○小原
参考人 ただいま御紹介をいただきました
全国信用金庫協会の
会長の小原でございます。
平素、私たち
信用金庫は諸
先生に非常なお世話になっておりまして、この機会をおかりして厚く御礼を申し上げます。
本日は、今度の
金融制度調査会の
答申に関する
信用金庫の
意見を申し述べるようにということでございますが、最初に、
信用金庫を御理解いただくために、
現状を簡単に申し上げさせていただきます。
現在、
信用金庫の数は五百二で、木支店等を含めた店舗の数は三千八百を数え、その
預金量はこの八月末ですでに六兆九千億円を突破し、
貸し出し額も五兆七千億円をこえ、政府系
金融機関及び民間
金融機関を含めた全
金融機関の
中小企業向け
貸し出し額の二〇%強を占めております。またその
会員数は三百七十万人をこえ、
信用金庫との取引
関係にあるものは三千万人に達する実情でありまして、わが国
中小企業及び国民大衆の
金融機関として重要な役割りを果たしているのでありまするが、さらに豊かな国民生活の実現、地域開発の促進に協力することをビジョンとして、現在躍進五カ年計画を実施し、
業界あげてその実現に努力を続けているところであります。
このように、
信用金庫はわが国
金融機構の中で重要な一翼をになうまでに
成長してまいっており、またその果たしている役割りの
重要性も社会的に認められ、特に
中小企業金融の円滑化を期するため、さきの
中小企業金融制度の
あり方についての
答申においては、わが国
中小企業金融の
特殊性にかんがみ、その
必要性が強調され、また今度の
答申においても、今後とも
専門金融機関の役割りに期待するところが大きいとし、その健全な発展と十分な
機能の発揮が望まれています。
御承知のように、
信用金庫は
わが国経済のいわゆるすそ野
金融を担当し、その取り扱う
資金は小口、零細なものが多く、今度の
答申が今後の政策の基本的な柱として強調している
効率化の推進にあたっては、こうした点の配慮が必要かと存じます。
業界としても、今後の政策遂行については強い関心を持っております。今度の
答申が社会的使命に基づく
公共性を特に重視していることでもありまするので、
中小企業金融の円滑化をはかり、
わが国経済の均衡ある発展を維持するため、私たち
中小企業専門金融機関が健全な発展を維持し、その
機能を十分に発揮できまするよう一そうの御配慮と御支援をお願いいたす次第であります。
答申の内容は非常に多方面にわたっておりますが、特に私たちに関連の深い問題について申し上げたいと存じます。
第一は、適正な
競争原理の導入の問題であります。
答申は、
金融効率化を進めるにあたって適正な
競争原理の導入が必要であるとし、すでに行政面でも各種の施策が実施されているのでありまするが、
競争を通ずる
企業努力が真に効果を発揮するためには、
金融が正常化され、完全
競争市場が実現された基盤の上でなければならないと存じます。現在のように、いわゆる非正常な
金融環境のもとで、しかも各
金融機関の
経営諸条件にかなりの差があり、特に
信用金庫など
中小企業専門金融機関が
制度その他の面で
競争上不利な条件下に置かれている
現状のまま、異種
金融機関を含めてすべて同じ土俵で
競争を行なわせた場合、はたして文字どおり適正な
競争が確保できるかどうか、疑問を持つものであります。大規模
金融機関においては低利な日銀信用が利用できることなどあわせて
考えますると、
現状においてはおそらく
競争原理の導入はそれらの
金融機関に有利に働き、さきの
答申の期待に反し、
中小企業、なかんずく小零細
企業金融の不円滑化を招くおそれがあるのではないかと思われます。
このため、まず
金融が正常な状態に復するようつとめることが先決であろうかと存じます。また、
信用金庫では現在供米代金の
取り扱いや、公庫、公団の余裕金の
取り扱い等が許されておらないのでありますが、このような
中小企業専門金融機関に対して慣行的に課せられている諸制約や
取り扱い上の差異をできる限り緩和するなり、あるいは
専門金融機関にふさわしい恩典を与えるなど、不利な
経営条件をできるだけ是正し、真に適正な
競争が確保できるよう条件を
整備されることをお願い申し上げる次第であります。
第二は、金利
機能の活用の問題であります。
競争原理の導入とともに、
金融効率化を実現するための手段として金利
機能の活用があげられており、その
一つとして
預金金利の自由化ないし弾力化が
考えられ、すでにそのための処置として本年四月に臨時金利調整法の告示の改正が行なわれました。しかし、現在のように、わが国では
資本蓄積がいまだ十分でない上、
資金需要が旺盛なことから
金融市場が強調を続け、各
金融機関が過当といわれるほどの激しい
預金獲得
競争を展開している実情のもとで、性急に
預金金利の自由化に踏み切るならば、かえって
金融秩序を乱し、
預金コストを押し上げ、ひいては
貸し出し金利の上昇を招き、それが結局
中小企業にしわ寄せされる懸念があります。これでは良質低利な
資金を供給するという
金融効率化の意図とも相反する結果になるのではないかと存じます。家計の貯蓄にあたっては、店舗の近接、集金等の諸サービスが重要な要因となっており、必ずしも金利が唯一の決定要因ではないことも考慮され、
預金金利の自由化については、
資本の蓄積が進み、産業
資金の供給が円滑化するなど、
環境の
整備と相まって段階的に実施される必要があろうかと思われます。
第三は、規模の利益の問題であります。
答申は、同種の
金融機関においては経費率につき規模の利益が認められ、また電子計算機を主体とする機械化面等で規模の利益が重要な
意味があることを指摘し、規模の利益を追求する
一つの方法として合併をすすめておるかのように見受けられます。しかし、規模の利益は通常大口取引によって実現されることが多いことは一般に認められているところでありまして、これでは小零細
企業をおもな対象とし、いわゆるすそ野
金融を担当する
信用金庫の社会的使命とは相反する結果になります。したがって、合併にあたっては、地元の意向を十分に参酌するとともに、当事者が自発的にその
必要性を認めた上で行なわれるべきであると思われます。この
意味で、今後の行政指導にあたっても、規模の利益を追求することに急なあまり、地元の
事情等も十分考慮しないまま性急に合併に追い込み、地元
金融ないし
中小企業金融の不円滑化を招き、
わが国経済のひずみをさらに拡大することのないよう、慎重な配慮をお願いいたしたいと存じております。
また、合併の
一つの形態として、さきの合併転換法によって
信用金庫等
中小企業専門金融機関と
銀行との間のいわゆる異種
金融機関の合併が認められることになったのでありますが、このような合併は、結果的に
中小企業向け
資金がそれだけ大
企業向けに吸い上げられることになり、
中小企業金融を一そう不円滑にするおそれがありまするので、特に慎重な御配慮をお願いいたしたく存じます。
第四は、
中期預金の問題であります。
今度の
答申で、中期
金融と関連して
中期預金が
検討に値するとされており、二年ないし三年の
定期預金がいろいろ話題となっております。しかし、たとえそのような
預金が実現したとしても、
定期預金の書きかえ継続の実情等から見て、それによる新規
預金の吸収よりもむしろ既存
定期の振りかえが多いと
考えられます。
中期預金の実施による
預金利率の上昇は、
経営の
合理化努力によってある程度吸収できるといわれておりまするが、いわゆる仕入れ価格が上がることは事実でありますから、たとえ
企業努力はあるとしても
コストアップは避けられないと思われ、これが結局
貸し出し金利にはね返ることになろうかと思われます。現在わが国の金利水準は、諸外国の金利水準が上昇してきたこともあって必ずしも高くはないといわれておりまするが、最近米国をはじめヨーロッパ方面の金利が低下傾向を示しておりまするように、いつまでもこのような状態が続くかどうか問題であり、また経済の
国際化の
進展に対処してわが国産業の国際
競争力の強化が叫ばれ、特に
中小企業の金利負担の軽減が強く要請されている実情等にかんがみ、このような
コストアップを招く懸念のある
中期預金の実施については慎重な態度が必要であろうかと思われます。
第五は、
預金保険制度の問題であります。
信用機構の維持をはかるため、
預金者保護の特別
措置としてこのような
制度を
創設することの
必要性には賛成であります。しかしその前提としては、当初にお願い申し上げましたように、適正な
競争が確保されるための条件が
整備されることが必要で、いたずらに小規模な
金融機関を窮地に追い込み、結果的に
金融の再編を強行するための舞台づくりに終わってはならないと存じまするので、この点十分な御配慮をお願い申し上げる次第であります。また、信用機構を維持するためには、各
金融機関それぞれがみずからの
経営の
健全性の維持につとめることが最も大切であります。
なお、このような
制度のほか、今度の
答申においても、各
金融機関において自主的な
預金者保護体制の確立につとめることが望まれており、
信用金庫業界といたしましても、各単位金庫の
企業努力のほか、系統中央機関である
全国信用金庫連合会を中心とした相互援助
制度の強化について
検討を進めておりまするので、この
制度の
創設にあたっては、機構をできる限り簡素化するなり、また基金の積み立て額を最初から過大なものとせず、あるいは財政
資金の投入をはかるなどして、
金融機関の
保険料負担を軽減されるよう特に御留意いただきたく存じております。
なおこの際、
答申で強調されております
効率化あるいは
公共性という問題と関連いたしまして、
信用金庫の社会的使命の遂行という
視点から日ごろ
考え、また
業界でも
検討しておりますることを二、三申し上げさしていただきたいと思います。
まず第一は、
中小企業向け長期安定
資金の供給の問題であります。
現在
中小企業者が一番悩んでいる問題は税金と
金融の問題であろうかと思われますが、中でも
金融面では長期安定
資金の供給が強く望まれておりますことは、
金融制度調査会に提出された資料等によっても明らかなところであります。これは、
中小企業が労働力の不足、
国際化の
進展等、内外
環境の変化に直面し、これに対応するため
合理化、近代化の
必要性を強く
感じているからでありましょうが、
中小企業は
資本市場の利用が困難なこともあって、長期安定
資金の確保がむずかしく、また政府
金融機関も財政
資金等の制約があって、その需要を満足するに至っておりません。そのため勢い
中小企業としては民間
金融機関に依存せざるを得ない実情であります。民間には
長期資金を専門に取り扱う
銀行もありますが、これらは御承知のように大
企業中心であり、今後ともこれに多くを望むことはむずかしいと思われます。したがって、
中小企業に深い理解を持ち、その
金融を専門に取り扱う
中小企業専門金融機関がこれに当たることが最も望ましく、
中小企業の
実態から
考え、
中小企業専門金融機関において短期
金融とあわせて
長期金融を取り扱うことができますることが、その社会的使命遂行の上からも必要であろうかと存じます。
この
意味で、
信用金庫業界といたしましても、
中小企業の
合理化、近代化の促進に積極的に協力し、
わが国経済の均衡ある発展に資するため、系統中央機関である
全国信用金庫連合会を中心とする長期安定
資金の供給対策を
検討しているのでありまするが、それにはその
資金源の確保が必要であります。その方法の
一つとして、
全国信用金庫連合会による債券の発行が
考えられますので、この点御
検討をお願いいたしたく存じております。
次は店舗の問題であります。
経営の
効率化という見地に立てば、店舗の配置にあたっては商業採算ベースを第一義的に
考え、
公共性が軽視されがちとなります。御当局が
競争原理の導入ということで店舗の配置転換の自由化に踏み切って以来、大規模
金融機関の店舗が地方から太平洋ベルト地帯の大都市並びにその周辺に集中される傾向が見られますが、これはその一面を物語っていると思われます。しかしこのような傾向は、最近都市における過密化の反面、地方での過疎化現象の
進展が憂えられているにもかかわらず、かえって過疎過密化現象を助長する結果となり、好ましくないように思われます。今度の
答申が特に
公共性を重視し、これを強調している
理由の
一つにはこのようなこともあろうかと思われます。
信用金庫は地域
金融機関として地元の
金融に責任を持っていることから、地元民の便宜、その経済的発展という点を
考え、単に
経営の
効率化という
視点だけから店舗配置を決定することは許されないと存じており、私たちといたしましては、地元経済の発展ないし地域開発の促進に協力するという社会的使命を
考え、このような
金融の谷間を埋め、過疎地帯の
金融の円滑化にもつとめてまいりたいと
考えております。したがって、店舗政策にあたっても、単に
効率化という
視点からだけでなく、公共的見地からの配慮を払われるとともに、それぞれの
金融機関が受け持っておる社会的使命、
特殊性等も考慮され、弾力的な行政指導が行なえるようお願いいたしたく存じております。
第三は、配当の自由化の問題であります。
銀行においてはこの九月期決算から配当
規制が弾力化されることとなりましたが、この方針が打ち出されて以来、
銀行の収益重視の傾向が強まり、産
業界から不満が出ていると過日新聞に報じられておりましたことからもうかがえまするように、
金融機関があまりに高率な配当を実施することは
公共性の見地から社会的批判が生ずると思われます。半面、
預金者保護のため
経営の
健全性を維持しなければならない
金融機関としては、将来にわたって確たる自信のないまま直ちに金利面で取引者の優遇をはかることに踏み切ることもむずかしい
事情にあります。また配当にいたしましても、一たん実施した配当率を引き下げることは信用保持上好ましくありません。このようなことから
信用金庫業界としては、
制度の特色として特別な利益還元の道を開いている事業分量に応じてする利用者配当を実施することによって
会員に報いてまいりたいと
考えております。
最後に、
業務提携の問題であります。
今度の
答申でも、
経営の
効率化の
視点から
業務の提携が高く評価されておりますが、私たちといたしましてもその
必要性と効果を十分感ずるものであり、すでに具体的に実行に移しているものもありまして、昨年東京
銀行との
業務提携をはかったのもその
一つでございます。これは、
中小企業の育成発展という社会的使命を持つ
信用金庫としては、経済の
国際化が進む半面、わが国輸出額の約四〇%以上が
中小企業製品であることを
考えた場合、やはり
信用金庫としても貿易
金融面でのサービス
機能を持つ
必要性があると思われ、また、埋もれた
中小企業製品を海外に紹介してあげることも大切でありましょうし、さらに、今後ますます海外との交流が増加することも
考えられまするので、この面からの要請にもこたえられるよう
体制を
整備することが大切であろうと思われますので、東京
銀行との
業務提携を実施することといたしたのであります。今後とも、
中小企業及び国民大衆の機関として、これらの取引者の要請にこたえるため、サービス
機能を強化する等の見地から、必要に応じ、
業界内部はもとより、他の
金融機関等との
業務提携について
検討し、実施してまいりたいと存じております。
このような
業務提携を行なう場合、中枢的な立場に立って重要な役割りを果たすことを期待されるのが
全国信用金庫連合会でありますが、
預金の受け入れ等、
制度面で制約があることからその期待にこたえることが十分にできず、むずかしい問題が生ずることもあります。このため連合会の
機能の拡充が強く望まれている実情でありますので、この点についても特別な御配慮をお願いいたしたく存じております。
以上で私の
意見を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。