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福田国務大臣 先般、一月十四日の第三次
佐藤内閣の成立にあたりまして、私が引き続いて
大蔵大臣に任命されたわけであります。また今後とも御鞭撻のほどをお願いいたします。
私の
財政、
経済に関する
考え方につきましては、この間の
財政演説におきましてとくと申しあげたわけでございますが、お手もとに私の書きましたものをお配りいたしてあります。それはそれとしてごらんを願いますが、私がいま一番
心配をしており、また私の脳中を去来しておる
最大の問題は、
景気の
持続的成長という問題なのです。
つまり、今日の
経済の
成長、これを見ておりますと、まことに雄大なものではありまするけれども、どうもその
勢いが高きに過ぎる、こういうふうに
考えておるわけであります。ことに六〇年代は、
年率におきまして一一%
成長という驚異的なレコードでありますが、その後半、特に四十一年から四十四年、この四年間におきましては一三%前後という
成長をなし遂げておるわけであります。私は実はこれを問題にいたしておるのであります。こういうことはすばらしいことには違いありません。つまり、それだけの
成長をいたしましても
国際収支の面におきまして微動だもしない、これは戦後のわが
日本経済におきまして非常に珍しい
一つの大きな
成果であるというふうには
考えまするけれども、さて、この
状況をいつまで続けていくことができるかということを
考えますると、いろいろ
心配になる
要因があるわけであります。どうしても
物価の問題の処置が、この
成長の高さでは非常に困難になってくるという問題があるわけであります。どこの国でも
経済の
成長を
制約する
要因の第一は
国際収支であります。
国際収支の問題はまずまず
心配はないというふうに見ておりますが、第二の
制約要件である
物価の問題、この問題を
考えてみまするときに、現在引き続いて毎年四%、またはさらには五%を上回るような
物価の
上昇が続いておる。これを放置しておきますると
経済の根幹をゆすぶるような
事態になりかねない。これはどうしてもいろいろの手段を講じなければならぬけれども、この
成長の
速度ということが
基本的課題になってくるだろうと思います。
それと関連を持ちながら、
労働の
需給という問題が大きな
制約要件となりつつあるというふうに見るのであります。七〇年代の
世界先進国を見ますると、
共通の
課題として
労働の
需給逼迫という問題があります。この
労働の
逼迫下において
成長をいかになし遂げるか、これが
先進各国共通の
経済最大課題であるというふうに見るのでありますが、その間におきまして、
わが国は、他の
先進諸国に比べますとかなり優位な
体制にあると、こういうふうに見ております。あるいはアメリカにおきましても、あるいはドイツにおきましても、あるいはイギリスにおきましても、いわゆる
完全雇用下である。それらの
国々に比べますと、
わが国におきましては、まだまだ
休眠労働力を大量にかかえておる
経済体制であるというふうに見ておるのであります。あるいはいま農村問題が問題とされておりまするが、そこにもまだ休眠した
労働力はあると見なければなりません。あるいは町にも多数の
休眠労働力がある。あるいは
婦人労働力、これの活用につきましても、まだまだ外国と趣を異にしておる
状態であり、さらに高
年齢労働力、そこにも
開発の余地がかなり残されている、こういうふうに見るのであります。それらのことを
考えまするときに、私は、他の
先進諸国と比べますると、本質的には
わが国の
労働需給はかなり優位に立っておるというふうに
考えるのでありますが、しかし、その
労働力の
流動化、この
施策が進められなければなりませんけれども、その
施策の
テンポを越えまして
わが国の
経済成長が
発展するということになりますると、そこに
わが国におきましても、他の
先進諸国と同様な、あるいはそれ以上の
労働需給の
緊迫化ということが起こってこないと保証できないのであります。そういうことを
考えますると、もしこの
経済の
成長が
労働流動化対策に先行して進むということになりますると、そこに
労働需給の
均衡が失せられまして、金の
高騰となる。
賃金の
高騰が実質的な
意味合いでなくて、それは
物価の
高騰につながる、こういうことになり、さらにはそれがまた
賃金の
高騰というふうにつながり、そこに悪循環という問題が起こる
可能性を多分に含んでおる。
さらにまた私が問題としているのは、
資源上の
制約であります。
わが国におきましては国内に
資源が乏しい。どうしても、この雄大な
日本経済を経営する上におきましては、
資源を
海外に求めなければなりませんけれども、あまりに
日本の
資源需要が多いものですから、
海外での供給、そういうもの、また
海外での
資源開発というもの、そういう
対応体制というものが間に合わない。そこで
わが国の、たとえば今日
非鉄金属が非常に
高騰いたしております。それらはそういう
資源的な
隘路からきておるというふうに見ておるのでありますが、そういう問題。あるいはこのいまの
速度の
成長でいきますると、五年半で
日本の総
生産は倍になりますが、しかし、それを一体輸送することさえもできますかどうかということを
考えますると、
輸送能力はとても五年半で二倍にはならないのであります。
そういうことを総合的に
考えまするときに、たいへんな問題が
日本経済の前途には横たわっておりまするけれども、いま
設備投資はもう非常な
勢いで進んでおる。そして五年半で
日本の
経済の
生産を倍にする
勢いで進んでおる。進んでおりますけれども、それはそれらの
隘路にはばまれて、これを達成することはとうていできるはずがないのであります。五年半を待たずして、一、二年あるいは二、三年にして
日本経済は大きな壁にぶつかる。ぶつかって鼻血を出すくらいではない。これは脳天をぶち割るような
事態におちいる。そういうことを
考えまするときに、私は何とかしていまの
経済の
成長の高さを押えたい。つまり総
需要、これを押える
政策を、いまの
金融財政政策の主軸にしなければならない、そういうふうにいま
考えているわけであります。
当面の
経済情勢の動きを見てみましても、
日本銀行の
銀行券の
発行、これは昨年の初めごろは一七%、前年度に対してふえるという
状態でありましたが、だんだんと高まってまいりまして、暮れから二〇%もふえるというような
状態になってきている。その趨勢が今日ずっと続いているというような
状態であります。あるいは
卸売り物価の
状態を見ましても、これは楽観を許さないものがありますことは
皆さんも御
承知のとおりであります。
そういうようなことを
考えながら、九月から
金融調整政策をとっておるのであります。
金融調整政策の
浸透状況を見ておりますと、
金詰まり、つまり
金融機関の手元におきましては資金が非常に逼迫している
状態になってきております。もちろん、これは
業種別に見ますと、大
企業の
逼迫感、これはかなり強いものがあります。また地域的に見ますと、大都市における
逼迫感、これが特に強くなってきておるような
状態で、まだ全国普遍的という
状態ではありませんけれども、しかし
金詰まりという様相は、今年になりましてから一段と高まってきておるのであります。そういう
状態ではありまするけれども、これに対しまして
企業側の反応はどうかというと、これはまだまだ
設備投資は
スローダウンされているというような
状態ではない。そういうようなことで、私は
経済界、特に
産業界に対しましては、この
成長の
テンポに対しましては高過ぎる、これに順応する
体制を期待し、自主的に
設備投資の
スローダウン等が行なわれることを期待して話し合いをいたしているわけでございますけれども、まだ的確な実績をあげるに至っておらないのであります。
そういう間におきまする
財政の
運営は特に慎重にしなければならないというふうに
考えるのが私の基本的な
姿勢でございましたが、そこで
予算の
編成というものがあります。
予算編成にあたりましては、
社会資本の充実、これも非常に急がれている問題であります。あるいは
社会保障、これについても、これを要望する
国民の声も多い。あるいは農村の転換のための
対策、これも金が非常に多くかかる問題であります。特に
地方交付税、
交付金、これがかなりかかる。そういうようなことから、
財政の規模としては、
昭和四十四年度の
伸び率に比べますと、これを上回る
伸び率を示す
予算とは相なりましたけれども、ただいま申し上げましたような慎重な
財政金融運営ということを
考えながら、その
内容面におきましてはできる限りの配慮を加えているつもりでございます。つまり
景気を刺激しないような
財政、そういう見地から
法人税の税率の
引き上げを行ないますとか、あるいは、いろいろな
需要の強いつながりはございますけれども、
準備公債の
発行額を抑制いたしますとか、できる限りの
配意をいたしたつもりであります。
ただ、その中におきまして
一つ、そういう
考え方と必ずしも相いれない
施策と申しますか、
所得税の
減税を行なうことにいたしたことであります。私もずいぶんこの問題は、どういうふうにしようかということを
考えてみたのであります。
所得税減税によって
購買力を解放する、それがはたしてこの時点においていい
施策であるかどうかということを
考えてみたのでありますけれども、これは多年のいきさつもあります。また
税制調査会の答申もあります。またサラリーマンを
中心として
勤労者からの強い要請もある。これはまた
別個の高度の
政治判断としてこれを断行しなければならないかというふうに
考えまして、
所得税減税だけはただいま申し上げましたような
考えと
別個の
考えでこれを行なうということにいたした次第でございます。
私がいま申し上げましたような
考え方が
経済界の
協力を得て、私の
考えのようにここで
スローダウンという線が出てまいりますれば、
わが国の
経済は、
国際収支の
均衡、好調を維持しながら、さらにさらに前進することができる。しかしその前進の過程において、
考え方を大きくここできめておかなければならぬ問題が二つある。これは
財政演説においても申し上げたところでございます。
一つは、何としても六〇年代のこの
成果を
考えてみますると、それはなるほど
日本の国の内外にわたって大きな影響を及ぼす
成長、
発展でございましたが、あるいは
公害の問題でありますとか、あるいは
過密過疎現象でありますとか、あるいは
社会資本の立ちおくれの問題でありますとか、あるいは老人問題でありますとか、あるいは特に
物価の問題でありますとか、いろいろの問題がここに提起されておる。七〇年代、今後におきまして、私は
成長の
成果を踏んまえてそれらの問題を解決しなければならぬ。またそういうなだらかな、また適度な
成長の中でそれらの問題を解決していかなければならぬ。また、それらの諸問題を解決するためにも、この
成長の
速度が適正でなければならぬというふうに
考えておるのであります。私が
財政演説におきまして、
量的成長の六〇年代から
質的成長の七〇年代を目ざすのだというふうに申し上げましたが、そのような
気持ちを表明しておるわけであります。これは私の
気持ちばかりじゃない。
政府の
姿勢であります。
同時に、七〇年代におきましては
国際化というものが非常に進むであろう。その進む
国際化の中において、
わが国の
姿勢をどういうふうにとらえていくか。これもまた
一つ大きな問題であろうと思います。
わが国は六〇年代の
経済の
発展を基礎にいたしまして、
対外経済協力というような
施策を進めることになりました。今後これをやはり進めていくべきだと思います。戦後の五等国、六等国といわれるような
日本ならばともかく、
わが国はいまやGNPにおきましては
世界第二の
生産をあげるような国になってきたという
立場に立ちまして、
日本の国のことだけを
考えてみましても、もう
わが国だけの
繁栄、独自の
繁栄ということは許されない、それくらい大きな
地位になってきておるのであります。
世界とともに
繁栄する、
世界とともに平和である、こういう
姿勢が必要になってきておるというふうに思うのです。そういう
意味において、
わが国は
世界の
国々の
繁栄、
発展に
協力したければならない。
先進国に対しましては、われわれは、通貨の安定、そういう面におきましてもできる限りの
貢献をしなければならないと同時に、また
開発途上の
国々に対しましては、その
政治の、あるいは
経済の安定、その前提としての
経済協力ということを、
わが国の
国際社会に対する責任、使命としてこれを行なわなければならないというふうに
考えるのであります。
同時に、いま何としても
自由化という問題があります。これは
世界の
大勢であり、また
資源の乏しい
わが国とすると、この
自由化の
世界的大勢というのは
わが国益にそのままつながってくる問題です。これには困難な国内問題もありまするけれども、できる限り
努力をいたしましてこの困難を乗り切り、この
自由化の
大勢というものに乗り、むしろ積極的にこの
施策を進めていくべき時期にきておる、こういうふうに思います。
そういうことを
考えながら、内は
日本国を、
ほんとうに
国民一人一人が安定した気持らでその日その日の生業にいそしみ、また
社会連帯感を持ち、情操豊かな
国民として
社会生活を営み得るような、そういう
日本社会を実現し、また外は、
日本国は
世界の中においてこういう
発展をしておる、そういうことが
世界の平和、
繁栄にも役立っておるのだ、尊敬すべき
日本国であるというような、そういう
日本国の
地位というものを高めていく、そういう
日本国の
国づくりに、
財政は、また
金融は
貢献をすべき
立場にある、かように
考えておる次第でございますが、そういうことを踏んまえながら、これから
皆さんの御
協力のもとに
金融財政の
運営に遺憾なからしめていきたいというのが私の
所信でございます。
ただ、私は、前の
大蔵委員会におきまして
皆さんから御
教示にあずかりまして非常に感謝しておりますが、その
皆さんの御
教示、またその席で
皆さんに検討、実行をお約束したことにつきましては、できる限りの
努力をしてまいったつもりです。ただ
一つ私が実行できなかった問題がある。それは
入場税の軽減であります。これはいろいろな事情がありまして実現できなかったことを私自身遺憾に存じておりますが、今後とも
所信を曲げずに
努力していくつもりでございますことを最後に申し上げまして、ごあいさつといたします。(拍手)
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