○田中正巳君 私は、自由民主党を代表いたしまして、ただいま
議題となりました
昭和四十五年度
一般会計予算、同
特別会計予算及び同
政府関係機関予算の三案に
賛成の意を表し、
日本社会党提案の組み替え案に
反対の
討論を行なわんとするものであります。(
拍手)
さて、
わが国経済は、この十年間に年率
実質一一%、特に過去三カ年にあっては一三%という、一般の予想をはるかに上回る高い成長を達成しつつ、本年もなお力強い
上昇の勢いを示しつつあります。
この間、
国民生活の水準は特段の
向上を示したのみならず、
経済の成長と国際収支の
均衡の両立という、
わが国経済の大きな課題はみごとにその
実現を見、外貨準備高も、本年二月末には三十六億三千万ドルに達し、
わが国の国際
社会に占める地位は飛躍的に高まり、この傾向と現象は、いまや世界各国の称賛ないしは羨望の的であることは、世間周知の事実であります。(
拍手)
このように目ざましい発展を示したことは、一に
国民の創意と
努力によることはもちろんでありまするが、反面、日米安全保障体制のもと、重い
防衛費の負担を避けつつ、
政府・与党のとってきました
財政、
経済等、各般にわたる
施策よろしきを得たことによる輝かしい成果にほかならないものと思うのであります。(
拍手)
しかし、こうした
わが国の
社会経済の現況に照らしてみるときに、
昭和四十五年度
政府予算は、率直に申して、その編成がはなはだむずかしいものと考えざるを得ないのであります。
なぜかなれば、こうした高い
経済成長下にあっては、一歩、
財政経済の政策の方向を誤る場合には、
経済は暴走し、過熱状態になり、果ては、
物価及び国際収支を破局的な
状況に持っていくおそれがありますので、ここで、絶対にかかる結果を招来せざるよう、慎重なる配慮を要するという命題があるのであります。
その反面に、五年ないし六年の間に
日本経済が二倍にも膨張するという傾向に対応して、それに十分こたえ得るような
社会資本の
整備充実をしなければなりませんし、また、こうした急テンポの
経済成長からややもすれば生じがちな各種の
社会、
経済のひずみ、アンバランスを、国の
予算等の力をもって解消しなければならず、そのために、相当多額の
財政支出を要するという事情があり、これら一見、二律背反的な要請を持ちつつも、これを巧みに調整しつつ、
わが国経済、
社会の円満なる発展を期さなければならないわけでありまするが、ただいまわれわれが
審議しているこの
政府予算原案は、まさにこの難問に答えて、はなはだ合理的ないしは妥当な編成をした、心憎いばかりに巧みな
予算というべきだと思うのであります。(
拍手)
すなわち、短期的には、
財政面から景気を刺激することなく、節度を保ちつつ、長期的には、資源と富の適正な配分を通じ、
経済、
社会の質的
内容を高めつつ、真に豊かな
国民生活を築いていくための諸
施策を盛り込み、かつは、先般の総選挙におけるわが党
公約を克明に
実現しつつある
予算であります。
そこで、以下、本
予算の特徴と申すべき二、三の点をあげて論じてみたいと思います。
その第一は、
予算規模及び性格が、景気の現局面に対応し、よく節度を保っているということであります。
すなわち、
政府は、
わが国経済の現況にかんがみ、昨年九月に公定歩合の引き上げ等、
金融調整を講じたのでありまするが、さらに、四十五年度
予算を編成するに際しても、
財政面からの調整効果を定着させるべく十分の
努力を払っておるのであります。さきに述べたような諸種の
支出要因、
財政需要のきわめて強い中にあって、その
規模を前年度当初
予算に比べ一七・九%の増加にとどめたことであります。
一部には、この伸び率は
経済成長の伸び率一五・八%を上回るから景気刺激であるという批判をする向きもありまするが、
財政と景気の関係を考える場合には、こうした考察は非科学的ないしは時代おくれであると断定せざるを得ないのであります。すなわち、近代的、合理的手法によるとするならば、それは、単に国の一般会計のみではなく、
特別会計、
財政投融資、さらに
地方公共団体等公的部門の
支出と収入を計算した、いわゆる
政府財貨サービス購入で推計するのが正しいのでありまして、これによれば、明年度の
政府財貨サービス購入の伸び率は一四・八%
程度であり、名目成長率一五・八%をはるかに下回っており、
財政支出はかなり控え目であると申して差しつかえはなく、景気刺激のおそれはないものと考えられるのであります。
また、
財源面では、国債及び
政府保証債を、前年度当初に比べ、それぞれ六百億円減額いたしておること、特に
法人税を
増額いたしたことなどは、民間投資活動を抑制する効果を持つものと考えられ、さきに述べた現在の
金融調整
措置と相まって、総需要を抑制することが期待されまするから、しょせん、明年度
予算の性格は、景気に対し
警戒中立型であると申すべきであります。
第二は、
財源が適正かつ効率的に配分されていることであります。
すなわち、明年度
予算は、限られた
財源を、当面充実を望まれる
社会保障、公共事業、科学技術の振興、
経済協力等に重点的に配分し、これらの伸び率は平均伸び率をかなり上回り、きめこまかく
施策を講じていることであります。
その二、三を御紹介申し上げるならば、まず、
社会保障費については一兆一千億円余になり、その伸び率は二〇・一%であり、今回初めて一兆円の大台を突破いたし、
生活扶助基準をはじめとし、各
施策に十分な充実がはかられているのであります。
また、
社会資本の
整備は、高度な
わが国経済の成長をささえるためにも、また、
国民生活充実のためにも、目下の急務であります。一般公共事業費は一八・三%の伸びで、過去六カ年で最高の伸び率であります。
そのほか、
住宅、
生活環境
整備等にも十分留意いたし、民間投資とのバランスの回復に向かって大きく前進するとともに、
国民生活の質的充実に
努力が払われていることも、まことに適切妥当な
措置と考える次第であります。
第三は、
国民負担の軽減とその公平化促進であります。
苦しい
財源をやりくりし、一般減税として、明年度もまた、所得税について平年度三千五十億円という、かつてない大幅な減税を
実現し、また、地方税についても、個人住民税について平年度七百億円の減税に踏み切ったことは、刮目すべきことであり、国税において、標準
世帯の
課税最低限を百三万円に引き上げたことのほか、特に中堅以下の所得層に対する税率の
緩和措置を講じたことは高く評価すべきであり、さらに、従来から懸案になっておった利子配当の分離課税問題に勇断をもって改革を加え、さらに
法人税
改正については、大
法人と中小
法人との間にきめこまかい配慮をしていることであります。
これらの点につき、一部には、その
措置が十分でないという批判をする向きもありますが、およそかかる改革は、一時にドラスチックな
措置をとる場合には、いわゆる角をためて牛を殺すのたとえのごとく、非現実的であり、少なくとも現実を踏まえてものを考えなければならない政治家の論議としては受け取りかねるのであります。(
拍手)
さて、ここで私は、こうした
予算を執行する際、
政府並びに
国民各位に対し十分配慮していただかなければならぬ二、三の問題を提起いたしたいと思います。
それは、第一に
物価の安定に関する問題であります。
本年度の
消費者物価は、両
米価の据え置き、公共料金の引き上げ抑制等の
努力にもかかわらず、年初以来の生鮮食料品等の高騰もあって、六%を上回ると予想されるに至り、また、従来ほぼ安定していた
卸売り物価も、国際的な関係も手伝って、昨年来十三カ月の間に四・七%の
上昇を示していることは、われわれの十分に注意しなければならない問題であります。この点について
政府は、四十五年度
予算において両
米価の据え置き、
消費者物価寄与率の高い農水畜産物、
中小企業製品等低
生産部門に対し、
生産性の
向上、流通
対策等の
予算を相当に計上しておりまするが、引き続き、その
施策の充実が望まれる次第であります。
また、私が常に懸念をいたしますことは、世上
物価問題がきわめて深刻に論ぜられているにもかかわらず、
物価体系の中には物の
価格のみがあって、労働の
価格、すなわち
賃金のあることをややもすれば見のがしがちであるということであります。(
拍手)しかして、
賃金所得の
向上は
労働生産性の
向上によって得られるものであり、
労働生産性の
向上なくして
賃金を
上昇させれば、
企業は赤字倒産か、さもなければ
賃金上昇分を
価格に転嫁させるか、いずれかの道を選ばなければならぬ結果となるのであります。特に昨年のごとく、
生産性の伸びを大幅に上回る一五、六%の賃上げが行なわれる場合には、経営がいかに合理化に最善を尽くしたとしても、しょせん、
賃金の
上昇を
価格に転嫁せざるを得ない不幸な結果となるわけであります。一部野党諸君は、労働
賃金の引き上げについてはいつの場合にも
賛成ないしは加担をするのでありまするが、
賃金引き上げが災いして
インフレを起こす場合には、労働
分配率は著しく低下し、何人の利益にもならないことはきわめて明確であります。私は、
わが国経済が、
賃金の
圧力が強まり、
労働生産性とのバランスがくずれ、コスト
インフレの過程に入りつつあるのではないかとの懸念を抱き、その前途を深く憂えるのでありまするが、この意見において、少なくとも毎年繰り返されているスケジュール的な賃上げ闘争については、この際真剣に考え直さなければならない時期が到来しているものと思うのであります。(
拍手)
次に要望することは、主として
政府に対してでありまするが、第一に、
財政運営にあたっては、弾力的運用をはかる用意を持ってもらいたいということであります。特に、国と
地方公共団体の間における
財源配分等にあたっては、
地方交付税交付金の年度間調整
制度の一日も早い確立等を通じて、そのしゃくし定木的な画一性を避け、真に
財政需要に即応し、資金の効率的な使用ができるよう
努力していただきたいと思うのであります。
第二は、総合
農政についてであります。
政府は、過剰米に対応するため、明年度百五十万トンの
減産をはかることにしておりまするが、これはまさに農民にとってきわめてショッキングなことであるだけに、十分に親切な、そして思いやりのある行政が望まれてなりません。
さて、この際、私は、本院
予算委員会における
予算審議のあり方について、同僚議員の諸君とともに深い反省をまじめにいたしたいと思うのであります。
衆議院規則第九十二条によれば、
予算委員会の所掌事項は単に「
予算」とのみ規定されておりまするが、従来から
予算をめぐる政治・政策問題を広く論議の対象としてきたことは御高承のとおりであります。しかし、このことはまた、帝国議会時代以来の読会
制度と
予算総会との関係のなごりであったといたしましても、ある
程度その必要なことは私にもよくわかるのであります。しかし、
予算委員会が
予算委員会である限り、おのずからその論議の対象となる政治問題は、それが
予算編成とある
程度関連したものであるべきだということであります。少なくとも、あまり
予算に関係のない一般政治問題について時間をかけ過ぎて、その結果肝心の
予算そのものの
審議が閑却されるようなことのないよう、われわれは十分注意すべきであろうと思うのであります。(
拍手)
最後に、
日本社会党提出の組み替え
動議について一言申し上げます。
本
動議の
内容を見ると、歳出面では、多分に世間受けのみを考えたものが多く、よし
財源の手当てができたといたしましても、現実には直ちに実行できないと疑われるものが多々拝見されるのであります。特に、
財源の調達
方法としては、相変わらず非武装中立論的
立場から発想しておるもののごとく、現在進行中の三次防を急激に中止することによりその大部分を捻出するものであります。かかる
態度は、世界の現状等から見てきわめて非現実的、観念論的なものとして、さきの総選挙において、同党がきびしく
国民の批判を受け、
国会勢力に大きな変動を生じた主要なる原因と論評されておるところであり、さらに既定経費の
実現困難な大幅減額とあわせて考えるならば、この組み替え
動議は、しょせん
わが国の現実政治につき
責任を持つわが党の容認することができないものであり、残念ながら
反対せざるを得ないものがありまするが、いまや
社会党もかかる
態度と
立場を脱却なさらざる限り、
国民の信頼と支持を得られざることになることを同党のために深く申し上げて、私の
討論を終わる次第であります。(
拍手)