出てくる。犯罪都市という問題がある。しかも、他の面におきましてアメリカがとってまいりました冷戦政策あるいは反共政策というものが、何ら実効をあげなかった。実効をあげなかっただけではなしに、アメリカ国際的威信もかえって低下したではないか。そこに私はニクソン内政優先を言わざるを得ない根本的な問題が出てきたのじゃないかと思うのでありまして、要するに、こういうことを考えていきますならば、もはや古い考え方は通用しないのだ。制度根本からの再検討、変革をしなければ解決がつかぬのじゃないか。そこへ来ておるのが一九七〇年代であって、古い考え方を払拭する、根源にさかのぼった再検討をするということにほかならないと思うのでありまして、総理が言われるところの世界が大きな転換期というものも、そのことをさしておられると思うのでありますが、そう解釈してよろしゅうございますか。
  8. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いま江田君からアメリカ内政分析、これを詳細にわたって御指摘になりました。人種問題あり、戦争遂行をし、高度に経済が発展しておる、こういう立場から生じておるもろもろの問題、社会問題等についてまで詳細に御報告がありました。私もさような見方をいたします。同時に、これはしかし、資本主義国だけの問題ではない。やはり社会主義国においても同じような問題がある。同時にあわせてソ連内政についてもいまのような分析をしていただくと、いまいわゆる先進国といわれる世界各国が、その政治体制のいかんを問わず、同じような悩みを持っておるのじゃないのか、こういう点にはっきりぶつかるだろうと思います。私どもは、いま世界第三の経済国になった、こういうことでずいぶん背伸びもしやすいのでありますけれども、私もやはり米ソに次ぐ第三の経済力を持つ国として、国内において——これは違いますけれども戦争はしておらないし、人種問題はないし、また軍備もこの二国に比べれば格段の相違がありますが、それでも同じような問題を国内にかかえておるのだ。とにかく政治目標国民をしあわせにすることなんだ。その立場においてお互い繁栄をさらに追求し、その間に生ずるもろもろのひずみを是正していくし、これはひずみというよりも、もっと積極的な、公害その他のものと取り組んでいく。同時にまた、世界一つというような意味お互いが協力し合うという、これは私は七〇年代——七〇年じゃございませんが、七〇年代の政治指針として望ましいことじゃないだろうか、かように私は思って施政方針演説をいたしたのであります。  ただいまお話しのように、アメリカにはアメリカ悩みがある。ソ連にも、最近帰ったばかりの永野君などから聞きますと、やはり同じような悩みを持っておる。私どももどうしてもよく模様がわかりないのは——昨日もここでいろいろ議論いたしましたが、中国の模様だけはこれは私にもわかりません。しかし、ただいまのような国々は、同じような悩みを持っておる。かように思っております。
  9. 江田三郎

    江田委員 アメリカだけでなしに、ソ連も同じような悩みを持っておるのじゃないのか。私は、それは否定いたしません。ソ連工業生産力の伸びが停滞しておるということ、あるいはソ連における人間の自由ということが大きな問題になっておるということ、いろんな問題がやはり共通したものがあるわけです。だからして、アメリカが大幅に軍事費を削減したのと相呼応してソ連軍事費を削減をしておるのでありまして、私はあえて資本主義国だけがそういう悩みを持っておるのじゃないのだ、だからこそ従来の考え方にとらわれない、いわゆる左の陣営も右の陣営ももっと抜本的な掘り下げた考え方に立って取っ組まなければ、七〇年代の解決にはならぬということを言ったわけであります。  そこで、この日本の七〇年代について総理は、独自の目標あるいは新しい指針として、一つは内面の充実、一つは内における繁栄と外に対する責務との調和ということをあげておられます。例によって非常に抽象的なことばでありまして、どう解釈していいかよくわからないのでありまして、私は総理施政方針演説というものを、佐藤総理に限らず、日本総理演説というものを聞いて、いつもどうも砂をかむような思いがしてしかたがないのでありまして、やはりあなたの親友であるニクソンのほうが、緑やきれいな川という、非常に具体的だと思うのであります。  そこで一体、総理の言うこの独自の目標とか新しい指針とかというものは、われわれの憲法が目ざすところと違うのかどうかということを私はお尋ねしたいのであります。申すまでもなく、今日、憲法国民のコンセンサスが成り立っておると思うのであります。中には憲法を変えろという意見もありますけれども、多くの国民はそう考えていないし、総理自身もこの憲法を守るということを言っておられるのでありまして、この憲法目標は、これは私があらためて申すまでもありません。前文なり、あるいは九条の平和主義、国際主義、そうして四十一条の国権の最高機関としての国会ということにあらわれておるところの議会制民主主義、そうして二十五条にあらわれるやはり国民生活優先の考え方、非常に具体的になっているのでありまして、私はこういう具体的なものが、しかも国民のコンセンサスを得ておるというならば、これがわれわれの目標だということでいいじゃないのか、何も七〇年代だからといって、新しいことばで、わけのわからぬことをおっしゃる必要はないのじゃないかと思うのでありますが、あなたのおっしゃる目標なり、この憲法目標とは違うのですか、どうですか。私は違わぬと思いますが……。
  10. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 御指摘のとおり、私は憲法を踏みはずしたつもりで申してはおりません。憲法でちゃんと方向は定められておる。それを私が別な表現をしておるだけです。
  11. 江田三郎

    江田委員 ただ問題は、あなたはこの憲法を守るということはよくおっしゃるのですが、憲法を守るということは憲法の条文を変えないということじゃないのです。変えないということもこれも一つの条件でありますが、問題は、憲法が差し示すところを一つ一つ具体的に実現するのかどうかということなのでありまして、どうも私たちは、憲法の条文は変えられていない、しかし中身は空洞化しつつあるんじゃないかということをいつも不安に考えるわけでありまして、これは私たちだけがオーバーな考え方でもないのではないかという気がいたしますが、それはともかくといたしまして、あなたは憲法を守る、そこで憲法体制ということになりますならば、一つはただいま申しました外に対しては平和主義の実現、そうして、内では人間にふさわしい社会、国民生活優先ということになるわけであります。  そこでこういうような目標からいきますならば、それに合致する外交政策というものはどういうものだろうかということが問題になってくるわけであります。私が、この憲法の精神から出発いたしますならば、われわれの対外政策というものは、一つは日米関係を安保を軸にするということは、これは問題があるのではないかということであります。私は、日米関係というものは大いに今後も親善を続けていかなければならぬと思います。しかし、それが安保を軸にするということでほんとうにいいのかどうかということなんでありまして、もっと違った軸にたとえば経済もありましょう、あるいは科学技術もありましょう、文化もありましょう、違った面においてもっと日米の関係を考え直していかなければならぬのじゃないかということが一つあると思います。  その次には、やはり日中関係をどうするかということ、このアジアの日本が日中関係をこのままにしていいとは国民は考えていないと思います。  もう一つは、日本日本繁栄を自分のものだけにしないで、諸国民繁栄に責任を負うという立場からいたしまして、特にアジアのことが問題になるのでありますが、いまアジアで日本がとっている外交政策というものは、いいのかどうかということであります。いわゆるエコノミックアニマルということがいわれます。大国主義ということがいわれます。いろいろな点で批判を受けておるのではないのか、つまりわれわれが憲法をもとにして出発する場合に、この外交政策を日米関係、日中関係、さらにはアジアとの諸関係においても、もう一ぺん考え直さなければならぬときが来ておるのではないのか。  ところが総理のほうは、先般の日米会談の既定のコースというものを、これをもはや動かすべからざるものとして、これを既定の事実として、その上に出発をされていくというところに、われわれとの大きな食い違いが出てくるのではないかと思うのであります。私はそういう点について、日米会談というものをもはや論議の余地のない一つの既定のレールだという考え方を考え直してもらわなければならぬのじゃないかと思いますが、その点はどうお考えになるか。
  12. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 だんだん核心に触れてきたのではないかと思います。  そこで憲法の条章を私どもが空洞化しておる、こういうような言い方をされますが、私は、それはとんでもない誤解だ、われわれは空洞化しておらない。ただ変えないというだけが憲法を守るのではない、こういう御指摘でもありました。何だか変えてもいいのだというようにも聞き取れるような言い方ですが、まさかそうではないだろうと思う。憲法は改正しないという、また空洞化してはいかぬという、これは基本的態度だと思います。その立場からいろいろ考えて、ただいま対米政策、これが安保を軸にしておる、かように言われますが、私は誤解を受けてはならないと思いますから、対米関係のくだりにおきましても、政治経済、文化、あらゆる面においてということをはっきり書いたつもりでございます。したがって、いわゆる対米関係で安保が軸になっておる、かような書き方はしておりませんし、また、いままでも防衛庁長官等が説明をし、あるいはその他でも、同じように沖繩の問題等でいろいろ話し合っておりましても、いわゆる軸だというその考え方はございません。しかしわが国の安全を確保するために、いわゆる非武装中立ではない、非武装中立ということば江田君もお使いにはなりませんけれども、かねてからの社会党の主張でありますが、私どもは自衛権は必要なんだ、自衛権を持つことは、これは憲法違反ではないのだという考え方をしておりますので、したがって、ここらに基本的な意見の相違が出ておる、それがちらちらといまの話にも出てきているのではないか。だから、これは議論の間からこの自衛隊否定の方向で話が進んでいるのではないか、かように私は心配しております。  対中国大陸との問題については、昨日もずいぶん長い間議論を、わが党の小坂君と話しました。私どもは、いわゆるいずれの国も敵視しない、平和に徹する、こういう形で、そういうまた精神でものごとを話し合っていきたいと、こういうことを実は申しておるのでありまして、ここには別に誤解はないと思います。何だかアジア政策そのものについても、エコノミックアニマルというようなことを引き合いに出して、そうして批判されますが、私は、いわゆるエコノミックアニマルというような批判を受けることのないような態度でぜひ海外援助、海外協力、これを進めていきたいということを念願しておりますので、これは国民の皆さんにも、ただいま言うようなエコノミックアニマルだとか、最近は、昨日もいろいろ話が出ておりましたが、エロチックアニマルだとか、そんなことばのないように、これはぜひいたしたいものだ、かように思っております。いわゆる大国主義というそういう形のものでないことは、わが国は非核三原則、これを現実に確認し、またその態度で臨んでおる。その立場からも、いわゆる大国主義というものではない。そうして、ましてや平和憲法のもとにおいて私どもが非核三原則を守っていこうと、かように国民の皆さまにも誓っておるのでありますから、いわゆる大国主義という立場で臨んでおらない、そこを誤解のないようにお願いしたいと思います。
  13. 江田三郎

    江田委員 日米関係や日中関係については、あとからさらに触れたいと思いますが、この大国主義という問題を、非核三原則を言っているから、大国主義じゃないというのは、少し総理に似合わぬ論理の飛躍があると思うのであります。やはりアジアの開発途上国には、われわれと違った価値観があるのじゃないのか。ニッパヤシの家に住んでいることと、公害で充満した都市に住んでいることと、どっちがしあわせかということについては、われわれの価値観と違う価値観があるかもしれません。そういうものを、日本の猛烈社員流の考え方でもってどうこうしようと思ったってできることじゃないのでありまして、そこに、かつてアメリカが醜いアメリカと言われたような、日本の過剰なおせっかいが、醜い日本人ということになってくるんじゃないのかということもありましょうし、あるいはいまもインドネシアにおきまして、前のスカルノ大統領あるいはデビさん相手の汚職の告発が起きておるフィリピンでは、学生が日本からの借款でできる肥料工場反対のデモをやっているというような、何かコミッションといいますか、汚職といいますか、そういうものがつきまとうという面もありますし、私は、いまのような行き方をしていったんでは、アジアとの経済協力というのは、思わぬところでつまずきを起こすということを考えるのであります。  それはそれといたしまして、どうも日米会談というものを動かすべからざるものとして他の政策が出ておるんじゃないかということに私は触れたわけでありますが、少し論点を変えまして、軍事費の問題について申し上げてみたいと思うのであります。  本年度の軍事費が、防衛費が総額五千六百九十五億円、前年比一七・七%の増、二次防一兆二千億、三次防二兆三千億、四次防については、きのう総理は、まだきまっていないとおっしゃいましたが、すでに五兆とか六兆とかというような声も聞かされます。特に今度の場合、この防衛費がすでに十一月の末に政治レベルできまったんじゃないかという点であります。防衛費だけが、具体的な費用の積み上げから計算するのではなしに、一七・七%として十一月の末にきまったのじゃないのか。われわれが新聞で読む限りはそう読めました。これは、つまり一七・七というところに意味があって、個々の何をどうするかということよりも、この率に意味があるのじゃないのか。つまりこの率によって予算の伸び率よりは低いということでいわゆるハト派を満足させる、しかし前例のない伸び率だということでタカ派を満足させる、そういうような政治的な配慮から出ておるのじゃないかということが言われるわけでありまして、総理は、とぼけておられますけれども、多くの新聞解説はそうなっているということであります。  そこで、こういうようないきなり率がきまってくるということが、私が言う日米会談というものの上に立ってきまってくるのじゃないのかということなんであります。つまり、アメリカの政策というものが、アジアにおける過剰介入を是正する、海外基地を再編成する、そうしていわゆる自主防衛だという名において、それぞれの国の防衛費の分担をもっと重くしていこうという基本線になっておるのでありまして、これに沿った政治的な配慮がこの一七・七という数字じゃないかと思いますが、まあ否定はされると思いますが、どうでしょう。
  14. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 よほどうがった解釈という感じにとれました。ただいま大蔵大臣に、そんなに早くきまったのかと実は耳打ちをしたのですが、いや、さようなことはございませんと大蔵大臣も申しておりますから、ただいま一七・七というものが早くきまった、これを党内のハト派とタカ派と両方を満足さすような数字をきめたのだ、こういうように言われますが、さようなことはございません。少しうがち過ぎた、頭がよ過ぎるのじゃないかと思います。私がいま申し上げたいのは、第三次防の遂行中でございます。この三次防を遂行するその場合に、最近の給与改善、やはり自衛隊も給与改善をしていかなければなりません。この給与改善、さらに隊員の隊服等の改善、過年度の支払い等の追加というようなことがありまして、いわゆる三次防を完全に遂行する、こういう意味でございます。新しく何だか計画でも変わったような言い方に聞けますが、そうじゃないのだ、だから、あまり頭のいいところを、想像を発展させないようにお願いをしておきます。
  15. 江田三郎

    江田委員 いま、そのことでさらに論議しようと思いませんが、だんだんそういうことに一つずつ触れていきたいと思いますが、そこで自主防衛ということ、これは総理も考えておられるのでありますが、かりのこの自主防衛ということをやるとして、そのために前提になるのは、状況をどう認識するかということ、状況判断ということが一番問題になるのでありまして、その点からいたしまして、昨年秋、国防白書の原案が出されましたが、これは要するにアジアにおいて共産主義国が侵略を企図している。ソ連、中国が一体になって共産主義革命の浸透をはかろうとするというような認識に立っておるのでありまして、詳しいことは省略いたしますが、要するに、こういう考え方というものは一九五〇年代の国際認識じゃないかと思うのであります。一体この国防白露というものをどう考えておられるのか。いま世界が大きく変わっているということは総理もお認めになっておりますし、米中の会談も開かれる、あるいは東西両ドイツの会談もいま開かれる、あるいは西ドイツのソ連からの天然ガスの輸入のごときは実に二十年間の契約でしょう。二十年間ソ連のあの天然ガスを引き続き輸入するためのパイプラインを建設するというように大きく変わってきているわけでありまして、だれが考えたって、中ソというものが一枚岩ではないということも明らかであります。こういう国防白書原案のような状況判断を総理もしておられるのか、あるいは別な判断をしておられるのか。少なくとも施政方針演説ではそうは受け取れないのでありますが、もし違うんだとするならば、こういうものが原案の段階であれ軽々に発表されるということはどういうことなのか。これはただ国内的な問題だけじゃないのでありまして、国際的にもこのことが大きく影響してくるわけです。きのう小坂善太郎君が、ソ連のプラウダの記事を云々しておりましたが、こんなものが出れば、やはりそう考えざるを得ないことになってくるわけでありまして、これは一体どういうことなのか。
  16. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 国防白書の発表云々は、これは後に防衛庁のほうから答えさせますが、私がいまアジアの情勢をどういうふうに見ているか、こういう点について、ただいま欧州における状況まで引き合いに出して御説明になりましたが、何といっても、アジアにおいての問題、これは米中ソ三国のそれぞれの関係だ、かように思っております。ただいまそれぞれがそれぞれ会談を開催している。これの遂行を私どもは非常に期待して待っております。したがいまして、いわゆる火を吹くというような事態はないだろうと思います。したがって、そういうことを前提にしていかなければならないと思います。ただ、問題は、国防というか、国を守るという、そういう問題になってまいりますと、これはやはりわれわれが許せる範囲で、いままでは国力、国情に応じてということを申しておりますが、国力、国情に応じての自衛措置、その手段、方法等は事前にやはり用意しておく必要があるだろう、かように思いますので、ここは誤解のないようにお願いしておきます。
  17. 江田三郎

    江田委員 いや、いいですよ、中曽根さん、あとでいいですよ。あなたがやられると雄弁になり過ぎるから……。  総理は、今度の国防費の増というのは、あるいは待遇改善その他だ、こうおっしゃったわけでありますが、しかしきのうの小坂君に対する答弁を見ましても、空と海とは非常に手薄だということを言っておられるのでありまして、いまの日本の自衛力には欠陥があるんだということを言っておられるのでありまして、そういう点から本年度の予算が、膨張率のことはただいま私が申したとおりでありますが、中身はあなたのおっしゃるとおりだとしたところで、これから出てくる四次防ということになると、大きな飛躍が出てくるのじゃないかということを、きのうの小坂君へ対する答弁を聞きながら私は考えさせられたわけであります。あるいはGNPその他に対する比率、いろいろな角度から触れておられましたが、そういう感じがいたしましたが、こういう防衛費がふえていくという背景は、一つは、何と否定されましても、日米会談というものがある。もう一つはやはり産業界の要求というものがあるのじゃないのか。すでに日本兵器工業会が昨年五月二十八日の総会で防衛産業強化策をきめました。そうしてその中には、東南アジアへの兵器輸出実現も一つの項目になっております。会長の大久保三菱電気社長は、防衛費をせめてフランス並みのGNP四%に引き上げたいと述べておるのでありますが、私は、こういうことの中から、いわゆる産軍複合体という危険性を考えざるを得ないのであります。産軍複合体につきましては、もう総理が御承知のように、あのアイゼンハワー大統領が任期八年の大統領任期をやめる直前に言われたことばでありまして、将来軍部と軍事産業資本家が手を結んだときにアメリカ民主主義にとって最も大きな危険が出てくるのじゃないかということを言われましたが、そういうことがだんだんと日本においても出てくるのじゃないのか。たとえば、中曽根長官にいたしましたところで、経団連との懇談会で、「装備体系の確立、兵器の研究開発、予算体系のあり方などについて、今後防衛生産委員会を中心とする民間各団体と共同作業を行なう」ということを言われた。民間と共同——技術の共同研究だけでなしに、ここに書いてあることから言いますならば、これは二月十三日の毎日新聞でありますが、「装備体系の確立、兵器の研究開発、予算体系のあり方などについて一まで一緒に研究しようじゃないかという、こんなことが出てくる。あるいは防衛庁から軍事産業に天下りの人事が行なわれる。こういうことを見ると、やはり産軍複合体制というアイゼンハワーの警告というものが日本にもあらわれつつあるのじゃないのか。しかも、それだけではなくて、アメリカの兵器メーカーの団体である防衛関係懇談協会、DOCAというのがありますが、これが防衛庁を通じて日本の有力メーカーからなる防衛懇談会に視察団の派遣を呼びかけてきているということも報道されておりますが、そうなると、日本の産軍複合体制とアメリカの産軍複合体制と一体になって、今日までも戦闘機の購入その他においてアメリカの軍事産業と日本の商事会社との関係が云々されましたが、こういうものがもっと露骨に出てくるのじゃないかということを心配するのでありまして、中曽根長官ことばは、そのことをどう言うのじゃないのでありまして、総理の基本的なものの考え方をお尋ねしておきます。
  18. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 たいへんこれから発展するであろう自衛隊の装備等についても御心配のようであります。いずれ第四次防衛計画が出てくれば、その際に十分御意見も伺い、また意見も述べさしていただくことにいたします。ただいまはとにかく第三次防の遂行中でございますから、これはもうすでにきまっておる計画であります。この第三次防計画を遂行しておる上におきまして、いかにも弱い、不十分だというのが海であり空だ、こういうことを私は申したのでありまして、ただいまの計画そのものを途中において変更する考えで申したわけではありません。そこは誤解のないように願っておきます。  次に、産軍複合体についていろいろお話があります。この問題は、日本においてはいわゆるアメリカのような状態でないこと、これは正式な軍隊を持っておらない、日本の自衛隊というそのたてまえからも、アメリカのような状態が出て来ないんだ、これだけは御理解がいただけるのじゃないかと思います。そうしてまた、いかに不十分だと言いながらも、みずからがみずからの国を守るという自衛隊を持つという限りにおいては、どうも兵器その他等か——航空機でもそうてすか、どうも外国産しか手に入れられない、国内でそういうものはできないという情けない状態であってはならないように思います。私どもは、憲法ではっきりわれわれが持ち縛る兵器というそういう限定がございますから、おのずから限度はある。しかしながら、その範囲内におきましては、やはり国内で生産するという生産体制を整備していくこと、これは望ましいことじゃないだろうかと、ただいまもそういうことを考えるのであります。  ただいま中曽根君の話をいろいろお引き合いに出されました。私は、幾らいやだと言われても、中曽根君の雄弁をこの辺でお聞き取りいただくことが、名前を出されただけに当然じゃないだろうか、これはひとつお許しをいただいておりますから、発言を許さしていただきたい。
  19. 中曽根康弘

    ○中曽根国務大臣 先ほど国防白書のお話が出ましたが、あれは前長官、前々長官時代より草案がございまして、いま検討しておる最中でございます。私はその内容を拝見いたしまして、修正を要するところがあると自分で考えまして、最近の国際情勢あるいは最近の党の防衛に対する考え方等も反映さして、適当なときにこれは公表しよう、まだその時期ではないと、そう考えております。  それから産軍複合の問題でございますが、まだ日本の防衛生産力は非常に微々たるものでございます。たとえばことしの予算が五千六百億でございますが、そのうち人件費が約五一%です。そこで、ことしかりに予算が進行するといたしましても、いままでの予算外国庫負担契約等を入れましても、三千億円以下だろうと思うのです。そうしますと、今日の鉱工業生産から比べますと、鉱工業生産の〇・五%以下で、一%にもなっておりません。この〇・五%というのは日本で皮革産業と同じくらいのスケールでございまして、まだまだ防衛産業といわれるほどの力は持っておりません。しかし、言われました軍と産業界が結びついて、不当なプレッシャーをかけているということは厳に戒めなければならぬことであると思いまして、私も戒心しております。  私が経団連で申しましたことは、新聞で全貌が正しく伝えられておりません。私は、日本の防衛産業を育成することは、これは必要である、それは日本の防衛というのは全国民でやる防衛であって、自衛隊や防衛庁はその前線の一部を負担しておるのにすぎない。国民の心でまず防衛すべきであり、そのほかに文化力とか、交通力とか、経済力とか、あらゆるものが備わらなければ防衛はできない。そういう意味において、防衛産業というのもその一部を負担すべきであって、それが正しく生々として発展することが望ましい。いまのように、産業界が自分の企業のエゴイズムを出したり、乱雑にやると、ちょうど東京の発展みたいにスパイラル状態に出て、非常に将来敗因をなす。そういう意味で、今日自粛も必要であるし、整理整とんも必要であるし、また、ある程度必要な部面については力をつけてやる部面も必要である。そういう点については、産業界の意見も聞いて、お互いに協力してやろう、そういうことを申したのでございます。  自衛官の天下りの問題がありましたが、いろいろ調べましたところ、いわゆる将以上のクラスで、天下りと称して常務とかそういう正規の役についたのはおりません。大体顧問とか嘱託というのはございます。しかし、それも大体ラインの仕事はしていないで、諮問を受けるという程度で、給与を調べてみますと、現職時代の給与に達するように、恩給プラス若干の手当でようやく現職時代の給与に達する、だから十万円前後受けているというのが普通のようでございます。
  20. 江田三郎

    江田委員 日本の兵器産業、兵器に使う費用というものはまだまだ微々たるもんなんだから、産軍複合体制というようなことはまだないのだと総理は言われますけれども、これは始まったら終わりだということなんであります。しかも、いま私が申しましたように、兵器産業関係の諸君は、日本の武器を東南アジアへ将来売ろうということを目標一つにはっきりきめておるわけなんであります。私は港間いろいろ言われること、これは事実かどうかわかりませんが、兵器産業のことにタッチした政治家のコミッションは五%だということがよくいわれるのであります。あってはならぬことです。あってはならぬことだが、そういうことがよくいわれるのであります。日本においては、産軍複合体制でなしに、産軍政複合体制じゃないか、その産軍の産も、産業の産ではなしに、スリーダイヤの三じゃないかとさえよくいわれるのでありまして、こういうことが一たん始まったら終わりになるわけで、これは十分に注意してもらわなければなりません。防衛庁関係の人が軍事産業会社に行っても十万円そこそこの給料、それがむしろ問題なんであります。十万円の給料なんというものは給料に値しない。そういう人が顧問なり嘱託として何をしているかということが問題になるのでありまして、もっとこういうことについては姿勢を正してもらわなければならぬと思います。  そこで、この安全保障の問題については、具体的にどういう脅威があるかということが一つの問題でしょうし、そのときに、軍事的な手段というものがどこまで有効かということも一つの問題であります。これらを十分に検討して国防白書が出てこなければならぬのであります。中曽根さんがこれは再検討するとおっしゃったことに私は注目をしておりますが、われわれがこの防衛費の膨張を考える場合によく考えていかなければならぬことは、これが対外的に非常に悪影響が出てくるということであります。今度の日米会談以降、多くのアジアの国々が、日本軍事費の膨張についてあるいは軍事力の膨張についての不安を示していることは、外務大臣も御承知だと思うのであります。新聞で見るところによりますと、川島副総裁が外交のパーティーにおいて、これらの諸君の、外交官からずいぶん不安を表明されたということが出ております。一体防衛力の限界というものをどこに置くのかということであります。なるほどGNPの比率は小さいことは言うまでもありません。しかし、今後GNPがどう伸びるであろうかということ、したがって絶対額は大きなものになるということ、もはやすでに日本は、戦力においては、核兵器こそございませんけれども世界で上位に来ていると思うのでありまして、前のアメリカの国務次官補で現在ブルッキングス研究所におるモートン・ハルバリンという人は、日本は現在完全に局地防衛の能力を有しておる、これ以上の軍備をふやす意味は、アジア防衛への参加としてのみ意味があるのだということを言っておるのでありますが、こういう点についてどう考えておられるのか。中曽根長官の長い答弁は、ちょっと恐縮なんでありますけれども、これはきのうあなたが答弁しておられましたから聞きますが、小坂君に対する答弁の中に、教育費や社会保障費とのパリティというようなことも言われたわけです。しかし、これは、防衛庁長官の答えられる問題でなしに、総理として自衛力の限界というものをどこに置くのかということを、ひとつはっきりおっしゃっていただきたい。総理は、きのうの小坂君に対する答弁からいきますと、空と海とは弱いんだということで触れられておりますが、同時に、四次防はまだこれからだからと言われた。しかし、これからといったって、もうすぐ目の前に迫っておるわけでありまして、これについてどのような限界を置かれるのかということをはっきりしてもらわなければ、私たちだけでなしに、国民が大きな不安を感じているし、また、日本を取り巻く周囲の諸国といたしましても、この日本の防衛力の限界をどこに置くかということについては大きな関心を持っていると思うのであります。あなたがほんとうに平和国家だとおっしゃるんなら、目の前にもう来ているのでありますから、この辺ではっきりとどこに限界を置くということを示してもらいたいと思う。
  21. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私が申し上げるのが、どうも抽象的なことに終わりますが、これは申すまでもなく憲法がそういう規定でございますから、抽象的にならざるを得ない、この点はあらかじめ御了承いただきたい。  いわゆる通常兵器による局地戦、その防衛のために必要な兵力、そういう自衛力だ、かように御理解をいただきたいのであります。  たいへん抽象的でわからぬじゃないかとおっしゃる、そうして海と空が弱いと言うが、一体何でそう言うのかと言われますが、私は自衛隊の記念日に一度、いわゆる海上自衛隊を観閲いたしました。陸上自衛隊と比べてみまして、一体これでよろしいのかという感じを実は持ちました。江田君にもぜひああいう機会に、観閲式にやはり出てごらん願って、そうしてこれでよろしいかどうか、ひとつ判断していただきたい、かように思います。  私はいまのような点を考えて、この次の自衛力の整備というか、これは局地戦としてもやはり不十分じゃないだろうか。これはもちろん相手方の攻撃力いかんによるのですから、最近の進み方、それにおくれないように、私どももいろいろ資料を集めておりますけれども、本来が軍事国でございませんだけに、なかなか相手の力というものを測定することは困難であります。そういう意味で、いま安全保障条約を結んでおるアメリカの力をかりて、そうして想定等もやっておるわけであります。ただ、いま御指摘になりましたアメリカの人も、軍事評論家じゃないかと思いますので、これはやはり専門家の意見でないと十分なことは言えない、かように御了承いただきたい。
  22. 江田三郎

    江田委員 いまのアメリカのは、前の国務次官補ですから、そういう認識をしている人もあるということなんでありまして、いずれにしろ、こういう問題は、いつまでも抽象的なことだけでほっておくということは、内外ともに大きな不安を与えるんだということなんでありまして、もっと明確にしてもらわなければならぬと思います。  そこで私は、これはもう総理に言うまでもないことだと思いますけれども軍事費の増大ということは、経済の発展とどういう関係になるのかということなんでありまして、一部産業界におきましては、いわゆる三C産業がそろそろお先が暗くなってくるということから、経済発展の刺激剤としても軍事産業というものを考えなければならぬじゃないかという考え方もあるようでありますが、これが間違っているということはもう申すまでもないことでありまして、軍事産業というものが一時的な、局部的な刺激剤にはなりましても、これを大きくすることが物的、人的資源の配分に大きなひずみを来たすということだけでなくて、むしろ需要効果ということになれば、公共事業費のほうがよほど大きいわけなんでありまして、もし軍事産業というものが景気刺激に役立つ、経済成長に役立つというような考え方があるとすれば、それは大きな間違いであることは、総理も御異存ないと思う。私は、そういう点についてイギリスの有名な歴史家のトインビーが、戦後の日本は軍備のないことが経済発展の重要な条件なのだということを世界に示してくれた、この日本の経験を世界の人々はもっと重視する必要があるという、あのトインビーのことばをよくお考え願いたいと思うのであります。軍事費というものは、一たんふやしかけると、これはとめどがございません。相手を刺激する。相手が大きくなるから、こちらも大きくなる。とめどもないことになってくるわけであります。そういうことについても十分お考え願いたいのであります。  私は、最後に、この問題について結論的に総理のお考えを聞いておきたいのでありますが、将来とも海外へ武器を輸出させないという政策を堅持されるかどうかということ。これはいま中東戦争、アラビアあるいはビアフラの戦争を見ましても、武器の輸出ということがどういうことになるかということを端的にあらわしておるのでありまして、日本の兵器工業の一部で東南アジアへの武器輸出ということを言っておるけれども、これは断じてやらせないということを今後堅持されるかどうかということが一つです。  それから防衛費の限界については、あなたははっきりしたことをおっしゃいませんけれども、いずれにしてもGNPや予算規模に対する一定比率で規定化することはしないということ、これを約束できるかどうかということ、このことをお答え願いたい。
  23. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いつも問題になる武器輸出の問題であります。これは在来からやってきた方針を変える考えはございません。いままでやってきたとおりを守っていくということであります。この中身は、輸出管理令におそらくはっきりきまっている。それが守られているのだと思います。したがって、もし時間が許されるならば通産大臣から私の考えを補足さしていただきたいと思います。けれども、私はただいま申し上げるようにお互いに、(江田委員「やらない」と呼ぶ)やらないという、これは在来のとおりのことで、それを拡大しないという、それだけでおわかりがいただけるかと思います。  それから、その次にこの防衛力の整備の問題でありますが、これはおのずから限度があるということ、それより以上には申しませんから、ただ、いまGNPに対する比率がどうとかこうとかということでなしに、もっと実質的にこれからも考えてまいりまして、われわれが限度はやっぱりきびしく守るという、こういう態度で臨みたいと思います。
  24. 江田三郎

    江田委員 通産大臣が、必要なら答弁するということでありますが、要するに海外への武器の輸出はやらせないということでいいのでしょう。
  25. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 貿易管理令でこれは制限をしておりまして、ことに紛争当事国に武器の行くようなことはしない。それからわが国が通常使用しておりますようなものについて、余裕がある場合にはそれを許すことはあり得ますけれども、紛争当事国に対してはそういうことは特にしない、こういうことにしております。
  26. 江田三郎

    江田委員 紛争当事国に対してはということで、紛争へこれからエスカレートしていく可能性のある国もあるわけでしょう。あなたは頭がよ過ぎるから——総理ことばでいいのでしょう。
  27. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 大筋は総理の言われたとおりでよろしいのでありまして、私はもう少し正確を期しまして補足をしたわけでございます。
  28. 江田三郎

    江田委員 通産大臣は頭が鋭過ぎるから……(「鋭くない」と呼ぶ者あり)鋭くないか。——総理のほうがよほど鋭い感覚を持っておられる。  そこで、私はもう一つ、自衛隊の問題について、いまこの自衛隊というものがひとり歩きをしているんじゃないかということなのであります。中曽根長官のような意欲的な人が出てこられたから、防衛白書でも再検討を命ずるのだということでありますが、従来の行き方から見るというと、いわゆる防衛費は聖域だ。予算の編成にあたって本、聖域だということがいわれるように、ひとり歩きをしているんじゃないのか。われわれは、総理はお気に忍さぬことばでありますが、非武装中立の方針を今日も正しいと思っております。もちろんいま直ちにこれが実現できるとは思いません。これはわれわれの追求しなきゃならぬ理想として、目標としてどこまでもやっていこうという考え方でありまして、この自衛隊の存在が憲法に照らしてどうかということもいろいろわれわれはわれわれの主張があるわけでありますが、いずれにしても、この自衛隊というものか国民と離れて——政府だってよくわからぬのじゃありませんか、国民だけじゃなしに。あなた、防衛庁長官というのは、一年交代できめていってしまって、わけのわからぬうちにもうかわってしまう。予算の内容になったって、しろうとにはわからぬということで聖域化してしまう。この自衛隊というものが、一体どういう仕組みになっているのかということを、私はやはり国民の前にはっきりさす必要があろうと思うのであります。  そこで、自衛隊等の調査特別委員会というものでもはっきり国会の中へつくって、これは内閣委員会なんかとは別に、法案審議なんかには関係なしに、この実態がどうなっているんだということ、具体的に言えば、防衛計画の実施状況、防衛計画の基礎となる一般国際情勢及び極東の軍事情勢を当局がどのように認識しておるのか、当局の戦略的判断は日本をめぐる国際環境に照らして妥当かどうか、これはいまの国防白雪からいってもいえるわけです。防衛計画の実施状況、予算の使用状況、シビリアンコントロールの実情、隊員に対する教育訓練の状況、部隊内生活の状況、たとえば憲法というものを教えているのか教えてないのかということもあるでしょう。米軍との協力連携の状況、隊員の意識の問題、兵器調達の機構及びその実施状況、こういうことを、とにかく国民の前に、自衛隊はどういうことになっているんだということを一ぺん明確にする必要があると思うのでありまして、こういうものを法案の審議なんかが関係ある委員会でやるとかえってこんがらかりますから、これだけのものを——その上で、憲法に抵触するかしないかということもはっきりしてくるし、あるいはあり方がいいかどうかということもはっきりしてくるわけでありまして、こういうものをつくる考え方総理にあるかどうかを伺っておきます。
  29. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 自衛隊がもうできて、そうして国民は大部分よく理解してくれております。ただ、いま困ったことは、野党第一党である社会党は非武装中立、自衛隊を認めない、こういう立場で議論を展開しておられます。しかし私どもは、自衛隊は合憲だとしばしば説明したとおりでありまして、いまさらこれが合憲なりやいなやというようなことで調査会を設けるつもりは政府にはございません。これははっきり申し上げておきます。ただ、皆さん方で、どうしても国会内でそういうものを設けようとおっしゃるなら、これは国会予算委員会か、あるいは委員会内で設けようというのなら、理事の諸君でよく御相談願いたいと思います。また、議運等もございますから、それぞれの機関で設けたらいいだろうと思います。しかし私は、もうはっきり申し上げておきますが、わが党は、これは合憲だ、そうしてわが憲法は、この国の自衛措置を、自衛権の否定はしておらない。それに必要なる処置は当然のことだと認めておる、かように私は考えております。ただいまもいろいろお話がありました。そうして聖域というようなことばを使われて、防衛費だけはそういう意味批判なしにでも素通りしておるかのような話でございますが、さようなものではございません。また、国防会議等もございますし、また会議を開くまでもなく、あるいは国防懇談会等の問題でそれぞれが議論されておりますし、また専門家のつどいもありますし、それぞれの意見も聞かれております。また、わが国におきましても文官優位という立場でこの問題が取り上げられております。これらのことなども基本的な問題でありますから誤解のないように願いたいと思います。かつての、われわれが過去において誤ったああいうようなことが起こらないように今後とも注意はしなければならないと思います。ただいま江田君の御指摘になりました点は、二度とあやまちをするな、こういう意味政府に対する御忠言だ、かように私は聞いておきますが、ただいま憲法を、いまさら合憲かどうかというようなことを検討する、その考えはございません。はっきり申し上げておきます。
  30. 江田三郎

    江田委員 だから、それを前提にしてわれわれがイデオロギー的に言っておるのではないのであって、とにかく国民にはわからぬ存在なんだ。それがひとり歩きをしておるんだ。防衛庁長官は、防衛何やらの会といってタレントを集めるようなことをやっておられますけれども、そんなものじゃないのでしょう。タレントが集まって何やらしたところで、国民にはわかりはしません。もっとこの自衛隊はあるがままに国民の前に示さなければならぬということを私は言っておるのであって、イデオロギーを前提にして言っておるのではないということを申しておきます。
  31. 中曽根康弘

    ○中曽根国務大臣 私はかねがね文民統制という面から考えておりまして、国権の最高機関の国会に防衛問題を審議する常任委員会がないことは、文民統制の上から見まして非常に遺憾な点ではないか、そういう気がしておりました。内閣委員会がございますけれども、定員とか恩給とか、そういう問題で非常に忙しいわけであります。そういう意味におきまして、でき得べくんば国会に、そういう文民統制的見地からも自衛隊を監督していただく専門の常任委員会ができたらけっこうであると考えて実は党にお願いしてあるのであります。いま江田書記長の御意見を伺いまして、いまのようなお考えに立ってその常任委員会をおつくりくださるというならば、これは国会の問題でございますから、ぜひ政党間でお話し願いまして、おつくりしていただいたらいいと思うのです。  ただ、合憲問題云々ということは、これは各党意見があることでございますから、それは各党意見に従って御商議願えればいいと思います。私は、しかし文民統制という意味においてそういう常任委員会ができることは歓迎いたします。
  32. 江田三郎

    江田委員 私が言うのは内閣委員会などで法案の審議と一緒にしてはいかぬということです。こういうことは、たとえば一年なら一年の期限を限って、そうして実態を明確にして国民の前に示せ、こういうことを言ったわけでありますが、これは総理がおっしゃるように国会の問題だということで、それ以上申しません。  さらに、次に私は日米会談について若干触れておきたいのでありますが、七二年に沖繩返還がきまったということは、総理総理なりに努力をされたものとして私もそれは評価をいたします。ただしかし、きのうも質問に出ておりましたが、それまでにベトナム戦争が終わらぬときにはどうなるのかということ、これは最近のラオスの問題などを見ても、そう楽観はできません。外務大臣が言われたように、それまでには解決がつくはずだというようなことにはならないかもしれません。そのときにあなたは、きのうの答弁の中で、核抜き本土並みは動かさないのだ、七二年返還は間違いないのだ、こうおっしゃった。そこで、そのときの協議ということになると、具体的にはB52の問題になってくると思うのであります。このときに解決がついていなかったならば、あなた、B52の進発を許すということになってくるのかどうか。七二年の核抜き本土並み返還は動かぬということになればB52の進発を許すということにならざるを得ぬと思いますが、小坂氏への答弁も、大体そのようにおっしゃったと思うのでありますが、もう一ぺん聞いておきます。
  33. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いまの返還というか、七二年本土並み核抜きで返還されるというそのワク内で協議する、万一ベトナム問題が解決しない状態ならばそのワク内で協議する、こういうことがあの共同声明に書かれておるわけです。これは私、申すまでもなく、一方的にアメリカがやめると言えないような筋のものだと思いますから、これはやっぱり紛争がやむことが望ましいことは、もう両国とも一致しておりますけれども、万一継続した場合には一体どうなるか。そこでいま言うように、この七二年に本土並み、返る、また核抜き、これはもうそのワク内で協議する、こういうことでございます。ただその場合に、いま52があそこから出ておるじゃないか、こういう話がございますから、一体どういうような協議内容になるか、これが実は非常にまだ不明確であります。そのときになってみないとわからないというのが、これはもう申し上げるとそのとおりであります。問題は、やはり、私どもは本土に返ってくる限りにおいて、この本土の基地がそういうような問題であまり使われないことが望ましいのですから、協議されるといいましても、おそらくどういうような協議内容が出てきますか、その際にわれわれとしての態度もよくきめてその協議にかかる、かように御理解をいただきたいのであります。  たいへん具体的に申し上げることができないことは、まことに残念でございます。ただ、ここで申し上げ得るのは、そういう場合には何々をするというような事前の約束は毛頭ないこと、これはもうあらためて協議をするということでありますので、その協議の内容がいまの段階でわからないのは、これは当然かと思いますから、誤解のないように願っておきます。
  34. 江田三郎

    江田委員 きわめてあいまいに表現されるのでありますが、しかし問題はもうはっきりしているわけでしょう。そのときに問題になるのは、沖繩からのB52という飛行機か、どういう飛行機かわからぬが、とにかくベトナムへ直接攻撃を加えるものを進発させるかどうかということにならざるを得ないわけなんです。そのときにベトナムというのは、安保条約から見ても極東とはいえないでしょう。あそこを極東と言う牽強付会は許されぬと思うのであります。そこにまた大きな問題が出てくるわけでありまして、これ以上追及しても総理はお得意のごまかしでやられますから申しませんが、さらにもう一つは、沖繩には核兵器は置かぬのだということをはっきり言われたわけです。非核三原則を守るのだということをはっきり言われたわけです。それならなぜ国会において非核武装宣言をするということに、かたくなにこれを拒否し続けるのかということなんであります。非核三原則は佐藤内閣の政策なんだとあなたは言われるわけです。佐藤内閣の政策ということと、国権の最高の機関としての国会が決議をするということは、おのずから性格が異なるわけなんです。そこに内外に与える影響というものは違ってくるわけなんです。たとえば、あなたがどうおっしゃったところで、お隣の中国はそれを額面どおり受け取るかどうか、しかし国会が決議をするということになれば、おのずから別になってくるわけなんでありまして、いまもなおそれを拒否されるのはどういうわけなのか、私はそれが合点がいかない。この点はどうです。これも簡単に答えてください。
  35. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 佐藤内閣自身の方針だ、それを国会の決議にまで高めることはいかがかと思って私はいままでのような答弁をしております。しかし、ただいま重ねて、国会は最高の権威じゃないか、そこできめることがどうしていかぬのかというようなお話ですから、それはよく検対してみることにします。
  36. 江田三郎

    江田委員 よく検討してみるというのは、いろいろ複雑ですね。総理にしては前向きの答弁をされた、こう一応了解しておきます。  そこでもう一つ、沖繩の返還が七二年だ、そういう中で、いま軍労働者の問題が出ておるわけで、私は、山中長官官僚と全然異なる、ほんとうの大衆政治家として沖繩の問題に取り組んでおられることに対しましては敬意を表します。しかし、なかなか山中長官だけでどうにもならぬところに来たのじゃないのか。総理答弁を聞いていますというと、あの軍労働者の問題に対して介入する意図はないということを言われましたが、それで済むのかということなんであります。沖繩の百万の諸君は、前途に非常に不安を持っているわけです。復帰してどうなるのだろうか、米は高くなるのじゃないのか、あるいはビールもたばこも産業としてはもうだめになるのじゃないのか、どうしたらいいのだろうか、これから二年間何をしてくれるだろうかということを、目を大きくして見ているわけなんです。そのときに、この軍労働者の問題について、首を切られて行き場のない——横須賀の労働者とは違うわけです、沖繩の労働者のあの立場に立ってものを考えたならば、何とかここで前向きの措置をとらなければならぬことは当然のことじゃありませんか。それを介入する意思はないというのは、一体どういうことなのか。退職金の上積みあるいは予告手当等について、せめて本土の労働者と同じようにするくらいのことは、やろうと思えばできないはずはないでしょう。そういうことをもしアメリカ外交当局がかれこれ言うんならば、これこそ国民は承知しないと思うのです。こういうことについてどうするのか。私は、どうも今度のこの二年間というものを、沖繩がヘビのなま殺しの状態に置かれるのじゃないかということが心配なんでありまして、かつては日米琉の諮問委員会というものがあった。今度は日米協議委員会なりあるいは復帰準備委員会なり、屋良さんは顧問として入るということなんでありまして、そこにも屋良さんあたりは非常に不満を持っておることは事実でありますが、それはそれといたしまして、沖繩の諸君は、第三の琉球処分が行なわれるのじゃないかという不安を持っているのでありまして、せめてこの問題だけでももっと前向きにやるのだ、介入しないと言うのじゃない、前向きにやるのだという発言はできませんか。
  37. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 沖繩百万の県民、これはほんとうに心からたよっているのは本土政府だと思います。私はさような意味でこの問題を見ておるわけであります。ただいまヘビのなま殺しというようなことばを使われましたが、これはことばのあやがそこへ走ったかと思いますが、私どもは沖繩県民、これをヘビにたとえるということは、どうもとんでもない話じゃないか、実はかように思います。私がいま申し上げたいことは、いまの話は、おそらくあとでよく速記も調べてもらわなければならないと思いますが、とにかく沖繩県民と血のつながり、その立場において私どもはこの問題と取り組んでおるのであります。私が一々申しました一言、片言隻句、それをつかまえてとやかく言われるよりも、ただいま私どもがこの沖繩の軍労問題について山中長官をしていろいろ折衝さしておる、その実情を十分お聞き取りいただけばよくおわかりじゃないかと思います。何と申しましてもいま施政権はアメリカにあるのですし、アメリカとの直接雇用関係を持っておるのであります。直接雇用関係を持っておるその問題を第三者がとやかく言うのは、これは本来の労働争議等に対する介入等から見ましても、あまり適当ではないと私は思います。しかし、冒頭に申しましたように、沖繩百万の県民がたよりにしておるのは本土政府である、その立場は私も十分認識しておりまして、誤ったことはしないつもりでございます。
  38. 江田三郎

    江田委員 いずれこの沖繩の問題については、本委員会で同僚委員のほうからさらに具体的なお尋ねをいたしますが、傍観しておるんじゃない、介入しないということは傍観じゃないと言われますけれども、客観的に見たら何もしなかったということになるのですよ。山中長官一人奮闘しておるんじゃないですか。そういう印象を受ける。  沖繩の問題はまたあとで他の議員から質問いたしますから、私は今度の沖繩返還というものが、返還はけっこうだけれども、あまりにも高い代償を払い過ぎたんじゃないかということを言いたいのであります。その一つは、安保条約の変質と長期堅持。その一つは、防衛費なり援助の肩がわり。その一つは、経済問題についての譲歩というか取引というか、そういう問題があるわけでありますが、外務大臣が外交演説の中で、南ベトナムについては戦争の継続中でもこれを援助するんだということを言っておられるのでありますが、これは具体的にどういうことをされるのですか。この点だけ外務大臣、答えてください。
  39. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 ベトナムの戦争状態の終結というものが非常に望まれているわけでありますけれども、その終結の形がどういうことになるかということについては、いま確たる見通しがついていないというのが実際であると思います。しかし、同時に人道的な立場からいいまして、南ベトナムの住民たちからの要望も非常にあり、また人道的の立場からこれを援助する必要もあると思いますので、たとえば病院とか住宅とかいうような点については、なし得る援助をいたしたい、そういう意味を表明したつもりでございます。
  40. 江田三郎

    江田委員 病院のことは予算書を見ればわかるんでありますが、その他のというのは、具体的にどういう金額をどういう項目にどこから出そうとされるのですか。その具体的なことだけ答えてください。
  41. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 主としては病院でございます。それから住宅、すべて予算書にあらわれておりまするもののみでございます。
  42. 江田三郎

    江田委員 海外経済協力基金から商品援助の形でなされるという計画はございませんか。
  43. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 現在御審議をいただいておる予算の上では、考えておりません。
  44. 江田三郎

    江田委員 海外経済協力基金から、明年度三十六億円の商品援助の計画をするということは、これは絶対にありませんか。
  45. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 詳細には政府委員からも答弁いたさせますが、私の承知しておるところではございません。
  46. 江田三郎

    江田委員 ないということをはっきりおっしゃるのなら、それでけっこうです。私たちが一部聞いた情報によりますと、そういうことがある。平年度七十二億円、明年度三十六億円、これは繊維、化学肥料、機械などの商品援助、これが見返り資金になり南ベトナム政府の財政収入になる。結局は南ベトナム政府の戦費の援助ということにならざるを得ないじゃないかということなんでありますが、あなたはこれがないと、こう言われたんだから、それでけっこうです。  そこで、午前中の時間が限られていますから少しはしょってまいりますが、総理は、今度の総選挙の結果で安保条約の長期堅持は国民の合意を得たんだ、こう言っておられますけれども、これは少し飛躍がありはしないかということであります。安保条約については、廃棄という立場もあります。極東条項廃止という立場もあります。あるいは段階的解消というのもあります。いろいろあります。そういうことから見ますならば、世論の大勢というものは、この安保条約を現在の形のままで長期堅持していいということには、なっていないわけなんです。総選挙の結果がこうだといったところで、総選挙というものは、一票一票は安保条約で入れた一票じゃないわけで、いろんな要素があるわけでありまして、これだけで判断するのは危険だと私は思うのであります。そういう点からいえば、むしろあなたがそうおっしゃるのは即断だと思いますが、一体長期堅持というのはどのくらいの期限をさすのか、このお考えを聞きたい。
  47. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 この長期堅持と申しますのは、私は、問題はやはり重大な日米関係の安全保障条約ですから、こういうものは国民がきめるものだ、かように思っております。しかし私ども、このままで新しい期間に入るという形はとりませんから、いわゆるいわれておる自動延長の形になるだろう、かように思います。そして、それは国民が最終的に決定するものだ、かようにただいま考えております。
  48. 江田三郎

    江田委員 必ずしも長期堅持じゃない、自動延長でいくのだ、そういうことですね。
  49. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 別に期間を改めるというようなことはしないつもりであります。
  50. 江田三郎

    江田委員 だから、押し問答はやめていきたいと思いますが、今度の日米会談で、いわゆる朝鮮、台湾の問題が出てきたわけなんでありますが、特に朝鮮の場合に、すみやかに前向きに米軍の事前協議に答えを出すということをあなたは約束をされたわけでありますが、そのときの基準というものはどういうことなのか。武力衝突といったところでいろいろあるわけでしょう。あるいは北鮮が南へ入ってくるという場合もあるかもしれません。あるいは一方の内乱が大きくなって米軍が出動するという場合もあるかもしれません。そういうときにどういう基準で諾否をきめられるのか、これはどうです。
  51. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 どうも基準をきめるということはむずかしいことのように思います。プエブロ号あるいはその後の偵察機が落とされた、こういうようなときには、幸いにしてそれより以上に発展しなかった、こういうような状況でありますし、だからまあ、どういうようになったらということは、そのときになってわれわれが考えなきゃならぬことだと思います。ことに私ども、戦火に巻き込まれることは、まあ憲法上からもこれはたいへんゆゆしい問題ですから、その点は十分慎重に扱うつもりでございます。
  52. 江田三郎

    江田委員 だから、アメリカはまことに簡単な態度をとるかもしれませんが、しかし、かりにあそこで何かの事が起きて、米軍が出ていくという事前協議を求めたところで、日本としては、私は、日本自身に対するところの急迫不正の侵略のない限り、日本の基地から他国の軍隊が出ていくことにオーケーを与えることは憲法上も非常に問題が出てくると思うのであります。こういう点について、やはりもっと国民の前に明らかにしてもらわぬと、非常に不安感が出てくるわけであります。朝鮮半島の問題は、どういうことが起こるか、非常に未知の問題が多過ぎるわけであります。私は、そういうことについてこれ以上総理に聞いたところで、はっきりした答えは出されぬと思いますから、よくお考え願いたいということにとどめておきますが、われわれがやらなければならぬことは、南北朝鮮の緊張緩和のために何をするかということじゃないかと思うのです。  私は、今度の総理及び外務大臣その他の演説を聞いて、まことに奇異の感じがいたしましたが、その中に北朝鮮のことが一言もないということなんであります。こういうことがあっていいのかどうかということなんです。まかり間違えば、あそこで武力衝突が起きたら、われわれは戦争に巻き込まれなければならぬのであります。そのためには、南北の朝鮮をどうやって緊張を緩和するかということにわれわれが努力をしなければならぬ。しかるにかかわらず、こういうことについてただの一言も出てこないというのは、どういう認識に立っているかと聞きたいのであります。  御承知のように、南北朝鮮の問題は、韓国側が国連の舞台でと言うし、北鮮側は関係国会議ということを言ってきて、その間に意見の違いがあることは事実であります。しかし、必ずしも国連という場で処理しなくても、もっとおおらかな観点で処理できる道があるんじゃないのか。いま東西両ドイツが話し合いを始めてきた。あの分裂国家が話し合いを始めている。そういう中において世界の大勢を考えたならば、私たちはもっとやるべき道があるんじゃないのか、これをやるのが日本の急務じゃないかということなんであります。そういうことについて何ら触れないで、そうしてただアメリカまかせでおっていいのか。  われわれは、朝鮮の諸君に対しましては、南の人に対しても責任があります。同時に北の諸君に対しても大きな責任があるわけなんです。日本が長年植民地支配した朝鮮については、もっと親身になった扱い方をしていかなければ、衝突が起きるなら起きてもいい、韓国だけを援助しておればいい——まことに許されない態度じゃないかと思うのであります。そういうことについて国際的な努力をされるという用意があるかどうかをお聞きしたい。
  53. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 南北朝鮮の問題、韓国中心主義の話じゃないか、こういうおしかりでございます。私は、確かにこの南北朝鮮の問題は、この緊張を緩和するようにわれわれも努力しなければならないと思います。その例として西独と東独との関係を引き合いに出され、ここでは東西ドイツが話し合いを始めているじゃないか、韓国の場合も同様にやれ、こういうお話でございますが、ドイツの場合は、イデオロギーは違いましても、両者が相戦っておらない、こういう関係にございます。どちらかといえば第三国が出て、そうしてその占領地域の関係で東西ドイツが分かれたということでございます。しかし、朝鮮半島においては両者が相戦った。それはよし内乱にしろ、イデオロギーにしろ、なかなかその関係は深い好悪の感情としてただいま残っております。第三者がこの間をあっせんしようと申しましても、ただいま言われるように、ドイツの場合とはおよそ異なる。このこともやはりわれわれの念頭に置かなければならないと思います。ただ単に北朝鮮と韓国と、その二つがある勢力によって分かれたというだけではない。ただいま申し上げるようないわく因縁があり過ぎる、かように思いますので、この扱い方は非常に私ども慎重にならざるを得ない。そこで国連の場においてということをただいま申し上げておるのであります。  また、日本の場合は、かつて韓国を統治したという関係もありますので、北鮮系の人々もまた韓国系の人々も国内においては雑居しておる、そういう関係がございますので、この朝鮮半島の紛争を日本国内にまで持ち込むというようなことがあってはならないと私は考えております。したがいまして、せっかく江田君の御注意ではございますが、この態度、この取り扱い方はより慎重にならざるを得ないと、結論だけを申し上げておきます。
  54. 江田三郎

    江田委員 東西両ドイツと朝鮮半島とは違うのだ。違うことはだれでもわかっております。だけれども、あそこで不幸な事態が起きれば、われわれもその渦中に入らなければならぬということなんでありまして、そういう中でもっとわれわれが努力しなければならぬのじゃないのか。あるいは、いまの関係国会議のことはすぐにできないとしても、われわれ自身でできることは、北鮮との経済や文化の交流、これはすぐやろうと思えばできることでしょう。われわれがそういうことをして、この分裂国家の一方だけにコミットするのでなしに、もっと双方へ接近しながら、その条件をつくるということが、私は日本の使命だと思う。それさえも放棄して、ただ、問題が起きたならば米軍の出動にすみやかに前向きにということでは、答えにならぬじゃないかということなんです。国連の場でどうするかということは別にして、いま北鮮と経済、文化あるいは人の交流を盛んにするということはどうです。これはやろうと思えばできるじゃありませんか。それは何も障害ないでしょう。どこからもしかられるわけがないでしょう。それはどうなんです。
  55. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 ただいまの状況でも北鮮との間には全然交流がないわけではございません。あります。そうしてこれの関係をさらに深めようという動きもあります。しかし、いま韓国という国があり、私どもはこれを承認し、これと積極的な交際をしておる。そういう際に、その二つの関係を同じように扱え、これは無理じゃないだろうか、かように思います。そこらのところは、(「いずれの国とも仲よくする」と呼ぶ者あり)いずれの国とも仲よくするというその立場ではございますが、同一に扱えとおっしゃることは、これは無理なように思います。
  56. 中野四郎

    中野委員長 午前の会議はこの程度でとどめ、午後は一時より再開することとし、江田君の質疑を続けます。  この際、暫時休憩をいたします。    正午休憩      ————◇—————    午後一時四分開議
  57. 中野四郎

    中野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  総括質疑を続行いたします。江田三郎君。
  58. 江田三郎

    江田委員 いま中国問題が非常に重大であるということは、あらためて言うまでもないことであります。総理は、日中の問題を七〇年代の問題だと言っておられますけれども、やはり七〇年の問題という考え方をされてしかるべきではないかと思うのです。最近の米中の会談その他から見まして、あるいはアメリカ経済界の動きなどを見ましても、やはり日本としてももっとテンポを速めて、七〇年代ということでなしに、七〇年の問題として考えるべきじゃないかと思います。  そこで、こういう問題の解決には、双方の信頼感というのが大事なことは申すまでもないわけであります。そういう観点からしますと、総理選挙中に日中問題に対して発言されたこと、これもたびたび変わりましたが、選挙が終わってからの発言と相当の食い違いがあるわけであります。たとえば、選挙中には、大使級会談の場所にいたしましても、中国側の都合のいいところでいいんだ、その時期は早ければ早いほどいいということを大分で言われている、あるいは水戸におきましては、日中関係の改善は双方で努力する問題だが、まず日本側で努力をする必要がある、こういうなかなか前向きの発言をされたのでありますが、その後、選挙が終わり、国会が始まりますと、どうも後退という印象が強い。きのう小坂君に対する答弁などを聞きましても、何か抽象的な、ことばでは前向きにも解釈できるような点がありますが、しかし、具体的な問題になると、小坂君が牛の問題から飛行機の問題からいろいろ触れたけれども一つも前向きにはなっていないのであります。  こういうふうに総理の発言が変わってきたのは、何に基づいておるのか。私はやはり台湾の抗議あるいは圧力というものを考えざるを得ないのであります。この点につきましては、たとえば一月二十四日の日本経済新聞によりますと、台北の二十三日発のロイター電として、「日本政府が国府に対して中国と大使級会談を行なうつもりはないと確約したと述べ、さらに日本は中国との貿易に輸出入銀行の資金を使用することはないだろうと語った。」というようなことが出ておる。あるいはその他の現地の新聞、ニュースを見ましても、同じようなことが出ておるのであります。そうして一月十六日、これは朝日新聞でありますが、これを見ますと、「板垣大使からの報告によると、蒋総統は、わが国が中国との政府間接触を考慮していることに言及し、慎重の上にも慎重を期待するという国府側の意向を表明した」これについては外務大臣総理に報告して、総理意見一致を見た、こういうことも出てくるのであります。あまりにも台湾というものの圧力、こういうものが、少なくともニュースの面から見ると、出過ぎてくるわけなのであります。これは私どもは真偽のほどはわかりませんけれども、たとえば、共同声明において台湾の緊急事態の問題が出た。これにしても日本側からむしろこのことを希望したんじゃないかということさえわれわれは聞かされるのであります。私は、総理があくまで自主的判断の上に立ってやられたと思いますが、しかし、先ほど読み上げた新聞などを見ますと、どうも台湾の圧力というものがわれわれには強くのしかかってくるのでありますが、これについての総理の御見解を承りたい。
  59. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 ただいま御指摘のように、仲よくしていく、つき合っていくという、それには相互の信頼、同時にまた相互の理解が必要でございます。ただいま江田君は、相互の信頼が必要だと言われたが、これは私は同時に理解も必要だ、こういうことをつけ加えていらっしゃるのだと思います。  そこで、ただいま中華民国政府、これは政府といたしましても、サンフランシスコ条約以来の正式に承認した政権でありますし、これとの関係は私どもとくと考えなければならない。また、中国大陸自身に北京政府のあることは、これは厳然たる事実ですから、中華民国もそこまでは力は及んでおらないのですから、これははっきり申し上げまして、現実を無視しはしない。そこで問題になりますのは、やはり何といっても中国大陸というものは大事なんだ、そういう意味から、もっと積極的な、前向きな姿勢でこれと取り組め、かように御指摘になりますことは、これは私も、同様、同感でございます。ただいま申し上げておりますように、ただいまの状態におきましても、いままでの質疑応答、さらにまた施政演説等でもその関係は明らかにしたつもりであります。そこで、私はもう一つつけ加えておきたいのは、先ほども韓国、朝鮮半島の問題について触れられました。しかし、私どもが承認しておる国と承認しない国との間に差等のあるのはやむを得ないじゃないかという話をいたしました。どうも中国の場合に、中華民国と北京政府との関係、これは支配しておるその地域あるいは人口等の点で問題にならないじゃないか、かように御指摘になりましても、私どもは一たんこれを承認し、国際的な親交を結んだ関係がありますので、これを容易に変更するという、そういうわけにもいかないものがあります。したがって私は、こういう事柄に触れないで、とにかく仲よくできる方法はないもんだろうか、かように実は思っております。わが党の大先輩、松村謙三さんがお出かけになる、あるいはわが党の古井君がその前にも出かけられる、こういうことで、ただいまこれらの二人の方が訪中されるその機会に、私ども考え方を十分理解されるようにしてもらいたいもの、そういうことをよく説明もし、理解もされていただきたい、かように実は思っております。  いろいろ具体的な問題はございますけれども、それらの点は、また後ほどそれぞれのお尋ねに応じて、お答えしたいと思います。
  60. 江田三郎

    江田委員 この松村さんなりあるいは古井さんが出かけられる、これには相当おみやげが預けてあるのだ、いまの総理の発言からいきますと、そういう含みに受け取れましたが、具体的な内容はよろしいけれども、そう解釈してよろしいか。
  61. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 そのおみやげということが一体あるかないか、これは別として、私どもが仲よくしたいという、いわゆる敵視政策というようなものでないことだけは、はっきりさせたいのです。したがいまして、私は、日中貿易の拡大等についてはあらゆる努力をしたい、かように思っておりますので、その点を申し添えておきます。
  62. 江田三郎

    江田委員 それは抽象的なことになると、たとえば政経分離は近ごろ言ってないじゃないかとか、あるいは中国の対日三原則は反対ではないというようなこともきのう言われておるわけでありまして、なかなかそういうことばではどうにもならないので、具体的なことが必要になってくるわけです。  そこで、いま総理は貿易の拡大を望んでいるということでありますが、その問題になると、どうしても吉田書簡あるいは輸銀資金の問題が出てくるわけでありまして、昨年のこの予算委員会におきましても、私はこのことを相当強く総理に要請をいたしまして、蒋介石総統のほうは、吉田書簡は中日平和条約の補完文書であるというようなことを言っているけれども、それはどうかということについては、あなたは、そうではないということも言われました。だから、そうこだわる必要はないと思うのでありますが、どうもこの問題になるというと、ケース・バイ・ケースということで、いつも逃げておられるのですが、それじゃ、ケース・バイ・ケースということは具体的にどういうことなのか。たとえば倉紡のプラント、これは輸銀資金が使えた。それならばニチボー、いま名前は変わっておりますが、ユニチカですか、これが同じようにプラントの輸出の申請をされた場合には、これは当然許可されるものと見ていいですか。
  63. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いままでは、それは断わっております。
  64. 江田三郎

    江田委員 いままでは断わっていることはわかってます。しかし、ケース・バイ・ケースということはどういうことなのか。ケース・バイ・ケースということは、あなたの得意の、事前協議についてはイエスもありノーもあるということと同じように、イエスもありノーもあるということだろうと思うのです。ノーばかりじゃないんだろうと思う。そこで、そういうものが具体的な条件できまってこなきゃならぬ。だから、倉紡の条件と同じようなユニチカの条件が出てきた場合には、これはケース・バイ・ケースからいえば、当然許可しなければならぬという、論理的な必然性を持ってくるわけなんです。あるいは日立の貨物船の問題もあります。だから、そういうケース・バイ・ケースということは、ただことばだけで、オール・ノーということなのか、そうでなしに、こういう条件の場合にはイエスということになるのか、それならそれでその基準というものを示してもらわなければ、いままでのようにケース・バイ・ケースだ、しかし内容はオール・ノーだということになれば、先方と貿易の商談のしようがないということになるわけで、あなたが貿易の拡大を望むと言うんなら、当然このことに前向きになってこなければ、先ほど来の発言と関連しないことになりやしませんか。
  65. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 江田君も御存じのように、そういう点がケース・バイ・ケース、いわゆるケース・バイ・ケースできめる、こういうことでございますから、具体化しないと、こういう場合はどうだ、こういってお尋ねになりましても、そういうような仮定の状況で答える筋のものではない。吉田さんが言われたように、仮定の問題には答えませんというようなことは私は申しませんが、ケース・バイ・ケースというものはそういうものじゃなくて、やはり具体的な問題について、そのときに判断するということでございます。
  66. 江田三郎

    江田委員 ユニチカの問題なんかは、具体的にはっきりしているじゃないですか。これは、あすでも申請されたら、どうしますか。
  67. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 そこで、先ほども答えたように、いままではお断わりしておりますと、はっきり申しております。
  68. 江田三郎

    江田委員 いままではそうだったんだ。少なくともあなたが、古井君なりあるいは松村長老が向こうへ行かれるについては大いに期待しているんだと言う以上は、何かそこに、私が表現したおみやげということばは適切でないとしても、何かがなければならない。そういうことについて私は、いまのケース・バイ・ケースをここで具体的にそれ以上言えないというんなら言えなくてもよろしいが、しかし、そういうことについても配慮があるということだけは考えてよろしいか。
  69. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 先ほどから非常に抽象的な私の気持ちをそのまま申した、これじゃどうも不十分だ、そういうところでもっと具体的に話をしろというのが、ただいまの江田君の御意見だと思います。私は、先ほど来申し上げておりますように、古井君が出かけるにいたしましても、ただ貿易拡大を期待すると言うだけで、そう簡単にものごとが運ぶとも思いません。いろいろそこらに折衝の困難さがあるんじゃなかろうか、かように思っております。しかし、そういうものが具体的にどういうように発展するか。これは政府もやはりそういう点で、具体的な発展ぐあいで考え方をきめるべきじゃないか、こういうことを申しておるので、ただいまの状態で、とにかくわからないとおっしゃるのは、全くわからないのがほんとうだろうと思います。これは私がわかるように割り切った話をしておりませんから、そのとおりでございますけれども、それより以上、ちょっと申し上げることもいかがかと思っております。
  70. 江田三郎

    江田委員 私の聞くところによると、古井さんは相当不満を述べておられたように聞いたのでありまして、どうも団十郎もいいですけれども、もう少し国民の前にものを言うという態度をおとりになったらどうですか。あなたが議会制民主主義だ、民主主義擁護ということを言われるなら、国民にもっと語りかけるという態度が、何よりも必要だろうと思うのであります。  そこで、問題を変えまして、例の国連の重要事項指定方式については、これはことしは態度を変えられるお気持ちはありますか。
  71. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 ただいまいろいろ慎重に考えております。
  72. 江田三郎

    江田委員 米中会談の成り行きを待っているということですか。
  73. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 必ずしもそういう意味ではございません。しかし、私どもは、いままでの提案国あるいはその節、代表国として説明するとか、こういうような点については、含めて、これからどういうように取り扱うべきか、ただいまの段階、まだ態度を決定するのは早い、さように思っておりますので、十分慎重に考えるつもりです。
  74. 江田三郎

    江田委員 先ほども触れましたように、選挙中の総理の発言は、こちらから何かやる番だということを言っておられるわけです。それはアメリカ態度を待つということでもないでしょう。あなたの御自慢の、大国としてもっと自主性を持って、こちらから積極的にやる。だから、たとえば大使級会談にいたしましても、ただ大使級会談を先方が望むならやりましょうということでは、こちらから積極的にということじゃないので、大使級会談をやるならば、どういう原則でやるんだということがはっきり出てきて初めて話が進むわけでしょう。たとえば、中国の対日三原則を認めるという立場もあるでしょう、あるいは平和五原則という立場もあるでしょう、あるいは日本政府も参加してつくったバンドン十原則という立場もあるでしょう。私は、そういうことをきちんとすることが、こちらからという積極的態度だと思うのでありまして、こういう問題について、ここでこれ以上の押し問答はしませんが、もっと国民の前によくわかるように、前向きの態度をとってもらいたいと思います。  そこで、私は内政問題に移りたいと思うのでありますが、……
  75. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 あえて答弁は要らないというような言い方で、きめつけられた判断でございますが、私の選挙中の態度と今日の態度が非常に変わった、こういう印象を述べておられます。しかし、私は、みずから考えながら、変わったと思っておりません。ただいまも大使級会談、これが双方で納得がいくならば、そういうまた適当な場所——どこでなければならぬとは、かように申しませんが、そういうこともすべきではないかと思っております。私は、商社の五人を釈放し、さらにまた一人の新聞社の方、鮫島君を帰されたこと、これを高く実は評価しております。あと七人残っておる。これらも同じようにぜひ解放してほしいと思うし、私ども政府間で交渉するようなのは、こういうような点に相互の誤解があり、相互に不安を持つ、こういうようなことをなくすることがまず第一ではないか。先ほど、江田君も相互の理解が必要だということを言われましたが、私は、そういう立場でものごとを進めていかなきゃならないと思います。  そこで、ただいまのような条件、これこれの条件を了承しろ、こういうような話でなしに、その政府間で話が始まる、そういうこと自身に非常な期待がかけられるのではないだろうか。私は、米中間のただいまのワルシャワ会談というものは、直ちに成果を生み出すとは思いません。いままでは米中両国の主張は並行線だった、かように思います。しかしながら、その主張が並行線であるにかかわらず、とにかく話し合いは行なわれておる、そういう雰囲気こそ国際緊張を緩和するゆえんではないだろうか。そういう意味で、私は歓迎すべきじゃないかと思う。そういう意味で、私どもも努力すべきではないだろうか、かように思います。  これはもうすでに北京政府自身がただいま抑留した者、その六人を帰した今日でありますから、政府側としてさらに積極的な接触を保ちたいという気持ち、これは率直に申し上げて可能かと思います。しかしながら、いままでのところ、他の外交、第三国における接触等では、なかなか門戸はかたいというのが現状でございます。しかし、私どもは、なお忍耐強くぜひとも政府間の折衝が始まることを実は期待しております。そういう意味政府を鞭撻されることもたいへんありがたいことですが、そういう機会をつくることについても、御協力を願いたいと思います。
  76. 江田三郎

    江田委員 この問題はこれ以上、時間もありませんから、触れようと思いませんが、ただ一言、言っておきたいのは、アメリカの場合には、政府が主導権をとって米中の関係の改善をはかろうとしておる。そうしていま民間がこれに乗ってこようとしておる。そうして民間の経済界は、あるいはパンアメリカンの問題もありますが、日本にある合弁会社などを通じて、積極的に動こうとするような姿勢を取り出す。ところが、日本の場合は逆じゃないでしょうか。民間がいつも耐え切れなくなって先頭へ立つ、政府がそのあとから、なかなか容易に腰を上げないが、しかし、上げるようなことばだけは出しておるという、この姿勢をもっと変えてもらわなければならぬと思います。  私は、そこで内政問題に移りたいと思うのでありますが、総理が就任されたときに、その前でありましたか、そのときか、言われたことは、社会開発を重視するんだということだったわけです。ところが、その後の民間の固定資本の伸び、社会資本の伸び、これを比べてみますならば、社会開発というのは、総理の最大の公約にもかかわらず、非常におくれておるということは、これはもう周知の事実であります。しかも、問題は、どの問題をとってみても、容易ならぬことになってきたわけであります。私は、外交問題について、残念ながら総理と見解を異にする。このみぞが相当あることは認めます。しかし、この内政問題については、もっとお互い共通項があるようにも思うのです。この間、成田委員長の発言に対する総理答弁は、その後改められましたから、そのことには私は触れませんが、どうかひとつ、内政問題について、党の立場でなしに、国民立場お互い解決に努力をしたいというわれわれの気持ちを率直にくみ、かつ、応じてもらいたいと思うのであります。  そこで、まず第一は、農業の問題なんであります。これは各国とも、農業の問題にはてこずっておるのでありますが、いま米の過剰からいたしまして、たいへんなことになってまいりましたが、まあ生産制限の問題はうまくいくのかもしれません。しかし、あの十一万八千ヘクタールという減反の問題については、これは具体的にどうしようというのですか、何か自信がありますか、あるいは具体的な方法があるのですか、このことをまず伺いたい。
  77. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 ただいま内政の問題について両者の間にみぞを起こさないように、国民の幸福をもたらすような政治をしてくれ、こういうことで、そういうことをやるなら社会党も支援するにやぶさかでないというような意味の発言があったと思います。私は、わが党だけで政権を担当し、野党の諸君の主張を無視するような考え方は持っておりませんし、今回の予算を編成するに際しましても、各党からそれぞれの意見を徴しまして、そうして採り得るものは採用したつもりでございます。しかし、全部が野党の方々の考えがそのまま入ったとも思いません。そこで、社会開発の問題は、私、主張はいたしましたものの、たいへんおくれてきている今日の状況。これこそほんとうに社会開発が必要な時代になってきた、はたしてそれに手がつけられるか、よほど勇気を持たないとこれはだめではないか、こういうただいまの御鞭撻、これもありがたく私ちょうだいしておきます。  そこで、国内の問題で、農業問題、これがいま当面する一番大きな産業改革の問題だと思います。したがいまして、施政方針演説でも農業だけを取り上げて、実は一項目を置いたわけであります。私は、この問題が成功するかしないか、これこそただ単に農業者だけの問題じゃなく、国民全体の問題としてのコンセンサスが可能なのかどうか、こういうことじゃないかと思います。したがいまして、あらゆる面において、いわゆる農業者といわず農業者でないといわず、すべての国民が十分理解して、そうしてこれに協力する、たいへん長くなって恐縮でございますが、ということを実は念願しております。  そこで、ただいまの減反問題、これは私ども知恵をしぼった結果が、やむを得ない、実は最終的な結論でありまして、何とかしてこれを実現したいと実はいま念願しておる次第であります。  私は、米が過剰ないまの時分にこそ、農業の近代化と積極的に取り組むいい時期じゃないか。私ども、もう余裕がないようなとき、食糧に不足しておるそのときだと、なかなか基本的な改革にも取り組めないわけです。余剰だと、そういう際こそ積極的に取り組むべき一番いいチャンスじゃないか、かように実は思って立ち上がっておるわけであります。ずいぶん無理な問題でありますが、同時に農業者、各種団体、さらにまた地方自治体等の協力を得ましてぜひとも実現したい、かように考えております。
  78. 江田三郎

    江田委員 非常にむずかしい問題であることは言うまでもありませんが、それにしてもあの十一万八千ヘクタールという問題の出し方というものは、あまりにも無責任であり、思いつき過ぎるんじゃないかということ。あれには一億円の調査費が出ておるようでありますけれども、具体的にどうしよう、だれにやらそうとするのか、一向にわからないわけなんです。たとえば、もし各自治体ごとにこの減反をやるということになれば、これは一体都市計画との関係はどうなってくるのか。たいへん矛盾が出てくるじゃないか。スプロールになってしまいましょう。だから、たとえば将来農業の近代化をはかるんだ、だからこの際農道というものを大幅に拡幅しなければならぬのだ、そのための土地をまず先行的に自治体に持たすというのなら、それも一つの方法です。農道だけでなしに、道路の拡幅もあります。新設もあります。それならそれで、それに対するところの資金の裏づけをどうしてやるか。あるいは縁故債でやるのか、何でやるのか、そのときに利子補給をやっていくのか、そういうことが出てこそ、自治体としてもあるいは農業者団体としても協力のしかたがあるわけであります。こんなこと何もなしにやれといっても、私は成功するはずはないと思うのであります。そうして、その結果はどうかということになれば、この予期したところの百五十万トンというものはなかなか困難でしょう。そのときに一体どうなるのか。農林大臣はすでに、現行の食管法のもとにおいても無制限に買い上げる必要はない、こういうことを言われたのでありますが、これは農民にとってはたいへんなショックでしょう。総理、考えてごらんなさい。一つの法律のもとで、たとえ自分が供出を完了した後においても、二升か三升かの米を持っておったら、それで食管法違反でひっくくられたじゃありませんか。今度は一体どうするんです。無制限に買わぬのだということになれば、余った米はどうするのです。余った米を持っておったら、やっぱり食管法違反でひっくくるのですか。ひっくくらないとすれば、一つの法律の適用というものがこれほど百八十度違っていいのかということになります。まさに法軽視を政府みずからが先頭に立って奨励するようなことになりはしませんか。私はそういうことをもっときちんきちんとやっていかなきゃ、農民にしたところで自治体にしたって、協力のしかたがないじゃないかと思うのであります。こういう点をどうお考えになるか。あの食管法の農林大臣の解釈というものはあれでいいのか、農林大臣はあれでいいと言っているんだから、総理はどうお考えになるかをお聞きします。
  79. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 ただいまこの農業問題で具体的な提案もございました。たとえば、農道をつくれ、さらに農道の拡幅をはかれ、あるいは町村道を整備しろ、こういうような話が出ました。私どもの計画のうちにも、そういうことが入っております。これは申すまでもなく、ただいま機械化の時代で、いろいろの機械を使っておりますが、いままでのようなあの農道では機械が十分に使われない、そういうこともございますから、これはやはり農道の整備はしなきゃならないと思う。また耕地整理なども、通年施行というようなことも考えられます。これらも、もちろんそのうちの一つであります。さらにまたいまの農地法自身も、そのままはなかなか適用しにくいのじゃないか。農地法自身の改正は、前国会にも出したのでございますが、これあたりもやはり農地法の改正を十分考えないと、都市における、あるいは都市近郊における農地の利用などにはいろいろ不便があるようであります。したがって、これらのことについても私は思いをいたさなければならないと思います。  私は食管法自身についても、その根幹は維持するということは申しました。しかし、食管法自身をそのまま厳格に適用するということは申しておりません。私は今回の農業問題、それこそは農業革命の問題だ、ほんとうに大事な問題だ、かように思いますので、これは各界の御理解を得て、そうしてこれを遂行するのに失敗のないようにそろえていきたいものだ、かように思います。したがいまして、ただいま御提案になりました農道一つ、そういうこともやはりそれぞれの皆さん方の御意見もとくと承って、そうしてこの改革を遂行してまいりたいと思います。
  80. 江田三郎

    江田委員 来年の問題じゃないんですよ、ことしの問題なんです。そろそろ農民は種の用意をしなきゃならぬときなんです。そういうときに、そういう思いつきもあるならばよく知恵を承りまして……それでは済まぬじゃありませんか。ことしどうするかという問題なんです。だから、こういう問題を出すなら出すで、調査費を一億円つけたというようなことでなしに、こういうことに対しては具体的にこうするということがなきゃならぬ。たとえばいま申しましたような、総理がたとえば農道の拡幅や新設について賛成なさるという場合には、そのときにはこれからでも地方債の発行その他についてちゃんと手配をされますか、何もないじゃありませんか。  さらにもう一つ、答えにくいことかもしらぬけれども答えていただきたい食管法の問題。一つの法律で、同じような米を持っていることが、あるときには食管法違反で監獄にぶち込まれ、あるときにはそれが許されるというような、こういう法律の解釈があっていいのかどうかということなんです。法の解釈も弾力性があるといったって、あまりにも百八十度違い過ぎるじゃないかということなんであります。これでいいのかどうかということなんです。——いや、農林大臣はよろしい。総理
  81. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 私の発言が出ておりますので、誤解のないように申し上げます。  先日、参議院の本会議で前川旦君の御質問に対するお答えが大きく新聞に取り上げられたわけであります。あれは法の解釈、運営の精神について申したわけでありまして、つまり食管法を改正しないで買い入れ制限ができるのかという趣旨の御質問であります。したがって、法律それ自体からは、その限りにおいては、これは差しつかえないことであるというふうに理解しておる、こう申し上げたのでありまして、ただいまここでお話を承っておりますと、いかにも政府がそういうことをやるたてまえであるように聞こえますので、私どもいま、さっき総理もお答え申し上げておりますように、鋭意百五十万トンの生産調整にみんなで努力をしている最中でありますので、そういう買い入れ制限をやるとかなんとかということは全然考えてもおりませんし、それはまたその百五十万トンの生産調整の結果を見て、それからいろいろ研究、考慮しなければならない、そういうことを申しておるので、あれは法律の解釈論上、この限りにおいてはそういうことは差しつかえない、こう理解しておるという説明をいたしたわけであります。
  82. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 農林大臣からお答えしたので御理解いただけたと思いますが、どうも不十分だ——私が説明するとまたもっとわかりにくくなるかわかりませんが、御承知のように食管法で、売り渡し義務を農民にやはり省令で規定してございますから、そのものは守らなければならない、その規定された売り渡し義務は完全に遂行してもらわなければならない、かように私は思います。したがって、いま言われるような、ある者は買うが、ある者はつかまえるとか、こういうものでないこと、これはひとつ御理解していただきたい。  ただ、問題がありますのは、ただいまのような食管法のもとでそういう特別な規制を、買い取り義務といいますか、そういう面で特別な規定ができるかどうか、ここに政府の責任が一つあるだろうと思いますので、そこらはさらに検討を要するのではないか、かように思います。したがって、御指摘になった点を全面的にとやかく申すのではありませんが、そういう問題のあることを申し添えておきます。
  83. 江田三郎

    江田委員 やはりこういうことは国民によくわかるようにしていかなければ。とにかくかっては供出の割り当てがあるわけです。たとえ供出の割り当てを完了したあとでも、残った米を何升か持って町でうろちょろしておれば、それで食管法違反でひっくくられたわけなんです。今度は農林大臣の解釈からいくと、一定量しか国は買わぬという。そうすると米が残るわけです。その残った米——かつての米もいまの米も同じことなんでありまして、それを持って歩いておる。歩かなければ今度はどうにもならぬのであります。自主流通米とは違いますよ。そういう法制局長官あたりの官僚の知恵で答弁するからいけないのです。大体農林大臣のだって、あなた、ほんとうはそう思っていないでしょう。農林官僚の書いた作文を読んだだけでしょう。それとも、そうでないというのならば、ここで十一万ヘクタールの問題にしても、できないようなことを出しておいて、そうして食管法というものをなしくずしにやってしまおうという深謀遠慮に基づいているというか、陰謀といいますか、そうとしか解釈できないわけなんであります。  そこで、こういうことについてはもっと農民が安心できるような態度をとってもらわなければ、この日本農業の改革は——あなたはいま革命だと言われた。まさにそうなんです。それだけに、ほんとうに衆知を集めなければならず、政府自身が農民の信頼を受けるような、そういう姿勢がなければどうにもならぬわけで、今度のことはつつけば幾らでも問題点はありますが、あまりにも思いつき過ぎる、全体が思いつき過ぎるといわなければならぬ。  そこで、きのうの閣議におきまして、農政推進閣僚協議会の総合農政の基本方向というものをきめられました。私はなぜいまごろ出すのだろうかと聞きたいのであります。米のこういう非常措置をとる前にこれが出なければならぬのじゃないですか。しかも、この基本方向というものは、読んでみたところで、これで安心はできないでしょう。いろんなうまいことが書いてあります。常識的に思いつくようなことがずらっと並べてある。しかし、一番肝心の、たとえば自給率をどの程度にするのかということはない。自給率をあまり下げないようにしようということでごまかしてあるだけ。あるいは農業の近代化をやるのだといったところで、そのための資金はどうするかということは何もないわけなんです。もう農業基本法以来、農民諸君は抽象的な農政の文章に飽き飽きしているわけです。具体的にどうするかということなんです。  たとえば、こういう問題についても、自民党の中にも具体的な討論があったはずです。われわれ社会党も農業の十カ年計画を立てています。あるいはあなた方が敬意を表せられる松永安左エ門さんのところの産業計画会議におきましても、自給度を七八%として、八兆八千億をかけて日本農業の近代化をやろうという具体的な青写真が出ている。こういうものが出てこなければ、安心していけないということなんです。たとえば農民年金の問題、これはこれから農業を去る人の問題なんです。これから農業をやろうという若い諸君に対して、何の魅力のある政策があるのかということなんです。こういう総合農政の基本方向に基づいて、いま私が申しましたような具体的な青写真を出す用意があるのか、あるとすればいつまでに出すのか、その際、たとえばいますぐにでも言えることは、自給度というものはどの程度にするのか。果樹をやれ、畜産をやれといったところで、いまアメリカの大きな乳業資本や畜産資本との合弁会社が国内でできる、果樹についても同じようなことが行なわれる中で、何をやっていいかわからぬじゃありませんか。まさにこの農政の切りかえは革命的だという。革命的だというが、あなたの言う革命的というのは、一つも前向きの革命じゃない。農業を滅ぼすという革命じゃありませんか。どうお考えですか。
  84. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 農業を滅ぼすようなことは考えておりません。私はもっと生産性の問い近代農業をつくることが必要なんじゃないか、かように思います。これはもうしばしばいわれることですが、たとえば価格一つとって、その点から見ましても、どうして日本の米は国際価格の倍もするのか、これは近代化されておらないからだ。そこらに無理があるのだ。過去の食糧不足であったことを考えると、やはり米作に非常に熱意を示した、そういう結果、だんだん米の値段が高くなった。これは私は、これだけでもう目的を達したのだから、責めるべきではないと思います。しかしながら、今日この段階になってきて、そうして米がこれだけ余る、余剰米ができる、そういうことを考えると、やはりその価格一つとってみましても、もっと近代的な産業に農業をしなければならないと思います。私はそういう意味でいろいろ努力しておるのだと思います。  先ほど、関係閣僚協議会がいまになってやるとはおそいじゃないか、こういうおしかりでございます。私は、いまになってやったことがおそいか早いか——これは早いとはいえませんが、おそいかどうか、このことよりも、中身をみんな協力して、そうしてこの問題と取り組もうというこの姿勢をやはり買っていただいて、どうもおそいじゃないか、もっと早くやれ、こういっておしかりを受ける、ほんとうにそのむちがほしいように思いますから、そういう意味でおしかりをひとつお願いしておきます。
  85. 江田三郎

    江田委員 おそい、早いだけじゃないのですよ。こういう抽象的な作文では、農民諸君が読んでみたところで、またかと思うだけだということなんです。  そこで、たとえば国際農業において日本がどういう分担をしていくのか、あるいは日本国内において地域的にどういう農業の部門を分担していくのか、それについては自給度はどの程度、そうして必要な資金はこうだ、これについてはこうする、そういうものが出ない限りは、前向きにこれから農業をしようとする諸君は全く希望を持てないということなんであります。今度の作文がおそい、早いはどうでもよろしい。あんな作文なら一年前に出ておったところで何にもならぬので、だからそういう具体的な青写真をどうするかということを私は聞いたわけでありますが、これはまあ答えはないでしょうから、いずれこういう問題については予算委員会で同僚の議員からさらに追っかけた質問がありますから、この問題だけでなくて、次へ進みたいと思いますが、その次は公害の問題。  公害の問題がもう放置しておけない段階にきたことは言うまでもありません。特に、アメリカにおいてニクソン大統領がずいぶん思い切った措置をとっているということは、これまたわれわれが高く評価しなければならぬと思うのであります。  ここで、日本国内の公害問題について、総理は依然として人間の命や健康と経済との調和ということを考えておられるようでありますが、それで解決がつくかということなんであります。たとえばこれは宮澤通産大臣、この間群馬県の安中の東邦亜鉛の工場の許可を取り消されました。これはなかなか思い切ったことだと思うのです。そういうことが必要なんじゃないのか。ところが、その宮澤さんにしても、きょうはよくないです、これは。この読売新聞だけじゃなしに、ほかの新聞をごらんなさい。「欠陥電子レンジ 通産省は業者保護 六割から有害電磁波 だが、製品名はあかさず」これじゃだめですよ。東邦亜鉛というのは小さい会社だからやれたんですか。電機製品というのはあまりにも影響が多いからやれないのですか。依然として通産省というものが国民立場に立っていないのじゃないかということなんです。そういうことについて、やはり公害というものは企業責任ということで処理する以外にはない。公害の解決できない企業はつぶれたらいいんです。企業がつぶれるからといって、国民の命や健康あるいは自然を破壊する権利はないはずなんであります。それをきびしく取り締まることによって、企業自身もほんとうの技術革新ができるわけなんです。そのことをゆるめることによって、かえっていつまでも問題は解決つかぬのでありまして、こういう点についてどうするのか。宮澤さんのごときはニューライトなんというようなタイトルを持っておるのだから、もう少しきっちりやったらどうかね。
  86. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 企業は、社会の構成員でございますから、社会に対して責任があるという考え方を私は持っております。就任以来そのことを最も大切な施策の一つと考えております。先ほど安中の問題を御指摘になりましたが、それも、そういう考え方をだんだんに定着させていこうという気持ちから出ました行政でございます。いままでそういうことがあまり自覚されておりませんでしたので、にわかに全部を全部企業が直ちにいまからでも負担をせよということは、実際問題としてむずかしい点があるかもしれません。したがって、国もいろいろな財政、税制等で援助もするが、しかし企業は社会に対してやはり社会をよごさない責任があるという考えを定着させてまいりたい、こう思っておるわけであります。
  87. 江田三郎

    江田委員 まあそれが総理の方針でもあろうと思うのでありまして、従来のように企業との利益の調和ということでは問題は解決つかないのだ、それがもうアメリカの公害対策の中にはっきりあらわれてきているわけで、たとえば川をよごした会社をどんどんと告発する、ずいぶん思い切った処置をとっている。今度の外務大臣演説の中に、「環境整備、都市問題など世界的な悩みであるいわゆる現代社会の問題についての国際協力にも積極的役割りを果たしてまいりたいと存じます。これらの新しい分野こそ、人類の福祉のためにわが国民の創意を生かすのに最もふさわしいものと考えるのであります。」なかなか野心的な発言を外交演説でしておられるのですが、すでに御承知のように、国連におきましても近く世界汚染防止会議の準備会が開かれることになっておりますが、一体こういう国際的な分野において日本が新しい働きをしたいというのは具体的に何を考えておられるのでありますか。私ははなはだ皮肉ではありますけれども、この国連が本格的取り組みをするという紹介をした記事、これは朝日新聞です。この中にこういうことが書いてある。「とくに先進工業国における産業公害に重点を置き、異常な経済成長を遂げた日本の公害対策の遅れなども、代表的な悪い例として、今後長く論議のマトになるものとみられている。」こう書いてある。外務大臣の言う国際的協力というのは、こういうことをしてはならぬという悪い例としての協力をしようということなんです。そうでないとすれば、具体的にどういうことがあるのか、聞いておきたい。
  88. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 ただいま御指摘のような見方をするところもあるわけですけれども、同時に国連その他の国際的な機関あるいは研究機関等におきましては、日本のように非常な経済成長を示した国で、しかも国土が狭小な国において、しかも人口が相当多い国において、公害問題についてどういうかまえ方をし、どういう研究をしつつあるであろうかということについて、相当の期待を持っている向きがございます。ただいまのところでは、これは率直に申しますと、大きな期待を持たれることは、こそばゆいところもございますけれども、しかし、そういったような日本の特殊な地位にかんがみて、また、日本のそうした研究の分野あるいはその扱い方ということについて、日本らしい考え方や今後の取り上げ方もあろう、そういうことを国際的にも大いにひとつ協力の場に持ち出してもらいたいということも最近非常に起こっておりますので、日本としては意欲的に積極的に、まずみずからの問題を片づけながら、やはり世界的にも参考になるようなことについて共同の研究をし、こちらも与えるところもあるかもしれませんし、また与えられるところも多いであろう。とにかくこれは新しいこれからの人類社会の問題として、大いにひとつ新分野として開拓を積極的にしていきたい、こういう意欲を表明したつもりでございます。
  89. 江田三郎

    江田委員 一ぺんに謙虚になられて拍子抜けでありますが、悪い例として参考になるようなことは、いいかげんでやめてもらわなければならないわけです。  そこで、いま通産大臣もやはり企業の責任ということをもっと強く、人間の健康や命ということをもっと大事に——これは厚生大臣もこの間テレビを見ておりましたら、今度は水の番だ、水についてどうも企業利益というものが先行しておったが、そうではない形に持っていきたいのだということを言われましたが、これは総理も先ほどうなずいておられたから御異存ないところだと思いますが、それならば公害基本法というものを、これを修正なさいますか。
  90. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いま御意見を伺っておりまして、産業と人類福祉との調和、こういう表現は当たらない、そのとおりだと思います。私はお互いのしあわせのために産業は奉仕すべきものだ、また科学技術も奉仕すべきものだ、かように思います。私は月旅行自身が無意味とは申しませんが、アメリカ自身で月旅行、あのために非常な巨額の金を使ったということ、やはり顧みてどれだけの効果があるだろうかというそういう分析をしておるとも聞いております。私は確かにお互いの科学技術の進歩、これはやはり人類の福祉につながるようにしなければならない。そういう大きなことは別として、とにかく身近な問題で公害をはっきりさせて、そうして公害の責任を企業責任、そういう点に追い込む、こういうことはもっとはっきりしてしかるべきだと思う。しかしながら、企業の責任全部でまかなえといっても、なかなかできない状況もあります。したがって、私は企業者の負担の分担、こういうようなこともあろうかと思いますので、ここらのところは十分実施の状況等を見まして、しかる上で公害基本法というものが取り扱われてしかるべきじゃないかと思います。私は、いま直ちに改正を約束するというよりも、やはり産業とお互いの福祉との調和というよりも、もっとそれを高めて、そうして産業の発達こそ国民福祉に奉仕するものだ、こういうような考え方までいかないと、問題は解決しないだろう、かように思います。
  91. 江田三郎

    江田委員 やはり公害の問題は、まさにこれは革命的な解決方法をとらなければ、どうにもならぬところへ来ている。私が最初に申しましたように、六〇年代にこの積もり積もった問題が、どの問題一つとってみても、農業も公害もあるいは土地問題も、すべてがそういうところへ来ているということなんでありまして、やはりここに大きな価値転換といいますか、一つの抜本的な考え方を変えていただかなければならぬときが来ていると思うのであります。  そこで、たとえば今度の予算を見ましても、厚生省の公害対策費が十億足らずふえた。しかし片方では、脱硫装置については国民の税金から補助金が出るというようなことは、やはり何としても素朴な国民感情としては割り切れないものが残るわけなんです。そういうところは当然自分の技術によってこれを改革しなければならぬ責任があるわけなんだから、だれだってよごれた石油で空気をよごしていいという権利はないのですから、もっとそういう点についてはっきりした姿勢をとってもらいたいと思いますが、今度の自動車の排気ガスの問題、これはなかなか進歩です。りっぱなことをおやりになりました。ただしかし、これで解決はつかぬということだけは覚えていただかなければ、あれをやったところで、それでは窒素酸化物の問題はどうなるのか、鉛化合物の問題はどうなるのか。それだけではなしに、自動車がふえるという問題なんであります。ふえていったら一台一台の規制をどんなにしたところで総量としては一酸化炭素にしろ何にしろ、たいへんなことになってくるわけなんでありまして、これを考えたならば、やはりこういう公害規制というものは、年々基準を高めていかなければならぬということが一つ出てくるわけです。煙突一本は規制しても、煙突の数がふえれば何にもならぬことなんです。そこらに、新しい観点から基準についても考え直していかなければならぬということがある。同時に、この自動車の問題なんかは、一体自動車中心の、特にパーソナル・モービリゼーション中心の都市の交通というものは、これでいいのかどうかということが当然出てくるわけなんでありまして、やはりもっと自動車を少なくする以外には、解決がつかぬのではないか。高速道路をつけてみたところで、すぐ低速道路になってしまうというこの現状をどう考えていくのか。そこにやはり公的輸送機関というものをもりと中心にものを考えていかなかったら、そういうことに転換を考えていかなかったならば、都市問題というものは解決ができぬのだということなんであります。どうも従来の政府の行き方を見るというと、そういうことではなしに、要するに高速道路をつければそれで解決つくように、そういう方向へ持ってこられたことが大きな間違いじゃないのか。  さらには、都心の人口をどう減らすかという、あるいは職住近接という問題もあるわけなんです。大きな三十八階の高層ビルができるが、三十八階のアパートをつくることをなぜお考えにならぬのか。あるいは三多摩のニュータウンができる。そこへ都心のオフィスを、たとえば第一生命が行ったように、そういう行き方というものは、そういうところへ職住近接の形で向こうへ持っていくこともできれば、こちらでやることもできるし、いろいろなことがあるのだが、そういうことについてもっと考え方を変えていかなければ、どうにもならぬのじゃないのか。そこに自民党は民間デベロッパー方式というものをとっておられるけれども、あの民間デベロッパー方式では解決がつかないのじゃないのか。やはり公というものが先頭に立たぬ限りは、たとえばマンションができて、その隣にマンションができて、そこに住んでいる人はだれか。バーのホステスさんが多いとか少ないとかいう評判があります。そんなことはどうでもよろしいけれども、とにかくこの状態では、都市問題というものはどうにもならぬところに来ておるということを考えていただきたい。  私は、時間が制約されておりますから、そういうことについては、総理官房長官もうなずいておられるから、そういう措置ができることを期待いたしますが、もう一つは、土地問題なんです。これをどうするのかということなんです。やはり土地問題についてはわれわれがかねがね言っておるように、一つは自治体の先買い権を認めるということ、そうしてそのためには交付公債を認めるということ、そこまでいかなかったら解決がつかぬということなんであります。もう一つは、土地の増価税をどうするかということであります。いわゆるキャピタルゲインの問題は、土地問題だけではなしに、株式の利得の問題にも出てまいりますが、株式のことはあと回しにいたしまして、まず土地の増価税というものをどうするか。たとえばイタリアでやっておるように、土地の評価がえが行なわれるたびに、そこに増価税を取るということが行なわれますならば、投機的な土地所有やあるいは売り惜しみというものは、これは避けることができるわけなんであります。最近の土地問題の調査を見ましても、大体供給量が足らぬということではなくて、そうではなしに、投機的な所有とそうして売り惜しみとがこの問題の解決を妨げているということなんでありまして、そういうときに土地が評価がえで上がってくれば、そのときにはその利益について税金を取るのだという措置ができれば、それがなくなるわけなんです。あるいはさきに申しましたところの自治体の先買い権、これは民間デベロッパー方式だといって民間にまかしたところで、都市の問題というものは、やはり自治体がやらなければだめなのでありまして、私は、民間のそういう事業というものを否定しようとは思いません。民間は民間でやられたらよろしい。自治体だけで、公だけでできるとは思いませんけれども、やはり中心は自治体がやっていかなかったら、理論上は減歩をして道路をふやすとか、緑地をつくるということが考えられても、実際問題としてはできないじゃありませんか。マンションができて、次にマンションができて、どこに一体緑地やあるいはゆとりがあるのか。そういう問題は解決つかないのでありますから、その二つの問題について思い切った措置をとられるかどうかをお伺いしたい。
  92. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 先ほどから都市政策をじゅんじゅんと説かれました。私どもも共鳴する点が非常に多い。ただいまも言われるように、オフィスが高くなる、住宅も同じような高さのものをつくれと言われるが、今度は住宅公団も十五階まではつくるようになっております。だんだんお説のようになるだろう。あるいはまた、中心だけに事業が集まらないで、ニュータウン、先ほど御指摘になった第一生命のような新しい住宅あるいは事業組織、そういうものにだんだん変わっていくだろう、かように思います。  ことに、全般としての自動車を減らせという、これはもうすでに外国のニューヨークあたりでもやっておるように、個人の自動車が入ってくる余地がないということ。ロングアイランドに行って見ますと、もとは自転車が置かれておった場所に自動車が置かれておる、そうして鉄道で通っておる、こういうようになっておりますので、やっぱり大量交通機関の必要なものはあるようであります。  まあ、これらの点は、長くなりますから御迷惑をかけてもいかぬので、簡単に同感の意を表明しておいて、さらに御鞭撻を賜わるようにお願いしておきます。  そこで、土地の問題について、自治体の先買い権の問題についてお触れになりました。今回の農地の処理の問題にもやはりこれは関連してまいります。また、都市の土地問題から申しましても、これが非常に関係してきます。現金で支払うことがはたしていいかどうか、そこらに一つの問題がある。これが交付公債その他の方法で片づけられることができるかどうか、こういうことも考えておかないと、やはりともするとインフレ傾向になりがちですから、そういう点は十分気をつけなければならぬと思いますが、いずれにしても、先買い権の制度は、これはひとつうまく運用したいものだと思います。私は、別に皮肉を申すつもりではありませんが、先買い権はひとつ有効に使って、そうしてりっぱなものにしたい、かように思います。  また、この土地の増価税、固定資産税で毎年評価がえをするというそういうこと、なかなかできないだろうと思いますが、いま三年ごとにやっている、やはりその三年ごとの評価がえ、それに基づく固定資産税、そういうものがやはり地価の抑制には役立つのではないだろうか。かように思いますが、さらにそれをもっと短縮しろとか、こういうような御意見もあろうかと思いますが、よく研究したいと思います。
  93. 江田三郎

    江田委員 この物価問題とか土地問題というのは、総理もずいぶん懇談会とか協議会とか審議会とかというものをおつくりになったと思うのです。物価問題懇談会もあれば何やら各大臣の諮問機関としてまで、どれだけあるのか私よくわかりませんが、実はそういうものがどういう答申をし、それをどう処理されたかという一覧表を、これはあとで出していただきたいと思っておるのでありますが、特に物価問題にいたしましても、やはり土地問題の解決がなければ物価問題の解決はできない。そうして土地問題については、いままで都留さんのところだとか、いろいろなところから答えが出ているわけなんで、問題は総理がやるか、そのとおり、あなたが言っておるとおりやるかやらぬかだ。私は、もしこの席で総理が過密都市においては自治体の先買い権を認める、それに対しては交付公債の制度をとる、あるいは土地の評価が上がったならば、その値上がりを税として取る、これを二年以内にやるのだ、きょうそのことを一言おっしゃってごらんなさい、それで問題は解決つくのですよ。そこまで来ているということなのです。これはもう供給はある。供給の条件はありながら、売り惜しみやあるいは投機的に土地を持ったことが妨げをしている。たとえば商事会社という名前のものがある。かつてあなたのところの大臣は、土地は商品でないと言ったが、その商品でないはずの土地をどんどん買いあさっているじゃありませんか。それがいま金融引き締めで参っているでしょう。ですから、いま総理がきちんと前向きにこれをやるのだということをはっきりおっしゃれば、土地問題というものは大きく解決の方向に行くということを私は申し上げる。何もかにもあるのだ、ないのは総理の決断だけだということがいまの段階だということを申し上げておきます。  さらにもう一つ、基地の整理ということがいま問題になってきたのでありますが、この基地をどう使うか。たとえば練馬のグラントハイツの問題などあります。こういうことについて、もしあそこに住宅をつくるということならば、七階ないし十二階のものをつくれば、人口収容力にして約四万くらいのものが収容できるのじゃないか、こういう計算もあります。その他立川もあります。いろいろなところがありますが、一体こういうような米軍の使用から解除された基地のあと地利用をどうするのか。これは私は、当然自治体に渡すべきだ、住民要求を中心にして優先的に、こう考えるべぎだと思うのでありまして、このために代がえ地が要るから、その代がえ地の費用を自治体に求める、地元に求めるというようなことは、これはあってはならぬことではないかと思うのであります。  いま、たとえば横浜におきましても、本牧地区の例を見ましても、国が坪三千円で買い上げたところ、これが今度解除になれば、国は今度はこれを七万円でなければ売らぬというようなことがいわれておる。こんなことは何としても納得できない。三千円で買ったところなら三千円で渡したらいいじゃありませんか。権力をもって取り上げられた土地なんであります。あるいは根岸の競馬場のあたりに森林公園をつくるといっても、国は公務員住宅優先のような考え方をしておられると思いますが、要するに、もっとこういうような基地の整理にあたっては、自治体に優先権を与えるという考え方をとっていかなければならぬのだ。それによって、いわゆる職住近接によりこの都市問題の解決の芽が出てくるのだと思うのでありまして、そういうことについてどうお考えになるか。私の時間がもうちょっとですから、総理、答えを簡単に頼みます。
  94. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 たいへん重大な問題ですから、簡単に答えるのは……。  ただいま基地を返してもらう、これは住宅公団がこのあと地を使うという、そういうことも一つの条件になっております。ただいま自治体にという強い御要望がございますが、ただいまそこまでは考えておりません。自治体、国、これは一体として考うべきものだと、かように考えますので、そこを誤解のないように願っておきます。
  95. 江田三郎

    江田委員 国という立場もありますけれども、しかし、もともとああいう土地が基地として収用された過程は、どういう経過をたどったのかということも考えてみなくちゃなりません。特にやはり、たとえば米軍が引き揚げた、そのあとは自衛隊が入るのだというようなことでは、私ははなはだ残念なことになると思う。米軍が使うにも不適当なようなこの都心にあるような基地を、そのあと引き続いて自衛隊が使うなんということは、全く国民立場を無視していると思うのでありまして、やはりもっと国民生活、あなたの足らざる社会資本、この辺で補うことを考えられたらどうですか。  それから、さっき答弁がありませんが、どうです。土地問題について一言、佐藤の一声かツルの一声か、何の一声でもいいが、きちんと言う勇気はありませんか。ないのはあなたの勇気だけだと言われておるのだが……。
  96. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 これも積極的に前向きで検討をいたします。  それから、いまの自治体の問題は、こだわるようですが、やはり国というものは自治体の積み重ねでございますので、やはり国の利益は自治体だけで考えられると、国というものが別に存在するわけでもございませんので、そこらは一体として考うべきだ、これは申し上げておきます。
  97. 江田三郎

    江田委員 私は、ただそういう問題だけでなしに、総理民主主義ということを言われる、議会制民主主義ということを言われるが、民主主義の根源はどこにあるのかといえば、やはり自治体を大事にするということから民主政治というものは生まれてくるんだ、この認識をよくお考え願いたいのであります。やはり自治体というものは何のかんの言って——まあ大蔵大臣なんかに言わせると、自治体はぜいたくだというようなことを言うのでしょうが、そうではなしに、やはり自治体というものは住民の目が光るのです。一番監視が行き届くんで、ちょっと変なことをすれば、すぐ問題になるのです。やはりこの地方自治というものをもっと大事に考えていくこと、特に都市づくりなんかはこの自治体中心ということを考えなかったら、本物にはならぬ。形はできても住民の精神の会話はない、空疎なものになってしまうのだということなんであります。  まだいろいろ申し上げたいことがありますが、私の持ち時間が参りましたから、あと同僚の議員から質問するでしょうが、まあ外交問題についても、われわれはただイデオロギーだけで言っているのではない。きょう私が言っておることは、イデオロギーで言っているのではないのです。現実的な処理の問題として言っているわけなんです。国益の問題として言っているわけなんです。あるいは国内問題についても、時間が十分ありませんから、はっきりあなたの合意を取りつけてはいまませんが、おおむねは意思の疎通はあったと思うので、そういうことについて、やはりあなたのほうももっとその態度——それをことばに表現しようとするとまたあなたは反発するから、ことばには表現しませんが、その態度でやってもらうことを申し上げて、私の質問を終わります。(拍手)
  98. 中野四郎

    中野委員長 これにて江田君の質疑は終了いたしました。  次に、矢野絢也君
  99. 矢野絢也

    ○矢野委員 私は、公明党を代表して、本委員会の質問をしたいと思います。  七〇年の幕明けのこの国会、私たち議会人には非常に重大な問題がその解決を迫られておるわけであります。安保、沖繩あるいは中国問題、物価、重税、公害、中小企業、農村問題、きわめてたくさんの問題があります。私たち政治に携わる者はきわめて責任が重大であると痛感をするわけであります。  先日も総理の所信表明演説を伺いました。総理が七〇年代の展望をされまして、その方向を模索しようとするその姿勢、その姿勢につきましては、意見は私たちと異にはいたしますけれども、その意欲には一応の評価を与えてもいいんじゃないか、こういう気がするのであります。また、なかなか表現力の豊かな文章であったという記憶も私はしておりますが、しかし、残念ながらことばばかりで、予算の裏づけあるいはまた具体的な方策を伴わない抽象的な作文ではなかったか、こういう印象を私は受けております。たとえば中国問題、何一つ具体的な提言や方策がなかったように思います。     〔委員長退席、藤枝委員長代理着席〕 物価問題、安定させる、抑制すると言われるが、たとえば物価対策の予算なり方策が一体どこにありますか。土地の価格抑制、スローガンは非常にけっこうでありますけれども、これも具体性に欠けておる。つもりだとか、決意であるとか、こういう羅列はこの七〇年代にはあまり必要がないのではないかと私は思います。そこで私たちは、まだわが国の主体性が回復されておらない。まだ戦争に巻き込まれる危険性も強い、人間性豊かな、そして正直者がばかを見ない世の中もまだまだほど遠い、こういうふうに思うのであります。  いろいろ悪口を並べたようでありますけれども、これが私の誤解であれば、これは国民立場に立って非常に喜ばしいことだ。政府にも政府の言い分があろうかと私は思います。だから私は、この時間をおかりして、具体的にいろいろとお尋ねをしたい、このように思いますので、ひとつ誠意を持って、しかもあんまりむずかしい表現じゃなくして、一般国民皆さん方がおわかりいただけるような説明をしていただきたい。最初に長々と注文を申し上げましたが、ひとつよろしくお願いしたいと思います。  そこで、この所信演説を見ますと、総理は、内政上の課題は、人間尊重の精神に基づかなければならぬ、そして社会の調和ある発展が大切だ、社会保障がきわめて大切である、これを強調しておられる。これはなかなかけっこうなことだと思うが、まず最初に伺いたいことは、いつも問題になっておりますが、児童手当のことであります。  人間尊重の精神あるいは社会保障の充実、こういった施政方針における総理のお話から見て、またかねてからの政府のいろんな答弁から見ましても、これは重大な政府の公約違反である、私はこのように言わざるを得ません。ここで児童手当の必要性、この意義を私はくどくどと申し上げる気持ちはない。これはもう何回となく国会で議論され、今日のわが国の政治にとりましては、緊急に解決をしなければならない重要な政治課題にもなってきておる。だから、その必要性は申し上げません。昨年、四十五年にはこの児童手当を実施したい、実施する、このように明確に約束されていた。ところが予算を見ますと、それが載っておりません。これはみごとに裏切られておるわけであります。この総理のなかなかけっこうな施政方針演説の趣旨から考えまして、あるいはまた、かねてからの自民党政府の姿勢から考えまして、これは一体どういうことになっておるのか、総理のお考えをひとつお聞きしたいと思います。
  100. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 過日も本会議の席上でお答えしたのですが、児童手当の問題を四十五年度の予算に盛ることができなかったことは、まことに残念なことであります。ただいま公約違反と、かように言われますが、私はまさしくさようなおしかりを受けてもしかるべきかと思います。私も、これは何としても実現したいというので、あらゆる努力はいたしましたが、なかなか困難な事情等がございまして、それは実現を見るに至りませんでした。そのことがまことに残念でなりません。しかし、ただいま児童手当審議会でいろいろ審議しておりますから——この経過は、御承知のように、最初は懇談会でありましたが、正確に、正しい意味の審議会にして、審議会の答申を得てやるということになっております。なかなかむずかしい問題がいろいろあるものですから、審議会の答申がまだ出てこないという段階でありますので、その点を御了承いただきたいと思います。
  101. 矢野絢也

    ○矢野委員 実現できなかったのが残念だ、これはもう少し正確にいえば申しわけない、こういうことだと思うんだけれども、しかし、そんな簡単なことで済む問題だと私は思わないのです。全野党の諸君が何回となく政府に迫って、そしてそのお約束をいただいておるわけであります。それをただ、まことに残念である、これじゃしようがないのです。たとえば昨年の六月の五日、社労委員会で斎藤厚生大臣は「来年度の国会でぜひ御審議願えるように準備をいたしたい、」いろいろございますが、はっきり言っておられる。しかもこの社労委員会で、社会党の西風委員から説明がありましたが、自民党、社会党、民社党、公明党、これで附帯決議の動議が出ております。児童手当制度は四十五年度より実施すること、これに対して厚生大臣は、附帯決議として御決議になられた諸点につきましても決議の趣旨を十分尊重する、こういうふうに言っておられるんだけれども——いろいろほかにも議事録にあります。もう時間があれですから省略しますが、このようにはっきりと、公の席上で議員に対して答弁をしておられる。それが、ただ残念でございます、これじゃ私は納得ができない。国民納得できない。  私はまず厚生大臣に、この間の事情なり今後の決意なりをひとつ御説明を願いたい。前の大臣のことだから私は知らぬなんて、こんなことは通用しない。
  102. 内田常雄

    ○内田国務大臣 児童手当の問題につきましては、前からの経緯も私はよく承知をいたしておりまするし、またこれがわが国の社会保障制度上の重要な課題として、政府としてもぜひこれを真剣に取り上げてまいりたいという決意については、私が就任いたしましても変わりはございません。ただ、総理からもただいまお話がありましたように、昨年の七月に児童手当審議会というものが法律上の制度として生まれまして、自来熱心にこの課題について取り組んでいただいておるわけでございますけれども、明年度の予算編成までの間にこれを実施するに至るような、最終的なまとまった答申を得られないために、ここに予算の計上を見送らざるを得なかったというのが実際でございます。  また、これは、御承知のように、他の社会保障制度上の現行の制度ともいろいろ関連がございまするし、また、わが国特有の賃金制度とか、あるいは税制でありますとか、また、これは一ぺん実施をすることになりますと、これも御承知のように、どんなに小規模の制度から始めましても、年年数百億、あるいはやや形の整った制度ということで出発しますと、年々数千億の金が要るしいうような、そういう問題でもございまして、費用の分担等につきましても、なかなか大きな問題でございます。しかし、私といたしましては、審議会の委員の方々にこれの審議を詰めていただきまして、で虫得る限り早く結論を得て、そして善処してまいる所存でございます。
  103. 矢野絢也

    ○矢野委員 たくさんのお金がかかる問題だということも言っておられました。そんなことはきのう、きょうわかったわけじゃない。昨年御答弁をされたときにもはっきりわかっておることなんです。そういうことを踏んまえた上で、本年一度何とか実現するんだという御決意を言っておられる。どっちにしても、この児童手当制度については、かねてから本議会で何回となく問題になってきておる。そして、歴代内閣の重要課題とさえなっておる。そして、昨年厚生大臣が、来年度には何とかしたい、実現するんだ、こういう御決意を表明されて、はっきり言って、国民はかっさいしたわけです。喜んだわけです。ところが、この期に及んで、実はお金がかかりますし、審議会の都合もありまして、こういうことでは、私は人間性豊かな云々ということにもちょっと違ってくるなと思うのですね。  そこで大蔵大臣に伺いたいのですけれども、今年度これが実現できなかったその理由の一つとして、大蔵省が非常にけちけちした、こういうことを聞いておるのですけれども大蔵大臣の御心境をひとつ聞かしてもらいたい。
  104. 福田一

    福田国務大臣 私は日本一のけちんぼうでありますから、けちんぼうと言われることにつきましては私は満足でありますが、しかし、そのけちんぼうは、必要なところに金を出すためにけちけちしておるわけであります。ところが、この児童手当の問題は、いま厚生大臣からお話がありましたように、審議会の結論が出ない、これじゃどうにも、大蔵省としても必要なところとして認めるわけにいかぬ、こういうことなんです。またこれは鋭意努力をいたしたいと思います。
  105. 矢野絢也

    ○矢野委員 とにかく、審議会というのは、いつの場合も非常に御都合のよろしい、いい弁解の材料になっておるわけでありますけれども、昨年この児童手当審議会を設置する、その期限を二年とするということにつきまして、なぜ二年にしなければならないんだ、来年、つまりことしこれを実現するのであれば、二年にする必要はない。来年実現するといいながら期限を二年つけておるというのは、また審議会を隠れみのにして、ごまかすつもりじゃないかという意味の質問を、わが党の伏木議員が斎藤さんにいたしました。それに対して斎藤さんは、三カ年の期限づきというのは、私は来年度法律案をどうしても国会に提案をしたい、そういう決意だ、こう考えておる、しかしながら、これの実施の面あるいはまたアフターケア、こういう点についてもう一年ぐらいはやはり審議会でやらなくちゃならない。だから二年にしておるのです。決して審議会を理由に来年の実現をおくらせることはないんだ、こういうようにちゃんと斎藤厚生大臣は約束をしておられる。この点について厚生大臣、前任の大臣の言われたことでありますから、先ほどの審議会を理由にしてどうも今回は実現しないのだ、これは私は理由が立たないと思うのです。こういうことはもうすでに予想して斎藤さんもその決意を述べておられるわけですから、もう少し明確に厚生大臣の決意を承りたい。
  106. 内田常雄

    ○内田国務大臣 審議会の設置期間を一年にするか二年にするかということにつきまして、御指摘のようなやりとりがあったことも、私も実は聞いております。しかし、御承知のように、審議会が設置されましたのは昨年の七月でございまして、予算要求の財政法上の時期、概算要求の時期等に間に合わせるためには、おそらくあまりにも時間が差し迫っておって、結論が出なかったということがあの真相であろうと思いますので、私はさらにその斎藤大臣の努力を引き継ぎまして、審議会の委員の方々にもお願いをいたしまして、関連する諸制度等との調整をできる限り早くつけていただきまして、そうして、その終局の目的達成に努力をいたしておる所存に変わりはございません。
  107. 矢野絢也

    ○矢野委員 いまの厚生大臣のお話を聞いておりますと、前任の斎藤さんは、審議会ができたのがもうかなり時期的にもおそかったので、当然これは今年度の実施ということには審議会の答申も間に合わない、あなたのお考えではそういうような説明だった。まるで前任の厚生大臣は、そんなことのわきまえもなしに来年度実施を約束したかのごとく私には聞こえるわけです。そういったことも十分承知して、審議会で答申を間に合わせるのだ、その上でことしこれを実現するのだ、このように昨年答えておられるわけですよ。ですから、審議会を隠れみのにしてはいけない。はっきり申し上げたいことは、これは厚生省におやりになる気がなかったのではないか、こうとまで私は言いたくなるわけです。私はかねてから厚生大臣がこの児童手当問題についていろいろと苦労しておられるという話も聞いておりますから、やる気がないなんということは言いたくないけれども、審議会を理由にしてことしのこの実現ができなかったというようなことは、私は納得できない。なぜことしできなかったのか。大蔵省が金を出さなかったのか、あるいはまた総理のほうから、これはもうそうあわてることはない、こういうふうに言われたのか。私は厚生省としては、ことしこれを実現するために相当苦悩もされたろう、また苦心もされたろうと思うけれども、なぜこれが実現できなかったか、その政治責任を明らかにする意味でも、ただ審議会——これでは私は納得できない、そんなことは去年からもうわかっていることなんです。もう少し具体的にこの責任の所在を明らかにしてもらいたい。
  108. 内田常雄

    ○内田国務大臣 結果から見まして、昨年八月の概算要求の時期とかあるいは昨年末の予算政府案決定の時期までに間に合わなかったということを私は申し述べたわけでございまして、その理由につきましては、審議会を隠れみのにいたすというつもりは毛頭ございません。たびたび申し上げておりますように、この児童手当という制度は非常に大きい制度であり、また新しい制度でございまして、これは矢野委員よく御承知のように、他の社会保障制度上のいろいろな現行制度と関連がある、こういう問題でございまするし、これ、ただ要綱だけ書いて、これですぐ実施に移せるというものでなしに、これを実施に移すためのいろいろのバックグラウンドの整備、別のことばでいうとコンセンサスが必要だというようなこともございますので、おそらく私は間に合わなかったものだと思います。私自身たいへん熱心にこれに取り組むつもりでございますし、大蔵大臣答弁にも、大蔵大臣がこれを阻止するものではないというようなこともうかがわれますので、私はさらに委員の皆さまにお願いをいたしまして、できる限りこの答申を早く出していただいて、できる限り早い時期に実現に向かうということについて、重ねてひとつ私の決意を申し述べる次第です。
  109. 矢野絢也

    ○矢野委員 この問題であまり押し問答しておりましても、あとにいろいろとお尋ねしたいこともありますから、次に移りたいと思いますけれども、いまの厚生大臣のお話、もしそうであるのならば、審議会の答申、これは一体いつごろまでにお受けになるつもりなのか。また、今日まで審議会に答申の要請をなさったことがあるのか。催促をされたことがあるか。そして、ことし一体いつごろまでにこの答申を受けたい、こう考えておられるか、これを次善の方法としてお尋ねをしたいと思います。
  110. 内田常雄

    ○内田国務大臣 結論だけ申しますと、私は就任以来、審議会の皆さまにもお目にかかりまして、でき得る限りひとつ本年の八月ぐらいまでには一応の答申をいただきたい——これは私があとの段取りをも考えておるところでございまして、そういう方向で進むつもりでございますし、このことは私が会長の有澤さんにも直接実は申し述べておりますので、御信頼をいただきたいと思います。
  111. 矢野絢也

    ○矢野委員 八月までに答申を得たい。厚生大臣の御決意、御方針を承ったわけでありますが、これは非常に大切なことだと思うのです。そこで、この八月というのは、来年度予算、国の予算編成の概算要求の時期だと私は承知しておるわけでありますけれども、ぎりぎりの段階だと思う。この八月に答申を受けられたときに、厚生省としては四十六年実施のための概算要求をされるおつもりがあるか。予算要求をされるおつもりがあるか、これについて聞かしてもらいたい。
  112. 内田常雄

    ○内田国務大臣 私が八月ごろまでに答申をお願いをいたしておるというのは、あとの段取りをも考えておりますことを申し上げておるわけでございますので、お含みいただきたいと思います。
  113. 矢野絢也

    ○矢野委員 あとの段取りというのは、概算要求される。——これはいままでは実現したいというお話が何回となくありましたけれども、いまだかつてこの予算要求は厚生省は具体的にされておらない。だから、八月に答申を受けたら来年度のために予算要求するんだ。あとの段取りというのは、くどいようで恐縮ですけれども、そういうふうにお考えになっておるんだろうと私は思いますけれども、それでどうですか。
  114. 内田常雄

    ○内田国務大臣 予算ができますのは、御承知のとおり政府案をまとめますのは十二月でございます。八月に答申を得ますと、正直に申しまして、私がもう最大の努力をいたしまして、関係方面とも調整をいたしまして——これは党内、党外いろいろの方面があるような施策でございますので——そして大蔵省には付せんをつけまして、そしてこれは次の予算要求には持ち込むことという決意のほどを私は大蔵省には示してまいるという段取りを考えておる、こういうことでございます。
  115. 矢野絢也

    ○矢野委員 何だか語尾のほうがちょっとややこしかった感じだけれども、要するに予算要求をされる、こういう御決意を深く秘めておられる、こういうことだと私は解釈します。  そこで、答申が出た場合、八月、これは出るわけでありますけれども、来年の通常国会に審議をするように直らに立法作業に入る、この点についてはどうですか。
  116. 内田常雄

    ○内田国務大臣 これは予算だけで実施できる事案ではございませんので、当然予算についていろいろ段取りを考えますとともに、法律案、要綱等をもつくりまして、関係方面とも調整をして、そして予算ともども実施準備を進めてまいる所存でございます。
  117. 矢野絢也

    ○矢野委員 厚生大臣、先ほどから非常に初歩的なことをくどく聞いておりまして御迷惑かもわかりませんけれども、事、児童手当に関しましては、非常に疑心暗鬼になっておるものでありますから、くどく聞いておるわけであります。  そこで、いずれにしても八月までに答申を出してもらう、そしてあとの腹づもりを考えておる、予算の概算要求、予算要求それから立法措置、こういったことも当然考えておる。これは私は、厚生大臣のいまの御決意はそれなりに高く評価しなくてはならない。もちろん、何もそうだからといって、ことしそれが実現できなかった政治責任がそれで差し引きされる、こういものじゃありませんけれども、具体的なお話があったことは、私非常に歓迎の意を表したい。  そこで、もう一押しちょっと聞きたいのですけれども、八月に答申が出るということでありますけれども、今国会中、何とかしてこの問題についてもう少し前向きの議論を私たちはしたいと思うわけです。政治責任の追及、これはもちろん重大なことでありますけれども、この児童手当の内容なり考え方について、やはり今国会において私たちは議論をしたい。ところが、すべて答申が出ないからどうのこうのと言われてしまったのでは、これは議論にならないわけであります。そこで重ねてもう一押しお尋ねをするようですけれども、審議会に対して今国会中に中間答申を出すような要求をぜひしてもらいたい。そして、そのような努力を尽くされることが、私は厚生省の誠意のあらわれではないか、このようにも思うわけでありますけれども、要するに、今国会中に、審議会の中間答申などについて厚生省として何らかの措置をとられる御決意があるか。
  118. 内田常雄

    ○内田国務大臣 先ほど申し述べましたように、私が何とかひとつ八月ぐらいまでに答申をいただきたいということを審議会の皆さんにお願いをいたしてありますので、この国会中に答申をいただくということは、私はこの問題を勉強していますだけに、非常にむずかしい問題ではあろうと思います。しかし、これはせっかくの御意見でございますから、そういう御要望のありましたことを、審議会の皆さんに私は伝えてまいりたい。  なお、私といたしましては、あるいはこの国会中に答申がいただけない場合にも、その時点において、審議会で一体どういう論議がなされたか、その経過なりあるいはその問題点等を御報告を申し上げるような機会を得たいということで、御了承をいただきたいと思います。
  119. 矢野絢也

    ○矢野委員 いまの御発言も私はきわめて重要な御発言だと思います。また、八月までに答申を得たい、それはそのあとの腹づもりがあるからだ云々というお話も、私は重要だと思うわけでありますが、いずれにしても、この児童手当の問題は、総理は残念であるという表現を使っておられますけれども、私はこれは申しわけないという表現に直すべきだと思うのです。それはそれとして、そういう重大な約束違反があったというこの事実を背景にして私たちは伺っておるわけです。ですから、いま厚生大臣が児童手当実現のためのいわば重大な決意を披瀝された。これについて、総理あるいは大蔵大臣が、またその時期になって冷たい顔をされたのでは、せっかくの厚生大臣の御決意がこれまた孤立してしまうという意味で、総理並びに大蔵大臣に、厚生大臣のいまの御意見に対するお考えを聞かしてもらいたい。まず大蔵大臣から聞かしてもらいたい。
  120. 福田一

    福田国務大臣 先ほど申し上げましたように、答申が出ましたならば、これを慎重に前向きで検討したい、かように考えます。これは財政当局とすると、なかなか重大問題なんです。完全実施いたしますと九千億円の金がかかる。これは幾らか制限をするという答申になると思いますが、それにいたしましても、その費用を何ぴとが負担するか、こういうことで、かなりむずかしい問題もあります。しかし、何とかこれが実現するように鋭意努力をしていきたい、かように考えます。
  121. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 ただいま大蔵大臣からお答えしたのでもうよろしいかと思いますが、私はどうも児童手当、児童手当といわれながらも、それぞれが頭のうちに描いている児童手当が、なかなか意見が一致しないんじゃないか、かようにまだ思っております。そういう点が審議会で一番問題になっておるのだ。またその児童手当はどういうような——第一子からとかあるいは第二子、第三子からとか、こういうところが、どこから始めるかというようなことも議論があるようですし、ただいま大蔵大臣が言っているように負担個所、それらの点についてもいろいろまだ意見がまとまっておらないのであります。したがいまして、この審議会等がなかなか結論を出しかねておるんじゃないか、かように思います。しかし、もうすでにこの国会における論議は非常に進んでおりますから、またこの国会におきましても、他の機会においても皆さん方からも建設的な意見が必ず述べられるだろうと思いますので、いわゆる追及という意味でなしに、建設的な御意見も十分聞かしていただいて、そうしてただいまのような意見の統一をはかって関係者が納得するように、そうしてこの児童手当の実現をはかるべきじゃないか、かように私も思っております。まあ、とにかく前向きで政府はそういう問題と取り組んでまいりますから、その意味でどうか御遠慮なしにいろいろの御意見を聞かしていただきたいと思います。
  122. 矢野絢也

    ○矢野委員 まあ、遠慮なしにと別に言ってもらわなくても、こちらは遠慮なしに言わしていただきますけれども……。幸い厚生大臣のほうから、今国会中にもし答申がまとまらない、こういうときには中間報告、こういう形でそれを求めて、そして国会にその骨子を出す、こういうお話がございました。確かにいま総理が言われたとおり、児童手当の内容については、これからが私は大きな議論の問題だと思うわけです。私たちは、いまどうやら政府で考えておられる児童手当の内容とはいささか考えが違う。全部のお子さまにという考え方を持っておる。そういうわけでありますから、そういう意味でも、この中間報告あるいはその骨子をこの国会出して、いま総理がおっしゃった与野党の議論というものを煮詰めていく、これは非常に大事なことだと思います。いずれにしてもことしは実現できなかった、何としてでも来年実現をするためのひとつ今後一そうの努力と決意をお願い申し上げたい、このように思うわけであります。  そこで、児童手当問題はこのくらいにしておきますが、次にお尋ねをしたいのは、繊維の輸出規制、この問題であります。まあ児童手当あるいは繊維の自主規制問題、この具体的な、しかもなまなましい話題ばかりをいきなりお尋ねをするようでありますけれども、私はこの繊維の輸入規制、これは単に繊維業界だけの問題だとは思っておりません。もちろんこの輸入規制は、わが国の繊維業界をゆさぶる大問題であります。特に中小企業あるいはそこに働く百九十万の人々、あるいはそれに関係する九百万人の人々の死活にかかわる重大な問題であります。経済問題としても、これはきわめて重大なんです。それとともに、私はこの繊維問題は、今日わが国が置かれておる国際的な位置、特に日米間の外交上の位置というものを、きわめて象徴的にあらわしているんじゃないかと思うわけです。と申しますのは、たとえば日米共同声明、この一つ一つの条文を分析をいたしまして、そしてこれはおかしい、あれはおかしい、そういう質問も私はいたしたいと思います。また、後日同僚の正木外交委員長からも、安保、沖繩問題について質問する予定でありますけれども、私はこの外交問題との関連において繊維問題を取り上げるのは、いま申し上げたとおり、今日の自民党政府がいろいろな意味でがんじがらめになっておる、そして後ほどお尋ねしますが、中国問題の打開にも大きな妨げになっておる、この日米間のしこりといいますか、いろいろな問題、これがこの繊維問題に非常にあらわれておる、そういう意味で私はお尋ねをしたいわけであります。  そこで、この繊維問題は、御承知のとおり、六八年の八月二十二日、ニクソン大統領が選挙戦の最中に上院議員のサーモンド議員に電報を打った。当選の暁には、綿製品の長期協定の運用改善とともに、毛製品あるいは化学繊維、こういったものを含む全繊維品に対しても長期協定を拡大適用したい、すみやかに処理する、こういう意味の電報を打っておられるわけであります。大体繊維問題が大きな政治問題になってきたのはこの辺からでありますけれども、大統領選挙における候補者が、みずからの国内問題について何を約束しようと、どういう政策を述べようと、これはかってでしょう。しかし、国際問題、特に他国を拘束するような問題について、それを公約としておられる、こうなると、この他国、つまり日本が非常に迷惑をするわけであります。いやな言い方になりますけれども、今日の日本政府の繊維の輸入規制に対する姿勢は、あたかもニクソン大統領の選挙中の公約を何とかお手伝いをして果たしてやろう、こういうふうにも受け取れるわけでありますけれども、この点はどうでしょうか。
  123. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 繊維交渉につきましては、いろいろの疑問を投げかけ、疑惑を持たれております。その一つは、ただいま御指摘になったように、アメリカ国内問題、その選挙中の公約を日本政府が手助けするのじゃないのか。もう一つは、ついでに申しますが、沖繩問題と取引をしたのじゃないのか、こういうようなお話がございます。いずれも当を待ておりません。私は、両国の間の関係は密接な上にも密接で、友好関係はぜひ続けていきたいという、これこそ終わりのないつき合いじゃないかと思います。一つこれでもう済んだという——エンドレスなつき合いが必要なんじゃないか、かように思っております。そこで、一番大事な問題というか、大きな問題は、これは民族的に普通領土問題だといわれております。北方領土はいまだに解決をいたしませんが、南方、沖繩の問題、一番国家的にあるいは民族的にも大事な領土問題が実は解決できる。これができた以上、私は貿易の問題のしかもその一つの品種について話し合いができないというようなことがあってはならない、かように思うのです。これが解決されるということを心から望んでおりますが、それだからといって、私自身が繊維関係についてはしろうと——くろうとじゃございませんから、こういうような条件で解決するとかいうようなことでなしに、私は両国間の親善友好関係を続けていくためにも懸案事項を残さないという、そういう態度が望ましい、かように思って、私ども佐藤政府は、いろいろそういう意味で通産大臣にもその点を率直に話をしております。外交問題も同様であります。この実態そのものはなかなか複雑なようであります。過去における綿製品協定、その後私が出かけて毛製品についての話し合いがジョンソン前大統領からありましたときとは、模様が違っておるようであります。これらの具体的な処置の問題等については、さらにこの上とも国益に反しないように、またわが国の産業に大打撃を与えないように私どもも考えていかなければならぬと思っております。  ただいま申し上げますように、両国間の問題は、とにかく一番むずかしい領土問題すら解決できるんだ、そういう間柄なんだから、こういう問題については、これはもう忌憚のない話し合いをして、そうして懸案として残さないようにする、これが最も大事じゃないか、かように私は思っております。
  124. 矢野絢也

    ○矢野委員 お話は、総理のお話の範囲内では非常にもっともだと思うのですよ。しかし、懸案を残さないといいましても、あんまり無原則な処理のしかたは、これはあとにおかしな別な意味の大きな懸案を残してしまうことになる。あるいは日米間が持続的に続いていくんだと言われても、今回のこの繊維交渉——総理が私はしろうとだと言われたけれども、私もしろうとですけれども、しろうとの私が見ておりまして、明らかにアメリカ日本に対する態度は高圧的ですよ。オーバーな言い方をすれば、脅迫的ですらある。たとえば包括的輸出規制か、あるいはまた一方的な輸入制限立法か、こういうようなそのいずれかを選べ。こんなこともかつて言ったことがある。いずれにしても高圧的な印象はぬぐい切れない。それに対して政府は、わが国国民が、これでは困るんだ、この繊維問題が輸出規制をされるとわが国の繊維が困るんだ、それに対してこういう高圧的なやり方をされたのじゃ腹立たしくなってくるという、この日本国民感情をもっと率直にアメリカに説明をする。それがむしろ総理の言われる日米関係をもっと持続的に友好関係を保つという目的にも合致するのではないか。そういう意味において、懸案を残すことは好ましくないと言われるけれども、これはやはり筋は通さなくてはならない、こう思うのでありますけれども、いかがでございましょうか。
  125. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 もちろん、私は、衆議院の本会議においてすら決議されておる、そういうワクを踏みはずして、そうして話をつけろというのではありません。また、この種の問題はガットという国際機関がございますから、そういうものも十分その本来の軌道には守っていかなければならぬ、かように思っております。したがって、私が解決すると申しましても、自由濶達に実は解決ができるような状態ではない。ただいま申しますように、私自身日本総理でございますし、国権の最高機関である国会の決議を無視してどうこうというようなことはできませんし、またガットのそれぞれの取りきめもございますから、そういう範囲内、そのワク内において話のつく問題じゃないか、かように私は申しておるのです。
  126. 矢野絢也

    ○矢野委員 このガットの問題につきましては後ほどお尋ねをするとして、とにかくここで私が申し上げたいことは、この繊維問題について早期解決をはかろうという姿勢が明らかに日本政府に見られるわけです。先ほども、私はニクソン大統領と、いうところの密約などはやっておらないという御説明がございました。私はその場に立ち会ったわけではないから、それについては断定する根拠はないけれども、少なくとも早期解決については約束をしてあるようだ。しかも、その後の政府のいろんな説明を聞いておりますと、あるいはまた動きを見ておりますと、早期解決をやりたいという印象を受けるのです。これはもう理屈の上から考えて、頭からアメリカの一方的なゴリ押しだ。こういう問題について、なぜもっとどっしりとかまえて交渉をしてくださらないか。早期解決なんか口にする必要もないし、そんな動きをする必要もない、私はそう思うのですけれども、この早期解決という姿勢は、この際捨てられたらどうかと思うのですが、いかがでございましょう。
  127. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私は、先ほど基本的な態度を申しましたように、こういう事柄はいつまでも引っぱるべき筋のものじゃない、早期に解決すべき問題だ、かように思ってただいま取り組んでおる、この点は誤解のないようにお願いしておきます。
  128. 矢野絢也

    ○矢野委員 早期に解決をすべきだ、こう言われるわけでありますが、すべきであろうとするであろうと、いずれにしても、そんなことをすれば、ますますアメリカに足元を見られるばかりです。現に一昨日ですか、ジュネーブにおける繊維交渉、これについてアメリカは拒否という通達をしてきておる。これなんか明らかに理不尽な言い方だと私は思うのです。これはやはり、そういう日本政府の早期解決をすべきだというお考えに足元を見られる一つの原因があるのじゃないかと私は思うわけです。ですから、あまりあわてないほうがいいと私は思う。くどいようですけれども、じっくりかまえてやるべきです。この問題はお返事がなくてもよろしい。  そこで、たとえば二月四日のワシントン発の毎日新聞の特派員の電報によれば、スタンズ商務長官はこう言っておられる。「よその国」——これは日本のことでしょう。「よその国が米国の繊維産業の窮状に理解を示してきたので、二、三カ月中に解決に持込めるのではないかと思う」こういうことをスタンズ商務長官が言っておられるわけでありますけれども、二、三カ月という具体的なあれが出ておるわけです。これはアメリカ側の一方的な言い方だと言ってしまえばそれまででありますけれども、早期解決をすべきだという総理のいまのことばと、二、三カ月という、このことばとは関係があるでしょうか。つまり二、三カ月中に解決するというお気持ちなんでしょうか。この点ちょっとお聞かせを願いたい。
  129. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私もあるアメリカの雑誌社とインタビューして、そうしてめでたい万博までには何とか解決すべきだ、されればけっこうだ、こういう話を実はいたしております。それと別にスタンズ長官と相談をして、ただいまのような発言をしたわけではありません。ただ私は、どこまでも、先ほどから申しますように、日米間、これは友好親善であるべき両国だ、その間に懸案事項は残さないように努力すべきが本来の好ましい姿だ、かように思っております。ただそのことだけを申し上げておきます。
  130. 矢野絢也

    ○矢野委員 日米間に懸案を残さないということをあまりおっしゃると、日米間にはもっと不備な懸案がある。これは日本の中における基地だ。少なくともわが国の主権下における領土の中に外国の基地がある。これは総理が言っておられる日米間に懸案を残さないということからいけば、こっちこそ先にやらなければいかぬという話になってくるわけです。きょう私はこれはテーマにしておりませんからあまり深くは言いませんけれども、あまりそういうことばは使わないほうがよろしい。ほかにもいろいろ日米間の懸案があります。もっと解決を急ぐべき懸案がたくさんある。この繊維問題は、わが国の利害からいけば、何もあわてて解決を必要とする懸案じゃないのです。こういう懸案を何も早期解決をすべきだなんて言う必要はない。もっとほかにやってもらわなければいかぬことがたくさんあるのです。ですから、そういう言い方は、そういうからみになってくるわけでありますから……。これはこういうことでいいでしょう。  そこで例の下田大使、しばしば問題発言をされて、本予算委員会においても話題になる有名人物でありますけれども、この繊維問題についても問題発言をしておられる。といいますのは、アメリカ日本の姿勢、これはくみしやすし、このように判断して非常に高圧的な態度をとっておるわけでありますけれども、それには政府の早期解決の姿勢もあります。しかしもう一つは、下田さんのアメリカにおけるいろいろな言動がそのような原因になっておるわけです。たとえば、わが国政府も、これは最悪の案であるとして断わった。つまりアメリカの第三次提案を断わるという訓令を、これは通産省と外務省が相談をされて、たしか一月の上旬だったと私は記憶しておりますが、そういう訓令を通産省、外務省相談の上で下田大使にされているわけであります。ところが、その訓令を受けたあとで下田さんは——訓令は断わるという訓令です。ところが、そのあとで下田さんは、この第二次提案はアメリカ側で包括的なワクをはずしておるのだ、基準年次も繰り上げておるのだ、かなり日本側の要求をのんでいるんだ、だからこれをやはり交渉の基礎にすべきだ、なぜこれを交渉の基礎にしないんだろうかというように、明らかに訓令に反する記者会見の談話を発表しておるわけです。こんなことを言ったんじゃ、幾ら日本政府がわが国の利害の立場に立ってアメリカと交渉しようとしてやっておっても、現地のわが国の代表者がそれを批判しておるわけです。こんな第二次提案を断わるのはおかしいという意味のことを公の席上で下田大使が言っておられる。こういうようなことでは——これは繊維問題にとどまらず、もうかねてからいろいろケースがございましたけれども、今回のこの発言も、私は重大な発言だ、訓令無視だ、こう思うわけでありますけれども、これはひとつ外務大臣の御意見を聞かしてもらいたいと思います。
  131. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 繊維問題につきましては、ただいま総理から詳細にお答えがございましたが、アメリカ側としても、俗なことばでいえばなかなか執念が深い態度であり、また、なかなか強い意見を持っております。政府といたしましては、日米間の友好関係というものももちろん大切なことでありますが、筋目の立ったことでなければ話し合いの決着というものはつけることはできないということで、ずっとそういう態度をかたく守っておるわけでございます。私から見ますと、そういう基本的な姿勢について、あるいは日本における本件に対する官民とも、関係者あるいは国民的な関心の深いことについては、下田大使は現地におきまして実によく健闘していてくれると思っております。微に入り細にわたりまして、日本立場あるいは見解というものを随時随所においてアメリカ側に対しましては大いに論陣を展開し、また折衝に当たっておる。たまたまただいま御指摘の点は、一月の某日におけるワシントンでの邦人記者との会見において行なわれた話が、多少誇大に日本新聞に報道されたうらみがございますけれども、これは日米間の親善関係ということからいって、何とか話をつけたい、こういうふうな気持ちを持っている、その気持ちがにじみ出た、それが多少誇大に伝えられたのではなかろうかと考えておるわけでございまして、訓令違反どころか、訓令は一二〇%に執行している、こういうふうに私は確信を持っておるわけでございますから、どうかそれらの点については御理解をいただきたいと思います。
  132. 矢野絢也

    ○矢野委員 外務大臣、そんなこと言っておったんじゃ、部下の統率はできないですよ。第二次提案を拒否するという訓令を出しておきながら、それと逆のことを——あなたは誇大だと言われたけれども、誇大であろうとどうであろうと、逆のことを記者会見ではしゃべる。こんな不届きな大使がありますか。  私は通産大臣に申し上げたいんですけれども、この訓令は外務省と通産省が合議してきめられたと聞いております。外務省はともかくとしても、通産省は百九十万の繊維業界で働く人々の生活を預かっている重大な責任がある。そういう責任に立って通産省はものごとを処理しておられるはずです。ところが、出先の大使がこういうようなことを言っておるんです。通産大臣としてどう思われますか。
  133. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 ただいま外務大臣の言われましたとおり、大使の立場は、アメリカ側に対しては日本側の立場を強く訴える、また日本に向かってはアメリカ側の立場を紹介する、こういうのが任務でございます。アメリカ側に訴えておる部分は外交の部分でございますから、よそにあらわれません。日本に向かって話していることだけが出ますので、そちらだけが少し目につきやすいということは、これはありそうなことだと思います。
  134. 矢野絢也

    ○矢野委員 通産大臣がもう少しおこらないかぬですよ、ほんとうに。冗談じゃないですよ、そんな。いつの間に外務大臣になったつもりでものを言っているんですか。あなたは繊維業者の立場に立ってものを言わなくてはならないんです。何も外務省の立場でものを言う必要はない。この問題については、後ほどもう一ぺん問題にしたいと思います。  そこで、これは通産大臣に伺いたいのですけれどもアメリカ側はこの十九日に回答をよこしてきた。繊維の被害の問題についての討論、質疑、そのためにジュネーブで予備会議を開くことはできない、日本側に対してはこの段階で輸入制限についての対案を要求する、こういう内容であったと聞いておるわけです。この十九日の回答の内容並びにこういうアメリカの回答に対する通産省の考え、これはどうなっているか、お聞かせを願いたい。
  135. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 外交文書でございますから概要だけを申し上げますと、先般アメリカ側が提出した資料についての説明をすることについては異存がない、しかしそのためにジュネーブに行く必要はないと考える、先ほどお述べになりましたアメリカの提案に対して日本側がこれを受諾するか、あるいはそれに対する適当な対案を示してもらいたい、概要こういうことでございます。  そこで、私どもいまどうするか検討をいたしておりますが、いずれにいたしましても、資料についてもう少しいろいろ明らかにする必要があると、こう考えております。
  136. 矢野絢也

    ○矢野委員 少なくとも新聞で見る限り、あるいはまたいまの大臣の御答弁を聞く限りでは、これは一種の経済戦争の宣戦布告みたいなものです、さっき言いましたように。おまえの言うことは聞けない、つまり、日本が言っていることは決してむちゃ言ってないですよ、ガットのルールによってやりましょうと、こう言っておるわけでしょう。だから、被害の状況を立証してもらいたい。あたりまえの話です。それに対して、この被害の問題について、その話し合いをするためにジュネーブへ行くのはいやだ。そして包括的な、自主的な輸入規制かあるいはアメリカにおける輸入規制、立法だ、こういうことではおどかしですよ。通産大臣に決意を聞きたいのですけれども、あくまでもガットのルールによる繊維交渉、この立場を堅持されるつもりであるかどうか、これについてお考えを聞きたい。
  137. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 政府としてはそういたすべきものと考えます。
  138. 矢野絢也

    ○矢野委員 今日までの日米間の繊維交渉、この途中においてアメリカはいろんなことを言っておるわけです。たとえば一つは、米国は日本からの輸入、これはもうどんどんふえてきておるから、アメリカの繊維産業が非常に被害が出ておる、だから困るんだ。これも理由の一つです。あるいはニクソン大統領が選挙で公約しておる、これはニクソン大統領の決意なんだ、だから日本としても何とか聞くべきだ、そういう理由もあるようです。あるいはまた、アメリカ国内で、この貿易についての保護貿易主義者、こういう議員さんがたくさんおられる。こういう方が非常にやかましく動いておられるということも聞いております。あるいはまた黒人問題とも関係があるということも聞きました。つまり、アメリカの繊維業者は南部に多い。ところが、繊維業界が不況になると黒人の人々が南部から都市へ入ってくる。それではアメリカの社会問題になる。だからひとつ日本も輸出規制をしてもらいたい。いろいろな理由があるようであります。今後立証を必要とするかもわかりませんけれどもアメリカのいろいろな言い分の中で、一体わが国にそういう要求をするどういう正当な理由がアメリカ側にあるか。通産大臣はこの交渉をやっておられるわけでありますけれども、この点について大臣の見解を聞きたいと思います。
  139. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 私どもが、政府としてこれはもっともだと考え得る理由があるといたしますと、それはわが国からの輸出が原因になって、アメリカの同種の物を生産する産業に大きな被害を与え、または被害を与えるおそれが生じておる、こういう場合を正当なケースだというふうに考えます。
  140. 矢野絢也

    ○矢野委員 いまの大臣のお話だと、そのケースがあるかないかについては、まだ確認はしておらないという意味でございますね。もしあるとすればということですね。それはよろしいです。  そこで、アメリカから二十八品目に関する資料の提示が日本政府にございましたね。おそらくこれを検討されたと思います。検討された結果、なるほどアメリカの繊維業界にこの品目については被害を与えておる、アメリカから提示された資料について、なるほどこれは被害が出ておる、そういう判断をされた品目がございましたですか。あったらそれを言ってください。
  141. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 にわかにそのようには判断ができませんので、追加の資料なり説明なりを求めておるわけでございます。
  142. 矢野絢也

    ○矢野委員 私も、専門家に聞いた限りでは、この二十八品目に関する資料、これではアメリカの業界に被害が出ておるということは立証できない、これは了解しておるわけでございます。大臣も、いまの資料じゃわからないから、さらに資料を要求しておるとのことであります。そこで、よけいな話でありますけれども、商務省の統計を私取り寄せて見たわけでありますけれども、六九年におけるアメリカの全繊維の全世界からの輸入は、一月から六月が対前年比で二三・四%ふえておる。七月から十二月が六・二%増。これは上期よりも下期は下がっておるわけです。輸入は年間で九・七%増なんです。一方、米国の繊維産業の売り上げは、前年同期に比べて九・〇%伸びておるわけです。輸入の増と売り上げの増が大体見合っておるわけです。その他いろいろなデータがございますけれども、少なくとも、私たちがアメリカの商務省の統計などによって調べましても、アメリカ日本の繊維業界の輸出によって明らかに被害を受けておるということは、アメリカ日本に対して立証できない、私はこう思っておるのですけれども、通産大臣は、アメリカが被害を受けておると思われますか。あるいは被害はないけれども、ああいう無理を言っておるのだと思われますか。この点はどうですか。その辺からはっきりしてもらわないことには、話が進まぬ。
  143. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 概観して申しますと、私はアメリカの繊維業界は決して不況にあるとは考えないわけでございます。ただ御承知のように、ガットのルールでまいりますと、業界全体というようなことは問題になるのではございませんで、個々の品目、品物について、それが外国からの輸入により、それをつくっておる業界に実害を与えるかどうかということが問題になるわけでございます。
  144. 矢野絢也

    ○矢野委員 これは万が一ということでありますけれどもアメリカの言い分のとおりこの規制が行なわれるとした場合、わが国の繊維業界にどういうような影響が出てくるか。これは当然通産大臣としていろいろ御検討されておると思います。少なくとも新聞の報ずるところでは、もう規制がされてない前から、福井県だとか石川県ではメーカーあるいは商社からの受註が激減しておる。そして工員も見切りをつけてよそに行かなければならぬというような動きを見せてきて、たいへんな混乱がすでに起こってきておるわけです。アメリカに対する輸出ができない。すると国内でダンピングが行なわれる。やらざるを得ない。すると国内の繊維の市場も大混乱になる。すると逆に外国から足元を見られて、また買いたたかれる。これは、私は経済のしろうとですけれども、単純に考えても、そういう大きな被害が予想されるわけです。もしもこの輸出規制をやったならば、日本の繊維業界はどういう状態になるか、通産大臣の見通しをお聞かせ願いたい。
  145. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 ただいま産地にややそういう状態が生まれておりまして、これは私ども非常に心配をしておりますが、一種の思惑から生じたことのように思われます。現実に規制という問題はないのでございますけれども、そういうことが起こっておることは非常にお気の毒で、私ども心配をしております。  御質問の本体でございますが、それはもうまことに仮定のことでございますし、しかも規制というものは、かりに行なわれるといたしましても、具体的な品目についてのみ行なわれるはずのものでございますから、それを一々ケースをあげて申し上げることは困難でございます。
  146. 矢野絢也

    ○矢野委員 一々ケースをあげて御説明せられるのは困難だ、これは了解しましょう。しかし、まさかよくなるとは思ってないでしょう。日本の繊維業界が大打撃を受けることは間違いない。これだけははっきりしておかなければいかぬ。あるいは韓国、あるいは台湾、あるいは香港などとの関係も、この繊維問題で重大な問題が出てくるはずです。あまり専門的なことに立ち入りたくありませんけれども、私はそのようにこれが行なわれたならば日本の業界に大打撃が起こると思う。御承知なのに、宮澤さんは業界に対して盛んに説得をしておられる。説得するのは外務省なりアメリカをまずあなたが説得すべきなんです。一生懸命業界を回って、何とかこれをひとつしんぼうしてもらいたい、これは通産大臣としての職務がさかさまになっておるのではないかと私は思う。そういう関係者の生活を守っていくのだという立場に立って説得をすべきです。ところが、その被害を受ける人に対してしんぼうしろよという説得をする。どういう御心境でやっておられるのか、お聞かせを願いたい。
  147. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 しんぼうしなさいというような説得をいたしたことはないのでございます。通産大臣であると同時に、国務大臣でございますから、全体の問題についても考えなければなりません。そのことについても業界にお話をし、また業界側のお話も聞いておる、こういうのが現状でございます。
  148. 矢野絢也

    ○矢野委員 宮澤さんは大臣に御就任になったときに、この繊維問題は富樫の心境だなんということをお話しされたことがあるらしい。さすがは文学的な表現力が豊かだと思って私も感心したわけです。つまり富樫というのは、安宅の関で弁慶が勧進帳を読んだ。その勧進帳にはいろいろなことが書いてあるはずだ。つまり被害の立証ということが書いてあらねばならない。ところが書いてない。それに目をつぶって、あえてそれを通してあげる、こういうことでおそらく宮澤さんは富樫の心境だと、こう言われたのだと、私はこれはよけいな推測をしておるわけでありますけれども、そこで、いずれにしても無理は承知だが、あえてこれはやらねばならないというのが大臣の御心境じゃないかと言いたいわけなんです。  そこで、お聞きしたいのでありますけれども、ガットのルールによらないで、つまり被害の立証もなく、要するに、二国間のいろいろな話し合い、アメリカの要求するようなやり方で話し合いが行なわれていく。言うなればアメリカの一方的な圧力で万が一自主規制が行なわれるとした場合、これは政治的な要素によって、この経済の問題がすりかえられた。経済問題が政治的要素によってすりかえられ、政治的要素が経済問題に優先しておると思うわけでありますけれども、これは前提があります。ガットルールによらないで、つまり被害の立証もなく、二国間だけの話し合いでかりに輸出規制が自主的に行なわれるとした場合、これは経済ルールよりも政治ルールが優先したと思うわけでありますけれども、その辺はどうでしょうか。
  149. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 政府としては、ガットのルールにもとるような形で問題を解決するつもりはございません。  後段言われましたことは、政と経とはなかなか分けられないではないかというのが、昨日からのいろいろお話でもございますが、この場合にも、そういう要素は多少はあろうと思います。
  150. 矢野絢也

    ○矢野委員 政治的ということばはあまりお好きじゃないようですから、要するに、ことばをかえれば、経済的な理由よりも経済外的な理由がかなりこの繊維問題には大きく入ってきておる、このように思うわけです。おそらく宮澤さんのお話もそういうことだろうと私はいま了解したわけであります。  そこで、将来の問題でありますけれども、この輸出規制をかりにされるときまったとき、そのための何らかの国内法は制定されるおつもりですか。あるいは、制定されないのであれば、どの法規によって輸出の規制をされるおつもりなのか、この辺についてお聞きしたいと思う。
  151. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 そういう事態まで考えておりませんので、ちょっと先のことは申し上げにくうございますが、いずれにしても、私どもがいま考えておりますのは自主規制でございますから、業界の理解による規制、こういうことであろうと思うのでございます。
  152. 矢野絢也

    ○矢野委員 たとえば、輸出貿易管理令というのがございますね、一条の六項。いつもココムなんかはこれで通産大臣が削っておられるわけですよ。これによっておやりになるのか、あるいはそのための独自の国内法をつくられるのかとお尋ねしておるわけです。
  153. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 貿易管理令がこの場合適当であるかどうかという法理論はともかくといたしまして、私は、こういう種類の規制は、文字どおり自主規制であるべきであって、業界の自発的な努力によって行なわれるのが本筋ではないか、もし行なうといたしますれば。これは「れば」でございます——と考えます。
  154. 矢野絢也

    ○矢野委員 それはきわめて非現実的な話をあなたはこの席上でしておられるのです。まあ輸出貿易管理令一条六項であるか別の国内法であるか、これは別にして、そういう法律を用いないで、業界が自主的に輸出を規制せいなんて、そんなむちゃなことを、大臣、言ったらいけません。それを期待するというのはけっこうですけれども、そんなことが実際に行なわれるはずがない。これはいいです。  私がお尋ねしたいと思いますことは、これは後ほどお尋ねする中国問題にも関連が出てくるわけでありますけれども、昨年の七月——これはまだ宮澤さんにお尋ねするのですよ、いわゆるココム事件判決というのがありましたね。これは一九六九年の北京・上海日本工業展覧会、これが原告です。例の日工展の出品について、通産大臣が——あなたじゃない、前の方だ。輸出貿易管理令一条六項の規定によってこれの輸出を認めなかった。これについての訴えですね。その判決は、長くなりますから簡単に申し上げますけれども、いずれにしても、経済外的理由による輸出制限は、この輸出貿易管理令の一条六項に違反するとはっきり書いてあるわけです。ただ、この判決は、それを担当するお役人の注意力の問題という点に触れまして、だから損害賠償責任はないということになっておりますけれども、いずれにしても、経済外的理由によって輸出を規制することは法律違反だという判決が出ておるわけです。これはココムに関しての判決ですよ。しかし、ココムであろうが何であろうが、そのよりどころとなっておる法律は、輸出貿易管理令の一条六項、そこで通産省は規制しておられるわけです。これは私がこんなことをくどくど言わなくても、もう御承知のとおりなんです。そうすると、経済外的理由、まあこれはなかなか味わいのあることばでありますけれども、要するに、経済的理由でないそれ以外の理由によって輸出を規制する、これはできないといっておられるわけでありますが、私が言いたいことは、この繊維の輸出規制も——これは確かに判断が分かれると思います。政治的であるのかあるいは経済的であるのか、あるいは経済的理由が重きをなしておるのか、経済外的理由によってこの繊維の輸出規制が行なわれるのか、これは政府と私たちの間では意見が分かれると思いますよ。しかし、私たちはどうもこの繊維の輸出規制については政治的な要素が強過ぎる。少なくとも被害の立証ぐらいは明確にさせなければ、これは経済的理由とは私は言えない。宮澤さんもガットのルールでやるのだと言っておられるから、おそらく、とことんまで被害の立証を要求されるおつもりだ、そしていわゆるガットの十九条で、被害があればジュネーブでやりましょう、こういう態度を貫くおつもりだと私は思いますけれども、この事件の判決はやっぱりよく知っておいてもらわなくちゃいかぬと私は思う。これは一部の人は、輸出規制が行なわれたら、訴訟を起こすと言っておりますよ。私もある弁護士に聞きました。これは十分勝ち得る要素があると言っておりますよ。いろいろほかにも判例がある。万が一輸出規制をおやりになって、裁判が起こって、それで負けたらこれはもう重大な問題になってきます。  まあ、私の意見を長々と述べたわけでありますけれども、そういう意味で、先ほど国内法を別に制定されるのかあるいは輸出貿易管理令でおやりになるのかということをお尋ねした、あるいは経済外的理由なのかということをお尋ねしたわけであります。本日、私はここでこれが違法であるかどうかを詰めようと思いません。しかし、その可能性があるのだ、すでにその判決も出ておるのだということだけは承知しておいてもらいたい。この点についての通産大臣のお考えを最後に承りたいと思う。
  155. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 御指摘になりました判決は、東京地方裁判所の判決でございますが、この案件は政府が勝訴をいたしたわけでございます。で、ただいま言われましたような点は、したがって、私どもは、判決の主たる部分ではなくて、地方裁判所がこの問題に関連して示した一つのかたわらの意見、こういうふうに考えております。そこで政府は、当時の通産大臣が閣議に対しまして、このココムという問題は、政治的な要素はもちろんないとは申しませんけれども、本来が経済問題でありますから、裁判所の意見にかかわらず、政府は、これは経済問題であって、貿易管理令が適用されていることは、政府としては誤りでないと考える、こういう報告を閣議にしておる由でございます。  ただいまの繊維問題でございますが、先ほど申し上げましたように、政治的な要素が何がしかあることを私は否定をするものではございませんが、繊維の問題といえば、本来はやはり経済問題であろう、こう思っております。
  156. 矢野絢也

    ○矢野委員 繊維問題が非常に時間がかかりましたから、これぐらいで終わりたいと思いますけれども、これは後日もう一度お尋ねをしたいと思います。といいますことは、確かに繊維問題は経済問題ですよ。しかし、ガットのルールでやるか、つまりガットのルールで損害の立証というものをきちんとしてもらった上で、万が一この輸出規制が行なわれるというなら、私は、経済的要素が、少なくとも経済の論理というものがそこに働いておる、あるいは国際経済の論理というものがそこに働いておると思うのです。いま宮澤さんは、あくまでもガットでやるんだと言っておられるわけですから、その限りにおいては、私は異存はない。万が一、ガットのルールでなしに、二国間だけの話し合いで輸出規制をおやりになったならば、これは経済的要素じゃなくして、政治的要素だと私は言っている。経済外的理由による輸出の規制になると私は言っている。その場合は、確かにこの判決は、主文じゃない損害賠償のところでは、その責めは負わないということになっておりますから、これは勝訴でしょう。しかし、やはり輸出貿易管理令一条六項についての解釈としては、これは主たる文章ですよ。ですから、そんなわき役的な評価をしてもらっては私は困る。この問題は、このくらいにしておきます。  いずれにしても、最後に総理に伺いたいのですけれども、先ほどから、かなりしちめんどうくさい話をいろいろいたしましたが、あくまでもガットルールで、つまり、被害のないところには規制はないという立場を貫いて、十九日にはジュネーブへそんな被害のことで話し合いに行くのはいやだとアメリカはいっておりますけれども、そういうことには絶対応じない。ガットの場で、つまり国際経済上のしきたりなり、そういう慣例なり法律に従って正々堂々と被害を立証してもらってこの問題を処理する、こういう御決意であるかどうか、重ねて念を押したいと思うわけです。
  157. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 先ほどもお答えいたしましたように、国会の決議にもあることでありますし、ただいま外務大臣、通産大臣がお答えしたとおり、それぞれがよく連携を緊密にいたしまして、この問題の解決に努力しておる最中でございます。
  158. 矢野絢也

    ○矢野委員 次に進みたいと思います。  中国問題について伺いたいわけでございます。これは先日来からいろいろな角度から質問が行なわれておりまして、総理もそれぞれに御答弁をしておられるわけでありますが、いずれにしても、この中国問題は、七十年代のわが国の進路にとってきわめて重要な課題である。これについてのお考えは総理も同意見だと思います。わが党の場合は、安保の段階的解消を主張しておる。そして安保を解消するにあたっての対応条件——対応条件抜きで安保をやめるということは考えておらない、対応条件が要ると思っている。その対応条件の一つとして日中国交回復、これが最重要の対応条件であるとわが党は考えておるわけです。いずれにしても、日中問題の解決なくして七十年代は語れないと思います。そのため、あらゆる角度の日中打開のためのアプローチというものをやっていかなくてはならない、こう思います。  そこで、そのパイプの一つ、いわゆる日中覚え書き貿易協定、これが昨年の暮れに期限切れとなっておる。一体これはどうなるんだろうと私たちは心配しておった。幸い中国側から協議に応ずるという連絡が入ったやに聞いておりますけれども、三月早々延長交渉が行なわれるようになっておる。そこで、この日中覚え書き貿易協定の見通しは一体明るいのか暗いのか、どうなっておるのかということをひとつお聞かせ願いたいと思います。
  159. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 覚え書き貿易、これが北京政府から古井君に出てくるようにという、そういう連絡があって、最初予定したその日取りよりも一週間ばかりおくれております。しかし、とにかく出かけることになっております。これもこちらから押しかけてやるわけじゃございませんので、両国間のこの関係者の間の話し合いはできていると、かように思います。いろいろ困難な問題はあるだろうと思いますが、しかし、とにかく話はできるんじゃないだろうか、かように思いますし、また大先輩松村謙三さんもお出かけになる。八十五歳、たしかさように思いますが、老躯をひっさげてお出かけになるということでありますので、私はこういう事柄に期待をかけておるというのが現在の状況であります。いずれ、その話し合いの途中において、それぞれむずかしい問題にぶつかりましたら、それぞれの方が善処されるだろうし、政府もまた、こういう事柄について全然関心なしではおらないことでございますから、その辺は十分期待できるんじゃないだろうか。期待できるんじゃないだろうかというのは言い過ぎかわかりませんが、私は期待すると、かように申し上げる。
  160. 矢野絢也

    ○矢野委員 行っておられる方が善処されるであろうというようなことも言っておられますけれども、昨年も善処して、帰国後ずいぶん自民党内できついおしかりがあったようですね、古井さんたちに対して。中国には中国の言い分もあるわけでしょう。私は中国側の立場に立ってものを言っておるわけじゃございませんよ。もう少し中国に柔軟な姿勢がほしい、そう思っているのは、多くの人がそう思っておる。  それはそうとして、しかし、実際交渉に行く古井代議士や、いま総理が言われた松村さん、こういった方々が、昨年に比べて非常にことしはより以上条件が悪い、きわめて悲観的な見通しを持っておられるようです。昨年の場合も、中国側は一貫して、佐藤内閣の中国敵視政策、安保の侵略性、こういったことを強く非難した。それに対して古井さんが何らかのコメントをされたということですね。そして、日本に帰ってきたら、ずいぶんおこられたということだけれど、せんだって総理は古井さんに会われたそうですね、交渉再開に応ずるという中国からの連絡があったすぐあとに。おそらく古井さんからいろいろ具体的な条件について総理の腹を打診されたと思います。新聞の報ずるところによれば、政経分離政策、これを変更するかどうか、吉田書簡の廃棄はどうか、日中航空路開設はどうか、あるいは中国人の出入国管理の緩和はどうか、ココムリストの弾力的運用はどうかというようなことについて話し合いがあったやに聞いておりますけれども、交渉に臨まれる古井さんらに対して、総理はどのような腹をお話しになったのか、ひとつお聞かせを願いたいと思います。
  161. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 言われますものは、いわゆる佐藤内閣の中国敵視政策、私どもはさような考え方をしておりません。これはまた公明党におかれましても、竹入委員長は北京を訪問されるやに伺いますが、そういうことがあれば、わが国は、また佐藤内閣は一貫して敵視政策はしておらない、このことだけははっきり伝えていただきたいと思います。  また、その他の面で、何か具体的な問題で解決する前向きの方法はないか。これは、先ほどの江田君の質問のうちにもおみやげがあるかないかというようなお話がございました。具体的な問題はないようでありますが、しかし、そのうちでも比較的軽微な問題——これはしかし軽微ではない、このことが大事なことだと思いますが、この入国管理等についての手続その他については、在来よりか緩和する方向が望ましいのではないかと、こういうことで、それらの手続は外務大臣がお答えしたとおりであります。  一般的な問題で輸銀を使わせるかどうか、あるいは吉田書簡はどうかというような話がございました。あるいはまた、台湾の中華民国政府を一体どう考えるかというような話がありました。しかし、これはもうすでに説明して事足りておると思いますが、私どもは、サンフランシスコ講和条約以来、中国に対してその代表的な政府は台湾にある中華民国だと、こういうことではっきりして、国際的な権利義務を持っておる、こういうことで忠実にそれを果たしつつある、かように思います。しかし、最も中国として気になりますのは、二つの中国論に加担しておるのじゃないか、こういうことでありますが、私どもは二つの中国だとは思いません。これはどこまでも中国内部の問題だと、かように考えております。しかし、国民政府があると同町に、北京政府もあること、これは現実の問題としてそれを無視はできないんだと、かように思っております。しかし、これを承認するというようなことになれば、いわゆる二つの中国になる、かように思いますので、成田君や江田君との質疑応答でも、北京政府の認め方というような、認めるとかいうようなことばは使わないように、避けるようにと申したのも、実は二つの中国論にならないことを望んでおりますので、私どもさような考え方は持ってないからということをよく説明したつもりでございます。  なお、古井君が出かけるにつきましては、私も会いましたが、同時に直接外交の衝に当たっておる外務大臣ともいろいろ折衝し、ただいまの航空機の乗り入れ等の問題あるいは輸銀の使用等の問題についてもいろいろ話がありました。しかし、私から申し上げたことは、ただいままでとってきた原則的な態度は変わらないという、まあその一語に尽きるかと思いますが、そのもとにおいて私どもは善隣友好、ただいまの覚え書き貿易を中心にしての日中貿易の拡大を心から願う、こういうような気持ちでおります。
  162. 矢野絢也

    ○矢野委員 長々と御説明をいただいたわけでありますが、最初の、わが党の竹入委員長が訪中したときには、佐藤内閣は決して中国敵視はしておらぬと言っておいてくれという御依頼がございましたけれども、これはせっかくの御依頼だけれども、お断わりを申し上げます。これはやはり施政方針演説でかなり中国問題には熱意をだんだん示してこられたということぐらいは言えるかもわかりませんけれども、中国敵視はやめたとは、わが党の見解では、まだ評価できない。まあ、余談でありますけれども、せっかくの御依頼があったものですから、御返事をしておきます。  それから、二つの中国にならないよう云々という非常に興味のあるお話がございました。あたかも一つの中国論の立場に立って議論をおっしゃったように私は受け取れたわけでありますけれども、くどいようでありますけれども、二つの中国にならないようにというのは、これは一つの中国のお立場に立っておられるのですか。いまわが国は台湾と正式の国交があるわけです。一つの中国になった場合、その一つの中国の中に二つの正式政府が存在し得るはずがないわけであります。総理もこれは内政問題だとおっしゃった。そうすると、二つの中国にならないようにしたいが、台湾政府との正式な国交関係がある。この論理を進めていくと、いつまでたっても北京政府が承認できない。逆に言えば、北京政府を承認しようと思えば、台湾政府を否認しなくてはならないことになってしまうのじゃないかという心配があるわけです、いまの総理の論理から言えば。   〔藤枝委員長代理退席、委員長着席〕 あるいはまた、内政問題だから、台湾問題と北京問題、正式だろうが事実上だろうが、二つの政府があるが、この内政問題が解決するまで、つまり事実上一つになるまで北京政府の承認はやらないという意味なのか、この辺について重ねてひとつお答えを願いたい。
  163. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 これは私どもがとやかく言うことではございませんが、とにかく北京政府も中国は一つだといっているし、また台湾にある中華民国政府も中国は一つだと、かように申しております。このことばをそのままわれわれは受け取る、それより以上のことではございません。
  164. 矢野絢也

    ○矢野委員 確かに北京政府も台湾政府一つの中国論の立場だ。ただし、お互い相互否定的な関係においてですね。うちが正当なんだ、あちらはだめなんだという相互否定的な意味において一つの中国論になっておるわけです。わが国が、そういう相互否定的な立場において、北京がいっておるから、台湾がいっておるからといって、彼らのいっているとおりをそのまま言うのですよ。そんなことは全然論理的に成り立たないと私は思う。つまり、一つの中国の立場に立つのなら——まあ立つか立たないか、もう一度これは御答弁願わなくちゃならない。二つの中国にならないようにというお話が、一つの中国なのか、北京政府や台湾政府がいうのじゃなくして、わが国政府として一つの中国論という立場政府はお考えになっておるのかということ。その場合一つの中国論、たとえばどちらかの政権が、内政問題でありますから、否定されなくちゃならない。しかも、事実上は台湾との正式国交がある。その場合、北京との関係はいつまでたってもこれはできない。逆に言えば、北京を承認すれば、台湾を否認しなくちゃいかぬということになる。くどい話を何べんもするようですけれども、あるいは内政問題だから一つになるまでじっと見ておるということなのか、具体的にお尋ねをしておるわけでありますから、ひとつ具体的にお答えを願いたい。
  165. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 申すまでもなく、ただいま申すように、台湾も北京も、両方とも中国は一つだと、かように申しております。このことは私どもがどう考えようとも、これは動かすことのできない事実であります。そうしてわが国は、サンフランシスコ講和条約の際に、台湾にある中華民国を中国の代表者としてこれと講和条約を締結し、そして国際的な権利義務を負っておるというのが現状でございます。  しかしながら、台湾にある中華民国の施政は、中国全土には、また大陸には及んでおらない。そういう意味から、ただいま北京にある政府、そういう言い方をしておるわけであります。これでおわかりがいただけるかと思います。
  166. 矢野絢也

    ○矢野委員 ですから、二つの中国か、一つの中国か。
  167. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私どもは二つの中国を認めておるわけではない。しばしば言われますことは、台湾を認めた、中華民国を認めたことが、二つの中国論に加担しておる、かように言われますけれども、私どもの沿革的な経過から申して、サンフランシスコ条約から始まった経過をごらんになれば、私どもは台湾にある中華民国を代表者と認めている。これは厳たる事実であります、過去から続いておる事実であります。しかし、中国大陸にはその施政権が及んでおらない。これもまた厳然たる事実であります。そして中国大陸との修好、貿易は進めたいというのが、いまの気持ちであります。そこで、私どもは北京と相談をする、話し合う、これがただいまの状況であります。
  168. 矢野絢也

    ○矢野委員 結局もとどおりになっちゃったという印象なのですけれども、何だか二つの中国とならないようなんというお話をされるものだから、これは佐藤総理は重大決心でもされたのかと思って、それならもうちょっと明確に言ってもらったほうが、国民の方に明確な認識になるだろうと思ってお尋ねした。いろいろ聞いてみると、結局もとのとおりじゃありませんか。  それはそれとして、話がもとへ戻りますが、古井さんが昨年中国へ行ったときに、いろいろ中国の説明をされた。なかなかいろいろな議論があったようであります。そこで、中国はあと一年間日本政府態度を見守ろうと言ったそうです。これは新聞等にも報道されておる。そういうことで一年期間ということに昨年はなった。私は、くどいようですけれども、中国側の言い分すべてを正しいとしてお尋ねしておるわけではないのですけれども、少なくとも交渉に行く人の立場に立って考えたら、この一年間日本政府が中国との関係を改善する、日中和解の何らかの具体的な努力をするということがなければ、これはおそらく中国へ行かれても、確かにこれはたいへんなきびしい話し合いになるんじゃないかと思う。  そこで私は総理にお尋ねをしたい。並びに外務大臣にもお尋ねをしたいわけでありますけれども、この一年間、日本政府は対中国の関係において、これを改善するための何らかの努力をされたかどうか。これはまず外務大臣からひとつ具体的にお尋ねをしたい。
  169. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 ただいまも総理からお答えがありましたように、これは非常にむずかしい問題でございますが、率直に申しますと、昨年私ども一つ非常に心配した問題は、人道上の問題として、抑留邦人の問題がございました。こういう人道的な問題については、ともかくも何らかのパイプで政府間の接触を持ちたい、こう考えまして、努力をいたしたわけでございますが、さらに、これは本会議場でも申し上げましたとおり、第三国には、幸いにしてと申しますか、中共と日本と大使館を相互に持ち合っているところもかなりの数ございますし、それからだんだんと先方の外交姿勢というものも変わりつつあるようにも見受けられますし、大使館の人員等も、最近は徐々にではあるようでございますが、充実もしてきたようでもございますから、それらとにらみ合わせまして、第三国における大使館相互の接触が何とかできないものかと、この点につきましては、私どもとしては実は相当の試みといいますか、努力も積み上げてまいりました。ただいまのところは、まだ御報告を申し上げ得るような新しい事実は起こっておりませんけれども、しかし、私の考え方では、ともかくも一方において民間レベルの交流というものは、日本としては相当のものを持っておるわけでございますが、政府間といたしましても、何か話し合いの場ができれば、率直に先方の考え方態度や、あるいは誤解しておるところがあるとすれば、それも解けることがあるのではなかろうか。また、当方の考え方や姿勢に対しましても、私はただいまも総理がおっしゃるとおり、私自身も心からそう思っておりますが、敵視政策などということは全く考えてもおらぬわけでございますが、そういう点についても、こちらからも接触をして率直に話し合うことができるならば、これがまず第一に望ましいことではないだろうか、こういうふうに考えまして、その面の努力はいたしてまいりましたし、また今後もいたしたいと考えております。この接触ができないことには、私は幾らおいしそうなものを並べてみましても、これはやはり時期ではないと申しますか、現在においては適切ではないのではないだろうか、かように考えておるわけでございます。
  170. 矢野絢也

    ○矢野委員 いろいろと御説明がありましたが、接触の努力をしておられるということでありますけれども、なぜうまくいかないか、その辺の粛清を、外務大臣、何らかのお考えがあろうかと思うので、なぜこの接触がうまくいかないかお聞かせいただきたい。
  171. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 これは先方の事情や態勢ということは、昨日総理のお話もございましたように、率直に申しまして、的確に政府として掌握することがまだできないわけでございます。ですから、どうして接触をあまり先方としては望まない態度を示しているかというようなことについては、正確にはその原因、背景などはわかりませんけれども、やはりこうした非常に複雑な問題であり、また、これもざっくばらんに申しますれば、相当長い期間にわたって相互の誤解や不信もあったことでもございますから、やはりねばり強く、ある程度の時間をかけて、こうした努力を積み重ねていかなければならないのではないだろうか、かなりの時間がかかる、しかしここは大事なところだというふうに私は考えているわけでございます。
  172. 矢野絢也

    ○矢野委員 むしろ私はこの一年間振り返りましたときに、日中関係を改善する努力よりも、これを悪くする事件のほうが多かったのではないかと思うわけです。一つは、昨年の春でしたか、サンターバーバラで中国問題についての話し合いがございまして、わが国から藤山代議士をはじめたくさんの方が行っておられるわけですが、ここでゴールドバーグ前国連大使が明らかにしたと言われているわけでありますけれども、重要事項指定方式にはアメリカよりも日本政府が熱心だったとゴールドバーグ前国連大使が言っておられるわけです。これを聞いた藤山代議士もびっくりしたとのことであります。私もこれを聞いてびっくりしました。この重要事項指定方式は、むしろアメリカ日本に押しつけて、わが国がそれに追随しているのだとばかり思っておったわけでありますけれども、どうもこの話によると、そうじゃない。アメリカよりも日本のほうが熱心なんだ、ゴールドバーグ氏によれば、過去二回の国連総会において、イタリア案、これは中国の国連加盟について審議する委員会を国連に設けるという案だと聞いております。このイタリア案にアメリカは賛成する、少なくとも重要事項指定方式よりも前向きだというふうに私は評価しますけれども、これにアメリカは賛成する腹だ、しかし日本の代表がこの重要事項指定方式に固執したために、結果的に日本に引きずられて反対になったのだ、こういう発言があったやに私は聞いている。これは書籍などにもサンタバーバラのレポートとして載っているわけです。ですから、こういうことを聞くにつけましても、先ほど外務大臣は、中国敵視などは全く考えておらない——全くということばが入りましたけれども、それはちょっと間違いだと思うのですね。このゴールドバーグ前国連大使の発言、この真偽について、私たちはただこういう書籍によって知っているだけでありますから、外務大臣からこの事実関係を説明してもらいたい。
  173. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 ゴールドバーグ氏の発言あるいは著書等については、昨年の国会でも御質疑がございまして、そのときも御説明申し上げましたが、概略申し上げますと、こういうことでございます。一九六六年でございましたか、中国問題についてイタリアの提案というものが出まして、これは中国問題について委員会をつくろうという提案であって、これが出ましたときに、ゴールドバーグ氏は就任早々だったという事情もあったようでございますけれども、これに飛びついて、賛成の意を表明された。ところが、日本の代表が観察したところによりますと、この委員会案というものは、当時、俗なことばで申し上げて恐縮なんでありますけれども、中共に好意を持つ国と、それから中華民国、国民政府側に好意を持つものと、双方から非常に評判が悪くて、どっちつかずなんで、こういう案が出ても問題になるまい、こういうふうな情報といいますか、観察であったので、そのことを当時わがほうの代表は、いま駐仏大使をしております松井君でございますが、松井君からいろいろその案についての評価とか、各国見方とかいうものを、ゴールドバーグ氏にもいろいろ注意をしたという経緯があるそうです。したがって、当初は、せっかく自分が賛成したイタリア案に対して、日本が水をさすのかというふうにとられたようですけれども、話し合いの結果、日本もこのイタリア案に賛成投票いたしたわけです。ところが、やはり日本代表が観察しておったように、賛成投票はきわめて微々たるもので、あえなくこれが葬られて、あらためて重要事項指定方式が、アメリカ日本はもちろんそれに参加し、かつそのときには、アメリカが提案国の代表に推されて提案理由も説明をした、こういう決着になった、これが事実そのときの真相のようでございます。それに若干ゴールドバーグ氏の主観も入りまして、そういう発言あるいは書物の上の記事になっておる、こういうふうに私は理解しておるわけでございますけれども、真相はそうでございますし、それから大事なところは、委員会案に日本は賛成投票しておる。それから、その次の段階に、重要事項指定方式には、関係多数の国ともども、日米ともに共同提案国になった、こういう経緯でございます。
  174. 矢野絢也

    ○矢野委員 昨年の秋も、国連総会で中国代表権につきまして、重要事項指定決議の提案理由の説明国になっておられる。このゴールドバーグさんの話につきましては、その真偽のほどは、私はわかりません。しかし、少なくとも中国を国連から締め出すこの重要事項指定方式、この提案について、私はいま、むしろアメリカよりも日本のほうが熱心だという意味で、少なくともこのゴールドバーグさんの発言はそういうニュアンスになっておるわけです。そういう意味で私はお尋ねしたのだけれども、それはそれとして、イタリア方式は別として、昨年秋の中国の国連加盟問題で、提案理由説明国になった。日本アメリカとは、どちらが熱心だったのですか。どちらが引っぱられた関係なのか、どっちが引っぱった関係なのか。私の聞いておる範囲では、これは直接の話し合いがあったかどうかはともかくとしても、むしろ中国を国連から締め出す、締め出すといったら、またこれひっかかりがあるかもわかりませんけれども、要するに、重要事項だからという扱いにするという提案理由の説明国になったのは、むしろ日本のほうが熱心だった、旗頭だ、こう聞いておりますけれどもアメリカとの態度の違いですね、これをひとつお聞かせを願いたい。
  175. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 昨年は、たしか十一月三日に、この中国代表権の問題が国連で議せられたわけでございますが、そのときの状況は、日本が指導権をとったとか、アメリカが指導権をとったとかいうことよりも、正確な数字は、間違いましたらあとで訂正いたしますが、たしか十八カ国が当初から共同提案国になろうという話が各国代表の間でずっと盛り上がってまいりまして、そうして順番というわけではございませんけれども、この共同提案に対する説明の代表をだれにするかということは、その仲間の中で順番的に選ぶことになっておる、アメリカがなったことが二回ほどある、フィリピンがなったことも二回ほどあるというようなことで、仲間うちから、昨年の十一月三日には日本国の鶴岡代表に提案者の一人として全部を代表して説明をしてくれという要請を受けて、この中国代表権問題というものは、ほかの議題にまさるとも劣らざる重要な国際的な問題であるから、やはり総会においては三分の二の議決を必要とするという趣旨において、重要事項に指定をすべきものである、こういう説明をいたしたのでございまして、ただいまのお尋ねに対してお答えにならぬかもしれませんが、日本が指導権を持ったとか、アメリカが指導権を持ったとかいうことではなくて、これは従来からのいろいろ沿革や歴史もございますが、与国といいますか、その二十足らずの国々の相談で、昨年もその相談の線に乗って行動したというのが事実でございます。
  176. 矢野絢也

    ○矢野委員 非常に御丁寧なお答えで時間があまりかかっちゃうから、もう少し簡単にしてもらいたいと思います。  それで、いずれにしても、よけいなことをしなくても私はいいと思うのですね。総理が中国と仲直りをしたいというときに何もよけいな、明らかに中国を締め出すような企てですよ。それの提案理由説明国なんかむしろ頼まれても断わったほうがいいのだ。それをそんな引き受けたりして、それで、いや中国との関係打開のための努力、これは何ぼ言ったかて、中国側の言い分によらなくても、客観的に見たかて、これは日本政府は仲直りを欲しておるのか、そうでないのか、これは客観的にも明らかですよ。  さらにもう一つは、この共同声明、この台湾地域の平和と安全は日本の安全にとってきわめて重要な要素だ、こういう申し合わせをしておられる。これは事実上米台防衛条約体制にわが国が積極的に協力するという意味だとわれわれは解釈する。これはそう言われてもしかたがない。  さらにまた総理は、台湾に万が一のことがあったら、事前協議については前向きに適切にこれは対処しなくてはならない、運用しなくてはならない、それで、台湾で何らかのことが起これば、在日米軍がそのままフリーハンドで攻撃に行ってもけっこうですよということを、まるで事前協議の予約のようなことを言っておられる。この議論は後日また正木外交委員長がするとして、私が申し上げたいのは、このような一連のことがこの一年間いろいろあったわけです。中国と仲直りをするということよりも、仲が悪くなるような事件がたくさんあったということを私は申し上げたい。幾ら総理がこの日中接近だ、仲よくやりたいのだ、こう言われても、こういうようなことが積み重なっておって、それで仲よくしたいと言ったって、こんなことじゃ私はうまくいかない。仲よくするためには、やはり相手側の意向というものを聞かなければ、交渉というものは成り立たないのですね。おれのところは態度は絶対変えないぞ、あちらが変えるのを待っておるのだ、あちらが変わらないから悪いのだ、これだけでは私は外交にも何にもならないと思うのですね。しかも、この一年間は、むしろ敵視傾向が強くなっておる。私は総理がかねてから中国の脅威についてのお話をされたり、あるいはまた安保は絶対必要だということも言っておられる。われわれの解釈によれば、最近安保は非常に危険なアジア安保にまでなってきておる。台湾や朝鮮の問題にまで事前協議が弾力的、前向きに運用されるという、事前協議はほんとうに骨抜きになってきておる、そういうふうに私たちは思うわけであります。いずれにしても、総理の論理でいけば、中国は脅威だ、安保は必要だ、こういう立場を貫かれる限りは、中国と仲よくするんだなんということを総理は論理的にも言えないんじゃないか。むしろそんなことよりも、こういうふうに安保は絶対必要だ、台湾で万が一のことがあればこうするんだと言っておられるのなら、少なくとも佐藤内閣の時代には中国と仲直りはできそうもないし、またその可能性もなければ、私はそれも必要と考えておらないと言われたほうが、私は総理の論理としてはむしろ一貫するのじゃないか。一方では、安保は絶対必要だ。国連加盟はいま申し上げたようなことです。あるいは台湾にまで共同責任を持つような形を日米共同声明でやっておられる。それで片っ方で中国とは仲よくしなくてはならないと言われても、これは私は口先だけだと申し上げたいのですけれども総理、この点はいかがでしょうか。
  177. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 どうも中国問題に触れて話をいたしますと、誤解を解くよりも誤解が深まる、こういうことで、むしろ言わないにまさるんじゃないだろうかと思っておる。ただ私は、前向きに、とにかく貿易は拡大したい、こういうことを心から願っておるんだ、そのこと一軒を申し上げているほうが誤解を受けなくていいんじゃないか。いままでいろいろ説明したことが、だんだん——矢野君にしても、それは誤解をされない、むしろ私を理解してやろうというその立場でも、どうも敵視政策の方向に向いているんじゃないか、こういう疑問を持たれるようだし……。だから私はもうよけいなことは言わない。ただ私いま望ましいことは、ただいまの日中、大陸との貿易を拡大したい、もっと人的交流も進めたい、こういうことだけはっきり申し上げて、その他のことは、もうお尋ねがありましても、なるべく言わさないように、ひとつ御了承をいただきたいと思います。
  178. 矢野絢也

    ○矢野委員 何だかえらい開き直られたような感じで、取りつく島がありませんけれども、先ほど総理も言われたように、私はこの委員会の質疑応答については、初めから平行線で、言いたいことをお互いに言う、こういうことはしたくない。わが党の主張は主張として、できるだけその間の対話というものを実現したい。それは総理の言われるとおりだ。そういう立場で、しかもきわめて冷静に判断して、なおかつやはり中国敵視政策は、私が先ほど申し上げた理由によっても、これは依然として続いておる。外務大臣、全くそんなことは考えておりませんだなんて、これは失礼だけれども、ちょっと横着な言い方だと私は思う。それはそれでいいでしょう。  そこで貿易を拡大したい、人的交流もやりたいという希望をいま述べられた。しかし、それなら先ほどの話に戻りますけれども、古井さんたちが今度御苦労されるわけです。もう少し具体的な条件を示さなければ、貿易をやりたいが、とにかく条件は何もこの交渉する方には与えない。たとえが悪いか知りませんけれども、ある百貨店へ行って品物を買ってこい、しかしお金は渡さぬぞというのとこれは同じことです、ほんとうに。(「万引きしてこいということだ」と呼ぶ者あり)万引きしてこいとまでは私は言いませんけれども、しかし、政府自身がその品物を買ってこい、つまり中国大陸との貿易も拡大したい、人的交流もしたいといっていることが、いかに理屈に合わないことかを実証していると思う。そのとおりだとあなたは言われたけれども、その点お答え願いたい。
  179. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 百貨店に行って、品物はほしいが金は払わないというのではなくて、いろいろ店は並べているが、こちらの気に入った品物を買うという、そういうのがいまの態度じゃないか、かように思います。しかし、その態度をもう少し拡大して、そうして、いろいろ使い方はあるはずだから、あれも買い、これも買いということで、したらどうか、こういうのが実に私ども考え方であります。実はこういうことを言うと、ずいぶん自分の功績を何か誇るようで申しわけございませんが、実は私は通産大臣時分に、日本から中国大陸へ肥料を売り込んだ元凶であります。私、必ずしも何もかも敵視しておるわけじゃない。食糧不足の際、もっと日本の肥料をうまく使われればきっと食糧の問題は解決するだろう、こういうことを実は申したわけであります。そうして、ただいまでは日本で生産している肥料、その六割以上も中国大陸へ輸出しておるというのが現況ではないかと思います。さらにまた、除虫、虫を取る薬などもうんと送り得るのではないか。また、昨日も私のほうの小坂君にも説明したように、いろいろその他にも援助する方法もあるのではないか、かように思います。ただ貿易を通じての援助——援助というと、ことばが過ぎるかもわかりませんが、お互いに利益するものがあるのではないかと思う。一つの例として小坂君は土木工事を起こす方法はないかということでしたが、ただいまのような誤解のある状況のもとにおいて、土木工事まで引き受ける、これは行き過ぎだろうと思います。私はその他にも可能なものからとにかく始めていく。いま、いきなり取り組めといわれるものが、ちょっとまだむずかしい状態にあるように思うのです。でありますから、可能な範囲からそれぞれのものを片づけていくということが望ましいのではないか、かように思いますし、この辺も御了承いただきたい。
  180. 矢野絢也

    ○矢野委員 選挙中から総理は非常に中国政策について前向きなことをいろいろ言っておられる。その当時から、これは選挙向けのあれじゃないかと私は思っておった。案の定、今度の総理演説を聞きまして、あるいは先ほど来の答弁を聞いておりまして、あるいはまた古井さんの交渉に行かれるあれも聞きまして、何ら事態は進展しておらぬ、私はそう思う。私は中国問題はいろいろな抽象的なことばをいろいろ並べ立てられるよりも、百のことばよりも、一つ一つ事実関係を積み上げていく、そのための努力を政府はおやりになるべきだ。やろうと思えば、できることが何ぼでもあるのです。先ほど、可能なものについてやる。可能なものはたくさんありますよ。それをおやりにならないで、それで打開に努力しているんだ、日中問題は積極的に取り組む。これはちょっと私は理屈に合わぬと思うのですよ。いずれにしても、選挙中に総理をはじめ政府が日中間の接触をやるんだとかいうようなことを言われましたけれども、これは少なくとも現時点においては裏切られておる、事実の上において、そう言わざるを得ません。願わくは、この覚え書き協定の延長交渉、これだけが何も日中交渉じゃありません。パイプの一つだ。総理は何とかこのパイプはつないでいきたいということを古井さんに言っておられるそうだ。意欲を持っておられる。ならば援護射撃の意味でも、政府の誠意というものをやはり披瀝されるべきじゃないか。そうしなければ、このことすら解決しないことじゃ、日中問題の打開なんかできない、私はそう申し上げたいのです。昨日も小坂さんが、松村先生が訪中される、年だ、だから特別機などを用意してはどうかなどの御提案もされた。全然返事もされなかった。しかし、私もそれを聞いておりまして、何だかとっぴな御提案のように思ったけれども、少なくとも日本政府として覚え書き協定は何とか続けたいんだという誠意のわかる措置を何かおやりになるべきです。でなければ、このことすら解決しないのじゃ、中国問題は、七〇年代の一番大事な課題といわれておる中国問題は、とてもとても解決しません。そのことを申し上げておきたいのです。これはもうお答えは要りません。——どうですか。
  181. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 どうも選挙中の発言とその後が違う、かように言われますが、いかようにとられようともそれは御自由ですが、私は別に態度を変えたつもりはございません。はっきりそれだけは申し上げておきます。
  182. 矢野絢也

    ○矢野委員 そう言われるとまた言いたくなってくるのですけれども、先ほどだって、中国問題は話し合えば話し合うほど誤解が深くなる、だから私は何も言わないほうがいいのだ、こう言われた。またいまだって、いまのような——もうちょっと責任ある姿勢で、この中国問題をとらえなければいかぬと思うのです。もうそんなことを言うのなら、おれはものを言わぬなんて、そういう態度では、私はよくないと思う。ほんとうですよ、これは。  次に移りたいと思います。  そこで、内政面の問題でありますけれども、いろいろと問題がございます。物価問題あるいは都市政策、あるいはまた、特に都市政策の中でも土地の問題、あるいは農業問題、これはもういろいろほかにもございますけれども、特に物価それから土地、それから農業問題、米ですね。この物価と土地と米は、これはばらばらのものではない、相互に関連し合った問題だと私は思うのです。やはりそれだけを取り出して議論することは片手落ちの議論になる可能性がある。お互いが関連を持って議論していかなくてはならないと思うわけでありますけれども、この物価問題は、本日は時間がありませんから後日にいたすとして、私はこの土地問題、それから農業問題について、若干のお尋ねをしたい。  これは読売新聞の小林さんですかが主宰をしておられる都市建設調査会というのがございます。都市政策なり土地問題に非常に熱心に取り組んでおられるようです。そこの一つの提案、これは私も非常にもっともだと思うのです。  現在、水田の減反政策、これは片方では行なおうとしておるわけです。片方では、都市では土地が足らなくて困っておるわけです。土地がどんどん、どんどん上がってくる。したがって、片方では、お米が余ったから、五十万トンについては転用なり買い上げをやろうというお考えがある。余ってくる。片方では土地が足らない、こういう事情に——これは決していい動機でそうなったわけではない。しかし、いい動機でそうなったわけではないけれども、そういうことになっておるわけです。だから、いまこそこのような水田の減反政策と都市問題、これを統一的に有機的に解決をはかれば、土地問題はかなり大きく前進するのじゃないか、こういう提言をしておるわけでありまして、私もこれは同感です。  そこで、この水田の問題です。四十五年度の予算案を編成せられるにあたりまして、お米の減産目標を百五十万トンとされておるわけですね。そのうち五十万トンについては、これは水田に直すと十一万八千ヘクタールだと聞いております。簡単に十二万ヘクタールと申し上げましょう。この十二万ヘクタールを、転用あるいは買い上げという形で五十万トンを減反したい、こういうお考えのようですね。  そこで、これについてはいろんな問題がやはりあると思うのです。一つは、買い上げの主体、あるいは買い上げた土地をどう利用するか、こういう——ほかにも地価の問題等がございますが、私はまず総理に、いま申し上げたこの水田の減反政策を、片方の都市政策の土地が足らない、これと統一的に解決をはかる、この提案ですね。今回の予算を見ますと、そういうような試みがあまりなされているように思いません。もう少しこの点について政府の方針としてお考えになるお気持ちはないか、これは基本的な問題としてお尋ねをしたいと思うわけです。
  183. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 ただいまの点が一つのポイントであります。ことに都市では、どんどん土地が必要だ。そういうところでやはり田畑で農作物がつくられている。これはもう米ばかりじゃない、その他のものもつくられております。問題は、やはり利用計画を立てることが必要なんだ、その利用計画の中にある水田というものがどういう地位に、どういうように扱われるか、こういうことだろうと思います。だんだん土地利用計画の範囲を拡大されていく、これが現状ではないか、かように思っております。
  184. 矢野絢也

    ○矢野委員 そこで、農林大臣にお尋ねをしたいわけでありますけれども、片方では五十万トンの水田、つまり十二万ヘクタール、これを転用、買い上げる、こういうお考えで農林省では今回の食管予算をお立てになったと私は了解しておるわけですが、この五十万トンの水田十二万ヘクタール買い上げる、どこに買い上げさせるお考えか、買い上げ主体は一体どこになっておるのかということですね。これをひとつお答えを願いたい。
  185. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 いまお話しのありましたように、百万トンは生産調整でやろう、あとの五十万トンに該当する分は転用等で農地の買い上げをやっていこう、こういうことでありますが、予算にも出ておりますように、関係各省にその調査費を配分いたしまして、それぞれの関係の省が、それぞれの関係方面に向かって、いまの目的が達成されるように、全体の政府でやってまいる、それが十一万八千ヘクタールの分でございます。
  186. 矢野絢也

    ○矢野委員 関係各省の協力ということですけれども、いずれにしてもこの十一万八千ヘクタール、たとえば建設省はいつも土地を買っておられるわけでありますけれども、建設大臣に伺いたいのですが、建設省としてこの五十万トン減反のために一体どれだけこの農林省の意向に沿った買い上げ措置をとるか、これをひとつお考えを願いたい。
  187. 根本龍太郎

    根本国務大臣 建設省所管の問題については、市街化区域と調整区域に今度は線引きの問題をやっておりまするが、その市街化区域については、農地法の適用がなくなりますので、それはほとんど大部分が自然のうちに宅地化してくるだろう、こう思っています。その中に、公団関係で入手し得るものは、できるだけそこを重点に取り上げたいと思っておりますが、この数字はまだいま地方自治体を通じて、あるいはまた公団等を通じて調査中でございます。それから、そのほかに、建設省所管の事業に、道路事業が相当ございます。これは一般道路のほか、高速自動車道路もございます。それから河川改修のうち、ショートカットのために相当の農地をつぶしていかなければならぬ場合もあります。こういうものにつきましては、本年度予算だけでこれを全部買うわけにいきませんので、でき得れば地方自治体において先行取得していただきまして、その先行取得したところから事業をなるべく早く着手してくる、こういうことになれば相当促進するであろう。幸い地方自治体におきましては、御承知のように土地開発基金がございます。これとさらにまた現在の情勢に対応して、地方自治体自身のいろいろの今後の工場誘致等の計画等もあわせまして先行取得してもらう。こういうようなことで、でき得るだけ建設省としては農地の転換に政策的に協力いたしたい。詳細についてはいま調査中でございます。
  188. 矢野絢也

    ○矢野委員 建設大臣に重ねてお伺いしたいのですけれども、いま具体的ないろいろな説明がありましたけれども、何とかいくんじゃないかという結論のようです。しかし、それはいけませんです。たとえば農地転用ですね、これを大幅に緩和する。だから大幅緩和によって農地転用で宅地になってくる、だから水田の売買契約も促進されるのじゃないかというお考えのようですが、しかし、これがそう簡単に実効のあるものでしょうか、効果のあるものでしょうか、この農地転用の大幅緩和ということが。  それからもう一つは、建設省所管の公共事業、道路だとか何だとか、これはまさか水田ばかりさがして道路をつくるわけではないでしょう。水田もあれば畑もある、山林もあるわけです。元来、農林省が期待しておる減反という目的と建設省のお考えになっておる公共投資、これはおのずから目的が違うわけですよね。だから、必ずしも建設省で投下されるお金がすべてたんぼに集中するということには、これはならないです。畑だとか山林になる場合のほうが多いわけです。そういう点から考えても、これは限度がある。ましてや、自治省に基金云々とございました、一千億円ですかの基金が。これは計算すれば微々たるものですよ、それで買える坪数というのは。だから、何とかなるだろう、きわめてばく然とした言い方でありますけれども、ずばり答えていただきたいのです。農林省が五十万トン減反する、十二万ヘクタールだ。それについて建設省は一体何ヘクタール引き受ける自信があるのか。関係各省の御協力を得てと、こう言っております。
  189. 根本龍太郎

    根本国務大臣 ただいま私が申し上げましたのは、建設省としてこの水田の減反政策に協力し得る部面はこういうところでございますということでございまして、しかもその実数はどの程度になるかということは、あなたも御指摘したように、建設省の従来の計画は減反のために計画したのでございませんから、いますぐに把握できません。そのために調査費の配分を受けまして、現在地方自治体並びに出先の機関でこれから綿密に調査をして見当をつけようと、こういうことを申し上げたのでございまして、私のほうで全面的にその水田十一万ヘクタールのうちの何ぼを引き受けるという前提のもとにこの調査費をいただいたのではないのでございますから、その点は御了承をお願いします。
  190. 矢野絢也

    ○矢野委員 それが御正直なお答えだと私は思うのです。  そこで、自治大臣に伺いたいのですけれども、地方自治体に、この減反農地、五十万トンですね、十二万ヘクタールですか、これの買い上げを相当農林省では期待しておられるようです。自治省として、今日の地方自治体の財政状況、これはよく御承知だと思う。十二万ヘクタールの減反のために、自治省としてはどれだけの協力ができるか。関係各省の御協力をいただいてと農林大臣は言っておられるが、自治大臣の御見解を承りたい。
  191. 秋田大助

    ○秋田国務大臣 公共用地等を先行取得してまいりまして、あるべき町づくり、地域づくりを実現してまいりたいとかねて考えておりますので、自治省としましては、御承知のとおり、ただいま建設大臣からお話もございましたが、土地開発基金の制度もございますし、また、ごく緊急の要望にこたえるための土地の先行投資債の制度もございますので、この際水田の買い上げということとからめまして、積極的に、地方公共事業のため、その他必要な公共用地等を先行取得していくように地方公共団体を指導、御援助をしてまいりたい。今年度の補正予算にも一部その施策があらわれておりますが、三百五十億円程度、四十五年度は、まだこれは地方財政計画をただいま作成中でございまして、明確なことは申し上げられませんが、あわせてさしずめ一千億程度の資金がこれに確保できると思います。先行取得債のほらは二百五十五億、地方債の計画を持っておるわけであります。これは全部水田を買えるわけじゃございません。またこれだけで所定の十二万町歩に十分有効に働き得るとも考えられませんけれども、このほかにワク外債、縁故資金等の流入をはかる。あるいは先ほどもお話が出ておりましたが、補償債等の制度も併用しまして、できるだけ水田買い上げの政策に御協力を申し上げたい、こう考えておる次第でございます。
  192. 矢野絢也

    ○矢野委員 いずれにしても、自治省としては、地方自治体の起債のワクを広げる、あるいは公共用地取得のための先行投資を奨励する、こういう方向が出ているらしいのですけれども、しかし、起債なり利子補給なりの財政措置は全然なされておらぬ。こういう点から、おそらく農林省の期待するような十二万ヘクタール、これが一千億円なんて、これはそれこそスズメの涙みたいなものになってしまう。私は、農林大臣が百五十万トンの減反目標をお立てになって、そして百万トンについては休耕だとかなんだかの補償措置をとっておられる。あとの五十万トンについては、関係各省の御協力をいただいてというお話だけで、その関係各省の目ぼしいところは、いまそういうような御答弁です。いまの建設大臣のお答えだって、これから調べる、予算をいただいたから建設省としてどれくらい水田が買えるかを調べると言っているのであって、たくさん買えるとは一つも言っていないのです。これから調べるのです。自治省だって同じことです。ですから、この五十万トンを一体ほんとうにどこに買い上げてもらうおつもりなのか、その財政的な裏づけはどうなっているのか。この補正予算で土地需要緊急調査調整費一億円、これはあくまでも調査費ですよね。ことしの話に間に合うものじゃない。ですから、重ねてくどいようでございますけれども、この五十万トン、つまり十二万ヘクタール転用される、買い上げるというお考えだけれども、どこに買わせるつもりなのか、もう一ぺん、ひとつ農林大臣にお答えを願いたい。
  193. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 そういう事情でありますので、各関係省協力してその実現をはかりたい。  矢野さんすでによく御存じと思いますけれども、最近地方に工業を分散したいというものがかなりありますけれども、やはり農地転用をいままで非常にきびしくいたしておりましたので、われわれのほうにもずいぶんいろいろな陳情もございます。それで今回は、農地がスプロール化しないように努力しながら、転用緩和をいたしたのであります。大体御存じのように、いま新都市計画法でその地域内に入るであろうといわれておる地域が農地全体で二十九万ヘクタールございますが、そのうち約十八万ヘクタールは水田でございます。そういうようなところは、先ほど建設大臣の御答弁のように、農地転用の願い出をする必要がないということになっておるわけであります。それからまた、いま建設大臣のほうのお話にもありました国道、県道、その沿線の地域は、両側百メートルずつは、これは一種農地であっても、今回はそれを広げて転用を認めるようにいたしたい。これはやはりガソリンスタンドであるとか、いろいろな倉庫業であるとかいう輸送関係にぜひ必要なものが要求されておりますので、将来のそういう国道等の発展を考慮しながら、そういう緩和の措置を講じているようなわけであります。  したがって、先ほどほかの大臣からもお話がございましたが、私どもとしては、ぜひすみやかにできますように、至急に調査をいたしまして、必ずこれは実行のできるという案をつくるために、政府をあげて努力をいたしておる、こういうことでございます。
  194. 矢野絢也

    ○矢野委員 要するに、いろいろなことを言われましたけれども、抽象的に関係各省の御協力をいただくということに尽きているわけです。その他は、ああいうこともあるだろう、こういうこともあるだろうという他人まかせの計画にすぎないのですよ。五十万トン減反する、これは買い上げるなり転用によって減反されるなら、農林省としてこのようにして水田を買い上げるんだという実施計画がなければ、私はこれはもうお話にならないと思うのです。いまのお話には、農林省としての計画じゃない、あちらで市街化区域がどんどん線引きしておるから、そこで農地が宅地になるだろう、そういうことも、それはあるでしょう。あるいは公共投資によって水田が買われていくということ、そういうこともあるだろう。自治体で買ってくれることもあるだろう。それは買ってくれるだろう。しかし、十二万ヘクタールに農林省としてどういう責任をもってこれを具体化するのだ、この実施計画、あるのですか。
  195. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 百五十万トンの生産調整をやろうというのは政府全体の方針でございますから、そこで百万トンについては、これは矢野さんもすでに御承知のように、地方公共団体をはじめ、農業団体が一致して全面的に協力をして、この実現をはかるというお申し出もございますので、そのほうはそれとして、さらにあとの分は農地の他用途への転用等によって、いままでたいへん希望されておったようなものも押えられておった状況であるから、これを緩和することによって各省の関係において十一万ヘクタールの農地は他用途へ転換ができるであろう、そのために予算を配分して調査をして、すみやかにその実現を期するということでございますが、これは政府全体のことで、一農林省のよくすることではないのでありますから、そういうことで、私は各省大臣の御協力を確信して、必ずできるものだと信じておるわけであります。
  196. 矢野絢也

    ○矢野委員 いずれにしても、農林大臣は百五十万トンの減反を前提とした食管予算を組んでおられる。ここで、この委員会でやろうというわけなんです、四十五年度予算。その百五十万トンの減反を前提とした食管予算の審議をやろうというのに、その前提のこの五十万トン、これの実施計画がない。これで予算審議せいといったって、食管会計の基礎からおかしくなっているじゃありませんか。実施計画のない予算じゃありませんか。この点について農林大臣、どう考えられますか。
  197. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 いま申し上げましたように、ただいまのような米の事情でありますので、生産調整ということは、緊急やむを得ざることである。そういうことのために、いまお話しのように、百万トン及び他の五十万トンは必ず調整をすることによって買い入れは六百五十万トンで済むだろう、こういうことで予算を編成しておるわけであります。
  198. 矢野絢也

    ○矢野委員 まるでこの五十万トンの減反ができないのは、農林省の責任ではなくして、政府全体の責任だ。これはいよいよ総理にお答え願わなくちゃいかぬ、話がここまでくれば。  具体的にこの五十万トン、これをひとつどのようにして転用、買い上げをされるのか。農林大臣は百万トンについては自分の関係だけれども、あとの五十万トンはおれの関係じゃないと言っておる。こんな無責任な食管予算がありますか。食管予算の前提になっておるのでありませんか、この百五十万トン。その食管予算のうち、前提のこの三分の一については農林大臣は知らぬ、これは政府全体の責任だ、こんなばかげたことで予算の審議ができますか。食管会計の根拠がもう初めからくずれておるじゃありませんか。総理の御見解を聞きたい。
  199. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 先ほども江田君から、大体関係閣僚の協議会、おそいじゃないか、そういうことで間に合うのかといっておしかりを受けました。とにかくおそきに失したというそういう御非難は御自由ですが、関係各省でただいま鋭意対策を立て、それぞれの目標を樹立中でございます。いまこの予算審議中、これは必ず結論を得る決意でございますから、それはしばらくお待ちいただきたい。
  200. 矢野絢也

    ○矢野委員 総理からもう少し時間をかせというお話であれば、これは待たないでもないですよ。しかし、これは初めからおかしいんです、この話。  この五十万トンの買い上げについて、大体これは大蔵大臣にお聞きしたいのだけれども予算の裏づけをしておられない。何だか私、手品みたいな話を聞いたんだ。最初大蔵省なり農林省は買い上げなり転用というようなお考えはなかったようですね。百五十万トン全体を休耕にするというのですか、そういうようなお考えのように私は聞いておる。ところが、予算編成の途中で、どこからどういうお話があったのか、おそらく党側だと私は推測しますけれども、この奨励金、これを上げるべきだという強い要請があった。そこで大蔵原案の二万一千円が大幅に上がっちゃった。それで全体の予算総ワクは動かさない。そこで単価を上げたものだから、土地のほうを三分の一削っちゃったということで、この五十万トンの買い上げ、転用ということが出てきているのじゃないかと私は思うのですけれども、このいきさつをひとつ大蔵大臣、説明してもらいたい。それでこの五十万トンの予算の裏づけがあるのかどうか。
  201. 福田一

    福田国務大臣 これは、米が百五十万トン分余ります。そこで、それはどういうことかというと、三十五万ヘクタールたんぼがよけいにある、こういうことなんです。そこで奨励金を出して休耕させようという考え方があったわけでありますが、これでは根本的な解決にならぬじゃないか、やはり根本的には他に転用しちゃうべきだ、こういう説が出てきたわけです。私はその説は非常に正しいと思う。しかし、それには三年かかるか五年かかるか、とにかくこの問題を一刻も早く解決しなければならぬ、一応三年でひとつそれをやってみようじゃないか、こういう考え方をとったわけなんです。一年分というとその三分の一ですね、あなたのおっしゃる十二万ヘクタール、こういうことになるわけなんです。これをひとつ万難を排してやろう。買う人はだれである、こういうことになると、あるいは農協ということも考えられます。あるいは工場とかそういうために産業界が買うということも考えられる。また先行取得というような意味において、これは建設省等を中心とした要請もあります。それはひとつ地方公共団体にお願いをいたして買っておいてもらおうじゃないか、こういう考え方。そういう考え方で何とかひとつ三年——あるいは三年ででき切らないかもしれませんけれども、全力を尽くして三年間に三十五万ヘクタールを他の目的に転用しちゃおう、これこそが根本解決なんだ。そして一方において奨励金を出しまするけれども、これはこのつなぎのための今年度限りの措置だ。こういうふうな構想をもって十二万ヘクタール、五十万トンというものが出てきたわけなんです。率直に申し上げまして、まだこの段階で幾ら幾らをだれが買うのだというところまでいっておらないのです。そこで、補正予算におきまして一億円を計上し、お願いをいたしまして、各省でこれを詰めようと、こういう段階でございます。まだ具体的な数字を申し上げる段階でないのだということをひとつ御了承を願います。
  202. 矢野絢也

    ○矢野委員 全然納得できないのです。予算の総額を動かさないで、最初の奨励金の単価をお上げになったから、上げたものだから、結局、分母のほうを三分の一減らした、つまり総坪数のほうを、奨励金を出すほうの坪数を三分の二にして、三分の一がまま子扱いになった。だから、財源の裏づけもなければ何にもないままこういう状態、先ほどからお聞きしたような状態になっていると私は理解しておる。大蔵大臣はそれと違う見解をお述べになりましたけれども。  そこで私、重ねて大蔵大臣にお聞きしたいのです。要するに、百五十万トン減らすという話でしょう、そもそもの話が。五十万トンはそういうことで買い上げなり転用で減らす、いまのお話を聞いていると、これはだいぶ先の長い話のようですね。ことしは、あるいは来年はこのお米のできが五十万トンは減らないと思いますよ。その場合、当初予定された以上のお米、これは全部——農林大臣がせんだって買い上げ制限ができるのだという発言をされておるから、それに関連してお尋ねをするわけでありますけれども、そのように百五十万トン減反の目標を立ててやるけれども、これが達成できなかったときには、これはどうなるのですか。
  203. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 先ほど申し上げましたように、百万トンにつきましては各団体がこぞって協力をしていていただきますので、いけるものと確信をしているわけであります。あとの分も政府が各省をあげて協力しておりますので、百五十万トンについてはいける、またやらなければならないということでいまスタートいたしたわけであります。そのときにどうなるかというふうなことにつきましては、そのときにいろいろな客観情勢を見まして、また政府全体で相談をしてきめなければならぬことだと思っています。
  204. 矢野絢也

    ○矢野委員 少なくともことしの食管会計が百五十万トンは減るのだという前提でお組みになっておるわけです。しかも、その百五十万トンの減反があまりスムーズにいきそうもない。特に五十万トンについては先ほどお聞きしたとおりですね。そうすると、当然当初の見込み違いということになってきます。ですから、私は先ほどから実施計画——総理予算審議中に出すとおっしゃいましたけれども、実施計画があって、この百五十万トンが確かに減るのだ、だからこの想定しておられる数量で食管会計というのは成り立っていくのだ、こういうのが私はものの道理だと思うのだけれども、農林省は予算だけ出して、その減反の実施計画を出しておらない。私は責められるべきだと思うのですよ、現時点においても、たとえあとからお出しになっても。それともう一つは、せんだって食管法の改正を必要としないでお米の買い入れ制限ができるという発言をされた。先ほど江田さんからも追及がございました。私はこの五十万トンの水田が民間転用や地方自治体買い上げであなたが期待しているように転用ができなかったとした場合、つまり廃田にならなかった場合、食管会計はどのようにして帳じりを合わすのだろうかという心配をしているわけです。どうしても帳じりが合わなくなってくる。だから、その用意に米の買い入れ制限もできるんだというようなことを農林大臣は言い出したのじゃないかと私は勘ぐりたくもなる。先ほどの御答弁では、いや、そういうことはできると言っただけで、やるとは言っていないというお話ですけれども、そうすると、この五十万トンあるいは百五十万トンについて、ことしは買い入れ制限などによる食管会計の帳じりを合わすようなやり方は一切なさらないかどうか、これだけひとつしかとお聞きしたいのです。
  205. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 食管法の私どもの解釈については、先ほど江田さんにも申し上げたとおりでありますが、とれ秋になって期待に反したようなとぎに一体どうするかということであります。そういうときには、いま申し上げましたように、どういう状況でそういうふうになってきているかということを検討いたしまして、政府部内にも米の生産調整の閣僚協議会もございますので、それらと相談をいたしまして、どういうふうにやるかということを相談をいたしてきめたい、こう思っております。
  206. 中野四郎

    中野委員長 矢野君に申し上げますが、お約束の時間がだいぶ経過しておりまするので、この点をお含みの上、結論をお急ぎを願います。
  207. 矢野絢也

    ○矢野委員 わかりました。いずれにしても、時間が参りましたので、最後に総理に一言だけお聞きをしたい。  とにかく五十万トン減反の実施計画、これは予算審議中にお出しになる。それから食管会計そのものの根拠が崩壊しておる。これは、お出しになればある程度救済する。補正予算で二十億円という問題もございますが、これはまた後日。それから、米の買い入れ制限が現行食管法の改正なしにできる、こういう意味のことを言っておられるけれども総理は同じ見解でいらっしゃるのか、これだけお答えを願いたい。
  208. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 先ほど来いろいろお話が出ておりますが、とにかく百五十万トン何とかして減らしたい。これは最善の努力を払っていろいろ計画を立てるわけです。そこで、御審議をいただくように補正予算で調査費が一億ついている。その分割もしなければならない。こういう状況でありますし、また先ほど申し上げましたように予算審議中には結論を出す、こう言っているが、ちょっとそこらにも食い違いがあるようですが、私は補正予算出して、そうして成立した上でその一億が配分されて、それから本格的な調査が遂げられる、かように考えますけれども、しかしその前に、やはり何といたしましても一つ目標はわれわれがつくらなければいかぬ、かように思っておりますので、ただいまそういう方向で、全部正確そのものだとは私申しませんけれども一つ目標数字は皆さん方にお目にかけ得るように努力したいものだ、かように思っております。重ねてその点を、前の説明を補正しながら申し上げたような次第です。
  209. 矢野絢也

    ○矢野委員 どうもありがとうございました。
  210. 中野四郎

    中野委員長 これにて矢野君の質疑は終了いたしました。  明後二十三日月曜日は、午前十時より委員会を開会し、今澄勇君、赤松房君及び北山愛郎君の総括質疑を行ないます。  本日は、これにて散会いたします。    午後五時九分散会