○本間参考人 私はいま御紹介にあずかりました家内総連の副
委員長をやっております本間でございます。
私はベンゾール中毒事件で最も深刻な体験をした
家内労働者として、家内労働の実態と問題点について御報告申し上げます。
委託者の
性格についてまず述べたいと思います。
家内労働に委託する
委託者、すなわち問屋、あるいは製造業者及び仲介人でありまして、商品を生産する製造業者というよりは、実際には問屋的、商人的な
性格が非常に強い小零細業者がほとんどであります。
彼らは完備した事業場を持たず、原材料とデザインを指定して
家内労働者の間をあちらこちらに持ち運ぶことによって、
最後的には製品となって店頭に帰ってくるのであります。このような
委託者の事業場は実際には
家内労働者の自己の家を工場や倉庫として製造業者に無償で貸与しているのが実態であります。
彼らは自己の事業を拡大しようと思えば
家内労働者に出す材料を増加すればよく、特別に事業場の拡大のための設備投資めんどうな雇用契約による従業員の募集や、そのための流動資本を必要としないのであります。また事業を縮小しようと思えば、
家内労働者に出す材料を減らせばよく、休業補償の必要はないのであります。また事業場を閉鎖する場合、労基法にいう解雇予告、
退職金の支払いなど一切のめんどうなことは必要としません。家内労働に依存している各種の家内工業における共通点は、前近代的生産形態、問屋制家内工業であるということがいえましょう。
このほか、大
企業が
家内労働者に直接または仲介人を通じて委託することは近年増加してきています。このことは、労働力の不足が深刻化し、潜在労働力の開発が大きな原因と思われます。
時間の都合上、仲介人の
性格は省略させていただきます。
三番目に、
家内労働者の実態について御報告したいと思います。
家内労働者は各自己の住まいを作業場に当て、起居する場所と同一個所で作業を行ない、
家内労働者の労働力は、おもに世帯主とその家族の労働であり、中には親族の人が同居している場合があります。
特殊の例外としては繁忙期に知人から臨時に手伝ってもらう人もあるようであります。
家内労働者、業者をおたなと呼んでおり、だんな、職人という
関係、近来では社長、専務とか呼称は変化しつつありますが依然としてその
関係は封建的従属
関係に縛りつけられ、繁忙期には寝ずに仕事に追い立てられ、また仕事がなくなれば見向きもされないし、
委託者の言いなりにならざるを得ないような仕組みの中に
家内労働者は置かれております。以上のような労働条件のもとで工賃の決定は自主性を欠き、業者と対等の
立場で適正な工賃の決定ができない
状態にあります。この原因は
雇用労働者と異なり、事業主及び店員との間で毎日の仕事の授受のたびに接するので、事業主及び店員のごきげんを損ずることは、その日からの作業量の減少に結びつくことを極度におそれるからであります。次に、家内労働の概念について御報告いたします。
現代における
産業構造の変化とともに労働形態の変動も激しく、労働
事情も近代的就業構造と相まって婦人労働分野に見られるように労働市場も拡大し、
労使区分が明確化しようとしている現状の中で、家内手工業の、特に雑貨商品等の生産
関係においては旧来依然として、前近代的な従属的家内労働によって生産が行なわれているのであります。
家内労働の
関係においてそれを統一的にとらえることは困難でありますが、私は、家内労働政策の実効性を高めるためにも家内労働の
性格を科学的に分析し、
家内労働関係を明確にする必要があると思います。
私たちにあっても
家内労働者ということばを用いる場合、明確な統一的内容を持っていたわけではなく、私
ども実際運動に携わっているものとして、その必要から、はきもの
産業だけでなく、あらゆる業種の
家内労働関係から見て統一した内容を持ちたいと
考え、次に申し上げるように分類したのでございます。
家内労働者と称されている中に、商業的な
性格の強い者と
労働者的な者、内職者とに大別できると
考えます。
商業的な
家内労働者とは、この
人たちの生活程度は上層の部に位置し、独立手工業者として販売機能と高額な生産工具を所有し、常時的に少数の雇用労働があって、業者との
関係は従属
関係というよりも、むしろ経済上の
関係と見られる側面が強く、経営者的な
性格を持っております。
労働者的な
家内労働者とは、前者とは全く反対で、簡単なとるに足らない生産工其しか持たず、前近代的な従属
関係によって支配され、随時技術指導と労務管理労働力の把握が業者の手によって行なわれ、生産計画及び商業的利潤もまた業者にゆだね、その労働の成果も、また市場的評価も業者の手にあり、みずからは、労働力を提供し、その労働の対償として受ける工賃収入によって生計を維持しております。したがって、この種の
家内労働者は
委託者との従属性が強く、その仕事も継続的であり、固定的で、
雇用労働者の地位に近いもので
労働者的であります。
内職者については、その実態について諸先生方も御理解が深いことと存じますので省略させていただきます。
このように、何ら商業的利潤を得る手段もなく、ただ肉体的労働によって工賃収入を得て、これにより生計を営んでいる家内工業の生産に従事する
家内労働者は、法的には
雇用関係はないとはいえ、本質的には
賃金労働者と大差ない
労働関係の中に働いております。また現在では労働力の不足が
家内労働者の分野にも大
企業からの就職勧誘の手が伸び、低工賃、ひま場、長時間労働等、劣悪な労働条件下での生活をきらい、親子で働いていた家内労働世帯の中で、若い人は
雇用労働者として転業する傾向が二、三年前よりあらわれ、労働力の減少により複数の
委託者の仕事をしていた
家内労働者皆無といってよいほど大きく変化しております。このような変化は思想面にも影響し、
家内労働者は業者的意識が強いといわれましたが、業者的意識は薄れ、
労働者としての自覚を深めてきております。
以上のごとく、実態は
賃金労働者と本質的には大差ない
性格を御理解いただき、一定の
委託者のもとで継続して働いている
家内労働者には労基法の準用をはじめとして、
労災保険、健康保険、
失業保険、
退職金、休業補償等の
社会保障制度を
適用すべきであると
考えます。
次に、安全衛正と業務上の
疾病について申し上げます。
家内労働者の作業場は、四畳半ないし六畳程度の寝食も同所で行なう場所において行なわれているのが普通で、都市においては大部分がアパート生活または間借り生活であります。このような環境と長時間労働という悪条件も加わり、非衛正的なもとで作業が行なわれております。
昭和三十四年七月、東京ヘップサンダルの
家内労働者及び内職の間で発生したベンゾール中毒事件も、このような環境の中で生じたのであります。
家内労働者の使用する副材料の中に、有機溶剤(接着剤、ゴムのり)及び鉛、水銀等が使用されております。この種の
家内労働者は常に健康上の不安な気持ちで作業をしております。このような現状でありながら何らの
保障も与えられておりません。
一定の業種については定期的な無料健康診断、特殊検診等を行なうことを
委託者に義務づけ、さらに
労災保険の
適用を行なうよう強く要望する次第であります。
最後に、ベンゾール中毒事件で最も深刻な体験をなめた東京サンダル工
組合の
家内労働者として、労働保護並びに
社会保障立法より除外されてきた
家内労働者の保護のために、
家内労働関係を明確にし、労働基準法の精神に従い、労働条件を規定され、もって
家内労働者の最低生活を
保障される立法を心からお願いして私の報告を終わります。(拍手)