○正宗
参考人 ただいま
委員長から御指名をいただきました
日本興業銀行の正宗でございます。
本日は、
長期信用銀行三行を代表いたしまして、今後の
民間金融機関の
あり方についての
金融制度調査会の
答申に関連いたしまして所信を申し述べるようにとのことで参上いたしました。私の申し上げます
答申に関連する
意見、所信は、要旨をただいまお手元に差し上げてございますので、恐縮でございますがこれを御参考にしていただいて、私の申し上げるところを暫時お聞き取りいただきたいと存じます。
今回の
金融制度調査会の
答申は、
経済の大型化、
国際化、あるいは労働力不足の進行といった七〇年代のわが国の
経済の
環境の変化に即応して、
金融面から
経済の
効率化を
促進するためには、
金利機能の
活用と適正な
競争原理の
導入によって
金融の
効率化をはかることが必要であるというものでございますが、その大筋につきましては私
どもにも異論はございません。問題は、
金融機関の場合は一般産業以上に
公共性、社会性が要求される度合いが強いわけでございまして、常にその認識を怠りなく、
公共性を強く念頭に置いて
経営その他万般の
効率化を進めることが肝要であると
考える次第でございます。一例を申し上げますと、今後
配当の
弾力化などによって
金融機関の収益
競争がより一そう強まることが予想されますが、このような場合にあっても、特に私
ども長期信用銀行といたしましては、いたずらに収益
競争に走ることのないよう心にとめまして、また公共的部門への資金
供給等にも十分
配慮してまいりたいと
考えております。
金利機能の
活用につきましては、
金利の景気調整機能を高めるという観点から、
金利の一そうの
弾力化、変動幅の拡大をはかることが望ましいと
考えます。特に公社債
金利を主とする
長期金利の
弾力化は、公社債市場の健全な発展をはかり、良質の
長期資金を
供給するためにも必要と思われるのであります。わが国では戦後、
経済の復興、成長の過程で、一貫して低
金利政策がとられてまいりました。
長期金利もその線に沿って今日の水準まで低下してまいったのでありますが、今後も
長期金利は低いことが望ましいことには変わりはございませんけれ
ども、最近における内外の
経済、
金融環境の変化、特に
わが国経済の大型化と
国際化の進展に伴って、漸次
金利の調整機能を
活用していくことが必要な
情勢になってきておると思います。すなわち、いままでのように
長期金利はただ低ければ低いほどよいということでは済まされなくなってきている事情を、産業界、
金融界それぞれ認識すべきであろうと思いますが、同時に、他人資本に依存する
経営が定着いたしておりますわが国
企業では、これに対して過度のインパクトを与えないように慎重な
配慮が必要であり、また資本市場の発展のためにも
長期金利がなるべく安定していることが望ましいわけでございますから、
弾力化の方法はこれを適切に選ぶということが必要であろうというふうに
考えます。
次に、
業務多様化ということに関しまして、今回の
答申では
金融機関の
業務多様化を今後の
方向として認めながら、一方で専門機関の
役割りを評価し、その存在を脅かさない範囲で各種
金融機関が周辺分野での適正な
競争を行なうべきものとしておるのでありますが、これはおおむね当を得たものと
考えます。七〇年代の
経済、社会の高度化、複雑化に伴いまして、
企業、家計が
金融機関の各種の機能に寄せる期待は高まっております。こうした社会の要望にこたえるために、
金融機関の
業務の
多様化をはかることが必要であろうと思います。しかし、
多様化はいわゆる同質化と同じものではなく、
企業や家計の
立場からは、各種の
金融機関が業態、立地等に応じて個性あるサービスを多面的に提供してくれることが最もいいこと、望ましいことであるというわけで、都銀、地銀、相銀、信金あるいは
長期信用銀行などの、国民
経済的に見てそれぞれ特色のある
金融機関が、
公共性というものを基盤にいたしまして、
競争と協調の上、社会のニーズにこたえつつ
経営を
効率化していく、その機能、特色を発揮するということが期待されていると
考えるわけでございます。
次に、
中期預金に関連しまして、
答申では
金融資産
多様化あるいは
中期金融の疎通等の見地から、
中期預金の
導入は今後
検討に値するとしておりますが、設備資金
供給を専門としております私
どもの
業務経験からいたしますと、
企業設備の耐用年数あるいは
企業の一般的な収益
状況等から見まして、
中期預金という特別の資金吸収手段を必要とするほど大きな中期の設備資金需要があるのかどうか、私は強い疑問を持っております。また、
預金者の
中期預金に対する需要を過大評価するのは問題があろうと
考えます。また、すべての
金融機関が
中期預金を取り扱うということになりますと、
貯蓄の総量の増加にはたしてプラスであろうか。おそらくそのことで貯金総量の増加にプラスになるということは
考えにくいという反面、
金利水準を下ざさえし、
貸し出し金利上昇につながるおそれがあるという点も懸念されるわけであります。さらに専門
金融機関の資金吸収あるいは与信活動に多大の影響を与えます。
長期金融機関の
役割りを評価していただいた
答申の趣旨に反するかという懸念も
感じられるほかに、さらに資本市場育成を阻害する懸念もある、かえって
経済、
金融の
効率化に沿わないということになるかという点がございますので、
中期預金の
導入はことのほか慎重に扱っていただきたいと
考えます。ここにメモで、はっきり
中期預金についての反対という項目を掲げてございますが、これはここに表現されてあるとおりにそのままこういう弊害が起こるということを申し上げるつもりでもございません。いささかできが悪いのでございますが、やりようによってこうなる危険を非常に強く
感じるというのを、
長期信用銀行三行の
意見としてまとめてまいったわけでございます。
なお、
銀行の
利益を国民大衆に
還元する手段として高利回りの
中期預金が必要だという御
意見が一部にございますけれ
ども、もしかりにそうであるとするならば、現行の一年
定期のままでも預金
金利の
弾力化を行なうことによって、資金需給の実勢を反映した相対的に高い
金利を
預金者に提供することは可能と
考えますので、まず順序としてはそれが第一ではないかというふうに
感じておる次第でございます。
次に、今後の
銀行行政への要望というようなことに関連いたしまして、今回の
答申は総じて行政当局の裁量にまかされている部分が多く、今後の
銀行行政にきわめて重い責任をゆだねていると思われます。したがいまして、
答申の具体化にあたられましては、今後の
経済、
金融の推移を見きわめ、わが国産業、
金融機関全体に及ぼす影響を慎重に判断して進めていただきたい、
関係当局に強くお願いいたしたいと存じます。なかんずく、ただいま申し上げました
競争原理の
導入に際しましても、
答申の趣旨を体して、いたずらな収益
競争に走ることのないように、また、これが専門
金融機関の
経営の根幹を脅かすことにならないように、
関係当局に十分な御
配慮をお願いしたいと存じます。
今回の
金融制度調査会は
民間金融機関の問題にしぼって
検討されましたけれ
ども、特に私
ども長期金融機関の問題につきましては、広く政府
金融機関あるいは資本市場などとの関連において、総合的視野から今後さらに詰めた
検討をしていただく必要があると
考えております。
本日はせっかくの機会でございますので、
答申を受けまして、今後七〇年代の
長期信用銀行の
あり方、
課題といったものにつき、以下私
どもの
考え方を申し述べさしていただきたいと存じます。
七〇年代の
長期信用銀行の
役割りでございますが、第一に、専門性をより一そう発揮して、
企業に対して良質の
長期資金を安定的、効率的に
供給していきたいと
考えております。七〇年代におきまして、総じて
長期資金に対する需要は高いものと思われ、
長期信用銀行のような
金融機関が、短期の資金を
長期に転化する
金融債の機能というものを大いに
活用して、
普通銀行と相互補完しながら専門性に徹して、国民
経済上必要とされる分野に十分な
長期資金の
供給を行なっていくことが最も効率的であると
考えております。
長期信用銀行の
調査、審査機能は
答申においても高く評価されておりますが、七〇年代は高度化社会あるいは情報化社会の到来というように、わが国の
経済構造の高度化、複雑化が予想され、
国際化と相まって従来にも増して
長期信用銀行の専門的機能が必要とされる時代になるものと
考えます。私
どもといたしましても時代の
要請にこたえられるよう、専門的機能を一そう深くいたしまして、望ましい
経済発展を
金融面から支援するため、たとえば都市再開発あるいは
公害防止、生活
環境改善など、社会開発、流通近代化あるいは新規産業の育成などにも率先して資金
供給を行なうよう
努力してまいりたいと
考えております。そのほか、
答申では、産業の
調査、研究の蓄積の上に立って、産業界のコンサルタント的
役割りを果たすことを期待されておりますが、今後の情報化社会の展開に即応して、知識産業の分野でも
長期信用銀行にふさわしい専門的機能を発揮していきたいものと
考えておる次第であります。
それから、
長期信用銀行は専門的能力に裏づけられた中立的な公共的な性格を生かしてまいりまして、
民間金融において調整的機能を発揮していくべきであると
考えます。
金融機関は一般産業以上に
公共性、社会性が要求されるわけでございますが、今後
競争原理の
導入によって
金融機関の収益
競争が進められた場合、ともすると国民
経済上必要な分野への十分な資金
供給が確保されないおそれがないとはいえず、また
金融機関の合併が推進された場合、これによる寡占化、系列
金融の弊害が出ないともいえないわけではございますし、さらに、最近投資規模が非常に大きくなってまいって、いわば巨大化した新規産業という場合、資本、
金融系列を越えた共同投資の必要性が非常に強まってくるであろうと思います。これらの場合、
長期信用銀行が国民
経済全体の効率性を高めるため、専門的機能、能力に裏づけられて、中立的に、公共的に資金
供給を行ない、
金融面を通じて
経済全体の
円滑化をはかることが従来にも増して必要になってくると
考えております。
以上、七〇年代における
長期信用銀行の主たる機能につき申し上げてまいりましたが、これらの機能を新しい
経済環境下でより有効に発揮させるために、新たな観点から財政資金による
金融債引き受けを
検討することも
意味があると
考えております。財政資金による
金融債引き受けは従来から実績がございますが、特に社会開発、物価、
公害防止など、七〇年代の大きな
政策課題に対して、
長期信用銀行は
政府系金融機関と協調して
金融的援助を行なっていきたいと
考えておりますので、これらの
意味から、運用部資金等による
金融債の引き受けを
検討していただきたいと
考える次第でございます。
さて、以上のような
長期信用銀行の基本的
役割りを念頭に、今後は特に次のような諸点にわたって
業務展開をはかっていきたいと
考えております。
まず第一に、
長期信用銀行は七〇年代の
わが国経済、
金融の
国際化に即応して、
長期金融業務一般を一そう国際的に展開させるべきであると
考えております。
答申にもございましたが、私
どもとしても
外国為替専門銀行の機能、
役割りは十分評価いたしており、この線に沿って、先ごろパリにある欧州東銀に資本参加いたしました。しかし、
わが国経済の
国際化の趨勢を
考えると、
海外業務に知識と経験の深い
民間金融機関が
外国為替専門銀行と協調をしながら、それぞれの個性を生かして国際的な
業務展開をはかることが国民
経済のニーズに、より適切にこたえる
ゆえんであるというふうに
考えるのであります。私
どもといたしましては、わが国
企業の
海外活動、
海外資源開発に伴う投融資
業務に関しては、中
長期の審査、貸し出しあるいは起債等の面で専門的能力を有する
長期信用銀行を一そう
活用していただきたいと思いますし、また
長期信用銀行の資金調達手段の拡充のため、外債など、
海外における資金調達を活発化することも必要と
考えております。こうした目的に沿いまして、職員の能力の向上、
支店、駐在員
事務所など、
海外ネットワークの拡充を行ないたいというふうに
考えております。
第二に、
答申にもございますが、
長期信用銀行は資本市場育成の機能を働かせていくべきであると
考えます。
長期信用銀行は現在、国債、政保債、地方債の引き受け、事業債の受託、担保の信託など、証券
関係業務で重要な
役割りを果たしております。いわば資本市場と
金融市場の接点に立っている
金融機関でございますので、こうした地位、機能を生かしまして、今後わが国資本市場の
国際化とも関連し、従来以上に資本市場育成のために協力していきたいと
考えております。
第三に、中堅・
中小企業金融の
充実でございます。資本市場を利用しにくい
立場にある中堅・
中小企業の良質の
長期資金の需要に応じて、これを円滑に
供給するということは専門機関としての
長期信用銀行の任務の
一つでございまして、すでに
中小企業金融センターあるいは中堅
企業部等を設けまして、今後も中堅・
中小企業金融の
充実に大いにつとめようといたしておるのでありますが、さらに
代理貸し
制度等の
活用も含めまして、こうした
方向に、より一そうの営業
努力を傾注いたしたいと存じております。その場合、店舗網の拡充、中堅・
中小企業金融拡充のための
体制を
整備するということも必要と
考えておる次第でございます。
最後に、以上述べましたような
長期信用銀行の機能を十分に発揮していくために、その資金源として
金融債の消化基盤の安定と拡充が必要であると
考えております。
金融機関消化という従来からの大手の財源は、
長期信用銀行の専門的、中立的機能が十分に発揮されるための重要な基盤でございますので、これからのむずかしい
経済環境のもとで、
長期信用銀行と
普通銀行との相互補完
関係は従来以上にこれを深める必要があると
考えておるのでありまして、その
意味からも、引き続き
普通銀行での
金融債の消化御協力を同方面にお願いしたいと存じます。そのために、消化しやすいように
金融債を日本
銀行のオペの対象に組み入れるとか、あるいは
金融機関の支払い
準備資産
充実に関して、行政指導とあわせまして御当局の御支援をお願いいたす次第でございます。
さらに、
金融債は流通証券としてすぐれた特性を有し、法人、個人の余資運用対象として好適の
金融資産であることにかんがみまして、今後法人、個人に対する一般消化についても特段の
努力を払う所存であります。そのためには、投資家の需要に対応した債券の種類の
多様化をはかることも必要であろうというふうに
考えておる次第でございます。
以上、
調査会の
答申に関連いたしまして、七〇年代の
長期信用銀行の
役割りと私
どもの
経営の
方向につきまして所信を申し述べさせていただきました。何とぞ私
どもの意図するところをおくみ取りいただきまして御支援を賜わりますようお願い申し上げる次第でございます。
御清聴ありがとうございました。