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永井参考人 ただいま御紹介にあずかりました
永井であります。私は、一カ月半前まで国立
大学の教師をやっておりました。過去一カ月半民間の会社につとめておりますから、そういう
意味では国立を代弁するわけでもなく、また民間の立場を代弁するのでもなく、わが国の
教育がどういうふうになることが望ましいかということを考える人間の一人として、
意見を申し上げさせていただきたいと考えます。
私が申し上げたい点は、三つでございます。
第一に、
私学振興財団法案という方向に向かって
国会が
活動されていることに対して、敬意を表したいと思います。これは申し上げるまでもないことでございますが、大正七年の
大学令の公布の際に、はたしてわが国の高等
教育をどういう姿にしていくかという問題についての
議論が、当時の岡田良平
文部大臣のもとで臨時
教育会議が行なわれたわけであります。その時期はちょうど産業革命をわが国で終えた時期でありますから、したがいまして、当然理工系の
大学を拡充する、そしてまた
大学卒業生人口がふえるというときに当たりますので、相当
政府として思い切った投資をしなければならないときであったかと思います。しかしながら、実をいいますと、多少の国公立
大学の拡張がありましただけで、それから後、わが国の高等
教育人口の大多数は
私学に負担してもらう、しかし、それに対して
政府は援助をしないというそういう姿が、いわば大正七年にでき上がったわけでございます。したがいまして、本年そのことが問題になっておりますのは、それから数えましてたぶんことしが五十一年目でございます。五十一年目のしりぬぐいということに相なるわけでありまして、あるいは五十一年目の懸案というものに初めてわが国で立ち向かうことになったわけでありまして、私はたいへん望ましいことと考えております。したがいまして、この問題について責任がありますのは、
国会はもとより、
文部省、それから
教育関係者、いずれもが
私学を非常に軽視してきたという結果生じた現在の
大学教育の内部における
私学の混乱でございますから、そしてそれは主として
財政的な困難から、たとえば経営主義に流れるというような問題が生じてきたわけでございますから、私は、この方向でこれから
私学を強化していく、特にその
財政面について本年度はすでに
人件費に対する
補助を行なう、そういう方向が出て、さらに
財団法という形が出てきたのは、望ましいと思っております。
さて、第二点でございますが、ところがこの
法案を拝読いたしますと、幾らか注文をつけたくなる点がございます。特に注文をつけたくなります点は、これがわが国全体の
大学教育の中でどういう
意味合いを持っているのかということについて、必ずしも明確でないという点にございます。御承知のように、一月十二日に高等
教育の改革に関する答申が中央
教育審議会から出ておりますが、それとの
関連がはたしてどうなっているのかということが、私にとってもう
一つのみ込めない点でございます。そのことを二つくらい申し上げましょう。
まず第一は、その一月十二日の答申の第十の部分と思いますが、そこで、これから日本では高等
教育を考えていく場合に、いままでの
文部省のようなやり方では足りないわけであって、もっと長期的に
計画を立てて、そうして長期的
財政計画をつくることが必要であるし、またそれを担当する
機関が必要だということが書いてございます。そういたしますと、そういうものとの
関連においてこの
私学の
財団の問題も出てくるわけでありますし、実は国立な
どもそれとの
関連において考えていかなければならない。現在、
財団の規模は大体この案の中に盛り込まれておりますが、しかしその後に、長期的な
計画期間をどうするか、あるいは五カ年間、十カ年間にわたる
財政計画をどうするかという案が、たぶん
国会で
審議されることになるかと思われます。前後関係が、ですから総合
計画が最初に出るのではなくて、一部分が出て、そうして後に総合的なものを論ぜざるを得なくなるような形になるかと思いますが、したがいまして、その点を御考慮の上で、先行き十分に手直しができる、特にこの
財団の基礎財産などにつきましては、さらに拡充ができるということを十分御考慮願うことが必要かと思われます。
第二点は、やはり改革答申の中に、今後国立、公立、私立の格差、差別を次第になくしていくということが書いてございます。私は、そのことはたいへん望ましいことと思っております。格差、差別をなくすということはどういうことであるのかということをその答申に即していろいろ読んでまいりますと、先ほど
中原さんのお話がございましたようですが、国立
学校は非常な過保護のもとに今日まで
運営されてきているではないか。
大学の自治ということはございますけれ
ども、しかしながら、
大学の
財政的な経営あるいは長期的な
教育研究計画などについては、必ずしも自主的にそれを行なってきてはいない。したがって、答申の中では、今後国立
大学などの中にも、
一つの方向としては
理事会的なものを導入すること、もう
一つの方向としては、もっと徹底して、公社ないしは特殊法人的なものにしてはどうかということが書いてございます。そういうふうにしなければ、おそらく本格的な
大学の自治というものは成り立たないであろうという
意見が述べられているわけであります。その案をすなおに読みますと、実は将来、日本の国立
大学は次第に本格的な
私学的なものになるわけであります。その場合に、したがいまして、
私学、国立をあわせて全体的に
大学と
政府との関係をどうしていくかということをあらためて考えなければならない時期が出てくるかと思いますが、それとの
関連においてこの
法案を御
審議願いたいというふうに、私は考えております。それは具体的に申し上げますとどういうことであるかと申しますと、実を申しますと、国立
大学の中で実際に
大学の経営、
運営を担当しておりますのは、二つの部門であります。
一つは、現状においては教授会です。もう
一つは、
文部省のほうから来ておられる事務関係の方でありますけれ
ども、事務関係の方は、大体監督行政に当たっています。したがって、
法律をよく守っているか、あるいはお金の使い方に間違いがないか、これを調べることは、たいへんけっこうです。教授会のほうは、長々と大ぜいの人間が
議論を果てしなくいたしまして、なかなか本格的な経営の問題には及ばないわけであります。したがいまして、現在の国立
大学におきましては、実は事務関係もあるいは教授会も、そのいずれもが
教育、
研究の
内容を充実するためにどのように
財政を掌握し
運営していくかということを
議論していないのが
実情であります。したがって、私は、将来それを公法人ないしは特殊法人ないしは公社のような姿にしようという案は、たいへん望ましいと思いますが、さてそうなりますというと、実は現在の
文部省の監督行政という姿それ自体も、ある時期にまいりますと相当変化させなければ、日本の高等
教育の
運営はとうてい不可能である。もっとわかりやすく申しますと、たとえば建設省あるいは通産省などでは、監督行政ではなくて、もう少し仕事の
内容に即した新しい行政というものが確立されてきているわけでありますが、
文部省などの場合には、必ずしもそうではない。そうではなくて、主としていままでは一般監督行政の形で動いてきた。これを本格的な
教育経営行政というものに改めるためにはどうするかということを片方で考えながら、こういう
私学財団法案というようなものを検討するということは非常に
意味があると思いますが、それを改めませんでただ
私学財団法案をつくりますと、非常にお役所的な形で関与する、そうして
法律は守っておるでしょうか、あるいは
財政の点について
使途にあやまちはないであろうかという、そういう一般監督行政的な形におけるいわば
大学に対する関与というものが出てきやすいと思うのです。そういう全体的なスコープの中で、いわば展望の中で私は今度の
私学に関する
助成の問題もお考え願いたい。これが第二点でございます。これは
国会でもって
法案の成立を非常にお急ぎになっておるときに、根本問題にまでさかのぼれという注文であるように聞こえるかと思いますが、私は、おそらく中教審の答申が
国会で本格的に
議論されるときには、どうしてもそのことが問題にされざるを得ないことになってまいりますから、あらかじめいまからそれとの
関連というものを十分お考えの上でもって当
法案を御
審議になることが妥当であるかというふうに思っているわけであります。
第三点は、したがいまして、あまり申し上げることはありませんけれ
ども、当
法案に即して、若干具体的なことを申し上げさせていただくことにいたします。これは先ほどから数回、何人かの方から出たことでありますが、お金がどんどん
私学のほうにいくことは望ましいことですけれ
ども、その場合に、
財団の中心になる
役員というふうなものがどういうふうに
構成され、そうしてどういうふうに
任命されるかということを、もう少し詰めていただくことが必要ではないかと思います。その場合に、二つの点が必要であります。先ほどからなるべく
私学側の
意見も聞くようにというおことばもございました。私は、
審議会をつくったりあるいは
理事会をつくる上でそういうことは必要かと思います。しかし、世界じゅうの
大学の歴史を見ますと、
大学の内部の力によって
大学が本格的に改革された例は、ほとんどございません。それはなぜかというと、
大学の内部の人たちは
——これは私は
私学のことだけ申し上げているわけではございませんので、私は国立の
大学の教師をしてまいりましたから、国立のこともよく存じておりますが、なぜかと申しますと、
大学の内部からそういう
議論をいたします場合には、おのずから現在までの状況を維持するという傾向に流れることが多いからでございます。
大学の人間というものは、社会のあらゆる改革について述べるけれ
ども、
大学だけについては述べないというのは、歴史的な
一つの定則といってよろしいかと思います。したがいまして、
審議会、
理事会の
構成の場合に私は外部の人間を入れるということがたいへん大事だ、それをミックスするということが大事であるかと考えます。ただ、その外部の人間というのが、天下りの監督行政の先輩であるということでは困るわけでございまして、むしろ
教育、それから経営の
内容、そういうものを
ほんとうに
理解するような人間をどのように入れていくか。これを
法案の中でもって
規定していくことがはたしてどういう姿で可能か、むずかしい問題だと思いますが、これは
国会の立法の専門家がここにおいででございますから、もし私の
趣旨をおくみいただきますならば、私
あとで
意見を申し上げる必要があれば申し上げますが、お考え願いたい点の第一点です。また、
理事長は
文部大臣の
任命という形になっておりますが、そういうふうな大きな重要な
財団ということになりますと、
文部大臣の推薦で
国会の承認を得るというぐらいのところまで進めるほうが、むしろ妥当なんではないのか。というのは、
文部省の監督行政それ自体もどんどん変えていかなければならないというところにきているわけでありますから、その場合に
文部大臣の
任命という姿だけでとめておきますのは、いささか保守的な考え方に過ぎるように私は
感じております。
さらに、もう
一つの問題だけをつけ加えさせていただきますと、それはどういうことかといいますと、現在四年制の
私立大学が約二百五十ほどあります。日本の国民がみんな大いに働いて、そしてどんどんこれにお金を注ぎ込みましても、たいへんお金がかかります。そこで、
計画の問題であります。これはおそらく五十数年ネグられていた問題でありますから、根気よく五年、十年、二十年をかけて、私は日本の高等
教育というのを充実していくように考えなければいけない。そこで、さしあたって
先生方のお給料が非常に安い。私は
大学の教師をしておりましたから、当然
先生方の友人が多いのでありますけれ
ども、
先生方の生活というのは、現在日本が世界の中で非常に重要な立場に立っている国であるということを考えますと、皆さま方にもお話をすると
ほんとうにお驚きになるような、そういう形で生活をせざるを得ないのが現状です。そこで、さしあたってそういう
人件費の
補助があるのは望ましいのですが、さらに将来、
教育、
研究の
内容を充実していくという場合には、どうしても選択的にならざるを得ないだろうと思います。その選択をする場合の問題は二つあります。
一つはだれがどういう姿で基準をつくるのか。この問題を十分に詰めていただきたい。それからその基準が明らかになった場合には、この
財団のほうないしは
政府のほうが、あの
学校をひとつ助けてやろう、この
学校を助けてやろうというふうに
政府のほうから選び出すというのではなくて、
学校のほうがみずから名のりをあげる。私のほうにはこれほどりっぱな
研究ないしは
教育の
計画があり、しかも
経理内容はかくかくしかじかということで、一種の応募制と申しましょうか、あるいは申し込み制といってもよろしいわけでありますが、そういう姿でもってむしろ自主的な
計画を強化するという形で
財団が動いていくことが、たいへん望ましいことではないかと思っております。実は、これは常識的なことでありまして、たとえば企業の場合、銀行がどこの会社も非常に経営状況が悪いから、おしなべてみんな助けましょうということをやる銀行はないわけです。むしろほかの会社と違ってこういう将来
計画を持って発展していくというふうに働きかけてくる会社について、金融
機関はそれを
審査して助けるわけであります。それとほとんど同じようなことが、将来は国公私立のすべての
大学に妥当すべきだと私は思います。私は、決して、私立だけがそうなるべきであるとは思いません。そういうわけで、この
私学振興財団の
法案の御検討というのは、必ずしも
私学を助けるというだけの問題ではなくて、実は将来日本の
大学の姿をきめていくという、そのくらいの抱負をもって御検討願いたいわけなんです。私は国立
大学、公立
大学の姿というものも、現状において必ずしも望ましいものでないばかりか、多くの問題を含んでいる、このことはすでに昨今の事態によって明らかであると考えております。そうすると、この
財団法案によってただ
私学を助けるのではなくて、将来の日本の
大学をどういうふうに強化していくのか。それと
政府との対応関係あるいは
財政の対応関係はどのようになっていくのか、こういう角度から御検討になることをお願いしまして、私の
参考意見といたします。まことにありがとうございました。(拍手)