○安達
政府委員 ただいまの
文部大臣の
説明を補足して、
法律案の内容について御
説明申し上げたいと存じます。
第一は、この
法律の目的、用語の定義及び適用範囲を定めることについてであります。
この
法律は、著作物並びに実演、レコード及び放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護をはかり、もって文化の発展に寄与することを目的とすると規定し、この
法律の目的が著作者等の権利の保護に重点を置き、あわせて著作物等の公正な利用を確保するための方途を講ずることにあることを明らかにしたのであります。
用語の定義におきましては、「複製」とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により著作物を再製することをいうこと、「美術の著作物」には、美術工芸品を含むこと、「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとして、固定されたテレビ著作物は映画とみなして取り扱うことなどを規定いたしました。また、「上演、演奏、口述」には、これらが録音物、録画物を再生して行なわれる場合を含むこととして、従来出所の明示を条件として自由利用が認められていたレコードを用いてする音楽等の演奏に著作権が及ぶことを明らかにしたのであります。
この
法律の適用範囲につきましては、著作物に関しては、
日本国民の著作物のほか最初に国内において発行された著作物等が、実演に関しては、国内において行なわれる実演等が、レコードに関しては、最初に国内において音の固定が行なわれたレコード等が、また、放送に関しては、国内にある放送設備から行なわれる放送等が、それぞれこの
法律の保護を受けるものと定めました。なお、実演に関しましては、当分の間外国人の実演家には、原則としてこの
法律を適用しないことといたしております。
第二は、著作者の権利を定めることについてであります。
その一は、著作物についてその例示を類別して詳細に掲げるとともに、憲法その他の法令等その性質上この
法律で定める権利の目的とすることが適当でないものを明定いたしました。
その二は、著作物について、著作者の推定に関する規定を設けるとともに、法人等の従業者が職務上作成する著作物で法人等の著作名義で公表されるものの著作者は、特約がない限り、その法人自体であるとして、法人等が著作者となり得る場合を明らかにし、また、従来その取扱いが明らかでなかった映画の著作者について、制作、監督等を担当して映画の全体的形成に創作的に寄与した者を著作者とする旨を定めたのであります。
その三は、著作者の権利の内容について、著作者は、何らの方式の履行を要せずして、著作物を創作した時から、著作者の人格的利益にかかわる著作者人格権と、著作物の経済的利用にかかわる著作権を享有するとして、著作者の権利が著作者人格権と著作権に大別されることを明らかにいたしました。
著作者の人格的利益の保護について、現行法は、他人の著作物の著作者名を隠匿し、その題号、内容に改ざん変更を加えてはならないと規定しているにとどまるのに対し、この
法律案では、私法上の権利として積極的に著作者人格権を規定いたしました。その内容といたしましては、未公表著作物の公表を決定する権利、著作者名の表示のいかんを決定する権利及び著作物の改変を禁止して著作物の同一性を保持する権利を定め、さらに著作者の名誉、声望を害するような方法で著作物を利用することもまた著作者人格権を侵害することとなるものとするなど、著作者の人格的利益の保護に十全を期したのであります。
著作権については、複製権、上演・演奏権、放送・有線放送権、口述権、展示権、映画の著作物等の上映・頒布権、翻訳・翻案権等を含むものとしてそれらの内容を明らかにするとともに、翻訳物、翻案物等の利用について原作となった著作物の著作権が及ぶことを規定いたしました。
その四は、映画の著作物の著作権の帰属等について特例を設けました。映画の著作物の著作権につきましては、映画の著作者の多様性、映画の製作における映画製作者の寄与の大きいこと、映画の利用を容易ならしめるため、権利を集中させる必要があることなどの理由により、この
法律案におきましては、ベルヌ条約や諸外国における立法例をも勘案し、かつ
わが国の映画製作の実態をも考慮して、通常の映画の著作物の著作権は、映画製作者に帰属するものといたしました。さらに、映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属した場合には、著作者は、その公表に同意したものと推定する規定を設けて、著作者人格権の面でも、映画の著作物の特性に着目した
措置を講じております。
なお、従来、嘱託による肖像写真の著作権は、嘱託者に属することとされていましたが、このような規定は設けないことといたしております。
その五は、著作物の公正な利用をはかるため、今日における複写、録音手段等の発達普及及び公共の利益との
関係を考慮して、著作権の制限の規定を整備いたしました。
従来の私的使用、引用、教科用図書等への掲載、時事問題に関する論説の転載、政治上の演説等の利用、営利を目的としない上演等及び裁判手続等における複製に関する規定を整備するとともに、新たに、図書館等における複製、
学校教育番組の放送、
学校その他の
教育機関における複製、
試験問題としての複製、点字による複製等、時事の事件の報道のための利用、放送事業者による一時的固定、美術の著作物等の原作品の所有者による展示、公開の美術の著作物等の利用及び美術の著作物等の展示に伴うカタログ等による複製についての規定を設けることといたしました。さらに、著作物を利用する場合にそれを翻訳しても利用することができる場合等について明定し、その他出所の明示、著作権の制限の規定によって作成された複製物の目的外使用について規定いたしております。これらを規定するにあたっては、著作権の制限による著作物の利用の要件を厳密にし、また、教科用図書等に掲載する場合には所定の補償金を支払うべきものとするなど、著作者の権利を書しないよう配意いたしました。
なお、従来問題となっております適法に作成された録音物を用いてする著作物の興行及び放送については、さきにも申し述べましたように、著作権が制限されるたてまえを廃止することとし、また、文芸学術の著作物の楽譜への充用等の規定は、設けないことといたしました。
その六は、保護期間について、著作権の原則的保護期間を著作者の生存間及びその死後三十八年間から著作者の生存間及びその死後五十年間に延長することといたしました。これに伴って、無名、変名の著作物及び団体名義の著作物の保護期間は、公表後五十年間とし、映画の著作物については、公表後五十年間保護することといたしました。また、写真の著作物については、現在発行後十三年間であるのを公表後五十年間と大幅に延長することといたしました。なお、遺著の保護期間に関する現行の特例規定は存置しないこととし、さらに無名、変名の著作物に関し、その著作者の死後五十年を
経過していると認められるものは保護しない旨を定めました。
その七は、著作者人格権及び著作権についてそれぞれの性質を考慮して規定を整備し、著作者人格権の一身専属性、著作権の譲渡性その他について定めました。
その八は、裁定による著作物の利用について著作権者不明等の場合の著作物の利用及び当事者間で協議がととのわない場合における著作物の放送にかかる裁定に関する現行規定を整備いたしました。また、新たに、音楽の著作物を商業用レコードに録音することについて裁定の規定を設けました。これは、音楽の著作物についての録音権が長期間にわたり独占されることのないようにし、音楽の著作物の利用を容易にするためのものであります。さらに、これらの裁定の手続、補償金の供託手続等に関し、規定を整備いたしております。
その九は、著作物にかかる登録について、従来の規定を整備するとともに、著作物の著作年月日登録の制度を廃止して、新たに著作物の第一公表年月日登録の制度を設けました。
第三は、出版権についてであります。
出版権に関しては、その存続期間の起算点について「出版権の設定後」を「最初の発行後」と改めたこと等若干の改善を行ないましたが、おおむね現行の出版権に関する規定を踏襲し、これを整備するにとどめました。
第四は、著作隣接権制度の創設についてであります。
わが国では、現在演奏歌唱及び録音物については、著作物として保護することをたてまえといたしておりますが、これらはその性質上著作物としての保護になじまない点もあり、また、一九六一年に実演家、レコード製作者及び放送事業者の保護に関する条約が成立したことをも考慮して、著作物の利用に関連を有する実演家、レコード製作者及び放送事業者を保護するための著作隣接権制度を創設することといたした次第であります。
実演家とは、演奏歌唱者のみならず、俳優、舞踊家等著作物を演じる者及び著作物を演じないがこれに類する芸能的な性質を有する行為、たとえば曲芸などを行なう者をいい、さらに演劇等の演出家及び音楽の指揮者を含むものとすることを明記いたしました。実演家は、実演の録音・録画、その録音物・録画物の増製及び実演の放送に関し、これらを許諾する等の権利を有し、また、商業用レコードが放送または音楽有線放送において使用される場合に二次使用料を請求する権利を有することとなります。この二次使用料の請求権は、国内において実演を業とする者の相当数を構成員とする団体で特に指定するものがあるときは、その団体によってのみ行使できるものといたしました。
レコード製作者は、レコードを増製する権利を有し、及び商業用レコードが放送または音楽有線放送において使用される場合に二次使用料を請求する権利を有することとなります。二次使用料の請求権は、実演家の場合と同様に、国内において商業用レコードの製作を業とする者の相当数を構成員とする団体で特に指定するものがあるときは、その団体によってのみ行使できるものといたしました。なお、実演家及びレコード製作者のレコードの二次使用料を請求できる範囲につきましては、これを広範に認める立法例もありますが、
わが国の実態に照らし、放送及び音楽有線放送に限定することといたしております。
放送事業者は、放送を録音・録画し、その録音物録画物を増製する権利、放送を受信して再放送する権利及びテレビジョン放送を拡大装置を用いて公に伝達する権利を有することとなります。
これら実演、レコード及び放送にかかる権利の保護期間については、それぞれ実演が行なわれたとき、レコードが作成されたときまたは放送が行なわれたときから二十年間これらを保護することといたしました。その他、著作隣接権の制限、譲渡、消滅、行使、登録等に関しては、著作権に準じて取り扱う旨の規定を設けております。
第五は、著作権等に関する紛争処理のための制度を設けることについてであります。
著作権等に関する紛争について実情に即した簡易な解決をはかるため、あっせんの制度を設けることとし、著作権紛争解決あっせん
委員を置くこととしました。
第六は、権利の侵害について定めることについてであります。
この点につきましては、特許法等の例にならい、著作権等の侵害の停止、予防のために必要な
措置の請求権について規定し、あるいは著作権等の侵害にかかる損害額の推定規定を設ける等、この
法律が認める権利の侵害に対する救済が有効に行なわれるようにいたしました。また、著作者の死後におけるその人格的利益を保全するため、著作者の遺族または著作者が遺言で指定した者が、死亡した著作者の人格的利益を害するような行為に対し、適切な
措置を講ずることができるよう定めました。
第七は、罰則についてであります。
著作権の侵害につきましては、現行の二年以下の懲役または五万円以下の罰金を三年以下の懲役または三十万円以下の罰金に引き上げるとともに、著作者人格権の侵害についても著作権侵害の場合と同一の刑罰を科することとするなど、罰則を整備いたしました。また、新たに、いわゆる商業用レコードの海賊版を防止するため、不正競争防止的な観点に立ってこの
法律によって著作隣接権を認められないレコードの原盤の提供を受けて国内の業者が製作した商業用レコードを商業用レコードとして無断で複製した者は、一年以下の懲役または十万円以下の罰金に処するものといたしました。このほか、罰則を実効あらしめるため、法人等の従業者の行為についての両罰規定を設けております。
次に、この
法律の施行に伴う
経過措置のおもなものについて御
説明申し上げます。
この
法律は、従来の保護期間の暫定延長の
措置をも考慮し、
昭和四十六年一月一日から施行するものといたしております。この
法律は、著作物に関しては旧法による著作権が消滅しているもの以外のすべての著作物に適用され、また、実演、レコードおよび放送に関してはこの
法律の施行後に行なわれた実演等に適用されますが、従前の演奏歌唱及び録音物につきましては、旧法によるこれらの著作権の存続期間のうちこの
法律の施行の日において残存する期間か、この
法律の施行の日から二十年間かのいずれか短い期間、この
法律の著作隣接権の制度が適用されるものといたしました。
次に、翻訳権につきましては、現行法におけるいわゆる翻訳権十年留保の制度は、世界の大勢や著作権保護の精神などから、これを廃止すべき段階に来ているものと判断し、今般廃止することといたしました。ただし、急激な変動を避けるため、すでに翻訳権が消滅している著作物について遡及適用しないこととするとともに、この
法律の施行前に発行されている著作物についてはこの制度の適用があるものとし、実質上この制度をなお十年間維持する等の
経過措置を講ずることといたしております。
また、適法に作成された録音物を用いてする音楽の著作物の演奏につきましては、さきに申し述べましたように現行法のたてまえを改めることといたしておりますが、
わが国におけるレコード使用の実情を考慮して、当分の間、音楽喫茶等政令で定める営利事業において行なわれるものに限って、権利を認めるよう
経過措置を講ずることといたしました。
最後に、この
法律の施行に伴う
関係法律の整理等の内容を御
説明申し上げます。
まず第一に、この
法律において新たに実演家、レコード製作者及び放送事業者の権利として著作隣接権を定めることに伴い、
文部省設置法、破産法、関税定率法、相続税法及び放送法中の著作権に関する規定に著作隣接権に関することを加えてこれを整備するとともに、この
法律において著作隣接権に関する登録の制度を設けることに伴い、登録免許税法において著作隣接権の登録にかかる税率を定めております。
第二に、
日本国との平和条約第十五条(c)の規定に基づき、保護期間に関し旧著作権法の特例を定めている連合国及び連合国民の著作権の特例に関する
法律、及び万国著作権条約の実施に伴い、保護期間の相互主義、翻訳権の特例等を定めている万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する
法律について、これらの特例をこの
法律の特例とする必要がありますので、所要の改正を行なっております。
その他、著作権に関する仲介業務に関する
法律、
学校教育法、教科書の発行に関する臨時
措置法、
文部省著作教科書の出版権等に関する
法律及び登録免許税法等の規定において、この
法律の規定に照らし、用語の変更等所要の整備を行なっております。
以上、この
法律案の内容について補足
説明をいたした次第でございます。