-
-
○
天野委員長 これより会議を開きます。
建設省設置法の一部を改正する法律案を議題といたします。
質疑の申し出がありますので、これを許します。鬼木
勝利君。
-
○鬼木
委員 きょうは大臣がおいでになっておりますので、大臣に少しお尋ねいたしたいと思います。過疎、過密ということが今日非常に問題になっておりますが、都市政策の基本的態度について大臣の御見解をいろいろお尋ねいたしたいと思うのです。
最近新聞にいろいろ報道してございますが、ただ単にひずみの是正というような観点からばかりでなくして、長期的展望に立ってこれを観察いたしますと、都市部の人口集中というような点について、これをなるがままに、自然の成り行きのままにまかせておるというような状態では、過疎過密がますます激しくなるのじゃないか。でございますので、地方の振興開発ということも今日非常に大事な問題でございますが、産業の面におきましても、あるいは文化の面におきましても、今日はあまりにも大都市水準ということに傾いておるように思われます。そういう点について、基本的に都市政策ということに対してどういう考えを大臣はお持ちであるか。でないと過疎過密の格差が非常に激しい。御承知のとおり地方財政は極度に逼迫する。地域的にこれを考えてみましても、過疎過密は非常に激しくなっておりますが、そういう都市計画に対して、大臣はどういうお考えを持ち、またこれから進めていこうとなさっておるのか。まず最初にその点をちょっとお尋ねしたいと思います。
-
○根本国務大臣 御指摘のとおり人口、産業、文化施設等が都市に集中し、反面におきまして農村、山村が非常に過疎化しておるという現象は、これはわが国のみならず、世界的な現象でございます。しかし特に日本は高度成長が連続して戦後から二十数年の長きにわたって続いておりまするので、その傾向が特に著しいということでございます。それには今日までのいろいろの経済的理由があったのでございまするが、このままにしておきますと、御指摘のとおり人間生活そのものも非常にスポイルされるし、産業自体もかえってデメリットになってくるではないかというふうな心配も出てきたわけでございます。一般の国民の皆さんも、人間の幸福とは一体何ぞやということをあらためて考え直す時期に来ておるというふうに考えられるのでございます。こういうような状況を踏まえまして、政府としては、御承知のようにこの基本的な問題を処理するためにいわゆる新全総、新しい経済社会発展計画という総合的な計画を持ちまして、その基礎的仕事を受け持っておりまする建設省としては、特にそうした点を配慮して政策を行なおうとしておるのでございます。
この経済並びに人口の都市集中の最大の原因は、やはり従来都市に社会資本が集中的に投入されておったために、それだけの経済的な利益あるいは文化的な利益を享受できるという条件が主たる原因であったと思うのでございます。したがって、この弊害を是正していくためには、やはり社会資本の重点的な配分を全国的な均衡のとれた事業計画によってすることが必要であるというふうに考えた次第でございます。したがいまして、従来ややもすれば都会集中が人類の文化の必然的な傾向であるから、その必然的な傾向に対応して社会資本はやるべきだという、数年前まである一部の経済学者あるいは都市学者が言っておりましたところの理論をわれわれはそのままにはとらずに、いま申し上げたような形でこれを再検討した上に長期計画をつくった次第でございます。
すなわち、一番基本の問題である交通問題についても、道路政策も、国道、地方道をはじめといたしまして、いわゆる地方の中心都市と山村をも含めた一つの生活圏構想を建設省がつくりまして、都市機能と山村との間を道路のネットワークで結ぶことによって過疎現象を緩和すると同時に、地方に産業文化の中心点をつくるという構想をつくったことがその一つでございます。
一方におきましては、新しく都市計画法、都市再開発法あるいは建築基準法等を改めまして、都市におけるスプロール化現象、無秩序な住宅あるいは工場地帯の乱立することを防ぐために、市街化区域と
調整区域に分けまして、市街化区域については計画的に道路、下水道、さらに公共施設としての学校、公園、緑地等を整備していく。市街化区域内の大都市の都市機能は、むしろこれは管理機能が集中的に集まるところですから、そういう趣旨で都市の高度利用のための高層建築に高さの制限をやめた。そのかわり容積制限にした。それから中心都市に立地することを必ずしも必要としないような工場はどんどん周辺に持っていくというやり方をし、それから市街化区域における住宅地も、細分いたしまして生活に住みよい条件をつくることとともに、商業地域や工場地域とはっきり分離した。そのかわり
調整区域については原則として都市化はしない。農業、緑地として保存するというやり方をいたしました。
それからもう一つ、基準法を改正をいたしまして、先ほどのように高さの制限を撤去するとともに純住宅地にはいろいろの商業並びに工業用の建築物はつくらない、こういうふうなやり方をいたしまして、いま御指摘のような問題にこたえよう、こういう姿勢を示しておるのでございます。
都市基本政策については、論ずればたいへんたくさん問題がございますが、まず一応の基本的な考え方を御説明いたしました。あとは順次御質問に答えて具体的な答弁を申し上げたいと存じます。
-
○鬼木
委員 いまの大臣の御説明をお聞きしましたが、たいへん卓越したお考えをお持ちのようでございます。この人口、産業のいわゆる過度な都市集中ということに対しまして、斉合性といういいことばを使っておられるようですが、大臣は重点的に均衡のとれた投資をやるというようないまのお話しでございました。交通の面におきましても、あるいは道路、住宅の面におきましても、過疎現象を緩和する、そして斉合性を持った公共投資によってその目的を達成したい、こういうお話しでございました。また生活圏の構成というような表現もいまなさっておるようでございましたが、五カ年計画によるところの住宅の問題に一例をとりましても、最終年度の目標には達しない。今年度は公営住宅は八万一千戸だ、こういうふうに発表してあるようでございますが、五カ年計画の最終年度の目標にも達しない。また、今回新計画を発表されておるようでございますが、それも縮小のおそれがあり、公営住宅などはますます期待薄だと、新聞にも載っておるようでございます。いま大臣の御説明をお聞きしますと、非常に水も漏らさぬような御計画のようでございますが、私どもの考えからいたしますと、またあとでずっと計数的にいろいろ御相談申し上げたいと思うのでございますが、大臣のお考えのように、今日交通、道路あるいは住宅、いわゆる総合的に生活圏の構成が皆さんの五カ年計画の最初の方途どおりに達成せられておるかどうか。これで満足だと思っていらっしゃるのか。われわれの考えどおりになかなかいかない、非常に大衆に迷惑をかけておるというようなお考えを持っておられるのか。その点を承りたい。
-
○根本国務大臣 具体的に、住宅政策について、今日までの五カ年計画が達成されてないのは一体どういうことかということがまず第一だと思いますが、そのとおりでございます。これは総合的には、政府の全体の総合政策が均衡がとれていなかったというところに原因があると私は思います。
御承知のように、住宅のうち公的資金による住宅が本年度末で大体九六%より達成できないという現在の段階でございます。この主たる原因はどこにあるかと申しますと、一応用地は取得いたしまして手配をいたしました。ところが、公団住宅あるいは公庫住宅や公営住宅のうち、公団住宅や供給公社の住宅が若干立ちおくれています。特にこれは東京都を中心とするところの首都圏でおくれているのです。その主たる原因はどこにあるかと申しますと、公団等が住宅を建設しようとした場合に、地元の地方自治体が非常な条件を出されるのでございます。それは学校とか保育所とかあるいは下水、こうした施設をつくる財的裏づけが地方自治体にない。また最近では水の手配が十分にできていない。したがって、大きな団地が出てくるということは地方自治体の非常な財政負担になる。そこで、そういう場合には公団自身が学校の敷地なりあるいは保育園なりあるいは下水そのものを負担すべきである、こういう要求が出てくるのでございます。ところが、そうした場合にそれを公団が負担しますというと、御承知のようにこれは財投資金でやっているために、どうしても家賃を高くしなければならない。現在でも高いといわれるところを、そうした公的施設を公団自身が負担をすることで高い家賃にするわけにはいかない。そこでトラブルがあり、用地はせっかく取得したけれども建設ができない、こういう現状が特に東京都を中心とする都市にあるのでございます。
それからもう一つは、千葉県あるいは埼玉県等におきましては、地元も相当協力していただくけれども、どうしても処置できないものが水でございます。御承知のように都市生活には上水道がつきものでございまするが、従来利根川水系あるいは江戸川水系等、これは十分に話をして水の配分をやっているのでございまするが、その配分内においてはとうていさばき切れないというような現状で、新たなる都市用水を持ってこなければ住宅をつくっては困る、こういうことが県側から強く出てくるのでございます。そうしたためにこれが停滞しておるということはまことに遺憾でございます。
したがいまして、私は現在この問題を解決するには建設省だけではできないので、大蔵大臣並びに自治大臣、経済企画庁長官と相談いたしているのでございまするが、これはあとで出てくると思いまするが、地価対策等もあわせて考える意味において、地方自治体に独自の財源を与えるべきである。すなわち、固定資産税を弾力的に適用することによりまして、都市計画税とともにこれを少し引き上げまして、一面において土地を持っておることで投機的な利益を与えることを防ぐとともに、地方自治体に財源を与えることによって公共施設を自分でつくり得る基盤をつくってやるということが一つでございます。それからもう一つは、特に下水等については、公共投資を相当思い切って積極的に国が予算化をして、これを負担してやっていくこと、それから地方財源について人口集中するところについては特別なる財政需要に応ずるための特別平衡税等をも考えるべきであるということを、われわれは関係方面に要請しているのでございます。これなくしては、いわゆる住宅政策だけで住宅問題が解決できないという状況になっているので、これはそういう面を十分にやっていかなければ、せっかく国会の諸先生の協力によって住宅政策そのものの予算化はできても、現実には執行ができないために、これが次の年度においては予算化を削られざるを得ない、こういう状況でございまして、この点は特にこの国会終了後の適当な時期に関係閣僚の懇談会を設けまして、そうした問題の解決に努力したいと考えておる次第でございます。
-
○鬼木
委員 住宅を建設されるという点におきましては、それはいま大臣の御説明がるるありましたごとく、そういう付帯的な当然整備しなければならぬ条件がたくさんあるんだ、これは非常によくわかります、想像がつきますが、もともとこの四十一年から四十五年度の五カ年計画におきまして、建設省は当初七百六十万戸ということに基準を置かれたと承っておりますが、その点間違いございませんか。
-
○根本国務大臣 そのとおりでございまして、そのうち公的資金のものが二百七十五尺それから民間が四百万戸でございます。ところが、いま申し上げたような事情で、昨年度相当実は公的資金に基づく住宅が、計画したのが実行できなくなってしまいました。そうでありまするから、今度予算化しても、現実に今度は使えないというような状況で、本年度予算折衝のときに実は私は最初相当強く住宅政策のために予算要求をやったのでありまするが、現実に計算していくと、こっちのほうで幾らやっても、地方自治体でこれが引き受けてもらわなければ、またまた予算執行が不可能になります。ということは、国会の御承認によってできた予算が執行できなくなるということは、これはたいへんな御迷惑をかけることである。そこで、問題は実質的にやらなければならぬということで、予算上は年度末までに完成しない。九六%程度よりならない。しかし民間関係は幸いにも民間デベロッパーと地元自治体との間がわりあいに円滑にいって、これは一〇〇%をこすということで、全体としてこれが達成できるということで、がまんせざるを得ない。この状況を踏まえて来年度から始まる新たなる五カ年計画では、そうした今日まで達成できなかった原因を十分に究明した上、それに対する措置も講じていかなければ、ただ単に予算だけを、建設省だけがとったというだけではいかないじゃないかということで、関係閣僚に協力を求めておる次第でございます。
-
○鬼木
委員 いま大臣の御説明はまことにりっぱな御説明でございますが、当時建設省としては七百六十万戸当初要求された。野党としましては九百万戸以上、約一千万戸になんなんとする私どもは要求をしたわけなんです。だから、伝えられるところによると、そのころの大臣は根本大臣ではなかったかもしれませんけれども、建設省がこれは腰砕けしたのだ、大蔵省からやられたのだ。これは大蔵省のそのころの大臣は福田大臣であったかだれかわかりませんけれども、たとえ福田大臣であろうがなんであろうが、公益優先ということからしましたならば、私は徹底的に予算の要求をやってもらわなければいけない。昭和四十三年の十月の住宅統計調査によりますと、まだ三百六十一万戸が住宅難である。住宅宅地審議会住宅部会へこれは報告があっております。これは私調査しております。四十一年度から四十五年度まで五カ年計画が目的どおり達成されたとしても、なおかつ二百万戸以上不足しておるのですね。しかも、政府は一世帯一住宅だということを盛んにおっしゃっている。これは根本建設大臣も御承知のはずでございます。一世帯一住宅と、こう公約しながら、計画の当初からすでにこういう不足を来たしておる。その原因については、いまるる大臣から御説明ありましたが、その大臣の御説明を拝承しますと、もう一々ごもっともでございますけれども、しかし私どもとしては、そういう観念的な御説明だけではどうしても納得のいかないことがある。これに対しては、私はもっといろいろ要因がある。あなた方の御計画なさった五カ年計画——大蔵省から予算を削られて、そうしてあなた方の五カ年計画をお立てになって、しかもそれが九五、六%しかできていない、一〇〇%できていない。なぜそういうことになったかというその要因ですね。これは大臣のいま御説明になったことも、それは原因ですが、もっと私は要因があると思うのです。それは事務当局のほうでもいいから……。
-
○根本国務大臣 いま鬼木さんからいろいろ追及を受けたのでございまするが、私は住宅問題について、質問がいまございませんでしたけれども、これは基本的にみんなでお考えいただきたいと思うのです。ということは、私が就任して各方面でいろいろ座談会あるいは討論会をやった場合に、私が民間の力を活用すべきだと言ったことが逆にとらえられまして、政府は公的資金で住宅をつくることができないから、民間に責任転嫁しているじゃないか、こういう議論がなされております。ところが基本的にそれは違うのです。これは現在の状況において、公的資金で安い住宅を貸し家でやるという政策をとるという前提になりますというと、国民の皆さんが自分が税金を相当多く出していただいて、そうして低家賃でやれということにつながるならわかりますけれども、税金はなるべく納めないようにして、特に勤労者は納めないようにして、そうしていま御指摘のように、非常に住宅需要の多いときに、しかもこれから核家族化し、さらに最近は、御承知のように、戦後のベビーブーム時代に生まれた方々が家庭を持つというときに、それこそ観念的にはそれは非常に聞こえがいいけれども、現実に不可能ということでございます。その証拠に、現在政府がありったけのことをやっても公団住宅並びに供給公社でつくった住宅には百倍、何百倍の入居が殺到している。この事実によってもわかることでございます。
そこで、私は、民間資金でやれということは、民間デベロッパーだけでやれということではない。現在日本の相当の企業が増収、増益を続けて五年の長きにわたっております。ところが、この企業が、世界に類例のない賃金ベースアップが、これまた五年の長きにわたっておりまして、ごく最近、本年を含めて大体三年ないし二年は生産性を上回る賃金アップが続いております。そうして、その結果が物価高になり、物価高になれば賃金アップということで、これはもう非常に危険な状況になっておるわけであります。そこで、私は、企業自身が自分の従業員に対して持ち家政策をやれということを提案しているのでございます。そうして、その企業が持ち家政策をやることによって実質賃金を高くしたということになり、しかもそれによって勤労者が定着し、安定する。勤労者も退職してから自分の家屋敷を持てるか持てないかという心配より、十五年なら十五年勤務すれば、そこで自分の持ち家が持てるということになれば、これは非常に安定するではないか。そうした政策をする企業に対しては、持ち家政策のために使った経費の一部については損金として計算する。また、そういう民間企業に対しては政府の財投資金をもって助成をする。こういうことにすれば、税金を取って政府が住宅をつくってやるよりもずっと効率的で、かつ民主的で、かつ労使ともに安定する。と同時に生産性を上回る賃金アップによる物価の上昇をも押えることができる。これをやるべきだということを、実は私が党におるときから、経団連、日経連、同友会あるいは日商、これらの幹部の諸君に話をし、この点が、また総評でも、これはある意味においては住宅問題が賃金とともに大事だというので取り上げられるような形になってきているのでございます。
こうした世論のもとに、でき得るだけ民間で住宅がつくられるということになりますれば、税金並びに財投による公営住宅に相当重点が入れられて、それにはそうした大企業や安定した企業に従事していない、いわばほんとうに自分の力ではどうにもならない、あるいは会社の力ではどうにもならない中小企業以下の従業員の人に政策的な住宅をつくって、それに低家賃をやれる。こういう意味でございまして、そうした政策を進めていかないと、ただ単に予算をたくさん取ってそれで住宅をつくれということでは、国会の論議としては実に聞こえはいいけれども、現実の解決にならないというふうに感じて、私はその点をも進めてまいりたい。そうして、これは国民の理解のもとに、企業も単に賃金ばかりじゃなく、住宅問題に対して最大の関心を払うというふうに持っていきたいというように思っておった次第でございます。
いま重ねて御指摘になりました、私が説明したほかに事務当局で、今日まで住宅政策がある意味において進展しないということについて補足説明をいたさせます。
-
○鬼木
委員 いま大臣がおっしゃるように、民間住宅の推進をはかるとおっしゃることは、私も同感でございます。でございますけれども、民間住宅にただ依存をするというような安易な気持ちがあったら私はたいへんだと思う。民間住宅の推進と同時に、並行して公営住宅の推進ということをより以上にはかっていただかなければならぬと思うのですよ。なおまた、いまおっしゃっているように、民間企業体においても、各界各層において、国民の理解のもとに、賃金のみならず住宅政策というようなことも考えてもらいたい、これはもう当然のことである。しかしそれは国民の協力を得ることであって、そういうことを建設大臣がしいられるということは、これは私は差し出がましいことだと思う。それは国民が自発的にそういうことを協力するのであって、そういうことでなくして、建設大臣としては十分両面において私は努力していただきたいと思う。
そこで私が考えておりますことは、いろいろいまお話を承りましたが、結局するところ、建設省のお考えがいわゆる推計の誤りであった、誤差であった、こういうことに私は尽きると思う。それをこまかくいろいろ考えますと、皆さんのお考えより以上に人口の都市集中化があまりにも急激であったとか、あるいはまた世帯の核家族化——近ごろなかなかいいことばを使ってある、核家族化、こういう点の問題あるいは工場と家庭の分離、そういういろいろな要因があったと思うのです。その証拠には、世帯増加の見込みについて、当初建設省は四百七十万世帯の増加と推定しておられた。これは事務当局の方よく聞いておいてくださいよ、大臣はこまかい数は一々——非常に頭脳明晰だから大臣は何でも御存じであると思います、ことに政策審議会長なんかなさっておられたのだから、何でもよく精通していらっしゃると思うけれども、建設省は当初四百七十万世帯の増加と推定しておった。ところが大蔵省がこれに反対して、三百八十万戸に修正した。それを唯々諾々とそのまま引き下がった、こういう話もあります。これは事実かうそかわかりませんよ。という話もあると、こう言っている。だったら、いかなる理由によってあなた方はそういう信念のない、しかも科学的に計数をあなた方がお調べになって、そうして世帯増の見込みは四百七十万だと、こう出されておるものを、大蔵省から三百八十万にせよ。ああそうですか。——それは、根本大臣はそんなにお弱い方じゃないということはわかっています。だけれども、これはことばのあやであって、ああそうですがなんておっしゃっておらぬと思いますけれども、結果においてはそれだけ減らされている。そういうところに、ただ客観情勢でどうだこうだということをるるお話がありましたけれども、私らの考えでは、五カ年計画でも立てられるならば、科学的に計数的に絶対動かすことのできない絶対値をもってやってもらいたい。そういう点について御説明願いたいと思うのですがね。
-
○大津留政府
委員 五カ年計画の計数を算定する段階におきましては、いろんなデータから将来の推移を推計するわけでございますが、将来核家族化がどの程度進むかという見方、これはいろいろ学者の間にも議論がございます。また、たとえば産炭地域の炭鉱の閉山、ああいうものがこの数年間にあれほど進むということも実は予測されませんでした。また、過疎地域における人口の減少、こういうようないろんな面を想定いたしまして、今後の五カ年間の需要を計算するわけでございますが、私どもが考えました以上に若い人たちは親と住むことをきらいまして、どんどん独立していく。これはそういう就職の関係で都会に出る。出ざるを得ないというようなこともあろうかと思いますが、そういうことから新規世帯の増ということに見込みが狂った。あるいは古い廃屋などがどの程度出るかというような見込みも狂ったというようなことがありまして、おっしゃるような結果になりましたけれども、来年から始まる五カ年計画におきましては、それらの点を十分見込みまして、国民の方々の御期待に沿いたい、こういうふうに考えております。
-
○鬼木
委員 これは同じ轍を踏むようなことではいけないんですよ。いま局長のおっしゃるとおり、第二次の五カ年計画においてはそういう推計の誤りのないように、あるいは大蔵省あたりの圧力か何か知りませんけれども、そういうことに屈しないで、あくまで公益優先ということを考えてやってもらわないと、そうしないと、ここ連日、皆さん方もお読みになっていると思うのですが、新聞には引きも切らず出ているのですよ。これを国民が読んだ場合に、大臣の御説明はまことにりっぱで水も漏らさぬ御説明でございますけれども、新聞には連日こうして出ているんですよ。「五年計画最終年度、目標には達せず」「行き詰まる政府の住宅建設 新計画縮小の恐れ」連日、これは毎日出ているのですよ。四日も五日もこれはやっているのです。そういう点を十分ひとつ皆さんお考えいただきたいと思うのですよ。住宅建設計画法にも、一条、二条、それから四条の二項にも載っているのですよね、「五箇年間における住宅の建設の目標を定めなければならない。」と。その目標が、あなた方が的はずれておるからそういうことになると私は思う。
そうすると次に進んで、新計画、四十六年度から五十年度の新計画についてちょっとお伺いしたいんですが、四十三年の住宅統計の結果によりますと、住宅の不足は、三十八年度に比べてまだ一七%しか解消してない、こういう結果が出ておりますが、住宅局長、そのとおりですか。
-
○大津留政府
委員 住宅難世帯の数を比べますと、その間に六十万戸減っておる、これがパーセンテージにすると一六、七%だ、こういうことでございます。
-
○鬼木
委員 そういうことで、五カ年計画というて大きな旗じるしを掲げて、そして三十八年度からまだ一七%しか解消してない。一方一世帯一住宅だ。あまりにもおっしゃることと実際がマッチしていないんですよね。だから新聞あたりでその住宅計画に対してこういう批判が出てくるわけです。これを全部国民は見ております。そこで四十六年度からの第二次の計画におきましては、もう少し私は諸般の事情、条件を十分見きわめた上でやっていただきたいと思うんです。どうでしょう、大臣。
-
○根本国務大臣 先ほど来いろいろと御論議がありましたように、現在の住宅計画を策定する場合における見通しが、結果的に非常に違っておったということは、言い得ると思います。それは御承知のように相当広範囲な地域にわたりまして、いわゆる過疎化地帯におきまして、どんどん廃屋になっていくものが出ております。これは住宅そのものはまだ使えるけれども生活の根拠をそこから移転するために、これが相当出ておる。それからただいま住宅局長から御説明いたしましたように、石炭産業の非常な後退に伴う炭住が、ほとんどこれが使えなくなってきておる。あるいは工場の移転等に伴う、住宅そのものはあるけれども人間がそのまま使わない、こういうものの数が相当見通しが違っておったということは言い得るのでございます。したがいまして、今後はただ単に核家族がふえるとか、あるいはまた都市化の趨勢ということのほかに、現在ある住宅がどの程度までこれがまた一面においては使用不可能になっていくかということの見通し等も相当厳重に検討させまして、その上に立ってこれから計画を立てなければならないと思います。
ただ、先ほど来、大蔵省と建設省の関係が力関係でと言われたのでありまするが、これは鬼木さんも御存じのように、予算は力関係だけでなく全体の財政需要をどう均衡をとって予算化するかというところにまた問題があるのでございます。われわれからすれば道路、下水、住宅あるいは河川、利水、こういうものに一切の財政資金をみな集めたいところでありまするが、鉄道もあれば学校もあり衛生関係もあるということからすれば、現在のように、その一面においては税金の軽減をしつつ、そうした国の全体の財政需要をどう勘案するかという点をも考えまして、結局政治はある意味における妥協でございまするので、幾ら住宅をつくっても今度は下水も水道も何もないものであったならばこれはどうしてもいけませんので、そうしますと、やはり住宅の戸数そのものは若干減らしましても、下水、上水道もできたものをつくってやらなければならぬということもたまには出てくるということで、その点はもちろん御承知の上御質問の鬼木さんでありますからこれ以上申し上げませんが、しかしながら、いずれにしても現在内政問題の最大の問題が住宅問題になっておるという点に焦点を置きまして、十分これは大蔵当局ともよく話をして、御心配なさっておるいろいろの問題については一生懸命に努力して国民の要望にこたえたいと考えておる次第でございます。
-
○鬼木
委員 それは私先ほどから申しておりますように、建設行政の卓越したお考えのもとに根本大臣が担当してやっていらっしゃるので、全幅の信頼を私らは置いておるのでございますけれども、いまおっしゃるとおり、五カ年計画を相次いでなさっておりますけれども、非常に私らといたしましてはまだ十分でない。先ほどから大臣が、これはお互い国民みな一緒になって住宅問題は解決すべきだ。だからこそ私どもはこうして大臣にお話し申し上げ、建設的な意見を申し上げて、そして御協力を申し上げておるわけですから、おっしゃるまでもないことだと思うのでございます。先ほど私が申し上げました住宅統計調査の結果によりますと、三百六十一万戸の住宅が不足しておる。ところが、三百六十一万戸の住宅難といっておりますが、今日の住宅の約八〇%は非常に狭小な過密住宅である。これはもう住宅局長、よく御存じのことと思います。ところが新五カ年計画については、新全国総合開発計画、こういう名のもとに、昭和六十年までですかに、一人一個室を達成する、こういうたいへんいいこと、うれしいことを発表していただいておりますが、それを達成するためには、どういう住宅の規模の増大をはかろうとなさっておるのか、その点を具体的に承りたいと思うのです。ただ単に事務的におっしゃるだけではいけませんよ。国民が全部聞いておりますからね。責任のあることをひとつ言っていただきたいと思う。どうぞ。
-
○大津留政府
委員 御指摘のように、住宅の規模を年々ふやしていくということは非常に大事な問題でございます。昭和四十三年に建設されましたすべての住宅の平均の規模が六十六平方メートルでございます。これは民間も公営住宅も全部でございます。このうち持ち家がやはり大きくて、持ち家の平均が九十平方メートル、借家の平均は四十一平方メートル、こういうことでございます。公営住宅はどうかということでございますが、本年度に建設いたします公営住宅の規模は平均して四十三平方メートル、これもまだたいへん狭いのでございますが、これからできるだけふやしていきたい。それから公団の住宅は五十三平方メートルということで、一般の平均よりはやや上回った状況でございますが、しかしおっしゃるように、昭和六十年に一人一個室とするためには、やはり平均して八十平方メートルくらいにする必要がございます。したがって今後規模の面におきましてもできるだけ改善をはかってまいりたい、こういう考えでございます。
-
○鬼木
委員 これも四十三年の八月現在でございますが、二月当たり住宅の平均規模が七三・九、七十四平方メートルくらいになっておるのです。公営住宅はいまおっしゃるように四十一平方メートル、そうすると約半分ですね。そこで今度四十三平方メートルにしたというようなお話でございますが、そういう小さい公営住宅なんか建てて——いままでも全部そうなんです。平均がそうなんだから。それで急に六十年度に一人一個室ずつつくるのだ。どのようにこれをやっていかれるのですか。新計画では、今度、公営住宅の一種で大体何平方メートルになるのですか。
-
○大津留政府
委員 先生のおっしゃった数字はちょっと違うように思いますけれども、四十三年に新たにつくられた住宅を先ほど申し上げたわけでございます。統計調査で四十三年の時点において存在するすべての住宅を平均しますと、おっしゃるように七十四平方メートル、これは古い農家なんかもございますから、そういうことでございます。そのうちの借家の平均が四十一平方メートルでございます。それに対して公営住宅は四十三平方メートルを本年度つくる。それから公団は五十三平方メートルということでございますが、いまお尋ねの第一種公営住宅は、公営住宅の中でもやや広いほうでございますので、これは中層耐火で四十六平方メートル、それから高層になりますといろいろなあれがありますので五十四平方メートル、こういう計画でございます。
-
○鬼木
委員 いずれにいたしましてもあなたもいまおっしゃるように、四十三年の平均が七十四平方メートルである。こういたしますと、これは約半分ですものね。あなた方が何ぼ数を出されても半分にすぎないのです。半分弱なんですね。そういう点から考えまして新計画の五カ年の計画に対しては、先ほど大臣もいろいろおっしゃっておりましたが、予算をとるのは力ではない。政治は妥協だ。ごもっともです。そのとおりです。私はそんなわからないことを言っているんじゃありませんけれども、少なくとも
佐藤総理は、内政の年だ、国民の福祉を増進していくんだ。こういうことを言っておられるのでございますから、住宅建設に対しては私は格段の御考慮をお願いしたい、こういうことですよ。数字があらわしておりますからね。公営住宅と一般の住宅を平均したなら半分にすぎない。だからそういうことでは私は満足ができない。
なお、それに関連してお尋ねしたいのですが、民間の木造アパートなんか、これはむろん質は比較的粗雑であるかもしれぬ。その経費も低廉であるかもしれませんけれども、逆にそういう粗末な木造アパートが、先ほど大臣もお話しされておったように、非常に家賃が高いんですよ。しかもいま言いますように、木造アパートでできは非常に悪い、粗雑である。そういうのに高い家賃を払って大衆は苦しんで住んでおるわけなんですね。しかも非常に過密ですね。これは社会問題になっておりますよ。狭い一部屋に夫婦子供が一緒におるとか、大きな社会問題なんですよ。家賃は非常に高い。こういう点——家賃とかそういうことはわれわれに関係ないとおっしゃるかもしれませんが、そういう大衆が苦しんでおるということを頭に入れて建設行政、住宅行政をやってもらわなければならぬと思うのですよ。そういうことを一日も早く解消するということ。だから私が先ほど申し上げましたように、一人に一個室、六十年までにそういうことをすると仰せになっておる。しかも全国の民間の平均、公営住宅の平均、そういうことをした場合にその広さが半分しかない。こういうことではまだ住宅行政ということはほんとうに隔靴掻痒の感がある。しかもそんな粗末なアパートであっても——これは言い過ぎかもしれません。りっぱなアパートも木造のアパートもあると思いますが、そういうアパートに入居する場合に、これも御承知かもしれませんが、権利金というのを取られるのですね。これが高いんです。それから敷金というのを取られるでしょう。あなた方はりっぱな住宅に住んでおられるから、そういうことは縁遠いことで、あるいは御存じないかもしれぬけれども、かりに東京の場合を考えますと、これも全部というわけにはいきませんけれども、おおむね権利金というのは家賃の二、三カ月分取っておりますね。それから敷金というのがまた二、三カ月分、こういうことになっておりますね。しかも前払いです。そしてこれが、あるいは一年で更新される、あるいは二年で更新する、こういうことになっておるのですね。はなはだしいことになりますと、それに対して今度は入居する場合のあっせん料を取られますね。世話賃といいますか、あっせん料、お礼というんですか、そういうのがある。そうしますと、東京あたりではもう畳一畳が約千円なんですね。ことに高いところになると一畳が千五百円、二千円もするところがあるのです。そういうのを換算しまして、家賃の二カ月分が敷金だ、権利金だ、やれお礼だ、そしてまた家賃も納めなければならぬ。少なくとも十万、十五万の金は出さなければそういう過密な狭い家にも入れない、こういう状態です。これは建設省とは関係ない、そういう家賃のことなんか、ということをおっしゃるかもしれませんが、公営住宅に入りたい、入居申し込みをしたが、抽せんとかいろいろありまして公営住宅に入りたいけれども、希望者が入れない。そういうような人に対して建設大臣は、あるいは所管外だと仰せになるかもしれないが、そういう公営住宅に申し込む人に限って入居できない。というのは国の住宅が間に合わぬからそういうことになっているんですよ。一世帯一住宅と国では言っておきながら、じゃ一世帯一住宅と申し込んだら入れない、こういうことでしょう。これは直接どうということはありませんけれども、私は、これはやはり連鎖的に、関連的に建設大臣も大いにお考えいただきたいと思うのです。そういう公営住宅に希望しておりながら入れないという方には、何らかの方法で家賃の補助をしてやるとか住宅手当をつけてやるとか、何とかそういう親心はないのか、お考えはないのか。今日住宅は、これは人間の一番大事な衣食住のことでございますから、しかもことしは内政の年だ。
佐藤総理は内政の年だと仰せになっておる。一世帯一住宅ということを打ち出しておられるんですね。しかもそのうちには一人一個室の家を建てるようにするんだ。これは非常にいいことずくめなんですね。内政の年だ、一世帯一住宅、一人一個室だ、これはいいことばかりで現実は入れない。そういう苦しい生活をしなければならない。それに対するお考えはどうか、建設大臣の御見解を承りたい。
-
○根本国務大臣 いろいろと御指摘いただきまして、心情的には全く共鳴いたします。
御承知のように、私は特に戦後日本において住宅がなぜこういうふうに逼迫してきたかということは、いろいろ原因があると思います。戦争でもう大都市が、約百二十数都市が爆撃されて、住宅を大量に失ったということも一つです。と同時に、御承知のように戦時中、戦後から、家主というものは、これはみんなブルジョアである、たな子はプロレタリアだ、だからして……という一つの考えがずっと定着しておりまして、たな子の権利を非常に優遇いたしました。それと、昔でありますれば、各会社の重役をつとめたとか相当の地位の役人をやめた場合には、その退職金で五軒や十軒くらいの貸し家をつくって、それで安定生活ができたというために、たいていのところでは貸し家がたくさんあったものです。ところが、いま申し上げたように、たな子の権利をあまりにも優遇し、家主の権限を極度に押えたために、一般の民間では住宅をつくるということをやめてしまいました。これは何ごとも極端になればそうなる。かつてアメリカが人道主義の立場から禁酒の立法をいたしました。発想は非常によろしい。その結果はどうなるかいうと、アルコールの密売が最大の罪悪の温床となり、暴力団が横行し、そうして人々がアル中になるほどみな酒を飲むというのと同じ現象でございまして、家賃統制、それからたな子保護の結果がいまや逆になってあらわれてきた。その結果、住宅は原則として政府がつくらなければならなくなるというところに大きな矛盾があると思うのであります。そういう点をも踏まえて考えなければならないのでございますが、いまそれを問題にしても解決ができないから、できるだけ民間の力で住宅を持つことができるようにし、そうして低所得者には政府が財政資金をもって住宅をつくるということに重点を入れる、これが住宅政策の根幹になったということでございます。そういう形において、いまの鬼木さんの論理からすれば、政府は一世帯一住宅を公約したじゃないか、それが不可能であるということは、政府がそれに対して何らかの措置を講ずべきである。それで考えるべきことは、いわゆる住宅助成、住宅に対する補助金制度を考えてはどうかという発想でございます。論理的にはそれは一つのりっぱな提案でございます。しかし、現在の貸し家に入っておる人たちの生活態様がこれほど違い、また所得も非常に違っております。その場合に、個人の住宅助成を国が助成するということは、納税者からいただいた税金でこれをカバーするということでございます。これは非常に問題が出てくる。運用上において非常にむずかしい問題があるようでございます。実は私も党におるときに——住宅政策はむしろそのほうが経済的には安上がりなんです。膨大な資金を使ってやるよりは、低所得者に対して補助金をやったほうが財政上はほんとうは荷が軽いのです。しかし、これがはたして税法上、あるいはまた御承知のように、補助に対してはみんな国の監視なり国会の監視が必要です、いま公共事業においてすらいろいろの小さな補助金制度をやめろといわれておるときに、個人個人の生活のための、生活保護法のことでいうなら別ですが、家賃補助ということがはたして制度としてこれが妥当なりやいなやというところに、実はぶつかってしまいました。そのためにこれは安易な道をたどるべきではなくして、やはり公的資金に基づく住宅を大量に供給する困難な道ではあるけれども、それを推進するのが本筋だというふうに考えた次第でございます。ただし、いま鬼木さんから御指摘なされた点を、ある一定の条件のもとにこれを実行することも可能であろう。それがいわゆる企業がやる持ち家政策、これについては税制上の優遇、あるいは財政資金をやるということは、間接的ながらこれが住宅補助に通ずるのではないか、こういうふうに考えております。したがいまして、いま直ちには家賃補助は実行できませんが、何らかかわる措置でそうした実質上の内容が充足されるような検討は今後も引続いて検討してまいりたいと思っておる次第でございます。
-
○鬼木
委員 持ち家政策に対する税金対策というようなことも私よく承っております。なおまた、いま大臣の御答弁は、ほんとうに私の気持ちをわかっていただいて、私もうれしく思いますが、住宅の問題につきましては、これはもう釈迦に説法で申し上げるまでもないことでございますけれども、さきに総理も住宅問題の解決は土地問題の解決にあるのだ、こういうふうにおっしゃっておるようでございますが、昭和四十三年の十一月からですか、何か地価対策閣僚協議会というようなものがあった。今日その申し合わせにより具体的にいろいろ研究をなさっている、こう私どもは承知いたしておりますが、地価対策に対して何ら的確な方策がない。地価公示法というのがあるようでございますけれども、もっと高い次元における高度な何か規制方法といいますか、そういうものもお考えにはならないのかどうかということですね。結局、地価公示法はむろん承知いたしておりますが、これは単にいわゆる公示にすぎないのであって、法的な規制には私はならないと思うのですよ。これは各人のその良心によるわけでございますけれども、そういう点私はもう少し強力に地価対策ということに対してお考えになっていただきたい、こう思うのです。先ほど大臣が、いろいろ物価も上がってくるし、住宅問題についても非常に苦心している。非常によくわかります。しかしながら、私は大臣の見解と多少、究極するところは一緒かもしれませんが、考え方がちょっと変わっているのですよ。というのは、物価対策の中に地価対策を考えていないということが私は大きな欠陥だと思う。私は物価対策の基礎となるべきものは地価対策だと思う。これは大臣はおわかりになっているかと思いますが、往々にして物価というものに地価を入れていない。今日物価の基礎となるものは私は地価だと思う。その地価を野放しにしているということが今日物価が上昇しているところの大きな要因をなしている、私はこういう見解を持っている。そこで、この地価対策に対して何らかのもっと強力な打つ手はないかということを、卓越した識見をお持ちの建設大臣にお伺いするわけです。
-
○根本国務大臣 御指摘のとおり、物価上昇のうち最高の値上がりをしているのは地価でございます。しかもこれは世界に類例のない上昇率でございます。一体これはどこに原因するかということを考えてみますと、一つは、御承知のように、戦後制定した農地法が一つの大きな要因をなしております。よその国では日本におけるような農地法的な要素はほとんどないのであります。ところが、これは御承知のように、戦後日本が非常に食糧不足のときに、外国から食糧輸入もできないというときに、必要やむを得ない措置として、革命的な措置として農地法を制定いたしました。したがいまして、農地はある意味においては農民のために非常に大きな役割りを演じたのでありますが、反面におきまして、宅地、工場用地等がこれで非常に制約されたわけであります。一々農業
委員会の許可を得、あるいは知事の許可を得、農林大臣の許可なくしては転用が禁止されたわけであります。したがって、日本には土地は十分ありますけれども、宅地並びに工場用地になるものが非常に限定されたということが一つ。したがって、供給量が極度に政治的に制約されたということが一つでございます。
もう一つは、戦後、地価上昇の最大の一つの原因になりましたのが、御承知のように、電源開発にダムをつくった当時山村にあったところの山林、田畑——当時の革新勢力というものが、これを全面的に支持して抵抗した。これが、只見川で一番最初に大規模に起こりまして、そのダム用地に存在するところの農山村の人々の土地を買収しなければ、数百億の投資が活用できない。そこで東電は、その地帯そのものの地価からすれば、べらぼうな値段であるけれども、やむを得ず買った。ところが、これが写真相場になりまして、ああいう山奥の土地すらこれだけで買う世の中だということで、公共用地が、国の政策でやられる場合でも、民間でやる場合でも、ずっと高い相場にこれが移っていってしまったのです。それに引き続いて、軍事基地反対、国家権力反対という名のもとに、あらゆる土地が全部高くされて、しかも、収用をかけると、四年も五年も、長きにわたっては十年もかかってしまう。そういう状況になりまするから、国あるいは自治体も、公共施設をするためにやる土地については、非常に高い値段で買うことが一般的に行なわれ、これがもう値段として定着してしまった。一方において、都市においては、都市銀行が預金吸収のために町かどのいい土地は、これまたべらぼうな値段で買いあさっていった。そうすると、銀行すらこれだけの値段で買うから、当然のあれだということで、これが全部写真相場に移されてしまって、高くなってしまったんです。しかも今度は、日本の一般の法律学者も、他のものについては、たいへん制限することに賛成するけれども、土地については、絶対権を持っているような感じを与えてきた。これが今日、こうなってしまったんです。
土地については、もう一つの問題として、固定資産税の問題がある。税の問題です。農地、山林として登録しておりますと、時価の二百分の一、三百分の一の安い評価をされて、しかも、それに対して、安い税金をかけられる。してみれば、土地を持つことが何よりも利益になる。したがって、仮需要が都市周辺の土地に集中しておる。
こういうことからして、多面的な政策をやらなければならぬ。そこで、農地法の改正もする。新都市計画法で、今度は市街化区域に入ったところは、もう農地法は自動的に適用しない。それから、もう一つは、今度は、固定資産税の再評価をする。都市計画税の上昇をはかる。こういうような施策を通じて初めて、土地問題が解決の緒につくと思います。それからもう一つは、先ほど御指摘ありましたように、土地が実は相当ありますけれども、水と交通関係がないために、これが開発できない。これらも思い切ってやるというような措置を講じて、初めてこれができることでございまして、したがいまして、建設省はもとより、農林省あるいは大蔵省、自治省等々と共同いたしまして、この問題を本格的に取り組んでいかなければならないと思っておる次第でございます。
-
○鬼木
委員 土地の値上がりの件については、いま大臣の御説明のとおりでございます。私もそう思います。
そこで、都市計画法の第七条によって、市街化区域及び市街化
調整区域という土地利用の線引きがいまあっておる。これに対していまおっしゃるように、その周辺はもう非常に、いわゆる線引きの紛争が起こっておるのですね。こういう点を考えました場合に、私は、土地の値上がりということは、何らかの規制がなければ、実情はいまおっしゃったとおりでございますけれども、このままにしておったんじゃ、これは収拾がつかないんじゃないか。おたくの地価調査結果資料によりますと、これは四十四年の九月二十九日の調査のようでございますが、東京都及びその周辺の地域におきまする対前年度上昇率を見てみました場合二五・一%、それから大阪が二四・五%。こういうふうになりますと、これはたいへんなことだと思うのですね。一年間の銀行預金利子の約四倍強ということになるのですね。これはちょっと今日、銀行の定期利子の四倍も上がるんだということは、これはたいへんなことですよね。年間の国民所得の伸び率の二倍になっておりますね。これはおたくの統計ですから、間違っておればおたくが間違っておるんだ。昭和三十年を一〇〇とすれば、これも日本不動産研究所の調査ですが、住宅地が十四倍から十五倍になっておる。消費者物価指数が一・七倍に比べて、十四倍あるいは十五倍と、こういうのですね、地価が。これは先ほど大臣も、全世界に比類がないということをおっしゃっておった。まさにそのとおりですね。これを野放しにしておったんじゃ、物価政策も何もないと思うのですよね。経企庁あたりでもどんなことを考えておられるのか知りませんけれども、物価対策、物価対策だということを閣僚会議なんかでもおやりになっておるが、物価を一体何の物価だと思っておるのかと私は言いたいんですよね。先ほど大臣にも私の見解を申し上げたのですが、物価の上昇の原因は地価にあるんだ、それを忘れたんじゃ話にならないと思うのだ。でございますから、住宅建設をなさるについて、こうした地価の対策をもっと意欲的に、私は、大臣に何らかの方法をひとつとっていただきたい。これは建設大臣にお願いする以外にないんだから、根本大臣の御手腕、力量、卓越したる建設行政を私は信頼をしてお話ししておるのですが、いかがでしょうかね。
-
○根本国務大臣 これはたいへんむずかしい問題ですが、先ほど一部答弁いたしましたが、そのために近く私は、国会終了後、大蔵大臣、経済企画庁長官、自治大臣、農林大臣、それに私も入れていただいて、地価対策に対する基本的な問題の究明をはかりたいと思っています。
その一つは税制でございます。税制のうち固定資産税、この問題と同時に、最近問題になり、ただいままた鬼木先生から御指摘のありました地価公示法と、それからそれを上回って売買したものに対する、いわばある意味における土地の付加価値税的な措置を講ずる。これなくしては仮需要はとまりません。農家の人も土地は放さなくなってくる。これが税制上まず当然やるべきことであります。
その次には、やはり大規模な土地供給を国の力でやるべきだということでございます。それには、ある意味においては、今日までいろいろの施策の矛盾のために、かなりの土地が実は首都圏、中部圏、近畿圏に残っておると私は推定いたしております。こういうところはどういうところかというと、土地は十分ある。これはたいてい丘陵地帯です。ところがそういう地帯は、まず第一に道路、鉄道等交通機関が整備されていない。それからもう一つは水です。水の供給がないために、そういう地帯は相当広範囲にわたって現在なお残っております。これを民間デベロッパーが開発しようとしてもその手段がない。地方自治体もとうていそれはやれないというのが相当残っているはずだから、そういう地帯を見つける。その次には、これは今国会には間に合いませんでしたけれども、土地収用法をもう一回改正していただいて、先買い権を国に与えてもらうということ、そうしてそういう地帯を国が大幅に買い上げまして、そこに建設省が道路をつくり、運輸省は私鉄もしくは国鉄をつくる。水の問題は国が、これは建設省の所管でありますが、水資源の開発をやりまして、これに水の供給がはかれる体制をつくりますれば、大量供給ができると思います。ただその場合に問題になるのは、水利権の問題はございます。現在でもこの首都圏には相当の水があるのです。水がありまするけれども、これも慣行水利権の名のもとに、実は農家で使わない水が相当放流されております。そこで、私は慣行水利権の問題をことし取り上げましたら、さっそく根本はまた農民圧迫だというわけですが、そうではありません。慣行水利権を私は許可水利権としてかっきりと、国で農業用水は確保してあげます、そのかわり使わないところの水はそのまま流していますから、許可水利権として整理した限りにおいては、上流の府県の方もそのまま国の利用に御協力を願う、ということでございます。そうしますれば、世界のうちでも日本ほど水が豊富に降っているところはございません。しかるにかかわらず、都市生活並びに工業用水として、これほどまた不自由している国もない。何が原因か、みんな慣行水利権という一つの観念的な束縛にとらわれておりまして、上流の県の知事さんや市町村長は、下流で水を使うということが、何か自分たちの権利をただで使っているような印象を受けている傾向があります。そうではなく、現在では水は国民全体に与えられたものである。水田
耕作が支配的な産業であるときには、慣行水利権は他に影響なくこれはやれたけれども、今日になったならば、この水をどう利用するかということについての国民の合意が要ると思うのであります。その意味で、内閣で総理府長官を中心として、慣行水利権の調査をいまいたしております。実質は建設省でやっておりまするが、この水を今度どう利用するかということに関連していまするが、そうした施策をやりますれば、現在の土地は、これはまぼろしの地価でございます。ある意味においては、仮需要と将来の利益になるという心理的な価格でございます。それが実質社会の取引になっているというところに問題があるのでございまして、そうした施策をなすということがはっきりすれば、日本の土地問題はほとんど大部分が解決できると思います。
これは政府だけではできません。幸いにして、現在は土地問題に対して各党が非常に真剣に前向きで考えていただいて、政府を激励していただいておりまするために、これは私は相当の効果が上がってくると思う。ただしかしながら、いまなお一般国民の中には土地に対する一つのまぼろしの夢を抱いておりまして、これがかなり抵抗がございまするので、それを啓蒙指導しながらこれはやっていきたい。そこで私は、いろいろ各方面からの質問に答えまして、これは一挙に、ことし、来年はできるというわけではありませんので、少なくとも五年間かかってこの問題をやれば、私は五年後には日本の土地問題はおおむね解決できる。それだけ国民の理解と協力をいただきたいものと考えておる次第でございます。
-
○鬼木
委員 いまの大臣の御説明で、慣行水利権が昔はそういうことでよかったけれども、今日は水というものは国民全体のものだ、だから水の利用ということを解決すれば、したがって地価の問題も解決するんだというようなお考えでございますが、なお道路の問題、交通機関の問題等、そういう点を附随して新五カ年計画の中に十分それを含んでいただいて私はやっていただきたい。なおまた先ほどおっしゃっておった、私もその点をぜひ要望したいのでございますが、地価対策として土地税制の改善ですね。先ほど大臣が御指摘なさっておったように、固定資産税の標準、これを私は改善すべきだと思う。今日のままでは十分の一か二十分の一ぐらいな固定資産税で、これでは私は話にならぬと思うのですよ。だからそういう点をひとつ早急に私は改善していただきたい。
それからまた、時間がだいぶたちますので少し急いで申し上げますけれども、空閑地税といいますか未利用地税、そうしないと将来の地価の値上がりを見込んで絶対手放さない。これが多いのですよ。だから私は空閑地税というものをかけてもらわなければ地価対策にはならないと思うのですよ。いま大臣は固定資産税の問題も仰せになりましたが、私はそれに加えて空閑地税、未利用地税というものに対してもどうでしょうか。私の言うことはおわかりになると思うのです。
-
○根本国務大臣 発想としては考えられますけれども、これは非常に私はむずかしいと思うのです。というのは、私は固定資産税等も、現に自分が住んでおる、そのためのあれには、特に税率を急激に上げるということにはかなりの問題がありますので、これは実情に沿った弾力的な運用をすべきだと思っています。空閑地税の問題は発想としてはできますけれども、むしろそれよりも固定資産税をかけることによってこれが相当解消されます。
それからもう一つは、いまの地価公示による値段とそれからそれを売った場合における非常な付加価値収益と申しますか、それのほうで処分することでいいではないか。そうじゃないと、同じ土地に二重三重に税金をかけるのは、税制上もいかがという点がありますので、空閑地税についてはなかなか問題がありそうでございますので、私はまだそこまでいくべきだという確信には立っておりませんので、大蔵省あるいは自治省にもそれはかけるべきだと主張はいたしていないのでございます。
-
○鬼木
委員 いや、私が申し上げますのは、必ずしも空閑地税、未利用地税をかけろということを申し上げておるのじゃないですよ。地価対策で、地価がいたずらに暴騰するのを防ぐのでございますから、先ほど大臣のおっしゃるように、付加価値税というようなものをおつけになれば、それは私の考えていることと一致するわけですから、そのほうで御解決いただければ、それでけっこうなんです。ただ将来を見込んで、何もならないものを遊ばせて持っておる。絶対手放さない。だから、将来を見込んでそういう意地の悪いことをされるならば空閑地税をつけてくれ、こういうことを申し上げておるのでございます。そこで、いま大臣のおっしゃるように、じゃそれが思わぬ金で売れた、そうするとそれに付加価値税をつけるんだと仰せになれば、私の趣旨は通るわけですから、いまおっしゃるように、税金、税金、税金、そんなことは私どもは考えていないことなんで、税金はなるべく下げてもらいたいというのが私どもの考えでございますから、そうでなくして、地価対策のことで私は申し上げているのですから、大臣のそういうお考えがございますれば私は大いにありがたいと思います。それでけっこうだと思います。問題は、土地利用に並行して、大臣のおっしゃるように土地税制が必要不可欠なものだ、これは地価対策になるんだというところの結論でございますので、大体大臣と私の考えは一致しておる、かように私は理解するものでございます。ようございましょうか。
-
○根本国務大臣 そのとおりです。
-
○鬼木
委員 そこで、いまお話があっておりますように、税制問題で、大臣はこれと取り組んで解決をしたい、こういうふうにおっしゃっておりますので、次に私お尋ねいたしたいのでございますが、市街化区域内にありますところの減反農地の問題についてでございます。これとても農林省の問題だと仰せになるかもしれませんけれども、現実的には土地が都市の市街化区域内にあるとすれば——あるとすればじゃない、実はたくさんあると思うのです。どういうふうな基本的方針でこれを具体化されるか、何か具体策がございましたならば承りたいと思います。
-
○根本国務大臣 御承知のように法律改正になりまして、今度市街化区域に入ったところは農地法の適用が自動的に排除されます。したがいまして、この転換は自由になりまするので、宅地なり工場用地にすることはもう自由にできるのでございます。それがいわゆる減反のワク内に入るかどうかということでございましょうが、これは当然入ると思います。したがいまして、これは減反の対象として農林省が考えるかということであれば、それは考えるのは当然だと思います。
これがいわゆる住宅、宅地政策とどう関係するかという点になりますれば、これは、あるいは民間デベロッパーは従来は農地法の適用のためになかなかそういうものを買っても宅地化ができないから手を出さなかったという点はあるかもしれませんが、今度はそういう制限がなくなるから、民間のデベロッパーがそれを買収するために買いに出るということはあり得ると思います。その結果、一部では土地が値上がりするじゃないかというような心配の向きもあるようでございますが、これは必ずしもそうだとばかりはわれわれは考えておりません。なぜかなれば、すでに民間のデベロッパーは都市周辺にはかなり前々から相当の土地を入手して、これが今度
調整区域に入れられたら市街化できないのでかなり手持ちに苦しんで、金融逼迫で何とか不動産金融の緩和をしてくれということを私に陳情に来ておる現状から見ると、線引きができた結果、市街化区域の農地が非常に急騰するということはわりあい少ないと思っております。現実見ましても、最近市街化区域の農地が非常に高く買いあさられておるという情報はまだ聞いておらない次第でございます。
-
○鬼木
委員 ところが、いまお話を聞きまして、それはむろん農地法の改正によって宅地変更なんということは必要ない、非常に便利になったということでございましょうが、私は市街化区域の中にも減反農地は非常に多いと思うのですよ。そうしますと、三カ年で十一万八千ヘクタールですか、それが全部市街化区域ということは言われませんけれども、どうしてもそれがいまおっしゃるように地価が高騰する、そうすると全部競争してくるというようなことになりますと、やはり皆さんのほうの住宅計画がスムーズにいくだろうかという点を私は非常に憂慮しておるわけなんですが、いままでのような簡単な農地転用というような実績からも、私は案外これはできないのではないか、はたしてそれがうまくスムーズに可能であるかどうか、そういう点の実際問題として……。
-
○根本国務大臣 事務当局から……。
-
○大津留政府
委員 市街化区域が線引きされますと、その中の土地しか住宅を建ててはいけないということになりますから、そこに需要が集中して値が高くなるじゃないか、一応理論的には私はそういうことは言えると思います。しかし現実に市街化区域として設定される地域というのは相当広い面積でございますし、その中に農地も相当含まれておるということでございますから、それからまた市街区
調整区域になりましたところでも、まとまった土地を計画的に開発するという場合には許可がなされるということでございますから、公共住宅を建てます場合も、民間の建設にあたりましても、この設定が現在特に値上がりで支障を来たすというような現象は出ておらない状況でございます。
-
○鬼木
委員 非常に簡単に言われますけれども、今日市街化区域と市街化
調整区域の線引きがあったのですね。地価の問題で非常に紛争があるのですよ。そうすると今度は、市街化区域の中で住宅を建てる、あるいは一歩離れたらこれは別だ——私はそう簡単にいかぬと思うのです。住宅を建てるのに、宅地につくり直されて土地造成をなさる。市街化区域の中に減反農地がどのくらいありますか。その大体の見通しを立てておられますか。そんなことも立てておらぬで、あなたたちは空で理論的な——理論的に話を聞いているのじゃない、実際の話を私は聞いている。
-
○竹内(藤)政府
委員 現在市街化区域の設定を各地でやっておりますが、もうすでに告示をしたところもございますし、公聴会等の手続に入ったところもございます。今後やろうとしておるところもございます。現在各県でいろいろな作業過程中でございますので、最終的にどうなるかということはまだ確定いたしておりませんが、現在の市街化区域を予定しております区域の中で十八万ヘクタールくらい水田があるというふうに私どもは推定いたしております。全国の農地面積が五百八十五万ヘクタールでございます。そのうちの二十九万ヘクタールくらいが市街化区域にある、こういうふうに推測をいたしておるわけでございます。
-
○鬼木
委員 二十数万ヘクタールとかなんとか、もう少し的確にその数を把握していただいて——
調整区域は別ですからいいですけれども、市街化区域の減反ということは実際はなかなかむずかしいですからね。農林省でも市街化区域の減反をどうしてやるか、はたして可能であるかということでいま非常に問題になっている。あなた方はえらい簡単に、それは簡単にいくというようなことをおっしゃっておるけれども、この点はっきり実態を把握してもらいたいと思うのです。
-
○根本国務大臣 現在想定されていると申し上げましたのは、まだ線引きが完了していないわけでございます。したがいまして、大体この程度だという想定を事務局がいたしました。
それから、いまなぜ線引きが問題になっているかというと、その周辺の農家の人が実は非常に希望的な観測を持っているわけです。農民の諸君は、市街化区域にできるだけ多く入れてほしい、しかしながら税金は現状のままということで、固定資産税もその他の税金も現状のままであれば、私がこの前ちょっと関係者に聞いてみると、東京近郊の三多摩の近いところで、坪大体十万程度のところにおいてどれくらい固定資産税を納めているかというと、二十五、六円だそうです。そういう現状であれば永遠に持っておったほうがいいという気になります。しかし先ほど御指摘になりました固定資産税なりあるいは公示価格との差額に対して重税が課せられるということになれば、その恩典がなくなる。ところがいまの農民の方々の考え方は、宅地化することができるところに入れてもらって、しかも税金は現状のままということを希望しておって、かなりの混乱を来たしているということでございます。そのために政府としては、先ほど来申し上げましたように、市街化区域におきましては固定資産税並びに税制の改正によって、そうした宅地を持っておることによって非常な利益が得られることがなくなるということになりますれば、もっと平穏化していくということになります。その証拠に過密化していないところではわりあいに順調にいっているのでございます。そういう意味で御指摘の点は十分に配慮いたしまして、税制その他も今後改正していかなければならぬと考えている次第でございます。
-
○鬼木
委員 先刻からずっとお話がありますように、これは何らかの方法でスムーズにやっていただかないと——まだ線引きは終わっておりませんけれども、すでに線引きのあったところは、たびたび申し上げますように紛糾しているのですよ。でございますから、市街化区域の減反農家が、建設省の住宅に限って紛争も何にもない、スムーズにいくとはわれわれには考えられない。むしろこれのほうが非常にむずかしくなるのじゃないかという考えを持っておりますので、大臣のいまのお考えのような方策によってスムーズに進めていただくとけっこうだと思うのです。
次にお尋ねいたしたいのは、国公有地の活用についてでございますが、四十四年の一月現在の大蔵省の調査によりますと、利用計画策定済みが三十七万八千平方メートル、未利用地が四十四万六千平方メートル、合計八十二万四千平方メートル。この国有地あるいは公有地の利用に対して、具体的にどういう策をおとりになっておるのか、その点をひとつお尋ねしたいと思います。
-
○根本国務大臣 これは大部分大蔵省が所管しておるような状況でございますので詳しくはわかりませんが、大体大蔵省が所有しておる土地は、もともとの国有地のほか、御承知のように戦後の財産税で持ったものが相当ございます。その中で現在農林省に関係するもので一つの大きな問題になっておるのは、農地法の規制によりまして財産税で取られた農地が実は都市周辺に相当ありますけれども、もし国が農地としてこれを活用しなければ、もとの地主にこれを返還しなければならぬという問題がございます。そうするとこれがいまたいへんな値上がりをしておるので必ずしもこれが適当じゃない、公平の原則に反するということで、数年前これに対して世論の反発と国会の反撃がありまして、これがいまだ処置されておりません。これを今度の農地法改正にはとうとう手を触れなかったのです。私はこれを改正するならこの機会だと言ったけれども、どうも法制局等においてかなり問題があるようで、この問題がいま宙づりになっておることは今後の一つの政治問題であり、社会問題として残るであろうと思われます。
それからその次に、いま具体的に問題になっておるのはいわゆる軍事基地。軍用地が軍用地でなくなった場合における利用の方法でございます。これについては、都市周辺の住宅地になるところについては、建設省としてはできるだけ優先的に公団並びに公共事業体の住宅用地に転換すべきであるということを要請しています。ところが一方におきましては、これについて防衛庁は自衛隊用地として確保したい、あるいは文部省その他研究機関では学校用地もしくは研究用地にこれを転用してほしいということで、いろいろ意見が分かれております。大蔵省としてはできるだけこれを高く払い下げて財源にしたいという気持ちもあるようですが、そうした関係でこの点は今後かなり問題に残っておるのでございます。原則として、現在は国有地は民間に払い下げないということだけは立てているのでございますが、現在国有地の利用計画についてはまだはっきりと確定しているわけではございませんで、いま申し上げた程度が現在の私の知っておる建設行政上の国有地の利用の方法でございます。
-
○鬼木
委員 まだ具体的にどうという段階でないということでございますが、私は国公有地を有効利用されることが非常に望ましいと思うのですよ。なるほどそれはいまおっしゃるように私も存じておる点がございます。昔農林省の持ち地等を、それを民間であるいは地方公共団体で使っております。ところが返すとか返さぬとかいうことで、はなはだしい紛争じゃございませんけれども、ごたごたしているところの事実、実態も私知っております。だけれども、これが大きな社会問題とか政治問題だとかいうようなかた苦しいことでなくして、今日住宅も非常に不足いたしておるときでございますから、当然有効利用すべきである。住宅審議会の答申で国公有地の総点検をすべきだというようなことを提唱しておるようでございますが、住宅局長、御存じでございますか。
-
○大津留政府
委員 住宅宅地審議会からそういう建議がございまして、私のほうから大蔵省に申し入れをいたしまして、大蔵省が中心になりまして、現在まだ利用されていないところ、また一応利用されておりましてもその利用状況が十分でない、もっと何かうまく利用して住宅地にでもなるものはないかということについて検討してくれまして、その一部検討の結果、こういうものは利用の余地があると思われるというリストを、実は一部よこしてくれてはおります。現在全然遊んでおるというものは少のうございますけれども、一応何らかの施設に使われておる。それを所管している省と相談しまして、それを建てかえるなり、あるいは別の場所に集約的に移転するということによってこれを利用できないかということで、これからそういう各所管しておる省と具体的に検討を詰めるという段階になっております。
-
○鬼木
委員 住宅審議会の答申を——これはいずれにいたしましても諮問機関でございましょうから、答申を尊重はなさるけれども、それを一から十までそのままやれとかなんとか、そういうことを私は申し上げているんではない。答申が出ておるんだから総点検すべきだ。それでそういう総点検をなさった。そうすると、その総点検は全部終わったわけですか、まだいま総点検の進行しておる状態でございますか、その点ちょっと……。
-
○大津留政府
委員 国有財産も全国にまたがっておりますので、私のほうで主として東京、大阪のような大都市周辺で住宅地に転用可能な地域に限って早くやってもらいたいということを申し入れいたしまして、先ほど言いましたのは、その点検をした一部についてとりあえず通報を得ている、今後なお引き続き検討していきたい、こういうことになっております。
-
○鬼木
委員 それでは総点検にはならないですね。一部点検である。国有地、公有地というものは日本全国にまたがっているということは当然なことです。日本国は北から南まであるんですからね。だから大臣がそれに対して具体的などうだこうだということはまだやっていないとおっしゃるのはあたりまえで、あなたたちのほうの仕事が進んでいないからなんです。それではよき部下とはいえない。でございますから、勇将のもとに弱卒なしというけれども、建設省は勇将のもとに弱卒があるようだな。私は総点検をやるべきだと思うのですよ、ほんとうに。地価が上がってどうもこうもしようがない。大蔵省の発表によれば八十二万四千平方メートルもある。大蔵省も協力して一緒に総点検でもやろうというなら、これはなるべく早く総点検をやってもらいたいと思うのです。そして計画を立てていただいて、大臣が、計画でやるけれども、なかなか思うとおりこれがいかないとか、思ったように簡単にいかない、社会問題あるいは政治問題、いろいろな隘路があって、趣旨はよくわかるけれども、実はこういうわけでなかなか簡単にいかないというような結論ならば、だれでも納得するんですね。だけれども、まだやってもいない、一部やっている、住宅は東京に限っているのじゃないんだ。そういう点は住宅局長もう少しはっきりしてもらいたいと思いますね。答申はあっているんだから。何回も言うようだけれども、答申をうのみにしろと私は言っているんじゃない。いやしくも答申を尊重するならば、総点検をしたって何も悪いことはないんだ。
-
○大津留政府
委員 仰せのとおり私ども住宅建設の責めをになっておる者としまして、土地問題は最も苦心しておるところでございます。したがって、総点検をお願いする場合もやはり住宅地に活用の可能な地域から先にやっていただきたいという趣旨から、東京、大阪のようなところをまずとりあえず先にやってもらいたいということでお願いしておるようなわけでございます。御趣旨のとおり、これが活用する余地のあるものでございましたならば、私ども所管のところに十分積極的に連絡いたしまして、何か集約的に建てかえとかいうような計画をお互いに相談して少しでも利用する、こういうつもりでおります。
-
○鬼木
委員 いや、住宅局長に私がどうだこうだと言って文句を言っておるのじゃないのですけれども、あなたが私が言うのに一々そういうふうに反発されるならば、私もお尋ねするけれども、それでは急を要するもの、あるいは住宅地として非常に適格性のあるものから順を追うていま調べているんだ、こういうことをいまおっしゃるならば、では全国の国有地をどこからどこ、どこからどこまでやるという順序、系列、総点検のスケジュールの計画表というものができておりますか。できておるならば資料に出してください。
-
○大津留政府
委員 先生のおっしゃることに反発しておるつもりは毛頭ございませんので、利用の可能性の高いところからやっていただきたいということを大蔵省にお願いしているわけでございます。大蔵省が所管しておりますので、そういうことでございますので、やはり住宅地として利用すれば、都市部、その近郊ということになりますから、そういう地域を先にやりたい、こういうことであります。
-
○鬼木
委員 だから私は言っているんですよ。だんだん可能性の強いところから、ここからここだ、ここからここだというスケジュール、一覧表があるか、計画表があるかということを申し上げておるのですよ。それならあなたの話はわかるのですよ。東京は住宅に最も逼迫している、それで可能性があるからここをやって、関西をやった、こうおっしゃっておるのですけれども、ではその次はどこだ、ここだというスケジュール、一覧表、日程表というものが要る。何たってわれわれの日々の生活には日程表が要る。だから年次計画がある、住宅は五カ年計画がある。だったら、国有地、公有地の総点検の計画表、プログラム、スケジュールというものがあるか、だからいま段階はここまで来ておりますというなら理屈はわかると私は言っている。あなたは私に反駁しておらぬと言っているが、一々反駁するようなことを言うからまたやりますけれども、私はところをつかまえて言いますよ、私が把握しているところは何ぼでもあるんだから。だけれども、私は何もりっぱな住宅局長さんに恨みがあるわけでも何でもない、住宅局長のベテランさんにわれわれのしろうとが、そういうようなことを言うんじゃないけれども、答弁するならば、もう少し核心に触れた、私が尋ねていることに対して的確な答えをしなさい。あなたの頭はたいへんいいと思うけれども、答弁の言いわけじゃなくして、的確な答えをしなさいよ。だから、総点検をいまやりつつありますけれども、近い将来にはきちっと計画を立ててやって、先生の御趣旨に沿いたいと思いますと言えば百点じゃないか、それで合格じゃないか。ちょっと入れかわったが、そういうふうにやらなければ、むだな時間を費やす。——まことにどうも御無礼なことを言って……。
次に、お尋ねしたいのでございますが、先ほど大臣がおっしゃっておりましたが、在日米軍基地あるいは施設のうちに公団住宅用地として転用方を要請しておる、こういうお話でございます。先ほどちらちらお話しになっておりましたが、防衛庁としては共同使用をするとか、自衛隊がまず使うとか、これは内閣
委員会で私も徹底的に中曽根長官とやったのでございますが、これは十分防衛庁ともう連絡協議ができておることでございますか、またある程度可能性があることでございますか、そういう点をもう少し詳しく、文部省がどうだとか、防衛庁がどうだとかおっしゃっておるようでございますが……。
-
○根本国務大臣 これはアメリカの使用しておるところが解除になった際のことをわれわれが言っておるのでありまして、まだ解除になっていないために、そこまでいっておりません。そこで従来から国の持っておる土地というもの、これを高度に利用するということが一般的にいわれておるけれども、特に最近は、住宅問題が非常に逼迫し、かつ住宅問題の最大の隘路は土地問題である、こういう観点から、特に建設省は強い要請を大蔵省にしておるわけでございます。それで、大蔵省はその意図でいま姿勢をかまえておるのでございますが、防衛庁は防衛庁として、今後新たに防衛施設のために土地を入手するということは非常に困難であるから、アメリカの軍事使用を解除された場合、防衛庁としてできるだけその目的に使うべきだという主張があることも事実です。したがって、この問題については、まだ中曽根防衛庁長官と、おれのほうが先だ、君のほうがあとにせいというところまでは行く段階ではございませんので、これはその段階において客観的な諸情勢を判断してきめなければならないと思っております。具体的にまだ相談はいたしておりません。
-
○鬼木
委員 それはもうまことにごもっともで、まだ生まれていない子供のことをどうだこうだといま話し合っておるわけでございましょうから。しかし、これは自主防衛の立場から、中曽根長官としては、もう御承知のとおりですね、これは自衛隊に移管をする、またあるいは日米共同使用をするというようなことを言って一歩も譲られないような姿勢であるように思うのでございますが、先ほど大臣がおっしゃっておるように、もし返還になれば、文部省もそれは文部行政機関に何か使いたい、教育のために何か使いたい、さように要望がありますように、国民全体といたしましても、国民の福祉のために、厚生のために何らかそういう点に使用させてもらいたいという考えを持っておりますので、大臣もこれは強力に私は要請してもらいたいと思うのですよ。それはなるほど自衛隊が新たにどこか土地を求めようとすれば、国民の総意において反対が多いことは当然です。だから、そのように自衛隊の基地、自衛隊の施設ということに対しては国民がいやがっておるということは、もうそれが証拠なんですよ、新たに求めようとしたら、絶対反対なんですね。でございますから、せっかくアメリカが返してくれるならば、まず国民の手にという考えから、建設大臣としては、防衛庁長官に御同情なさる必要はないのだから、われわれ国民大衆のために優先的に建設大臣は考えていただかなければならぬのですから、強力に要請していただいて、この利用をはかっていただきたいと思うのです。なお大臣の御見解をひとつ承りたいと思います。
-
○根本国務大臣 御指摘のとおりでございますので、私のほうも強力に、国家施策として、特に住宅が不足しておる都会地近郊では、これはいろいろの利用計画があるであろうけれども、住宅用地に転用すべきであるということを主張しておる次第でございます。
-
○鬼木
委員 そうしますと、都市計画法による市街化区域にこれはだいぶ入っておりますか、どういうふうになっておりますか。御調査ができております範囲内において伺いたい。
-
○竹内(藤)政府
委員 市街化区域は、先生御承知のように、十年くらいの先を見越して市街化を進める地域をきめるわけでございますが、原則といたしましては、米軍関係の施設は市街化区域に入れないように指導いたしております。
-
○鬼木
委員 当然そのように御配慮願いたいと思うのですね。市街化区域に入れられたんじゃ、これはやはり困ると思うのですよ。これは広大な広い地域で広範にわたった地域ですから、そういうのが市街化区域の中に入ってきたんじゃ困りますから、あくまでこれは
調整区域において処理してもらいたいと思うのですよ。
そこで、土地の問題ばかりになってきましたが、住宅建設の上から当然土地の問題が、先ほどから私がずっと申し上げておりますように、必須欠くべからざる大事な問題でございますが、この宅地の大量供給ということによって解決になると思うのです。宅地需要量は一体どのくらいございますか。その点、現時点においての宅地の需要量、これをひとつ御調査になっておる範囲内でようございます、大まかでいいですから伺いたい。
-
○朝日説明員 先生のお尋ねに、ちょっと必ずしも直接のお答えになっておりませんけれども、私ども現在宅地の供給計画を立てますにあたりましては、まずやはり大前提といたしまして、住宅建設の計画に即応して、その結果必要となる宅地供給という面で検討をいたしておるわけでございます。その点につきまして、現在の四十五年度をもって終わります住宅建設五カ年計画のことについて数字で申し上げます。現五カ年計画では六百七十万戸の住宅建設を予定しておるわけでございますけれども、このうちで、いわば新市街地と申しますか、新たに宅地を必要とする部分、これは約二百九十万戸と計画をいたしまして、これに対して必要な宅地の量は約五万三千ヘクタールであるということで、現在の五カ年計画は策定されておるわけでございます。これを、いわゆる公的機関が受け持つ部分、それから民間の宅地開発に期待をする部分ということで、一応分けて計画をしておるわけでございますが、これについては前年度でもって、四年間でもって約四万一千ヘクタール程度は公的、民間を合わせて供給に回り得るもの、回ったものと考えておりますので、現在の五カ年計画の、いま申し上げた五万三千ヘクタールの宅地供給計画は、残されたあと一年でほぼ達成し得るものと考えております。
なお、お尋ねの需要はどれくらいかということでございますけれども、ただいま申し上げましたように、住宅建設計画に伴いまして必要となる部分につきましては、目下検討いたしておるわけでございます。これは次の住宅建設五カ年計画と歩調を合わせ、目下鋭意検討を進めておる段階でございます。
-
○鬼木
委員 その需要量というのが、まだ現在研究中、調査中じゃちょっと困ると思うのですが、現在地方公共団体あるいは住宅公団とか、地方の公社を合わせてどのくらい計画量を持っておるか、それはわからぬのですか。それがわからぬじゃ話にならぬですよ。計画は立たぬでしょう。それは公と民間と分けてけっこうですがね。私は、ある点においては、政府は相当量のやはり先行投資をする必要があると思うのですよ。ところが、計画量がわからぬじゃ、どうして計画していきますか、われわれしろうとでもそのくらいのことはわかるがな。
-
○朝日説明員 ただいま申し上げましたように、いまの五カ年計画に対しまして五万三千ヘクタールという必要量を算定いたしておりますが、このうちいまの公的開発と申しますのは、住宅公団がやりますものとか、地方公共団体がやりますものとか、あるいは公的な区画整理でやりますものとかいうものでございますが、これは五万三千ヘクタールに対しまして、約二万五千ヘクタールを計画いたしておるわけでございます。これに対しましては、先ほど申し上げました四十四年度までに約四万一千ヘクタール、供給に回ったと申し上げました部分は一万九千ヘクタールでございます。それから残りのものが民間のいわゆる区画整理組合のやりますものとか、あるいは民間の事業者が開発をいたしますもの等に約二万八千ヘクタールを期待いたしておるわけでございますが、これは四十四年度までで約二万二千ヘクタール供給に回ったというふうに考えております。残りはこの四十五年度一年間で本年度の必要量は確保できるものと考えております。
なお、その需要という面でございますけれども、私どもただいま検討しておりまするのは、先ほど申し上げましたように、いま申し上げたと同様に、次の住宅建設五カ年計画におきまして、住宅がもちろん公的、民間を問わずどれくらい必要であるか、どれくらい建設されるべきかというところから、そのうちで新市街地と申しますか、特に新しく宅地を必要とする部分にどれくらい期待をするか、それを民間あるいは公的機関でどういうふうに割り振るかという計画を現在策定をしておる段階でございますので、むしろその必要量とこれに対する供給がどういう手段、方法で供給に回り得るかという見通しと両方兼ね合わせて検討しておるわけでございます。ただいまのところ、それ以上のものはちょっと検討いたしておらないわけでございます。
-
○鬼木
委員 これは先刻も私が申しましたように、やはり住宅計画に対しましては、大体の必要量ですね、需要量とそれから供給量ですな、供給量、この見通し、推計というものを誤ってもらうと、私はたいへんなことになると思うのですね。そういうことになりますというと、先ほどからも申しておりましたように、せっかくの五カ年計画も、終了の時点においては、今度の最終年度でも九五%ですか、やっぱりそういう推定の誤り、誤差というものが出てくると思うのですよね。でございますから、需要量と供給量という点について、私は皆さんのほうで的確に調査をされて、推計に誤りのないようにしていただきたいと思うのです。
住宅局長、どうですか。三大都市圏でどのくらい見積もっておられますか、需要量と供給量を。それは実際の計画量を、民間を含めていいですが、まだそれもいま研究中ならいいですよ。
-
○大津留政府
委員 先ほど宅
地部長がお答えをいたしましたように、次の五カ年計画の宅地の所要量をいま検討中でございますが、先生のいま御指摘になりました三つの地域、これが最も需要が強いところでございますので、全体のおそらく四〇%ないし五〇%はその三大地域で占められるものと考えております。
-
○鬼木
委員 そうすると、この新聞にも載っておりますが、本年度は公団住宅は八万一千戸、こういうことになっておりますが、三大都市はこれの何%とおっしゃいましたか。
-
-
○鬼木
委員 それでは、八万一千戸の四〇%、これが三大都市に振り分けられる、こういうふうに理解してようございますか。
-
○大津留政府
委員 公団住宅は住宅不足のはなはだしい大都市に重点的にやるというたてまえでやっておりますので、先生が御指摘になりました東京、大阪、名古屋地区にそのほとんどが行きます。ごく一部を北九州福岡地区、これはおそらく八万一千戸のうち二千五百戸程度だと思いますが、それ以外の大部分はいまの三大地域に行きます。
-
○鬼木
委員 そうすると、あとは全部民間に依存する、こういうわけですね。そういうことになりますか。二千戸か三千戸というのは、あとは公団住宅はできないということになるわけですか。
-
○大津留政府
委員 公団の八万一千戸の建設計画を地域別に申しましたらそういうことでございますが、なおこのほかに公営住宅あるいは住宅金融公庫のものもございますし、民間もございます。福岡地区は、いまの公団といたしましては二千五百戸程度を建てますが、そのほかに公営住宅とかそのほかも相当参ります。
-
○鬼木
委員 もう少しお尋ねしたいのでございますけれども、もう私の持ち時間が来ましたが、この新聞に出ておるのを私は全面的にこれがどうだ、こうだということを言っているわけではございません。けれども、公団住宅は本年度は八万一千戸ということに新聞に出て、それはあなたもいまお認めになりました。これは推計の誤りのないように一〇〇%実施していただきたいと思うのです。それは局長はようございますか。
-
○大津留政府
委員 一〇〇%達成いたすようにいたします。
-
○鬼木
委員 きょうは建設大臣にお見えいただいて長いことたいへん御無礼いたしましたが、いずれにいたしましても、本年は内政の年でございますし、あくまで大衆福祉のために一段と住宅建設に対して大臣の特段の御尽力を私はお願いしたいと思います。
いろいろお尋ねしたいのでございますけれども、時間が参りましたので、これで終わりたいと思います。最後に大臣の……。
-
○根本国務大臣 本日は鬼木さんからいろいろ具体的な問題を取り上げられまして激励かつ示唆を与えていただきまして、ありがとうございました。
御指摘のとおり、現在最大の内政問題となっております住宅問題については、全省あげて一生懸命に努力いたしまして、国民の要望にこたえたいと思います。どうもありがとうございました。
-
-
-
-
○
和田(耕)
委員 この前の建設大臣への御質問に続きまして、一つの問題だけをお伺いしてみたいと思います。
今度お米が余り過ぎるということで、相当大量の減反計画が進められておるわけでございますけれども、この減反計画の中には、水田を中心とした減反になるわけでございますが、このような減反をして水田をやめるというような条件の農地と、今度建設省が新都市計画法で市街化地域と
調整地域と、こうお分けになった。その市街化地域の中の水田あるいは農地の問題、この二つの問題は、建設省あるいは農林省で計画するときによく話し合っておられるかどうか、この問題からひとつ大臣にお伺いしたいと思います。
-
○根本国務大臣 御指摘のように、実は米の過剰対策のあれとして、最初は作付転換だけを考えておったのです。ところが作付転換だけでやって、作付転換はしたけれども、一割、水田は他のものに作付転換しても、あとでこれが増産されては困るじゃないか、そうすると、これは毎年繰り返しになる。それで、農地そのものを水田でなくしてしまえば、その次はだいぶ安心ができるというような意見が急に台頭しまして、本来ならば、これは各省から持ち合わせて可能の数字を積み上げていくべきところを、急にそういうふうな政治的な構想の変化によってできたために、裏づけはとにかく、希望数でやったということが率直にいって事実でございます。建設省の従来の実績からしますれば、水田をそれほどたくさん宅地なりあるいは道路あるいは河川に使っておるいままでの実績はございません。従来の実績は、いま政府全体で建設省に希望しておる数の約四分の一程度よりやっていないのです。というのは、従来は、御承知のように、農地法がございまして、なかなか転換が困難であるということと、それから地元住民もやっぱりお米が一番採算がいいものですから、なかなか抵抗が多いということで、道路、宅地等もできるだけ水田を除外して計画しておったという事実もあります。いずれにしてもそういう状況でございます。そういう状況で一応どの程度やれるかということは調査をしてみなければわからぬというので、建設省としては地建あるいは各都道府県、これらの方面に委嘱をし、さらに県は市町村に委嘱をして、可能な水田の転用の調査をさせております。なおまた、本年中もしくは数年後に公共用地として充当すべきものをできるだけ先行取得するように各府県に要請をしておりますが、これの機関と申しますものはいろいろ担当する部面が多いものですから、まだ各県からまとまってきておりません。そういう状況でございますので、具体的に本年中に転換すべき水田、これについては農林省とまだ打ち合わせはできていない次第でございます。
-
○
和田(耕)
委員 農林省の管
理部長さんはお見えになっていますか。——農林省のこの減反計画、現在実施されておる、あるいはされる見込みのところを、あらましお答えいただきたい。
-
○小山説明員 今度の米の需給
調整にからみまして、水田が余っているということでその転用をはかっておるわけですが、いかんせん、農林省は水田の転用事業についての需要がございましたときに、それを農地法上の許可にかける、許可をするかどうか、こういう立場にありまして、農林行政の間口の中では、積極的に工場なりあるいは住宅なりの需要を喚起するあるいは誘導するという積極的な施策を持ち合わせておりません。そんな関係で、内閣のほうで中心になっていただきまして、関係の各省お集まり願って、各省行政所管の範囲の中でどの程度転用利用が見込まれるだろうかという調査をお願いをしておりまして、それぞれの役所の中で調査が重複する部面もあるわけです。たとえば、自治省と建設省とは道路について重複するとか、そういった各省の調査の数字がダブる面もございますので、そういうことの
調整も内閣のほうでダブリの削除をしてもらうというふうなこともあわせてお願いしております。
農林省自体といたしましては、農家がどの程度転用をする心がまえ、気がまえ、準備があるか。要するに農地を売る見込み、供給側の要因は調べなくてはいけないということで、統計調査部のほうで調査をいたしておりますが、まだ集計の結果が固まっておらない、いま集計の途中、そういう段階でございます。
-
○
和田(耕)
委員 私の持っております資料では、方針として百五十万トンのお米を減らすために、百万トンは水田が二十三万ヘクタール、そして五十万トンは水田十一万八千ヘクタールの買い上げだ、こういうふうな一応の計画をもって実施に当たったと聞いておりますけれども、どうでございますか。
-
○小山説明員 米の需給のつじつまを合わせるためには、いまおっしゃいました数字を目標といたしまして、米の生産
調整あるいは水田の転用をはかる、こういうことにしておるのでございます。数字の点についてはおっしゃったとおりでございます。
-
○
和田(耕)
委員 相当大規模な水田の買い上げないし休耕あるいは転作になるわけですが、このような計画をお立てになって、その実績というのはまだはっきりわからないわけですね、先ほどのお答えのように。
そこで私は思うのですけれども、建設大臣、新都市計画法で市街化地域というものができた、その中には相当水田があると思うのですけれども、それはどの程度になりますか。
-
○竹内(藤)政府
委員 先ほど鬼木先生の御質問にお答えいたしましたように、ただいま最終的に決定したわけじゃございません。現在作業中の県の案を集計いたしたもの、その結果によりますと、水田が十八万ヘクタールという数字がございます。
-
○
和田(耕)
委員 建設大臣は先ほど鬼木君の質問に対して、各省がいろいろ相談してやっておられるということだったのですけれども、こういう問題の場合に、計画当初に計画をして、たとえば農林省が減反をする場合には建設省で都市計画の市街化地域がきまっているわけだから、これは線引きでいろいろ様子は違いますけれども、大体目標としているところはきまっているわけですから、その市街化地域にきまったところの水田を減反していく、優先的に取り扱っていきたいというような、そういう打ち合わせをすべきものだと私は思うのですけれども、大臣はどういうふうに思っていますか。
-
○根本国務大臣 先ほどもお答えしましたように、これはずっと前から計画しておればそういうこともやられたのでございますが、予算編成の最後の政治折衝の場にこの問題が出てきたために、こまいというか、そういうふうな積み上げの事務折衝をすることは実質上できませんでした。ただ、ただいま都市局長から御説明いたしましたように、市街化区域に編入さるべき地域に想定されるのが大体十八万ヘクタールである。ただこれは強制的に法律でやることでございませんから、ただいま農林省からお答えが一部あったように、農民が売るか売らぬかということは、これは完全なる自主性にまかしておるわけでございます。そういう関係で、現行の立場において農民から強制買い上げするというような農地法改正的なことはやっておりませんから、これがまず第一に問題点でございます。
その次に問題点は、例の農業団体ができ得るだけ農地を他に転売するよりも農業団体で確保すべきである、そしてそこに農住をつくりたい、こういうことと、それから、御承知のように、かなりの資金を農業金融機関に持っておるから、これを活用して農業協同組合に農地所有をしたいという意向があったけれども、現行の農業協同組合法ではそれができない、こういうふうな問題等がありまして、そこにちょっと隘路がございます。
そこで次に考えておるのは、将来こういう市街化地域になったところの農地が、いずれにしても地方自治体がいろいろ都市計画なりその他の公共事業をやる場合に必要であるから、できるだけ土地基金制度を利用して先行取得しなさい、そのために必要なワクは大蔵省が考えるということで、いまそういう方面でできるだけ地方自治体、その次にはいまの農業団体が直接買うか、買えない現行法であるならば何らか農業団体で転用する方途をもってこれに対応するか、いま検討を進めておるという状況でございます。
-
○
和田(耕)
委員 これは今回の百五十万トンの減反という問題だけではなくて、やはり将来続いていく問題だと思うのですね、この食糧の需要の質的な変化という問題を考えますと。したがって、もし必要があれば——必要があると思いますけれども、いまの農地を公共投資あるいは市街化区域をうまく実行するために取得する特別の法律を必要とするというふうな感じもするのです。そうしませんと、せっかく大騒ぎをして、市街化区域と市街化
調整区域とに分けた、線を引いた、それであっちがどうだ、こっちがどうだ、たいへん不公平だというような批判もたくさん出てくるわけでございまして、やはりせっかく画期的な新都市計画法というものができたわけでございますから、その中の農地、これは将来市街化されるところですから、そういう土地利用の方針ははっきりしているわけですから——しかしはっきりしていてもそれが利用できないような状態に放置するということは無責任のそしりを免れないということでもありますので、そういうことができるような措置を、法律的改正が必要であれば法律改正をするということが必要だと思うのですけれども、その点どういうふうにお考えでしょうか。
-
○根本国務大臣 現在でも地方自治体に土地基金制度を設けていますが、これはワクが非常に小さいのです。そこで私は一つの構想として、こういう際は特に大都市周辺がある意味においてはチャンスです、この土地をどう利用するか。そこで私は地方自治体のほかに国で土地基金制度を設けまして、この土地を買い取ったらどうかという構想を実は出してみたのです。ところがこれにはなかなか準備があり、ほとんど大部分が本年度財投資金や予算を全部配分したあとで出た問題だっただけに、その裏づけができなかったのです。そこで私は引き続きこの問題は主張しておりまして、先ほどもお答えいたしましたが、国会終了後に地価問題と土地問題をあわせた、大蔵大臣、自治大臣それから経済企画庁長官、農林大臣、私、このあたりが一つのメンバーになって本格的な地価対策をやりたいと思いますが、その際にもこの案を提案してみたいと思っています。これなら国会でも御了承を得られるのじゃないか。この際は二つの重要な目標が達成されるということは、農地転用が合理的に行なわれる、水田の転換が合理的に行なわれるということと、地価対策であり土地政策である。したがってこれはひとついま
和田さんが御指摘になりましたように、立法措置として国なり地方自治体がこの土地を取得し得る法律上並びに財政上の裏づけをしてみたらどうかという、これはまだ私個人の構想でございますが、それを持っているのでございます。そのことがむしろ私は、いまいろいろの問題が錯綜して動きがとれない農地転用と都市計画と地価対策が、三つともこれで解決できるじゃないかというようなつもりで、実は関係者にはいろいろ私の主張を申し上げて、御支持、御賛同を得たいと思って、いま努力している次第でございます。
-
○
和田(耕)
委員 たいへんけっこうな方針だと思うのですけれども、これは閣僚会議とかその他の、たとえば農林大臣との打ち合わせとか自治大臣との打ち合わせとかいうことは、まだなさっておられないのですか。
-
○根本国務大臣 正式にやってはいませんが、閣議の合い間とかなるべく——あんまり表面だってくると、片方が提案し片方が拒否したなんということになると、せっかくの舞台にのぼせられないうちにデッドロックに乗ってはいけないと思いまして、私的な形で、こういうことをやったらどうかなというような、提案らしい、申し出らしい話し合い程度のことはいたしております。かなり共鳴をしてくれる人もありますが、なかなかその立法はたいへんだよという感覚がまだ強いことは事実でございます。
-
○
和田(耕)
委員 農林省は、大臣はおられませんので小山さん、その問題について私的な考えとしてどういうようにお考えになっておりますか。全く私的な考えでいいのですから……。
-
○小山説明員 どうも私のような者がそういうむずかしい問題についての考えを申し述べるのは適当でないと思いますけれども、農地局のほうで農地転用の制度を所管しておりまして、いままでずっと処理をしてきておりますが、やはり工場にしましても住宅にしましても、必要な絶対面積は、全国を合計いたしましても、全農地面積に比べればわずかなものでございまして、その面積自体は、農地のほうで譲れないような面積では決してないわけであります。ただ、よくスプロールといわれますけれども、ばらばらに出て無秩序に出ることが問題であります。それについていまのような農地転用の制度は、一筆一筆の土地について申請がありましたときに、それぞれケース・バイ・ケースで判断をしておるのでございますけれども、そういう考え方はいつまでも続ける筋合いのものではないのではないかという——私見をというお話でございますから、端的に仕事の上の感じたことを申し上げるわけですが、そういう一筆ごとの土地の許可よりも、土地の総合的な利用計画を立てて、それに従って農地を国民経済全体に有効な方向に使っていくということが筋ではないかというふうに日常の仕事でつくづく考えさせられておるわけであります。ただ、それが非常にむずかしいのは、やはり御指摘の地価問題があるわけでございます。幾ら線を引きましても、計画を立てましても、ここは工場にするのにいいところだという計画を立てますと、その中の地価が上がってしまう。それで新しく工場を立地しますときには、すぐその隣の、線の外の地価が安いものですから、そちらのほうに行って、せっかく計画をした立地すべき区域の中になかなか工場が入ってくれないというようなことがしょっちゅうあるわけでございます。そういう意味で、これは農林行政だけでできることではございませんので、政府全体、国全体の立場から地価問題あるいは土地の総合利用計画というふうな仕事を重点的に進めてもらえますれば、農地転用のほうも非常に合理的、計画的にいくのではないかということを感じております。
-
○
和田(耕)
委員 いま小山管
理部長の私見がございましたけれども、地価対策というのは、その都度農地の売り払いのあっせんをするとかいうことでは、まさに地価を引き上げるわけで、一括大量供給という問題が、いま大臣もおっしゃったような構想の背後にはあると思うのですけれども、一つの政策だけをやるというのでは、他のほうにまた抜け穴が出てくるということですから、総括的な対策を、しかもきめたものは断固としてやるということでないと、地価対策にもならなければ、線引きにもならないということであって、結局政府の施策が権威を持たなくなるという非常にいい例だと思うのです。これは大臣、ひとつ至急に関係の閣僚会議を置いて、特に地価問題あるいは市街化区域における都市化の需要に対して、一括して総合的な政策を断行するというようなお考えが必要だと思うのですけれども、どうですか。
-
○根本国務大臣 御指摘のとおりだと思います。ただ、今日までは、いろいろな各省がそれぞれの立場においてやっておりまして、その結果が競合してしまいまして、政策目的に必ずしも一致しないという結果になりがちなので、その意味で、本来私の所管ではないけれども、私は建設大臣であると同時に国務大臣としていろいろ勇敢に提言している次第でございます。特に土地問題と都市再開発の問題は、とても建設省だけの予算措置だけじゃほとんど動かないという状況になったと私考えるくらいでございます。そういう意味で、実は東京都周辺で一番問題になっておる、先般も衆議院の建設
委員会で非常に問題になった例の外郭環状線の問題等なんかも、ほとんど抜きもさしもならないような状況になってしまっている。というのは、あれをつくらなければ、もう東京都の交通関係は全然処置ないんですけれども、現地における住民からすると、あそこをやられたのでは、たいへんな住宅が移転しなければいかぬ、行く場所がない、絶対反対だ。これでもう三年も四年も膠着しておる。そこで私は、やはりああいう問題は、単に道路政策だけでは解決できない。都市再開発を含めた形でいかなければならない。いまやもう新宿は副都心化の過密的な現状になっているから、もう一つ外郭環状線のところに副々都心的な都市再開発を考えるべきではないか。そうしていま東京区内は非常に過密化して、デメリットになっておる。あのままでは処置ないところに、あそこに機能のよいいわゆる新副都心をつくるという構想において、初めて地元も、単に移転せいとか、あるいは金だけもらっていくというよりは、働きやすいというように感ずる次第でございまして、そういう意味で今後の都市計画というものは、もう総合施策をやらなければいかないと思いまして、その意味でいま建設省では、事務当局もそうした構想のもとにいろいろ構想を進めておる。そうして、それをやるためには、現在の問題で一番最大の問題は、やはり土地問題です。土地問題は、理論的にはみんなわかっておるけれども、現実にやると、それがなかなか解決できない。それは地方自治体に金がないということ、権限がないということ、国にもそれがまた非常な隘路となっているので、そういう意味で土地基金制度をつくり、そしてそれを都市計画、都市再開発に使えるというところまで持っていかなければ、特に東京都並びに周辺の過密化しておる周辺都市の開発はできないのじゃないか。
いまそこで、首都圏の北部、宇都宮を中心とするところにやはり百万都市くらいの都市構想を持つべきだ。それから高崎、前橋周辺、あそこにも
一つの百万都市をつくる。鹿島、茨城、このあたりにも一つ、それから千葉周辺、こういうところに拠点都市をつくっていきますれば、その裏で東京の過密現象もなくなっていき、相当首都圏全体の様相が変わり、健全なる人間生活をしながら産業、文化、経済の発展ができる。ところが、そういう構想を持ちましても、たとえば群馬県なりあるいは栃木県なりその他のところでは、いまの情勢ではなかなかむずかしい。そこでそうした土地取得をするところの先行取得の財的なあるいは法的な裏づけが必要じゃないかというように考えて、これもなかなかむずかしい問題ですけれども、研究して、国会の先生方の御協力を得て、この問題に取り組まなければならぬのじゃないかと考えている次第でございます。
-
○
和田(耕)
委員 いまのような御方針、大体けっこうだと思うのですけれども、これは早くおやりにならないと、そしていまの新都市計画法の問題にしても現状のような状態で続けていきますと、かえってこの法律の目的とは逆の結果になるおそれが多分にある。地価の問題にしましてもそうですし、計画の線の内外についてもそうですし、そういう問題をひとつ当面の緊急の問題としてお考えいただいて、至急にその関係の実行をする閣僚会議というものでもおつくりになって、そして必要な法改正をしていく。特にいま片一方、農林省のほうは水田を何とか減らさなければならぬというし、片一方は、一つの市街化地域の設定をして、都市計画の投資をしようとしている。両方とも一つの目標に相談をすれば合う問題なんですから、この問題をひとつ具体的に詰めていただいて、ぜひとも当面の住宅の問題も、道路の問題も、工場の問題も解決するような方途を講じてもらいたい。そうしないと、その点をなおざりにしておりますと、いろいろといままでつくった法律が裏目になってしまうというおそれがなきにしもあらずで、ひとつぜひともその点をお願いしたいと思います。
なお、この問題は、先ほど私ちょっと用事で出たあとで鬼木君も質問されたようですから、まだ若干のこまかい点がありますけれども、質問を省くことにします。
-
○
天野委員長 本案に対する質疑はこれにて終了いたしました。
-
-
-
○
塩谷委員 ただいま議題となりました建設省設置法の一部を改正する法律案に対する自民、公明、民社三党共同提案にかかる修正案につきまして、提案者を代表して、その趣旨を御説明申し上げます。
案文はお手元に配付してありますので、朗読は省略させていただき、その要旨を申し上げますと、本改正案は、昭和四十五年五月一日から施行することとしておりますが、すでにその日が経過しておりますので、これを公布の日に改めようとするものであります。
よろしく御賛成をお願い申し上げます。
-
○
天野委員長 これにて修正案についての趣旨の説明は終わりました。
—————————————
-
○
天野委員長 これより原案及び修正案を一括して討論に付するのでありますが、別に討論の申し出もありませんので、直ちに採決いたします。
建設省設置法の一部を改正する法律案及びこれに対する修正案について採決いたします。
まず、
塩谷一夫君外二名提出の修正案について採決いたします。
本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
-
○
天野委員長 起立多数。よって、本修正案は可決いたしました。
次に、ただいまの修正部分を除いて原案について採決いたします。
これに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
-
○
天野委員長 起立多数。よって、修正部分を除いては原案のとおり可決いたしました。
これにて、本案は修正議決すべきものと決しました。
-
○根本国務大臣 慎重審議の上、修正の御可決をいただきましてありがとうございます。法の運営にあたっては十分に配慮いたしまして、国会の諸先生の御意思に沿い、国民の信頼にこたえるように運用してまいりたいと思います。ありがとうございました。
—————————————
-
○
天野委員長 なお、ただいま議決いたしました法律案に関する
委員会報告書の作成につきましては、
委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
-
○
天野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
—————————————
〔報告書は附録に掲載〕
—————————————
-
○
天野委員長 午後三時より
委員会を再開することとし、暫時休憩いたします。
午後二時二分休憩
————◇—————
午後三時十八分
開議
-
○
天野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
法務省設置法の一部を改正する法律案を議題といたします。
これより質疑に入ります。
質疑の申し出がありますので、順次これを許します。横路孝弘君。
-
○横路
委員 きょうは法務省の設置法ということでございますので、いまの刑務所のあり方を中心にして質問をいたしたいと思いますけれども、その前に、ことしの四月十八日に、いま札幌地方裁判所で行なわれておりますいわゆる長沼のミサイル基地事件に関しまして、法務省のほうで福島裁判長に対する忌避の申し立てをいたしましたけれども、その問題について少しお尋ねをしてみたいと思います。
まず初めに法務大臣にお尋ねしたいと思うのですけれども、ここ二、三年来、いろいろな行政事件あるいは刑事事件の中で、国側が敗訴する事件というものが相次いで起こっているわけであります。二、三例をあげますと、たとえば外国人の強制送還についてのいろいろな執行停止の決定とか、あるいは東京都公安条例についての執行停止の決定あるいは無罪の判決、あるいはココムについての実質的にはやはり国の敗訴の判決、あるいは四・二判決といわれている東京都教組事件についての最高裁の判決、公務員の政治的自由に関する猿払事件など、数えだしたら切りがないほどそういった事件が相次いでいるわけでありますけれども、昨年西郷法務大臣のときに、裁判所はこのままでは一体どこにいくのかわからない、何かの歯どめが必要だということを述べたわけでありますけれども、こうした一連の裁判所の判例の動向について、法務大臣としてどのようにお考えになっているのか、まずその辺から所感をお伺いいたしたいと思います。
-
○
小林国務大臣 どのようにと申して、要するに判決というものはりっぱなもので尊重しなければならぬ、こういうことだけでございます。
それから、西郷法務大臣が何か言うたことがあるそうでありますが、これはすぐお取り消しに当時なったようでございまして、その後、何ら尾を引いている問題ではございません。
-
○横路
委員 それならば非常にけっこうなわけでありますが、そこでいまの憲法のもとでは、結局すべての人の思想の自由あるいは結社の自由というのは保障されている、民主主義制度をささえる主権者の一人として政治的な権利の行使というのは保障されているわけであります。これは裁判官についてもまた例外でないと思う。裁判所法第五十二条に、裁判官の政治運動の禁止というのが規定されてありますけれども、その解釈について、昭和四十四年の一月最高裁の事務局がこういう解釈をしているわけであります。御承知だろうと思いますけれども、国民の一員として当然果たすべき義務としての政治的行動は、もとより積極的な政治活動をすることには当たらないし、特に単に特定の政党に加入して政党員になったり、あるいは一般国民としての立場において政党の政策を批判することもまたこの五十二条の禁止しているところではない。裁判官が、個人的にいろいろな思想を持ち、あるいはいかなる団体に加入するかということは、基本的には自由なんだというように、最高裁判所の事務局のほうでは裁判官の思想の自由あるいは結社の自由に関して解釈をしているわけであります。もちろん法務大臣としても異論がないと思いますけれども、この点についてどういうお考えなのか。
-
○
小林国務大臣 裁判所と法務省の関係は、もうよく御存じのとおりです。われわれは裁判所がどういうことをおっしゃる、あるいはどういう措置をなさるということについては、われわれとしては批判すべき限りではございません。したがって、そういうことについてもし疑問がおありなら、ひとつ裁判所当局にお尋ね願いたい。
-
○横路
委員 私は憲法の解釈、裁判所法の解釈を法務大臣としてはいかがお考えになっているのかということで、最高裁の見解を参考までに申し上げたのです。法務大臣としてはどういうぐあいにお考えになっているか、それをやはりお答えいただきたいと思うのであります。
-
○
小林国務大臣 いま申すように、裁判官の問題についてわれわれは口を出すべきでない、こういうふうに思います。
-
○横路
委員 それは、今度の忌避の問題を通して一連の流れの中で一番重要な点になっているのです。だから法務大臣として、私はこの最高裁の解釈を批判せよということを言っているんじゃないのです。どのようにお考えになっているのか、それをお伺いしているのです。
-
○
小林国務大臣 いいか悪いかを言えば批判じゃありませんか。だから私は、あれをあのとおり承っておく、こういうことでございます。
-
○横路
委員 その承っておくということじゃなくて、お考えはどうなのかということ。私は、今度の忌避の申し立ての一つの基本的な姿勢について、この辺に問題があると思うのです。これは法務大臣としてどう考えているのか、その見解をここでもってお答えになるのは、何も差しさわりのあることじゃないじゃありませんか。
-
○
小林国務大臣 私は、法務省の所管のことについてお答えをすれば、それでよかろう。したがって、自分の問題につき、法務省所管については言いますが、何といたしましても裁判所と法務省というものの関係はよく御存じのとおりでありまして、これらは最高裁が最高裁の立場としていろいろなことを処置し、またお話しになる、こういうことであって、われわれとしては承っておく。私どもが法務省としてやっていることが連携があるとあなたがお考えになれば、われわれはそれまでで、われわれは連携ない、それぞれの立場において考えを実行しておる、こういうことでございます。
-
○横路
委員 連関の問題を聞いているのじゃなくて、憲法で保障されている思想の自由なり、結社の自由なりというものは、また裁判官にもあるのだ。しかし、もちろん裁判官にあるといっても、それはやはり特別職とはいえ公務員ですから、そうすると、憲法十五条の関係というのも出てくるわけですね。その調和の問題として裁判所法五十二条でその限界というのを私は規定していると思うのです。この憲法の解釈としてどうなのかということを法務大臣にお尋ねしているのです。裁判所の解釈についてどうこう言いなさいということじゃないのです。それを明らかにすることは、私はこれからだんだん明らかにしていきますけれども、今回のこの忌避の申し立ての一番根幹に触れてくる問題なんです。どうしてもここのところをどういうぐあいにお考えになっているのかということをお聞きしないとならぬと思うのですね。ぜひその点を重ねてお伺いいたしたいと思います。
-
○
小林国務大臣 いま申すように、私は単なる私人じゃありません。法務大臣と最高裁長官との関係について申し上げているのです。
-
-
○
小林国務大臣 聞いてなくも、そういうことになりますよ。だから、私どもどういう考えでやっておるかということをお聞きください。それならばお答えいたします。
-
○横路
委員 ですから、それを聞いているのです。どういうお考えなのかということを……。だから、どうもよく御理解いただけないのですけれども、裁判所のほうではこういう解釈をしています、しかし、法務大臣のほうとしてはどういうぐあいにお考えになっているのかということをお尋ねしているのです。法務大臣と最高裁長官との関係なんか何も聞いていないのですよ。そんなことはもうわかり切ったことなんです。思想の自由、結社の自由について、法務大臣としていかがお考えになっているのかということを聞いているのです。
-
○
小林国務大臣 いまおっしゃるようなことは、憲法解釈上一般人については当然なことであって、そんなことはたいして問題にすべきことではないので、あたりまえのことをおっしゃっておる、こういうことですね。
-
○横路
委員 ですから、最初からそういうぐあいにお答えいただければよかったのです。そうなんです。一般人の解釈としてはこの裁判所法五十二条、あるいは憲法でいわれている思想の自由、結社の自由については、こういう解釈が常識なんです。
で、次にこれをお尋ねしたいと思うのですけれども、政治的な中立性という問題があるわけなんですけれども、先ほども申し上げましたように、裁判官といっても、結局憲法十五条の趣旨からいって、その職務を遂行するという際に、私的な利益あるいは心情というものを止揚して、国民全体の利益や立場に立ってその判断をすべきだというのは当然でありますから、そのための限界として、やはりこの裁判所法五十二条というものがあるというように、これは一般的にだれでも考えることだろうと思うのですね。
そこで、政治的な中立性ということについてちょっとお尋ねしたいのですけれども、裁判官の職務の遂行について党派的な中立ということについては、これは問題がないと思うのです。ただ、たとえば憲法を守るか、守らないかというような問題について、中立というようなものを考えてみた場合に、私はもちろん中立なんという問題はないと思いますけれども、この辺のところの裁判官の職務遂行にあたっての政治的中立性ということについては、法務大臣はどういうぐあいにお考えですか。
-
○
小林国務大臣 前に、いまお答えしているように、そういうことは裁判所にお聞き願いたい。私どもが判決について何か言ったりすれば、あなた方じきに問題にするでしょう。要するに、そういうわけだから、裁判所のおきめになったことは裁判所に聞いてほしい。あなた方も最高裁の局長なり、事務総長をお呼びできるのだから、そちらへひとつお尋ね願いたい。
-
○横路
委員 なぜ私はそういう質問をしたかというと、今回の忌避の申し立てというのは、私は行政の司法への不当な介入だと思うのです。いまいみじくもおっしゃった、そのことは裁判所のほうに聞いてくれ、そうなんですよ、これは裁判所の問題なんです。今回の忌避の内容の中で問題になっている裁判官の思想の問題とか、あるいはこの団体加入の問題というのは、憲法の解釈としては、法解釈としては解決されている問題なんです。あとは裁判官のモラルの問題だと思うのですね。裁判官のモラルの問題だとすれば、これは裁判所の問題です。法務省が介入すべき問題ではないのです。しかし、今回の忌避の中では、これをあえて国が取り上げて、こういう問題を法律的に法廷の場で解決しようと持ち込んだことは、私は大きな間違いだと思う。いまもお答えになったとおりなんです。私はこれはやはり不当な介入だと思いますけれども、その点についていかがでございますか。
-
○
小林国務大臣 何も介入なんて問題は起きておらない。あなたは何か国家はえらいものだ、こういうふうな誤解でもしておるんじゃないか。国といえども訴訟の当事者の一人にすぎない。だから訴訟上行使し得る合理的な手段というものは当然使うべきでありまして、何も裁判の介入じゃありません。しかもわれわれが決定するのじゃない。裁判所が決定する。われわれの忌避の申し立てがよいか悪いかはわれわれが決定するのではありません。裁判所におまかせしてある。私は何も悪いことはないと思います。
-
○横路
委員 しかし、それは忌避一般について論ずればそういうことは言えるでしょうけれども、問題は忌避の内容は何かということなんです。今度の内容はどういうことですか。福島裁判官が青法協の会員である。青法協は日民協に加盟している。日民協ではこの長沼の訴訟を支援している。この辺のところに非常に私は事実の問題としても間違っている点がたくさんあると思いますけれども、結局裁判官の思想あるいは裁判官のこういう団体加入を問題にした忌避の申し立て、それはもう報道された新聞が全部、日本の裁判制度の根本に触れる問題として一面に取り上げている。そういう重大な問題なんです。だから私お尋ねしているのです。これは裁判所にいまかかっているから、地裁の決定を——われわれも訴訟の当事者として当然忌避の申し立てをすることができるのだというだけでは済まされない、その内容が重大だと申し上げて御質問申し上げているのです。その点について重ねて……。
-
○
小林国務大臣 これは重大なことはわかり切ったことです。重大だから新聞も大きく扱うし、またこちらも終戦後初めてだ、こういうことでありますが、当事者としては、どうしても公正な裁判を希望する、また、したがって外部的に見て多少のそういう疑いがあれば、こういう手続をとるということは当然の訴訟上の権利であり手続にすぎない。だから、結局内容の問題はここで議論してもしようがない。ここできめるものじゃありません。これは裁判所がきめるのです。したがって、私はこれがいいとか悪いとかいろいろここで議論しようとは思いません。あなたは御自由におやりになるが、私のほうはそういうつもりで、出た以上は、これは裁判所がおきめになることで、われわれはそれに従う、こういうことだけであります。もし事務的にいろいろまたお話があれば、私のほうの訟
務部長からお答えいたします。
-
○横路
委員 そうすると、具体的な事実に即してその辺の問題を明らかにしていきたいと思います。
その前に、今回の申し立ては、もちろん法務大臣は了解しておやりになったことだろうと思いますけれども、これは法務省が独断でやったことですか、それとも関係省庁みんな検討されて、その上でやられたことなんですか。
-
○
小林国務大臣 これは単なる訴訟手続上の問題でありまして、法務大臣が独断専行した、こういうことははっきり申し上げておきます。
-
○横路
委員 今回のこの忌避に関して、いま国民の間にいろんな不安がたくさんあるのです。それはどういう不安かと申しますと、青法協の会員の裁判官というのは非常にたくさんいるわけです。三百名くらいいるわけです。そうすると、Aという裁判官は青法協の会員だ、青法協は日民協の一員だ、日民協が当該問題について何らかの関心を持っているということになれば、今回の法務省の論理でいけば、これは全部忌避の対象になることになる。そうすると、今回の決定の内容いかんによっては、将来公安、労働関係の民事や刑事の事件について、青法協の会員の裁判官というのは一切裁判に関与できない、裁判のレッドパージが進行する危険性というのは私は非常にあると思う。このことは国民が一番不安に思っていることなんです。これは仮定の質問になりますけれども、法務省のほうの論理でいけばできることになるわけですから、あるいはこれからもどんどんおやりになるつもりなのか、将来の問題としてはどのようにお考えになっているのか、その辺のところをお伺いしたい。
-
○
小林国務大臣 これはいろいろの批判があるから問題になるのです。賛成する人もあるし反対する人もあるし、それぞれの立場でこれはおっしゃる。だからして、その是非善悪というものは結局裁判所できめてもらう、こういうことでございますし、これは何もわれわれが今後もこういうことをどんどんやりますなんということは申し上げません。具体的な事例に従って、要するに外部的に見て公正な判決が得られるかどうかについてもし疑いのある場合においてやるだけでありまして、おそらくどんどんというわけにはいきません。いまおっしゃることは非常に飛躍したお話でありますが、はっきり申し上げますれば、これ一つやったからまたあとどんどん出るだろうということはわれわれも考えておりません。
-
○横路
委員 先日の石田最高裁長官の発言やら今回の一連の法務省の行為を見ると、そういう不安を国民が持つのは当然のことだろうと思うのです。抽象的な議論をしていてもこれ以上問題は進みませんから、ひとつ具体的にお話をお伺いしたいと思う。
私はこの問題で一番ふしぎなのは、この裁判が始まってことしの四月十八日という時点で忌避の申し立てがなされた。なぜこの時期にやったのか。もう実質的に証拠調べの決定もされている。なぜこの時期に忌避の申し立てをなされたのか。民訴三十七条の原則は、例外は別にして、当事者が裁判官の面前で弁論をした場合には、その裁判官を忌避できないのが原則なんです。それがなぜ、この四月十八日という時点で忌避の申し立てをされたのか。その点について、これは事務当局からでけっこうでございますからお答えいただきたい。
-
○香川説明員 忌避の事由があるというふうに私どもが知りましたのが四月以降でございますので、その時点で申し立てをしたというにすぎないわけでございます。
-
○横路
委員 そのただし書きのほうでは忌避の原因が二つあるわけですね。原因がその後に生じた場合と、当事者がその原因あることを知らなかったときに、三十七条のただし書きで忌避ができるようになっているのです。この二つのうち、どちらなんですか。
-
○香川説明員 忌避の事由のあることを知ったのが四月以降、こういう意味でございます。
-
○横路
委員 それが私どうもよくわからないのですけれども、おたくのほうの裁判官忌避の申し立て書の疎明方法、疎第一号証から第十二号証まであります。第十二号証は報告書なんです。第一号証は「篝火」、これは一九六五年に発行されているものです。第二号証の「青年法律家」二十三期修習生歓迎特集号、これは一九六八年十一月に発行されているものです。第三号証の「日本民法協」、雑誌、これは一九六九年八月十日に出されているものです。第四号証の「日本民法協」、やはり機関誌、これは一九六九年九月十日に出されている。第五号証、「第十三回全国総会のための一般報告と一九六二年活動方針案」、一九六二年に出されている。第六号証が「第十九回全国総会のための活動報告と一九六八年の活動方針案」、これはやはりこの時点で出されているものです。第七号証が同じく六九年の活動方針案、第八号証の「青年法律家」というのは六九年七月一日に出されている。第九号証の「青年法律家」というのは、六九年の十一月五日に出されている。第十号証の「青法協」、これは修習生の支部ニュース、これは六九年十月六日、第十一号証、これもやはり札幌の修習生のニュース、六九年一月。
みんなもう去年以前の段階で発行されているものなんです。四月になってから知ったというのはそれはどういうことなんですか。
-
○香川説明員 いま読み上げられました資料は、いずれも公開されておるものではないと思うのであります。本件長沼事件の被告である農林大臣及び指定代理人がさような資料を入手したのが四月以降、こういうことでございます。
-
○横路
委員 しかし、いま私が読み上げたのは間違いないでしょう、疎明方法で出していることは。いま四月以降に手に入れたのがそうなんだということでございましたから、結局お認めいただいたと思うのです。福島さんが青法協の会員で雑誌の編集をやっているということは、昨年の十月八日に例の飯守所長が明らかにしていることなんです。去年の十月段階で明らかになっていることなんです。そうすると、これらの資料を四月以降に入手されたということだけれども、そういう資料が別に歩いて向こうのほうからとことこやってきたわけではないので、おたくのほうで入手しようと集めたからこれだけ集めることができたわけですね。そうすると、おたくのほうでこれらの資料を集めようというように考えたのは一体いつごろなんですか。そしてその動機というのは一体何なのか。
-
○香川説明員 それは積極的に集めたものではございませんので、たまたま入手しただけのものでございます。誤解のないように申し上げておきますが、本件の忌避の事由は、福島裁判官が青法協の会員であるとかあるいは「篝火」云々というふうなことそのものが忌避の事由ではないのでありまして、青法協が、安保廃棄あるいは自衛隊反対、それの一環として長沼事件の原告側の支援活動をやっている、その青法協の会員である福島裁判官が長沼事件そのものに関与するということは適当でないのではないか、かような趣旨でございますから、したがって、さような忌避の事由を自信をもって言い得たのが四月以降、こういうふうに御理解願いたいと思います。
-
○横路
委員 忌避というのは、結局具体的な事件について裁判官が偏見を持っているのだ、だから公正な裁判が期待できないということで、これは制度上認められているものだと思うのです。いま青法協が支援活動をしているとかなんとか話がございましたが、それは明らかにしていくとして、一体具体的にこの事件について何か偏見を持っているというようなことばございますか。
-
○香川説明員 忌避の事由がある、つまり民事訴訟法の三十七条の裁判の公正を妨ぐべき事情があるという点についての私どもの解釈は、当該裁判官が不公正な裁判をするおそれがあるとかあるいはへんぱな考えを持っておるというふうなことではなくて、一つの客観的な事情から、その裁判官が個人的にあるいは主観的にいかように公正を保持されましても、外部から見ればその公正保持について疑いが持たれるおそれがある、かような場合をいうものというふうに考えておりまして、本件の場合に福島裁判官がどのような偏見を持っておるかとか、あるいはどのような活動をしておるかというふうなことは、忌避の申し立て事由としては全く関係がないというふうに考えております。
-
○横路
委員 そこのところが少しおかしいと思うのです。結局不公正な裁判をするおそれという場合に、事件または被告人等に利害関係を持つ場合と、事件について予断を抱く場合と私はあるだろうと思うのです。これは一般的にも通説になっている。一体どちらなんですか。
-
○香川説明員 そのいずれの場合も忌避の事由があるかと思いますが、私どもの忌避事由を申し上げておるのは、いま申し上げましたような、その裁判官個人についてとかく申し上げることではなくて、先ほど申しましたように、長沼事件の支援活動をしておる青法協の会員、つまり青法協の一つの活動方針に同調し、それに拘束されるはずの裁判官が、当該長沼事件の裁判に関与するのは適当でない、かような場合も民訴法三十七条一項の忌避事由に該当する、かような見解でございまして、この点は現在係属中の事件でございますので、裁判所がどのような判断をされるか、それによってお考え願いたいと思います。
-
○横路
委員 その忌避の問題の法律論についてはもう少しあとにして、まずやはり事実の点について明らかにしないとどうも議論が進まぬようですから、その点を少し明らかにしていきたいと思う。この忌避の申し立て書の中で、青法協について、反権力的な政治活動に重点を置いている団体だというように書かれている。ところが、おたくのほうで出された第二号証の中に、青法協の規約というのが入っています。この規約の中に、目的については、「本会は憲法を擁護し、平和と民主主義をまもることを目的とする。」というように明記されておる。さらにその活動についても、「調査ならびに研究活動」「教育ならびに啓蒙活動」、こういうように書かれているのです。そこでお尋ねしたいのは、私は、憲法擁護は、もう憲法九十九条に規定されているように公務員全部に義務があるわけです。平和と民主主義というのは、いまの憲法の原理だと私は思う。なぜ憲法を擁護し、平和と民主主義を守るということが反権力的政治活動になるのですか。
-
○香川説明員 憲法を守り平和と民主主義に徹するのは当然のことでございます。本件忌避におきましてさようなことをとかく批判していることばは全然ないのでございます。
-
○横路
委員 しかし、あなたのほうでは青法協というのは反権力的政治活動をやっている団体だというように申し立て書の中に書かれている。ところが青法協の目的というのは何かといえば、憲法を擁護して平和と民主主義を守ることなのだ。(「飛躍だよ」と呼ぶ者あり)だから、議論していけば、国としては、法務省としては、憲法を守って平和と民主主義を守ることが反権力的な政治活動だというのじゃ、どちらが飛躍なのか、あなたのほうが飛躍じゃないかと私は思う。その点もう一度明確にお願いいたします。
-
○香川説明員 その辺の関係はともかくとしまして、忌避の事由の有無については現在裁判所で審理中でございますから、どのような点がどうなるかというふうなことは、ここでいろいろ申し上げることは差し控えさせていただきたいと思います。
-
○横路
委員 あなた、いままでお答えになっていて、そんなこと言って逃げられてはだめですよ。新聞にだって青法協というのはそういう団体なんだとして発表しているじゃありませんか。あなたのほうで裁判所に出された資料の中にちゃんと規約が入っていて、その中に明記されているじゃありませんか。それをなぜ申し立て書の中で反権力的政治活動を行なっておる団体だというように事実をゆがめて書いているのですか。私はこの文章全体を見て、ちょっと法律家の書いた文章としては少しお粗末だと思う。これは非常に政治的な文章ですよ。事実に即してやっているのじゃなくて、事実がきちんとあるということを認識されて、あえて曲げて申し立て書の中に書いて、しかも新聞にああいう形で大々的に発表される。一体何がその意図なのかということまで私勘ぐりたくなる。青法協の目的からいって、なぜ反権力的政治団体になるのか。それはやはりそういうことでもってあなたのほうで申し立てをしたのですから、ここでお答え願わなければならぬと思う。
-
○香川説明員 青法協の実体がどのようなものであるかということは、直接忌避の事由には関係しないと思いますが、政治活動をやっている、政治団体と目されるというふうに私どもは考えておるわけでありまして、この点についてここでその見解が間違っておるというふうにおっしゃられましても、私どもは私どもの資料に基づいてさような判断をしているわけでございます。
-
○横路
委員 私もあなた方とできるだけ同じような判断をしたいということで、この疎明資料を、報告書を除いて全部集めて、全部読んでみたのです。その上でお伺いしているのです。しかも先ほどは、青法協が長沼訴訟に対して支援活動をやっているからという、そのことを理由にして忌避を申し立てているのだとおっしゃいながら、いまになると、今度は日民協のほうに問題を持っていく。結局根底には、青法協に対する規定というのがやはりこの中に出ているのです。一番さかのぼれば、最初にお伺いした思想なり結社の自由という憲法上非常に重大な問題がやはり背景にあるのです。だからこの規約からいって、なぜ反権力的云云になるのか。私も実は青法協の会員なんです。この国会の中に民社党から共産党まで、青法協の会員の国会議員というのは何名もおりますよ。一体どこが反権力的政治活動なのか。私は北海道の青法協の支部にいるのです。内容、実態もよく知っている。何をやっているか、それについてあとでお尋ねしたいと思うけれども、こういう規定をされて、そのことをとにかく表にばんと出して、今回の忌避の申し立てをやられたのだから、規約がどうなっているかは御存じなんでしょう。青法協の規約はどういうぐあいに書かれているか、それをちょっと確認してほしいと思います。
-
○香川説明員 青法協は弁護士あるいは法律学者あるいは裁判官、修習生が会員になっておる団体でありますから、その青法協の目的としまして、憲法を擁護する、あるいは民主主義と平和に徹するというようなことは、特に目的としなくても当然のことだろうと思うのであります。私どもは、その背後にあらわれた、規約よりも青法協の実態が政治活動を行なっておる団体だというふうに考えておる、かようなことでございます。
-
○横路
委員 あなたは、長沼事件の訴訟に対して青法協が支援活動をしているからだというふうにさっきおっしゃいましたけれども、一体、青法協が長沼の訴訟について支援活動をする、そんな決議か何かございますか。
-
○香川説明員 先ほども申しましたように、現在裁判所で審理中の事件でございますから、どのような点がどうであるということは差し控えさせていただきたいと思うのです。
-
○横路
委員 都合の悪いところに来るとそういうことをおっしゃるので、困るのですけれども、決議なんというのはないのです。支援活動なんかしていないのです。それで、あなた方のほうで支援活動をしているということで出された資料が二つある。一つは十号証。これは青法協の修習生の部会でやった会合です。研究会です。それが申し立て書によると、こういうことになるのです。「長沼基地事件に関し、同事件の原告代理人たる弁護士を講師として、討論の集いを開いて、長沼基地事件のみならず、いわゆる平賀書簡問題を討議し、」一体このことがなぜ長沼訴訟を支援する活動になるのか、私は非常にふしぎだと思うのです。平賀書簡問題について、これは別に青法協だけが問題にしているのではないのです。皆さん方だってそのことは十分御承知のはずなんです。この問題は、司法制度の破壊行為として非常に重大な問題だ。札幌地方裁判所、最高裁判所でもこの平賀さんに対する具体的な措置を行なっているし、東京弁護士会、大阪弁護士会、札幌弁護士会では総会の決議をもって訴追の請求をしているくらいなのです。平賀問題について議論することが、なぜ長沼についての具体的な支援活動になるのですか。
-
○香川説明員 平賀問題を議論していることだけを忌避の事由というふうにもちろん考えておりません。私どもが先ほど申しましたような忌避の事由があるというふうに考えて申し立てしました以上、十分疎明はできておるというふうに確信しております。
-
○横路
委員 あなたのほうでは、青法協が具体的に長沼の支援活動をやっているから、こういうようにさっきお答えになった。そして第一号証から十一号証までの疎明資料の中で何かそれに関連するものがあるかないかと思ってさがしてみれば、この十号証と十一号証、おたくのほうでもそれを引用してこの申し立て書の中に書いているから、そのことをもって具体的な支援活動としているのは明白だと思う。その中であげているのが二十二期と二十三期の修習生が開いた研究会、それについて、いまお答えがあったように、長沼事件あるいは平賀書簡問題について討議をした、こうなっているから私はお伺いしている。これはやはり一つの証拠として出されて、この申し立て書の中に書かれているから、私はそうだと思う。そのことについてやはり私はお答えいただきたいと思う。
-
○香川説明員 忌避事由のあることは、疎明資料のこの点はこの部分というふうには申し上げかねますが、全体として疎明資料を見れば、忌避事由があるということが認められるというふうに確信しているわけであります。
-
○横路
委員 私がお伺いしているのは、なぜ二十二期と二十三期の修習生が会合を開いて長沼の問題と平賀書簡の問題について議論することが訴訟を支援した活動になるのですかとお伺いしている。
-
○香川説明員 申し上げるまでもなく、忌避の事由は疎明で足りるわけでございまして、全体としての疎明資料から忌避事由があるというふうに考えております。
-
○横路
委員 それではお答えになっていないのです。これが具体的な一つの訴訟の支援活動というようにお考えになっているのですか、どうなのですかというように私お伺いしている。そこはきちんとやはりお答えいただかなければ、同じ問題を何回も問答やると、時間ばかりかかって、あと残るから、まだ私刑務所の問題についてお尋ねすることになっているので、ぜひそういうことで若干進行を早くする意味でお願いいたしたいと思います。
-
○香川説明員 それも含めまして、疎明資料全体から忌避事由があるというふうに考えておるわけでございます。
-
○横路
委員 この資料全体を読みますと、やはり青法協が支援活動をやっておるという疎明の問題というのは、この二つしかないのですね。どう読んでみても、長沼のことなんか出てきていない、青法協が支援活動をやったという具体的な内容としては。だから私はお尋ねをしている。
じゃ、もう一つ、この十一号証のほうについてお尋ねしたい。これは修習生の「札幌支部ニュース」、青法協には札幌支部というものはない。北海道支部しかない。しかもその修習生の札幌支部の個人が書いた文章を何か鬼の首を取ったみたいにしてここに書いてある。しかもこの中に引用されているのは、重大な点をわざと抜かして書いてある。おたくのほうのこの申し立ての中には、このニュースの第二号をずっと引用されている。たとえば最後のほうの長沼事件レポートにおたくのほうで引用されているのは、「長沼の場合……」としてあって、「恵庭事件と同等あるいはそれよりももっと強いかたちでの第九条論の展開がなされる公算が大きい」ところがこのニュースというのは一九六九年、まだ裁判になるずっと前のニュースなんです。現地で会員はもちろん問題にしていたからこういう調査をされたんでしょう。だからこの引用個所としてあなた方が抜かしてある中には、長沼の場合仮定の議論ではあるけれどもといってずっと書いてある。それを引用されて、そこを抜かして何か具体的に青法協が活動しているような印象を与えようとされている。これは訴訟が起こる前のレポートですよ。これが一体なぜ長沼訴訟に対する具体的な支援活動になるのですか。
-
○香川説明員 何度も申しますように、その辺のところは裁判所の判断をまつわけでございまして、ここでいろいろ議論は差し控えさしていただきたいと思います。
-
○横路
委員 そうしたら、あなたのほうでなぜこういう新聞の発表をなされたんです。私は、おたくが要旨だけしか発表しないで全文を発表しないのは、これを読んでみてわかる。事実でないことを、さもそのようにして、でっち上げているからですよ。だから私は要旨しか発表しないで全文を発表できなかったんだと思う。この二十二期のこれが何か青法協の札幌支部のニュースのような形で出されている。これは現実には二十二期の修習生が裁判を起こす前に書いた報告ですよ。しかもちゃんと個人の文責で書かれて、これは個人のものですよ。だから私はそこに政治的な何か別の意図があるんじゃないかということを勘ぐりたくなるというように先ほどから申し上げている。やはりそこのところを、肝心のところになるとそれは裁判所の判断だということで逃げられるのじゃ、やはり私はそれは困ると思う。
-
○香川説明員 私どもが、忌避の申し立てについて、公表したというようなことは絶対ございません。横路
委員も御承知と思いますけれども、忌避の裁判は非公開であり、したがってその裁判記録、つまり申し立て書だとか疎明資料というふうなものも公開されないものでございまして、そのようなものについていろいろこれを明らかにして議論することは慎むべきことだろうというふうに思うので、先ほど議論を差し控えさせていただきたい、かように申し上げたわけでございます。
-
○横路
委員 しかしこれは発表されたでしょう、忌避の申し立てはしましたよ、こういう理由でやりましたよということを新聞記者の方に発表されたでしょう。
-
○香川説明員 こちらから積極的に発表はいたしておりません。
-
○横路
委員 そうしたら、この各社の一面に出ているこれは一体何ですか。新聞記者がかってにこれをニュースとして新聞に載せたものですか。
-
○香川説明員 どのようなことで新聞が取材されたのか、つまびらかにいたしておりません。
-
○横路
委員 各社一斉にこれは書いているんです。これはどこかの新聞記者が抜いた記事じゃないんですよ。全部の新聞に載っていることじゃありませんか。私はその新聞記者がどういう取材をしたのか知りませんから、それはあとでいろいろ聞いてみて、おたくのほうで発表したことがなかったのならばそれはそれでよろしいけれども、もし事実と違うなら、またあとでさらにその点については法務
委員会等で明らかにしなければならぬと思う。確認しておきますけれども、新聞記者に公表されたことは一度もないんですね。
-
○香川説明員 絶対ございません。
-
○横路
委員 それは要旨についても、忌避の申し立てをしたということについても、新聞記者に話したことはないわけですね。
-
○香川説明員 新聞にどういうふうに取材して載ったのか知りませんが、そのあとで新聞記者から取材活動として私どもにいろいろ問い合わせがありましたときには、許される限り答えはいたしておりますけれども、こちらから申し立て前あるいは申し立て直後にその内容を公表するというふうなことは絶対いたしておりません。
-
○横路
委員 私は何も申し立て前に新聞記者に公表したなんということは聞いていないのです。いずれにしても、どんな形でもいいから、ともかく新聞記者に、この記事に載っているような内容について発表したことは間違いないのです。話をしたこと、取材をしたことは間違いないのです。こうやって明らかにされているから私は聞いている。
先ほどの問題に戻りますけれども、この疎明資料の十号証と十一号証、一体なぜ青法協の具体的な訴訟支援活動がなされているのか、私は何べん読んでみたって、どうもよくわからない。あなたはお答えにならぬようですから次の問題についてお尋ねをしたいと思いますけれども、いずれにしても、私は今回のこの申し立て書を読みまして、これは少なくとも法律家の書いた文章じゃないと思う。非常に政治的な意図を持っている申し立てだということだけ私は申し上げたいと思うのです。
そこで、この申し立て書の一番最初のところに、福島重雄裁判官は青法協の会員であり、かつ「昭和三十八年頃より発行されている「篝火」の元編集責任者であって、現在青法協札幌支部において先輩格の会員として指導的役割を果しているものと考えられる。」大体こういう法律的な文章で、こんな推定に基づいて「考えられる。」なんというぐあいに書くことはまず普通はない。ところがこの新聞の発表を見ますと、どの新聞でもその要旨として出されているのを見ると、福島裁判官は「先輩格の会員として指導的役割を果している。」こうなっている。何もこれは確証のあることではない。事実かどうか、おたくのほうではわからぬから「果しているものと考えられる。」疎明資料ももちろん、何もない。ところが新聞記者に対して話しているときには、みんな新聞全部、そんな「考えられる。」なんということじゃなくて、「指導的役割を果している。」というようになっている。私がどうも政治的な意図があるというように考えるのは、そこを言っている。これもやはり一つの重大な点だと私は思う。一体何に基づいて福島裁判官が「先輩格の会員として指導的役割を果している。」とお考えになったのか、御判断になったのか。これは非常に重大な点だと思う。お答えいただきたいと思います。
-
○香川説明員 私どもの公式発表は、先ほど申しましたように全くしておりませんし、新聞のほうでそれぞれ取材されてお書きになることまで私どもからとかく申し上げる筋合いではないと思います。
-
○横路
委員 この福島裁判官が「現在、青法協札幌支部において先輩格の会員として指導的役割を果している。」というようにおたくのほうで考えられたのは、一体どういう根拠に基づいて考えられたのですか。
-
○香川説明員 先ほど申しましたように、そういう裁判所に提出してある疎明資料全体から見てさような判断をしたということでございます。
-
○横路
委員 しかし、出されているのは、この「篝火」という雑誌なんです。福島裁判官に直接関係あるのは、これは昭和四十年、いまから五年前の雑誌です。「現在」と書かれているのだ。現在、青法協札幌支部の指導的役割りを果たしている。私は事実でない、そのことを申し上げたいと思いますけれども、こういうぐあいに申し立て書に書かれているのだから、一体その根拠は何なのか、どういう点を調査されてそういうような申し立てになったのか。これが申し立てのまず第一前提になっているわけでしょう。福島裁判官は、青法協の会員であり、かつ札幌支部において指導的な役割りを果たしているというところから出発して、二段論法、三段論法になって忌避の申し立てになっている。だからお伺いしている。
-
○香川説明員 先ほども申しましたように、私どもはそのように判断したわけであります。疎明資料全体を通じて、裁判所が現在審理しておられるところでございますから、その点これ以上お答え申し上げることは差し控えたいと思います。
-
○横路
委員 しかし、忌避の申し立ての理由というのは、主観的なものではだめなんですね。あなた方のほうのこの忌避の申し立てが、あいつはけしからぬからとか、あいつはこうだろうという推定では忌避の申し立てにならぬ。客観的な証拠がなければならぬ。だからそれが一体どこにあるのですかと聞いておる。法務省のほうではどこがこれを疎明する資料というぐあいにお考えになっているのか、それを私はお尋ねしている。
-
○香川説明員 先ほども申しましたように、疎明資料そのものもこれは非公開のはずでございますので、どの点がどうということは、まさに裁判所が判断されるわけでございますから、それを詳細ここで申し上げることは差し控えたい、かように申し上げているわけであります。
-
○横路
委員 私はいまこの青法協の北海道支部の会員なんです。昭和四十一年から会員。札幌にいる。毎月一回例会をやっているのです。判例についての研究会です。しかし福島さんが会員だということを私に教えてくれたのは、飯守裁判官なんです。一度も会合に顔なんか出したことはない。あの去年の十月の飯守所長の発表を見て、ああ福島さんも青法協の会員だったのか——今度の申し立てを見たら、「先輩格の会員として指導的役割を果たしている」。やはり私は、この申し立てをする場合に、事実をもってやらぬといかぬと思うのです。単に推定とか独断でもって申し立てをする、しかも何か世間一般に、福島さんはこうなんだというような印象を与える。だから私は政治的じゃないかというように先ほどから申し上げている。私は会員で、実際に二年間やってきて、そうして会合で福島さんの顔なんか一度も見たことがない。だからこれを見てふしぎに思ってお尋ねをしているのです。重ねてお答えいただきたいと思います。
-
○香川説明員 先ほども申しましたように、忌避の事由として、福島裁判官個人がどのような活動をしておるかということがその根幹ではないわけでございまして、安保廃棄あるいは自衛隊反対の活動方針のもとに、その一環として長沼事件の支援活動をしておる青法協というものがあって、その会員である者が当該長沼事件の裁判に関係するのは適当でない、かような趣旨でございますから、福島裁判官に対して個人的にどういう活動をしているのがけしからぬというふうなことは、何ら関係しないことでございます。
-
○横路
委員 するとなぜそういうようなことを申し立て理由の中に、とっ初めのところに書いてあるのですか。いまおっしゃられたその論理というのも、頭の中だけで構築されたものじゃ、やはりだめなんです。主観的なものじゃだめなんで、客観性がなければだめなんです。
-
○香川説明員 忌避の申し立て事由のあるかないかは証明する必要はないわけでございまして、私どもはもちろん独断した覚えは毛頭ありませんし、確信を持っているわけでありますけれども、疎明だけで足りるというところを十分御検討願いたいと思います。
-
○横路
委員 疎明といって、証明とはそれはもちろん違いますけれども、しかしやはり心証を得るにある程度は事実がなければだめだ。ところが事実じゃないことが書かれている。幾ら疎明といったって、虚偽の事実を申し立て理由の中に書いて、そのことを国民の前に発表する、それが私は問題だと申し上げておる。しかもこれは非常に裁判官の思想の自由なり結社の自由なりという問題に触れる問題なんだ。中央の新聞の社説の中でこの問題を、ともかく法廷で決着させるのは間違いだということは全部指摘しておるじゃありませんか。これは裁判官のモラルの問題でしょう。それを取り上げて忌避の申し立てをしておるのは、私は国民の立場に立ってどうも解せない。あなたのほうは証明は要らない、疎明でいいんだということを強調されますから、非常に不十分だということをお認めいただいたものだと思いますけれども、こういう虚偽の事実に基づいてやはり書くというのは、私はおかしいと思う。その点どうですか、重ねて……。
-
○香川説明員 横路
委員は虚偽の事実だとおっしゃいますけれども、私どもはさようには考えない。しかも誤解のないように申し上げておきますけれども、忌避の制度の趣旨から考えましても、今回の申し立ては、裁判官の思想の自由とかあるいは青法協に加盟することの是非ということとは全く無縁のものだということを御理解いただきたいと思います。
-
○横路
委員 私はもう一つそういった事実をゆがめている点がこの中にあると思うのです。それを明らかにしたいと思うのですけれども、日民協が積極的にこの長沼の訴訟支援活動をしているんだとして、あなた方のほうでは、この申し立て書の中に、昭和四十四年九月十日発行の民法協機関誌「日本民法協」第三十九号というのを引用されて書かれておる。「長沼ミサイル基地事件は、」云々というように書かれておる。そこで、私ども民法協の三十九号を取り出して何回も読んでみた。何回も読んだけれども、この中に一九六八年度の活動報告あるいは六九年度の活動方針案、いろいろあるが、どこにも出てないのです。これはどういうことなんだろうか、朝、ふっと本のうしろを見たら、編集後記というところに個人が、この雑誌の編集の責任者が感想を書いている。それをあなたのほうでは何か日民協が訴訟支援活動をするようにこの申し立て書の中に書かれておる。あと書きですよ。活動方針にも何にもなってない。ここにも私は事実を非常にゆがめてこの申し立て書は作成されておるのではないか。一体あと書きがなぜ日民協の活動の内容になるのですか。
-
○香川説明員 何度も申し上げますが、どういう疎明だということは申し上げることを差し控えたいと思います。
-
○横路
委員 これは少なくとも地方裁判所の段階ではこの忌避は却下されるでしょう。皆さんが期待されておるのも、地方裁判所ではなくて、最高裁判所に期待されているんだろうけれども、しかし、それにしても、そういうように雑誌のあと書きを引っぱってきて、これが日民協の活動方針なんだ、あるいは青法協の修習生の会合を引っぱってきて、これが青法協の訴訟支援活動をやっている具体的な事例だ、福島裁判官について札幌で指導的な役割りを果たしているというような、事実に合致しないような内容、一体なぜこの忌避の申し立てをやったのか、しかもあの時点でやったのか。
この中にこういう部分がある。昭和四十五年三月十三日の口頭弁論において、源田実証人についての証拠の決定をしました。原告側から申し出されていた十四にわたる文書の送付嘱託をする旨の決定がなされました。これについてあなたのほうでこの中でいろいろと述べている。自衛隊の現状については司法審査の対象にならぬというようなことで、これはもちろん一つの議論としてはあるでしょう。その裁判所が採用しないということに実質的になったんだろうと思う。そこで、この文章の中では、このような決定については青法協の安保廃棄云々の活動方針に照らして、長沼事件の彦坂弁護士の原告代理人が、いわゆる自衛隊の思想を法廷に現出せしめんとする自衛隊に同調するものではないかの疑いを招くおそれなしとしないというように書かれている。そうすると今回のこの忌避の申し立てというのは、一つはそういう青法協の問題もあるでしょう。もう一つは、やはりこの証拠決定に対して不満だから申し立てをしたんじゃないかというようにもこれは受け取れないことはないのです、この忌避の申し立て書の中で。その点はいかがでありますか。
-
○香川説明員 証拠決定については裁判所のきめられたことでありますので、その点に不満があるというふうなことは全くございません。理論的には私どもと違った考えだと思いますけれども、そのような証拠決定に対する不満をぶちまけたというふうなことは決してございません。
-
○横路
委員 この問題で最後にお尋ねしたいと思うのですけれども、裁判官の忌避事件でこういう過去の決定があるのです。昭和三十四年七月一日に大法廷が決定した裁判官の忌避申し立てについて却下した事件、いわゆる砂川事件について田中耕太郎裁判長の発言に関して忌避の申し立てが弁護士団からされて、それに対する却下決定がされている。こう見ますと、いろいろと忌避申し立て理由がたくさんあるけれども、その中心になっていたのは、昭和三十四年六月十四日、読売新聞の朝刊紙上で「裁判と雑音」と題する中山伊知郎氏との対談中において、田中裁判官がこの砂川事件についていろいろ具体的に述べた、そのことについて、しかし裁判官が個人的にいろいろな社会現象、そのほかについて所感を述べたものについて、具体的に本件の事例について予断、偏見を持っているとはいえないからということで却下されている。いままでの却下のいろいろな判例等を調べてみても、やはり具体的な事件についての偏見を持っているということでなければ、忌避の申し立ては認められないということです。主観的にどうこうじゃだめなんです。たとえばこういうケースもある。忌避の申し立てをした相手方の弁護士の奥さんが裁判長の娘なんです。だからといって忌避の申し立てはもちろんこれは却下になっている。やはり具体的な、この長沼事件について福島裁判官がどういう偏見を持っているのかということがなければ、私はやはり通らぬ議論だと思うのです。
先ほどの議論に返りますけれども、この田中耕太郎氏に対する忌避の申し立てに関連したこの決定に関連してどのようにお考えなのか、お伺いしたいと思います。
-
○香川説明員 その点は横路
委員と私どもの意見の違うところでございまして、裁判所でおきめになったことだと思います。
-
○横路
委員 しかし忌避の申し立てをする場合に、これは過去の判例があって、それに沿ってどういうようになるのかという見通しくらいは、もちろん立てられてやられるわけでしょう。そういう中の一つの事例として、こういう前の大法廷の決定があるのです。あなたのほうでは、もうともかく裁判に係属しているのだから、そっちはそっちだといいますけれども、しかしこれはやはり国がやったことです。しかも非常に重大な問題です。
そういうことをおっしゃるならば、こういうことだって言えないことはないのですよ。一部にはこういうことを言う人もいるのです。例の平賀裁判官、元法務省で民事局長をやっていた人です。福島さんの執行停止に対して札幌高等裁判所で異議の却下をした武藤裁判官は、元法務省にいた人です。みんな法務省の関係者で、そして今度の法務省の申し立てだ。検察官一体の原則というものはありますけれども、元法務省の役人をしていたからやったのじゃないか、法務省は何か陰でそういう連絡をとってやったのじゃないか、こういうことを言っている人もいるのです。あなた方の論理の展開を聞いていると、そういうことにだってなりかねないと思う。
時間ももう四時半になりましたから、この長沼事件についてお尋ねするのはこれでやめたいと思いますけれども、しかし何かやはり訴訟遅延を目的としているような今回の忌避の申し立て、自衛隊の実態に入ることはともかくいやだ、あるいは青法協についてことしの二月に自民党のほうで青法協に対する攻撃を運動方針案としてきめております。そうすると
小林法務大臣も自民党の党員だから、どうも何かそういうことがあるのではないか、そういう疑いだって持つ部分がやはり国民の中にはないわけじゃない。だから私は今回のこの忌避の申し立てについて、きちんと内容が事実に即しているのか、法律的にどうなのかということをやはり明らかにする必要があると思ってお尋ねをしたのです。残念ながら十分なお答えがいただけませんでしたけれども……
そこで最後に一点だけお伺いをしたいのです。これはもし地裁で却下になりましたら、あとさらに争うおつもりですか。
-
○
小林国務大臣 私は
委員長にひとつ申し上げておきたいのでありますが、ただいまいろいろ論議をいただいていることは、これは裁判に係属中の問題でありまして、いまもう横路
委員は裁判官みたいな発言でもあるような錯覚を私どもに起こさせるような発言をされておる。札幌地方裁判所で却下されるだろう、あるいは最高裁までとか、いろいろなことをおっしゃっておりますが、この席でこういうことを論議するのは適当でない、したがって答弁をこれ以上いたしたくないと思いますからして、
委員長において適当にひとつお計らいを願いたいと思います。
-
○横路
委員 私の質問はもうこれで終わりですから、それはお答えいただかなくてもいいのですけれども、しかしそれを最初におっしゃらないで、いまになって、だんだん質問していって内容が明らかになってからそんなことを言うのはけしからぬ話じゃないですか。
-
○
小林国務大臣 私は最初からそう思っているのです。この席で、まるで裁判所の議論みたいなことをおやりになる、こういうことは適当でないというふうに思っております。
-
○大出
委員 関連して。大臣、あなたはそういうことを言うけれども、新聞にあれだけ大きく出た問題、国民一般に大きく影響を持つ問題、しかもそれは行政府としての法務省がとった措置、したがって行政長官にどういう意図でやったのかということを聞くことは政治問題として当然だ、だから聞いているのです。あなたがお答えになりたくなければなりたくない、答えられなければ答えられないと答えればいいじゃないか、それだけのことです。
-
○
小林国務大臣 行政府でとった処分、これは法務省の当事者は国家だから行政府ということになるが、この問題は札幌地方裁判所で審理をしている。その問題をここでもっていまのように裁判所の立場であるかどうか知らぬが、先ばしった議論をされるということは、私は適当でないと思うということを
委員長に申し上げておるのです。
-
○横路
委員 何か裁判官の尋問を受けているようにお感じになられたようなのですけれども、弁護側の立場からの尋問というような受け取り方をなさらないで、裁判所の尋問のようだということは、結局それだけその事実について自信がないから、どんどんとやられたのでそういうお感じを持たれたんだろうと思いますけれども、いずれにしても、この問題は非常に重大な問題でありますので、法務省としても十分に考えていただきたい。
そこで、今度は刑務所の問題についてお尋ねしたいと思います。
東京拘置所が小菅に移って、小菅が新しく黒羽の刑務所になる。建物が近代化されることは、それはそれなりに喜ばしいことだと思います。ところが、建物が近代化されても、その中で運用されておることが、いまのこの一九七〇年代という年代にふさわしい運営が刑務所の中でされているかどうかということについては、私は非常に大きな疑問を持っている。それを、具体的な事例を明らかにしながら、今後検討していっていただきたいと思うのです。
まず第一に、監獄法の改正の問題についてお伺いをしたいと思うのです。
この監獄法というのは、明治四十一年に制定された法律です。それから現在まで、いろいろな行刑思想の変遷というものもあって、しかも、この間、特に日本国憲法の制定という大きな変化がありながら、いまなお明治四十一年の監獄法が存続していることについては、たびたび従来から問題になっている。特にこの憲法のもとでは、すべての人間に人間としての基本的な権利、人権というのは認められているんだ、受刑者にも人権があるということが明白であるにもかかわらず、重屏禁をはじめとする懲罰制度など、現在のこの監獄法には大きな問題がたくさんあるだろうと思うのです。戦前も、大正十一年から、行刑制度調査
委員会をはじめとして、五回にわたって改正のためのいろいろな
委員会というものが開かれている。戦後も、昭和二十二年、監獄法改正調査
委員会というのができて、昭和三十三年から昭和三十九年までの間は監獄法改正準備会というのができて、非常に熱心に検討をされたと思うのです。改正のためのこういった動きがありながら、現在までどういうわけか実現しないで中止になっているんです。また、昭和四十二年、いまから三年ほど前になりますけれども、五月十二日に衆議院の法務
委員会で、当時の田中法務大臣と矯正局長が、早急にこれを改正するという御答弁をなさっているのに、あれから三年たって、まだ一向にその改正について明確になっていないのです。
そこで、まず大臣にお尋ねしたいと思いますけれども、この監獄法の改正について、基本的な方針というものをどういうようにお考えになっているのか、そこからお尋ねをしていきたいと思うのです。
-
○
小林国務大臣 私は、実はうかつにして、就任後しばらくたってから監獄法というものがあることを知って、まことに驚嘆をいたした。いま監獄というものはありません。全部刑務所になっておる。組織規程なり設置法ではみんなそうなっておるのに、まだ監獄法が直らない。これは、法務省の非常な醜態、怠慢だと思うのです。したがって、かようなものが、憲法制定後、明治四十一年のものがいまだにそのままあって、そうして、刑務行政というものが、めちゃくちゃとは申しませんが、みんな矯正局長の通牒などでもってこう薬ばりをしてどうやら過ごしておる。したがって、今回のような事件が起きるのも、やはりこういうところにも遠因がある、私はこういうふうに思っておる。まことにこれは心外なことでありますから、とにかく、監獄法というとんでもない法律があるということで、私は直ちに事務当局に命令をいたしまして、次の国会には必ず提出をいたすように、こういうことで、いま準備を進めております。私は、少なくとも七月一ぱいぐらいで事務当局の案をまとめさせたい。そうして、法制審議会にも付議しなければならぬが、次の国会にはひとつあなた方に審議をしていただきたい、こういうふうに思っております。それに、長い間小田原評定をして、どんなりっぱな議論を戦わしても、実現しないようなことはもう無意味です。私は、この際決断をもって結論を出す、こういうことについて、皆さんにもぜひお知恵をいただいて、そうして、いまの時世に合うような刑務所法と申しますか、あるいは行刑施設法と申しますか、少なくとも監獄ということばはもうこれで排除しなければならぬというふうに強い決意をいたしております。
内容につきましては、とにかくいろいろな議論が出ていますから、まさか法律に併記するわけにいきませんから、ひとつきめなければならぬ。そのことは、私がある程度中心になってきめていきたい。責任をもって、私がかわっても、次の大臣にぜひやっていただきたい。
それは、あなたのおっしゃるとおり、法務省が法律の本元でありながら、いろいろの法律がまことに驚くべき遅延のしかたをしております。たとえば皆さんがいやがる出入国管理令、これはポツダム政令でありまして、戦後は終わっておりません。また、私どもこれから法務
委員会でお願いする訴訟費用臨時措置法、民事訴訟費用法、刑事訴訟費用法というのは、明治二十三年ごろの気の遠くなるような時代の立法がそのまま生きておって、これも継ぎはぎでもって、毎年訴訟費用臨時措置法というものを出しておるような醜態である。こういうようなものも、どうしても直さなければならぬ。だから、私がきょう法務
委員会にお願いしましたのは、次には出しますからして、ひとつお助けを願いたい。いろいろ言うておるが、これは立法を済ませる必要がある。これは何としましても国会の皆さんの御協力と御援助がなければできない。こういうことで、われわれとしては、長い間の怠慢をおわびするとともに、やりたいから、ひとつぜひお助けを願いたいということを発言いたしたのであります。
-
○横路
委員 出入国管理令のほうはそうハッスルなさらないでけっこうでありますが、監獄法のほうは来年の国会ということになれば、それはだいじょうぶです。大臣として、やはり
小林さんの手の中でこの監獄法の改正というのをぜひやっていただきたいと思うのです。
ことしの八月には京都で犯罪の予防及び犯罪者の処遇に関する国際連合会議というのが開かれるそうで、それには世界各国から行刑の権威者というのがたくさん集まってくる。そのときに、こういった監獄法があるというのは、やはり私たち国民としても恥ずかしいと思うのです。だから、いまのようなお考えならば、ぜひその決意でやっていただきたいと思うのです。
そこで、ちょっとお尋ねしておきたいと思いますけれども、それは全面的に改正なさるのですか。大体、問題点というのは、従来から三つ、四つにしぼられてきているのですね。たとえば分類制の確立とそれに伴う開放処遇あるいは帰休制、外部事業所への通勤、刑務作業に関して賃金制をとるような問題、災害の場合の補償の問題、懲罰を含めて賞罰の問題あるいは不服申し立て制度の問題、大体その問題点というのはもう明らかになっている。これは全面的にやられるつもりなのか、あるいはもうすでに何回か指摘されているような点についてだけ部分的な改正をおやりになるつもりなのか、その辺のところは、お考えはどうですか。
-
○
小林国務大臣 いまおっしゃるようなことが問題になっておりますが、私は、この際、全面的に改正をしたい、したがって、実は皆さん方からも御意見を承って、ひとつりっぱなものにしたい、こういうふうに考えております。
-
○横路
委員 せっかくそういうお気持ちになっておりますので、いまの運用について、少し事実を明らかにしながら、監獄法の改正というのをぜひお考えいただきたいと思うのです。
次に、戒具の使用についてちょっとお尋ねしたいと思うのですけれども、監獄法の十九条に、「在監者逃走、暴行若クワ自殺ノ虞アルトキ又ハ監外二在ルトキハ戒具ヲ使用スルコトヲ得」として、施行規則の四十八条で鎮静衣とか防声具あるいは手錠などの四つの種類というのをきめていますね。そこでちょっとお尋ねしたいのですけれども、昭和四十四年度においてこれらの戒具の使用状況というのは一体どのくらい報告されているものか、もしそれが数字的に明らかであれば、していただいて、もしおわかりでないようでしたら、あとの機会に資料としていただければけっこうだと思います。
-
○平井説明員 戒具の使用状況についての御質問でございますが、ただいま詳細な数字を持ち合わせておりませんので、はなはだ恐縮でございますが、後ほど資料で追加させていただきたいと存じます。
-
○横路
委員 そこで、これらの戒具というのは、緊急やむを得ない場合にだけ監獄内で保安的な処置として使用されているように聞いていたのです。ところが実情を調べてみますと、どうも懲罰方法として用いられているのじゃないかという疑いが非常にあるわけです。また実際こういうものがいまの憲法のもとではたして認められていいものかどうかということについても、私は大きな疑問を持っておるのです。
そこで具体的な事実についてお尋ねしながらお答えをいただきたいと思うのですけれども、昭和四十三年の九月十二日に、京都刑務所の第四舎において、窃盗の受刑者の山内清治という男が作業工場内で暴行を働いたということで、鎮静房、保護房に入れられたのですね。そのときの取り扱いが私は問題だと思うのです。そのとき、いわゆるうしろ手に縛って、皮手錠をはめたのですね。何か皮わっぱというように言われているそうですけれども、しかもこれを十日間はめられた。十日間皮手錠をはめてうしろ手錠にしたまま、朝も晩もはずさなかったのです。二十四時間、十日間ずっと。そうすると、一体食事はどうやってやるのだろう、手錠をはめたままやらしている。寝るとき一体どうするのか、両手が背中に回っているのだから、背中を床につけては眠れないから、これは壁にもたれてすわったまま眠るしかない。用便は一体どうするのだろうか。手が使えないのですから、ズボンを足で何とかやってやっと使ったり、あるいはひどいときにはたれ流しになってしまう。だからこの人間が、皮わっぱがはずされたときには、肩や腕というのは全然動かなかった、こういう事実があるというように私聞いているのです。皮手錠を使ってこういうような状態にしておくのは、これは何も特殊な例じゃなくて、いま現在どこかの刑務所に行けば、一人や二人皮手錠をはめられている人間がいるのじゃないかと思う。
これは基本的なことですから、ぜひ法務大臣にお答えいただきたいと思うんだけれども、一体いまどき、受刑者とはいえ、十日間もうしろ手錠にして縛りっぱなしにして、食事のときも、用便のときも、夜寝るときも、二十四時間こういう皮手錠を使用するというのは——憲法三十六条に公務員による拷問もしくは残虐な刑罰はこれを禁止するという規定があります。憲法十一条、十八条等にもいろいろと基本的人権についてきめられている。これに反する違法な処置だと私は思う。これについてどういうぐあいにお考えになりますか。
-
○
小林国務大臣 私もいまおっしゃるようなことであれば適当でない、かように考えます。
-
○横路
委員 適当でないということじゃなくて、これは現実に日常的に刑務所の中で行なわれているのです。いま適当でないというお答えだから、じゃ、今度の監獄法の改正の中で、この皮手錠というのはやめてしまったらいいのじゃないかと私は思う。その点についてお考えを……。
-
○
小林国務大臣 用便とか食事の際には、手錠をはめたままでなくて、はずしておるそうであります。また寝るときにもかけかえる、こういうことでありますが、いずれにしましても、私はこういうような方法は、あまり長期にわたるということは適当でない。これらのこともぜひ改正の際には考えたい、かように考えております。
-
○横路
委員 いまあなた、はずさしているということですけれども、実際に京都のケースというのは、まるきり十日間何もはずしてないのですよ。ズボンを手でなくて足でやっているのか、あるいはたれ流しになってしまうのです。
-
○平井説明員 お答えいたします。
戒具の使用はあくまでも保安上の処置としてやることがたてまえでございますし、また用便であるとか食事のときにははずすということもたてまえとなっております。また、寝るときには、寝れるようにかけかえるというたてまえを貫いておるわけでございます。また先ほど御指摘のように、戒具の使用ということは決して徴罰の一つとしてやってはならないということは、十分刑務官はみな肝に銘じておるわけでございます。
ただ、御指摘の京都刑務所における実情につきましては、突然の質問でございましたので、十分な資料もございませんので、早急に実情を調べてお答えしたいというふうに考えております。
-
○横路
委員 これはことしの昭和四十五年の四月二十日ですよ。東京拘置所に勾留されている山田という被告人が、東京地方裁判所に上申書を出している。あなたのほうの東京拘置所のこれは看守部長ですか、茂木とかいう人の判こも押してある。この中でやはり被告人に対しても行なわれているんですね。これは彼が書いていることですから事実かどうか、本人が言っていることだけだけれども、ここでこういうように言っている。この人は何かハンストをしたらしい。それに対して「なんと二〇名をこえる着手、警備隊の一団がよってたかって暴力をもって組み伏せ、口に布ぎれをつめこまれたり、鼻血をだされたり、耳をおかしくされたり、あげくのはては皮手錠、金属手錠を二重にかけられ、」いいですか、「皮手錠、金属手錠を二重にかけられ、これは非常に痛いもので後で必ず両手首が腫れあがる、食事中はもとより就寝中もそのまま二四時間監禁」している。どこに入れているかというと、皆さん方は御存じだと思うけれども、東京拘置所の一舎の三階にこういう特殊な部屋がありますね、非常に暗いあそこの中二階みたいなところの部屋なんだそうです。これはことしの四月二十日ですよ。これは二十四時間も、食事中はもとより、寝ているときもそうだ。いろいろケースを聞いてみると、食事はどうやって食べるんだろう、仲間の囚人が食べさせてくれるケースと、それからそのままめしを置いておいて、あとはかってに食えといって戸をばたんと締められるケースとあるんだそうです。犬みたいにして食べなければならぬ。これが東京のどまん中で行なわれているのです。この東京拘置所のケースはどうですか。
-
○平井説明員 東京拘置所の一舎三階という場所でございますね。たしかそういう未決の収容場所があることは、私も大体存じております。しかし、実際の給食の際にまでさような戒具をかけっぱなしであるかどうかについては、残念ながらきょう調査不十分といいますか、突然のことでございましたので、確言できませんので、早急にその事実調査をいたしたい、かように考えます。
-
○横路
委員 きょう実は東京拘置所の所長さんに来てもらえば、これから拘置所のケースについて、いろいろなケースがあるので、それをお尋ねしたいと思ったのです。ところが残念ながら来ていただけなかったのですが、まだこれから二、三やはり東京拘置所の例についてお尋ねをしていきたいと思うのです。
あなたのほうでいまはずすようにしているというけれども、大体矯正局長通達として出されている中に、はずさなくてもいいようになっているじゃありませんか。「手錠及び捕じょうの使用について」という昭和三十二年一月二十六日の通達、この中にはこう書いてある。最初に通達の前文に、「今なお感情に走って必要以上の拘束を加え又はえび責め、鉄砲責めと称せられる不法な使用をなすケースがあるから注意されたし。」その使用方法として、(1)として「食事及び用便については施錠を一時はずして用を弁ぜしめること」、(2)として、「しかしそれにより難い場合はできるだけ次の配慮をすること」となっておるのです。この指示は必ずはずせという指示じゃないのです。そうじゃありませんか。大体そういうことを認めているのです。こういう通達だから、必ずはずせということならそれははずすかもしれぬけれども、しかしそれによりがたいときは、できるだけ次のような配慮をせいとして、バンドをゆるくせいとかなんということになっている。これはできるだけだから、やらなくてもいいというような運用に現実にはなっているのです。その点はいかがでございますか。
-
○平井説明員 この通達の解釈につきまして、この部分をいかに解するかということについてでございますが、あくまでも戒具の使用というのは保安上の措置ということでございますので、保安上の措置を施す理由が、その必要性が非常に高い場合にはやむを得ず戒具を使用したままやむを得ない、こういうふうに考えていいんじゃないか、かように思います。たとえば非常に狂暴性を発揮しておる、何か精神錯乱状態におちいっておる。手錠を、そういう者に対して食事を給する場合に戒具を全面的にはずしてしまうというようなことが、食事を給する職員に非常に危害が加えられる可能性を生ぜしめるというような場合には、まれに具戒をつけたまま食事を給するというようなことを否定している趣旨ではない、かように考えます。しかし、原則として食事というものはやはり二本の手で、これがなければできませんので、そういったことは原則としてやらないように、逆に言うならば、なるべく戒具をはずすように、こういう指導をしておる。それがこの通達に盛られておる、かように考えます。
-
○横路
委員 あなたのほうでそうやって認めているから、現実の運用というのはどんどんそれより先に進んでいっているのです。だから狂暴な人間がいるといえば、房の構造を近代化すればいいでしょう。中であばれたって、外に全然声も聞こえない。しかし中はきちんと明るくして、壁はいまみたいな壁ではなくて、やわらかい壁にしてやればできるわけなんです。それを手錠で縛ったまま、食事中はもとより、寝るときも用を足すときもやっている。
この問題を私は調べてみたら、実はこれはいまから三十六年前、昭和九年に国会で大問題になっているのです。昭和九年に帝人事件というのが起きて、当時の大蔵省の銀行局長の大久保という人が収賄か何かで逮捕されて、市谷の刑務所に入れられた。そのときにやはり皮手錠をはめられて、そうして貴族院議員のほうでは岩田宙造さん、やはりこれは法曹会の大先輩、皆さん方の大先輩、法務大臣が小原直さん、その中でこういう議論をしているのです。これは昭和九年の十二月一日、いまからともかく三十六年前、「聞ク所ニ依リマスルト云フト、被告人ノ或者ハ刑務所二於キマシテ戒具ト云フモノガアル、能ク新聞ナドデハ革手錠ト云ッテ居リマスガ、皮ヲ以テ猛犬ヲ縛ルヤウニ、革デ胴ト腕ヲ縛シマシテ、手ノ自由ガ利カナイヤウニサレル器械ガアル、是ハ非常ニ凶暴性ノ者ガ自殺ノ虞アル者ニ對シテ用ヰラレル道具デアリマス、之ヲ敷日ニ亙ッテ嵌メラレタ被告人ガ少クナイノデアリマス、夜寝マシテモ、夏デアッテ蚊ガ来タリ、蚤ガ來タリ、虱ニ噛マレタリシマシテモ、掻クコトモ何モ出來ナイノデアリマス、」そうすると「大抵ノ者ハ病氣ニナッテ、サウシテ其間ニ色々ナ訊問ヲ受ケルノデアリマスカラ、所謂「ウツツ攻メ」ト稱スル拷問ノ中ノ最モ苛酷ナ拷問ト同様ナコトガ行ハレルコトニナルノデアリマス、」昭和九年にこれは問題になっている。
その次の日に、やはり衆議院のほうで昭和九年の十二月二日に浜田国松さん、これもやはり法務省の何か事務次官か政務次官かやった人だそうでありますけれども、そこでこういうぐあいに言っている。これは私はぜひ聞いてほしいと思うのです。「革手錠ノ問題、諸君ハ法治ノ進歩セル我國ニ於テ、封建時代ノ遺物デアル所ノ革手錠ナド、云フ物ガ、日本ノ刑務所ニ存在シテ居ルト云フコトハ、或ハ御忘レニナッテ居ッタラウト思フ、吾々モ聞カナイデハナカッタガ、ソンナ物ハ實際ニハ使フモノデハナイト信ジテ居ッタ、」昭和九年に、いまから三十六年前にそういう質問が出て、国会でいろいろな議論をされている。そのときの小原法務大臣の答弁というのは、あなたがさっき御答弁されたように、自殺のおそれがある者とか気違いみたいな者ならそれはやむを得ずやる、こういうことなんです。一体それから三十六年たって、いまの憲法に変わって、そうしてなおかつ先ほどの山田という被告人は、昭和四十五年の四月二十日に東京拘置所でやられているのです。
私はきょう法務大臣もおられるから、ぜひこの点、ともかくこんな取り扱いというのは、動物としての取り扱い以外の何ものでもないと思う。大体犯罪人というのは——中のことというのは外になかなか漏れてこない。だからこういうことが行なわれている。私も実は先月の末にこの法務省の問題について質問をするということで、ここの
委員会の木原先生と一緒に千葉の刑務所、市原の刑務所を見に行ってきたのです。千葉の刑務所の十一舎はやはり保護房に皮手錠をはめられた人間が正座させられてすわっていた。コンクリートのござの上にですよ。いま法務大臣がどこかの刑務所に行かれて、保護房を見せてくれといって見られたら、必ず皮手錠をはめられて入っている人間がどこの刑務所にも私はいると思う。ぜひこの問題について法務大臣に再度御確認いただきたいと思いますけれども、それは事務当局のほうでは、自殺のおそれがあるとか、暴行のおそれのある人間とか、あばれてしょうがない人間はこうやって縛りつけなければどうしようもないのだということを必ず大臣にお話しになるにきまっている。しかし私は、いまの日本の近代憲法のもとで、三十六年も前に国会で問題になって、いまもなおかつここで問題にしなければならぬということは、非常に恥ずかしいことだと思う。ぜひこれは今度の監獄法の改正の中で改めていただきたいというように思いますが、その点について御確認をいただきたいと思います。
-
○
小林国務大臣 御意見は非常にごもっともな点がございますので、ぜひひとつ参考として法改正のときに考えたい、かように思います。
-
○横路
委員 一番最初の決意と、参考として承るというのじゃ、ちょっと弱いと思うのですが、いまの皮手錠の使用の問題ですね。これはいまから三十六年前のこの国会の中でやった議員の感覚としても、これは封建時代の遺物で、人権じゅうりんで動物扱いだという指摘をしているのです。あれからだいぶ人間の人権感覚というものも変わってきて、参考にするということじゃ、私のほうでは事務当局のほうにどうもねじ伏せられてしまうという危険性を感ずるものですから、そこのところをぜひもう一度明確にお答えいただきたいと思います。
-
○
小林国務大臣 実はやはりほんとうに狂暴な、どうにもならぬ人もおるだろうと思いますが、やはり何らかの方法を、ただ全廃だけで済ますわけにいかない事情があろう、そういうこともぜひ考えなければならぬ。一般的にはこれはやめたほうがよかろう。しかし何らか適当な、かわるものが考えられなければならない、こういうふうな気が私はいたします。
-
○横路
委員 それはできるのです。たとえば鎮静房みたいなところにテレビカメラを取りつけまして、部屋の中にそういう自殺されるような者とか、おそれのある者を置けばいいのです。部屋を明るくして、テレビカメラをつけて、壁をやわらかい壁にして、頭をぶっつけても別に何ともないようなものにすれば、これは何も皮手錠なんか使う必要はないのです。だから今度の建築の黒羽の刑務所も新しい刑務所ですが、鎮静房もきっとあるでしょう。そういうときにその点を考慮して皮手錠のほうはすっぱりやめてしまえば私は一番いいと思う。
-
○
小林国務大臣 極端な場合にはやはり何らかの手段が必要だろうと思いますが、適当な手段を考えて、やめるようにひとつしたい、かように考えます。
-
○横路
委員 この鎮静房についてなんですけれども、ちょっとお尋ねしたい。今度東京拘置所が小菅に移りますね。小菅の刑務所の鎮静房の構造というのは、どういうぐあいになっていますか。
-
○
伊藤政府
委員 最近新しくつくっております拘置所あるいは刑務所の拘置監等にあります保護房の構造は、先ほど横路
委員がおっしゃいましたような構造になっております。小菅の場合、まだテレビを取りつけるまではいっていないと思いますが、たとえば現在宇都宮の市内でつくっております小幡町の拘置所等におきましては、房にテレビを取りつけまして、まさに横路
委員のおっしゃったようなものをこしらえておるわけなんです。
-
○横路
委員 そういうことにすれば、皮手錠なんというものはだんだん必要なくなるのです。
ついでにお尋ねしておきますけれども、鎮静衣と防声具というのがありますね。これは大臣御存じですか——これもまだいまも使われておるのです。この防声具について私一番問題だと思うのですけれども、東京拘置所で——やはり東京拘置所なんです。あすこは被告人ですよね。入っておるのは無罪の推定を受けている人間が入っているのです。女性の被告人に対して防声具を使っておるのです。大臣は知らないというから、では説明をしてください。
-
○平井説明員 確かに現在でも防声具というものがございまして、東京拘置所でも、これはまれのようでございますけれども、使用しておるかと思います。しかし、これは防声具という字のごとくでありまして、非常に大声でわめく、叫ぶというような状況の場合にごく例外的に使っておるだけでございます。
御承知のように、刑務所とか拘置所とかいうところは集団処遇をしておりますので、ある一角で非常に騒ぎが起こるということは、たいへん舎房内の静ひつを乱したり、またそれが伝播いたしまして、他の収容者の精神状態を異常にさせるというふうなこともございますので、やむを得ず使う場合があるわけでございます。
-
○横路
委員 この防声具の使用で昭和三十一年の十月四日ですか、刑事被告人が一人窒息死しておりますね。そのあと取り扱いについて通達が出ている。防声具の内容というのを大臣は御存じないから、ここでちょっとどういうものか説明してください。これもまるで人間扱いじゃないのです。
-
○平井説明員 防声具の構造を詳しく説明してもらいたい、こういう御質問でございますが、大体声が出ないようにという装置でございますので、上あごと下あごが自由に動かないようにするという構造で、耳のほうに皮ひもがかかるという構造になっております。ただし息ができないようにするというような趣旨のものではございませんので、窒息死という点につきまして、防声具の構造上当然生じたものとは私ども考えておらないわけでございます。
-
○横路
委員 それでこういう事故が過去に起きておるわけですね。この人間についてあとでどういう処置をとられたのか私知りませんけれども、実際に一人死んでいるのですよ。そういう危険性というものはあるものなんです。だからこれだって、中で騒いだって外に聞こえないような構造の部屋にしてやれば、解決されることでしょう。これは、防声具というのはいまでもときどき使われている。
それから鎮静衣というのは、これも全くひどいもの。私も本で見ただけですから、現物は見ておりませんから……。何か魚の形をして、あごから下すっぽり入れてしまって、手も足も全部固定されてしまっているもの。布袋になっているものに入れて、何か縛られておるらしいのですけれども、この鎮静衣、防声具というものは、私はやはり今度の監獄法の改正の中で廃止すべきだと思うのですが、その点いかがですか。
-
○平井説明員 鎮静衣は、御指摘のように、一種の皮袋に閉じ込めるという形のもので、手足の自由を奪うというところにこの機能の趣旨があると思います。しかし私の知る限りでは、鎮静衣を使うことはもうめったにないといいますか、防声具よりも使われる度数ははなはだしく少ない、ほとんど使われた事実を聞いておりません。ただ制度上残っておるというだけに私どもは理解しておるわけであります。したがいまして、私どもいま監獄法改正の準備作業をやっておりますが、この鎮静衣はやめようじゃないかという話が非常に強く出ておるわけでございます。
-
-
○平井説明員 防声具につきましては、批判的な声はかなり高うございますが、例外的な必要性というものもまだ否定し切れませんので、まだそちらの結論は出ておらないわけでございます。
-
○横路
委員 例外的に、ほんとうにわずかしか使われていないのでしょう。そうすると、わずかしか使われていないのだから、それをもうやめてしまって、あばれても外に聞こえないような、そういう構造の部屋にしたほうがいいんじゃないですか。いかがですか、その点は。
-
○勝尾政府
委員 御指摘の点につきましては、そういう部屋をつくるということも検討いたしております。そういう部屋をつくる場合に、その構造等によりましてはいろいろ医学的な問題も検討するところがあるようでございますので、結論は出しておりませんが、現在検討はいたしております。
-
○横路
委員 もちろんその部屋を昔みたいにまっ暗な部屋にして、空気もろくすっぽ通わない、入ってこないという部屋じゃ困るのです。きちんと光も入る明るい部屋にして、そのかわりそういう措置をとれば、この防声具とか鎮静衣とかあるいは皮手錠ですね——いま、来られる前に議論をしておったのですけれども、それはもうやめるという方向で解決できるのですから、ぜひそういう方向でやっていただきたいと思うのです。特にいま監獄法を改正されるまで——大臣のほうはともかく来年の国会には絶対出すということでございますから、私たちこの次の国会で審議するのを楽しみにしておりますけれども、それまでいまのままでほっておくということはないと思う。先ほど皮手錠の問題について東京拘置所のほうでもやられているし、京都のほうでも縛りっぱなしで、食事のときも寝るときも用を足すときも全部縛りっぱなしというケースについてお話し申し上げたのです。だからこれは監獄法を改正される前の段階で、緊急に通達なり何なり出されて——前に出された通達だと、どうしても抜け道があるから、やはりこれは最低、原則として絶対こうするというように緊急的な措置も必要じゃないか。その点いかがですか。
-
○勝尾政府
委員 いわゆる戒具でございますが、現在戒具を使用することにつきましては、実は私のほうで最小限度にとどめるという通達を出しております。その意味は、自傷をする場合でございます。自分の手や足を使って自傷をする場合、これを防ぐ場合には結局手や足の自由を奪わざるを得ないと思いますので、そういう場合に限定をするようにということを私のほうで通達をいたしております。
それからなお設備の関係におきましても、最近新しく建設いたします施設におきましては、先ほど御指摘もございましたように、自傷等のおそれがない限りは、こういう戒具を使わずに、テレビ等を備えつけてそれによって本人の行動を的確に把握して、何か異常があった場合には直ちに手当てができる、こういう措置で現在進んでおります。そういう趣旨をさらに私としては徹底してまいりたい、このように考えております。
-
○横路
委員 そういう矯正局のほうでお考えになっておることと、現実に刑務所で運用されておることとは違うのです。看守に対してちょっと暴行でもすると、もうこれは暴行のおそれありといって、十日間もぽんとそういうことをやっておるのですね、皮手錠で縛りつけて。だから、戒具の使用というのは、いま現実に重解禁というのはあまり行なわれていないですね、これにかわる懲罰方法として現実には行なわれておる。つまり保安上のそういう要求ではなくて、本人に対するやはりこらしめとして、私は行なわれているんじゃないかという、そういう懸念が一つ、二つのケースからも読み取ることができるのです。ですから、先ほどもお話ししたのですけれども、昭和三十二年の一月二十六日の矯正局長の通達というのがありますけれども、これもやはりこれをそのまますなおに解釈すれば、別にかまわない、食事のときも寝るときも手を縛っていてもかまわないんだというように、これは読み取れるのです。だから、やはりそこのところをそうじゃないような扱いのように監獄法改正の中でやっていただきたいし、監獄法を改正するまでの間、いま現実にどこの刑務所に行ったって、皮手錠をはめられてすわっているのがいるのです。私も三月の末に千葉の刑務所に行って保護房を見せてもらって、ふっと見たら一人すわっているのですね。あの穴からのぞかしてもらいましたら、きちんと正座して、このまま縛りつけられているのですね。だから、そういうような運用を改めるべきじゃないか、その点について再度この通達を出すときにも、これをおたくのほうの文書で、いまなお感情に走って必要以上の拘束を加えて、エビ責めとか、鉄砲責めと称せられるような不法な使用をなす事例があるから、注意されたしという通達ですね。やはりこれはもう一度お調べになって、そして検討していただきたいと思うのですが、その点最後にちょっとお尋ねしておきたいと思います。
-
○勝尾政府
委員 御指摘のように、戒具はどこまでも最小限度本人が自分で自傷をするとか、職員が傷害を防ぐとかいう限度にとどめるべきものでございまして、それ以上に出てはならない。したがって、そういう状況がなくなれば即刻戒具の使用を廃止するというのが当然のたてまえでございますので、その点についてのさらに周知の徹底と、第一線の職員の訓練について、さらに遺憾のないようにさっそくの措置をとりたいと思っております。
-
○横路
委員 そのたてまえが、なかなか現実にはたてまえだけに終わっていて、行なわれていないというところが問題なんです。これはまあ戒具の問題はこの程度にいたしまして、ぜひこれはやはり監獄法の改正の中で鎮静衣、防声具、皮手錠については廃止する方向で検討していただきたいと思うのです。
次に懲罰についてお尋ねしたいと思う。この監獄法五十九条を読みますと、在監者が紀律に違反したときには懲罰に付す、こういうようなぐあいになっていますね。施行規則十九条、二十二条二項に、在監者の遵守すべき事項として、刑務所に入ってきたときに告知される内容、これには職員の指示の一切も含むようになっているわけです。これに反したときに、懲罰が行なわれるわけですね。そうしますと、懲罰にはたくさんの問題があります、いろいろな問題点がありますけれども、東京拘置所あるいは府中の刑務所、中野の刑務所の例について、私は、これはみな刑事被告人ですが、これについて資料をちょっといただいたものですから、それについて実態を明らかにしながら、少しお尋ねをしたいと思うのですけれども、まず何が懲罰の対象になるのかという、いわゆる刑法でいう構成要件が非常に不明確、職員の指示の一切も含むものですから、だから懲罰事犯を見ると、看守抗命というのですか、抗弁というのですか、これがやはり非常に多い。で、東京拘置所と府中と中野の例をちょっとあげてみたいと思う。これはもちろん私のほうでは日にちも名前もきちんとしているものですけれども、それは省略したいと思います。こういう例がある、三つ四つ例をあげたいと思う。面会中に寒いのでポケットに右手を入れていた、そこで注意を受けた、これは注意するのは断然でしょう。ところが、その注意した看守も、寒いので——東京拘置所、あれは冬になっても暖房が入りませんですね、全然入らぬ。寒いものだから、看守もまたポケットに手を入れていた。そこで抗議したところ、看守に対して抗議したということで、軽屏禁十五日間。軽屏禁というのは、受罰者を罰室の中に昼夜屏居せしめて、その間入浴、運動、読書そのほか一切禁止されて、ござの上で正座しなければならぬというやつですね。軽屏禁十五日間。運動中に口笛を二回ぴーぴーと吹いた。これで軽屏禁七日間。ラジオを聞いていて、歌に合わせて口ずさんだところ、軽屏禁一週間。砂の入った食事に抗議をしたら、文句を言うなということで、軽屏禁五日間。それに対してハンストをしたら、また十日間。それから冬に寒いので腰に毛布を巻いていたらはずせと言う。暖房がついていないところですから、それに入っていて、それは毛布も巻きたくなるでしょう。はずせ、はずさないということで、やはり軽屏禁一週間。判決ニュースを聞いていて、大声でナンセンスと言ったら、やはり軽屏禁十日間。運動のとき天気の話を注意されて、天気の話ぐらいよいじゃないかと言ったら、口ごたえということで軽屏禁十五日間。こんな例ばかりなんですね。落書きしたとか、あるいはとびらをたたいたということになると、これは一カ月くらいになる。運用の実態がこういう実態になっているのですね。いまの懲罰では重屏禁というのは行なわれていないのだから、これは一番重い懲罰ですよね。実際にこうやって一カ月間の軽屏禁を執行されていて、拘禁反応を起こして精神異常になった人間も中にいるのです。これについて、これは公法上の特別権力関係だ、何をしてもいいじゃないかという考え方が、私はやはり従来の運用の中にあると思う。だから、この点について、こういういま私が申し上げたようなケースについて、はたしてこれで軽屏禁十日とか、一週間というのは妥当なのかどうなのか。十二種類の懲罰の種類がありますね。ところが、大体話を聞いていると、みんな軽屏禁何日間ということになっている。三日とか、五日というのもあるけれども、長いのになると、一カ月、四十五日間、こういうのもあります。こういう運用をどういうぐあいにお考えになるのか。
-
○勝尾政府
委員 懲罰の運用につきまして、私の考えておりますのは、単に外形的な紀律違反行為だけではなしに、その紀律違反行為がその施設全般の管理に影響があるかどうかという点、したがいまして、ある紀律違反行為が出た場合に、それを見のがしたならば、どういう結果になるか。たとえば、同じ通声でも、その通声をかりに見のがすということになりますと、結局収容者同士の間の交談が許されるというところに結果いたしますと、その間に逃走の打ち合わせをするとか、あるいは騒ぐ打ち合わせをする、あるいは証拠隠滅の打ち合わせをする等に結びつく紀律違反、そういったものについては芽の小さいうちに取り除くというのは、私は多種多様の多数の人間を一カ所に収容している施設の秩序維持のためにはやむを得ないと思っております。
ただ問題は、その具体的な運営にあたりまして、その辺の判断ということになりますと、ある施設における収容者の性状だとか、性格だとか、千五百おるならば千五百というものの収容者の性格、性状、あるいは犯罪の被疑事実等も総合して、その辺を適切にやらなければならない。したがいまして、またその紀律違反に対するどれだけの懲罰を科するかということにつきましては、もっと適正に、適確にやらなければならないのではないか。しかしながら、これが一歩適正をはずれるということになりますと、事は人権の問題に関係することでございますので、これはどこまでも慎重にやらなければならない。したがいまして、現在監獄法の改正では、できるだけ懲罰の対象についての構成要件を明確にしていくということ、さらにその懲罰を科するにあたっての手続について明確な担保をしていく。そうしてさらにその執行についても過誤のないように、これを見ていく機関をつくる。さらに途中においてその刑罰を免除するとか、あるいは変更するとかという弾力性を持たせるというような形で、懲罰の不当な運用というものを排してまいりたいというのが現在の私の考えているところでございます。
-
○横路
委員 いまの例は、東京拘置所と中野と府中の例なんですが、やはりこれはともかく無差別に、何かちょっと騒ぐと全部これが軽屏禁だということでやられている。いま私が申し上げたような例で、一週間だとか十五日だとかいうような例が妥当だと思いますか。
-
○勝尾政府
委員 これは具体的な、いま御指摘の点の一つ一つについて、私、申しわけありませんが、承知いたしておりませんが、たとえば東京拘置所を例にとってみますならば、私の承知いたしますところでは、あそこには二千名近くの被告人が収容されております。その中にいわゆる死刑囚も四十五名収容されております。また精神的に異常のあると疑われる者も収容されております。したがいまして、そういった集団社会の中において起きた波紋が小さいものであっても、それが大きな波紋になる危険性もはらんだ施設であろうかと私は思いますので、その辺の判断につきましては、私としましては、現実にその施設を管理している施設長に対して、慎重を期するということは十分指導をしなければならないし、また、しているつもりでございますが、いま言った何日が適当であるかどうかということにつきましては、申しわけございませんが、私としては、この場で意見を申し述べることはできないということをおわび申し上げます。
-
○横路
委員 こういうような運用をやっていて現実に懲罰に付された場合には、懲罰事実と、それに対する処分というのは矯正局のほうではきちんと把握されているわけでしょう。従来から人権擁護等の関係で、こういうようなケースというものは何回も報告されているのです、懲罰が多過ぎるというのは。ですから、やはりこの点、再度現在の東京拘置所なり府中なり中野なり、どういう運用をなされているのかという点を調査して、そういうようなケースについて、これは全部簡単に集めることができるわけですから、検討していただきたいと思いますけれども、その点についてちょっと……。
-
○勝尾政府
委員 全国の各施設における五万人前後の収容者の個々の紀律違反のことにつきましては、私のほうで報告は取っておりませんので、承知いたしておりませんけれども、いま御指摘のような問題があった場合には、これを調査することにいたしておりますので、東京拘置所、中野刑務所等の実情については、私のほうで調査をしていきたいと思っております。
-
○横路
委員 いまの監獄法の改正の中で要するに構成要件が明確でないというのは、やはりこれは一番大きな問題なんです。だからこの点をやはり明確にする。これは国連の一九五五年の被拘禁者処遇最低基準規則、いまから十五年前国際連合で決議をして、それの処遇に対する最低基準ですね、これをきめたのは。その二十九条の中で、懲罰については規律違反を構成する行為は常に明確にしなければならぬということがきちんと最低基準の中できめられています。それすらいま現実には守られていないのですから、国連のいまから十五年前のこの最低基準にも合致していないのが私はいまの日本の監獄法の運用だろうと思う。だからぜひそれは紀律違反を構成する構成要件というものを明確にしてもらうと同時に、手続についてもできるだけ刑事訴訟法の手続等を入れたような形の、不服申し立てもきちんとできるような、そういう制度にしていただきたいと思うのですが、その点についてはいかがですか。
-
○勝尾政府
委員 御指摘の被収容者最低基準規則の二十九条を承知いたしております。
構成要件の明確化という点も、私は全く同意見でございますが、その明確化を法律にどの程度書けるか、あるいは法律に書けない場合に、これを政令、省令等にどのように譲っていくか。この五万人の収容者というのは全く千差万別でございますので、あらゆる場合を想定した構成要件というものが書けるかどうかという点について、私自身はいま考究し、苦慮をいたしておるところでございますが、これは法律にできるだけ詳しく構成要件を書いていきたいと思っております。やむを得ないものについては省令に移さざるを得ないものもあろうかと思っております。あるいは通達に移さなくちゃならぬものもあろうかと思っておりますが、いずれにいたしましても、それらの紀律違反の対象となり得る行為につきましては、収容者が入所した当初においてこれを明確に知らせるという処置を講じなければならない。また現にこれは私としては講じておるつもりでございますが、きわめて不十分な点があるならば直ちに訂正をいたしたいと思っております。さらにその懲罰の手続につきましては、できるだけ再審構造的なものを持ち込んでいきたいということは現在の監獄法の改正にあたって考えておるわけでございます。
なお、この懲罰の問題については、世界の各国からできるだけの資料を現在取り寄せて、それを参考にして、監獄法の改正を検討いたしております。
-
○横路
委員 先ほどあげた例はみんな被告人なわけですね。私ふしぎに思うのは、大正十三年二月に行刑局長の通達というのがあって、その中で未決勾留者に対する懲罰の種類については左記の程度において処分するのが相当だとして、一から四まであげておる。文書、図画の閲読の十五日以内の禁止等々をあげていますね。しかしこれには軽解禁にしろということは書いてないのですね。軽解禁はこの通達の中には入っていない。しかも昭和一年七月の行刑局長の通達の中でも再度これが確認されておるのです。先ほど一番最初に
小林法務大臣のほうからも話があった監獄法の関係になると、これは大正だとか明治だという時代の通達なんですね。しかしこの大正十三年の通達と昭和二年の通達は、やはり被告人というものを受刑者と分けて、受刑者は有罪と確定した者、被告人は無罪の推定を受ける者だから、やはりここに区別を置こうという、そういう意味では非常に進歩的な、人権を尊重した通達だと私は思うのです。それが現実の運用を見ると、全然そんなことにはなっていないわけですね。その辺の関係はどうなんですか。
-
○勝尾政府
委員 御指摘のように、未決拘禁者に対する処遇の基準というものが明確でございません。この点は明確にするということで、監獄法にもその点を明らかにしてまいりたいと思っております。
-
○横路
委員 まあその受刑者と未決勾留者の取り扱いは、監獄法の中で明確に分けるということはぜひやってもらわなければならないことだと思っておりますけれども、この現実の運用とこの通達はどういうことになるのですか。
-
○勝尾政府
委員 昭和二年の行刑局長の通達は、いま御指摘のように、おおむねの基準を示したものだと私理解をいたしております。現実の問題といたしましては、たとえば精神障害の疑いがあって、著しく偏倚な、粗暴な者が出てきて、それを現実に所内の秩序の維持のために処遇しなければならないといった場合に、例外的な措置としての懲罰ということを禁止した趣旨ではないと思いますし、また第一線の現状はそれだけで済まされないという現状であるというように理解をいたしておりますが、精神はその昭和二年の通達で貫きたいと思っております。
-
○横路
委員 その精神に沿って運用が行なわれているかどうかということを先ほど調査されるということですから、ぜひそうしていただきたいと思うのです。
この懲罰に関して次に問題なのは、紀律違反の行為があると認めたときに調査をするということで、その取り調べが済む間、部屋を独居なら独居に移しますね。東京拘置所にしても、何にしても、取り調べ期間というものがまた長いですね。一週間から二週間、そしてその間、毎日調べるかというと、そうじゃなくて、たとえばこういう例もある。ラジオを切ったので、それに対して抗議をしたところ、八日間取り調べのためだという、部屋を移されて、六日目に十分だけ取り調べを受けて、その結果処分が何かといったら叱責という一番軽い処分ですね。取り調べということで現実に懲罰の先取りをやっているというようにいえないこともない。一週間も二週間も取り調べということで、こういうような措置をするということは、決して妥当な措置じゃないと思う。やはりこれも現実の運用として改めていただきたいと思いますが、その点いかがですか。
-
○勝尾政府
委員 その点につきましては、できるだけそういう期間を短くするという方針でまいりたいと思いますが、やはりケースによりまして、本人だけの取り調べで終わる場合とあるいは関係者等を相当人数調べなければならないという場合も私はあり得ると思いますが、しかしどこまでもこれは合理的な期間であるべきだ、こう考えております。
-
○横路
委員 いま警察官の持ち時間は四十八時間ですね。その中で捜査するわけですよ。二週間も閉じ込めておいて、しかもその間、来るのはわずか十分か十五分、そうしたらこれは取り調べのために置いているのではなくて、そのこと自体が懲罰をやっているのじゃないですか。そういう運用に現実になっていますよ。法律的な趣旨とかたてまえとかいうお話になりますと、現実とのギャップというのは非常に大きい。ぜひそれはやはり実態を把握されて、一週間も二週間もそのことのために入れておくというような取り扱い、現在の運用というのは、私はやはり改めていただきたい。その点重ねてお答えいただきたい。
-
○勝尾政府
委員 実態を調査いたしまして、改めるべきものは即刻改めるようにいたします。
-
○横路
委員 これも監獄法の中で、取り調べのための期間というのはやはり限定すべきじゃないか。いま全然その制限がないわけですね。これもたとえば三日間とか何日というようにきめるべきだと思う。それはいかがでございますか。
-
○勝尾政府
委員 そういう意見が出ておりますので、検討いたしております。
-
○横路
委員 そこで、この取り調べのために、監獄法のあれは施行規則でしたか、独居拘禁にするのだというようなことがありましたが、これも最近先月なんですが、東京拘置所でこういう例があるのですね。女子の被告人が騒いだというので、七十センチか八十センチくらいの四方の箱、検査箱と称している中にみんなぶち込んだ。夜寝ているところで寝巻きに着がえちゃった——寝巻きというか何か知らぬけれども、ともかく着がえちゃった人間をそのまま連れていったケースもある。もちろんスリッパなんか全然ないわけですね、無理やり連れていったのですから。その八十センチないし一メートル四方くらいの中で全然身動きできない。もちろん中にはトイレも何もついていない。これに三時間も四時間も入れている、こういうことをやっているのですね。一体これはどういう措置なのか。それをちょっと明らかにしていただきたい。
-
○勝尾政府
委員 東京拘置所において収容中の女子がいわゆる喧騒にわたる、そのために他の一般の収容者が騒ぐという事態がときどきあったと聞いております。その場合に、一応その騒ぎを静めるために居房を連れ出すということがございます。いま御指摘の部屋というのは、そういう一メートル四方八十センチという部屋ではなしに、各舎房の端のほうに書信室というのがございます。これは狭い電話ボックスのような部屋で、書信をするときにそこに連れていって書信をさせる。あるいは何か取り調べの場合に、待たせるというような電話ボックスのようなものが並んでおります。その部屋に待機させた、このように理解いたしております。
-
○横路
委員 そうすると、それは法律的にはどういう措置になるのですか。
-
○勝尾政府
委員 喧騒を一時鎮静させるために居房から離して、ただいま申し上げたところにおらせたという処置でございます。
-
○横路
委員 そうすると、独居拘禁ということだから、そういうしかるべき部屋に移すべきではないですか。独居拘禁ということになると、これは床面積なり気積なりということできちんときめられている。ところがそういうことではなくて、電話ボックスのような箱の中に外からかぎをかけてぶち込んでおくというのは、やはり法律的に一体何の措置なのか、非常にこれは明確でない。
-
○勝尾政府
委員 ただいまの点につきましては、その電話ボックスのような大きさに終始置いたというわけではなしに、他の独居室に連行する途中、多数いましたのでそこに置いた。連行途中、そこに待機させていたということでございます。なお、独居の部屋につきましては、これは原則上の制約等もございますので、多数そういうものが出た場合に部屋の
調整をやる時間が必要になるわけでございますので、そのために連行中そこに待機させていた、このように承知いたしております。
-
○横路
委員 法律違反行為があった場合にはこうすべきだということがきちんときめられているわけですね。きめられているのに、事実行為としてそういうところにぼんぼん入れておく。夜、しかも寝巻きのまま素足で置いておく。監獄の中だったらこれは何をやってもいいということになるんじゃないですか。やはりそこのところは、いまの不十分な監獄法の中でも、きちんときめられていることくらいは、やはり最低守らなければいかぬと思う。それはいかがでございますか。
-
○勝尾政府
委員 ただいまの点につきましては、連行途中待機させていたということでございますから、その待機の場所等について原則上考慮していくということは考えたいと思いますが、御指摘の点につきましては、いま申し上げたような事情でございます。
-
○横路
委員 三時間も四時間もそういうところに閉じ込めておくというのは、私はやはり問題だろうと思う。そこでこの問題についてもいま検討されるということですから、電話ボックスみたいな木の箱にかぎをかけて閉じ込めておくのではなくて、やはり妥当な指貫というものを考えていただきたいと思う。
次に、軽屏禁の執行について。現在軽屏禁になると、自動的に入浴が停止されて、運動が停止になる。風呂に入ることが停止され、運動も禁止になる。これについては、すでに昭和三十六年十月二十一日に津の地方裁判所で「軽屏禁執行期間中戸外運動、入浴及びラジオ放送の聴取を禁止した処分」は取り消すとして、これは憲法三十六条にいう残虐な刑罰なんだというように判決の中でいっているわけですね。このような違憲判決が出ながら、なおかつ放置してある。ここではこういうぐあいに言っています。「受刑者といえども、人間としての最低限度の生活は、絶対的に保障されていなければならない」「したがって、被告のした」つまり国のほうですが、国のした「戸外運動及び入浴禁止の処分は、人間の健康保持のための最低限度の生活を侵害するものとして、反人道的な性格をもつ」しかもその処分が懲罰の執行としてなされているんだから、これは憲法三十六条にいう残虐なる刑罰に該当するんだ、憲法三十六条に違反する処分だというように、この昭和三十六年の判決の中でいわれているわけですね。このときにやはり法曹界の中で非常に大きな問題になり、新聞でもこの問題は非常に大きく取り上げられた。ところが現実にいまの執行を見ていると、依然として軽屏禁の場合に入浴禁止と運動禁止という処分を行なっているわけです。この辺のところについては、どのようにお感じですか。
-
○勝尾政府
委員 この屏禁の内容によりますが、たとえば入浴をするために入浴場に連れていくという手続がはいるわけでございますが、その連れていくこと自体に危険をはらんでいるというような場合には、入浴中止は私は屏禁の中に具体的に入れても、憲法の違反にはならないと存じます。要は、入浴の禁止ということの必要性、これは具体的な場合にそれぞれ考えていく。したがいまして、現在の運用といたしましては、屏禁は入浴禁止を含むということには相なっておりますが、たとえば入浴場に連れていく途中においても事故の起きるおそれがないといった場合には、一週間に一回ないし十日に一回は入浴をさせる、あるいは入浴に連れていくことが危険であってもからだをふくことをさせるというような、具体的な措置をとっているというように私は理解しております。
-
○横路
委員 現実に憲法に違反するという判決があるわけですね。この中でもいっているけれども、そういういろいろな健康管理について、いま言ったように、からだをふかせるとか何とかいうようなことをやっていても、それでもなおかつ人間にとってふろに入ったり運動をしたりということは必要最低限の権利なんだから、認めてやるべきじゃないかというのがこの判決の趣旨なんです。だから、特にこの運動の場合にはいろいろと懲罰の段階との関係で、また別な議論もあるわけですから、やはりこの判決の趣旨に沿った運用ということを考えていただかなきゃ、東京とか、東京から南の夏の暑いときに、われわれだって毎日入らなきゃとてもたまらぬようなときに、一週間に一ぺん入れます、あるいは一カ月、二カ月入浴禁止になって、運動も禁止になってというんじゃ、やはり人間としての取り扱いをしているかどうかということで、非常に大きな問題があると思う。その点いかがでございますか。
-
○勝尾政府
委員 御指摘の議論が監獄法の改正の中に出ているのでございますが、私といたしましては、そういう方向でものを考えたいと思いますが、これを全面的に許した場合に、収容者は千差万別でございますので、不慮の事故が起きて、その施設の運営が収拾がつかなくなるような場合がないだろうかということが一まつ頭にありますので、検討をしているというのが実情でございます。
-
○横路
委員 それも監獄法改正の一つの議題になっているとすれば、ぜひそういった方向で、この判決の趣旨に沿った改正というものをお考えいただきたいと思うんです。
だんだん時間もあれになりましたので、次の問題に移りたいと思いますけれども、次に刑事被告人が発する信書とか原稿等、文書についての問題なんですけれども、文書あるいは刑事被告人の購読している新聞、雑誌——先日もハイジャックのときに東京拘置所の中でこの問題について非常に大きな問題になったということもあるようでございますけれども、ほんとうにひどいわけですね。私もこれはある事件の弁護団からもらったものなんですけれども、差し入れても、ごらんのようにまっ黒けに全く抹消ですね。しかも内容はどういうものを抹消するかということになりますと、その房の中の待遇がどうなんだというようなことについて、あるいは懲罰なら懲罰について何か聞くと全部このようにまっ黒、ほとんどもう全然読めないですね。全部消してしまっているわけです。一体信書なり文書なりについての抹消する、あるいは削除する法律的な根拠というのはどこにあるんですか。
-
○勝尾政府
委員 根拠法規は、監獄法三十一条、施行規則八十六条、それを受けまして通達が出ております。その通達の中に、紀律を害するおそれのあるもの、罪証隠滅に資するおそれのあるもの、身柄の確保を阻害するおそれのあるものという一般基準が示されまして、さらにこの各項についての詳細な基準が示されておりますが、犯罪に関する手段、方法等を詳細に記載したものは抹消するという取り扱いに相なっております。
-
-
○勝尾政府
委員 信書につきましては、その信書の内容に、第三者の判定において犯罪を構成するようなおそれのあるもの、あるいは逃亡あるいは証拠隠滅を含んでいると思われる内容のもの、さらに虚構の事実を申し伝えているもの等につきましては、これを削除して出すということにいたしております。
-
○横路
委員 その問題についてもやはり判決が一つ二つあります。一つは、東京地方裁判所の昭和四十一年三月十六日の、これは決定ですね。この中で、やはり被告人の通信の自由という観点から、現在の措置というのは憲法に違反する措置だ。とりわけ「刑事被告人の発する信書について」という通達がありますね。その通達の中の三項ですね、問題なのは。「信書の内容が施設の管理運営上発信を適当としないものについては、その長の意見により、被告人の意思の如何に拘らずその部分を抹消することができる。」こうなっています。これについては未決拘禁者にも憲法に保障された、憲法二十一条による表現の自由の一つの態様として、文書発信の自由というのがある。大阪地方裁判所の判決もありますけれども、この東京地方裁判所の判決というのは非常に明確だと私は思う。そうすると、現在の運用の中で問題なのは、ともかく中のことを書いたら一切抹消してしまうというそこが一番大きな問題だと思うのです。もちろんそれは中に犯罪を構成するようなものやなにかがあれば、これは刑事訴訟法の手続で押えることだってできるわけですから、私もそれについて、たとえば発信を許可しない等の問題について言っているわけじゃないのです。監獄の中の措置の問題について、ともかく何か書けば全部削除されてしまう。外にいる人間は中のことが全然わからない。だから、先ほどの皮手錠みたいな問題が、戦前から三十年も四十年も続いて、いままで刑務所の中に残っているのです。もうちょっとフランクに刑務所の中の様子というものを、特にこれは被告人ですから、受刑者じゃないのですから、憲法の趣旨からいっても、あるいは監獄法の規定だって、在監者ということでなくて、文書については受刑者及び云々というように、これは明確に除いてあるわけですし、私は現在の措置というのは非常に行き過ぎた措置だと思う。その点いかがでございますか。
-
○勝尾政府
委員 施設の運営管理上に支障がございますと、抱禁が根底からくずれるおそれがある場合もございます。したがいまして、施設の運営管理上支障があるという場合につきまして、これを抹消等の処分をするということは、私は当然のことであろうかと思います。ただ、問題は、その具体的な運営について妥当を期するということで、その点については十分な配慮をしていきたい、このように考えております。
-
○横路
委員 それでは、これは昭和三十四年一月二十三日に、死刑の確定者の水沢幸吉という人間が奥さんに手紙を出した。その問題について矯正局長から、信書の検閲方法の是正策というのが昭和三十四年八月二十四日に刑務所長あてになされているのです。いまの答弁は、ここでいっていることも私は矛盾するのじゃないかと思うのですよ。つまり、施設において、単に主観的に適当でないというだけではだめなので、客観的に犯罪を構成するものとか、あるいは全くその事実と違うようなことというように限定していますね。好ましくないというだけじゃだめだ。ところが、現実にいまやられているのは、中の待遇について書いてあるものが全部消されている。ここで言われているのは、ここでもって削除をして、それがまずいというぐあいになっているのですけれども、それはこういうところが削除されている。これが問題になっている。水沢という人間の手紙ですね。「十二月三日、十日間の懲罰にされました。」という点ですね。そうしてこの懲罰のことについて書いている。これが全部抹殺になっているんですね。それについておたくのほうで刑務所長に対して、先ほど申し上げた点に留意して運用を一そう慎重にされたしという内容のものを出しているんですね。これは先ほどのお答えと少し違うのじゃないか。この運用からいけば、この判決の趣旨に沿って考えてみても、私はやはりいまの検閲方法というのは非常に行き過ぎた面があると思う。その点再度確認していただきたい。
-
○勝尾政府
委員 昭和三十二年の局長通達、いわゆる主観的な判断だけでやってはならないということにつきましては、現在もその方針でやっております。したがいまして、現在も単なる主観的な判断でこれを削除しているということはやっていないと私は理解いたしております。
-
○横路
委員 そのやっていないということを信じているだけでは、やはり問題が残るんですね、現実にやられているんですから。またこれを検閲するほうもたいへんだと思うんですね、一々読んで検閲しなければならぬわけですから。だから何かちょっと懲罰とか房内のことについて書いてあると、全部さあっと消してしまうということになるんじゃないかと私は思うんです。しかもこの検閲というのは実際の看守がやっているわけですから、そういう次元で、憲法二十一条で保障されている表現の自由というのが非常に侵されている。こういう違憲判決が出ながら、なおかつほってあるというところが問題だと思う。この判決の趣旨についてはどういうぐあいにお考えですか。
-
○勝尾政府
委員 判決の趣旨については、私は同意見でございます。いま御指摘がございましたが、具体的な検閲の方法については、監獄法の改正の過程においても、その削除なり訂正の適正を期するための組織と申しますか、制度をつくるべきだという意見が出ておりまして、検討をいたしております。
-
○横路
委員 そこで、次に戸外の運動の点なんですけれども、先ほど申し上げました例の国連の最低基準では、毎日少なくとも一時間となっていますね。いまの監獄法の中では規則の百六条だったと思うんですけれども、三十分ということになっているんですね。実際の取り扱いもやはりそのくらいの時間で行なわれている。それはろくすっぽ運動場もないところもありましょうし、あるいは人間の問題もありましょうけれども、しかし国連できめられた最低基準も守られていないということで、ことしの八月京都で国際会議をやって、みんな呼んできて、私はやはり少し恥ずかしいのじゃないかと思う。これは別に監獄法の改正を待たなくても、運用を改めるということでやれるのじゃないかと思う。いかがでございますか。
-
○勝尾政府
委員 場所を確保するということと、必要な職員を捻出するということで、私はほとんど解決できるのではないかと思いますので、その点について検討いたしたいと思っております。
-
○横路
委員 検討したいとおっしゃられますと、もうそれ以上私のほうも申し上げることはないのですけれども、いまの運動自体も、たとえば東京拘置所の被告人の場合ですと、扇形のところで高いへいで仕切られたところだけを歩いているわけです。そうすると日の当たらないところもたくさんあるわけです。運動というのは、ただ外に出せばいいというものじゃなくて、日に当てるということですから、その辺のところの取り扱い、たとえば今度黒羽の刑務所とか小菅ですね、拘置所が移りますけれども、そういうところは、こういう運動の面ではどの程度の配慮がしてあるんですか。
-
○勝尾政府
委員 いわゆる独居拘禁者と申しますか、他の収容者と接触させることができない者につきましては、扇形のところで運動をさせる。その必要のない者につきましては、通常の運動場を確保していくということで、両面の設備を考えております。
-
○横路
委員 そうすると小菅とか黒羽では大体きちんと一時間ぐらいやれる体制はあるのですか。
-
○勝尾政府
委員 そういう方針で具体策を進めております。
-
○横路
委員 もう一つ接見の点についてお尋ねしたいのですけれども、法律上は、未決の場合は相手方とか度数について何も制限はありませんね。法律上もそういうことになっている。ところが現実の運用というのは、刑務所でまちまち。東京拘置所の場合は大体五分間ですね。五分間だとせっかく行って会っても十分話もできない。小菅の場合は十五分ぐらいで一番長いようでありますけれども、あと中野の刑務所が五分、府中の刑務所が十分ぐらい、こういうことになっているわけです。五分じゃこれは十分に話もできないんじゃないか。法律上これは自由なんですから、もっぱら問題は技術的な問題です。看守の問題とか施設の問題。いまのこの運用を改めて、そういった点の配慮というのを、いま問題になっている設置法の中で——小菅、黒羽に移るわけですから、その辺のところは接見室そのほかの関係はどの程度、法の趣旨に従って考えられているのですか。
-
○勝尾政府
委員 御指摘のように、具体的な問題でございまして、常識的な面会がどれぐらいあるかということを把握いたしまして、それに必要な面会室の確保あるいは必要人員の手当てというものを現実の問題として検討をいたしております。
-
○横路
委員 ともかく五分じゃ、これは短くて、何も話なんかすることはできないのです。ですから、いまさらあらためて調べなくても、これは明確ですよ。小菅なんかの場合はどうなっているのですか。接見室はどのぐらいあるのですか。
-
○勝尾政府
委員 東京拘置所の場合は、面会室を増設いたしまして、現在二十二あると思っております。それに対しまして、一日の面会人が三百人から六百人、これは一般の被告も入れてでございます。したがいまして、五分というのは決して好ましい数字ではございませんが、いま言った物理的な制約もあって、全面会希望者を一日に終えるというところから、そういう結果の数字が出ておると思っております。
小菅刑務所につきましては、現在建築中のものについて、いままでのデータを基礎にいたしまして、通常必要だと思われる面会室を確保し、なお臨時の場合には臨時の措置として考えていきたい、このように考えております。
-
○横路
委員 せっかく金を出して新しい刑務所をつくるのですから、少しその点についてまた質問を続けたいと思うのです。
私は千葉の刑務所へ行って見てきましたけれども、あそこだともう全然日の当たらない部屋というのがたくさんあるわけです。全然日が入らない。いまの東京拘置所、中野、府中、これについていろいろ調査した結果がある。二百四十名、中でアンケートをとって、そのうち四十一名が全然日が当たらぬ、一日じゅう全然入らぬ。それから日当たりが悪いというのは九十名にものぼっている。そうすると、この建築の基準にしても、あれはたしか昭和三年か四年ぐらいの基準みたいなものがあって、それに基づいてつくられているようですけれども、今後の新しい刑務所のあり方として、やはり全然日の当たらない、そんな房というのは私はつくるべきではないと思うのです。いままでは、それは受刑者は犯罪者だからどんなところでもいいじゃないかという考え方がやっぱりあったと思うのですけれども、しかし、これだけいま日本の国の経済的な力が強くなってきている段階で、やはりそうした点の配慮というのもこれからしでいかなければならぬじゃないか。黒羽刑務所なんかについて聞くところによりますと、少しそういう配慮をしているようでありますけれども、今後の方針として、こういう建築の基準みたいなものをどういうぐあいにお考えになっているのか。また現実にこうした日の当たらない刑務所みたいなものはまだまだたくさんあるわけですから、その辺についてどのようにお考えか、それをお聞かせいただきたいと思います。
-
○勝尾政府
委員 戦後、新しい施設をつくる場合には、土地の制約もありますものの、舎房は南面に並べていくという方針をできるだけ貫くということでやっております。それから古い千葉等のものについては、そういった部屋もあることは承知いたしておりますが、これにつきましては、建物の修理あるいは増築等の過程において、できるだけ解決をしていきたいと考えております。
-
○横路
委員 そこで、一番初めに
小林法務大臣のほうから、監獄法をともかく改正して来年の通常国会までには出します、そうすると、法制審議会に対する諮問等々で相当急いで作業されなければいけないと思うのです。いま懲罰とか戒具の問題、非常に明治時代というか、明治よりもまだ古い、封建時代のなごり、江戸時代のなごりみたいなものが残っている。その点を中心に問題にしたのですけれども、そのほか、いまの行刑思想の変化の中で、分類処遇の問題とかあるいは帰休制度の問題とか、いろいろあるわけです。その点について改正の方向ですね、いままでの質疑の中で明らかになった点は別にして、どういうことをお考えになるのか、それを簡潔にひとつお答えいただきたいと思います。
-
○勝尾政府
委員 御指摘の分類処遇の徹底化、その過程において帰休制度の問題あるいは開放処遇の問題、これを当然検討いたしております。
それから懲罰の問題につきましては、すでに触れたところでございますが、刑務作業の賞与金の問題等を中心にして作業を進めております。
-
○横路
委員 ちょっと、作業の賞与金といいますが、この関係でお伺いしておきたいと思うのですけれども、ことしは何か、六十三億四千四百八十二万ということに予算ではなっていますね。要するに、受刑者の労働による売り上げがあるわけですね。これに対して支払われるのが、ことしの中で、総額で大体どのくらい予定されているのか。一人、一カ月大体どのくらいになるか、それをちょっとお答えいただきたいと思います。
-
○勝尾政府
委員 作業賞与金として本人の手に支払われる金は、全受刑者の在所平均収容期間が十八カ月でございますが、所内用の品物を買って、そういうものを差し引いて出所するときに持って出る金が約九千七百円程度でございます。毎月の平均の賞与金の収入というのは、現在大体千円前後ということでございます。
-
○横路
委員 ことしの予算の中で、刑務所の収容費というのは四十一億八千五十七万になっているわけですね。そうすると、あと刑務作業なんかの関係の費用もあるでしょうけれども、ともかく受刑者が働いてあげた利益が六十三億あって、その収容費ですね、衣食になるのでしょうけれども、四十一億と、ここで二十数億、国のほうで利益をあげているわけですね。これを特別会計にしてもうそろそろやれるのじゃないかと思うのですけれども、そういう点はいかがでございますか。ともかく、一人、月千円——いま一日働いても二千円、三千円というときですから、月千円というのは幾ら考えてもひど過ぎるわけですね。私なんかも経験があるのですけれども、刑務所に入っている人間は、三年ぐらいで離婚が多いわけですね。これはやはり金の問題があるのです。それからたとえば被害者の立場に立っても、本人に刑務所に入られてしまったら、たとえば補償ですね、交通事故なんかの場合に、禁錮でもって入られると一年間全然補償がなくなってしまう。いまのこういった月千円ぐらいじゃ、とてもそこから家族に仕送りするとか被害者に対して弁償するということはできない実情にあるわけです。ですから、その点特別会計の設置法も含めて、もう少し、賞与金というのじゃなくて、やはり賃金というようなものに変えていく必要があるのじゃないかと思うのですけれども、それはいかがでございますか。
-
○
小林国務大臣 実は私は、刑務所作業会計という特別会計をつくりたい、こういうことで大蔵省にもいま働きかけておりますが、この点だけは今度の監獄法と一緒にはどうか、こういうふうな考え方を持っております。監獄法のほうを先にやってからでどうかという話がありますが、私は実は最初からこれが一般会計になっていることがいろいろの問題の原因になっておる、したがって、会計を別途にして明らかにして、いま申すように、単なる賞与ではない、ある程度の賃金的なものを考えよう、こういうことでやっておりますが、しかしいま大蔵省では特別会計はなるべくつくるまい、ことしもやっと一つかできましたが、そういう基本方針を持っておりますので、しかしとにかく刑務所の作業会計を特別にさせてもらいたい、こういうことを私は強く申し入れて、大蔵省でも検討しておりますが、次の国会までにこれをやりますということは、この際、私はまだ言明いたしかねます。しかし、そういう方向に持っていって、刑務所の会計その他を明確にしたい、こういうふうに思っています。
-
○勝尾政府
委員 大臣の御指示もございまして、特別会計のことは鋭意検討いたしておりますし、作業賞与金の性格についても、できるだけ賃金に近いものでまとめたい、このように考えております。
-
○横路
委員 それに関連して、受刑者が作業中事故にあって死傷した場合の措置についても、いま労災とは全然別個に取り扱われているわけですね。その金額というのは、いかにも人間として扱っていない額なわけですね。その辺のところについてもやはりお考えになっていると思いますけれども、やはりこれも改正する方向で、できるだけ労災扱いするように——たとえばいまどこかで刑務所をつくるということになれば、全国の囚人の中から大工や何かさがして、そこに連れていくわけでしょう。そうして仕事をやらせて、その結果けがをした、なくなったという場合に、あの程度の費用ではやはりどうかと思いますので、その点もやはり検討していただきたいと思いますが、いかがですか。
-
-
○横路
委員 このあと金嬉老の問題についてもございますので、監獄法の問題についてはこれでやめにしたいと思うのですけれども、法曹界の特に矯正の関係のいま一番の先輩に当たる正木亮さん、この方がある本の中で、刑務所というのは法の伏魔殿だというような発言をされているのですね。一番の権威者がそういうことをおっしゃられる、それはやはりそれだけの理由というのがあるわけで、きょうも私皮手錠の問題とかいろいろないまの懲罰のやり方についてお尋ねして御検討いただくことになったわけですけれども、やはり憲法のもとで受刑者といえどもやはり人間なんですから、できるだけ皆さん方のほうでも隠そうとせずに、いままで精神病院と監獄というのが一番よくわからぬところだというように一般的にいわれているわけでもありますし、監獄法を大臣のほうで絶対にこの次の通常国会までには出すのだということでございますから、そのおことばを信頼いたしまして、監獄法の問題については質問を終わりたいと思います。
それで、次に金嬉老の問題について簡単にお尋ねをしたいと思うのですけれども、結局いろいろな優遇処置というものがとられた。新聞でいろいろ報道されているわけでありまして、きょうも何か法務
委員会のほうで、その点に関して質問があったようでありますけれども、一体なぜそれを刑務所側がやったのかということが、やはり一般の国民にはどうもよくわからぬわけですね。なぜやったのか、その点についてはいままでの調査の中から、何かおわかりになりましたか。
-
○勝尾政府
委員 一言で申し上げますならば、金嬉老という収容者の処遇に、それを担当しておりました職員が困惑させられたということばを使いたいと思います。そうして、最初簡単なたばこの一本とか二本とかいう要求に屈して、それが逐次エスカレートをしていった、それに対して幹部の職員が適切な指示とバックアップをしなかった、これがからまってこのような事態に発展をした、このように私は見ております。
-
○横路
委員 どうも、しかし、そういうことだけで済まされる問題なのか、あるいは、その辺に原因があることなのかということになると、非常に疑問があるんですね。というのは、これは金嬉老の弁護団の話ですけれども、金嬉老はこういうことを言っているというのです。刑務所側から働きかけがある。どんな働きかけがあるかというと、いま、金嬉老の弁護団というのは戒能通孝さんを団長とする弁護団ですが、あいつらに頼んでおいたらどうしようもないから、おまえ不利だからやめさせたらいいんじゃないかという働きかけが刑務所側からある。看守じゃないんです、上のほうの人間からある。これは言っているのです。この点については、いままでの調べの中で何か出てまいりましたか。
-
○勝尾政府
委員 いままでの調査の結果では、そういう事実はございません。
-
○横路
委員 金嬉老があげている名前を私も知っているのです。ただ、本人の言っていることですから、それはそのまま信用していいかどうかは別です。しかし、あの金嬉老の裁判を見ていますと、構成要件の事実のところをあれこれ議論する前に、朝鮮人の問題、いわゆるこの事件の背景を明らかにしていくというのが、どうもあの弁護団の方針のようです。金嬉老もまた、冒陳や意見陳述の中でそういうことを言っているわけですね。そうすると、やはりおたくのほうで、あの弁護団’と手を切らせて、うるさいことを言わずに、さっさと裁判をやったほうがおまえのためだぞと、私は、そのために優遇措置をいろいろやったんじゃないかということが、一つの考え方として出てくると思うのです。金嬉老は、ともかくそのことを刑務所側から去年、おととしから言われているんだ、こういうぐあいに言っているのです。
今回の事件というのは、下部の看守だけの責任じゃなくて、何か新聞の報道によりますと、矯正局のほうでも、昨年の暮れにはいろいろ話が聞こえてきていて、注意したとか通達を出したとかというようなことが、参議院の法務
委員会で何かお話があったようでありますけれども、そうすると、やはり刑務所の全体の体制の中で、その弁護団の解任ということのために刑務所側がそういうような措置をとったんじゃないかという疑いが私は非常に強いのです。本人は名前もあげているのですよ。かなり上のほうの人間で。この点、いかがですか。
-
○勝尾政府
委員 そういう事実はございません。刑務所は犯罪事実の存否だとかあるいは公判については関与すべきものでもございませんし、そういう事実は、調査の結果は認められませんので、そのように事実をありのままに申し上げておきます。
-
○横路
委員 そこで、何かきょうの法務
委員会でも明らかにされたようなんですけれども、公判指導の問題ですね。これは現物ですよ。法務省の用紙ですよ。そうして「静岡製」というぐあいに書いてある。これは刑務所のものだ。間違いない。ここに、岩成という元検事をあの法廷の中で四回ほど調べた、それについて、公判調書の何ページ、何ページと指定しながら調書を刑務所の人間がとって、そうして、それに赤字で公判指導のようなことをやっているのですね、現実に。一体、いままで被告人に対してこんな調書を全部とって、しかも、これは普通の看守にはできないことですよ、この内容を見ても明らかですけれども、かなり明確で、法律的な知識もあるような人間ですよ、これをやっているのは。そうすると、なぜこんなことを——これは、別に金嬉老が要求したのではなくて、刑務所のほうでもって渡しておる。刑務所側で非常に丁寧な赤字で書き入れをやって、手渡しているのです。これは一体どういうわけですか。
-
○勝尾政府
委員 それは、管
理部長が金嬉老の部屋に視察に行きました際に、金嬉老のほうから、岩成証言に対して自分としては反対尋問をしたいので、どうしたらいいでしょうか、ひとつ指導をしてくれということを頼まれた。そこで当該管
理部長は、いわゆる金嬉老の処遇について、みな非常に困っているらしいということで、金嬉老との間の関係を維持していきたい、本人のことばをかりればカウンセリングをやって金嬉老との間の人間的なつながりを断ち切らないようにしたいということで、つい金嬉老の要求に応じたものである。この点については、当該管
理部長が、さきに当局の取り調べに対して供述をいたしております。
-
○横路
委員 この内容ですと、この尋問の点は矛盾しているとかどうだとか、非常にこまかいことをやっているわけですね。だから、私が先ほど申し上げたように、金嬉老は弁護団について、弁護団を解任しなさいということを刑務所側から言われている、こう言っているのです。そして、こんな公判指導みたいに全部——これは写しで、読むだけでもたいへんですよ。丁寧な添削までやって金嬉老に渡している。弁護団が本来やるべき仕事を刑務所がやっている。だから私は、あの弁護団を解任してほかのにかえよう、そういう金嬉老に対する刑務所側の働きかけになっているんじゃないかと思う。弁護団の解任について働きかけをしている事実がありますから、私のほうで金嬉老の弁護団から聞いた話ではそういうことを言っておりますから、その点をぜひ調べて、この公判調書の問題もあわせて——こんな丁寧な公判指導なんか、普通の刑務所で皆さん方やっていますか。やっていないことなんです。まだやすりとか白い粉末の内容というのはわかっていないようですから、その経路が明らかになれば、一体その真相は何かということが明確になるでしょうけれども、どうもいまのところ、なぜこんな優遇措置をしたのか、単に看守が怠慢であったあるいは乱れがあったということだけでは済まされないものがやはりこの背景にあると私は思うのです。優遇措置と弁護団をやめさせろということは、どうも結びつけて考えたくなるのです。ぜひその点、再度調査をしていただきたいと思います。
-
○勝尾政府
委員 当該管
理部長につきましては数回調べております。ただいま申し上げました事実は判明いたしておりますが、いま御指摘のような事実は認められません。したがいまして、もし弁護団側あるいは金嬉老の側から具体的なことを提供していただければ、私のほうとしてはさらに調査をしたいと思っております。
-
○横路
委員 この問題について、同僚の
佐藤議員のほうからまた詳しく、いろいろと、いままでの調査経過その他について質問がありますので、私これでやめますけれども、
小林法務大臣の発言によると、何か下部の看守だけ処罰して終わりということになりかねない。そういう人を処罰して終わりということで済まされても困ると思うのです。
この問題は、根本的には監獄法のきびしさとうらはらの問題だと思うのです。たとえば、いま監獄で、たばこ一本吸わせない。これなんかは、火災の問題さえ片づければ、喫煙所を設けて吸わせればいいのですよ。そうすると、今度いろいろ問題になったようなことは問題にならぬのです。監獄法のきびしさの一つが今度の金嬉老の問題を生んでいるし、さらに、いま申し上げましたように、刑務所のほうで弁護団の解任という働きかけがどうもあるようなんで、その辺がもう一つ解明されないと、今度なぜ金嬉老がみずからああいうものを示したかということも含めて、真相というものは解明されないと思うのですよ。だからぜひそういう方向で、今回のこの金嬉老の問題にしても監獄の問題にしても、御検討いただくということで私の質問を終わりまして、
佐藤さんのほうで関連してやりますので……。
-
○
佐藤(観)
委員 関連質問。いま横路議員からお話があったように、現行の監獄法というのは非常にきびしいやり方で行なわれている。それに対しまして逆に今度の事件というのは、前の監獄法の例をとれば、それを陰とするならば、今度の場合は、非常に悪いことばを使えば陽だ。それくらい同じ法務省の管轄のところでこれだけのことが行なわれているということは、やはり非常に問題があるのじゃないかと思います。今度の問題、報道関係なんかで少し考えていただかなければならない点は、これは単なる刑務所内の規律の乱れだ、あるいは管理がずさんであったのだという問題だけに何かしぼられて、それで、あとで御質問申し上げますけれども、その辺の管理の人々を処罰すればいいのだという形になっていることは、非常に問題じゃないかと思います。すなわち、ここへ入れられている者に対しまして、きょうも新たに出ましたけれども、ステレオから香水、あるいはガラス製金魚ばち、掛け軸、こんなものまで入っているというようなこと、それと三十三センチ、刃渡り二十センチという刃物が入れられ、あるいは、あとから究明していただきますけれども、爆薬が入れられているという、これはまだはっきりしていませんけれども、こういうことは同じ差し入れにしてもずいぶん次元が違う問題ではないか、私こういうふうに考えるわけでございます。その点で、まず今日の段階まで、大体私もいろんな資料を読んでおりますけれども、特に新たなる事実というものが出てきたのかどうか。出てくれば、本
委員会初公開なるものが何かあるのかどうなのか、まずその点、簡単に御報告いただきたいと思うのです。
-
○勝尾政府
委員 結論を申し上げますと、ほうちょう、やすり、白い粉を除きまして、出てきました品物につきましては、だれがいつごろ入れたものであるかということが判明をいたしております。ほうちょうにつきましては、入手経路は詳細ではございませんが、相当早い時期に金嬉老のいわゆる朝鮮料理と申しますか、ニンニクをつぶしたりあるいは豚足をつぶすと申しますか、まないたでつぶすということで、やはり職員が持ち込んだものであると認められる公算が非常に強うございます。薬については、なお現在鑑定中でございますが、詳細なことは判明いたしておりません。
-
○
佐藤(観)
委員 これらのほうちょう、薬、その他の個々の問題につきましては、私ももう少しあとで聞かしていただきたいと思うのですが、この事件全般を通じまして、矯正行政と申しますか、あるいはひいては法秩序そのものに対してかなり国民の信頼を裏切ったことになるのではないか、こう思うのですけれども、この辺の見解、法務大臣としてはいかがでございましょうか。
-
○
小林国務大臣 その点はいろいろの機会に私は申したのでありますが、私ども良識的に考えて、あり得べからざることが起きた、まことにあ然たる事実である、こういうふうに考えて、まことに恐縮をいたしておるのであります。いろいろ調べました結果を聞いておりますと、やはりどうも非常にふしぎな事件だと思いますが、いまのところやはり刑務所の管理のずさん、あるいはいまの監督の無責任さ、こういうふうなことに帰する以外にはないというふうな結論をいたしております。すなわち、刑事事件等に立件することはきわめて困難なことである。それから先ほど横路
委員から、初め小さな違反がだんだんに高じてここまできた、刑務所の職員が弁護団の解任をどうとか、こういうふうなことがあったということでありますが、刑務所がそういうものに興味を持つはずがありません。刑務所というものは本人をただ監置して収容しているだけでありまして、刑務所の役人などがそんなことを考えるなんということは、私には想像もできないのでございます。あるいはもっと上級階層、こういうところからであればまたそんなことを考えることがあるかもしれませんが、先ほどのようなことは私には想像つきません。やはりルーズな、金嬉老に押されてだんだん深入りをしていったのであろう、こういうふうに私はいま断定をいたしておりますが、いずれにいたしましても、刑務行政というものに対して国民の信頼がここできわめて失われたということは事実でありまして、このことを回復するために、私どもは反省もし努力もしなければならぬ、いまはかように考えております。
-
○
佐藤(観)
委員 いま述べられた個々の問題についてはまた後ほどもう少し詳しくお聞きしたいと思うのですけれども、大臣が二日静岡の御自宅で次のようなことを語ったというのです。「金の゛特別待遇゛は刑務所ではあり得ない話だ。世間を騒がせて申しわけない。報告によると金にだまされ七万円も貸し与えている看守もあり、刑務所の方が被害者という面もあるが、ズサンな管理を許した幹部や看守の責任は免れない。今週中に関係者を厳重行政処分するよう指示した。」これは事実でございますか。
-
-
○
佐藤(観)
委員 それでお聞きしたいのでありますけれども、どうもこのように刑務所の末端の看守と申しますか、いまほぼ名前があがっておるのは部長まであがっておりますけれども、そういうように刑務所だけの責任ではないんじゃないか。ということは、私一番最初に申し上げましたけれども、差し入れられたもののテープレコーダーとかカメラとか、あるいはライター、たばこ——ライターなんかでもいろいろ問題がありますけれども、こういうものは楽しい監獄生活というものを満喫するには必要かもしれません。しかし長さが三十三センチ、刃渡り二十センチ、これはかなり大きなほうちょうでございます。あるいは長さ十センチのやすり、さらにあとで究明いたしますけれども、爆薬も入れられたというようなこととなると、これは楽しい監獄生活をするためのものとばかりは言えないんじゃないか。この話をごちゃごちゃにしますと、今度の事件は単なる刑務所の綱紀の乱れであるとか、あるいは管理がずさんであるということに帰してしまって、末端の看守あるいは管
理部長なりそういう人の責任だけで終わってしまうのじゃないか。汚職事件が起こりますと、末端の人が詰め腹を切らされるような形での責任のとり方というものは、絶えず行なわれる。私はこういう問題とは今度はちょっと違うんじゃないかと、確証はないけれども、疑問を持っておるわけです。こういう立場からいろいろなことをお聞かせ願いたいわけですけれども、御存じのように、金嬉老は法廷でも、私は最後にはりっぱに自分の責任をとってみせるということを言っておりますし、看守にも絶えず自殺をするんだとほのめかしているわけですね。そういう被告に対しまして刃物を差し入れる、こういうことになると、あとからもう一度刃物については詳しくお聞き申し上げますけれども、これはいま申されたようにかなり早い時期に入っておるわけです。ということになると、これはただ料理用に刃物を入れたのではなくて、願わくは、金自身が言っているように、自殺をしてくれたらなあという、何か暗黙の願望があったんじゃないか。それは後ほど矯正局のほうからのお話を私はもう少し詳しくお聞きしたい点があるわけですけれども、こういうようなこともちょっと考えられてくるのですが、法務大臣としてはもちろんこんなことがあるとは断じて言えるわけでもないし、もちろんないというふうにおっしゃるだろうと思いますが、その辺のところを、単にライターだとかあるいは香水だとかそういうものと、今度の刃物、あるいはやすり、あるいはあるかないかわかりませんけれども爆薬、こういうものとごっちゃにして判断するのはちょっと違うんじゃないか。かつこれを一緒くたにして刑務所の看守その他もう少し上部だけを行政処分するということでは、少し本質がはずれてはいないかというふうな疑問を持つのですが、その辺の所見はいかがでございましょうか。
-
○
小林国務大臣 私もいろいろ聞いてみたのでありますが、どうもやはり彼の食生活の特殊性からいうて豚の足というものを非常に愛好した。これはもうどうしたって相当な刃物がなければ処理できないということでございますので、どうも私の見るところではやはりそのための必要なものであった、こういうふうに思わざるを得ないのであります。それで自殺とかいろいろなことを言っておりますが、刑務所としてはそんないろいろなことを考える余地はありません。刑務所は被疑者なり受刑者を預かっているということだけでございまして、それの安全をできるだけ確保していくということに考えがあるのでございます。したがいまして、私はむしろそれならどうしたらよろしゅうございましょうかと聞きたいくらい、私も考えておるのでありまして、いまの担当の者、あるいは刑務所の所長、あるいはこの問題は多少まだ知っている人があるのじゃないか、こういうずさんなことをやっている矯正管区長、あるいは場合によれば矯正局の中にでもある程度こういうことを知っておった人があるのじゃないかということを考えざるを得ない。したがって、さような監督責任等についても私は問わざるを得ないというふうに思っておりまするが、それ以外にどこへ持っていくかということについては、私もいろいろ考えましたが、どうもやはり、いまさようなことに結論を持っておるのでございます。
-
○
佐藤(観)
委員 これは大臣からそういう答弁がなければ、法治国としてはまことにやっていかれないわけですけれども、次の点ちょっと矯正局長にお伺いしたいわけです。
法務省の矯正局としてはいつごろからこの事件と申しますかうわさと申しますか、お聞きになっているのか。四月二十三日の参議院の法務
委員会で亀田得治議員の質問に対しまして、昨年の暮れごろからどうも金嬉老に対しまして甘やかし過ぎるということで、適正な処置を指導していたという発言がございましたけれども、どのような処置をやっていたのか、その点についてちょっとお伺いしたいと思います。
-
○勝尾政府
委員 金嬉老につきましては、昭和四十三年の三月七日に静岡刑務所に入所したときに、入所の報告を受けております。その入所前に刑務所長以下幹部が集まりまして、金嬉老は過去四回刑務所に服役いたしておりますので、その服役時の行状、性格等資料を取り寄せ、また当時扱った職員の話も聞きまして、そこで金嬉老に対する詳細な処遇の計画というものを立てておりまして、その処遇の計画はこうであるという報告書も当時私のほうに送られておりまして、私承知いたしております。その後金嬉老についてのうわさということ自体が私の耳に入ったことはございませんが、昭和四十三年の七月ごろであったかと思いますが、当時静岡刑務所に勤務しておりました看守が酒気を帯びて登庁するとか、あるいは市内で酔っぱらって警察に保護されるとか、幾多のそういう事実がありまして、それに基づきまして分限懲戒を刑務所長の権限において行なったということを聞いております。その分限懲戒について、当該職員が人事院に対して不服の申し立てをいたしております。それに対してさらに現地の施設が弁明書を提出いたしております。この二つはそのころ私自身目を通して承知いたしております。その際に、当該刑務所長が夏でございましたか上京した際に、管区に用があって来たと思いますが、私のところに帰りにちょっと立ち寄っていったときに、その上申書の中に、金嬉老に対して不当な扱いをしながら自分の酒を飲んでいることばかり取り上げるというのはけしからぬではないかという趣旨のことが盛られておりましたので、その点について刑務所長に、こういう問題については一体どうなのかということを私の部屋で説明を求めたことがございます。それに対して刑務所長といたしましては、この件についてはこういうことである、そういう事実はない、すなわち特別食といいますか、健康保持上ということで許可してあるものは朝鮮料理のこれとこれであるということで、それ以外についてはそういう事実はないということを私に説明をいたしております。それがその後に私の承知いたしているところでございます。そうして今回四月二十二日の夜、現地の所長から電話がありまして今回の事態を承知したというのが、私の承知しておるところでございます。
-
○
佐藤(観)
委員 そうしますと、金嬉老がつまり四十三年の三月に静岡刑務所に人っているわけですけれども、そのときから大体予想というか、そういう生活ぶりというのはわかっていたということになると思うのですけれども、いま申しましたように四月二十三日の参議院の法務
委員会で述べられているような、金嬉老がずいぶん甘やかされているということで適正な処遇をするように指導してきたということは、これはどうなんですか。
-
○勝尾政府
委員 その点につきましては、刑務所長のほうからそういう報告があった際に、同時に、金嬉老は過去に小菅等で服役をしているときにいろいろ問題を起こしておりますので、保健上等の必要でやむを得ないものは別として、第一線の職員が巻き込まれないように十分留意していただきたいということをその節も申し上げておりますし、その後所長の会同とかあるいは幹部が上京した際にもその点を十分留意するようにという意味の指導はいたしてきたのでございます。
-
○
佐藤(観)
委員 ちょっとお伺いしますが、その指導といっている中には、持ちものの取り調べは行なわれてないわけですか。
-
○勝尾政府
委員 持ちものの取り調べというのはこれは刑務官の基本的な義務でございまして、一日一回は必ず部屋の所持品について捜検をする。それからさらに、一週間に一回ないし十日に一回、担当以外の第三者の職員の手によって捜検をするということもこれは基本原則でございまして、その点は当然私は行なわれているというように確信をしていたものでございます。
-
○
佐藤(観)
委員 どうもその辺がよくわからないのですけれども、つまり昨年の十二月にそういう通達が出て、まあ通達が出ればやはり刑務所のほうとしてはなお一そう厳重にと申しますか、きびしくするんだろうと思うのです。ところが、大体いまわかっているところでは、そのほうちょうというのはことしの一月に入れられた。つまりそれは通達が出た直後だということですね。そうすると、これは一体ほんとうに調べたのか、通達は出たけれども、刑務所側では一体何をやっていたのかということを私はちょっと疑問に思うのですが、その辺、いまのところどういうふうにつじつまを合わせるというか、話を合わせたらいいのか、お教えをいただきたいと思います。
-
○
小林国務大臣 私の見るところでは、そういうことを実行しなかった。たとえば部屋を見回っても、ある程度承知でそのまま見のがしておった。おそらく刑務所の幹部というか相当な人が了解しておったから見回る人も承知の上でそういうものを見のがしておった、また身体検査等もしておらない。要するに規則を無視して、そういうやるべきこともやってなかった、こう言わざるを得ません。
-
○
佐藤(観)
委員 どうもその辺、先ほど横路議員からもお話があったように、規律というものがそう乱れることができるかどうかということも私ちょっと疑問に思うのです。
もう一つ、いまの点でお伺いしたいのですけれども、金嬉老は、中央からも人が来た、それで金嬉老についてかなり指導ということをされている、まあ金嬉老の言うことをそのまま使えば、次官クラスの人が来たというようなことも言っているそうなんでございますけれども、この指導と申しますか、適正な処置をとるようにということに対して、つまり去年の十二月、暮れでございますね、そのときに、そういうような中央から人が行っているものでございますか、そういう事実はございませんですか。
-
○勝尾政府
委員 私の承知しておりますのは、四十三年の六月でございますが、金嬉老が入所後二、三カ月たったころだと思います。矯正局の課長を首班としました巡閲団が静岡刑務所におもむいております。その後私のほうから静岡刑務所に出かけている者はおらないと私は承知しております。
-
○
佐藤(観)
委員 先ほど矯正局長さんのほうからお話があったのでございますけれども、つまり四十三年の九月にこの金嬉老の処遇があまりにも優遇されている、他の看守と違うということで上申書を出しております。矯正局長、お読みになっていると思いますけれども、内容は大体「公用車で金の注文した朝鮮料理の買い出しに出かけた。金の独房にはかぎをかけていなかった。保安課長が金の独房にたびたび出入りし、たばこを吸わせ、面会は特別室で制限なく行なわれ、わいせつ写真を提供、運動も定められた運動場以外で行なわせていた。幹部職員の規律の乱れもひどく、受刑者に職員官舎のくみ取りをさせた。公用車を私用に使っていた。出張料が給料より多くなるなど甘い出張もたびたび」こういうようなことが大学ノート三冊に書かれて上申されたわけです。これに対しまして、先ほど矯正局長さんも言われましたように、酒の上のトラブルということで、分限免職になっている。そしてこれが人事院に免職を取り消してくれということの提訴がなされております。これに対しまして、この内容が出されたときに、この内容は局長さんまで行っていたものなのかどうか、その点まずお伺いしたいと思うのです。
-
○勝尾政府
委員 当該上申書は私目を通しております。
-
○
佐藤(観)
委員 そしてその直後に行なわれた処置というのはどのようなことが行なわれたのでしょうか。
-
○勝尾政府
委員 その際に、私といたしましては、いわゆる職員会の金をどうこうということにつきましては直接確かめ、と同時にほかの点についてもこういう事実についてはどうなのであるかということを、私はこれは電話等での確認に終わったのでございますが、一応その程度でその際は終わったのでございます。
-
○
佐藤(観)
委員 この問題というのは、特に名前を出す必要がないので出しませんけれども、いま申しました四十三年の九月にこのような上申書が出て、そしてこの人は首になって人事院に提訴しているわけですけれども、これはもう一度確かめていただきたいわけですけれども、そのときにこの事件が世間に知られるのをおそれまして、法務省と刑務所側が審理を非公開にしたというようなことも伝え聞いているわけですけれども、これは事実でしょうか。
-
○勝尾政府
委員 その点につきましては、本人から非公開にしてほしいという申し立てがありまして非公開になったということが記録上明らかでございます。
-
○
佐藤(観)
委員 それからこれもやはり法務省の矯正局になると思うのですが、私はもう一つ重大な怠慢があると思うのです。それは、今度の件が結局最終的に発端となって外部に出たのは、三月の二十五日に金嬉老が法廷で述べたからですけれども「日本の官憲は刑務所にいる私に重大なことをやっている。三つのうち一つだけいうが、それは官憲が私に爆薬をいれてよこしたことだ。これは私に死ねということだ。証拠もある。検事はこのことを調べなければならないことになる。裁判長も裁判を公平にする気がないようにみえる。公平な裁判をしないのなら、この際、すべてを明らかにするつもりだ」こういうふうに発言しているわけです。これは法廷で述べられているわけですけれども、法廷で述べられているということは、刑務所側からもあのとき四人出廷しているといわれておりますし、検察官の方はもちろんいらっしゃるわけです。このことに対して、こういうふうに法廷で三月二十五日に述べられてから刑務所側としては一体どのようなことを金嬉老に対してやったか、どのような報告を受けていらっしゃるかをお聞きしたいと思います。
-
○勝尾政府
委員 その発言は今回の調べで判明したのでございますが、管
理部長が法廷に行っていたようでございますが、当時今回の事件が判明するまで私のほうには報告が来ておりません。
-
○
佐藤(観)
委員 私はその辺どうもふに落ちないところがある。いままで述べられましたように、とにかく刑務所に入るときから大体そういう生活になるということはわかっていた。そしてまた、首になりましたけれども、そういう上申書の内容も出ている。そして金がことしの三月二十五日にはこういういわゆる爆弾発言をしている。しかるに清水英夫静岡刑務所長は、調べたが見つからなかったという。ところが、いままで判明したように豪華な生活をしているし、ほうちょうは一月から入っていたというわけですね。ここに三十センチのものさしがありますけれども、三十三センチもの長さがあるのです。刃渡り二十センチもある。三月二十五日に発言した後に何も出てこなかった。金嬉老が言うには、警備隊長だけがその事情を聞いただけで、そのほか何もやってないということになっているわけなんです。これは一体どういうことなのか。四月二十二日に調べたときには、ちゃんとその三十三センチのほうちょうというのが出てきているわけです。一体これは、三月二十五日にそれだけの爆弾発言を行なわれていながら、なおかつ刑務所側としては何をしていたのかと私は率直に疑問を持つのですが、この辺はどういうふうに理解したらよろしいものでしょうか。
-
○勝尾政府
委員 ほうちょうの件につきましては、はたして今回発見されたものと同一であるかどうかはわかりませんが、四十三年の六月ごろに夜勤中の看守に金がほうちょうを見せまして、おれはこういうものを持っている、これでいつでも自殺ができるんだ、このことを上司に報告するとおまえの勤務中に自殺をしたり事故を起こしてやるということを言われて、その看守は上司に報告しないままに終わったということが、今回の調べの中で一つ出ております。さらに今回の事件が起きた直後に、やはり同じ職員が、今度のほうちょうのことはおまえは知らぬことにしておけ、こういったことをやはり金から言われているということが関係者の供述から出ております。ほうちょうに関しては以上の点であります。
-
○
佐藤(観)
委員 そのほうちょうについてそれではもう少しお聞きしたいのですけれども、いま言われましたように——私は一昨年の五月と聞いているのですが、六月ですか。その問題はここでたいした問題でないと思いますけれども、とにかく三月に静岡の刑務所に移って、すでに五月か六月にはそのほうちょうが入れられている。このほうちょうについては、すでに皆さまも法務省としてもある程度了解なさっているあるいはお聞きになっているということでございますけれども、これは私の聞いたところでは、もう少し短くて肉が厚いものだ、いま写真に写っているものとは違うものだというふうにいわれているわけです。幾ら金嬉老が戦後二十五年のうち十四年間監獄に入っていたといっても、三月に入って五月にほうちょうを入れさせるというのはちょっと早過ぎるのじゃないか、こういう疑問を持つのですが、これはいかがでございましょうか。
-
○勝尾政府
委員 その点につきましては、いわゆる朝鮮料理の特別差し入れというのが入所後間もなく許可をされておりまして、その料理に使われたものというように、私はいまの調査の段階では推理いたすものでございます。
-
○
佐藤(観)
委員 私は横路君のように弁護士ではございませんし、詳しいことはわかりませんけれども、こういう拘禁施設の中で一番おそれなければならないものは三つあるというわけですね。それは逃走と自殺と火事だというのですね。ところが御存じのように、三十三センチもあるようなほうちょうなら自殺は自由です。逃走しようと思えば長さ十センチのやすりが入っている。火事を起こそうと思えばマッチまで入っている。これを単なるニンニクを切るためのものであるというふうにだけ理解されているんでは、少し問題を考えるには甘いんじゃないかというふうに考えるのです。
それからもう一つは、三月に入って五月にはすでにそういう、私の聞いたところではもう少し短くて肉の厚いほうちょうが入っているという、これはどういうふうに理解したらいいのか。ちょっと私はニンニクを切るためのものであるというふうには理解しがたいのですが、その辺もう少し御説明いただけませんでしょうか。
-
○勝尾政府
委員 これは現在の私のほうの調査の結果として、しいて推定をするならばそういう推定だということでございまして、それ以上の真相につきましてはこれから究明をしなければならない、このように考えております。
-
○
佐藤(観)
委員 いまの段階とおっしゃいますけれども、それならば、かりに、金嬉老が非常にあばれる、あるいは法廷に出ないというようなことはたびたび聞かれていたわけです。そういうときに、金嬉老の意図はわかりませんけれども、おれは自殺するんだとわめいていることがたびたびあったということも伝わってきているわけです。そういうところにほうちょうを入れるということです。いまの推定では、このほうちょうは看守の手を経たものだということになる。そういうことになると、看守の心理として、できれば、向こうが要求するならばほうちょうも入れて、何らかのきっかけで自殺でもしてくれたらという暗黙の願望があったのじゃないか、こういうことも思うのですが、これはちょっと思い過ごしでしょうか。
-
○勝尾政府
委員 それも私のほうの調査の結果でしか申し上げられませんが、それは少し私としては考えられないことのように思います。
-
○
佐藤(観)
委員 ほうちょうの問題はさておいて、もう一つお伺いしたいのですけれども、金は三月二十五日の法廷で、昨年の十月ごろ、爆薬を差し入れしてくれと面会人に依頼をしたら、間もなくびんに詰まった白い粉末が届けられた。これを房内で火をつけてみたら——マッチがあるわけだから、火をつけてみたら爆発した。そしてそれを看守に見つけられて、あとは洗面所に流されてしまった。これにはちゃんと看守の名もつけて、証人もいるとまで言っているわけです。これに対しまして刑務所側は、そういう事実はなかったと否定していると私は聞いているのですが、実際に爆薬を入れられた、爆発する白い粉末を入れられたということはあったんでしょうか、なかったんでしょうか。
-
○勝尾政府
委員 その点について私のほうの調査の概要を申し上げます。
これは本年の二月十六日ごろでございますが、金嬉老から管
理部長に面接の申し入れをいたしております。それに対して管
理部長が管
理部長室で面接をいたしております。その際に金嬉老が、いま申し上げました小さなびんに白い粉のようなものを入れたのを持って舎房を出ようとしたのに、担当がそれを見つけて、それは何だということを舎房の前で一応詰問いたしておりますが、これについては、管
理部長さんのところへ行くんだからということで、そのまま管
理部長室へそれを持ってきております。それで、こういうものが私の部屋にあります、これは爆薬らしいということを言って、管
理部長のところに提供をいたしております。それに対して管
理部長が、また始まったというように本人は感じたようでございますが、受け取りまして、テーブルの上にそれをあけまして、手にとってなめてみましたところが、砂と申しますかあるいは金属の粉といいますか、そういったような感じのものであったということで、とうてい爆薬とは考えられなかったが、念のためにということで、マッチでその粉の上に火をつけましたところ、マッチをすった場合にしゅっという音が出ますが、ああいうしゅっしゅっという音で燃え立ったので、これは爆薬ではないというように管
理部長は判断をいたしまして、それを管
理部長室の洗面所に捨てたという事実を管
理部長が述べております。
-
○
佐藤(観)
委員 そうすると、いまのお話ですと、二月十六日までの段階ではあった。私の聞いたところでは三月の半ばまでそれがあったというようにお聞きしているのですが、それはそういうことではないわけですね。
-
○勝尾政府
委員 いまの爆薬云々というのは二月十六日でございます。それ以後についてはそういう事実はございません。
-
○
佐藤(観)
委員 それからもう一つ、いわゆる白い粉末、三・六グラムといわれております白い粉末についてお伺いしたいのですが、これはだれに鑑定してもらっているわけですか。
-
○勝尾政府
委員 その点は、裁判所が押収をしまして鑑定先に出しておりますので、私は直接詳細は承知いたしておりません。
-
○
佐藤(観)
委員 それではお伺いしますけれども、これはいま東京大学の薬学部の付属のところで鑑定されているということでございます。ところが私が疑問に思いますのは、四月二十二日、つまり金嬉老がほうちょうなり何なりを全部発見された日ですね、この夕方五時ごろから弁護団側がいろいろ記者会見をしまして、静岡の地裁に押収の手続をとっているわけです。そして静岡地裁は夜の十二時に押収している。ところがこういう弁護団側が地裁に押収申請を出したということで、これは局長さんかどうかわかりませんけれども、その時間の中で、つまり押収という手続をとり押収されるまでの間だと思うのですが、そのときにその鑑定は静岡薬大にお願いするということを法務省が検察庁を通して依頼しているということを聞いているのですが、そういう事実はございますか。
-
○勝尾政府
委員 押収された後に、私のほうとしてはその性質等を一日も早く知りたいわけでございます。そういう意味で検察庁に対して早く鑑定をしてもらうようにお願いいたしたいということは依頼をしてございますが、その結果、近くに静岡薬科大学があるということで、そこへ鑑定を依頼したらどうかという話が検察庁のほうでもあったということは、私その後に電話で承知いたしております。
-
○
佐藤(観)
委員 再度お伺いいたしますが、そういう依頼をしたというのは押収された後ですか。私の聞いているところでは、押収の申請を弁護団が五時に出した、そして十二時に地裁が押収したわけですけれども、その間に法務省が検察庁を通して静岡薬科大学に頼んでくれということを言ったというふうに聞いているのですが、そうではないわけですか。
-
-
○
佐藤(観)
委員 私がこのことを非常にしつこく聞くのは、とにかく五時に申請を出してから十二時までに時間があるわけですね。そしてこれは検察庁の有田検事がその間持っていたというわけです。そして御存じのようにまだ鑑定の結果は出ていないわけです。出ていないのだけれども、有田検事は、白い粉末は医学用の、眠れないというので刑務所内で金嬉老に渡した睡眠薬ではないか。まだ鑑定された結果もわかっていないものにそういう予見的なものを与えているというのは、私は非常に不審に思うのですけれども、この点は矯正局長さんにお聞きしてもせんないことなんで、この点はやめにしておきますけれども、やはり私は静岡薬科大学に頼むというのは近いというくらいの意味だったと思うのです。それでもやはりちょっとこれは軽率なことじゃなかったか。つまり裁判所に押収されたものは、それはやはり裁判所がみずからどこに鑑定を依頼するかはきめるべきものであって、これはやはり法務省が口を出すべきものではなかったのではないかというふうに考えるわけです。御答弁必要ないかと思いますけれども、何かその点にもし御意見ございましたらお聞かせ願ってこの問題は終わりにしたいと思いますけれども、御答弁よろしゅうございますか。
-
○勝尾政府
委員 すみやかに鑑定をしてもらいたいということで、近くにもし裁判所のほうで御存じでないならば静岡薬科大学というのがありますということを伝えておる、このように私理解しております。
-
○
佐藤(観)
委員 今度また話が変わりまして、やすりなんですが、これは一体何に使うのかわからない。刑務所内にやすりがあるということになれば、大体これは逃亡用だと考えるのが常識なんですけれども、いまのこぎりの目立て用だとかあるいは修理用だということがいわれているわけです。また、修理用といわれますけれども、御存じのように金嬉老は外から幾らでも買えた。そんなもの修理する必要はないんじゃないかというような気がするわけですけれども、このやすりは何のために使うために入手したものとお考えでございましょうか。
-
○勝尾政府
委員 やすりは御指摘のように長さ十一センチ、のこぎりの目立て用のものでございます。そのやすりについては先ほどのほうちょうと異なりまして、これを見たという職員が現在の調査のところそういう者はいないのでございます。したがいまして、これが何に使われるかということについては推測を出ないのでございますが、鉄格子を切るには適当なものではないということと、それから金がステレオだとかテープレコーダー等をいじっておりますので、あるいはそういうことに利用したのではないかという、これは全くの推測でございます。
-
○
佐藤(観)
委員 これは矯正局長さんにお聞きしてわかるかどうかちょっとわからないのですけれども、昨年の十二月十四日の朝九時ごろに、やはり殺人罪の被告ですが、青島信吉という二十六歳の人がやすりで鉄格子を切ろうとして見つかっております。それで、これはつかまえて二階の調べ室へ行ったら、窓から飛びおりて、やっとそのあとをつかまえたということが起こっているわけです。そしてこの人が本年四月十二日にも挙動不審でとがめられてやすりが出てきたという。これはどこからやすりが出てきたかと申しますと、刑務所内の作業所のものであるということがわかった。今度の金嬉老の持っていたやすりというのは、こういう刑務所内のいまあげましたような持っていたやすりと同じものなのか、それとももっと外部からのものなのか、その辺は判明しておりますでしょうか。
-
○勝尾政府
委員 その点調査をいたしましたが、現在刑務所の営繕工場とか、その他受刑区で使っているやすりとは形状その他が全く異なるものでございまして、同じものは刑務所内では使われておりません。
-
○
佐藤(観)
委員 いまの青島信吉被告の例でもわかるように、作業所から何といっても鉄格子を切れるようなやすりが持ち出される管理体制になっているということ、これはちょっとやはりおかしいんじゃないかというように思っておりますが、そのあたりのところは、作業を終わってから房に帰るときに調べていないのか。調べていたら房の中にやすりが入れられるなんということはちょっと考えられないんじゃないか。この辺はどういうあれになっているのか、お聞かせ願いたいと思うのです。
-
○勝尾政府
委員 御指摘の青島は被告人だったと思います。したがって受刑区の工場等には出入りはできないことになっております。したがいまして、青島の場合のやすりにつきましては、いわゆる被告の世話をいたしております受刑者がおりますが、その受刑者の手を介して入手したのではないかというように私のほうは見ております。
-
○
佐藤(観)
委員 また話を変えますが、カメラの問題ですけれども、一体これはどこの金で買ったのかということですね。何か一説によりますと、金が預金している刑務所の会計課、こういうところから支払ったというように聞いております。また大臣の静岡の発言では七万円も職員から借りているというようなことも行なわれている。こういう金嬉老の身辺の金銭の授受関係と申しますか、こういうものは一体どうなっているのか、わかっている範囲で教えていただきたいと思います。
-
○勝尾政府
委員 金嬉老がカメラその他いろいろなものを買っておりますが、その資金源としては正規に差し入れ等、あるいは外部から郵送等されてきた金、これは領置金の係のもとにおいて帳簿に一切記載されております。その領置金の宅下げと私ども申しておりますが、こういう用途に使いたいということで、その領置金の中から宅下げをした金で買っている場合と、そういう正規の手続を通さないで不正に持っていた金で買われている、それからさらに職員から不当に要求して金が手に入れた金、この三者がいろいろなものを買う資金源になっておるのでございます。
-
○
佐藤(観)
委員 そうすると看守が帳簿をつけるということを私ども聞いているのですが、そういうものは押収と申しますか、押収ということばを使っていいかどうかわかりませんが、しておるわけですか。
-
○勝尾政府
委員 担当の看守が自分の帳簿に出し入れを一切記載してございますが、それは私のほうの調査官の手元に押収と申しますか、保管、入手してございます。
-
○
佐藤(観)
委員 この問題もまだかなりわかっていないところがあるので、もう少し判明し次第追及したいと思うのですけれども、先ほど横路
委員が言われましたように、現物もございますけれども、おそらくおたくのほうにもそのコピーはあると思うのですけれども、公判の指導が行なわれているということですね。これは先ほど矯正局長さんのお話があったように、金嬉老から頼まれたからというようなことでございますけれども、その指導というか添削をした人の名前もちゃんとわかっているわけです。御存じのように法務省の用紙も使っているし、わきには「79静岡製」というネームと申しますかも入っている原稿用紙に書かれているわけです。そこには公判に述べられた証言が要約してあって、そこに赤のマジックで親切にも矛盾点なりあるいは感想が述べられている。こういうことはどうなんですか。私、まだ幸いにして刑務所に入ったことがないのでわからないのですけれども、ほかのところでもこういうことは行なわれることがあるわけですか。あるいは金嬉老が求めたからやられたということ、だけなんでしょうか。
-
○勝尾政府
委員 犯罪事実あるいは公判には一切タッチしてはならないというのが刑務官でございまして、それ以外のところではそういう話をいままで私は聞いたこともございませんし、そういうことはないと思いますので、今回の場合において私初めて聞いたわけでございます。
-
○大出
委員 関連。局長、さっきから私は聞いているのだけれども、ばかばかしくて、大臣もおいでになるけれども、こんなばかげた話が内閣
委員会の席上で出てきて黙って聞いていられた筋じゃないですよ。あれからいままで期間があって、何だ、あなた方の答弁というのは。調査も何にもなっちゃいないじゃないですか。刑務所なんてないと一緒だ。入り口もなければかきねも何もないでしょう、いまやっていることは。金嬉老が何か管
理部長なんかのところに出かけていって粉を出した。なめてみた。火をつけたらしゅっといって、それを捨てた。片一方は金嬉老といったあれだけのことをやった人間ですよ。目の前に立ってしゃべっている。片一方は管
理部長だ。そんなばかなことがあっていいはずがないでしょう。冗談じゃないですよ。どういう責任を負うのです、あなた。議事録に残るんだ、この答弁は。ことに法務省じゃないか、あなたは。聞き捨てならぬですよ。さっきからの答弁で思ったことは、まるで責任のないことだ、第三者みたいなことだ。あなた方第三者じゃないんだ。最高責任者は大臣だ。もう一人は矯正局長じゃないか。何ということを言うんだ、あなた方は。どうしてこうなる。どこかに何かしら隠れていることがなければこんな答弁になるはずはないじゃないか。金があっちからもこっちからも入ってくる。正規なルート、不正なルート、職員が七万も貸した。大臣のさっきの静岡における話じゃないけれども、七万もの金を貸せますか。看守の方々がそんな給料もらっていますか。昔の江戸時代の牢じゃないけれども、ツルをもらったら別だ。そんな金を貸せるはずないじゃないですか。あなた方、内輪で調査してわからぬなんて、ばかなことありますか。答弁なっていないですよ。何かここで言えないことがあるなら言えないで、ここで明確に言いなさい。わからぬじゃないですか、一つも。大臣も矯正局長もはっきりしなさい。聞いていられないよ、そんなことは。
-
○勝尾政府
委員 私のほうの調査の結果をありのままに申し上げているのでございまして、これ以上、私には隠しだてをしていることは——私の承知しているところで隠しだてしているところはございません。責任の問題は御指摘のとおりでございまして、その点について私がどうこうということは全く考えておりません。ただ私のほうの調査の結果、もちろん不十分な点、力の足りなかった点は私の責任でございまして、この点は心からおわびを申し上げ、また責任を感じますが、ここで隠しだてをしているというようなことは全くございません。
-
○大出
委員 さっきの二人の
委員から質問をしているほうちょうの件から始まってやすりを含む各種の物品の問題。なぜ一体そういうことをやったかという背景が明らかにならなければ、問題の解決にならない。金がやたらに、三つのルートで入っている。なぜそういうことをやったか。起こっている現象形態じゃない。なぜそういうことが平気で大手を振ってまかり通ったかというその背景が何かなければ、そんな粉のあったものを捨ててしまうというばかなことがありますか。証拠品じゃないですか、明確な。浅沼
委員長が殺されたときだって、犯人は自殺して死んでいる。かくて背後関係もわからねということになっている。あなた方のシステムの中で平気でそういうことができる。しかも公判維持にかかわることまであなた方の職員がやっている。ちゃんと赤線が引っぱってありますよ、一つずつ。おたくの用紙ですよ、明確に。そんなことがぬけぬけと行なわれる。だれが考えたって常識で考えられぬじゃないですか。しかし考えられないことが現実に起こっている。だれが考えたってその背景に政治的意図があるなり、どういうふうにこの最終結論を求めるなり、あなた方見通しを持たなければそんなことできるはずないじゃないですか、だれが考えたって。そこを言ったらどうだと言っているんだ、私は。きのうやきょうじゃないんだ。期間はうんとかかっているんだ。あなた方は一体の原則がある。あなた方の立場でさっぱり調査にならぬ結論を、あなたは調査と称してものを言っている。それで済むものじゃないですよ。何と言われたって納得ができないから、納得できるように説明してくれと言っているんです。してください。
-
○
小林国務大臣 いまおとがめがありますが、これはごもっともで、ばかばかしいというのは、ばかばかしいからそういうふうに思う。私も背景がわかればばかばかしいとは思いません。しかしどう考えても、いまのところわれわれには背景が浮かばない。だからして先ほども何かあるならむしろ教えてほしいとまで言っているが、私がいままで聞いた範囲ではまことにふしぎな事件、ばかばかしい事件であります。しかしそのばかばかしい事件の背景がわからない。それからしていま調査不十分だといいますが、これはあなた方も御承知のように、たとえば犯罪者でも黙否権が認められておる。われわれの行政調査はそこまで及ばない。われわれは十分手を尽くしたが、言わないものはわからない。したがって、もうこれ以上行政的な調査ではできない。ただ犯罪として立件するにはきわめてむずかしい問題であります。むずかしい問題であるが、しかし何とかならぬものかということで、いままでの調査の結果も検察庁に送って調べてもらっておる。これはお話しのとおりばかばかしいことであります。しかし、何としても私はいまおっしゃるような政治的な意図は認められません、いまの私の見たところでは。だからして、私もあり得べからざるばかばかしいことである、こういうことを言うておるのでございます。
-
○大出
委員 関連ですからこれで終わりますが、やはりここまでくると、何としても国民の皆さんに説得力のある解決をしませんと、国民が今日の機構を信用しなくなったんじゃ、これはえらいことになりますよ。だからやはりそこのところはどんなに皆さんが苦心をされても、国民に説得力のある、納得のいく、かくかくしかじか、こうこうこうなんだという解明をしていただかぬと、それだけの責任が皆さん方がどんなに御苦労されてもある。担当の責任ある
小林さんのことですから——私も郵政出身ですから、大臣が郵政大臣をおやりになってやられたこと、逓信
委員としても後輩ですから存じております。だから御経験の上で、ずいぶん苦労されているんだろうと思う。それにもかかわらず、いまの答弁を聞いていればこのくらいなことは言わざるを得ない、国会ですから。そういう意味で、どんなに苦労されてもやはり責任の所在を明らかにして、国民に対して納得のいく決着をつける努力をしていただかぬと、世の中をあれだけの騒ぎにした事件なんですから、その金嬉老という人物がそんなことになっておったんだというようなことで事済むもんじゃないです。いままで出てきている新聞を私もよく読んでおりますけれども、どうも何となく皆さんの言っていることが第三者が言っているように聞こえてならぬ。だから勘ぐりたくなるわけですよ、さっきから二人とも言っているけれども、それじゃ済まない。そういう意味で申し上げているんで、他意あるわけじゃありません。大臣の性格も知っていますから。いきなりあなたおおこりになるんで、逓信
委員会の当時私が一生懸命とめに入ったこともあるんで知っていますけれども、それにしてもこれだけは何とか納得のいく理由、説得力のある解明、そういうものはやはりあなた方が努力をされて、ほんとうの努力をされて、究明していただかないとと私は思うからこういうことを言っておる。
-
○
小林国務大臣 これはお話しのとおりだと私も思います。私もこれの調査、究明した場合に、私に対する報告は何たる調査であるか、私もふしぎでならぬ。ただ刑務所も一つの閉鎖社会のことでございまして、やはり仲間意識か何かあって、私は知っている人があると思うが、どうしても言わない。いまの行政調査の範囲では言わない。しかし私がいま申すように、やはりいまは刑事責任者にも黙否権がある、こういうことでありまして、行政調査ではもうこれ以上出られません。私もよく聞きましたが、出られない。したがって、何とかこれは刑事事件として立件することはできないかということまでいま申しておるのであります。要するに、いまの捜査もこういうふうな段階になりましてこれは究明できません。したがって、いまそのことも検討してもらっておりますが、これはお話しのとおりこの程度の答弁で済むとは思いません。世間でもふしぎなことだ。しかし何とかその背景も調べたいと思いますが、これはよく私も調べたが、何か政治的の背景があるということはどうしても考えられない。またそれほどのことをやれる人がないというふうに私は思っているんです、いまの刑務所関係においては。金嬉老という人は、これは特別な性格の人、また非常に知能のすぐれた方でございます。そういうことでありまして、やはり私は他の席で、どうしてもやはり彼の人格か——これは人格かどうか知りません、人柄と申しますか、これに押されて、だんだんどうも深入りしていってしまったと思わざるを得ません。先ほどの公判の指導、このことは実はいま初めて聞いたのです。こんなことが一体あり得べきことか。当局も私に知らせなかった。ここらは私も非常にとんでもないことだ。たとえどういう事情があるにしろ、刑務所というものはただ被疑者、受刑者を預かって、その安全を期すればいいのだ。そのほかのことはやってはいけないのだ。公判などということに手を出してはいけない。被疑者に対してそういうことをやるべきではありません。とんでもないことをやっているなという感じを私は持ったのでありますが、いずれにいたしましても、私は役所というものは、大体事件の調べがつかないうちは行政処分もしない、こういうことであるが、こんないつわかるかわからぬものを、じんぜん待って責任の所在を明確にしないということもいけません。とにかく私はいまのところは刑務所の規律がなっていなかった、でたらめであった、こういうことを前提にして、一応の処置をいたしたい。このことは全国の収容施設にとっても非常に大きな参考になると思いますので、きょう私は決裁をいたしましたが、全国刑務所に通達をして総点検をしてもらいたい、こういうことをきょうもいたしたのでございます。続いてできる限りの手を尽くしてひとつ背景、その他については調べたいと思いますが、いまのところはあなたのおっしゃるようなふざけた答弁しかできない、こういうことはまことに私も残念に思っております。
-
○伊能
委員 わが党の政府のことですから、実は一切黙っていようと思ったのですが、きょうの答弁を聞いて、あまりばかばかしくて実は黙っている気にならなくて、お尋ねをするのですが、私は三十数日間小菅刑務所に入った経験がある。その際、いままでだれにも言わぬことですが、看守が近々出るという罪人、軽犯罪の罪人なんかは雑役に使っている。看守の一部が甘言をもって私にいろいろな便宜をはかろうとする。そのときに私はこう勘ぐった。私は汚職に問われたから自分の出所進退を明らかにしなければいかぬ、この手合いは私が何か悪いことをしておるから、検事が私に看守などを使って、甘言を弄して証拠の隠滅であるとか、何か便宜をはかってもらいたいように差し向ければするんじゃないか、こういうように私は感じた。私は悪いことをした覚えはないから、そういうものは一切要らぬ、また軽犯罪で近く十日とか一週間後に出るというような者が私のところにこそこそと来ては、何かお宅へ伝えたり、何か隠すものでもあれば言ってくださいというようなことを言います。私はそういうものはないと、全部断わりました。しかしいま考えてみると、二十数年前こういうようなことは、どうもいずれの刑務所でも行なわれているのではないかという危惧の念を持ったわけです。同じように拘置所に数十日間——私のときはいまのように二十二日間でない、長いこと置かれた。そんな甘言に乗せられて——検事とは関係ないということがあとでわかったが、そんなことを頼んだり何かした者は、そういう軽犯罪をやったりした者が、それからちょいちょい来ては脅迫がましく金を貸せと強制するという目にあった人もあるというような話を聞いております。こういう点から想像すると、
小林法務大臣のような潔癖な人ですら、何が何だかわけがわからぬ、いやしくも法務行政を預かっておる人でも。まして私どもには全く見当がつかない。看守が毎日毎日、中を調べます。だから何一つ隠せるはずがない。それがいま質問を聞いておれば、まるでわからぬ。もし犯罪の疑いがあれば、われわれは悪いことをしなくても刑務所へ引っぱられて、数十日間置かれて裁判にかけられる。部内の人間についてそういう犯罪の疑いがあったら、なぜ検事をして徹底的に調べさせないか、私はこれははっきり言いたい。犯罪の疑いがあれば、外部の者であれば、検事はとことんまで調べる。身柄を拘束する。ここまでやる。いわんや天下の法の厳正を守るべき法務省において、部内にこういうようなことがあれば、検事を動員してでも、徹底的に調べる責任があると思うのですが、法務大臣は検察庁に頼み込まなければどうにもしようがない。これは少し不見識だ。一朝犯罪の疑いがあれば直ちに警察権の発動がある。私どもはその被害を受けた。一人の人間の政治的、社会的生命に関するものだ。いわんや部内の規律の厳正を保つのに——当然犯罪の疑いがあるように、われわれには感ぜられる。行政処分だけでは済まない問題だと想像されます。こういうような問題を、きょうのような答弁では、単に野党の人だけでなく、われわれでもちょっと納得がしがたい。早急にこれは事実を解明していただくことが、法の秩序を厳正に守る法務省の責任のように思うのですが、どうでしょうか。
-
○
小林国務大臣 これはごもっともな御意見ですが、法務大臣はさような指揮はできない。そんなことをかってにやったら、これはたいへんであります。これは検察庁の立場においておやりになる。もし事実があれば、われわれは告発をする。これは法務省という行政官庁が検察庁に告発をする、こういうたてまえをとらざるを得ない。そういうわけでありまして、われわれもいろいろ調べてもらったが、いわゆるサンズイと称することばがある。逆なサンズイがあるかもしれませんけれども、刑務所の役人が、いまの被疑者から何らかの利益を得て便宜をはかったということは、どうしてもいまのところ認定がつきません。したがって犯罪として立件するかどうかということは、非常に困難性がある。このことは私も初めから言いました。何とかして捜査できないか、検察庁として捜査はできないかと言いましたが、矯正局長が調べた結果では立件、いわゆる犯罪の端緒がつかめない、こういうことでいままで来たのでありますが、しかしそれでは済まない。どうしてもいままでの調査の結果をひとつ検察庁に判断をしてもらいたい。こちらから判断をしてもらいたいということは、告発にも当たるような問題でありますが、要するに判断をしてもらいたい。あなたのおっしゃることはよくわかりますが、手続上なかなかこれはむずかしい問題であるのでございますが、いまはそういうことで、いままでの調査からいって犯罪になり得るかどうかということを、告発にひとしいほどの資料を検察庁に提供をして、そうしてひとつしかるべき発動をしてもらいたい、こういう段階であるのであります。これは役人もえらいむずかしいことを言うているなと思われるかもしれませんが、手続を乱すことはできません。そういう趣旨で、いまのような段階にある。われわれはやはりこの際、一応のあと始末はするが、続いて何らかの方法をもって、ひとつ真相を究明しなければならぬということで、いま申すように検察庁にも、そういうことを言うてありますから、この結果を待ちたい、こういうことでございます。
-
○大出
委員 私が横のほうから、なぜ発言したかというと、どうも先ほど来の答弁を聞いていると、接触のある諸君なりその上司なり何人かを行政処分にしておしまいにしてしまう、こういうふうに見えるからです。そうだとすると、これは容易ならぬことだと思って実は先ほどああいう言い方をした。いま伊能さんの質問に対しての大臣の答弁からいくと、まさにそうだとしか受け取れない。これは私は吹原産業事件のときに田中角榮さんはじめ皆さんに質問をした。そのときに法務省の刑事局長さんの答弁が、最初調査中、調査中と言った中で、捜査中ということばが出てきた。だから私は調査と捜査は違うはずだと詰めた。いまあなたが使ったことばは捜査中だとおっしゃった、しからばこれは告発がなければ捜査はできぬはずだと言ったら、三菱銀行から告発をされておりますと言っておる。その前の日に記者クラブで三菱銀行の副頭取が告発はしないと言って記者発表をしてそれを取り消したばかりだ。新聞記者たちはこのとき騒然とされた。捜査中であることをとうとう明らかにされて、翌朝吹原氏を逮捕した。いまのお話の中に捜査中ということばが出てくる。告発ということばが出てくる。それは法務大臣がほんとうに責任をお感じになったとすれば、事の真相をあなたがさっき言ったように、一つの行政組織、行政のワク内で考えたのでは、調べたのではわからぬとおっしゃるならば、あとは検察庁にやってもらわなければわからぬとおっしゃるならば、当然告発をすべきだと私は思う。幾らでも方法はある。新聞に出てきた範囲の中から考えたって、これは明確にやろうと思えばできる。差し入れたカメラを安く譲り受けたやつがいてみたり、幾らでも問題がある。おやりになろうとする気持ちがないからああいう事態になる。私はやはり国民の皆さんに納得を得ようというならば、信頼をつなぎとめて回復していこうとするならば、先ほどの御答弁にあるとおり、とり得る手続はすべてとるべきだと思います、皆さんがいまおっしゃっただけでも。その結果として、それでも内部ではいろいろなことがあるのかもしらぬ、わかりませんけれども。その結果であれば不納得な面があっても手続上それしかないのだからやむを得ないということになるけれども、それもおとりにならぬで行政処分だけで事を片づけるということであっては、私は、一体どういう責任をお感じになっているのかということを疑いたくなる。もう一ぺん答えてください。
-
○
小林国務大臣 行政処分なんかで済まそうなどと私は申したことはありません。それはたとえば行政処分にしてもなかなかいまのところやらないのです、ある程度事件が究明されない限りはそれはとれません。刑事処分とは別です。しかしこれはとりあえずやるということでありまして、続いて捜査をすれば、これはまた問題が起きれば追加と申すか刑事処分と申すか、こういうことはいたすわけでありまして、私は行政処分でこれをごまかそうなどと、そういうけちな考えを持っておりません。そのことははっきり申し上げておきます。
-
○
佐藤(観)
委員 少し話を本質に戻します。
大出議員が言われたように、私も再度話を戻してお伺いしたいわけですけれども、大臣は、こういう裁判の誘導、裁判指導、公判指導が行なわれたということを初めてお聞きになったと言われるのですけれども、これはあとで差しさわりがあるといけませんので、簡単なところだけ読みますと、「記憶は正しいはずだと答えた場合は、次の5の尋問へ続く、」といって、次にちゃんと5の尋問があるわけですね。ここで詳しいことは述べませんが、「処分を受けた、と聞いたり、新聞で知ったら、なぜだ?とその理由を知ろうとするのは常識だ。この証言は、言いのがれだ。」こんなことが書いてあるのですよ。「上記3、4と矛盾する」「追及から逃げるための弾問答である」「証人「ことばそのものは申しません」」というと、赤字で「一歩譲歩」と、こう書いてあるのです。その次のところには、「客観性なく、証人の主観であることが現われ始めた」「いそいで、言葉をにごして逃げようとした」これは長いのですよ。「それまで潜在していたものが、逃走時に顕在化したのであれば、「被告人は、かねてから……と考えていたが、本件殺人事件後、逃走する自動車の中において、いよいよかねての考えを決行すべき時が来たと決意し、その具体的方法として……」と冒陳に記載されるべきである。゛顕在化゛などという難しいことばで証言をアイマイなものにしようとしている。」またあとは略しますけれども、これだけのことが裁判所で行なわれているわけですよ、現に。これはお認めになりますか。それとも私がこれをつくってきたものとお考えになりますか。その点大臣は、初めてごらんになった、あるいはお聞きになったということなんで、大臣にはお聞きしませんけれども、矯正局長さんにこの点、実際にこういう公判指導が行なわれたのかどうか、まず確認をしていただきたいと思います。
-
○勝尾政府
委員 私もその現物は見ておりませんが、昨日までの管
理部長の調査で、そういう事実があったということを私は認めます。
-
○
佐藤(観)
委員 いま言ったように、これだけのことが行なわれて、そして金嬉老は、先ほど横路議員が言いましたように、あの弁護人はろくなことはないとかやめたほうがいい、これをかなり上層部の人から言われていると言っているわけですね。これは何もうそじゃないのじゃないかという気が私はするわけです。実は金嬉老に直接会って確かめたわけではないし、また上層部の人に確かめたわけではないからわからないけれども、これだけの公判指導が行なわれて、金嬉老自身が、弁護人はやめたほうがいい、おまえの有利にならないということを言われれば、独房の中で、彼が幾ら知能指数百四十幾つあって孤独には強いといっても、やはりそういう監視も多い中であれするとなると、彼だってさびしいだろうし、こういうようなことをいろいろされれば、やはりそういうよに思うような心理状態になってしまうのが人間じゃないかと思うのです。それでいま世間では、金嬉老が特別待遇されたといっておりますけれども、これは金嬉老がことばが非常にうまくて、ことばたくみに看守をあやつったのだといわれておりますけれども、この金嬉老ですらもう少しで吸い込まれそうになった、あああぶないところだったと漏らしているということなんだそうですよ。こういうことになってくると、一体、監獄の中というのは、刑務所の中というのは何なのか。甘やかし、金嬉老を何とかおとなしくろうらくさせようとしているのではないか、こういうふうに思ってもいたし方ないと私は思うのですが、この点はどういうふうにお考えになりますか。
-
○勝尾政府
委員 私のほうは真相が十分究明できておりませんので、御質問に対して私は的確なお答えはできませんが、現在までの私の不十分ではございますが調査の結果では、そういうようなことは私としては考えられないということでございます。
-
○
佐藤(観)
委員 とにかく期するところは綱紀の乱れ、ずさんな管理ということに尽きてしまえば、事はそのことば以外にどうしようもないと思うのです。
最後に大臣にお伺いしたいのですけれども、今度の事件のミステリーというのは、一体なぜこういうような優遇措置を受けていた金嬉老が、殿さま暮らしをみずから公表して差しとめられるようなことをやったのか。出刃ぼうちょうを見せたりあるいは爆弾発言をしたり、なぜみずから豪華な生活をしていたのをやめさせられる——当然やめさせられるようなことは想像つくと思うのですけれども、そういうことをみずからなぜ行なったのか、その点どういうふうにお考えになっておるか、お考えをお聞きしたいと思います。
-
○
小林国務大臣 それもわかりません、どういう意図でやったか。ですからせっかくの優遇を放棄するようなことを、どういう意図でやったかわからぬ。これはわれわれとしても金自身を調べれば——また幾ら調べたって一応の結論を得るということは期待できない、こういうことでございます。したがっていまのところはわかりません、どういう意図でこういうことをやったか。だから先ほどお話がありましたように、これはやっぱり捜査というふうな問題に移行せざるを得ないというふうに私は考えております。
-
○
佐藤(観)
委員 大臣、わからないと言われますけれども、私が弁護人を通して聞いたところでは、とにかく昨年の暮れぐらいから、自分は消されるんじゃないか、そういうふうに生命の危険を感じてきたというのですね。そして一月には出刃ぼうちょうが入れられ、その前には爆薬らしきもの、白い粉末も届けられるというふうになってきたので、やはり生命の危険というものを感じ始めて、公表して自分の身を守ってもらわなければだめなんじゃないかというふうに金嬉老自身が考え出したのじゃないか。それで、三月二十五日の公判でみずから、自分の待遇そのものは悪くなるかもしれないけれども、彼は彼なりに一つの朝鮮民族のことを主張してやっているわけだから、その主張も大事だし命も大事だからということで、ここで公表したんじゃないかというようなことも考えられるわけです。これは考え過ぎですか。
-
○
小林国務大臣 実は、そういうことをして刑務所の職員が何か利益を得るか、こういうことを考えれば、およそ刑務所の職員がさようなことを政治的な意図をもってやるなんということは想像がつきません。それによって刑務所の職員が何か得するか。したがって、もしそういうことがあるとするならば、もっと上のほうの段階でもって何かあったか、こう言わざるを得ないのでありますが、その点がわれわれにはいまのところどうにも見当がつかない。刑務所の職員としては、そんな高級な目的を持って何の得があるか、こういうふうに言わざるを得ません。もっと、どこかからそれを指導したか、指揮したか、こういうふうなことを多少われわれも考えたが、いまのところは想像つきません。したがって、やはり最初から言うておるように、ばかばかしい不思議な事件だ、こう言わざるを得ない、そういう段階でございます。
-
○
佐藤(観)
委員 大臣、そこが問題なわけです。いま私は刑務所の職員だけがやったということを言っているわけじゃないのです。ですから、先ほどからたびたび矯正局長さんにお伺いしているように、金嬉老が四十三年の三月に静岡の刑務所に移されたときに、すでに矯正局長さんもおっしゃったように、人を集めて、どういうふうに処遇するかということを協議された。そしてその年の九月には上申書も出され、その件で首になったとまでいわれていることがあるのです。そしてこれだけの時間を経て、去年の十二月にはやはり批判がひどいもので通達が出ている。しかし、十二月に通達が出ているのだけれども、ことしの一月にはちゃんと刃物が入っているといわれている。これじゃ一体刑務所だけを責めるというのは酷じゃないか。いま大臣が言われましたように、確かに刑務所の末端の看守部長なりあるいは管理課長なり、そういう方々だけが考えてやったのじゃないんじゃないか、そういう疑問を持つわけですね。だから私は問題にしているわけです。大出議員が言われましたように、大臣、これもあとでお聞きしますけれども、先ほど単なる行政処分で済ますつもりはないと言われるけれども、単に刑務所の組織の末端の人々だけが詰め腹を切らされていい問題なんだろうか。どうもそうじゃないんじゃないかという気がするということです。それを大臣はいみじくも言われたんじゃないか、そういう感じがするのですが。
-
○
小林国務大臣 これは、金がほんとうに正直なことを言うて調べに応ずればある程度わかりますが、これはいまのところできません。また、もしあなた方が何か推察するようなことがあるとするならば、刑務所の職員が自分だけでしょって知らぬ顔する必要はありません。これはいまのところ一種の推理小説みたいなことになっている。そういうことが一体あり得るか、私には想像がつかない。これはこれからの課題として、みんなでひとつまた考えてみたいと思いますが、いまのところ想像できません。
-
○
佐藤(観)
委員 元看守をやっていた方の話によりますれば、御存じのように、一人の者を見回るのに、一人が二十四時間、四六時中ついているわけじゃないのです。当然交換もあります。そうすれば、一人だけ優遇すればほかの看守から文句が出る。こういうことで、これだけのことを金嬉老にするためには保安課長なりあるいは管理課長ですか、そういう人はもちろんのこと、その上の部長まで知っていなければ、あるいはその刑務所長まで、暗黙の了解かあるいは公然の秘密か知りませんけれども行なわれていないことには、これだけのことはなされないと言っていいわけですね。それは実際に刑務所の看守をやっていた人がそういう実態の上から語っているわけですから、私はかなり正しいのじゃないかと思うのです。こういう意味において、横路議員が言われましたように、監獄法で全くきびしい。しかも横路議員があげられた例というのは、今度の四・二八闘争なりあるいは
佐藤訪米阻止闘争なりの学生に対して非常にきびしいことが行なわれていながら、なお一方ではこういう全くずさんであり、そうして何か非常に暗い影といいますか、奥から何か指令があったのじゃないかと思わせるようなことが行なわれておる。これはかなり問題なことじゃないかと私は思うのです。それで、先ほど法務大臣の御意見がございました中でも、この真相というのはいつまでたってもわからない、とりあえず行政処分をするんだということでございますが、大臣の発想ですと、行政処分というのは、われわれが前から言っているように、どうも刑務所だけに押しつけてしまうという感がある。そういう気がする。ところが私がたびたび言っているように、早くこれは矯正局のほうでもわかっていて、そうしてずるずると今日まできてしまっていて、金嬉老が爆弾発言をしなかったらもう少し長引いていたのじゃないか。私はそういう気がするわけです。とりあえず行政処分をなさるということで、世間に対して一つの姿勢を見せようというのはいいけれども、何でも早くすればいいということではないし、もう少し真相がはっきりしてからの問題だと思うのですが、その辺のところ、いかがでございますか。
-
○
小林国務大臣 これは、それぞれの受け取り方があるので、それでは延ばしましょうか——これは私の権限でやり得るのだから、あなた方が早いというなら。私は世間に対しては一応けじめはつけておくべきだ。これは私の考えでやれることですから、皆さんがそれはまだ早い、こういうことなら、私もまたそのことを参考として考えます。
-
○大出
委員 通常使われることばの中に調査ということばがあり、捜査ということばがある。いまどういう罪名、どういう事実関係があるかということの調査は当然必要だからおやりになっているのだろうと思います、先ほどの答弁で。そこから先、捜査という段階までということを大臣が先ほど付言されました。当面行政処分というのは大臣権限でおやりになるのですからそれはそれとして、調査の面、そしてさらに捜査という段階、ここまで踏み込んで、いずれにせよいま手続上行ない得る国の諸制度の中で国民が納得する最大の努力をする、つまり捜査を明確にして結着をつける、起訴が要る要らぬは別として事の真相が明らかになる最大の努力をするということで、大臣、重ねてで恐縮でございますけれども、ひとつ明確にさしておいていただいて、おそくもなりますから打ち切りたいと思うのであります。
-
○
小林国務大臣 私は、これはやはり最初から検察庁にやってもらえということまで言ったのですが、役人なり法律関係者は非常にやはり法の解釈を重んじて、みだりに乱すことはできません。だから私が初めから、これはもう調査ができなければ捜査でやりなさいということを言うておりますが、役人の説明を聞くと、なるほどこれは刑事事件として立件するのはむずかしいな、こういうことも私は考えるので、これをやはり乱すことはいけません。やはり理由をつけて、手続を踏んでやらなければいけません。その点は私は、やはり法律関係者なり法律家というものは綿密な理論を立ててやっておりますから、これをただむげに押しつけて、そうして何でもいいから捜査をやれ、こういうわけにはいきません。だから法務大臣としましては今日までいろいろ言いまして、やはりここまで来たらもう調査の限界は来た、したがって何か捜査をするだけの名目と申しますか、理由づけができないかということを私は役所の方にお願いをしておるわけでございまして、そのためにいままでの調査の結果というものも、私の聞くところによれば検察庁に送付して検討してもらっておる。最近聞くところによれば、東京高検に静岡の地検の次席検事が来ておるそうでありますが、これらとも相談をしてもらっております。したがってやはり私は何とか、へりくつとは言いませんが、何とか理由をつけてこれを告発なり刑事事件としての立件はできないか、こういうことを申しておるので、私はこんなことをごまかして、そうして通そうなどと思っておりません。行政処分なども、これはやるべきことはやるんだ、またあとになってもやらにゃなりません、これは。そういうわけでありまして、私は従前いろんな役所につとめましたが、くさいものにふたをするということは絶対いたしません。あくまでもこれは究明をして、そうして世間に理解が得られるような処置をとりたい、こういうふうに思っておりますから、その点はひとつ御了承願います。
-
○
天野委員長 次回は、明七日午前十時
理事会、十時三十分
委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
午後七時五十分散会