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愛知国務大臣 この繊維問題につきましては、与野党を通じて非常な御心配をいただいておりますことを非常に恐縮に思っておりますが、
政府といたしましても近来にない非常に大きな問題として、全力をあげ、あるいは知恵をしぼって対処いたしております。そしてただいまの御
質問に
お答えする前にちょっと一言申し上げさせていただきたいのでありますが、それは、今回きわめて短時間でございましたが、吉野公使を呼びましたのも、電信電話等では尽くせない状況も
アメリカ側にあろうが、これもはだに触れて聴取したいと思いましたし、同時に各方面から寄せられております、対米
外交上
国民的なこれだけの大問題にされて、
日本の国内のこの状況も、
交渉に当たる、あるいは大使を第一に補佐する吉野君の頭の中には十分たたき込んでもらう必要がある、こう思いまして、一時帰国を命じたわけでございます。
そこで私の得た印象は、率直に言えばあまり新しいことはございませんでしたけれども、
二つのことを特に感じました。
一つは、米側の第一次案、第二次案あるいはその
説明、あるいは
アメリカの繊維業界その他
関係者の間の
考え方というものには、文章の上はともかくといたしまして、やっぱり包括的な規制ということが非常に深くしみ込んでいるということでございます。ですから
日本側としては、この点をどうしても
アメリカ側に理解、納得させるということが、いまの段階においてもなおかつ第一に必要なことであるということをあらためて感じたことが
一つです。
それからもう
一つは、
アメリカ側が非常にきびしいきびしいといっていることは、一体何をきびしいと見るかということでございます。これにはいろいろのきびしさというものが捕捉できますけれども、その中で
一つ最近大いにいわれておることは、今月の、もう来週早々でございますが、通商法案の公聴会が開かれる。それを契機にして制限立法がいよいよたいへんな勢いに燃え上がってくるのではなかろうか、こういう観測を米
政府が非常に心配しておって、米
政府としてはもし米議会方面でさような制限立法などができるということになると、いまの
アメリカ政府としては日米の
友好親善関係に思わざる不測の事態を来たすのではなかろうかということを非常に心配しておる。そこで
日本との間に何らかの話がつかないだろうかということに焦慮の色を濃くしておる、こういうことが
一つ。要するに
二つの点が私としてあらためて問題なんだということを感得いたしました。
ですからそういう点を基礎にいたしまして、世間では、吉野に対案を持たせて帰したんだろう、それから対案を示さなければ
アメリカは納得しないだろう、こういうふうに観測されあるいは報道されておりましたけれども、対案というのにもいろいろ幅がございますし、何かしらは持たして帰さなければ、話し合いを断絶させることは
外交上まず第一にまずいことでございますから、そういう
姿勢で吉野君と相談をし、通産
大臣ともとっくり相談をいたしまして、次のような措置をとりました。
吉野君が昨日帰任するときには、大体の私の
考え方を口頭で詳細に示しましたが、文書につきましては、大使に対して、君が帰任するころに追って訓令として届くような文書をすぐ送る。その米側に対して文書として回答することにいたしましたものは、通産
大臣と完全な合意をいたしまして、決定をして——現在の時間ではもう電信をいたしたころかと思います。
その
内容はこういうことでございます。したがって、これはこれから申し上げることによって御承知を願いたいと思いますが、いわゆる対案とは向こうはとらないかもしれません。
第一は、まず米側
提案は実質的に包括的規制であり、わがほうとしては話し合いの基礎として受諾できない。これが第一です。
第二は、この回答は
日本側のいわゆる対案——
日本流にいえばかぎをして「対案」とは言えないが、本問題についてのわがほうの
考え方をできるだけ具体的に詳細に述べたつもりである。すなわちその
内容として、一は、本問題は米国の繊維産業で輸入により重大な被害またはそのおそれがある品目に限り、すなわち選択的なベースにおいて
解決をはかっていくべきであるというのが
わが国の基本的
立場であり、そうでなければ、
わが国業界の
協力と納得を得ることはできない。二は、かりに輸出自主規制を行なう場合にも、かかる措置は本来暫定的な措置であり、短期間に限らるべきものである。
三番目は、本問題は日米間のみの問題ではないので、しかるべき段階で他の主要輸出国をも交えた多数国間協議を行ない、かかる協議を通じて問題の
解決をはかることが必要と
考える。
こういうような基本的な
考え方から、わがほうとしては米側から重大な被害または被害のおそれについての補足的な資料の提供及び
説明があれば、さらに検討を進める用意はある。このためジュネーブにおいて予備会談を再開することはいかがであろうかということを重ねて
申し入れることにいたしました。そして補足的な資料の提供やあるいは
説明などがありますれば、それに応じて具体的な当方の意見というものもさらに
申し入れるであろう。
以上申しましたことが、文書として訓令をし、または米側に
申し入れることにいたしました基本的な条項でございます。