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1970-04-27 第63回国会 衆議院 社会労働委員会 第15号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十五年四月二十七日(月曜日)     午前十時十三分開議  出席委員    委員長 倉成  正君    理事 伊東 正義君 理事 小山 省二君    理事 佐々木義武君 理事 増岡 博之君    理事 粟山 ひで君 理事 田邊  誠君    理事 大橋 敏雄君 理事 田畑 金光君      小此木彦三郎君    梶山 静六君       小金 義照君    斉藤滋与史君       田川 誠一君    中島源太郎君       別川悠紀夫君    箕輪  登君       山下 徳夫君    川俣健二郎君       小林  進君    後藤 俊男君       島本 虎三君    山本 政弘君       古寺  宏君    古川 雅司君       渡部 通子君    寒川 喜一君       寺前  巖君  出席国務大臣         厚 生 大 臣 内田 常雄君         労 働 大 臣 野原 正勝君  出席政府委員         厚生省保険局長 梅本 純正君         厚生省援護局長 武藤き一郎君         社会保険庁医療         保険部長    高木  玄君         通商産業省鉱山         保安局長    橋本 徳男君         労働大臣官房長 岡部 實夫君         労働省労働基準         局長      和田 勝美君  委員外出席者         議     員 小林  進君         参  考  人         (日本赤十字社         副社長)    田邊 繁雄君         社会労働委員会         調査室長    濱中雄太郎君     ————————————— 本日の会議に付した案件  船員保険法の一部を改正する法律案内閣提出  第六一号)  労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律  案(内閣提出第四六号)  労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案  (小林進君外六名提出衆法第二二号)  厚生関係基本施策に関する件(在日朝鮮人の  帰還問題)      ————◇—————
  2. 倉成正

    倉成委員長 これより会議を開きます。  船員保険法の一部を改正する法律案議題とし、提案理由説明を聴取いたします。内田厚生大臣
  3. 内田常雄

    内田国務大臣 ただいま議題となりました船員保険法の一部を改正する法律案につきまして、その提案理由を御説明申し上げます。  今回の改正は、業務災害による障害者等の福祉の向上をはかるため職務上の事由による年金の額を引き上げるとともに、業務災害防止の推進と災害補償に相当する給付にかかる保険料負担の公平をはかるため、災害発生率に応じて個々の船舶所有者災害保険料率を変更できることとすることをその趣旨とするものでありまして、その内容は次のとおりでございます。  改正の第一は、年金部門における職務上の事由による年金給付水準改善でございます。  これは、今回の労働者災害補償保険障害補償年金及び遺族補償年金給付水準引き上げに見合って、船員保険におきましても職務上の事由による障害年金及び遺族年金給付水準引き上げを行なおうとするものでありまして、その内容は、障害年金につきましては、廃疾の程度が一級から四級までの年金について、その年金額算式中の最終標準報酬月額に乗ずる月数現行八・〇月から六・〇月まででありますのを九・三月から六・四月までに改め、遺族年金につきましては、その年金額を算出する算式最終標準報酬月額に乗ずる月数現行五月を五・五月に改めることとしたことであります。  改正の第二は、百人以上の被保険者を使用する船舶所有者については、災害補償に相当する給付にかかる保険料について、いわゆる個別メリット保険料率適用できることとすることでございます。労働者災害補償保険におきましては、すでに保険料メリット制が実施されておりますが、船員保険におきましても船舶所有者ごと災害発生率保険料率に反映させることにより、船舶所有者災害防止努力経済的な側面からさらに推進するとともに、保険料負担の公平をはかるため、政令で定めるところにより、同様の制度を実施しようとするものであります。  改正の第三は、既裁定職務上の事由による年金年金額改定する措置についてであります。  船員保険職務上の事由による年金は、廃疾または死亡原因となった疾病または負傷の生じた時点の標準報酬月額基礎として年金額を計算することとなっており、受給権を取得してから相当期間経過している年金の額と、新たに受給権を取得する年金の額とを比べますと、賃金上昇等の影響もあり、相当の格差が生じてまいりましたので、さしあたり、この格差政令の定めるところにより是正できるように措置しようとするものであります。  改正の第四は保険料率改定についてであります。  現在年令部門災害補償に相当する給付にかかる保険料率は千分の十四となっておりますが、財政再計算の結果及び今回の職務上の事由による年金給付改善に伴う所要料率を考慮して、昭和四十五年十一月一日から同年十二月三十一日までは、これを千分の二十に、また、昭和四十六年一月一日からはさらに既裁定職務上の事由による年金給付改善分に要する料率を加えて千分の二十一にそれぞれ改定を行ならことといたしております。  最後に、実施の時期につきましては、職務上の事由による年金給付水準改善に関する事項は本年十一月一日から、個別メリット保険料率適用に関する事項及び既裁定職務上の事由による年金年金額改定に関する事項は明年一月一日からといたしております。  以上がこの法律案提案理由でありますが、何とぞ慎重に御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願い申し上げます。      ————◇—————
  4. 倉成正

    倉成委員長 次に、内閣提出労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案議題とし、提案理由説明を聴取いたします。野原労働大臣
  5. 野原正勝

    野原国務大臣 ただいま議題となりました労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案について、その提案理由及び内容概要を御説明申し上げます。  労働者災害補償保険制度は、昭和四十年に年金による補償体系を確立するなど制度の大幅な改善をはかり、労働災害をこうむった労働者及びその遺族に対して手厚い補償を行なってきたところであります。  この間、わが国は、目ざましい経済成長を遂げ、その経済力も国際的に高く評価されるに至っておりますが、このような情勢を背景として関係各方面から経済成長に相応した災害補償を求める声が強くなってきました。また、国際的には、業務災害に関する条約としてILO百二十一号条約が新たに採択され、災害補償についての国際水準引き上げが行なわれております。  労働者災害補償保険審議会におきましては、このような事情を考慮して、昭和四十三年来、小委員会を設けて労働者災害補償保険制度改善について検討が行なわれておりましたが、昨年八月、同審議会から労使公益側委員全員一致による制度改善についての建議が行なわれました。  政府といたしましては、この建議趣旨を全面的に尊重しその実現について鋭意検討を行なってまいり、その結果建議法律改正を要する部分について成案を得ましたので、その改正案について労働者災害補償保険審議会及び社会保障制度審議会に諮問をいたし、労働者災害補償保険審議会からは本年二月十七日に、社会保障制度審議会からは二月二十四日にそれぞれおおむね了承する旨の答申を得たのであります。その結果に基づいて、労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案を作成し、ここに提案をいたした次第であります。  次いで、この法律案内容概要を御説明申し上げます。  まず、労働者災害補償保険法改正について御説明申し上げます。  第一に、障害補償年金について、完全労働不能に相当する障害等級第三級の年金額現行給付基礎日額の百八十八日分から二百十九日分に引き上げるものとし、その引き上げ率一六・五%に相当する率だけ障害等級第一級から第七級までの年金額をそれぞれ引き上げることにしたことであります。  第二は、遺族補償年金について、遺族三人の標準受給者に対する年金額現行給付基礎年額の百分の四十に相当する額から百分の五十に相当する額に引き上げることを骨子とし、他の遺族数年金についても生活実態を考慮して給付基礎年額の百分の三十から百分の六十に相当する額に定めることとしたことであります。  なお、遺族が妻一人のときは、妻である地位と女子の今日の就業実態を考慮して、五十歳以上五十五歳未満の場合には給付基礎日額の百分の五に相当する額を加算し、五十五歳以上または一定の廃疾状態にある場合には給付基礎年額の百分の十に相当する額を加算することといたしております。  障害補償年金及び遺族補償年金を以上のように改正いたしますと、労働者災害補償保険給付水準は、ILO百二十一号条約水準に達することとなります。  第三は、遺族補償一時金について、最近における他の災害補償制度等を考慮して、その額を現行給付基礎日額の四百日分から一千日分に引き上げることとしたことであります。  第四は、年金支払い迅速効率化等をはかることとしたことであります。  その一は、年金の種類が変更される場合における支払い事務の調整をはかったことであります。  その二は、年金受給権者が行くえ不明となった場合などに年金支払いを一時保留し、その者が確実に年金を受けることができることとしたことであります。  次に、労働者災害補償保険法の一部を改正する法律改正について御説明申し上げます。  第一は、遺族補償年金の前払い一時金制度の存続についてであります。この制度は、昭和四十年の労働者災害補償保険法改正により遺族補償年金化された際、遺族の方が直ちには年金制になじみにくい事情があることにかんがみ、昭和四十六年一月三十一日までの期限つきで設けられたものでありますが、現在においてもなおその事情が存続していると考えられますので、引き続き五年間存続させることとしたことであります。  第二は、現在受給開始時によってまちまちである年金支払い期月を年四回の原則的な支払い期月に統一することとしたことであります。  最後に、労働保険保険料徴収等に関する法律改正について御説明申し上げます。  この改正内容は、百人以上の労働者を使用する事業適用しております現行継続事業保険料メリット制を三十人以上の労働者を使用する事業であって労働省令で定めるものにまで拡大するとともに、三年以上の期間にわたって継続してメリット制適用規模に該当する事業に限り適用することとしたことであります。  以上のほか、この法律案におきましては、その附則において以上の改正に伴う経過措置を定めております。  なお、施行期日については、公布の日から起算して六月をこえない範囲内において政令で定める日から施行することとし、労働保険保険料徴収等に関する法律改正規定昭和四十八年十二月三十一日から施行することといたしております。  以上、簡単でありますが、この法律案提案理由及びその内容概要を御説明申し上げました。何とぞ慎重に御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願いいたします。      ————◇—————
  6. 倉成正

    倉成委員長 次に、小林進君外六名提出労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案議題とし、提案理由説明を聴取いたします。提出者小林進君。
  7. 小林進

    小林(進)議員 私は、提案者を代表して、日本社会党提案労働者災害補償保険法一部改正案提案理由とその概要説明いたします。  今日、労働災害が深刻化していることは、事あらためて指摘するまでもありません。労働省統計を追ってみますと、一九四〇年代には毎年三千人以上の労働者労働災害によって死亡しました。一九五〇年代には五千人以上、一九六〇年代には毎年六千人をこえる労働者死亡しております。死亡のみならず、休業八日以上の重傷者は毎年四十万人に及ぶのであります。  最近の労働災害の特徴は、まず、死亡事故が多いことであります。統計を見てみますと、全体の災害件数はやや減少の傾向にあるにもかかわらず、重大災害件数は増大し、したがって死亡者が増加しております。これは、機械設備大型化生産設備高密度化と無関係ではありません。次に、化学、造船、建設という、いわば成長産業において多発していることであります。国の経済の主柱をなす産業、したがってまた、大企業の集中している産業災害が多発している事実は、国際競争を意識した生産増強の陰で安全が軽視されていることを物語っておると思うのであります。  従来、労働災害原因は、労使のミスあるいは油断というような人的要素に求められがちでありました。したがってまた、被災者への補償責任が限定される傾向にあったのであります。しかし、元来、労働災害は、企業労働者を雇って作業をさせる。そのこと自体にすでに原因を内包しているのであって、このことを立証する好例が、昨年来の大阪、尻無川の水門工事における事故であります。九人の死亡者を出したこの工事に採用されていた空気ケーソン工法は、大正時代から採用され、改良を重ねて、建設業界では最も安全度の高い工法として信頼されているのでありまして、もし労働者の安全のためにこの工法を禁止した場合、建設業のこの部門活動は停止せざるを得ないところでありましょう。  このように、労働災害生産活動自体に根源を持っているからこそ、その補償の根拠が使用者の無過失責任に基づいているものであります。  このように考えてまいりますと、労働災害補償は、使用者責任において被災者あるいはその遺家族の得べかりし利益が十分満たされることが必要最低限条件であるといえるのであります。人の生命は、もとより金銭であがなわれるものではありませんが、いささかでもこの精神に欠けることがあれば、人命の尊厳に対する重大な冒涜であると思うのであります。  わが国労災保険制度はその意味で、いまだ数多くの問題を残しております。一例をあげますと、労働省調査によれば、遺族補償年金は、遺族生活に必要な収入の半分を満たしているにすぎないという結果が出ております。夫を失った悲しみの上に生活上の重荷を負わされているわけで、とうてい労災補償の本旨を全うしているとは申せません。その他の補償給付についても同様の実情にあるのであります。災害がなお増加の勢いを増し、しかも大阪ガス爆発の例のように、地域住民を巻き込むほどに大型化しつつあるときに、労働災害補償制度改善は一刻も早く実現されなければならない課題なのであります。  本法案提案する理由は以上のとおりでありますが、次に法案概要について御説明いたします。一、通勤労働準備行為として事実上使用者に拘束されており、また交通事故の異常な発生状況にかんがみ、通勤途上における災害業務上の災害とみなすことといたしました。 二、給付基礎日額は、ボーナス等の一時金も加えて計算することといたしました。 三、休業補償は、被災翌日より平均賃金の八五%を補償することといたしました。 四、障害補償は、給付引き上げのほか、重度の者には一時金と年金の併給とし、また必要に応じて介護手当を支給することといたしました。 五、遺族補償は、年金引き上げ、かつ一時金とあわせ支給することとし、また支給の対象は生計維持関係を重視することといたしました。 六、療養補償は、期限を定めず労働能力の回復するまで行なうことといたしました。 七、諸給付のスライドは、毎年勤労統計による賃金の五%ごとの変動をめどとすることといたしました。  以上、提案理由概要について説明いたしました。何とぞ慎重審議の上、すみやかに御賛同あらんことをお願いいたします。      ————◇—————
  8. 倉成正

    倉成委員長 厚生関係基本施策に関する件、特に在日朝鮮人の帰還問題について調査を進めます。  本日は本問題調査のため、日本赤十字社社長田邊繁雄君に参考人として御出席いただいております。  質疑の申し出がありますので、これを許します。田邊誠君。
  9. 田邊誠

    田邊委員 在日朝鮮人帰国問題については、私はこの委員会でしばしばこれを取り上げて、政府の所信をただしてまいったのであります。  御承知のとおり一九五九年四月十三日にジュネーブにおいて在日朝鮮人帰国に関する協定が結ばれてから、年々歳々、帰国を希望される人たちに対してその事業が円滑に行なわれてまいりました。この帰国事業は、御案内のとおり歴史的に見て、いわゆる第二次世界大戦前における日本朝鮮に対する支配の中から、やむなく日本に定着をした在日朝鮮人の方々がきわめて多いという歴史的な事実の上に立って、当然戦後の日本としてはその責任においてなすべき人道的な問題でございました。そういう立場事業が行なわれてまいりましたから、何らの支障なく円滑にこれが遂行されてきたことを私どもはたいへん喜んでおるわけであります。一九五九年の十二月十四日に帰国第一船が新潟港を出発をいたしましてから、われわれは今日までその事態を注視してまいりました。  しかし、私はいま円滑に帰国事業が行なわれてきたと申し上げましたけれども、その間において日本政府はしばしばこれに対して意見を申し述べておるのであります。特に一九六五年日韓条約が結ばれた前後から、この帰国事業を打ち切るべきである、そういう意見が台頭をしてまいりました。たとえば帰国事業合理化あるいは帰国事業の促進をはかる、そういう名目のもとにしばしば日赤はこれが打ち切りをほのめかしてきたのであります。そういう中で、登録をされることを三カ月以内に制限しようというようなこともいわれてまいりましたし、いわばその危険の萌芽は当時から起こっておったようであります。一九六七年、四十二年の四月二十一日についに日本政府閣議決定において、十一月十二日付でこの協定を破棄するということを一方的に決定をいたしたのであります。そういう中で、同年八月十二日以降における帰国申請は受け付けない、こういうこともあわせて発表いたしました。  しかし、このことは非常に世論の反撃を受けまして、これらの人道的な問題を政治的な問題とからめて処理することは誤りである、こういう内外からの実は大きな反撃批判を受けたのでありました。そういう状態の中で政府もいろいろとこれに対する苦慮をいたしたようであります。本来的にいえば、この問題は帰国者が希望する限りにおいては、継続さるべきことは当然の成り行きでありまするから、その後において帰国希望者が徐々に逓減の方向にあったという名目だけでこれが打ち切りをすることは、これは許さるべきでないのでありまするから、そういった点で、このときの閣議決定は当然な批判を受けたのであります。そういう状態の中で同年の八月二十五日から九月二十三日までモスクワ会談が行なわれて、その後の取りきめについていろいろと話し合いがされましたが、ついに合意に至りませんでした。同年の十一月二十七日から翌年の六八年一月二十四日まで引き続いてコロンボにおいて会談が行なわれました。われわれはこのコロンボ会談において帰国の延長問題に対して最終的な合意を得るものと期待をいたしておったのであります。非常に微妙な形でもってわれわれもこれに対する発言をときに差し控え、ときに政府の考え方に対して鞭撻をし、日赤立場が公平に行なわれるようにというように実は期待しておったのであります。しかし、われわれが大筋において合意を得たのではないかと考えておりましたこの会談が、最終的にコミュニケの問題あるいは帰国者を取り扱うために来る代表団入国問題等で、ついにこれが合意に至らなかったことはきわめて遺憾であるわけであります。その後、日赤は一九六八年九月二十八日に書簡を送って、さらにこの帰国事業の延長問題に対して朝鮮赤十字との間で書簡往復がなされた事実がございます。しかし、継続的にその問題が取り扱われてきましたけれども、今日までこれが最終的な解決を見てないという現状でございます。  以上私が申し上げたようなここ十数年間におけるいろいろな経過をながめてみまして、私は、この帰国問題というのは今日遷延することは許されない、こういうふうに考えておるのであります。  そこで、田邊社長にまずお伺いしたいのは、このモスクワコロンボ会談、その後の書簡往復等を通じて、この帰国の延長問題に対していわゆる合意を得なかった主要な点は一体何でございますか。ネックになっておる問題は一体何でございますか、お伺いしたいと思います。
  10. 田邊繁雄

    田邊参考人 ただいまお述べになりました経緯によりまして、私ども昭和四十三年、一九六八年の九月二十八日に、コロンボ会談の結果に基づきまして一つの提案を向こうにいたしたわけでありますが、それに対しまして先方では、この案に対してはさしたる意見はない、ことばづかいとかあるいは名称は訂正さるべきであるが、そのほかには、帰還船に乗ってくる朝鮮代表入国手続問題についてどうもわからない、こういうことを言ってきたわけであります。それはコロンボ会談におきましても、九月二十八日の手紙におきましても、朝鮮代表入国手続につきましては、これを簡単にすることについて政府において妥当な考慮を払うように赤十字が努力する、こういうことであったわけでございます。コロンボ会談においても一応そういうことで双方の事実上合意があったわけでございますが、半年くらいたったあとの九月二十八日の提案においても同じように書いてあるものでございますので、先方では半年もたっておるのに同じようなことが書いてあるのはどうも理解できない、こう言ってきたわけでございます。  それに対しまして日本政府におきましては、御承知のとおり、国際赤十字を通して入国手続を行なう、こういう案を先方提案いたしたわけでございますが、これは北朝鮮側がどうしても同意しない、こういう実情であったわけでございます。したがって、ネックと申しますものは、簡単に申せば、いわゆる朝鮮代表入国手続問題である、かように申して差しつかえないと思います。
  11. 田邊誠

    田邊委員 私は、この帰国事業の、ジュネーブ協定が結ばれて以来の推移を実は静かに振り返って見ておるのですが、そういう十数年の間の経緯をながめてみて、朝鮮赤十字会朝鮮側は、日本政府なり日本赤十字に対して新しい問題提起をしていることはございますか、ないと思うのであります。より困難な条件を持ち出していることはございますか、ないと思うのであります。朝赤は、いわば最初に行なわれた協定に基づいて代表団入国も当然簡素化すべきである、何も日本に来ていろんな国内活動をしようというのじゃありません、新潟に来て、帰国者に対するところの取り扱いをするというところの代表団でございましょう、そういった点で以前の状態というものをそのまま踏襲してもらいたい、こう言っておると思うのです。いま田邊社長がおっしゃられたように、日赤からいろいろな形でもって、紆余曲折はありましたけれども提案をいたしておりますが、最終的には国際赤十字を通じて、いわば代表団取り扱いをしようというのですね。こういうのは、いわばこちら側の新しい提案なんですね。そこに私は、問題が複雑化している大きな要因があると思うのです。以前行なわれていて、それがスムーズに遂行されていたんですから、何でその状態というものをそのまま引き続いて行なうことができないのか、これは私は常識的にいって、疑問に思うのは当然だと思うのです。  したがって、そういう立場でわれわれは考えたときに、やはり日本政府なり、その全権を委任されていると思われる日赤が、以前の状態に立ち戻ってこの問題に対しては処理をするということがあくまでも原則でなければならぬと思うのです。そういうことから考えますならば、いまの、いわば問題になっておる点は解決の余地あり、解決の方法あり、こういうふうに私は確信を持っているのでありますけれども、そういう立場でこれから先も対処をお願いしなければならぬと思うのであります。  そこで、またあとで田邊社長にお伺いをいたしますけれども、厚生大臣、いま私が述べましたように、歴史的な経過を経て、この問題はいまいわば一つの山にかかっておるという状態であります。一昨年の一月のコロンボ会談決裂以来、断続的にいろいろな往復があります。書簡往復やいろいろな折衝はあるようですけれども、何かとだえるがごとく、とだえざるがごとくという形でもってここ二年の間経緯をしておるのです。私はこういう状態で推移をすることは許さるべきでないと思うのです。厚生大臣は厚生行政のいろいろな施策に対して、きわめて野心的な構想を示されて今日までわれわれに対処されてきました。私は内田さんの人柄からいって、言われたことは必ず実行する、うそをつかない張本人であると思って信頼をしてきておるのであります。この際私は、この帰国問題に対してあなたがやはりこの在任中に勇断をもって処理する、こういう必要があると思うのです。これは外務大臣や法務大臣やあるいは官房やその他にいろいろ関係をするから、おればかりの責任じゃないというようなことをあなたが答弁されてははなはだ困るのでありまして、そういうことではありません。人道的な立場、しかも日赤と一番関係の深い立場、いろいろな戦後処理の事務をやってきて、この間も戦傷病者戦没者遺族等援護法が通過するというようなことでもって、いわばそれらの援護についても十分な関心を持っておる当面の責任者である厚生大臣が、この問題に対して責任を持って対処することは私はどうしても必要なことである、こういうふうに思っておるのでありまして、政府を代表する立場でひとつ厚生大臣、この帰国問題に対して私はこの前もちょっぴり聞きましたけれども、ひとつ善処しましょう、できるだけひとつ努力しましょうというような答弁があったんですね。予算委員会等においても同様であります。しかし、もう今日許されない事態であると思うのです。  私は実は私の質問の中に、「よど号」問題を持ち出すことは避けたいと思っておるのであります。「よど号」問題の中で北朝鮮がとった人道的な立場、こういったことを考え合わせてこの問題を処理すべきであるというふうに、私は実は言いたくないのであります。しかしそういう歴史的な経過、それからつい最近起こったあの種の問題、こういう突発的な事故に対して朝鮮民主主義人民共和国がとった態度というものも、これは忘れてはならないことではないか、事実ではないか、こういうふうに思っておるのでありますが、これらのことをあなたは頭の中でいろいろとお考え合わせの上に立って、当然この際、いわば抽象的な答弁でなくて、あなたのほんとうに腹の底から、とれに対してはおれが責任を持って対処するという答弁をいただきたいと私は思うのであります。  このことはその帰国を待ち望んでおる、すでに申請をした一万七千人の在日朝鮮人人たちはもちろんでありますけれども、私は日本の隣国に対するところの将来の立場からいって、人道的にこれを処理する、こういう基本的な態度を堅持をして、政府がこれに対して断固たる態度をとるということを、この際ひとつ大臣から表明してもらいたいと思うのです。いかがでございますか。
  12. 内田常雄

    内田国務大臣 田邊さんからいろいろ御激励を交えてのお尋ねでございますが、まことにどうも残念でございますが、私が、この件に関しましては、何ぼ言われましても、政府を代表しておれがこうするのだという決定的なお答えができません。ただ、御承知のように、この問題の処理は日本赤十字社が当たっております。日本赤十字社の目的は、いわば国際的な厚生省と申しますか、あるいは厚生省と目標を同じくする活動をされておる機関でございますし、またある場合には私ども日赤の機構に関与する場合もございますので、さような面から私どもはこの日本赤十字社のこの点についての活動を見守り、またこれに協力し激励をしておる、こういう立場にございます。もう十分御承知のように、私どものほうが日赤活動について、この件ばかりではございません、その他の活動につきましても日赤を押えつげたり日赤に命令をする仕組みになっておりません。日本赤十字社法第三条を見ましても、日本赤十字社の自主性は尊重せられなければならない、こういう規定がございまして、そもそも特殊の形態を日赤が持っておられますけれども、厚生省の外郭団体としてつくったということではなしに、赤十字国際条約にのっとりまして、その一機構としてつくられたものでありますので、繰り返して申しますと、私ども日赤に協力はし激励はし、またその活動を見守ってはおりますけれども日赤を押えつけてこうしろということは実際できません。  かつまた、私はひきょうで申し上げるわけではありませんけれども、この問題は、国内の出入国管理令とか、あるいは外務省の諸手続の関係がありまして、私は人道的に立つ大臣でありますけれども法律的、外交的には残念ながら、そういう問題までもまとめて政府の処置、見解をここで代表して述べられないということであります。  ただ、私が関心を持っておるところによりましても、日赤はよくやってくれておると思います。前の協定が満了いたしまして、その後の事態を控えておるわけでありますが、しかし協定が満了いたしますと、これは北朝鮮の国籍を持って日本におられます方々の日本からの出国手続というものは、一般の手続によりましてなかなかめんどうな手続を踏まなければならないわけであります。そのめんどうな手続を踏みながら出国をされる方もあるようでありますが、しかしそれでは大量の出国に間に合わないということで、日本赤十字社赤十字精神に立って、協定満了後の今後に即しましても、何らかのひとつ便法をとりたいという非常な御熱心な願望を持ちまして、御承知のように、またただいま田邊社長からお話がありましたような、何らかの一つの特別の措置を案出して北朝鮮赤十字会のほうとも接触をしておるということは、私は非常に敬意を表しておるわけであります。何とかこれが両赤十字会の話し合いで、この特別手続、簡素化手続というものが話がついて円満にいくことを私ども期待しながら、現在のところではその線に沿って日赤と協力したり、また激励をしたりしたい、こう考えておるものでございます。
  13. 田邊誠

    田邊委員 この問題は、実際は政府がやるべきことなんですよ。ただ国交が回復してない国との間のことだから日赤にこれをまかしておるんですから、日赤に対して、日赤法第三条か何か持ち出して大臣言われたけれども、そういうこととかかわりがないのです。ですから、政府が当然やるべきことであるけれども、いままでのような立場であるから、したがってやむなく日赤に実は事務を委任しているかっこうですから、そういう立場で厚生大臣は、日赤に対していろいろな面でもって接触をされ、いろいろと話し合いをされることは、これは必要だということを私は言っているのでありまして、日赤に対して何か特別な監督をする機関でないからくちばしはいれられないというようなことは、もう逃げ口上でありまして、そういうことは私はこの問題については通らないと思う。立場が違うのであります。そこで大臣は、日赤がいろいろと苦心をされておることを見聞きしておるから、いろいろ激励をしたい——私がきょう外務省と法務省を呼んでないのは、実はそこに意味があるのですよ。これは外務省、法務省等のいわば役所のペースでもってこれを考えますると、何か外国人並みに取り扱わなければ済まないような、そういう感覚があるのです。私は、そういう一般外国人並みに取り扱うというようなこととこの問題は当然切り離して考えなければならぬことだ、それを同一視するところに大きな実は問題があるというふうに認識をいたしておるのでありまして、一番最初に私が申し上げたような経緯で、いわばいま日本におる在日朝鮮人人たち立場というのは非常に苦しいのであります。われわれは戦前からの状態というものを、もう一度想起してみる必要があると思うのであります。したがって、帰国を希望される人たちに対しては、支障なくこの事業が行なわれるということ、これが本来の本旨であって、その本旨に基づいてジュネーブ協定が結ばれた、こういう事実があるわけであります。  そこで、日赤が一生懸命努力されておる、私はその努力の様子をひとつお聞きしたいのでありますけれども、大臣、実はそういう経緯だから政府日赤にまかしておると言うけれども——形式的にはまかしておるのですよ。しかし実際には日本政府の考え方、日本政府の態度というものが、日赤のいわば行動を左右するものであるということだけは、これは間違いない事実なんです。ですから、ほんとうにまかしておるならいいですよ。まかせるならまかせる方法はあると思う。したがって、この問題はいかなる困難があっても早期に解決すべきだという意向を日本政府はお持ちでありますか。いま申し上げたようないろいろの問題がありますけれども、その入国手続等の問題についてもできるだけ簡素化をして、そして従前の例にならって、代表団入国を認める、こういう立場に立って政府はこの問題に対しては人道的立場で早急に解決をはかるべきであるという、そういう態度をお持ちでありますか。この点は言えるでしょう。私は厚生大臣として当然言える立場だろうと思うのであります。  そこで大臣がそういう考え方をお持ちでありますならば、官房に対してもあるいは法務省や外務省に対しても、当然あなたはそれを働きかける、こういうことは歴代の厚生大臣がやってきたのですから、外務大臣や法務大臣が幾ら渋ってもおれはひとつやるぞと言って、園田さんでもみんなやってきたのですから、あなたはその点についての勇気をお持ちであり、人道的な立場を堅持されておる大臣であると私は認識をするから、実は赤裸々に、まじめにあなたの態度をお聞きしたいというので質問をいたしておるのでありますから、ひとつぜひ問題をはぐらかきないで、あなたの腹の底にある決意を述べてもらいたい、それで政府の部内をまとめるという決意を述べてもらいたい、こういうように思うのです。
  14. 内田常雄

    内田国務大臣 日赤に非常に御苦労を願っておるわけでございますが、これが、政府がやるということになりますと、やはり外交手続でありますとかあるいは法令上の拘束とかいうことがございまして、いまの北朝鮮日本との関係におきましては、なかなか事が進まないということで、私どもは何とかこの問題は人道的に解決して、そして円満に処理したいという願望がございまして、日赤に各国の赤十字会との連携あるいは国際赤十字機関との連携等によりましてお願いいたしておるということ、重々御承知のとおりでございます。でありますから、政府がやるということになりますとかえって片づかないという面に問題があります。私がたびたび申し述べましたように、私ども立場は全く日赤活動と同じ立場を国内的には厚生省としてやっておるものでございますし、また日赤とも関係がございますので、日赤を激励し、協力いたしまして、法律や外交手続ばかりを前面に押し出さないで、日赤の御苦労を高く評価しながら、円満な解決を期待しながら、私は私なりにできるだけそういう影響力を政府の内外にも及ばすようにつとめておるということでございまして、これが厚生省としては最大限のところでありまして、私が他の大臣を兼任をいたさない限り、なかなか法律上の手続その他の拘束との妥結がつかないものでありますので、むしろ厚生省が日赤と同じ立場に立って、私が法務大臣になったつもりになったり、外務大臣になったつもりにならないでやることのほうが、私は日赤とともに効果を来たすだろうということで、その範囲におきまして努力をいたしてまいっておりますし、またまいるつもりでございます。
  15. 田邊誠

    田邊委員 そこで大臣、いまはチャンスなんですよ。チャンスという意味はおわかりでしょう、言わなくても。いま内外の世論も、北朝鮮に対して人道的な立場で対処すべきであるという、こういう世論がわき上がっているところですよ。高まっているところですよ。政府もこれに呼応してやれる実はチャンスなんですよ。これは一部のそれに対する障害や妨害があっても、乗り越えてやれるチャンスが到来している。いまこの時期を失してはなかなか問題の解決にならない、こういうように私は思っているのです。私の言うチャンスの意味はおわかりでしょう、おわかりのとおりです。ですから、この機をねらって早急の解決をはかってもらいたいと私は思うのです。こういうことですから、大臣、いまの私の言う意味合いがおわかりであれば、いろいろ善処されているという、こういう気持ちはよくわかりましたけれども、早急の解決についてひとつ大臣の誠意あるお答えをいただきたい、このように思うのです。
  16. 内田常雄

    内田国務大臣 具体的の解決の方法などにつきまして私がいろいろ申し述べないほうがいいと思いますが、一つのチャンスであるといたしますならば、こういう時期に田邊委員日赤の副社長並びに私とこういう問答を公の場でわかしておることは、非常に私は意味があることであると考えます。
  17. 田邊誠

    田邊委員 禅問答をしているわけじゃないけれども、大体私はあなたの真意を読み取っているつもりだから理解をいたします。  そこで田邊社長、私は多くのことをここで実は言いたくないのであります。あまりこまかい問題にまで突っ込んで質疑をすることは問題の解決に役立つものではないという気持ちも私はいたしますので、こまかいことを述べません。しかし、要はいま申し上げたように入国手続の問題、コロンボ会談では文章化の問題もありましたけれども、しかしその後代表団入国手続簡素化の問題でありますが、私はこれらの問題はやはり話し合いをすれば当然解決の糸口は見出せると思っているのですよ。ですから、書簡往復ももちろん意味はあります。しかしいま大臣が言われたように、私がいま発言したように、いま世論は北朝鮮のこの問題について当然解決ができるチャンス到来だと認識をしているわけですね。そういうことになれば、私はこのチャンスをのがさずにとらえて、日赤は朝赤との間においてこの問題に対する処理をすべき時期である。そういう形でもって朝鮮赤十字会との間における具体的な折衝を早急に開始される、そういうことが必要であると私は認識をしているわけですけれども、そういうような手だてをとる御用意がございますか。
  18. 田邊繁雄

    田邊参考人 赤十字といたしましては、ただいまお話のあったことばを待つまでもなく、できるだけの努力を現在までにいたしております。ただ公にとかく申すことは私は差し控えたいと思いますが、政府の権限を侵さない範囲においての努力を誠心誠意実行しているつもりでございます。これは今後もできるだけ早急に解決したいと念願しておりますので、今後もできるだけの努力を続けてまいるつもりでございます。
  19. 田邊誠

    田邊委員 いままでいろいろと姿に見えない努力をされていることに対して、私も実はいろいろとお聞きをしているのであります。そういった点からひとつ日赤の今後の具体的な折衝が早急に始まることを私は期待をしていきたいと思うのであります。これは日赤の努力だけではありません。政府も当然そういう立場をとるべきである。大臣からもそのことはさっきお話があったかと思うのであります。したがって、そういう立場でぜひひとつ早期の解決がはかれるように——実は理屈を言いますると、この間ハイジャックで行きましたね。あれはいろいろと入国手続からいったら問題でしょう、北朝鮮は。山村政務次官も行ったけれども、それをそのまま返しているというあの事実を学ぶべきであると思うのですよ。したがって、そういった立場で問題の処理に当たりますならば、私は必ず打開の道あり、こういうふうに思っているのであります。これは日赤が最大限の努力をしていただくことがぜひ望ましいと同時に、政府もその立場を当然擁護、援護、協力をするということが必要だろうと思うのであります。  そこで私は最後委員長にお伺いしたいのでありまするけれども、いま私は政府に対して、この種の問題の早期解決を特にお願いをしてまいりました。日赤に対しても、具体的な折衝を早急にひとつ開始をしてこれが解決に当たるべきことを特にお願いをして、それぞれの誠意ある御答弁がございました。私は、国会もこの問題に対しては、第三者的な傍観をする立場を許されないと思うのであります。したがって当委員会は、この問題に対して長い間実は取り上げてきた経緯もございます。したがってこういう際でございますし、チャンスでございますから、国会が近く閉会になりまするけれども、閉会前にわれわれは社労委員会の与野党を越えて、この問題に対してはできるだけ国会としても協力するという立場を確立することは、きわめて望ましい姿ではないかと私は思うのであります。したがって委員長にこの際、理事会等においてこの問題に対して与野党を通じて具体的な話し合い、いわゆる衆議院社労委員会としてもこの問題に対しては十分政府を督励し、日赤に対して激励を送り協力をして、早期解決をはかるための具体的な相談をしてもらいたいというように私は思うのでありますが、そういう御用意がおありかどうか、委員長に御質問したいと思うのであります。
  20. 倉成正

    倉成委員長 田邊君の御意見については、理事会にはかって善処いたしたいと思います。
  21. 田邊誠

    田邊委員 それではほかの委員の質問もございましょうし、大臣と田邊社長の御答弁の中に十分対処される決意と今後の誠意がくみ取れる、こういうふうに思いますので、その線に沿って最大限の努力をされることを心からお願いをして質問を終わりたいと思います。よろしくお願いいたします。
  22. 倉成正

    倉成委員長 渡部通子君。
  23. 渡部通子

    ○渡部(通)委員 私も北朝鮮側の方たちを一日も早く帰していただきたい、そういう立場から一、二の質問をいたしたいと思います。  いまも田邊委員のほうからいろいろ突っ込んだお話がございまして、念を押す形になると思いますが、確かにこの問題は戦後処理としても当然もう終わっていなければならない問題だと思います。沖繩が返還をされまして戦後は終わったということがささやかれておる今日において、国内にこういう大きな人道上の問題をかかえておるということは、日本の国としてもたいへん悲しいことだと思います。それにもう一つは、やはり大きな人道主義の立場に立てば、当然もう解決されていなければならない、こういう立場で、北朝鮮のお方たちをなるべく早く日本の国の誠意としてもお帰しをすべきではないか、こう思うようなわけでございます。国会でもたまたまこの問題は議論をされてまいりまして、必ず人道上の重要問題として善処する、こういう答弁が繰り返されてきたと思います。あるいは赤十字の自主性にまかせたい、こういう答弁が繰り返されていたようでありますが、人道上の重要問題といえば、いろんな政治上のいきさつとかあるいは法的拘束力とか、そういうものを越えた次元で解決をされるものが人道上の重要問題だ、私はこう理解をしておりますが、そういう立場で、一体、この二、三年の間に御答弁どおりの人道上の問題として解決の足跡はあったのか、まずこれを伺いたいと思います。
  24. 田邊繁雄

    田邊参考人 赤十字といたしましては、もっぱら文字どおり人道上の問題としてこれを解決するということに努力を傾けてまいっておるわけでございます。  人道上の問題と申しますのは、たとえば在日朝鮮人の帰還の問題について申しまするならば、帰ることを希望しておられる在日朝鮮人一人一人の人道上の利益を確保する、こういう立場でございまして、それ以外の一切のものを含まないわけでございます。さような立場に立って、赤十字はできるだけの努力をしてまいりますし、先ほど申し上げましたとおり、必ずしも政府の指図を受ける性質のものではないと思います。ただし、先ほど申し上げましたように、これが政府の権限を侵すようになっては相ならぬと思いますので、そこは慎重に考えまして、政府に要請すべきことは要請しつつ、最大限の努力をいたしておるつもりでございます。お説のとおり今後——今後と申しましても遠い今後ではございませんが、従来どおり努力していく考えに変わりはないものと考えております。
  25. 渡部通子

    ○渡部(通)委員 大臣に伺いたいのですが、赤十字としては最大の努力を払ってきたという立場でございますが、人道上の問題として政府あるいは厚生省、所轄官庁としてどういう実績をあげてきたか、どういう人道上の配慮をなすったか、この点を伺いたいと思います。
  26. 内田常雄

    内田国務大臣 これは全く法律上、外交手続上の問題といたしますと、北朝鮮日本との間には国交関係がないということで、非常にむずかしい手続を踏まなければならない、また個々の北朝鮮所属の方々としてもとてもそれにはたえられないという状況であろうと思います。でございますので、そういう国内法上の法律手続あるいは外交手続を乗り越えて、従来も日本赤十字社が中心になって今日まで約十万近い方々の北鮮への帰還というものを実現してきたということは、私は一にかかって日本赤十字社の非常な努力の結果だと思います。またその後協定期間中出国手続の申請をされて、まだ帰還漏れになっておられる方々が一万数千名あったと聞いておりますが、こういう方々の帰還につきましても、この赤十字社が非常に努力をされて、従来と同じような手続で出国できるようなところまで、話し合いは日本の国内的には進んでおると聞いております。でありますから、これなども私は——私どももそうでありますが、赤十字社の努力の結果であると思います。またその後さらに帰還を希望される方々が出てきた場合に、またくるでありましょうが、それをどうするかということが——これは御承知のように問題の手続簡素化案の課題になっておると思いますが、そういう課題を出すにいたしましても、赤十字社がもっぱら法律手続とか外交手続を乗り越えて、人道的見地に立って努力をされておる、それに私ども厚生省といたしましても協力を申し上げておる、こういう段階でございまして、日本赤十字社なかりせば、北鮮帰還問題というものは今日までの実績も得られなかったし、またその後の処置についても、懸案を残しながらもここまで進んでいない、これは赤十字社を高く評価していいと思います。
  27. 渡部通子

    ○渡部(通)委員 朝鮮民主主義人民共和国の代表者の入国手続がたいへんなネックだ、こういうことになっておりますが、それを簡素化する道あるいはこれの解決策という見通しはいかがなものでございましょうか。
  28. 田邊繁雄

    田邊参考人 これは幾ら赤十字ががんばりましても、政府の権限に属する事項でございます。つまり行政でございます。赤十字としては、この行政に対しましていろいろと御希望は申し上げておりますが、どうも赤十字の独断でこれをきめるわけにはいかない問題でございますので、かようなむずかしい問題は少し先に延ばして、政府において妥当な考慮を払っていただくように赤十字が努力をするということで解決したいというのが、先ほど申し上げました九月二十八日の提案であったと思います。政府におかれましても、北朝鮮からの申し出もございましたので、国際赤十字を通じてそれを解決する、入国手続赤十字国際委員会を通じてこれをなすようにしたいというお考えでございましたが、これは北朝鮮側の同意を得ることができない、こういう情勢でございましたので、非常にむずかしくなってまいっております。今後どうしますか、赤十字としても、この問題解決のために、でき得る限り、いま一番望ましい方向について政府にお願いをしていきたいということで努力したいと思っております。
  29. 渡部通子

    ○渡部(通)委員 そこがやはり一番問題だと思うわけです。大臣のほうでは赤十字に敬意を表しているという仰せでございますが、やはり一番ネックになっている代表団入国手続の問題、これは赤十字としては政府にお願いをするしかないという立場でございまして、そのネックになっている問題のかぎを握っているのは政府ではないか、それに対して、厚生大臣とされましては、法務省も外務省も官房も説得して、この問題をここで何とか突破口をつくって差し上げたい、これだけの努力、バックアップがなければ、赤十字を尊敬し激励するというお立場には当たらないのではないか、こう私は思うわけで、たった一つといわれるこのネックの突破口を何とか厚生大臣としてお開きになる御意思は早急にないか。いま田邊社長のほうでは、先に延ばしてとおっしゃいましたけれども、先に延ばしていたのでは、帰国事業も先に延びてしまう、こう思うのでありますが、この点の厚生大臣の御意見いかがでございましょうか。
  30. 内田常雄

    内田国務大臣 私のほうは人道的案件を取り扱う役所でございまして、法律案件とか外交手続の案件を取り扱いませんので、私は詳しいことはわかりませんが、いまの北鮮の方々であれ、その他の外国の方々であれ、向こうからこちらに入国するためには一つの法律上の手続、外交上の手続が要るわけでありますが、そういうことをやりますと、外国にある領事館のビザを求めて入国しなければならぬということになりますので、この問題は、もう赤十字精神、赤十字相互間の話し合いで解決したいということが日本赤十字社当局の考え方で、厚生省といたしましても、それに協力し、その方向で激励いたしております。その結果が日本の外交機関でありますとか日本の在外機関などの手をわずらわさないで、幸い国際赤十字機関というものがあるから、この三者の間の手配でやることが一番よかろうというところまで、この話をやっとこさっとこ時間をかせぎながら持ってきておるということは、私は高く評価さるべきだと思うわけでありまして、これこそ赤十字精神の一つのあらわれでもあり、また筋ではないか、こう現在においては思っておることでありまして、そのことは十分御認識をいただいたり、また各方面からも評価をされて、その結果、それが実行されれば一番いいかと私は思っておるわけでございます。
  31. 渡部通子

    ○渡部(通)委員 話が堂々めぐりになりますし、大臣はお出かけのようでございますので、結論を急ぎますけれども、どうも伺っておりまして、赤十字社のほうでは、もう少し政府に理解をしてほしい、それから行政関係のほうでは赤十字を激励するといったような、そこに何ともいえない、もう少し密着してもいいのではないかということを感ぜざるを得ないわけです。私も、「よど号」事件を持ち出すまでもなく、いまたいへんはずみのついたときでございまして、この問題を人道上として扱うという——人道上ということは、そういったいろいろのたてまえとか、いままでのいきさつとか、法律とか、そういったことを越えた次元でお互いが話し合ってみよう、腹を割ってみよう、そこで頭の切りかえをいたしていただきませんと、人道上の解決ということは、やたらに法律に振り回されたり、メンツに振り回されたりして、低次元で終わってしまうのだと思うわけです。私は、日本の政治にそういう高い人間主義を基調としたものが持ち込まれてこない限り、やはり法律によって人も国も振り回されてしまう。そこを、政治家としては、人間主義を基調として、もう月へ人間が行く時代なんですから、ひとつ人間として、裸になって解決をしようじゃないか、こういう日本の政界にも大ものが出ていただきませんと、突破口は見つからないのではないか。赤十字社のお立場もたいへんやりにくくなるのではないか、こう思うわけでございまして、所轄官庁として厚生大臣に、ぜひともそういう勇気をお持ちいただきたいし、赤十字社も、もう一歩勇断をもって壁を破っても、この問題を人道問題として扱う以上は、何とか早期の解決に持ち込んでいただきたい、これを要望する次第でございます。  最後に、委員長にも一言お願いでございます。田邊委員からもその話は出ましたけれども、社労委員会としても、決議案を出すなりあるいは理事懇談会等をお持ちになりまして、ぜひともこの問題は、一刻も早く解決をするように、官房のほうにでもぜひ話を持ち込んでいただきたいし、世論に訴えていただきたい。これをお願いする次第でございます。
  32. 倉成正

    倉成委員長 田畑金光君。
  33. 田畑金光

    ○田畑委員 まず田邊社長にお尋ねいたしますが、コロンボ会談で両者の話し合いのまとまった内容と、その後具体的な入国手続、特に新潟に北鮮の赤十字代表が入国してくる手続の問題について話が決裂した、こういうような、先ほど田邊委員に対する答弁があったと思いますが、もっとその辺の事情を簡潔にお答えをいただきたいと思うのです。
  34. 田邊繁雄

    田邊参考人 コロンボ会談のときには、先方としては、当然入国手続の簡素化を極力主張して、そこできめてもらいたいと非常に強く主張したわけでございます。ところが、いろいろの事情がございまして、その場で簡単にするということを決定することはなかなかできなかった立場にあったわけでございます。これは政府の問題でございますが、赤十字社もいろいろ努力しましたができなかった。そこで、赤十字社といたしましては、向こうと話し合いまして、入国手続の問題は、ここで幾ら話し合ってもきまらない。これがネックになって全体が進まないということになってはまことに残念であるので、これはひとつ、少し先へ延ばして、まず暫定措置をやっている間にそれを片づけようではないか。すなわち、文書としては、入国手続を簡単にすることについては、日本政府において妥当な考慮を払うように赤十字も引き続き努力をするということで、やっと北朝鮮側にも了解していただいた次第なんであります。コロンボ会談がだめになったというのは、この問題ではない、別の問題でございましたが、その後、昭和四十三年の九月二十八日に、私どもはその会談の結果に基づきまして、先方の意向なども十分参酌して、一つの提案をいたしたのであります。  で、この中に書いてありました入国の手続につきましては、コロンボ会談と同じように、政府において妥当な考慮を払っていただくように赤十字は努力する。コロンボ会談において話し合ったことと全く形式の同じような文書を書いて先方提出したわけなんです。この点については、若干私どもは懸念しておったことでありますが、先方から、どうもわからないところがある、わからないというのは何かということでいろいろ聞きただしました結果、九月二十八日われわれが提案した案にはたいした意見はない、違った意見は持っていない。そこでほとんど意見が一致したわけです。多少ことばであるとか、言い回しであるとか、名称とかいう点については、向こうも何か言いたいことがあったようでございましたが、それはたいした問題ではない。ただ入国の手続について、半年もたったのに依然として政府において妥当な考慮を払うようにするということでは、どうも理解できない、こう言ってきたのであります。  そこで、日本側といたしましては、政府においていろいろ努力をせられまして、国際赤十字委員会を通じて入国手続をするということをおきめになりましたので、それを提案という形で先方に申し入れたわけでございまするが、これもどうも向こうの気に入らない、こういうことで、この案もだめになったということを先ほど申し上げた次第であります。
  35. 田畑金光

    ○田畑委員 そうしますと、国際赤十字の介入をまって、要すれば第三者の介入をまって入国手続の問題について処理していこう、こういう日赤提案というものが向こうのいれるところとならないで、話が決裂をして今日に至った、こういうことでございますか。
  36. 田邊繁雄

    田邊参考人 表面はそうでございます。
  37. 田畑金光

    ○田畑委員 表面はそうであるがということになってきますと、表面でないほうはどういうことなんですか。そこを私はお聞きしたいのですよ。  さらに私は、ここで大臣にも考えていただきたいのですが、いまの答弁の中にもありましたように、要すればコロンボ会談以後の問題の処理にあたっては、政府で妥当な考慮を払う、こういうことを北朝鮮赤十字に約束されて話が進んできておるわけです。そこにすでに政府がこの話し合いには関与されておるということが、いまの田邊社長のお話の中に明確に浮き彫りにされておるわけです。大臣は、あくまでも赤十字同士の話だ、このようにお答えになっておりますが、現に政府が妥当な考慮を払うということを前提に日赤は北朝鮮赤十字に申し入れをして、そうして話し合いが進んできたということが、いまの御答弁の中で明らかになっておるわけです。この点、私は先ほどの大臣のお答えは、政府関係はないのだということはお取り消しを願うことが第一。  同時に、この話の実質的なかぎを持つのは日本政府であり、日本の外交の一環としてこの問題が扱われておるということ、この問題について、政府としては、客観的な情勢の発展にかんがみて、人道主義的な立場に立って処理すべきではないかというのが先ほど来の質問の内容だと思いますが、この点についての見解。  さらに、いまの田邊社長のお話では、表向きは国際赤十字が介入して話をやりましょうということが、北鮮赤十字の拒否された理由になっておるというわけで、表向きはと言われておりますが、裏向きは実際は何なのか、そこをひとつお尋ねをしておるわけです。でなければ、先ほど来の質疑応答を聞いていて、何をお答えになっているか、聞くほうにはさっぱり理解、納得できぬわけです。その点をはっきりしていただきたい。
  38. 田邊繁雄

    田邊参考人 先ほど私は、政府の権限を侵さない範囲において赤十字は最大限の努力をいたしておる、かように申し上げたのであります。そこでちょっと口をすべらしまして、表向きと申しましたが、実はこれは、ひとつ御容赦をいただきたいと思いますのは、経過内容というか、向こうと交渉した内容については、お互いこれは言わないということになっております。ちょっとつらいところでございますが、北朝鮮赤十字との約束で、これは秘密にしておくということになっておりますので、御容赦願います。
  39. 内田常雄

    内田国務大臣 出国入国の手続は、法律的には、もちろんまずその法律があり、また外交手続等があるわけでありますが、日本と北朝鮮との従来の歴史的な関係もあり、また今日の関係もありますので、そういう法律的手続や外交手続などを乗り越えて、人道的精神で解決をはかりたいということが、私どもの腹の底からの親切な気持ちでございます。その点はひとつ御信頼をいただきたいわけであります。  そこで、これは法律的でありますと、外国から人が入ってくるわけでありますから、海外にある日本の機関の、先ほども申しますように、査証であるとか、あるいは旅券の手続とかいうものが要るのではありましょうが、それをやらないで、あくまでも赤十字精神、これは別のことばで言えば、関係国の赤十字社あるいは赤十字会あるいは国際赤十字機関というものの相互の働きを一〇〇%生かすことによってこの問題を解決したいということで、一昨年九月のコロンボ会談のあと、これは日赤も非常に苦労され、また当時の政府関係方面も苦労されて、政府は介入しない形をとって、国際赤十字機関というものがある程度そこに介入をする形で、すべて赤十字精神の中において、あるいは赤十字機能の中において解決するという案を、昨年の春日赤から先方赤十字会に提案をいたした、こういうことになっておるはずでございます。これはまあ政府が表に出てしまいますと、かえって問題がやかましい手続を経なければならないことになるかもしれないし、あるいはまた、その他の関係国もあることでございますので、いろいろな問題も介入してきて、一向らちがあかないので、内面的にはともかくという意味で田邊社長もおっしゃったと思いますが、とにかく、あくまでも国際赤十字関係の中において解決するということで一つの提案までまとめ上げて、私ども日赤に協力し、激励しながら、一つの案をまとめ上げて——私はまあ非常にかっこうのついた案であると思うものの一人でありますが、そういうことで一つの提案をいたしておるわけでありまして、その案が無理であるとか無理でないとかいうことになりますと議論になりますから、私はここでは何も申し上げませんが、いろいろな苦心の存する形で実質的には非常にスムーズにいくような案であると考えて、私ども日赤に協力をし激励をしておる、こういうわけでございます。回りくどくておわかりにくいかもしれませんが、わかっていただける面も十分あると思います。
  40. 田畑金光

    ○田畑委員 大臣、これは前の前の園田厚生大臣のときに質問しても同じようなことをお答えになったわけです。三年前ですよ。また、前の斎藤厚生大臣のときにお聞きしても同じようなお答え、またいま大臣からお話を承っておりますと、昨年の春、国際赤十字を通じて最も妥当な案を提示をしておるというお話でありまするが、もうそうなってきますと、一年以上たっておるが、何も具体的な成果があらわれてきていないということですね。大臣のおことばをお聞きしますると、法律的に、外交的に処理するよりも、人道的な精神で問題の解決をはからねばならぬ。これが親切だ。ところが、その親切が一向に実を結んでこないということですね。また、田邊社長のお話を聞いておりましても、言うなら禅問答みたいなことで、どこに向かってどこが一体話の隘路になっておるかわかりません。  承りますが、いまの大臣のお話と関連するのかどうか知りませんが、コロンボ会議のあと、モスクワで非公式に両赤十字の間で話し合いがなされておりますね。その話し合いは、どういうところで問題が煮詰まらないのか、対立しておるのか、その点を実はお聞かせいただきたいと思うのです。国会でもありますし、赤十字というものは、そんなにあいまいもことした話し合いで物事を処理されるところではない、こう思うし、とにかく一万七千名という人が、あの協定の切れる段階において帰国希望者としてすでに登録をされておるのでしょう。一万七千名の人たちは、もうすでに帰る支度をし、準備をし、それが今日いろいろな社会的な問題になっておるということを考えてみますなら、二年も三年も経過して、今日なおかつ禅問答で処理されるということは遺憾だと思うのです。この際、昨年のモスクワ会談——非公式に持たれたモスクワ会談でどういう話し合いがなされ、どういう点で話が決裂したのか、あるいはそれがまとまる方向にいま来つつあるのかどうか。この点をはっきりお答えを願いたいと思うのです。
  41. 田邊繁雄

    田邊参考人 ただいまのおことばの中に、申請済み未帰還者の話がございましたが、これに対する措置、つまりカルカッタ協定に準じてこれを取り扱うということについては、——一万七千名の問題ですね。これについては、実は北朝鮮側と実質的に同意ができておるのです。もう判を押すばかりになっておるのです。その後の帰還を希望する人たちの問題についても、もうすべて話し合いは済んでおるわけです。ただ乗ってくる代表の手続問題という、いわば本体でない問題で話し合いがつかない、こういう状態なんです。  そこで、いま私、表向きはそうなっておると申し上げましたが、なかなかこれは赤十字としてはつらいところでございますが、いまお話がございましたので私は申し上げますが、ごく簡単に申しますので御了承を願いたいと思いますが、国際赤十字委員会を通して入国の手続をするという案を提示しましたら、向こうが断わってきました。これに対しまして、政府としては強く向こう側へ再考を求める、そういうことをすべきであるということで、赤十字にさような措置をとることを強く要請してまいったのであります。そのような情勢のもとに、赤十字としてもいろいろ考えまして、赤十字も同意をして、このような提案に——赤十字も向こうに提案したのだが、向こうが一応断わってきた、あるいはさんざんわれわれの悪口を言って断わってきたということに対して一応釈明しなければいかぬ。一応どころか、大いに釈明しなければいかぬ、こう考えました。同時に、もしも向こうが、釈明をしても断わった場合はどうするか。これは当然九月二十八日に提案したその案に戻ってこざるを得ない。何となれば、先ほど、国際赤十字委員会の案を提出した際に、九月二十八日の提案を引っ込めたわけでございませんので、その案が当然生き返ってくる、こうならざるを得ない。  そこで、われわれは、その当時の情勢において、先ほど大臣もるるお述べになりましたとおり、国際赤十字の案をベストとして考えておられた情勢でございます。それ以上の代案を望むべくもない情勢でございますので、赤十字としては、九月二十八日に提案したその線で先方にこれを御了解していただこうと思って最大限の努力をいたしました。いろいろのことを考えましていろいろの説明をいたしまして、先方の同意を求めるべく努力しましたが、とうとう向こうの同意を得られなかった、かような情勢でございます。その内容の詳細につきましてはひとつ御判断をいただきたいと思います。
  42. 田畑金光

    ○田畑委員 そうしますと、田邊さん、例の一万七千名の話し合いは、お互いもう話し合いがついておるんだということですね。さらに、その後の帰国希望者についてもほぼ話し合いがついておるのだということですね。そうしますと、問題は、いまお話しのように、国際赤十字という第三者を中に立てて帰国手続その他について処理する、そこが話がつかないんだ、もしその話がつかぬということになってくると、九月二十八日の段階のその時点の話し合いに戻らざるを得ないんだ、このように理解してよろしいわけですか。
  43. 田邊繁雄

    田邊参考人 そのとおりでございます。
  44. 田畑金光

    ○田畑委員 そうしますと、昨年非公式にモスコーで会談をされたときの話し合いも、そのような話をめぐってのものであったのかどうか、それをひとつはっきりしていただきたいのです。
  45. 田邊繁雄

    田邊参考人 私がいま申し上げましたことは、まさにただいまお話しになったモスコーでの会談というか、これは公式の話し合いではなしに、政府は御存じないことになっております。政府には御相談せずに赤十字独自の判断でやったことでございますので、大臣は御存じがないはずでありまして、事実政府にはいろいろ相談しておりません。そこで、先ほどお話ししたような九月二十八日の提案に戻ってこれをお考え願いたい、かような努力をいたしたわけでございます。
  46. 田畑金光

    ○田畑委員 大事な点でございます。政府に相談しないことになっておる、それはそうでしょう。しないことになっておるということだから、その辺の意味はよくわかります。政府もよく御存じだが、まあひとつ政府の知らぬという形で話し合いを進めてきた、こういうことでしょう。具体的には文書にするかしないか、入国手続について、あるいは北鮮の赤十字の代表が新潟に帰還船に乗ってくる、その問題について、そのあたりを文書にするかしないかということで結局両国の話し合いがぶつかっておるということなんですか、その点どうですか。
  47. 田邊繁雄

    田邊参考人 先ほど申し上げましたように、私のほうでは、日赤では政府の権限を侵さない範囲において話をまとめたい、かような考えでございますので、当然九月二十八日の線でまとめるという考えでございますので、九月二十八日の提案に触れるようなことになりますと、これはどうもまた違った、九月二十八日の提案より先に進んだ案になりますので、これはどうしてもできない。したがって、結論から申しますと、九月二十八日の提案の線で話をまとめることはできなかった、こういうことでございます。
  48. 田畑金光

    ○田畑委員 私は、大臣にそこでその点をお尋ねするわけですが、大臣、結局九月二十八日の線でなければこの話をまとめることはできないんだ、こういうことでございますが、とにかく九月二十八日ということは、たしか文書にするか、口頭でお互い尊重し合うか、ただそれだけの違いじゃなかったですか、どういうことです。
  49. 内田常雄

    内田国務大臣 日赤当局が、私が先ほど来抽象的に申しますように、非常な努力をされて、私がほのかに聞いているところによると、昨年の三月のような国際赤十字の国際的活動を中心として、そして北鮮当局に対する便宜を認めた案をつくられたようでございます。これは私は知らないのですが、しかし、それについて先方の同意が得られないという状態日赤の昨年の三月の非常にくだけた提案、これは表向きは政府は全く介入しないような形になっておるが、実際的にはその点非常に便利な提案をした。ところが、その点についてまだあちらさんが同意をされていない状態が今日続いているわけであります。一昨年九月の提案というのは、たしかこれは、協定があった期間中に帰還の申請をされたが、実際には帰還されていない方が一万七千人ほどおる。その人の帰還については、協定は切れてしまっているけれども協定に乗っかったものとして取り扱いをする。それならほかの第三国やその他があっても、あるいは日本関係各省があっても、とにかく一ぺん協定に足をかけた話なんだから、それはひとつ協定に乗るものとして、全く協定と同じような扱いにしようということを中心とした話し合いで、その後さらに、第二次的に一万七千人が帰ってしまったそのあとで起こる問題については、それは日本の法令にのっとりながら極力便利な扱いを考慮するというような段階で、具体的の何ものもなかったはずでございます。その後、そのあとの部分につきましても、日赤が非常に御努力をされて、それはまあ日赤というものは、厚生省と同じ使命を持つ、厚生省また日赤と同じ使命を持つ人道機関でありますから、心が通じておったと思いますけれども、外務省、法務省は知らぬかもわかりませんが、日赤はさらに親切な、しかも日本政府関係当局の権限を侵さないような案を提案しておられるわけです。そこで、まだ向こうがそれでいきましょうと言ってこない、こういう段階なのですから、それがだめなら、一応一昨年の九月の線ということを副社長が申しておられるのだろうと思います。でありますから、私どもはせっかく日赤がいろいろ御苦心をされて、そして日本関係当局を表に出さない形において、一万七千人を乗り越えてその後さらに北鮮に帰還したい人の分までも対案を出してくるということは、十分高く評価さるべきであると思うわけであります。  また、重ねて申し上げますが、田畑先生お話しの一万七千人については、これはもう荷物をまとめて帰るようになっている人が帰れないということにつきましては、これはもう何の問題もないわけで、実質的に何も問題はないことと私は理解しておるわけであります。
  50. 田畑金光

    ○田畑委員 話をちょっと変えますが、「よど号」乗っ取り事件のとき、両赤十字の間にはどんな接触があったのですか。われわれは、新聞その他で、日本赤十字が北鮮の赤十字と接触をしたとかいろいろ聞いておりますが、この問題についてどういうような努力をされたわけですか。
  51. 田邊繁雄

    田邊参考人 「よど号」が韓国にとどまっている間に、私のほうから北朝鮮赤十字に電報を打ちまして、それは政府の御依頼もあったわけですが、要するに「よど号」が北朝鮮に向かった場合においては、乗客、乗員ともどもすぐ返してもらいたいという電報を打ったのであります。ところが、すぐに折り返し、朝鮮の当局にそのことをお願いしたところ、日本赤十字の要請どおり「よど号」ともどもすぐお返しをするからという返電があったのであります。その後乗客が全部おりて、山村政務次官が乗るようになってからもう一度電報を打ちました。同様に、すぐ返してもらいたいという電報を打ったのでございます。
  52. 田畑金光

    ○田畑委員 私、今度の「よど号」のハイジャック事件のあとを振り返ってみても、いろいろ途中では経過があったにしても、最終的には北鮮の当局も、北鮮の赤十字も、この問題については、人道主義的な立場に立って問題の解決がはかられたものと思うわけです。このことは、国民的な見方も、北鮮の今回の措置に対してはいわば感謝したいという気持ちが強くあろうと見ておるわけです。もちろん、その前の段階における韓国当局も、この問題については、政治的な顧慮を越えて処理したということについても、同様な気持ちを国民的に持っておると思うのですね。私は、この事件によって、日本政府が北鮮に借りができたという俗なことばも出ておるように、とにかくこのような異常な問題に対して、あの「よど号」がたしか四月三日の夕刻平壌に着いて、四月五日に山村政務次官をはじめ乗り組み員三名を乗せて羽田に帰ってきたというこの事件の経過を振り返ってみても、やっぱりこの種問題は人道主義の立場に立つのが、これが本来の姿であり、赤十字精神というものはこういうものだなあという感じを強く持つわけです。だから、政治体制とか政治状況がどうあるにしても、私はこの際、この北鮮の帰還の問題については、いろいろデリケートな問題もあるかもしれぬが、しかしデリケートであるからというので——それは実は政治的な配慮が中心だと見ております。デリケートということは、即政治的に問題をすべて考えているからこんなに長引いてきておると私は思うのです。この点については、私は、閣僚の一人として、一厚生大臣という立場でなく、閣僚の一人としても、北鮮の帰国問題については、政治性を離れて、もっと人道主義的な立場で解決に当たるということが佐藤内閣の当然の姿勢であるべきであるし、ましてや赤十字と厚生省の関係を考えるならば、厚生大臣は、この問題の処理にあたっては、先頭に立ってこれが早期解決のために努力されることが当然の態度でなければならない、こう考えておりまするが、この点について大臣の所信を承って、農林委員会において願うこともやむを得ぬと思います。同時に私は、田邊社長に、この問題のめどは一体いつごろ——事実問題としていかにあなた方がここでむずかしいことを言われましょうとも、問題はいつごろまでに現実に帰国希望者を帰すのか、帰すようなことになるのか、話し合いの見通しはどうなのか、その辺をはっきり御答弁願っておきたいと思うのです。
  53. 内田常雄

    内田国務大臣 先般来申しておりますように、私どもは人道的な問題を取り上げておる役所でございますので、この問題につきましても、日本赤十字社と全く協力し、またこれを激励しながら処理を進めていく所存でございます。  また、あの北鮮に帰られる手続につきましては、一万七千人の問題も、私は、非常に前のときから問題が残っておる方々でありますので、これはこれまでの考え方、進め方におきましても、いつでも帰れるような形を早くとってあげるということで案ができておりますので、決して日本赤十字社あるいはまた政府関係当局がこれを押えているということではないわけでございますので、この辺は十分あわせて御理解をいただきたいと思います。
  54. 田邊繁雄

    田邊参考人 在日朝鮮人問題については、御承知のとおり、赤十字同士で話し合いによって処理できる問題と、それから政府の権限が関与してくる問題と、二通りあるわけです。政府の権限が関与してくる問題の中でも、きわめて平明な問題、もう既定の事実になっているような問題もございます。そこで、その一番のネックの問題はこれは全部片づいております。在日朝鮮人の帰る帰還船に乗ってくる代表の入国の手続というこの一点だけがごちゃごちゃしているので片づかない、こういうことでございます。私は、一つの考え方として九月二十八日の提案、つまりこれは、政府において妥当な考慮を払うように赤十字が努力をするという線でまとめるのも一つの案であると考えた次第であります。これも、今日のきびしい状況のもとにおいては、そうやって一応まとめておいて、あとでこの暫定措置が講ぜられているその間においてこれを政府においてはっきりしてもらう、これも一つの案ではないかと考えて、この案でまとめるように努力したのでございますが、今日までのところ向こうの同意がない。かようないきさつから見て、この問題が、入国手続という政府の行政なり権限に属する問題であるということを十分御理解いただきたいと思うのです。赤十字といえどもその権限は侵すことはできないのだ、そのことを十分御了解願いたいと思います。  私どもは、しかし、そうかといって赤十字は漫然としているわけではございませんので、政府にその権限に属する事項はできるだけ明らかに、できるだけ望ましい形できめていただくように努力を続けていきたい、かように考えておる次第でございます。
  55. 田畑金光

    ○田畑委員 私は、最後に念を押しますが、結局赤十字同士の話し合いとしてはぎりぎりまで話をしてきて、そうしてその問題についてはお互い了解がついた、問題は、入国手続等々政府の権限に属する問題が結局ネックになって、そこが両者の話し合いがついていない、こういうようなことですね。そこだけはっきりすれば——要すれば赤十字同士の話し合いはついたのだが、あとはその帰還船に乗ってくる北鮮赤十字の人方の入国手続の問題等々について、日本政府の権限に属する問題がネックになって、そこが今日まで帰還の実現がしないままになっているのだ、ここを確認すればけっこうでありますから、そのように理解してよろしいわけですね。
  56. 田邊繁雄

    田邊参考人 その九月二十八日の提案の中には、政府において妥当な、つまり入国手続を簡単にすることについて政府において妥当な考慮を払う、そのように赤十字が努力するという案文がはっきり書いてありますが、これについては政府も御了解になっている条項でございますので、政府において妥当な考慮を払うということはすでに御了承になっているわけで、それをいましていただくか、将来していただくか、これだけの違いであろうと思います。
  57. 田畑金光

    ○田畑委員 私は、田邊さんに対する質問はこれで終わりますが、やはり委員長、この問題については、私は質問の中で結論が出たような感じもしますので、先ほど田邊委員提案しておりましたが、理事会等の中で、今後の北鮮帰還問題については各党十分話し合うて、この委員会の決議によって政府に要請するなり、その他いろいろ現実の事情に即した処理方法がとられるように、ひとつ委員長において処理することを強く希望して、私の質問を終わることにします。
  58. 倉成正

    倉成委員長 田邊参考人には御多用中御出席いただき、ありがとうございました。御退席になってけっこうです。      ————◇—————
  59. 倉成正

    倉成委員長 内閣提出船員保険法の一部を改正する法律案労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案及び小林進君外六名提出労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案議題とし、審査を進めます。  質疑の申し出がありますので、これを許します。川俣健二郎君。
  60. 川俣健二郎

    ○川俣委員 労働者災害補償保険法の一部改正の問題の審議が行なわれるわけですけれども、この法案が日の目を見てからはや二十三年、その改正回数が二十数回、平均一年に一ぺんの改正を見て今日に至ったわけでございます。それが労働者災害補償という法律の面から見ると、進展している面と、それから思想がちぐはぐのためか、必ずしも進展してないという面と、それから国際的な横見をしながら改正していくという面、ということは、これは労働者にとっては非常に大きな法律でもあるし、基本的な考え方というものをはっきりこの辺で明確にしておかなければならないだろうという考え方から、まず具体的に入る前に、大臣にお伺いしたいところでございますけれども補償、コンペンセーションですか、このものは百科辞典で見ると、何か精神分析学の用語なんだそうですね。ところが、労働災害補償、いわゆる得べかりし利益を補償する、これは昭和二十二年の法律がこのように出る前は、けがと弁当はてまえ持ちだとか、あるいは災害労働者の自業自得であり不注意だという考え方が、世に大きくおおいかぶさっておったわけですけれども、しかし今日はそういうことは一片すら思想の中にあってはならないし、だからこそ自民党で世帯を持っておる政府のほうからも、労働災害補償は、やはり得べかりし利益を補償するという考え方に立っているだろうと思うのです。ただ何となく、できれば得べかりし利益の補償というものを少しでも安くというか、値切るというか、できればこの程度にとどめておくというような姿勢が、どうも政府のほうにあるのじゃないかと勘ぐりたくなるわけです。これは資本と労働災害という宿命的な関係にあるわけですけれども、ただ資本側に政府・自民党が立っておるから、労働災害補償は少しでも安くという考え方であるということであれば、私は、労働者災害補償法なんというのは、何か取引みたいな妥協の産物のようになってしまうのじゃないかと思うのです。その辺がやはり改正するたびにいろいろと問題になってくると思います。たとえば、あとで具体的にお話しをしますが、年金をとる遺族がいない場合は一時金で片づける。はたして一時金が必要なんだろうかと私個人的には考えておる。ほんとうに得べかりし利益であるならば、労働災害を受ける前に、その賃金で暮らしている人方が、やはり十割労働災害によって補償をされるという姿勢が必要なんだろうと思うのです。この辺の基本的な姿勢について、まず大臣からお伺いしたいところです。
  61. 野原正勝

    野原国務大臣 労災補償は、業務災害に対する使用者の無過失責任損害補償であるという点で、一般の故意過失による損害賠償とは性格が非常に違っておるところであります。労災保険による給付は、業務災害によって起きた労働者の稼得能力の損失またはその遺族の被扶養利益の損失を補てんすることを直接の目的としておりますが、同時に、単なる損失の埋め合わせだけではなくて、働く人が災害をこうむった後残された能力を伸ばして社会復帰をさせることを最終の目標としておるわけでございます。問題は、あくまでもこれは無過失責任に対する労働者のいろいろな点を守っていこうという性格のものでございます。
  62. 川俣健二郎

    ○川俣委員 大臣の申される姿勢が私は非常に気に入っているわけですけれども、これは審議会からの答申なり建議を見ましても、そのとおりの精神がうたわれております。  そこで、局長に伺いますが、だとすれば、現在得べかりし利益を補償するのが、災害を受ける前に働いておった賃金の六〇%でいいんだという考え方がどの辺からきておるのか。六〇%で押えようとする考え方、そういったものをひとつ局長に伺いたいと思います。
  63. 和田勝美

    ○和田政府委員 業務上のけがまたは疾病によって療養されますときに、労災保険で休業補償というかっこうで補償をいたしておりますのは、給付基礎日額、いわゆる平均賃金の六割を差し上げる、こういうことになっております。この六割は、しからばどういう基礎ではじいたかということでございますが、これはILO条約、あるいは世界各国におきますそれぞれの国々でやっておりますものからくる標準的なもの、及び国内にいろいろな補償制度がありますが、それらを勘案しながら六割を休業補償として補償する、こういうことにいたしておるわけでございます。
  64. 川俣健二郎

    ○川俣委員 ILOが非常にきめ手なように考えられますけれどもILOというのは大体標準的な目標を世に示す、最低このくらいはやりなさいという考え方で、その論争は別としまして、いま日本において、政府がその程度のパーセントしかやらないんなら、一〇〇%との差額は企業が見ようじゃないかという企業が非常にふえてきておる。こういう面に対して局長はどのように考えておるのですか。
  65. 和田勝美

    ○和田政府委員 御指摘のように、確かに休業補償六〇%に対しまして、会社によりましては、それに上積みをする、こういうような事例も相当数にのぼるようになってまいりました。これはいわゆる使用者の無過失賠償責任というのが法律に定めてございますので、それによるけれども、さらに労務管理の観点から、あるいはその事故の生じた原因等考えまして、会社としても、法律上の問題でなく、それぞれの会社の責任及びいろいろの観点をあわせて上積みする、こういうのが考え方でございまして、無過失賠償責任の範囲を広げるという意味じゃなくして、会社としては手厚く遇したい、こういう考え方が基礎になっているように考えております。
  66. 川俣健二郎

    ○川俣委員 そうしますと、政府のほうの考え方は、改正によって六〇%ということで一律に片づけるということよりも、さらに、その災害によっては、災害理由あるいは保安を会社が怠っておった問題等々考えて、これはもう一切使用者側の責任であるということが認められる場合は、ある程度六〇%以上の幅を持つ、将来そういうような考え方が少しでもありませんか。
  67. 和田勝美

    ○和田政府委員 この業務上疾病に対します使用者の無過失賠償責任というのは、休業補償につきましては六割でございますが、これはどこまでもいわゆる無過失責任の問題でございまして、会社側に故意があることはおそらくなかろうと思いますが、過失によるそういう療養生活を余儀なくされるというような場合につきましては、法律制度論としましても、民事訴訟で争って、それ以上取るというようなことが可能でありますし、また、現実にそういうような事例もございます。そのときには過失という責任が付加されますので、それに伴う金額の上積みが無過失賠償責任の上にさらにあるということでございまして、法律制度としては無過失賠償責任プラス過失の問題というのが十分考えられる。しかし、過失ということがはっきりいたさない場合でも、先ほど申しましたように、会社におきましては、労務管理の関係とか、いろいろの事情を勘案しながら、責任論とか法律上の補償論ということを離れて、実際問題としてお金を出されるという場合が最近は漸次多くなっておるように考えております。
  68. 川俣健二郎

    ○川俣委員 労働災害というものの責任論、過失論等々の論議から民事訴訟のところの観点で争うようなことになれば、どうもせっかくの労働省が管轄している労災補償というのが非常に複雑になって、意義が非常に薄らいでくるだろうと私は思うのです。したがって、この問題はこれで打ち切りますけれども、得べかりし利益、労働災害によって補償するという以上は、災害がなかった場合は一〇〇%賃金を受けて生活しておるのですから、そういう考え方で将来検討していくべきじゃないかというふうに私は強く感じておるわけです。ただ、それが一〇〇%がいいかどうかということになると、現在働いておる者とのバランス、いろいろその他の保険補償等々の考え方から、バランス上この程度で押えておるということであれば、そのパーセントにディスカッションがなされるべきであって、六割でがまんしろという考え方は、どうも労働者災害補償法という精神からいうと、私は非常に不足な比率だというように考えるわけです。  それから、労働災害は方々に範囲が広いのでございますけれども、鉱山の宿命病、じん肺法でございますから、ちょっとお伺いしますが、じん肺というのは、林野の労働者がチェーンソーを使うと白ろう病になるのとよく似ておるのですけれども、坑内に入ると、鉱山労働者は、相手が鉱石でございますし、採石労働者は、相手が石でございますから、これは作業を遂行する以上、その仕事を避けることができない。したがって、坑内に入れば、多かれ少なかれじん肺にはかかるもの、けい肺、よろけ病にはかかるものですが、その肺病も個人差によって三でもゆうゆうと働いておるという人もおります。これに対して予防はどうかというと、これもマスクをかけると苦しいし、仕事も思うようにいかない。今度は治療ということになると、一たんあの微粒子が肺に入ってしまうと治療もなかなか思わしくない。そうなると、四つ目としてたよるのはやはり補償しかないということになる。それで鉱山労働者あるいは鉱山会社の叫びが結集してじん肺法というのが日の目を見たわけですけれども、ただ、ここで質問したいのは、管理一から管理四に分けておりまして、管理四のところで補償ということになるのですが、その四と三との境目で非常に補償からこぼれておる気の毒な労働者がいるということなんです。三というのは三・一から三・九まで入るということになると、医師の認定等の論争にも及ぶので、この辺もあれですが、ただ私がここで質問したいのは、管理三になって働いておると余病が発生するものだという現実なんです。ところが、その余病は私病扱いで、一切補償の対象にならないのだ、こういったところが——まあじん肺法に専門的に入るので恐縮ですけれども、三と四との関係をいま少し労働省としては考えていく必要があるのじゃないかという意味から質問したいのです。
  69. 和田勝美

    ○和田政府委員 ただいま先生御指摘のように、じん肺法におきまして、健康管理区分として一から四までの区分をいたしております。一のほうが大体健全なからだ、四になるに従ってだんだん悪くなるという区分関係でございます。そのうちで御指摘の三と四の問題でございますが、現在管理区分四につきましては、要するに医療上の治療を要するという考え方で医療補償を行なっております。それに対しまして三は、先生御指摘のように、確かにまだ病気ではないという判断に立ちまして医療補償を行なっていない。しかし、その両者の区分に三・五あるいはマイナス四・一とか、そういうのがあるじゃないかという御指摘の点は、確かに法律施行の上で問題点のあるところでございますが、一応法律的には、それぞれの区分に該当する事項を掲げまして、主としてこれはレントゲン写真その他の手段で医学的に把握をいたしますが、その把握のしかたに対するいろいろのニュアンスのあることはお説のとおりでございます。しかし現在のところ、専門医の判断では、管理四について療養補償の必要はあるが、管理三についてはまだ療養を要しない、こういうような結論になっておりますので、法律の運用としては、いま申し上げましたようなことで管理四から療養補償をしておるということでございます。  もう一つ補償の問題としてありますのは、障害補償の問題があるわけでございます。実はこの健康管理の問題と障害補償の問題とは、形からいいますと一応別の問題ではないか、かように私ども考えておるわけでございます。障害補償は、先生も御存じのように、病気が治癒した状態においてどれだけ労働能力が損失をされておるかという、その労働能力が損失をしておる部分についての補償障害補償でございます。そういう意味で、じん肺の場合におきましても、確かに肺に固定的な心肺機能のない部分がある、それをどの程度障害として補償していくか、こういう問題が残るわけでございますが、これにつきましては、実は私のほうでいま障害補償に関する専門家会議を開催をしております。これは単にじん肺だけでございませんで、現在の障害全体についていろいろ問題があると各方面から指摘をされておりますので、いま専門家に御意見を伺っておる最中でございますが、その中でじん肺審議会からの意見の申し出もございまして、じん肺に関する心肺機能の障害についての検討をわずらわしております。ただいまのところ多少時間がかかっておりますが、その専門家会議の結論を待ちまして、じん肺に関する障害補償問題の対処をしていきたい、かように考えております。
  70. 川俣健二郎

    ○川俣委員 そのとおりだと思います。これは非常に専門的に入るので論議はこの程度にしておきますが、やはり専門家会議の結論が出たら——今回の法改正にだってある程度専門家会議意見を出しているやに見受けられるのですが、それがどうも法改正に盛られていないというところに私も不服をもって質問しておるわけです。  問題を進めますが、これはたいした人員じゃないし、私も数をつかんでおりませんが、例のシベリアけい肺というのですか、いつか新聞をにぎわしたことがあるのです。といいますのは、簡単に言いますと、日本の鉱山の労働者が敗戦によってシベリアに抑留され、向こうの鉱山に入れられてけい肺にかかって帰ってきた。どうやら、このけい肺患者が帰ってきてからけい肺法の適用を受けるのに、シベリアですから、事業主の認定を受けるのに非常に困っているということを私は耳にしておるわけです。いい機会でございますから、これを適用するという考え方があるかどうか、ひとつ聞いてみたいのです。
  71. 和田勝美

    ○和田政府委員 シベリアに抑留中に、金属鉱山その他じん肺にかかる職場で働かされておりまして帰ってこられた方の問題でありますが、これは、シベリアですでにじん肺患者として発病された、それから帰ってこられてからこちらで働いている間に発病をされた、こういう二つの類型に分けられるように承知しております。前者につきましては、聞くところによりますと、恩給法のほうで手当てがされておるようでございます。後者のほうにつきましては、実はこちらの使用者から見ますと、自分のところで働いていない者でございますので、使用者責任の問題の範囲がなかなかむずかしいのでございますが、法律の運用としては、発病がこちらで現に働いていらっしゃるときに行なわれているような場合については適用がある、こういう扱いをしたい、かように考えております。
  72. 川俣健二郎

    ○川俣委員 後者の取り扱いなんですけれども、これは具体的な例はまれに見ると思うので、私自身も鉱山に働いた者なんで、ある程度具体的な問題が出たら、そのつど局長のほうと相談しながら、適用されるものがあれば、認められるものであれば、特段の御配慮を得てやっていくべきだという考え方をしております。  それから、特にこれは打ち切り補償からくるのですが、この建議を見ますと、こういうように保険施設について書かれております。(1)として「昭和三十五年以前に補償を打ち切られた者の援護制度を拡充すること。」(2)として「重度障害者及び労災遺児に対する援護施設の拡充改善等について検討すること。」それから(3)として「治ゆ認定後の医療措置等(いわゆるアフター・ケア)について、保険施設として費用の負担を配慮すること。」昨年の八月ですか、時の労働大臣に対するこういう建議から始まって法改正になったと思いますけれども、三年で社宅を追い出される、遺族は一応社宅を出なければならぬ、そういった場合に、北海道の岩見沢でしたか、市と企業がタイアップして、そういう打ち切り補償企業がいつまでもめんどう見ておくわけにいかぬということで社宅をおっぽり出された人たちに対して、いわゆるアフターケアを考えておるようですが、こういったものの行政指導をどのように考えておるか。ということは、端的に言うと、この建議に対してどのようにこたえようとしておるのか、伺いたいのです。
  73. 和田勝美

    ○和田政府委員 ただいま先生御指摘のように、建議の(3)で入院療養援護金の拡充ということで、三十年のときに打ち切り補償を行なった方についての問題がございますが、この方につきましては、入院療養援護金という制度を設けておりまして、現行の療養費用に相当する額をお支払いをしております。それに加えまして、さらに今回新しい措置といたしまして、一カ月について一万円を支給するという措置を講じたい、かように考えております。  なお、いわゆる外傷性脊髄障害によって療養していらっしゃいます方につきましては、建議にありますように一日につきさらに七十円を追加支給するようにということでございますが、それも建議にありますような予算的な措置を四十五年度予算で講じております。
  74. 川俣健二郎

    ○川俣委員 次に、さらに具体的にこまかく入りますが、この保険制度の特徴はスライドという問題なんですけれども、これは非常に特徴を持った保険制度と思っております。これはやはりこの社労で育てていくべきだし、伸ばしていくべきだ。ただ百人以上の労働者を使用する場合と百人未満ということで、百人で区切って区別しておるという考え方のねらいはどこにあったのか。
  75. 和田勝美

    ○和田政府委員 先生、基準法の七十六条の休業補償の規定はよく御存じと思いますので、特段に御説明を申し上げませんけれども、要するに百人でございますと、同一事業場における同一労働者というのがつかまえやすいわけでございます。同じような種類の方がおられる。しかし百人未満になりますと、労働者の方でそういう統計的に有意的につかまえられるような方がなかなか少ない。そういうことからしまして、ある程度偶然性とか、あるいは統計的に把握しにくいものがあるだろうという考慮がございまして、百人以上、百人未満ということで一応の区別をいたしまして、百人以上につきましては、同一事業場について、百人未満につきましては、労働省でやっております毎月勤労統計についてその上がり下がりを考える、こういうようなことにしておりますのは、いま申しましたような意味における適用技術上の問題と御判断をいただいてけっこうだと思います。
  76. 川俣健二郎

    ○川俣委員 七十六条ということからとったという以外に理由はありませんか。
  77. 和田勝美

    ○和田政府委員 七十六条の——労災保険法のほうでたとえば休業補償のほうで引っぱっておりますが、そういう意味からいいまして、七十六条が基礎的な規定になっております。
  78. 川俣健二郎

    ○川俣委員 それではその上がり下がりの問題に入りますが、水準が二〇%ということになると、これが二〇%から一%でも上がれば、二一%で計算されて、二〇%に一%でも満たない一九%であればネグられる。こういったところに、これはやはり労働者側が強く要求するということもさることながら、労働者災害補償という考え方からいえば、二〇%で切るというのが高いか低いかということになると論争になるのですけれども、二〇%という問題について局長はどのように考えておられるか。
  79. 和田勝美

    ○和田政府委員 スライド問題というのが基本的に非常に問題を含んでおるものだろうと思います。といいますのは、そこに政策判断とか何かというものが非常に入りにくいその他のいろいろの措置との関連において、直ちにスライドで処理をしていいかどうかというような基本的な問題が残っておりますので、普通いわゆる社会保障制度その他等につきましては、スライドを取り入れずに、そのときどきの政策判断で上げ下げのことを考えるということにしております。これに対しまして、基準法及び労災保険法だけが全くの例外ということで数字的なスライド制をとっておる。そうしますと、そういう一般的な環境のもとにおきまする基準法における二〇%による上げ下げの問題が問題になりますが、この法律ができましたころは、相当賃金の上昇率も高かったわけであります。その後、ある程度の鎮静を得て今日は年に大体一四、五%の割合で賃金は動いております。そういうようなことを考えますと、一応きめてあります二〇%を何%に改定をするかということになりますと、相当な論議がございます。あまり低くいたしますと、きわめてひんぱんに波動をいたしますることは、事務的な整理からいたしましても、それを受けられる側における応接の問題からいたしましても、あまり小幅にすることは非常に問題がございまして、これは特に四半期ごとに問題を提示をして論じまするので非常に問題が出てくる。最近の賃金動向から見ますと、そういう点が指摘をされてもやむを得ないように思うわけでございます。  そういうようなことがありまして、当面、最近の賃金動向から見て二〇%というのは、一応一年ちょっとたちますと二〇%くらい上がってくるような状態でございますので、ある程度の安定という意味からいって、私どもとしては二〇%幅で現在のところではいいんじゃないか。特に、冒頭にも申し上げましたように、スライド制に対しては非常にいろいろの批判もあるときでございますので、こういうような状態で、さしあたりこの法律の規定によって処理をしていきたい、かように考えております。
  80. 川俣健二郎

    ○川俣委員 事務的に繁雑だということ、受けるほうも、あまり変動するということは——この論議は私はあまり理由にならないと思うのです。問題は賃金水準が年間どのくらい上がって——いま局長が一四・幾らあるいは一五%くらい上がっているとおっしゃるならば、やはりそのつど直していくべきじゃないかとぼくは思うのです。  もう一つは、配置転換の場合二〇%の水準を受けている労働者がいるわけです。というのは、配置転換だと三十日分の転換補償をもらって——災害にあって配置転換になるということは、いままでの労働の場合よりは賃金が安いところに配置転換になるのが通例であるし、当然であるわけです。そうしますと、二〇%という水準に変動を受ける、恩恵を受ける場が非常に遠くなる、配置転換になると。そうでしょう。五万円もらっておったものが六万円になると、二〇%ということで水準に直されるわけですが、それが五万円もらっておったのが配置転換で三万円くらいの場所に行くとなると、その恩恵を受ける時期が非常に遠くなる。こういったものに対する配慮が——配慮しておるというようにおたくのほうは答弁なさると思いますが、実態を見ますと、どうもその配慮が不足であります。その辺いかが考えておりますか。
  81. 和田勝美

    ○和田政府委員 実は給付基礎日額の問題は、基準法の平均賃金をとってまいっておりますので、発病という時点が初めになりまして三カ月、こういうようなことになっております。しかし、いまお話しのように、配置転換をいたしますと、確かに従来の高い賃金のところより低いところに移る。したがって、三カ月をとりますと配置転換後の賃金で計算をされるのがほとんどでございます。しかしそれは、配置転換という健康管理上の問題であるから、古い賃金のほうでやるべきじゃないか、こういうような御説がありますので、労災のほうでは、どちらか高いほうの平均賃金をとろう、配置転換については平均賃金の計算と発病時におきます平均賃金の計算をいたしまして、どちらか高いほうをとる、こういうような扱いを施行規則で書きましてやっているわけでございますが、その際におきますスライド問題が、確かに御指摘のようにあるように考えます。現在は従来どおりのことでやっておりますが、ただいま先生の御指摘もありますので、今後におきましては、私どもとしては前向きに検討をさせていただきたい、かように考えます。
  82. 川俣健二郎

    ○川俣委員 たいへん意を強うする返事がありましたが、どうもスライドに対して、労働省や厚生省は、ほかのあれに比べて異例であるということから、大蔵省に遠慮しているのかどうか知りませんが、私は労災という性格からいえば、もう少し官庁の中で論陣を張ってしかるべき問題だと思います。スライドということは、労働災害補償、得べかりし利益を当然得ていくんだという考え方がそこにあるだけに、それはもう当然の論議として主張していくべきだと思います。  ただ、いま配置転換の問題一つ言っておきますと、旧賃金とどちらか高いということだけでは、年間一四、五%上がるとおっしゃる局長の考え方でもあるから、普通ならばもう一年半で直さなければならないはずなんです。ところが、どちらか高いほうということになると、かなりその水準、恩恵からこぼれる災害者がいるんだということで、さらに一そう前向きで検討を促したいと思います。  それから、給付の金額の問題に入ったついでですが、ボーナスの問題です。局長はボーナスというものをどのようにお考えになっているか。局長個人のお考えでもけっこうですから……。
  83. 和田勝美

    ○和田政府委員 ボーナスの性格は、実にいろいろとあるようでございますし、賃金の専門の学者先生のお考えにも、ボーナスをどう理解するかということにはいろいろ御意見があるようです。また、実際に支給されますボーナスを見ておりますと、賃金あと払い的なものもありますれば、利益分配的なものもありますれば、ある時点における多額の費用がかかるということに対して賃金の形である時期における費用をめんどうを見ようとか、いろいろのものがございますので、ボーナスはかくかくしかじかなものであるということを一がいに私から申し上げるのも——現実にありますボーナスの姿がきわめて多様でございますので、ここで一がいにボーナスとはかくかくのものでございますという答弁は、むしろ差し控えさしていただいたほうがいいんじゃないかと思います。
  84. 川俣健二郎

    ○川俣委員 まあタテナス時代もあったり、証券会社で働く女の子がかなりもらってみたり、五、六人の扶養家族をしょってやっている肉体労働者がわずか十万にも足らないボーナス、そうして、その労働災害を受けた場合には、ただただ賃金だけが基礎になる。そうなると、その企業によって、もうかったら払いますからなという考え方、あるいはこんなにもうかったのだから、賃金が低かったのだから、ボーナスとして企業の独自性を出して払いましょうという経営の考え方がいろいろとあるだけに、局長は定義づけを遠慮されておりますけれども労働者災害補償というのは、災害がなかったならばそのボーナスももらったであろうという得べかりし利益を補償するのだから、ボーナスを全部算定基礎に入れるという論議は別として、ボーナスについては、利益分配、それから賃金のあと払い等々の性格がいろいろあろうが、ボーナスを全然入れないという考え方はいかがなものだろうと私は常に考えておるのですが、局長その辺を……。
  85. 和田勝美

    ○和田政府委員 労働基準法の十二条で平均賃金のことを書いております。この立法の趣旨は、先生すでに御存じだろうと思いますが、あえて申し上げてみますると、一応平均的な日常収入の上に立って生活を営んでおる、そういう収入を得ているというようなことを前提にいたしまして、平均賃金思想を出しております。ある時期における異常な収入という問題は、平均的な状態にはあまりなじまないだろうというようなことが立法趣旨の中にあると私どもは考えておりまして、その趣旨が、たとえば「臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」こういうようなのは賃金総額の中には、平均賃金の計算の場合におきましては入れない、こう十二条に規定してありますのも、いま私が申し上げましたことを裏づけておるように思います。しかし、現在のボーナスは、先ほどお答え申し上げましたように、きわめていろいろの、多様的な内容を持ったものであるとすれば、先生がいま御指摘のように、これを一がいに全部算入しないという姿勢でいいかどうか、その点は確かに御指摘のように問題があるところだと私は思います。そういう点につきまして、実は昨年から労働基準法研究会をお願いして、現在基準法全体についての御検討を学識経験者にお願いをしておるわけでございますが、いま先生から御指摘になりましたような平均賃金の考え方、算定の問題、これ等も私はおそらく必ず論議になる、かように考えております。研究会には賃金の専門家の方にもお入りをいただいておりますが、これもある意味においては、こういうようなことが御議論になることを予定をいたしてお願いを申し上げておるようなわけでございますので、そういうところで、現在のボーナス、賃金のあり方、形態、いろいろなことを議論をしていただいて、現在の基準法十二条の法意がこういうところでいいのかどうか、御検討をわずらわしたいと思いますので、慎重な検討を待って私どもとしてはこのことに対処をさしていただきたい、かように考えております。
  86. 川俣健二郎

    ○川俣委員 異常な臨時的な賃金になじまないだろうと言う。なじみますから、ひとつここに皆さんお歴々がおそろいになっておりますから、やはりボーナスは一切基礎日額には入れないんだという考え方は、ぼつぼつやめるべきだという考え方を強く主張しておこうと思いましたが、いみじくも局長が、そういう考え方をお持ちになっておるようでありますから、さらにその促進方を要望しておきます。  というところで、異常な臨時的なということになると、今度は労災法の一時金の問題に入らしていただきたいと思います。一時金というものの性格というか、遺族補償に一時金というのが、はたしてこれは初めからあったものなのか、諸外国にはこういうことがあるのだろうかという考え方なんです。私は、いままでずっと質問してきた考え方を言ってまいったのは、得べかりし利益を補償すべきだ、十割補償していくべきだ、できればボーナスも含めて十割いくべきだという考え方からすれば、遺族補償を受ける遺族がいないのに一時金をやるんだという考え方は、がたっと思想が変わってくるので、私は、これはどういうところから何でこんなのが出てきたのか、そういう暴論的な質問から始めたいのです。
  87. 和田勝美

    ○和田政府委員 遺族補償をどういう姿でやるかということにつきましては、確かに先生御指摘のように、一時金では問題があるではないか、こういうことは私どもまさにそのとおりに考えております。しからば、どうしていま労災に一時金が残っておるか、これは実は基準法のほうの災害補償で、いわゆる年金制度ではなくて全部一時金システムで考えております。ただ、休業補償とか療養補償の場合は別でございますが、それ以外の遺族補償等につきまして一時金思想で考えておる、それが労災のほうにそのまま移りまして一時金でやっておりました。しかし、現実の遺族補償を見ておりますと、一時金では非常に不十分なところが多い。必要な方に必要な範囲で必要な補償をするということは、どうも一時金ではだんだんと問題が出てきた。こういうことで四十年の改正の場合に、遺族補償につきましては、その人の被扶養者につきまして年金制度を導入をしたわけでございます。この年金制度は、そういう意味からいいますと、一時金よりも遺族補償という面からいくときわめてすぐれておるのではないか、私はかように考えております。ただ、被扶養者でなかったいわゆる親族の方、そういう方もおられますし、従来そういう方にも基準法のほうの補償をある程度差し上げておりますので、言ってみれば、そういう経過的な問題として一時金をお渡しをするということも、従来の意味からいいまして意味もあるということで、被扶養者がいらっしゃらない場合におきます遺族に対して一時金を差し上げる、こういうような制度になっておる、諸外国におきましては、遺族補償については一時金があるようには承知をいたしておりません。
  88. 川俣健二郎

    ○川俣委員 そこで世に訴えられている論争は、いまや交通事故で自賠責保険で一人の生命が一千万円をこえるという事例が非常に出てきた。ところが、働いて災害を受けてなくなった場合は四百日分、今度は千日分ですか、百五十万にもならない。これはどうしたものだろうか。これはだれが考えても矛盾なんで、この辺に対して局長はどのように考えておりますか。
  89. 和田勝美

    ○和田政府委員 先ほど大臣がお答えを申し上げましたが、一般的には損害補償は故意、過失が加害者側にある場合に損害補償が行なわれます。それに対しまして業務上の災害の場合には、使用者側の無過失のときにも補償責任を負わされるというものでございまして、そういう点においては非常にユニークな制度であろうと思います。したがいまして、業務上の災害がもし使用者側の、故意はございませんが、過失によって行なわれた場合は、実は一般の法理に従って賠償責任を負わされる、こういうことになろうと思います。しかし、この業務上の災害は、無過失賠償責任で論じておりますので、一般的な損害補償の場合と同列に論ずることにはやや疑問があるようには存じます。しかし、しいて比較的に申し上げますならば、自動車賠償保険の場合には、今度五百万の一時金が出ることになっております。しかし、これは一時金でございまして、一回限りのものでございます。しかし、労災のほうにおきましては、いわゆる扶養を受けておった方には年金を差し上げる、こういうことになりまして、それを残存年数その他を最近の経験によって計算をしてみますと、いまの賃金ベースでスライドがありますから、将来上がることが予想されますが、それをあえて割愛して現在のベースで計算しましても九百万を多少こえる、こういうように私どものほうで一応試算をしたわけであります。金額を申し上げますと、九百万と五百万ということでございますが、先ほど申しましたような前提がございますので、にわかには算定しにくいようでございますが、そういう差があります。最近は、たとえば裁判所で争いますと、一千万円とか、つい最近の事例では三千万円をこえるということでありますが、それはあくまでも使用者側に過失責任がある、その過失責任が加重されるものですからああいう姿になるだろう、これは計算のしかたその他にいろいろ問題がある。裁判上にもいろいろ問題があると思いますが、過失があるかないか、裁判所は、過失がなければ一切責任を持ちませんから、損害賠償を一銭も出さなくてもいいのです。しかし、使用者の場合には、過失がなくても、業務上であることがはっきりすれば責任を問われる、こういう御理解をいただきたいと思います。
  90. 川俣健二郎

    ○川俣委員 これはこれからかなり論議になると思うのですが、たとえば遠くの農村の子が出てきて、親もいないし、うちでは兄貴が田畑を耕してあと取りをしている。次三男がこちらに来ておる。したがって、扶養している者は一人もいない。一人は交通事故で不幸な目にあった。一人は働いて災害にあって尻無川でなくなった。その場合に、おれの弟を殺しやがったということで、自動車の相手に——そうすると、五百万か一千万というのが世に出る。ところが、尻無川の場合は、労働災害ということで一時金が千日分しか出ない。もらった金を兄貴かあるいは兄弟で分け合うのかどうか知りませんが、その辺が労働者災害補償保険制度という立場からは、この辺で論陣をしっかりしておかないといけないと思う。一人の人間がふらっと遊んでいて交通事故で一千万、働いていて千日分、こんなに違っていいのか、労働大臣、こうなることに対して、何らか理論武装でもしなければ、災害補償というたてまえがぐらつくと思う。その辺はさらに私は主張していきたいと思います。  この問題については、ただ発生由来のあれをちょっと伺ったところによると、やはり一時金も要るであろうという、労働者側が、あるあつれきに対する妥協ではなくて、みずからそのように考えて、審議会でも考えられて、一時金というものが制度化されて、そして四百日分でもまだ多いし、一時金なんというものは要らないのだという考え方でなくて、今度は千日分に引き上げていこうという考え方であれば、あまりにも安い一時金だというように私は言いたい。だから千日分で区切ったというその辺が主なんだけれども、千日分よりもっとやりたいけれども政府の予算がないのだ、こういうことなのか。それとも、一時金というものは必要ないという考え方なのか。私たちは一時金は必要なんだが、金がないから千日分にした。大蔵省は容易でないということであれば、わが社会党は千日分というものはまかりならぬということで戦う姿勢を示していきたいと思います。その辺の考え方をお示し願いたいのです。
  91. 和田勝美

    ○和田政府委員 昭和四十年に、労災保険制度で従来の一時金制度を改めまして、年金制度にいたしました。遺族補償としては、年金制度のほうがベターであるということで踏み切りまして、国会の御審議を通じてそういう法律ができたわけでございます。私どもといたしましては、遺族補償については年金がいい、このほうが世界的な趨勢でもございますし、妥当であって、一時金制度というのは、そういう口から言えば、それほど好ましいとは思わないわけであります。それは制度的にはそうなっておる。ただ、その際におきまして、わが国のいろいろの社会慣習、そういうようなものがございましたので、年金の前払いというようなかっこうで、四百日分の制度経過的に当時残したわけでございますが、今回の法律案におきましても、附則で同じようにその経過措置を、なお社会慣習の実態から見て、前払い金という制度を一応残したほうがよかろう。しかし、それは決して年金制度を否定するものでも何でもございませんし、年金年金としてその前払いを終わったあとは続けて支給をいたします。  それから、千日分の問題でございますが、これは実は年金を受けられる遺族がいらっしゃらない場合の制度でございます。要するに、扶養をされるべき必要のある方がいらっしゃらない、そういう扶養されるべき人がいらっしゃらないのに年金を差し上げるというのは、ちょっと筋が通らないと思いますので、そういう意味で、一時金で処理する以外にはない、その金額を千日分に限って切りましたのは、実は基準法のほうの遺族補償は千日分ということで規定をしてございます。この点につきましても、実は先ほど申し上げました労働基準法研究会で、基準法がいま考えておる災害補償はあれでいいのかどうかということも、研究会で検討をわずらわすことにしておりまして、これにそういう方面の権威者の方にもお入りをいただいておりますので、基準法問題はそこでいろいろ議論がなされると思いますが、いま労災のほうに扶養されない遺族の方の千日分が残っておりますのは、もっぱら基準法の問題がそのまま動いてきておる、こう御理解いただきたいと存じます。
  92. 川俣健二郎

    ○川俣委員 そうですか。それでは、やはり一時金というのは必要なんだという観点に立てば、もっと上げたいのだが、ただ基準法で頭を押えられておるというようなことであるから、この問題については、さらにあしたもあることだし、わが党のほうから一応考え方を示さしていただきます。やはり一時金は必要であるが、どういう人にやるべきかというような考え方を、いま少し理論づけをしておいていただきたいと思うわけです。  それから、遺族補償の問題ですが、遺族補償を受けられるべき人というのは、ずっと法律にうたってある。ところが、十八歳になったらもう遺族補償は受けられない。対象外になる。ところが、とうちゃんが働いておったから大学に行っておるのです。そうでしょう。十八歳は過ぎておる、とうちゃんは尻無川で死んだ、大学へ行けなくなる、こういったところは、あまりにも機械的な法解釈であり、施行規則であるような気がするのです。こういう面について、特に学生、学校、学費、こういったものについて遺族補償の考え方を……。
  93. 和田勝美

    ○和田政府委員 お説のように、扶養者、これの子供さんにつきましては、十八歳で切っておるわけでございます。実は国内のこういう扶養者、被扶養者という考え方は、いろいろの方面でほとんど十八歳ということで確立しているような状況が一つあるわけでございます。それからもう一つは、外国におきましても、十六歳で切ったり、十八歳で切ったりいたしますが、主たる国では、おおむね十六、十八というところで切っておりまして、諸外国との関係からいいましても、扶養される者は、一応十八歳、あるいは基準法におきましては、十八歳以上はフリーに働く普通の成年労働者と同じ扱いになっております。こういったことを考えまして、いわゆる被扶養者として金を出されるのは、十八歳ということで今回切っておるわけでございます。  ただ、確かにお説のように、そのために学校に行けなくなるというような問題があるわけでございますが、その点につきましては、今回の建議趣旨の中にもありまして、被災労働者の子弟の方の教育に対して配慮するようにという意見がございます。これにかんがみまして、今回は、小学校は千円。これはもちろん十八歳未満ですから年金もいただけます。それから大学が五千円。この間に段階を設けまして——いま申しましたのは月額でございますが、奨学援護資金制度を設けまして、そういう被災労働者の子弟の方には、年金をもらうもらわないにかかわらず、差し上げて、学校に行かれることの援助にしたい、かように考えまして、そういう制度を設ける予定にいたしております。
  94. 川俣健二郎

    ○川俣委員 少し進みますが、業務上とは、必ずしも与えられた業務に携わっている瞬間かどうかという問題から端を発しておるのですけれども、いわゆる災害場所、災害時ですが、局長は、業務に携わっておる瞬間、これをどのように考えていますか。
  95. 和田勝美

    ○和田政府委員 業務上の判断につきましては、なかなかむずかしい問題がございます。通常、私たちといたしましては、業務に基因するもの、それから業務を遂行しておるもの、この二つの要件を満足する場合に、業務上云々、こういうことばに理解しております。業務を遂行しておるというのは、その人が会社からの具体的な、あるいは包括的な指示、命令と申しますか、要するに会社側の意向によって与えられている仕事をやっている場合、それは必ずしも工場の中とかなんとかということではございませんで、会社側の指示に従う業務を行なっておるということが一つ問題でございます。  それからもう一つは、業務に基因すると申しますのは、業務をやっていることによってそのけがが出てきた、病気になったということを一つの判断基準にいたしておりまして、業務をやっておられるけれども業務には全く関係のないような事情でその方がけがをされたり病気になったというような場合には業務上ではない、こういうような一応の認定のしかたをいたしております。  いま先生のおっしゃいました瞬間というのがなかなか問題かもしれませんが、瞬間時において、いま言いましたような二つの要件が整えば、私どもとしては業務上の扱いをする、こういうことにしております。
  96. 川俣健二郎

    ○川俣委員 そうだと思います。したがって出張のときには労働災害になるでしょう。したがって会社の車で通勤する場合には労働災害になるでしょう。電車で行った場合に何で労働災害にならないのかということになる。そういうことでしょう。したがって、通勤というのは、業務を遂行する一部になるのだという理論闘争をやって、こういう解釈になったはずなんですよ。長年社会党が主張しているのは、通勤するというのは業務の中に入っていると思うんですよ。通勤のない業務はないんですからね。そういう考え方からすれば、会社が指定した車でけがをすれば労働災害だ、国電で行ったものは労働災害にならない、というのはいかがでしょうか。
  97. 和田勝美

    ○和田政府委員 先ほど申しましたように、使用者側の指示に従って行なう仕事をやっているというようなところ、しかもそれが遂行性あるいは起因性と申しますか、そういうことを申し上げたわけでございますが、実は使用者側の無過失賠償責任を追及するということでございますので、何らかの意味において、使用者側の支配管理、こういうものが非常に広い意味において存在する場合に責任を追及しませんと、使用者側では何ともならないような状態にあるのに、使用者側の責任を追及するというのは非常にむずかしいのではないか。それは責任論からいいましてそういう感じがいたしているわけでございます。  通勤途上の問題につきましては、実は、これはもうここ四、五年非常に大きな問題になりまして、この前の四十年の改正のときにも、いろいろ御議論があったようでございますが、いま申しましたような使用者の無過失責任というものの範囲をどの程度に見るか、それから交通問題の損害賠償の姿、いろいろなものが競合してまいりますし、第三者責任の問題も重なってまいりますし、いろいろなものがあります。それから、自分のうちから会社に行くというその行為を、いま先生の御指摘のように、会社の業務をするための行為だから、当然遂行性として見るべきだ、こういうお説も、先生の言われるように確かにございます。しかし、それに対しましては、非常に疑問を呈する意見もございます。そういうように相当はなばなしい論戦が行なわれておりますのと、もう一つは、通勤途上災害を受けましたときには、関係する部面が非常に多うございますので、労災保険審議会における建議の際にも、ひとつ専門家で調査会を設けてやれというような御意見建議として出てまいりました。労働基準審議会のほうでも、基準の施行ということで問題になりますので、労働基準審議会のほうにもおはかりをいたしまして、それぞれ専門家を出していただきまして、いま二月の終わりごろから実は調査会を設けて、せっかくそういういろいろの問題を含めての御検討をわずらわす。これは労災保険審議会建議趣旨にも合致するものでございますので、そういう意味で調査会の結論を待ちまして、これは論議をさしていただきたい、かように考えております。
  98. 川俣健二郎

    ○川俣委員 この通勤の問題でもう一つ。というのは、会社の指定した車で行った場合は業務災害。この通勤途上というのはこういう例があるのですよ。必ずしも一致した例じゃないのですが、私が所属しておった同和鉱業という会社、社長は久留島秀三郎という人で国鉄の理事です。世はまさに、昭和三十年ですから、ラッシュのピークでたいへんなんです。それでひとつ時差出勤をやろうじゃないかという提唱を労使双方でした。その場合に、いままでは八時半からだったものを九時半にした。そうすると一時間というものがどうなるかということで、同じ企業の中で山の労働者のほうから意見が出てきた。そこで、やっぱりいまの東京のようなこういう交通事情の場合は、一時間ぐらいは勤務時間の中に入れればいいんだという考え方でスタートした。そういう考え方から、わが社は通勤時間の時差出勤をトップを切ってやった例がある。ということは、通勤するということは、会社の車で通勤すれば認めるし、ほかの車で来ると、いろいろと第三者的なものの補償関係が入るからという考え方でとざしているというのではなくて、局長いいですか、私が納得しないのは、出張時だって労働災害なんだから、会社の車で行けば労働災害なんだから、国鉄で来たって、バスで来たって、一応そういう範疇の中に入れる。ただし、第三者の損害補償という問題があるから、それはまた別個に検討するという考え方がなければ、私はこの問題は打ち切りたくないのです。あるいは納得しないで質問を終わるか、どちらかなんです。
  99. 和田勝美

    ○和田政府委員 使用者の支配管理の範囲をどこにするかというのは、私は確かに時代の動きによって、社会構造等によって変化をしていくものだと思います。実は、いま先生が例にあげられました、会社がバスを仕立てて通わせるというときにつきましては、当初はそういう場合の事故業務上という判定の中に入れておらなかったのであります。漸次一般的な動向その他を見ながらそういうような解釈について一つの発展を示している。といいますのは、とにかく会社が仕立てて会社の運転手によってやられる、会社の車両によってやられておるという中には、何らかの会社側のいわゆる支配管理という範囲を広められる一つのものがあるのではないか、そういう討議がございましたので、会社が仕立てたバスの場合の事故については業務上にした。しかし、普通の鉄道、普通に乗った場合には——会社が乗れと言ったような場合については問題がございましょうが、一般的には、そういうものは普通考えられない。しかし、これにつきましても、先ほどお答えいたしましたように、そういう議論が一方であるとともに、一方では、いや世の中がこう変わってくれば、通勤途上はいかなるルートを通っても会社に対する一つの予備行為だから、業務命令の予備行為だから入れるべきだという御議論が非常に盛んにございます。そういうような御議論が出てまいりましたので、先ほども申しましたような専門家による調査会を設けまして、いろいろの角度から社会実態の変化に応じつつ、しかも使用者責任の範囲内というものとのかね合いをどう切るかということでの御議論をいただくことになっておりますので、せっかく御熱心に御討議をいまいただいておる最中であります。それを見ながら、私どもとしては、その結論によって対処してまいりたい、かように考えております。
  100. 川俣健二郎

    ○川俣委員 理事さんから休憩と言われておりますから、一応私のほうは休憩にしたいと思います。
  101. 倉成正

    倉成委員長 この際、暫時休憩いたします。    午後一時十五分休憩      ————◇—————    午後二時五十五分開議
  102. 佐々木義武

    ○佐々木(義)委員長代理 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。川俣健二郎君。
  103. 川俣健二郎

    ○川俣委員 たいへん時間をとり過ぎて恐縮しておりますが、先を急いで、締めくくる意味でいま少し質問の時間をいただきたいと思います。  先ほど休憩を前にしての通勤時における問題が、ああいう論議が展開されて終わったわけですけれども建議によりますと、何か専門家の会議を開いて検討せよと、こうなっておりますので、それに対してどのように考えておられるか。
  104. 和田勝美

    ○和田政府委員 建議にございますように、労災保険審議会としましては、非常に複雑ないろいろな問題を含んでおるので、専門家の会議を設けるということでございまして、その後労災保険審議会あるいは基準審議会のそれぞれの御意見を伺いました結果、専門家にお願いをいたしまして、これは構成を申し上げますと、労災保険審議会から各界側お二人ずつ、それから基準審議会から各界側お二人ずつ、計十二人でございます。そのほかにいわゆる純然たる専門家四人の方にお願いいたしまして、調査会を二月の下旬に発足いたしました。いままで二回の調査会の開催を見ております。
  105. 川俣健二郎

    ○川俣委員 了解しました。  船員保険について一点だけ伺いますが、例の遺族補償年金が船員の場合は支給率が一律になっておるという、これは歴史的な問題、私は諸外国についてはうといわけですけれども日本の場合、やはりいろいろと支障を来たす——支障を来たすというか矛盾を御担当の皆さん方は感じておられると思います。しかし、これを直すとなれば、既得権云々等がありまして、いろいろとまた障害があると思うのですが、日本の国における船員関係の保険法は、ここしばらくこれでいかざるを得ないというような、あきらめの姿勢というか、そういったところはいかが考えておりますか、伺いたいのであります。
  106. 梅本純正

    ○梅本政府委員 今回の改正におきましても、陸の労働者の労災と、船員保険と確かに違っております。いわゆる五月分というふうに、はっきりとその月で一律にきめております。御指摘の点でございますけれども、今回この法律提出いたします際におきまして、社会保険審議会におきまして、陸上労働者の労災問題等十分勘案しながら御審議を願ったわけでございますが、やはり、御指摘のとおり、いわゆる子供の数の少ないほう、扶養家族が少ないほう、そういうところにつきまして差を下げなければならないというふうな問題も出てまいります。その点は、やはり一応総数において労災保険と見合うような改正をとりあえずやっておる。あと、引き続き社会保険審議会において十分に検討してみようというふうに船舶所有者側も海員組合側もお話が出まして、今後引き続き検討されることになっております。
  107. 川俣健二郎

    ○川俣委員 局長さんは御自身で、この問題はしばらくこれでいかざるを得ないだろうというお考えなのか、時期を見てメスを入れてみようというお気持ちであるか、その辺……。
  108. 梅本純正

    ○梅本政府委員 御承知のように、船員関係につきましては船員保険法という法律で施行いたしておりますが、御承知のようにこれは総合保険でございます。単に疾病部門だけではございませんで、年金部門、失業部門、労災部門というふうに全部を合わせまして総合保険になっております。検討いたします場合にも、ただに労災だけを陸上と比べましていろいろ検討するほかに、いわゆる職務外の問題あるいは疾病問題、そういう制度との関連も十分検討しながらやらなければなりませんので、この点、先生の御指摘でございますけれども、私どもといたしましては、とりあえずこの現行制度を引き継ぐことにして、もう少しあらゆる横の制度との影響を考えながら、はっきりした線を見出していきたい、こういうふうに考えております。
  109. 川俣健二郎

    ○川俣委員 ありがとうございました。  基準局長に伺いますが、目的はやはり災害補償だけではなくて、リハビリテーションという——これがちょっと、外国の書物を読んでみると、日本の場合はかなりおくれているという感じ、そのほうに財政上手が回らないという、あるいは根本姿勢が違うというのか、義手、義足等の問題についても、西ドイツ等なんかに比べるとかなり劣っているような気がします。これに対して、これは災害補償の大きな範疇に入るだけに、そういった面をどのようにお考えになっておるか。
  110. 和田勝美

    ○和田政府委員 労災補償につきましては、本人の稼得能力損失に対する補償というだけでなくて、災害をこうむられた労働者の方が、一日も早く残っておる能力を十分使われて社会に復帰をしていただくというのも私どもの重要な目的になっています。そういうことからいたしまして、労災保険としては、十分な医療を行ないますとともに、労災病院を中心にいたしまして医学的に、あるいは職能的なリハビリテーションを実施するために、各病院にそれぞれリハビリテーション用の設備を設けております。また、それぞれの必要に応じまして、義肢とか車いすというような装備を無料で労働者の方に差し上げておるというようなことをいたしております。  また、脊損患者の方のためには、退院後におきましても、住宅の改造というような問題もございますので、社会復帰資金の貸し付けを行なうとか、あるいは自動車の購入資金の貸し付け——リハビリテーションの方の自動車は一般人の自動車ではちょっと問題がありますので、脊損の方に合うような自動車の改造が必要でございますから、そういうようなことを込めての自動車購入資金の貸し付け、あるいは軽作業を覚えていただくためにリハビリテーション作業所を全国に六カ所設けまして、作業になれていただいた上で社会復帰をしていただくというような施設を行なっておるところでございます。もちろん、これで十分というわけではございませんで、今後とも、健全な社会復帰をしていただくためには、医学的にも検討を要すべきものがずいぶんあろうと思います。そういうことで、労災義肢センターを名古屋の労災病院の構内に設けましたし、将来の問題といたしましては、産業医学の総合的な研究所を設けまして、社会復帰問題については研究開発を進めていきたい、かように考えている次第でございます。
  111. 川俣健二郎

    ○川俣委員 それから、大きく話を戻してぼつぼつ終わりますが、建議によりますと「適用拡大」の点で「労災保険の適用拡大については、近く成立が予想される「失業保険法及び労災保険法の一部改正法」の施行前にも、行政措置により、雰細事業場の加入促進に努力すること。」ということで、五人未満は任意になっておりますが、この点についてやはり行政指導が必要があるのじゃないかというように、私のほうの日本社会党は考えておるだけに、あえて質問したいのですが、そういうことをやっておられるかどうか。
  112. 和田勝美

    ○和田政府委員 臨時国会で成立をいたしました失業保険及び労災保険の一部改正法律によりまして、近い将来には全部の事業場に対して労災保険も適用されることになりますが、その前に、できるだけ適用拡大をはかることによって、零細事業場に働く労働者の方の福祉と保護の万全を期したいという考え方は従来からとっておりまして、労災保険事務組合、これは各事業場が非常に小そうございますので、手続上の事務問題もございますし、事業場からいいましても、ここで加入することがなかなかめんどうな問題もございます。事務組合方式をとりましてできるだけ早く任意適用事業場についても加入をされるような促進方策を、来年度予算をとりまして講じておるような次第でございます。
  113. 川俣健二郎

    ○川俣委員 今回政府の御提案になっておるこの改正が通過されることによって、年間に予算がどのくらい増額するか、聞かせてください。   〔佐々木(義)委員長代理退席、委員長着席〕
  114. 和田勝美

    ○和田政府委員 現在の単価によりますと、大体三十億くらいの支出増になろうと思います。なお、平常年度的に年金受給者がふえてまいりますと二百億程度の資金増ということになろうと推算をいたしております。
  115. 川俣健二郎

    ○川俣委員 さらに少し、災害補償の対象人員等を大ざっぱでけっこうですからお聞かせ願いたい。
  116. 和田勝美

    ○和田政府委員 年金受給者について申し上げますと、傷病補償給付を受けておられる方は、昭和三十六年度末には総数で四千百二十三名でございましたが、四十三年度末には九千百二十一名でございます。それから、傷害補償年金について申し上げますと、昭和三十六年度末が二百八十二名でございましたものが、四十三年度末では一万一千五百九人、遺族補償年金については四十一年度末の受給者は四千三十八人でございましたが、四十三年度末では一万三千六百七十九人、こういう状況でございます。
  117. 川俣健二郎

    ○川俣委員 いろいろと論議をされてきまして、私は、質問の中に私たちが考えておる考え方を述べながら、質疑応答をやってまいりましたが、比較的労働者災害補償にまつわる人員数というのは、そう言っちゃ悪いけれども、比較的少ないと思います。そこで修正ということになると、予算が通った今日、財源の問題にもなるでしょう。そこで、労働大臣に伺いたいところですが、総理がこの間、本会議において、議院内閣制をとっておるんだから、与党が審議してよしとする予算を野党が修正する余地はないよ、こういうようなお考えを、間違って発言したと思うのですが、ああいう考え方になると、政党政治というか、そういうようなのがどこかへ吹っ飛んじゃって、今回、大臣、これは修正をよしとするという社労委員会の空気であれば直す用意があるというようなお考えであるのか、これは一切質問に答える程度にして、あくまでもゴリ押ししていくというお考えであるのか、その辺をお伺いしたいのです。
  118. 野原正勝

    野原国務大臣 今日の労働者災害補償制度改正につきましては、審議会の非常な御審議の結果、現段階におきましては、従来の補償法を思い切って改正するということでできた法律案であり、これを提案したわけでございます。したがって、この災害補償法の適用については、その用意のための予算等も組まれておるわけでございます。これはいまにわかに労働者災害補償法の審議の過程において、非常に大きな財源を必要とするような改正を実は考えていなかったわけでございます。将来の問題としましては、先ほど来ございましたように、いろいろな問題があるわけでございます。したがって、将来はあるいはこの法律案を御修正いただくような場面が生じてまいるかと思うのでありますが、この法律案は、従来に比しまして一歩、二歩前進と、あらゆる面から見て、非常に働く人たちのためになる法律ということになると考えられますので、これをこの際はやはり皆さんの御協力を得たいと考えておるわけであります。予算問題等は、決して与党だけでやるわけではございませんので、皆さんの御協力をいただきたいと思うのでありますが、この災害補償に関する点につきましては、将来の課題として十分御意見のあるところを尊重して検討したいというふうに考えておるわけでございます。
  119. 川俣健二郎

    ○川俣委員 それから最後に、鉱山保安局長帰られたですか。——帰られたですね。それじゃ後ほど文書でもけっこうですから、御意見を聞かしていただきたいのですが、労働大臣にも聞いていただきたいと思います。鉱山保安の問題なんですけれども、ここの労働災害をめぐる建議にしても、こういうように書いておられます。「しかし、ひるがえつて考えなければならないのは何をおいても災害を起こさないことが労働者にとっても企業にとっても極めて大切なことである。そのためには、災害の防止について関係者があらゆる努力を尽くすべきである。そして、労災保険制度そのものとしては保険給付を行なうことは当然であるが、国は、中央、地方を通じて災害防止の措置を講ずるほか、労災保険としても適当かつ必要な災害の予防及び職業病の発生防止対策の研究開発のための施策を講ずることが保険収支の面から極めて重要な意味をもつものである。」こういうように、あらゆる観点から、やはり国の財政を使うことでもあるし、けがをされた労働者立場からも、あるいは痛手をこうむるであろう企業側からいっても、国をあげて労働災害に当たるべきだ。ところが、今回この問題とは直接関係ありませんが、鉱山保安局という名前が設置法改正によってなくなるので、これはお答え願わなくても、後ほど文書でいただけばけっこうですが、労働大臣にぜひ聞いていただきたいと思いまして、この際に、鉱山というのはもう常に事故が発生するのだというたてまえでなければ鉱山経営作業というのはできないと思います。特に穴の中で働くことですから、いつどこから落盤事故、飛び石その他ハッパ事故等々が考えられるわけで、歴史的に鉱山イコール保安、保安と鉱山というのは切っても切れないような時代の声が鉱山保安局ということで発生由来を見ておるわけです。ところが、公害という世の声の訴えがあまりにも出てきたために、鉱山保安というものに公害をくっつけて公害保安局にして、鉱山のほうもいままでどおり見るのだよ、こういうことで事足りるということと思いますが、鉱山代議士——私一人だそうですが、あえて言うわけじゃないですが、やっぱり建議にあるように、鉱山というのは常に保安に気を配っているものだ。この間の大阪ガス爆発を私も調査団の一人として現場を見てきましたが、鉱山で働く者から言わせれば、まあ、よくぞこんなことをさせて働かしておるものだということを、会社側、組合側を問わずびっくりしているような状態です。鉱山ではとてもああいうことはさせていない。大学を出てから五年なり十年くらいにならなければ、ああいうような危険なところの監督者にさせないし、また、ある程度の保安教育を受けた者でなければならない。したがって、各地方には監督官というのを派遣しておるわけです。  そこで質問は、監督官ではとうてい間に合わないので、各事業所に保安監督員と補佐員と二人、企業側の給料で置いておるわけですが、これがどのような機能を持って、はたして鉱山保安に実際的に役立っておるか。名前だけに終わっておるのじゃないかというようなことを私は質問したいと思います。後ほど文書でけっこうです。  それから、せっかくこういう質問をいたしましたので、労働大臣に伺いたいのですが、尻無川の問題、ガス爆発の問題、方々に出かせぎ労務者——いつか労働大臣が、出かせぎ労務者というのは腕っ節の強いところが買われているのだ、非常に重宝になっていると、こうおっしゃった。私は、それならそれでけっこうだと思うのですが、腕っ節、肉体労働だけを重宝がっておるはずなのに、相当程度の高い技能を要求する仕事をさせておるから、やっぱりこの辺で大臣も国会でお忙しいだろうが、出かせぎ現場というものを見て歩く、総点検すべきじゃないかというような考え方もした。したがって、私の質問を終わる前に、最後に大臣に伺いたいのは、労働者災害保険という労働者災害補償保険審議会建議の中ですら、やっぱり問題は、補償ではなくて災害防止なんだということを、六、七行を使って書いておるということ、こういうところから考えますと、そんなものは労働災害保険の範疇じゃないんだという考え方では済まされないような気がしますので、あえてその辺も大臣に決意のほどを聞きたいと思います。
  120. 野原正勝

    野原国務大臣 御指摘のとおり、災害が起こってからの補償というよりも、むしろ未然に災害を防ぐということが最も重要でございます。そのために労働省はあらゆる面から労働災害を未然に防止できる安全対策というようなものを講じておるわけでございます。鉱山等におきましても、そうしたことで非常に御努力をいただいておるわけでございますが、緊密に連絡をいたしまして、今後の災害の絶滅を期したい。しかし、そうはいいますものの、なかなか容易でないわけでございまして、年々六千名からの死傷者を生んでおるという事実。したがって、いかにしてこれを半減するかというふうな方向で目下検討しておるわけでございます。こうした災害を未然に防止するために全力をあげて取り組みたいという考えでございますので、よろしく御協力をお願いいたします。
  121. 川俣健二郎

    ○川俣委員 終わります。どうもありがとうございました。
  122. 倉成正

    倉成委員長 後藤俊男君。
  123. 後藤俊男

    ○後藤委員 実は大阪ガス爆発補償の問題ですが、きのうの報道によりますと、四人家族の場合で一千百八十万でございますか、さらに若い人につきましては八百万ですか、一応案としてこれが提起されておりまして、遺族の人としては、これでは絶対承知できないというようなことで、これからこの問題が煮詰められると私は思うわけでございますが、ホフマン方式で計算をいたしますと、一千百八十万ですか、しかもあのガス爆発には出かせぎの労働者の人が約一割おいでになるわけなんですけれども、しかもその中で、災害にあわれて死亡された人もおるわけなんです。当然労災の適用もあると思うのです。そうなりますと、現在の労災を適用した場合には、大阪ガス爆発の犠牲になられた死亡者に対しては一体どれだけの金額が出るのだ、その点が第一番。  二つ目の問題としまして、千百八十万円というのは通産省なりあるいは大阪市、さらにはガス会社ですか、三者の協議によってこれはきまったものではないかと思うのでございますけれども、いま言いました労災適用による補償金額と一千百八十万との違いですね。かなり大きな食い違いがあるのじゃないかと私は思うわけでございますが、その大きな食い違いに対して、一体どういうふうな考え方をし、どういうふうに解釈したらいいんだろうか、この点なんです。この点もあわせていま申し上げました第一点と第二点について御説明をいただきたいと思うのです。
  124. 和田勝美

    ○和田政府委員 大阪ガス爆発におきまして犠牲者になられた方々に対して、いま先生からお話がございましたが、実は私どもも正確な情報を得ておりません。新聞紙上で一応承知をした程度でございますので、ここで、こういう事情に基づきますということを申し上げられる段階ではございませんが、一応これは責任問題がどういうようになってこういう補償をされておるのか、そこらあたりの事情を私どもなりに少し正確に承知をしました上で申し上げたほうが間違いがないと思いますので、一千百万円の件につきましては、そういう意味で後刻事情をよく確かめた上で申し上げたいと思います。  第二点の労災補償との関係でございますが、出かせぎ労務者の方では一名なくなられまして、はっきりあの現場で業務上でなくなられた方は、大阪瓦斯の方三名を含めて七名でございます。この方々には当然遺族補償を差し上げることになります。現行法でございますと、受給家族数が三人の場合は四〇%、こういうことでございます。改正案によりますとこれが五〇%に上がるわけでございますが、現行法のままでございますと四〇%を差し上げる、こういうことに相なります。それで、しからば非常に安いじゃないかという御指摘でございました。これは先ほど川俣先生にもお答えを申し上げましたが、使用者の無過失賠償責任、要するに過失のあるなしにかかわらず、無過失の場合でも責任をしようということについて、労働基準法で賠償責任使用者側に負わしておりまして、その金額も基準法で書き、それを受けまして労災保険法で書いて、法律で支給する率を確定をしておるわけでございます。これに対しまして、一般民事問題として出てまいりますものは、裁判所等でやりますものは民法上の損害賠償でございますので、これは加害者側の故意と過失を要件にしております。もし加害者側に故意、過失がなくて無過失の場合は、裁判上は損害賠償責任を追及いたしません。そういうときには要するに損害賠償はないということになります。その無過失の場合と、それから過失のある場合では、これは当然過失のある場合が責任が加重されますので多額なものが出る、こういうことになるのではないか、かように考えております。したがいまして、先ほども申し上げましたように、労災保険法の給付を差し上げておいて、さらにそれが過失による事故であることが明らかになりますれば、おそらく労災保険以上の補償額を被害者の方が受けられる、あるいは遺族の方が受けられるという関係になろうと思います。そういうように、過失があるかないか、故意があるかないかということによりまして、労災の場合と一般の民事責任の場合には差がございますので、そういう差のあることを度外視いたしまして金額を比較いたしますことについては、私どもとしては疑問がございます。ただ、労災保険は、扶養者がある場合は年金でございますので、額面上は少のうございますが、長い間にわたって支給を申し上げますから、結果的には相当多額なものになる、こういうことは申し上げられるのではないかと思います。
  125. 後藤俊男

    ○後藤委員 いまの問題については、おっしゃるように、最終的に補償金額をまだ決定いたしておりませんから、そのことをつかまえてとやかく言っておりましても問題にならぬという点があるかもわかりませんけれども、そこで、いま言われた年金の問題ですね。昭和四十年の改正によって一時金がいわゆる障害年金という形で改正されたと思うわけなんです。そのときに、独身者で両親が五十五歳以下の人、この人につきましては死亡一時金が四百日でございますか、こう改正されたと思うのです。これは四十年です。ところが、当時の——当時のじゃない、現在も一緒でございますけれども労働基準法によると、死亡の場合には四百日ではなしに千日と、これは第八章の何条でございましたかで法的にきめられておると思うわけなんです。労働基準法で千日ときめられておるのに、四十年の改正で四百日ときめる。私に言わせますと、自分でつくった法律をみずからくずしておる、こわしておる、こういうふうに思うわけでございますけれども、この点は一体どういうふうにあなた方のほうとしては解釈をしておいでになるのですか、その点お尋ねします。
  126. 和田勝美

    ○和田政府委員 先生御指摘のように、基準法の七十九条におきましては、明らかに使用者遺族に対し平均賃金の千日分の遺族補償を行なわなければならない、こういう規定を設けております。これに対しまして四十年の改正のときには、扶養の権利のある方に対しては年金を差し上げて、扶養の権利のない方には一時金を差し上げる、この一時金を四百日、こういうことに改正をいたしました。ただその際、したがいまして遺族補償という観点からしますと、千日分と年金との関係でいきますと、総合的に見ておそらく千日分より手厚くなる、かように思いますが、ある特定の方にとっては、この千日が四百日に減るという問題がございましたので、その際の法律改正で基準法の八十四条を実は改正をいたしておるのでございます。ちょっと煩瑣でございますが、八十四条を読み上げてみますると、「この法律」という法律は基準法であります。「この法律に規定する災害補償事由について、労働者災害補償保険法」ほかのことばがございますが、それを除きまして、「又は命令で指定する法令に基づいてこの法律災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。」こういうように実は古い法律を変えております。これは、要するに労働者災害補償保険法によって給付されることがきまっておる当該の災害補償については、労災保険法の給付されるものによって、基準法に書いてある、たとえば遺族補償の場合は七十九条でございますが、この責任を免れるという調整的な規定が入っておりますので、法律的には四百日でございましても違法ではない、こういうような改正が当時なされております。
  127. 後藤俊男

    ○後藤委員 いま言われましたこと、私は一ぺん聞いただけでは理解しにくいのです。ただ、私の言わんとするところは、労働基準法の第七十九条でしたか、いわゆる災害死亡した場合には千日分の一時金を支給する、こう労働基準法では決定されておるわけなんですね。であるのに、四十年の改正で四百日に下げたということですね、問題は。そのときに局長が言われましたように、年金等を計算すると千日分以上にふえる人があるかもわかりませんが、中には千日分より少ない人も出ていると思うのです。そういう人は、明らかに労働基準法以下の労災補償を受けることになるわけです。そうなってまいりますと問題だと思う。だから、正しく言えば、それならば昭和四十年度までさかのぼって、四百日分しか支給しておらない人にはその差額を遡及して支給すべきだ、労働基準法等から考えてみても、これは改悪ではないかと思うわけです。基準法で千日ときまっているのに四百日ときめてしまう。たとえ四百日ときめましても年金その他で千日分以上に全部なるのだということならば、私考え方にまた変わってくると思いますけれども、いま局長が言われたように、千日分以下の扱いを受けている人もあると思うのです。これはたいした数ではないと思いますけれども、そうしますと、そういう人は労働基準法以下の扱いで、これは法律違反の扱いじゃないですか。
  128. 和田勝美

    ○和田政府委員 純粋法律的に申し上げますと、基準法の七十九条で、先生が御指摘のように「労働者業務死亡した場合においては、使用者は、遺族に対して、平均賃金の千日分の遺族補償を行わなければならない。」こういう規定がございます。それに対しまして同じ章の八十四条「(他の法律との関係)」というのがございまして、先ほども申し上げましたが、「この法律に規定する災害補償事由について、労働者災害補償保険法又は命令で指定する法令に基づいてこの法律災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。」こう規定しまして、七十九条と八十四条の間で法律的に労災保険についての調整をしたわけでございます。そういうことで、ある方については確かに四百日しかもらえない方が出られるけれども年金その他のことを考えると、全体としては遺族補償はこの基準法に書いてあるものを満足すべき状態に労災保険法が組み立てられておるから、特定の個人の方は別としまして、全体としては労災保険の今度の改正でよろしいという意思確定を国会として四十年にしていただいたわけでございます。その後の経過を見ておりまして、あのときの四百日分の問題についてはやはり問題があるのではないか、こういうような意見が出てまいりました。本日も先生からその意味合いの御指摘だと思いますが、そういう情勢を勘案をいたしまして、それで今度の法律案の中には、元に戻したと言いますと語弊がありますが、これから以後は一時金についても千日分にいたします、こういうことにするという意思の法律案を御審議をお願いしておるわけでございます。その間、四十年から——今度の法律がもし無事に通過しますればまことにけっこうでございますが、そのときの間につきましては、法律的には一応整理をされておりますので、そう御了解をいただきたいと思います。
  129. 後藤俊男

    ○後藤委員 そうしますと、これはなかなか理解しにくいのだけれども、いま言われた七十九条と八十四条ですか、この関連において四百日にはしたけれども、いわゆる遺族補償等を考えて、その金額以上になる人はこれは問題ない。ただし、労働基準法できめておる千日以下の人も、いまおっしゃるようにあったわけなんです。ところが、プールして考えると、千日以上になるんだから、これでいいんだ。労災補償のお金というものは、プールしてもらうわけじゃない。個人個人の労働者がもらうわけですね。個人個人の労働者がもらう場合に、労働基準法以下の扱いを受けておるのはこれは間違いでしょう。間違いだから、今度の国会で改正しようということを出したんじゃないですか。それなら四十年から今日までの間違い分を一体どうなさるおつもりか。あれは間違いだったけれども、今度の改正でこれで終わりでございますよ、あなた方もらうのは少なかったけれども、それはしようがないんですと、こういうことにはならないと私は思うんです。少なくとも基準法で千日分ということが決定されておったら、しかも基準法というのは最低だと思うんです。それが千日分を割って、しかも四十年から今日までそういう不幸な扱いをされておる労働災害の人がたくさんあるんです。その人に対して一体どうするんだ、こういうことに一方話が進んでくるわけなんです。
  130. 和田勝美

    ○和田政府委員 先生の御意見はよくわかるわけでございますけれども、ただ基準法が七十九条でもって千日分という遺族補償を規定をいたしました。それに対しまして、いろいろ行政経験からいたしまして、やはり遺族補償には年金がいい、年金を支給するようにするのが社会の大勢であるし、大きく言えば世界の大勢であるということで、年金制度にするという趣旨が出まして、それで八十四条が労災保険との関係で調整をされた。しかし、それならば、年金である以上は、これは扶養を受けるそういう受益の人に重点を置いた改正になったわけでございます。それに対しまして、一時金の問題については、これは扶養の受益を受けない人たち遺族の問題、その方たちには遠慮していただいてもよかろうというのが四十年の改正のときの趣旨であったんでございます。したがいまして、労災保険のほうで四百日分に下げましたことは、全体としては七十九条と八十四条の両者の法律改正ができました現在におきましては、両者の間に法律的、制度的には調整がとられておりまして、四百日分だけ差し上げることは決して七十九条違反ではない。それは、八十四条でその趣旨が明定されていると、こういう理解をしておりまして、したがいまして、ここらあたりに実は基準法の災害補償の考え方に一つの変化がある。四十年の労災保険法の改正につれて変化があるという時代の流れがこの遺族補償の中に出ておる。そういうことについて、川俣先生にもお答えをしましたように、労働基準法研究会では、これらの問題が一見矛盾のようにも見えるところがあるので、ひとつ十分御検討をわずらわしたい。こういうことで、いま研究会に御研究をわずらわしておるところでございます。
  131. 後藤俊男

    ○後藤委員 先ほど川俣君のほうからいろいろお話がありまして、大体言わんとするところは言い尽くされておるように私は考えておるわけなんです。ですけれども、いまの問題についてはあまり討論はなかったように思うわけなんです。私の考え方の誤りかもわかりませんけれども、独身者で両親が五十五歳以下の者、この人に一時金だけの人があるんでしょう。ほかに年金をもらう人は、これはまた局長の言われるように、一時金が年金になったということは前進だと私は思うわけです。ですから、四百日分もらって、年金もらう人は、これはやっぱり八十四条との関係でその筋は通ると思うわけなんです。年金も全然ない人で、独身者でしかも両親が五十五歳以下の人は、労働基準法では扶養者があるとかないとか、そういう条件を抜きにして、災害によって死亡した場合には、千日分を支給しなさい、こうなっているんでしょう。条件はないはずなんですよ。そうだったら、この四百日分だけもらってそれでおしまいという人は、これはまことに不幸な扱いを受けておるといっても間違いないと思うのです。しかも四十年にそういうことをやったのでしょう。今日になって、どうもこれはおかしいわいというので今度の改正案に入っているわけなんでしょう。それなら、四十年から今日まで、普通言うなら千日分もらえるのを四百日分もらって泣いていらっしゃる人は、非常に不幸な扱いを受けているわけです。労働基準法がありながら、死亡者に千日分支給することを決定しておりながら、それ以外で年金をもらうような条件の人があるものですから、いわばそれは犠牲になった形になったわけです。プールして計算すると千日分以上の扱いになりまして得になるのだ、こういうのでしょう。えらいくどいような言い方を何べんもしますけれども、それじゃ年金の扱いをされずに、ただ一時金だけで、四百日で終わった人は一体どういうことになるのかということなんです。こんな不幸な、不均衡な扱いというものは私はないと思うわけなんです。しかし、私はないと思いましても、四十年にそういう改正をされたわけなんです。ところが、四十年に改正されて、今日まで四、五年の間そういう扱いを受けた、おそらく四百日だけもらってしんぼうしていらっしゃる人が私はあると思うのです。どれくらいあるか、これはわかりませんけれども。それじゃ、これは間違っておったから今度の国会で千日分に改正しましょう、いままでの四百日分は気の毒だけどそれでおしまいだ、何もない、こういうことになると、それこそ弱い者いじめのような形になるのじゃないですか。少なくとも四十年の改正が、いま言った点で間違いがあるとするのなら、労働災害を受けて死亡された人に対して、四十年においては千日分を支払うべきところを四百日分しか支払わなかった、まだ六百日分あるのですから、支払わなかった分のほうが多いのですよ。その分は遡及して、まことに済まぬことだった、これは間違いだった、支払いしますといって支払ってもいいのじゃないか、それくらいの気持ちがあって正しく扱うのが労災の扱いではないですか。
  132. 和田勝美

    ○和田政府委員 四十年のときに、この八十四条を労災保険法の附則で改正したわけであります。そのときに、私が先ほどから申し上げていたように、遺族補償というものの姿から見て、遺族補償遺族補償らしいものになるためには年金の導入が必要である。要するに、扶養を受けるその受益者に対する遺族補償を手厚くする、したがってその扶養を受ける受益権を持っていらっしゃらない方は、そういう点では、口幅ったい言い方になるかもしれませんが、多少御遠慮願うというような意味合いのものが、八十四条ということで法律的に調整をされている。それはその当時におけるいろいろの社会的事情が反映してこうなったことでございますので、決してこれは法律的に云々されるものではないように私どもは思います。ただ、先生が御指摘のように、確かに四十年改正から今日まで、今度の法律が通りませんと、あとずっと続くわけでございますけれども、四百日ということになっております。それに対しまして今度は千日分の一時金ということで、扶養の受益のない方は千日分ということになりますが、これは最近における世の中の災害補償に対する考え方を反映をしております今日の時点において、四百日を限度一ぱいの千日までに直そうという、五年たった新しい時点における問題点として御提案を申し上げておるわけでございまして、この四年間が間違いであったという認識の上にこの御提案を申し上げておるわけではございませんので、その点は御了解をいただきたいと思います。
  133. 後藤俊男

    ○後藤委員 それは、あなたのおっしゃるとおり、四十年からいままでやっておったのが間違いでございましたという提案でないぐらいのことは、私もよくわきまえておるわけですけれども、それならば、あなたが言われる労働基準法の第七十九条には一体どう書いてあるのですか。何か扶養があるとかないとか条件がついていますか。
  134. 和田勝美

    ○和田政府委員 七十九条は、扶養の問題に全然触れずに「千日分」云々と書いてあります。それに対しまして、遺族補償については、扶養を受けておる、受ける権利のある者と、扶養を受ける権利のない者にはっきり区別をしたほうがいいというのが、四十年のときの改正趣旨であります。その間に基準法の七十九条との問題が出てまいりますので、それで八十四条でこういう改正がされまして、遺族補償の限りにおいては、労災保険に加入する事業場につとめる人については否定をした、七十九条はその限りにおいては否定されているということでございます。  しからば、どういうときに問題があるのかといいますと、実は遺族補償については、労災保険は御存じのように未適用事業場がございます。未適用事業場に働いておっても、基準法は全面にかぶるわけでございますから、その未適用のところに働いている方には七十九条がそのまま生きてまいりますから、だから千日分を差し上げる、そのかわり遺族年金という制度はない。そういうことで、どうも法律構造論として少しすっきりしないじゃないかという御疑問がおありであるとすれば、それは私はそういう御疑問の出ることはよくわかるわけであります。そういう問題については、要するに労働災害における遺族補償の姿はどういうものであるかということで、労災保険法でなく、基準法自体として論議をすべき時期であるということで、実は労働基準法研究会においても——いまは議論されておりませんが、間もなくこういう問題についての御議論が進む、その方向としましては、おそらく年金支出のほうが多くなっていく。ただ年金に伴いますときには、労災保険のほうが全面的にかぶったときでないと零細企業では年金はたいへんでございます。そこらあたりの制度論とのかね合いで、今後七十九条の問題が、労災保険の全面適用とからみながら進んでいくことだろうと思います。
  135. 後藤俊男

    ○後藤委員 そうしますと、いまあなたが言われたように、四十年には四百日ということで改正されました。ただし、数が少ないところとか加入しておらぬ職場ですね、そういう未適用のところにおいては、改正はされたけれども、さっき言ったような条件の人については全部千日分支給しておったわけですか。
  136. 和田勝美

    ○和田政府委員 これは労災保険法に加入しておりませんので、労災保険からは支給をしておりませんが、事業主自身が直接自分の金で労働者に千日分を払わなければ七十九条違反になる、こういうことであります。
  137. 後藤俊男

    ○後藤委員 そうしますと、先ほどあなたが言われました話は、だいぶわかってきたのだけれども、八十四条との関係で、四十年には四百日ということに一応改正されたわけです。ただし、労災の未適用のところにおいては、使用者労働基準法に基づいていわゆる千日分の補償をしておった、一時金を出しておる、これは間違いございませんか。
  138. 和田勝美

    ○和田政府委員 そのとおりでございます。
  139. 後藤俊男

    ○後藤委員 それをもう少し早く言ってくれればすっきりしたわけだけれども、結局あれが四百日になったことによって不利な扱いを受けたという人は、一体それならどういう人ですか。先ほど局長は、不利な扱いを受けた人があるように言っておられますね。
  140. 和田勝美

    ○和田政府委員 個々の方のことでございますが、こういうことになっております。労災保険の適用を受けておる事業場に働いておられる労働者——基準法の適用は全部でございますが、労災保険法の適用を受けている事業場、要するに強制適用と任意適用、どちらでもけっこうですが、その事業場に働いていらっしゃる労働者の方が、業務上の原因でなくなった、しかしそのときには、扶養を受ける受益者が、そのなくなった方にはいらっしゃらなかったという場合には、その遺族の方の受けられたのは労災保険から四百日分を支給申し上げている。したがいまして、その方々は、千日分との関係からいえば六百日分を受けていらっしゃらない。しかし労災保険法の適用を受けていない事業場に働いていらっしゃる労働者業務上の原因でなくなった場合には、その方々は千日分を使用者から直接受けていらっしゃる。だから、この方々には七十九条がそのままかかりますから、別に少なく受けられたということはないわけです。
  141. 後藤俊男

    ○後藤委員 次は、労災防止指導員というのがありますね。これは一体何を根拠につくられて、現在どういう権限が与えられておるか、これをお尋ねいたします。
  142. 和田勝美

    ○和田政府委員 労災防止指導員は、法律上の根拠はございません。もっぱら行政上の措置として、基準局が労災防止に関する学識経験をお持ちの方にお願いを申し上げまして、防災指導員になっていただいております。民間の方でございます。使用者側の推薦でなられた方もございますれば、労働組合の推薦でなられた方もございますが、いずれにしましても学識経験者ということでございます。そういう方でございますから、各事業場等にお見えになりますときには、監督官が持っているような権限はお持ちでございませんので、使用者側と合意の上で事業場に立ち入って、いろいろと安全に関するアドバイスを事業場側あるいは働いている方にされる。これはどこまでもそういう合意に基づくものでございまして、法律上の権限に基づくものは現在のところございません。
  143. 後藤俊男

    ○後藤委員 それで、最近災害が非常に多いものですから、労災防止指導員というのは、たとえばそこの工事現場に行きあるいは工場に行きましても、立ち入りをさせないわけです。いま局長が言われたように、合意の上でできたものであるから、そこの社長さんなりあるいは現場の監督者が、あなた労災防止指導員でございますか、入ってよろしいという承認を得ないことには、その現場に入ることができない。いわゆるその現場に入る権限がないわけなんですね。ですが、全国的にかなり多くの労災防止指導員というのが私はできておると思うのです。さらに、これらの人に対しては何らかの手当も出ておるのではないかと思うのですが、こういう人が労災防止指導員でありながら、工場の中に立ち入る権利もなければ、工事現場に立ち入る権利もない。それじゃ一体、何をさせるために労災防止指導員ができておるのか、こういう声が現場では非常に強いわけなんです。ですから各地域のいろいろの意向を聞いてみますと、ほんとうにやる気があるのなら、労災防止指導員にもっと権限を持たすべきじゃないか、こういうような陳情が非常に多いわけなんですね。いかがですか。
  144. 和田勝美

    ○和田政府委員 労災防止指導員につきましては、先生がいまお述べになりましたような意見が最近出ていることは事実でございます。ただ、一般には、それぞれ自分の工場、事業場に立ち入りをそうかってに認めるものではない。一定の権限と一定の資格のある者に限って認めるというようなこと、これは法律上特にその権限を持たされた者にはそれにふさわしい資格をおそらく与えるということでございましょうが、労災防止指導員につきましては、実はそこまで制度がまだ成熟をしていない。もっぱら民間の協力と安全に対する熱意によって学識経験者に自分の事業場に入ってきてもらっていろいろアドバイスを受けようということでございます。ただ、基準局としましては、できる限りそういう学識経験者の方のアドバイスを受けることが有効であるという考え方に基づきまして、単に労災防止指導員の方を配置しておくということでなくて、こういう方がおられるからあの方の調査を受けて、アドバイスを受けられたらどうですかとか、あるいは監督官が一緒に行きまして、こういう方だから入っていただいたらどうかというようなことを事業場に助言をいたしまして、労災防止指導員にいろいろ活動していただいております。  この問題につきましては、しからば将来の問題として権限を全く与えなくていいものかどうかという問題につきましては、実はあの制度ができましてから多少トラブルのある向きもございますので、もう少し情勢の展開を見た上で、私どもとしては考えていきたい、かように考えております。
  145. 後藤俊男

    ○後藤委員 労災防止指導員は全国にどれだけおりまして、手当はどれだけ出ておるか、ちょっとお聞かせいただきたいと思うのです。
  146. 和田勝美

    ○和田政府委員 全国で千五百人でございます。手当はまことに申しわけないほど僅少でございまして、予算的には千円ということでございます。
  147. 後藤俊男

    ○後藤委員 一年か月か……。
  148. 和田勝美

    ○和田政府委員 一年でございます。
  149. 後藤俊男

    ○後藤委員 先ほど川俣君のほうからいろいろ問題になる点については論議が行なわれましたので、私はあえて同じようなことを言うつもりはございませんが、ILOの百二十一号、これはまだ日本においても批准されておらぬと思うのです。それと同時に、ILO百二十一号を考えながら今度の改正案ができておるのではないかというふうに私としては考えるわけでございますけれども、全面的にILO百二十一号の精神が今度の改正案に入っておるか、入っておらぬとすればどの点が入っておらぬのか、その点を明確にしていただきたいと思います。
  150. 和田勝美

    ○和田政府委員 ILO百二十一号条約につきましては今回の改正案が成立をいたしますと、給付水準については批准でき得る体制になります。要するに今度の障害補償及び遺族補償年金、それぞれILO百二十一号条約水準に達するわけでございます。したがいまして全体的には批准できる体制になりますが、こまかい点について多少文言解釈等で議論がございます。その一つは、通勤途上問題でございまして、これはどうも条文的に見てはっきり読み切れないところがございます。そういう点はございますが、百二十一号条約に定めるもの全体は今度の改正によって批准できる体制になる、こういうことでございます。
  151. 後藤俊男

    ○後藤委員 それから先ほど質問に対して基準局長としては休業補償賃金の六〇%に押える根拠、これについては大体世界的標準が六〇%になっておりますのでわれわれも六〇%に押えるのが妥当であると考える、こういうような説明がああって、これは私も聞いておったわけなんです。それなら世界的標準というのは、これまた先ほど質問が出ておりましたように、日本におきましても夏期手当もあれば年末手当もある、それ以外に臨時給があると思いますけれども、私に言わせるならば、臨時給ではなくて、夏期手当、年末手当というのは、金額においてはある程度差があると思いますけれども、支給されるのはもう十数年前から固定しておると思うのです。しかも世界的標準によって六〇%が正しいのだ、こういうものの言い方をされるなら、それなら世界ではいま申しましたような手当はどういうふうなかっこうになっておるか。これは全部入っておるわけなんです。あなた方がお考えになっておるような基準賃金だけじゃないと思うのです。だから日本で言いますと、いま申し上げましたいろいろな固定的な手当を含むと一年六カ月分くらいになると思うのです、賃金が。ですから世界で扱っておるのは、一年六カ月分の六〇%という計算のしかたによって日額を出しておる。日本の労災におきましては手当というのは全然考えておらない。いわば一カ年分だけの基準内賃金を考えておる。そうなると計算をいたしてみますと、手当を含めてやると六〇%、これは世界でどこでもやっておることだろうと思いますが、この手当を抜いて六〇%にしますと、手当を含めた賃金で計算をすれば五〇%を割るわけですね。四十何%に下がってしまうわけですね。しかもILO百二十一号の精神そのものは、いま申しましたように、手当を含む計算をしておると私は思うわけです。しかもいま局長が言われたように、大体百二十一号は今度の改正法が通れば批准できます、ここまで言っておられる以上は、いま言ったことも十分考えておるのかどうか、この点を、前にやられたかもわかりませんけれども、明確にお答えいただきたいと思うわけです。
  152. 和田勝美

    ○和田政府委員 まず六〇%という問題につきまては、実は日本国内にもずいぶん前から休業手当等は六割という慣習がずっとつながってきておりまして、慣習だから全部がいいというわけではございませんが、その慣習は実は日本のいろいろな国内制度の中で休業の場合は六割、こういうようなものが各種社会保険に全部及んでいる。これが一つであります。それから外国におきましてももちろん六割であるものもあれば、ないものもありますが、大体大勢としては六割。それからいま御指摘のございましたILO百二十一号条約におきましては、やはり六割ということになっております。率はそういうことでございます。  しからば、計算基礎になる賃金の中身はどうかということでございます。これはILO条約のほうでは一条でこういう規定を持っておりまして、「所定の」賃金の云々ということばが使われておりますが、その所定というのは「国内の法令により、又はこれに基づいて決定されたことをいう。」ということで、各国の法令その他に基づいてきめられたものをもって所定とするということで、何を積算基礎の中に入れるかは実はそれぞれの国にまかせておるのがILO百二十一号条約趣旨でございます。  しからばわが国の場合はどうかと申しますと、基準法の十二条に平均賃金の規定がございまして、ボーナスとかそういうものが抜けておる。要するに臨時に支払われた賃金と三カ月以上の期間を越えて支払われる賃金は算入しないということになっております。しかし、これは現行法としてそういうことでございます。ただ問題は、そういうことでいいのかという問題が時勢の変化につれてもちろん出てまいります。したがいまして、この基準法の十二条の考え方をそのまま踏襲していくべきなのか、時勢の変化によって変わっていくべきものなのか、そこらの問題については労働基準法研究会でせっかく御討議をいただくことになっておりますので、その御討議の結果を待って対処していきたい、こういう考えでございまして、手当ならば一切いけないとか、いまの法律はいま申しました臨時と三カ月以上はいけませんが、将来とも永久にだめだという考え方ではございませんので、御了解いただきたいと思います。
  153. 後藤俊男

    ○後藤委員 いま言われたように労働基準法にいう平均賃金をとるのだ、これはILO百二十一号の第一条ですか、それぞれの国内の法律に基づいて云々という条項に基づくとそういうことになるのだ、こういう説明だと思うわけなんです。そのILOの第一条から考えると、そういうふうな解釈もできるかもわかりませんけれども、ただ私が言わんとするのは、ILOも大体六〇%と言っておる、日本の国内においても六〇%というのが大体相場だ。ところがその六〇%の基礎になる賃金が、少なくとも夏期手当、年末手当が六カ月分くらいある今日、それを除外して計算する日給と、それを基礎に含めて計算する日給とは、かなり大きな開きがあるわけなんです。だから局長の言われるように、ただ六〇%の看板だけ合わせておいて、中身の金額はこれは非常に低いものになるわけです。これはそのとおりだと思うのです。なるほど外面だけは六〇%でしょう。ところが基礎になる日給を計算する場合には、手当とかそういうものを含めないのですから、しかもその手当が平均すると六カ月分くらいある、この六カ月を除外して計算されるから、基礎になる金額は非常に少ないわけなんです。ですから看板だけが六〇%で、中身は世界並みになっておらぬし、ILOの百二十一号の精神に沿っておらぬ、こう言っても間違いないと私は思うのです。  そこで、いま言われますように、労働基準法の審議会ですか、そこでこの問題は相談をしていただくのです、こういう説明だったと思いますが、そんなものをそんなところで何も相談してもらわなくとも、ここであなたのほうで十分相談していただいて、平均賃金の計算についてはこういうふうに、労災についてはこういうふうに行なうのだ、そういうふうに提案をすれば、これは簡単に通るのじゃないかと思うのです。それをあえてあっちへ持っていって、こっちへ持っていって相談を願うて、それで話が通ったら次の通常国会で、こういうふうなことになりますと、当然改正すべき点が先へ先へ延びていってしまうと思うのです。あなた自体がやはり世界並みにそういう扱いをしたいという気持ちは十分あると思うのです。そういう気持ちが十分あるとするのなら、今度の改正のときぐらいは、少なくとも世界で一番とか二番とか三番とかいうておる経済大国が、この労災保険の問題についてようやく世界並みの扱いに持っていこうとするのなら、手当が六カ月も出ているのだから、これも含めて計算するのだよ、こういうふうに提案されても行き過ぎではないと私は思うのですが、何をちゅうちょしてそういうところに持っていって相談を願っておられるのか、その根拠が私はわからぬわけです。こんなことははっきりしておる問題じゃないですか。はっきりした問題ならはっきりしたらしい提案をしていただけたら、これはおそらくここにおられる皆さんも賛成だと思うのです。いかがですか。
  154. 和田勝美

    ○和田政府委員 賃金の形態、様相、中身、それからどういう理由でそういう手当が支給されているかというような問題は、確かに時代の変遷とともにずいぶん変わってまいります。基準法は昭和二十二年にできまして、その当時及び近い将来の日本の給与体系というようなことを念頭に置きながら十二条は書かれたものだと思います。十二条につきましては、その立法の趣旨は、普通生活をしている賃金でその人たち休業手当をもらったり休業補償をもらったりするようにしたらどうかという考え方が、十二条の平均賃金の中にあると思います。あるときに異常な金が入った、そういうものは通常の生活費というものとは少し違う問題があるだろうというような意味合いで、臨時に支払われた賃金とか——平均賃金は御存じのように、事由発生以前三カ月まで計算します。三カ月以上のものについては一応除外をして、ならされた姿で見ようという考えであったと思います。それがその当時、そういうことで臨時に支払われた賃金とかいわゆる俗にいわれておりますボーナスははずされておりますが、その後におけるいわゆるボーナスとかいろいろの手当とかいう名前でいわれておりますものを、十二条の立法の趣旨から見て一体そのまま放置していいのかどうか。だいぶん変わってきたろうと思うのです。変わってきた要素をひとつ専門家の方々に的確に把握していただいて、ボーナスだから全部だめだというのか、ボーナスでもこういうようなものはいいというのか、あるいはボーナスを全部入れてしまってもいいというのか、そういう点はひとつ十分専門的に御討議をいただいたほうがよかろうという考え方でございまして、これなんかは相当むずかしい問題を含んでいるように思います。それと、基準法全体について見直していただくというのが研究会の本来お願いした趣旨でございますので、せっかく基準法全体をバランスをとって見直そうということで発足をいただいておりますので、この平均賃金なんかもそういう意味においては非常に重要な問題点だ、かように思います。そのバランスの中でお考えをいただくという意味で研究会をお願いをしておるわけでございまして、決して私ども、持って回るというような趣旨でないことはひとつ御理解をいただきたいと思います。
  155. 後藤俊男

    ○後藤委員 そうしますと、いまのあなたの説明を聞いておると、労働基準法の中の平均賃金というのがやはり基礎になっておる、あれがある以上はそうかってになぶるわけにはまいらぬ、これを手当等を含めるとするのなら、平均賃金とは何ぞやという、労働基準法から考えてもらうことだ、こういう説明だったと思うのです。  それとあわせて、いま言われました、二十数年前にできました労働基準法をいま研究会にかけておるということは、労働基準法を改正するというふうに解釈していいのですか。そこの研究会に労働基準法全般を研究してもらって、二十数年前にできた労働基準法だから遠からず労働基準法全般について改正をする、その中の一つとして平均賃金という問題があるから、その結論が出た暁においては労災も考えましょう、こういうふうに解釈していいですか。
  156. 和田勝美

    ○和田政府委員 労働基準法研究会につきましては、昨年九月に発足をしていただきましたが、そのときに大臣から申し上げましたのは、今度の研究会で労働基準法について全面的に見直していただくことにいたしましたのは、決して法律改正をもくろんだり、法律改正をしないということを前提に置いたり、そういうことではなくて、時代が二十何年たちました今日において客観的、専門的に御判断をいただいて、現在の法律で事足りるかどうか、受け入れる可能性があるのかどうか、もうすでにあふれてしまったという御判断なのか、あるいはその中の事項でいろいろ変えなければならぬものがあるのかないのか、そういうことをひとつ客観的、専門的に事実をはっきりさしていただきたい、こういうことをお願い申し上げたわけでありまして、決して、前提として法律を変えようとか変えないとかいうことでなくて、事実をはっきりした上で法律との関連について御討議をお願いしたい、こう申し上げております。
  157. 後藤俊男

    ○後藤委員 いまの説明は、私はわかったようなわからぬような、改正をするという前提でもなし、改正せぬという前提でもなく、客観事実に基づいて現在の社会情勢に見合うか見合わぬかを研究してもらうのだという説明です。そうなってまいりますと、そこの研究会では労働基準法が研究されると思うのです。しかもこれは局長が言っておられるように、二十何年前にできたものです。この労災の関係についてもそうだと思うのです。そこの研究会で結論が出た場合には、その結論に基づいて労働基準法全般を改正することになるのか、いわゆる研究会の結論を一体どうあなた方は運んでいかれようとしておるのかということをお尋ねしておるわけなんです。
  158. 和田勝美

    ○和田政府委員 研究会には斯界の権威者に二十名お入りいただいておりますので、私どもがこっちの方向を向いてくださいということはなかなか言いにくいことでございまして、その権威者の方々のそれぞれの学識を御信頼申し上げて自由にお運びをいただきたいということでございます。誘導政策をとってはおりませんので、御了解いただきたいと思います。
  159. 後藤俊男

    ○後藤委員 いやいや、私が言っているのは、誘導政策だとかどうとかということではなしに、結論が出たらどうするんだということを聞いているんです。  もう一つは、労災に関係のある平均賃金の問題ですけれども、そこで結論が出た場合にはこの労災は一体いつ改正になるのですか。たとえば平均賃金といえば、夏と冬の手当を加味すべきである、こういう結論が研究会で出たとしたら、この労災における扱いは一体いつ改正されるのか。その点を二つお願いします。
  160. 和田勝美

    ○和田政府委員 研究会は、いろいろの点について当初会合されましたときは、これから検討を進めていく際に全体的なバランスをとってやるということ、しかしその中でもバランスをくずさない範囲内において急いでやらなければならない問題については、必要があれば研究成果を発表しても差しつかえないじゃないか、こういうことでございます。したがいまして、研究会のほうで平均賃金問題について早く結論をお出しいただいたような場合には、実は私どもはその結論を十分に拝見をした上で、公式にあります基準審議会意見を聞かなければなりませんので、伺って所要の手続をとりたい。研究会のほうがいつ出てまいりますものか、ちょっとそういうことではっきりいたしませんので、時間的にいつごろであるということを申し上げる段階にまだ至っておりませんが、そういうことで御理解をいただきたい。
  161. 後藤俊男

    ○後藤委員 そこで、大臣、私申し上げたいのですが、たとえば今度の国会は五月十三日に大体終了するということはかなり前からわかっておるわけなんですね。いま基準局長が言われますように、平均賃金の問題すら現在問題になっておるわけなんです。ですから、研究会へゆだねてこの平均賃金の問題を十分研究していただいて、そこの結論がどう出るかわかりませんが、世界の情勢、趨勢というのが大体大勢を占めておると思うのです。そこまであなた方がお考えになっておるんなら、なぜ一体今度の国会に間に合うようにそういう手続をされなかっただろうかというところに私は疑問があるわけなんです。五月十三日に終わったら、国会はもうしばらくないでしょう。極端な話ですけれども、研究会の結論が六月に出ました、そうなったら、これをせめてもう二カ月ほど早く出してもらったら国会に間に合うて御審議を願えたんだが、こういうことになるような気がするわけなんです。いわば行き当たりばったりのような考え方でやっておられるような気がしてならないわけなんです。少なくとも平均賃金の問題についてそこまで真剣に考えておられるものなら、今度の国会で当然間に合うような方向で作業を進めていただくなら、この国会においてありがたくそういう問題が審議できると思うのですけれども、いま研究会で研究しておりますのでその結論が出るまで待ってくださいということになりますと、これは結局いつのことやらわからぬようなことになるんじゃないかと思うのです。いかがですか。
  162. 和田勝美

    ○和田政府委員 ちょっと事務的に申し上げてから大臣に……。  実は、労災保険審議会から今度の法律改正基礎になります建議をいただいたのが、昨年の八月でございます。その建議の中にこういう文言がございます。「労災保険の給付基礎日額の算定方法と労働基準法の平均賃金の算定方法との関係については、引き続き慎重に検討を行なうこと。」こういうことがございまして、実は労災保険審議会で相当議論になりました。議論になりました結果、これはやはり基準法の平均賃金が先に出ておるから、その平均賃金との関係を調整しなければいけない。ちょうどそのころ私ども研究会の発足構想を持っておりましたので、そういうことを申し上げまして、基準法のほうでも十分ひとつ研究いたしますから、こう申し上げましたら、なるほど賃金にはいろいろ問題がある、変わってきたから、そういう場でじっくりやってもらったほうが、ここで早急の結論を出すよりもよかろう、そういうような意味合いでこういう建議案をいただきましたので、これを受けて、先ほど申しましたような研究会で御討議をいただいている。決してこの労災保険法の改正のときに間に合わないために云々というような意思ではございませんので、御了解いただきたいと思います。
  163. 野原正勝

    野原国務大臣 ただいま基準局長からお答え申しましたように、賃金の問題や労災の保険制度の問題につきましては、審議会あるいは研究会等の非常な御苦心をいただきまして、それぞれ検討願っておるわけでございますが、この労災法の改正という問題は、とにかくそうした賃金問題など待っているひまがございませんので、とりあえず提案されたと思っております。これがやがて決定を見ますれば、当然これは労災法の改正にもなるかもしれませんし、あるいは省令の改正等で適用条項で直ってくるかと思うのですが、一日も早く明確な新しい賃金制度ができますれば一番いい。私ども先ほど来伺っておるのでありますが、どうも日本におけるボーナス制度というもの、これはやはりきわめて特殊な問題である。もうすでにボーナスは一種の働く人の所得の一部であると考えております。労働基準法研究会等ではどういうことになりますかわかりませんけれども、やはり従来のボーナスというものはある程度賃金の中に入れるべきだというふうな考え方になってくるのじゃないか。しかし、それが全部が全部賃金という形になるものかどうかは問題でございます。とにかく欧米の諸国と違いまして、日本におきましては戦後、特に最近におきましては、ボーナスというものは生計費の中に非常に大きく占めております。特殊な例と申しながら、一つの賃金体系の中にこれは入ってまいります。  そういうことを考えますと、一日も早くその辺のところが明らかにされまして、これが基礎となり、さまざまな災害補償制度の中に明確に入ってくることが好ましい、望ましいわけでございます。何とか一日も早くりっぱな答申をお願いして、そうしてこれを基礎にして、労災が本来の目的である、災害にかかった方々の生活の安定なり将来の問題に安心できるような制度としてできますことを心から望んでおるわけでございます。  そういう意味で、ただいまはそれらの問題がまだ未解決のままでこの改正案提案されたということでございますが、これも昭和四十一年の改正以来、実は先ほど御議論のように非常に矛盾した問題を内包しておる。やはりここらあたりではっきりと遺族補償の問題であるとか、年金の問題であるとかあるいは国の会計の負担に対する助成の増額であるとか、そういう問題で随所に苦心のあとが見えておるのでありますが、こういう線でこの法案提案され、御審議をいただいておる、一歩も二歩も前進した案であると考えておるのであります。やがてこれは将来よりよきものにだんだんと検討され、それが実現されるような段階になることを予想しておるわけであります。
  164. 後藤俊男

    ○後藤委員 時間がまいりましたので終わりますけれども、結局、論議されましたように、通勤途上の問題といい、さらに平均賃金の問題といい、いろいろな問題が含まれておるわけなんです。しかも、あなた方のほうから一たん提案されると、なかなか修正ということはむずかしいわけなんです。あなたのほうが一たん出したら、何と言おうとかんと言おうと、その出した案を何とかして通そうということに真剣になられるわけであります。全国の何十万か何百万かの労働者の皆さんは、たとえば平均賃金の計算のしかたでも、こういうようにしたらちっとはふえるんじゃないか、よその国ではこういうふうにやっておるのに、なぜ日本の国ではそういうようにやってもらえぬのだという気持ちがずいぶんあるわけなんです。ところが、あなたのほうでいうと、研究会でいま研究の最中でございますから待ってくださいということで、一年ぐらい手間どると思うのです。さらに、通勤途上の問題にいたしましても、ILOの百二十一号を読むとこれを対象にしておるわけなんですね。ところが、これは何とか調査会でいま調査中でございますのでもうちょっと待ってくださいというので、また一年かそこらずっといってしまうのです。それじゃ一年待ってうまくいくかというと、うまくいかない場合が多いのですね。ですから、いまも労働大臣言われましたように、結局国会にこういう審議する場所があるのですから、調査委員会とか何とかで御審議願うのはけっこうですけれども、そういうことをやっていただくならば、国会の審議に間に合うような作業のスケジュールと申しましょうか、そういうようなことも今後考えていただくということが非常に大事なことじゃないかというように私は思うわけです。  さらに、先ほど局長が言われました労働基準法の問題についても、改正する前提でもなし改正しない前提でもなしというようなことで言及されておるわけですけれども、これもやはり二十数年間たっておるわけなんです。あの中には労災問題も含まれておるわけでございますから、これは早急にやってもらわなければいけないと思います。さらに、きょうの新聞でございますけれども、三千五百万円の補償という記事が出ましたね。新聞に載っております。これは大臣読まれたか読まれないかわかりませんけれども。だから結局は、現在の労災保険そのものを根本的に一ぺん考え直す必要があると私は思うわけなんです。たとえば、先ほど言いましたように、大阪のガス事故について千百万、おそらく労災保険で計算しまするとその三分の一ぐらいだろうと思うのです。ああいう事故については世間でたいへん問題になったものだから、補償をよけいに出さないと世間で問題になるからというのでしょう。ところが同じように災害を受けておる労働者の皆さんで、あれだけりっぱな扱いを受けておるところはないと思うのです。いわば使用者の過失によって起こった災害といえども、あれだけの補償を受ける。私はあの補償が高いとか低いとか言うのじゃないんですよ。そういうようないろいろな点から考えていき、さらにILO百二十一号、世界の情勢から考え、しかも国内における労働災害の点から考え、あるいは物価高の生活の面から考え、遺族補償の面から考え、一時金等を考えると、どれをとってみてもどうもこれはいいなんというものは一つもないような気がするわけです。ですから、この労災保険につきましては、根本的にひとつ全面的検討をし直す、また今日の日本経済状態にふさわしい社会保障制度の中の労災保険として出発する、こういうところへひとつ大きくメスを入れていただく必要があるのじゃないかというふうに考えるわけなんです。ですからぜひひとつ——日本社会党からも案を出しております。政府の案も出ておりますけれども、先ほど言いましたように社会党の案はもう全然だめだ、おれらのほうの案だけでいくんだということではなしに、両方突き合わして、話のできるところはひとつ十分話をしていただいて、修正をしていただいて、先ほどの大臣のお話じゃないが、一歩でも前進する方向へこの労災保険の改正をやっていただく、これだけはぜひひとつお願いいたしたいと思います。  最後に、労働大臣の所信を伺いまして私、終わります。
  165. 野原正勝

    野原国務大臣 この労働災害補償制度改正につきましては、非常に長い間検討を加えてこの案ができ上がった。しかもそれは審議会の答申を尊重してという点で、ただいま御指摘のようなさまざまな御議論もございますし、将来漸次これは改正してりっぱなものにしていく必要があると思います。しかし、この案につきましては、政府としましても、あくまでもこの審議会の答申等に基づいてできましたこの案を、従来のものに比較いたしましてこれは数等進んだ案である、いろいろ問題があるけれども、とにかく一歩も二歩も進んだ案であるという点で、皆さんの御審議の上にこれを御承認いただければ非常にしあわせだと思っております。いまにわかにこの案を修正するかいなかということについては、どうも非常に困難であるという点を御了承願いたいと思います。
  166. 倉成正

    倉成委員長 次回は、明二十八日午前十時、委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後四時三十六分散会