○正木
参考人 国学院大学の正木でございます。
私は、前お二方の陳述とやや違った立場、したがいまして結論も違ってくるかと思いますが、そういう見地に立ちまして、簡単に租税
特別措置についての私の
意見を申し述べさしていただきたいと思います。
まず、本件は、本質的に違う三つの部分からなっておることは御
承知のとおりであります。第一は、
法人税率を戻す部分であります。第二は、利子・配当
課税特例の改善措置であります。第三が、狭義の、あるいは本来の
特別措置の創設、拡大、延長あるいは廃止についての提案でございます。
最初の
法人税でありますが、私は、このような
改正が
法人税の本則によらないでこの
特別措置でなされるということについて、まあそうならざるを得なかったという点について、若干ふに落ちないという感じがするのであります。御
承知のとおり、
法人税率は対外競争力を強化する必要があるとかあるいは不況を克服するという名目のもとに、四十年、四十一年の二回にわたりまして合計三%引き下げを行なったのであります。ところが、今日御
承知のとおり、景気がむしろよくなり過ぎたといいますか、過熱防止のための金融措置が発動されておる、こういう状態でございまするから、税率をもとへ戻すということは、これは当然自然の措置だと私は思います。そうなりますと、三%を直すかということになりますが、一度にできないとすれば二%でいい、こういうように
法人税率を弾力化するという習慣を
確立するということが実は非常に重要なことではないか。今後わが国で安定的な
経済成長を遂げようということになりますと、どうしてもそこに備えるべき景気調整
手段が必要なのであります。しかも非常に国際化し、またいままでのように、
日本の対外注視の関係から、常に景気調整をやれるというのではなくて、いろいろ複雑な関係になっておりますので、むしろ景気調整
手段としての
財政活動の
手段が非常に重要になってき、その中でも、歳出面と並んでこの租税措置を使うということが必要になってくるのであります。そうなりますと、どうしても、不景気のときに下げたならば、景気が直ったときにはすんなりと税率がもとへ戻る、こういう習慣が財界並びにすべての面において浸透しておるということが、租税政策を景気調整に使う
一つの基本的な
基盤になってくる。それに対して、何ということなしに二%は高いから一・七五%にしてくれというような値切り方というところに私は若干の不満があるといいますか、こういう状態では先は思いやられると思うのであります。
それから配当分の税率は今度据え置きになっておりますが、これは留保
所得の
減税のない前の年に二%下げておる、こういう状態を
考えますると、今回これを全然放置しておったという特別な理由があるかどうかということが
考えられるわけであります。
経済界は五年連続の好況を満喫して、昨年来かなりの
企業が増配に進んでおる。したがって、証券界の株式市況も記録的な高値という状態であるのでありまして、どこに配当分の
法人税率引き上げを遠慮しなければならない、差し控えなければならない積極的な理由があったかどうかということになると私は若干疑問を持っております。
今回の措置が成立しますと、留保分と配当分の税率の格差は従来の九%から一〇・七五%というふうになってくる。こういうふうに特にこれを上げる必要があるかという点も私は納得がいかないのであります。従来配当軽課という措置は、いろいろないきさつはございましょうが、結局は
資本蓄積を促進するという
手段として取り入れられたものであります。かなりの年月を経ておりますが、その実績がはたしてあがっているのかどうかということになります。この場合に、
資本蓄積というものには二つの
考え方といいますか、二面があると思います。
一つは株式
資本を増強するという面と、それから内部蓄積を増強するという面、この二つでありますが、実際六〇年代の
日本の
経済成長を見てまいりますと、後者のほうは大いに進んで、かなりの設備投資が自己資金で手当てできるような状態に蓄積が進んでおります。ところが税金を軽減されたほうの増資のほうがあまりに進んでいない、これは御
承知のとおりであります。私はどうも、税金によって、税金を軽課すれば増資がずんずん進行するのだというような
考え方はいささかやぶにらみであったのではないかというような感じがしておりますし、今回廃止されることになりました、
特別措置の中で
資本構成を改善した場合に
法人税額の特別控除制度、こういったものが廃止になるのですが、これは実効はなかったということなんです。そういうことも
考えられるわけであります。したがってこの配当と留保の
法人税率の格差というものは拡大すべきではなくて、むしろこれは漸次解消に向かうべきが本筋じゃないか、これは私の
意見でございます。
それから、今回の措置が二年の限時法になっておりますが、その理由もあまりはっきりしない。かりに
政府の案が成立しまして、
昭和四十七年になりますが、
法人特別税を廃止しようといたしますと、おそらく千五百億くらいの
減税財源がその場合には必要になってくると思われます。そのときはたまたま例の赤字公債の償還期が来るというわけでありまして、なかなか
財政上のやりくりは困難、苦しいといわれますから、私はこの二年後に五%の特別付加税が撤廃されるだろうということはとうてい
考えられないだろうと思います。今日この
法人税についていろいろ問題があることは御
承知のとおりでありまして、これを何とかしなければならぬのでありますが、それゆえにこそこの
法人税率を今度のようにすんなり戻すというようなことにあたりましては、
特別措置のような形によらないで、本則でやれるようなすっきりした形でやってほしかった、こういう感じを持つのであります。
次は、利子・配当
課税でございます。提案理由の説明を見ますると、利子・配当
課税の特例について漸進的な改善合理化措置を講じたとされておりますが、その改善とか合理化ということは、おそらく利子
課税が
分離課税になっておりますこの
原則から総合
課税原則に戻したということをさすのだと私は思います。利子の取り扱いがこういうふうに変わったのは
昭和二十八年の
税制改正以来であります。源泉税率はその後幾たびかひどく変化いたしながら今日に至りましたが、その間、
税制調査会では、利子の
分離課税というのは
資産所得、大
所得偏重で公平
原則に大いに反すること、それから名目としていわれる利子の軽課ということが現実の貨幣貯蓄の蓄積強化にどれだけ貢献しているかということについての確たる証拠がないではないか、こういうような
議論がたびたび繰り返され、そうして早く一貫して総合
課税への復帰を主張してこられたのであります。しかし現実の壁は厚く、その主張は常に拒まれ続けてまいりましたが、今回
原則として総合
課税をとるということになったのでありまして、それ自体としては私は大いに評価すべきだと思う。しかし内容を拝見しますと、まさにこれは羊頭狗肉に近いというか、はなはだ漸進的過ぎるといいますか、そういったような感じがするのであります。
すなわち現行の一五%の源泉徴収税率の特例をさらに五カ年延長、それから定期性預金や貸付信託等について新たな源泉選択制度を認めるということにしまして、その税率が御
承知のように二〇%、二五%で行なわれるということになります。それから普通預金等の利子については申告不要制度にする、それから支払い側でのこの報告義務を免ずるというような措置がとられているのであります。つまりそうなりますと、高額
所得の方は、この場合は二〇%の税率でありますと大体二百七十万円以上は源泉をとったほうが有利になるというような勘定になりまして、源泉選択をするでしょうし、その場合の
税負担は、現在と比べまするとこの二年間は五%、その後一五%増すほかは何ら変わらないのであります。
他方、少額貯蓄優遇制度もこれをそのままでありますから、結局郵便貯金、銀行預金、
国債等を利用しますと、二百五十万円までのものは無税扱いになります。実際取り扱いがルーズなところもありますので、私はもっと多額の貯蓄者が無税扱いを受けているのだろうと思います。
そこで今回の
改正で利子
所得は
原則として個人に総合
課税されるということになるのでありますが、これは上のほうが源泉選択、下のほうは少額貯蓄優遇というものに守られた利子
所得者が、ここに総合
課税を適用するという余地がほとんどないのであります。そういうような形でこの
原則的な総合
課税が成立したというのであります。もし
ほんとうに利子
所得を公正に
課税するつもりならば、私は選択の源泉税率は四〇%か五〇%かまで、もっと上げる必要があると思う。現にこの二十八年でありますか、
分離課税になる前の、
シャウプ税制以降でありますが、一時源泉選択が復活したことがありますが、そのときの税率は五〇%であります。また六〇%というときも戦後にあったわけでございます。そういう意味で、二〇%とかいうような税率は非常に低過ぎるのであります。同時に少額貯蓄のほうも大幅に整理する必要があるんではないか。これはやや極端論かもしれませんが、マイホーム建設というような目的で
長期に積み立てをしなきゃならぬ、そういったものについては、百万といわず、三百万でも四百万でも免税措置を講じたらいいと私は思う。しかし、一般目的の貯蓄というものについて、はたして免税扱いにする必要があるのかどうか。かように一部免税扱いにするとしても、もっと低くていいんじゃないか。この百万円免税貯蓄というものがかなり乱用されて、少額貯蓄者だけじゃない受益者がいるんじゃないか、こう
考えますと、私はここにむだな
財源が使われているというふうに
考えざるを得ない。もちろん急激に直しますと、いろいろ預金の
移動ということがございましょうが、ねらいはそういうところに置くべきじゃなかろうか。少額貯蓄はすべて優遇すべきだという
議論について、もっと目的をはっきりさせろと言いたいところでございます。この二十八年以来のわが国の利子
税制は、ひたすらに金融機関が預金をかき集める上に便利なような組み立てになっており、今回の
改正も何らその性格を変えるものではないと私は
考えております。
ただ、
配当所得につきまして注目されるのは、利子と同じ税率で今後五年間源泉選択制が延長されるということでございます。この制度が採用されましたのは四十
年度の
税制改正が初めでありまして、これは
税制調査会の
答申にも全くなくて、
日本で初めての乱暴な措置だ。これは田中
大蔵大臣のときに強引に実現をはかったのであります。利子
所得と
配当所得について同じような源泉選択制が並んだ。何かこれは非常に誇張があったように思いますが、実はここに問題があると私は思う。前者は、すなわち利子
所得の場合に、源泉選択
分離というものを取り上げましたのは、久しい
分離課税から総合
課税へ戻ろうという過程、ワンステップとしてこれが行なわれているのだ、こういうふうに
考えます。ところが後者のほうは五年前に強引に、
日本の明治以来の
配当所得の総合
課税原則を踏みにじってこういう制度をつくられた。これをさらに五年間さらに引き延ばそうというのでありますから、税の
原則論からいいますと、向かおうとする方向がまさに相反するのであります。
一つの
政府がこのような提案を同時にされるということはおかしいのじゃないか。そういう意味において、配当の源泉
分離は税の公平上も直ちにやめるべきじゃないか、こういうふうに結論したいと思います。
それから、ついでに株式配当控除でありますが、今回若干これを引き下げられております。これはやかましくいえば、
法人税の帰着がどういうものであるかというようなことと関連するんでありますが、先ほどの
参考人の方の
お話にもありますように、この
法人税の内容と申しますか、
法人税の実質というものについていろいろな解釈があり、必ずしも理論どおりにいかない。したがいまして、この問題も二重
課税を完全に消去するというのではなくて、各
所得者、納税者の間の公平感というものと
経済政策との間の調和をはかるというようなことになると思います。
そこで、しばしば問題にされております
配当所得者、
配当所得ばかりであれば二百八十万円までが無税である。これは何といっても一般の働く
人たちにとってみればあまりにもむちゃくちゃな
税制ではないか、こういう非常に素朴な感じがあるのです。これは非常に重要なので、今後ますます
所得税中心に発達させていこうというならば、税に対する公平感にひびが入るような措置は許されない。そういう点で今回若干の配当控除が下げられたのはよろしいのですが、これも少し遠慮をし過ぎておられて、一〇%ににすべきところを五%というような、まん中の二年間の経過期間を置かれておる。そういうことをされた結果として、今度の四十六、七年においては、依然としてこの
配当所得だけの
人たちの免税点が現在より上がるとなると、ますます
勤労所得者にとっては浮かばれないような感じを与える。この点は、私は理論の問題より
国民の租税に対する感覚という点から十分御考慮なさるべきであって、こんなに遠慮をして経過規定を置く必要はないのじゃなかろうか、こういうふうに
考えるわけであります。
それから、同じように、個人に対する控除を引き下げるならば、同時に
法人の受け取り配当の
処置も若干手直しをしていくという公平論が起こってくるのでありますが、そういうようなことで、要するにこの配当
課税について、いまのようなほとんどブームと申すべき時代における証券界の反応にあまりに気を使い過ぎて、税の公平感というものが忘れられているのじゃないかという点を私は申したいと思います。
最後のグループであります
特別措置の存廃でありますが、今回新しい制度を創設したとか、従来の適用対象を拡張したというものが、小項目で数えますと十四項目ございます。そのまま延長したのが十五項目ございまして、廃止が九項目ございます。その方向は決して租税
特別措置を整理する方向にいっているのではなくて、かえって繁雑な、微細な租税特恵が積み重ねられていくという感じがいたします。ただ、その場合に、新設する場合には廃止の
財源の範囲というような形でルールが守られておるようですが、そういうことがかえってこの
特別措置を定着させておるということ、それから内容的に一般向きのものよりも特定業種あるいは特定
企業向けのフェーバーを与えるようなものが目立っておるということで、もう少しこれについては行政措置でいくべきものは行政措置、金融措置でいくべきものは金融措置というような割り切り方をするべきであって、こうやたらにふえていきますと、全く迷路のごとくになってしまって、そこに業界と官庁あるいは役人との間の過度の関係が生じて、不祥事件が起こりはしないかというようなことも憂えられるという点で、もう少し思い切った整理の時期に来ているのではないか、かように
考えます。
以上、はなはだ粗雑なことを申し上げて失礼をいたしました。これをもって陳述を終わります。
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