○
江田三郎君 私は、日本社会党を代表して、安保、沖繩及び日中関係を中心とするわが国外交の重要問題について、総理大臣に質問いたします。
日本の議会政治の歴史に一大汚点を残した日の十年目が間もなくやってまいります。十年前の五月十九日、この衆議院において自民党がどのようにして安保
条約の通過をはかったかは、今日なお国民の記憶に新たでございます。それは議会政治の完全な否定でした。なりふりかまわぬ暴力でした。それほどの無法な手段に訴える以外に、国民の間の根強い反対を押し切ることができなかったのが、いまの安保
条約であります。国民の批判をかわすために、当時、
政府・自民党は、占領中に結ばれた旧
条約が無期限であったのに対して、新
条約は十年の期限をつけた、これは大きな進歩であると宣伝いたしました。安保改定の懸案が片づいて、次はいよいよ日中関係打開に取り組む番だという口上も、よく聞かされました。だが、この両方ともその場限りのごまかしであったことは、いまや明らかであります。(
拍手)
政府・自民党は昨年十月、安保
条約をこのまま相当長期にわたって自動延長する方針を決定いたしました。十年の期限が到来する一九七〇年六月を前に、国民の間に何らかの形で
条約の再検討を求める声が高かったにもかかわらず、あなた方はこれにまじめな考慮を払わず、目はもっぱらワシントンに向いていたのであります。(
拍手)国民は、
条約を延長するかどうかについて、またもや意思を表明する機会を奪われようとしております。しかも、自動延長とはいいながら、昨年十一月の日米共同声明によって
条約が実質上拡大強化されたことは、わが党が繰り返し指摘したとおりであり、こうしたやり方は国民無視もはなはだしいといわなければなりません。(
拍手)
一方、日中関係の現状は、ごらんのとおりであり、十年の月日がむなしく過ぎ去ってしまいました。この間に
政府は、日中関係改善のためのほんの小さな努力でもしたでしょうか。何一つしなかったばかりか、佐藤
内閣になってからはむしろ障害を固定化することに努力したのであります。(
拍手)総理は、日中問題は七〇年代最大の課題と言われますが、
政府・自民党の姿勢がいまのままであるとすれば、次の十年もまたむなしく過ぎるほかはないでしょう。
この国会を通じて、私たちは七〇年代日本外交のビジョンを総理からついに聞くことはできませんでした。日米会談の結果に対する疑問を解いてもらうこともできませんでした。巨大な経済力を持つに至った日本が、国際的に一体どのような進路をとるのか。総理は国会中あまたの発言をなさいましたが、肝心のこの問題には明快な答えを出しておられません。ことばとしてはいろいろ聞かされましたが、私が言うのは、佐藤
内閣の実際の政策や行動が全体として何を目ざし、どこへ向かおうとするかについて、納得のいく
説明がなかったということであります。
海外においても、日本の進路に対する猜疑や不安や警戒が強まっていることは、総理も御承知のとおりです。総理が平和主義に徹すると繰り返し言明されるにもかかわらず、中国や北朝鮮は、日本は軍国主義だと非難する。韓国や東南アジア諸国の間にも、日米共同声明以後、日本の意図に対する警戒の論調が再び頭をもたげております。アメリカの議会でも、日本における新しい軍国主義の要素に注意を促す
報告書が、下院外交
委員会の調査団によって
提出されております。海外に広がるこれらの反応ぶりは、総理にしてみればはなはだ心外なことかもしれません。しかし、いかに心外であろうと、日本の行き方に対する不安と警戒の念が海外に、特にアジア諸国の間に生じつつあることは、厳然たる事実であります。(
拍手)それらの見方は、誤解に基づくか、ないしは意図的なものであると総理はおっしゃりたいところでしょう。しかし、私はそうは思いません。
日本国民の多くもそう思わないでしょう。軍国主義とは何ぞやということばのせんさくは政治家の仕事ではございません。私たちは事実をあるがままに見なければなりません。佐藤
内閣の内外政策、とりわけ日米共同声明以後に明らかになりつつある政策の方向には、平和憲法の国是に反し、日本の将来を誤るおそれのある危険なきざしが濃いことは、いまや自民党の一部の
諸君をすら含めて、国民多数の共通の認識になりつつあります。(
拍手)
政府・自民党は、いわゆる七〇年の選択は終わったという印象を広めるのに懸命のようです。昨年末総選挙の結果がそのためのかっこうのよりどころとされ、これによって、安保
条約の長期堅持の方針も、日米共同声明も、いずれも国民の支持を取りつけたと解釈しているようであります。だが、実際は断じてそうではありません。国民の間では、わが党の
条約の廃棄のほか、極東条項の廃止や、いわゆる段階的解消に至るまで、考え方はさまざまでありますが、何らかの形において安保体制をここで考え直すべきだとする意見が圧倒的に多数を占めていることは、客観的な事実であります。(
拍手)安保体制をとにかく弱める方向に持っていくことが、日中関係の打開とともに、七〇年代日本外交の核心であるというのが、国民世論の大勢であります。現行
条約の長期堅持を主張する者は明らかに少数であり、ましてや、日米共同声明によってなされたごとき
条約の拡大強化を支持する者に至っては、ほんの一握りの少数派にすぎません。それら一握りの人々の独断によって、
条約再検討の最初の機会が無為に過ごされることは、許すことができません。七〇年問題は決して終わってはいないのであります。
わが党は、日米共同声明によって安保
条約が事実上新
条約にひとしい変質を遂げた以上、その延長にはあらためて国会の
承認を要すると、かねがね主張してまいりましたが、
政府はこれまで、この当然の主張に全く耳をかそうとはいたしません。私は、ここであらためて総理に対し、安保
条約の延長案及び日米共同声明を一括してこの国会に
提出して審議を求めることを要求いたします。(
拍手)
日米共同声明の第四項後半部分において、日米は、沖繩返還予定時に至るもベトナム和平が実現していない場合は、アメリカのベトナム政策の履行に影響を及ぼすことなく沖繩返還が実現されるよう、そのときの情勢に照らして十分協議することに合意しております。このいわゆるベトナム協議条項に関し、外務大臣は、日米会談直後に発表した公式
説明において、「返還時になっても平和が実現していないという事態は、実際問題としてまず起こり得ないものと考えます」と言っております。同じ
趣旨は、その後も国会答弁等を通じ、総理や外務大臣から何度も繰り返されています。実際問題としてまず起こり得ないとは、たいへんな確信であります。よほどの根拠があったに違いありません。それでなければ、責任ある
政府が、これほどの重大問題について、これほど断定的な見通しを国民に公表できるはずがありません。総理は、
インドシナ情勢最近の発展に照らして、当時のベトナム和平の見通しが今日も依然として正しいとお考えか、それとも目算の狂いをお認めになりますか。
また、
政府は、アメリカのカンボジア介入と北爆再開を支持するのかどうか、アメリカの介入は、国際法及び国際正義の観念に照らして正当化され得るものであるかどうか、日本
政府のはっきりとした立場を総理から伺いたいと思います。(
拍手)
アメリカの今回の行動がカンボジアに対する明白な侵略
行為であり、戦争の
インドシナ半島全域への拡大をもたらすものであることは、全く議論の余地がないと思います。カンボジア介入がアメリカにとって自衛行動として正当化されるならば——
政府にはそういう意見が有力に行なわれていると新聞には伝えられておりますが——もしそうだとしたら、およそ大国のあるゆる軍事介入は、ことごとく自衛行動として正当化されることになってしまうのであります。(
拍手)
しかし、民族解放の大義を軍事力で制圧し去ることの絶対に不可能であるゆえんは、すでにベトナム戦争で証明済みであります。カンボジア領に侵入した米軍は、ベトナムでやったと同じように、無差別の焦土作戦に訴え、村々を次々に焼き払っていると、前戦からの報道は伝えています。侵入者に対する憎しみをかきたてることによって、アメリカは、
インドシナ全土で、解放闘争の火をあおり立てる自殺的行動を展開しているのであります。(
拍手)軍部を先頭とするこのばかげた野蛮なばくちにアメリカが固執する限り、ニクソン大統領が何だび声明を繰り返しても、一九七二年までに和平が実現している見通しはきわめて少ないのではないでしょうか。
そうだとすれば、返還後の沖繩からの米軍出撃を認めるかいなかは、
政府の言うごとく、実際にはまず起こり得ない問題あるいはそのときになって考えればよい問題ではなくて、日本にとってきわめて現実的、きわめて重大な問題になっているのであります。
政府がもしアメリカの
インドシナにおける行動を完全に支持するとすれば、出撃の事前協議に対してノーと答えることは、それこそ実際問題としてまず起こり得ないことであります。もし出撃に同意を与えれば、日本は米軍の行動についてアメリカと完全な共同責任を負わなければなりません。この場合、米軍の戦争
行為に日本
政府の意思が加わるわけでありますから、これはきわめて明白な憲法違反であります。(
拍手)そのようなことは絶対にしない、返還後の沖繩からのベトナム出撃に日本
政府が同意を与えることは絶対にない、このことをあらかじめ国民に誓約されることは、総理大臣としての義務であると思います。(
拍手)日本は、いままでも、すでに、補給、中継などの面でアメリカのベトナム作戦に協力させられております。このことが、アジアにおける日本のあるべき姿をどれほどそこなっているか、はかり知れないものがあります。この上さらに、直接的な加担はいかなることがあろうとも避けなければなりません。共同声明にいう再協議が何を意味するにせよ、米軍出撃への同意は万一にもあり得ないことを、ここではっきり言明していただきたい。(
拍手)
なお、今月中旬に予定されるカンボジア問題に関するアジア諸国
会議に
政府は参加の意向といわれますが、参加予定国はどことどこなのか。
会議の目的、
議題及びその効果はどういうことか。対立する立場のすべてが
会議に代表されることになるのか、それとも一方に偏した構成になるのか。あとの場合には、
会議は必然的に一方の側のあと押しをする結果となります。アメリカが武力介入をしたいまとなっては、これに対するはっきりした態度を打ち出すのでない限り、何らかの決議を取りまとめてみたところで無意味ではないでしょうか。もし、アメリカの行動に何らかの正当化の根拠を与えることにでもなれば、アジアの平和を求めて高まりつつある国際世論に挑戦をする有害なことになるのであり、同時に、わが国のアメリカ追随の姿勢を世界にさらけ出すことになるのであります。私は、日本が
会議に参加することは取りやめるべきだと思いますが、総理はどうお考えになりますか。(
拍手)
日米共同声明第四項の前半、韓国の安全は日本自身の安全にとって緊要であると総理が述べた部分、及び台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとってきわめて重要な要素であると総理が述べた部分が、ともにきわめて重大な問題をはらむことは、わが党がこれまであらゆる機会に指摘してきたとおりであります。これはナショナル・プレスクラブにおける総理演説中の事前協議に関する言明とともに、日米安保
条約が、米韓及び米台
条約との分かちがたい連係を形づくり、両
条約につながるものとなったことの公式の確認であります。中国及び北朝鮮がこのことに強く反発していることは御承知のとおりです。さらに韓国においても、共同声明のこの部分は微妙な反応を引き起こし、韓国に対する日本の関心表明をありがた迷惑とし、あるいは不愉快とする新聞論調も見られます。これらの反応のすべてを、総理は先方の誤解ないし曲解と片づけたいのかもしれませんが、しかし、その前に総理は、それらの諸国が、かつて日本との間に持った屈辱の歴史を、そうしてその記憶のきびしさを思い起こさなければならぬと思います。(
拍手)
総理は、国会答弁において、韓国あるいは台湾地域の安全が日本の安全にとって重要であるというのは、しごく当然のことをそのまま述べたのだと繰り返して述べておられますが、しかし、右のような認識を日本
政府が公式に声明したことはこれまでなかったのであります。また、従来は、日本基地からそれらの地域への米軍出撃は、かりに事前協議があっても日本はこれに同意を与えないだろうとの印象が内外に支配的でございました。ところが今度は、積極的に出撃に同意をする姿勢を示されているわけであります。このことからいたしまして、日米共同声明の以前と以後とでは、安保
条約の実質に重大な変化が生じていることは疑問の余地がないではありませんか。これまでの国会審議を通じて、総理はいまだにこの違いをはっきりお認めにならないのでありますが、ここでもう一度確かめておきたいと思います。
台湾地域への言及を中国が内政干渉と受け取って激しく反発するのは、先方の立場としてはすこぶる
理由のあることだと思います。総理は、プレスクラブ演説の中で、アメリカが台湾防衛義務を履行しなければならない事態が万一起こった場合云々と述べたあとで、最後に、「幸いにしてそのような事態は予見されないのであります。」とつけ加えています。予見されないとわざわざ断わりながら、一体何の必要があって、このことに言及しなければならなかったのか。これが中国の最も重視する原則上の立場に触れて激しい反発を引き起こすことを日本
政府はあらかじめ承知の上で、この一項を共同声明に加えたのか。もしそうだとすれば、佐藤
内閣は日中関係改善に何ら興味を持たないことを国民に率直に告白すべきであります。他方、もし中国の反応を予見できなかったとすれば、その不明、その独善は救いがたいといわなければなりません。(
拍手)
日本は一体どこまでまじめに中国との関係改善を考えているのか、この点に中国が不信と疑惑を禁じ得ないところに、当面日中関係の根本問題があると思います。
政府は、いまも総理が大使級会談をやりたいなどと言っております。あるいは郵便、気象などの
政府間
協定の着想も伝えられます。私は、しかし、それらのことは日中関係の目下の状況においては枝葉末節の問題だと思います。大使会談がかりに開かれたとしても、中国と国交を開くのかいなかについて当の日本側の腹がきまっていなければ、話の進みようがないではありませんか。肝心なのは
政府が腹をきめるかどうかということなのであります。
佐藤
内閣は、しかし、逆の方向に腹をきめつつあるのではないかという疑いを私どもは深くせざるを得ないのであります。(
拍手)日中友好を口にしながら、その実は台湾との結びつきにますます深入りして、日中打開の障害物をみずから求めて高くしょうとしているのではないかということであります。日米共同声明における言及はその一つの例であります。もし総理がまじめに日中問題の解決を目ざされているならば、台湾との結びつきをこれ以上深めることは一切差し控えるのが当然と信じますが、どうお考えになりますかお尋ねしたい。(
拍手)
今年一月、日本
政府は台湾に対し、中国との大使会談や中国向け輸出に対する輸出入銀行の借款供与はやらないことを保証したとの報道がありましたが、それは事実なのかどうなのか。
台湾に対する第二次円借款について、総理は、先日蒋経国氏との会談の際、台湾の要請にすこぶる好意的な反応を示されたといわれますが、総理は先方の求めに気前よく応ずるおつもりなのか。一体先方の要請額は幾らであり、総理の心づもりではどの程度のことをお考えになっておるのか。
私は、こういうことを重ねていくたびに日中間の障害物が一つまた一つふえていくだけだと思うのでありますが、総理はそういうことは絶対にないと確信されているのでしょうか。(
拍手)それとも、そういう結果になってもしかたがないと割り切っておられるのでしょうか。その点の掘り下げたお考えを聞かしていただきたい。
私は、この国会の
経過を顧みて、七〇年代の日本の国際的進路について、国民の平和への希望を新たにするようなものが何一つ打ち出されなかったことを心から残念に思います。
政府は、日米共同声明を金科玉条として、これを七〇年代外交の基調とする考えと見受けられます。
政府側の国会答弁の中には、日本及び周辺区域における制空権、制海権の優越を目ざすとか、国連に協力する平和維持の目的のための自衛隊の海外派遣は憲法上は問題ないなどと、重大な発言が幾つもありました。これらは全体として、日本の政治にあらわれている一つの方向、すなわち平和憲法たな上げへの新たな勢いを映し出しているのだと思うのであります。六〇年安保改定の責任者岸元首相は、日米会談と同じ時期に台北にあって、日本と台湾との連携強化を画策し、つい先ごろはソウルにおいて
日本国憲法第九条の改正を説くという、まことに端促すぺからざる活躍ぶりであります。だが、国民は、六〇年安保の亡霊が七〇年代の日本の進路を左右し続けることは許さないでしょう。(
拍手)
平和憲法の本来の姿に立ち戻って、安保
条約及び日米共同声明に国民的再検討を加えるとともに、日中国交回復に向かってまっすぐに進んでいく国の姿勢を確立すること、そこに七〇年代日本の外交の出発点があると私は信ずるものであります。最初に述べました海外における対日警戒の風潮のごときも、それによって初めて確実に消していくことができるでありましょう。
総理の所信をお伺いして、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕