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千葉七郎君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題となりました
農地法の一部を
改正する
法律案、
農業協同組合法の一部を
改正する
法律案に対しまして、
反対の
意見を申し述べます。
戦後、
わが国は、重大な
食糧危機を乗り切りまして今日に至りましたのは、
農民諸君が、
政府その他
関係機関の強い要請と鞭撻にこたえまして、ものをも言わずに黙々と
食糧の増産に励んでまいった結果でありまして、
農民諸君のその
努力、その勤勉に対しましては、深く感謝の意を表すべきだと信ずるのであります。
農民諸君のこの
努力をささえたものは何であったでありましょう。それは、戦前、
自作農民わずかに三割、自小作、
小作農民七割という
日本の吸血的な
寄生地主制度によって
高率小作料にさいなまれた
農民が、
農地は働く
農民が所有すべきであるとしまして、
寄生地主打倒のために展開してきた流血の闘争が実を結びまして、戦後
農地解放が実現をし、地主
制度が基本的には崩壊をし、自作農
制度を中核とする
農地制度が確立をされまして、
農民の長年にわたる念願が達成された喜び、その喜びが増産意欲のあらわれとなり、これが生産のささえとなったからであります。この自作農中心の
農地制度を維持し、これを
農業発展の
基盤とするために制定されたのが
現行の
農地法であります。
戦後、
日本の
食糧生産、特に米の生産が戦前をはるかに突破をし、発展し、
農民の生活が多少でも向上したのは、
農地法によって守られた自作農
制度と、
農民所得を向上させるための、いわゆる米の生産全量を生産費所得補償
方式による買い上げを明定した
食糧管理
制度、この二本の柱によって生産が進められたからであります。
しかるに、
政府は、いまや、この
日本農業の中心をなす二本の柱を打ち倒そうといたしております。さきに
政府は、自主流通米
制度の実施によって食管法を空洞化し、労賃、生産資材の値上がりにもかかわらず、米の
政府買い入れ価格を昨年から据え置き、さらに、米の過剰を
理由に、水稲作付一割削減を
農民に押しつけ、
農民の所得を押し下げ、加えて、
農地法を
改正して、小農の農村追い出しをしようといたしております。
しかも、
農地法改正案は、前回、前々回、二度も
提案して、二度とも廃案となったのに、今回重ねて
提出をし、強引に
原案を通過成立せしめようというのであります。その
理由は何か。倉石農林大臣の
説明によりますと、今後の総合農政を推進するためには、
現行の
農地法がしがらみとなっているからだというのであります。
一体、総合農政とは何でありましょう。
日本経済の高度成長に伴って、農政問題は、一農林省だけでは片づかぬ、通産省、労働省、経済企画庁、大蔵省その他とに関係があるので、これら各省の考えを総合しようというのでありましょうか。それとも、農産物の輸入の自由化をアメリカから強く要求されるので、外国
農業、特にアメリカ
農業の一環としての
日本農業、それを総合的に考えようというのか。米が余っているので、米の作付を減らして、他の作目と総合するのか。その目標はあいまいであり、明瞭ではないのであります。
しかし、一番大事なことは、
日本の主要
食糧は、米と麦類を一体としてとらえ、その生産を総合的に策定をし、これだけは国内完全自給策を確立することこそ総合農政の中心の柱とすべきだと思うのであります。
去る二月二十日、農林大臣が閣議で
報告された総合農政の
内容を見ますと、
第一に、
農業近代化のために水田四あるいは五ヘクタール、酪農搾乳牛二十頭以上の自立経営農家を育成して中核のにない手とし、補完的に中小農の共同経営を進める。そのために零細農の切り捨て政策、借地による
農地の流動化を進め、
農業の構造を
改善する。そのために個々の農家の規模は拡大するが、
日本農業の総体は縮小してもやむを得ない。
第二には、
食糧の安定的供給策としては、米の生産を減らし、外国農産物の輸入制限の撤廃や
緩和につとめる。
第三に、農産物の価格は需給を十分反映しなかったので、実勢に合うように改める。つまり、価格による保護政策はとらない。
以上がおもな
内容であります。
これは、昨年の九月末に農政審議会が佐藤総理に答申をした「農政推進上留意すべき基本的事項についての答申」が基本となっております。この答申の基本となっているのは、五年前に財界の有力メンバーによって構成されている
日本経済調査協議会の作成した「国際的観点より見たる
農業問題・我が国
農業の未来像」という
報告書、また、経済同友会の発表した「
日本農業近代化への提言」等の考えに沿うているのであります。
日本経済は、この十年間、驚異的な発展を遂げ、生産はほぼ二倍になりましたが、この工業生産品は、もちろん輸出をふやさなければさばき切れないのであります。
政府は、財界と一体となって輸出ドライブをかけたことは言うまでもありません。輸出を伸ばせば、当然輸入をふやさなければなりません。
相手国からは農産物しか買うものがない。
日本の
農業を縮めても農産物の輸入をふやせ、
農業を縮小するためには農産物価格を引き下げよ。これが財界の
日本農業に対する提言の中心であります。また、アメリカその他の
相手国も、貿易を自由化して農産物輸入の増大を強硬に要求しておりますことは、沖繩返還にからめて自由化を迫ったことにも端的にあらわれているのであります。
政府の総合農政とは、高度経済成長政策と、国内、国外の要求に対応するための総合政策であります。一戸当たり農家経営規模を拡大して、少数のエリート農家を中心とし、農外資本による大経営を組み合わせ、それを補完するものとして生産法人組合経営を添えものにする。生産性の低い
農地は、農産物価格の引き下げで耕作を廃止せざるを得ない状態に追い込み、零細農に対しては離農促進政策を強行する。かくてエリート農家に対しては経営の拡大による農家所得増大の夢を与え、反面、小農の犠牲によって
農業全体の縮小を実現し、農産物輸入を増大しようという、まさに外国
農業、特にアメリカ
農業の一環として、
日本農業の総合政策を推進しようというのであります。(
拍手)すでに
日本の畜産はアメリカからの輸入飼料の支配下にあります。小麦の輸入も年々増大しております。
日本の
農業は荒廃の一途をたどることをおそれるものであります。
その国の
農業は、世界
農業の一環として位置づけべきではなくて、常に国内産業構成の
基盤として位置づけべきであります。したがって、国内の主要
食糧は国内において最も生産の適切なもの、すなわち
日本においては米麦一体の生産増強政策を確立し、米麦一体の完全自給策をとるべきであります。これを実現するために、小麦の輸入を抑制し、価格面におけるある程度の保護政策、すなわち二重価格
制度など当然必要であります。そのためのアンバランスは、
日本産業全体において吸収負担すべきであります。
以上、いずれの点から検討いたしましても、今回の
農地法、農協法の
改正は、財界、
日本資本主義の経済的
海外進出のためと、アメリカの要請に対応するための
改正以外の何ものでもありません。
現行農地法は四本の柱によって成り立っているのであります。第一の柱は、
農地の
農民所有による自作農主義、第二は、所有面積制限による大地主の排除、第三は、耕作権、小作権の確立擁護、第四は、不在地主の否定であります。今回の
改正は、この
現行農地法の根幹を空洞化するものであることは、
委員会における審議の
経過で明らかであります。われわれは絶対に容認できないのであります。
次に、
農業協同組合法改正案についてでありますが、時間の関係上、要点を三つにしぼって
反対理由を明らかにいたします。
第一に、農協に
農地転用の不動産
事業を認めることであります。農協の目的は、
農民の協同組織の発達を促進し、もって
農業生産力の増進と
農民の経済的社会的地位の向上をはかることにあると農協法第一条は明定しております。しかるに、本
事業は、
農地を宅地等
農業外需要に転用することであり、これが実施によりまして組合員の経済規模の縮小なり離農等を促進し、ひいては農協の自壊作用を助長することが、はたして農協本来のあり方から見て妥当なものかどうか疑わざるを得ず、特に最近多くの問題が指摘されている都市農協等にあっては、その機能が一そうあいまいなものとなり、
農業生産に熱心に取り組んでいる組合員の農協に対する期待もますます希薄化していくのではないかと懸念されるのであります。
政府は、本
事業を追加した
趣旨として、農協が中心となり、
計画的な宅地造成等を行なうことによって、
農地の無秩序な壊廃を防止し、かつ、組合員の生活の安定をはかることとしておりますが、現在の農協の実態から見れば、これらのことは全く期待し得べくもなく、むしろ優良
農地の壊廃を促進し、また、
事業にかかわる不正事件が今後一そう多発化することは火を見るより明らかなところであります。
このように、今回の
改正が農協の基本理念にもとることは明白であり、われわれは、農協の健全な発展を願う立場から、この
改正に対しては絶対に
賛成しがたく、
政府並びに農協幹部の猛省を促すところであります。
反対の第二点は、
連合会等の会員の議決権及び選挙権に
特例を認めたことであります。
改正案は、
連合会の会員については、一会員一票制の原則に対して
特例を設けることとしていますが、たといそれが例外的
措置であるといたしましても、特定の会員に議決権等が過度に集中するなどの事態を招きまして、はたして
連合会などの民主的
管理運営が確保されるかいなかについて危惧の念を抱かざるを得ないのであります。
反対の第三点は、総代会の権限を拡大したことであります。
改正案は、総会にかわる総代会の権限を大幅に拡大しようとしておりますが、このことは、農協の基本的事項にかかわる、まことに重大な問題でありまして、農協
運営と組合員の意向とが遊離しつつある現状にますます拍車をかけるばかりではなく、一歩その運用を誤れば、農協は一部有力者のための団体となり、
農民から孤立化することが懸念されるところであります。したがって、われわれは、このような農協の民主的
運営を阻害するような改悪に対しましては、断じて同意することはできないのであります。
以上をもちまして私の
反対討論を終わります。(
拍手)