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担当委員外委員(
小山邦太郎君)
委員外の私でございますが、
予算委員会において、米をはじめ畜産その他果樹等に対する
質疑応答は相当尽くされたと思いますが、蚕糸業について憂慮すべき点も見られますので、私見を加えながら当局の御考慮をわずらわし、さらに決意を一そう固めていただきたいと思う次第でございます。
それは輸出産業でありました日本の蚕糸業が、いまや輸出というよりは国内需要にむしろ不足を感ずるというようなことから、あるいは朝鮮あるいは中共等からも輸入になっております。ところが、養蚕もこの二、三年は非常に順調に進みましたものの、昨年末かなり下落をいたした。すなわち、一俵四十八万円したものが三割以下も低下したというようなこともあり、今度、糸価安定法の一部を改正して組織の簡素化をはかり、さらに一そう事業団を拡大強化しようという御意図であることは一応けっこうなことと思いまするけれ
ども、私から見ますると、その規模がまだまた小さ過ぎるのが第一の難点である。それから第二の欠陥は、かりにそれを少しぐらい大きくしましても、日本より生産コストのきわめて低い中共並びに朝鮮から相当の——安定すれば安定するほど相手国の産業にも一そう発展の機会を与えまするから——輸入量がふえて、そうして日本の価格安定がなかなか容易でなくなってくる。日本の価格安定が相手国の産業を一そう発展せしむるということにもなりかねない。このことは広い見地に立って考えれば、自分だけがしあわせならばよいのではない。後進国あるいは隣の国まで発展するということは、みずからに被害をこうむらない限りはむしろ進んでやるべきことであろうと思いまするが、その点が非常に心配になるものとして問題が残されている。なぜ心配かというと、国内の糸は買い上げてそうして需給の調整をはかるが、海外の輸入に対しては何らの規制がない。そうすると、国でどのように需給の調整をしても、輸入糸によってこの対策は力を失うことになりはしないか、この点を心配しているのです。あの法律を見ますると、これに対し一項が設けられ、すなわち、異常な海外の生糸の下落から日本の価格安定に悪影響を及ぼすときは何らかの方法をとると書いてある。「適切な方法をとる」でございましょうが、どうなことをおとりになるか、なかなか私は常識的に考えてめんどうだと思う。すなわちいまの法律で許された
範囲であれば、関税定率法の九条に定められてある緊急税率を適用するなり、あるいは輸入貿易の管理令によってこれを規制しようということでございましょうが、これはなかなかお役所の
仕事で、迅速果敢なことは行なわれにくい。緊急税率の実施は大蔵省であり、他方の管理令のほうは通産省である。そこの十分の了解なしでは一歩も進めない。この点はなかなか困難なことであろうと思いますので、いまから御用意になって、このときはこうだということをよく御研究になって、そうして、いつでもそこに来たらば発動できるだけの準備をしておかないと、この一項も空文に終わるおそれがたぶんにある。多額の国費を使い、多数の関係者の
生活基盤の安定の上にと言って御心配になったことがむだになるおそれがある。この点をひとつ十分御考慮をわずらわし、いまから御用意を願っておきたいのであります。
それから、規模が小さいということを申しましたが、往年しばしばこの買い上げを行ない、その数量はおそらく十万俵ぐらいやったことが三、四回あるでございましょう。そのつど成功して、国家に損害を与えるどころではない。ばく大な利益をつけて、この特別会計を始末した。一例をあげれば、横浜における生糸検査所をはじめ、あれらの施設はみなこの利益でできたというようなことでございます。ではありますが、今度は国内需要に対して不足であるから海外から入るという。そうして、生産コストが高いので、相当価格は高く、買い上げに要する資金量は往年の比ではない。現に三万俵くらいの計画をお持ちだということでありますが、さらに三万俵の
要求がある。私は、はたして六万俵で価格維持ができるかどうか、いまの海外から入るものの規制も、早くできればその目的を達しましょう。それやこれやを考えますると、規模の点においても御考慮をわずらわす必要があるし、かりに規模を大きくしようとしても、とかく時期がおくれることを憂える。さればこの目的は達しない。この二点について憂慮にたえませんので、ひとつ十分御考慮をわずらわしたい。さらに、蚕糸業に対する国民の覚悟というか、あるいは関係者の覚悟を新たにする必要があると思うので、指導者の立場からもお考えを願いたい。それは輸出産業として国際貸借改善の上に非常な功績をもたらしておりましたので、大蔵省あたりも国民もまたばく大な資金をここへ投ずることを意に介しなかった。しかし、今日は国内産業になってきている。さればといって、関係者はまだ多く、すなわち、二百五十万以上の人間がこの
仕事で
生活しておるのですから、この点でなお重要さを失わない。さればこそ
政府が蚕糸局を廃止しましてもその重要性は認めて蚕糸園芸局というようになっておって、その蚕糸園芸局がいまの事業団の充実をはかっていただいたということをもってしても、相当重きを置いていただいているとはうなずけますけれ
ども、蚕糸業者の持ったかつての使命とは違った立場に置かれたこともあらためて認識する必要がある。さりながら国際貸借改善にはもうさほど役に立たないが、アジアにおける平和、アジアにおける友好関係を進める上に非常に大きな働きがこの事業を通じてありはしないか。なぜなれば、蚕糸業の主要産地は生産が少なくなったといっても日本であり、それに加えて中共であり、それに加えて朝鮮である。ところが、朝鮮との関係は、朝鮮に経済援助をしておりまするから、これは話がある程度渡りがつくでありましょう。現に朝鮮が、日本で価格維持に当たるということから、こちらへの輸出量に対し多少遠慮して、むしろヨーロッパのほうに相当売るようになったという情報も耳にしましたが、中共に至っては、残念ながら政治の関係、国交が回復しておらぬ。そうかといって、それでいいとは言われないから、政経分離と言って経済的交流は望んでいる。政経分離などということは決して理想的なことばではない。やむを得ず、まことにこれは徹底しないことばでありますが、しかし、政経分離と言って、経済のほうは道は開いている。ですから、この経済、すなわち蚕糸業を通じて、中共も朝鮮も、日本が安定することによって、彼らも安定するのだから、これを奇貨おくべしとなしてただむやみに増産をしないで、協同して安定の政策に協力を求め、この主要供給地としてこの三国が一致していけば、これはもう世界の市場を支配することができる。また、ヨーロッパとしても、アメリカとしても、需要者の立場からもあまり高いことは好まぬが、あまり下がっては迷惑だ。それがためにインターナショナル・シルク・アソシエーションもできておって、買う人も売る人も、あまり高からずあまり安からずということを理想として集まっているのです。これをひとつ、
政府ではできないことでも、蚕糸業の使命をいままでは国際貸借改善に役立ったが、中共との友好の改善に、あるいは国民経済の融和にその共通点を見出してお互いに仲をよくする、
仕事を通じてということにこれが役立つならば、かつて国際貸借改善に偉大な功績を示した以上のものをもたらすこととなる。現在、
政府自身の手の及ばない中共に対して、何とかこの道を開く方法はないものか。これはすぐの問題ではありません。としても、長期的な展望に立って御考慮をわずらわしたい。もうそうでなければ、何とこれをほめたたえ、加勢しようとしても、往年の蚕糸業の国家に対する経済上の地位とか、そういうようなものはその重さを著しく軽めでおると思うのでございまするが、この点を考えるならば、これは経済問題以上に、ややもすれば、融和を求めて、それを欠いておりまする両国間に、この多数の養蚕家を通じて、多数の蚕糸業人がともに技術的の発展を楽しみ、お互いにその立場立場を理解しながら、供給国であるアジアの三国が、以上のようなことで、あまり高くない、またあまり安くないということでこの目的を達するということができる。これは夢のように思われるけれ
ども、非常に大事なことじゃないか。私は中共と仲よくする
一つの方法として、そのために三百億や四百億使おうがたいした問題じゃない。真に政経分離の実をあげるというならば、ここらにひとつ
政府は腹をきめてはどうか。そしていつまでも吉田書簡がどうだこうだとかいう議論を乗り越えて、こういう方面でひとつ政治家的感覚から十分にお考えいただきたい。いわんや、その利害関係が最も深い群馬県の出身でいらっしゃいます
大臣に、このことを、これは御答弁も何も要りませんが、お訴えをいたしてひとつ御考慮をわずらわしたい、こう思う次第でございます。私の、質問と申しまするか、意見を加えての御考慮をわずらわす点は以上でございます。よろしく。