○
公述人(藤井丙午君)
八幡製鉄の藤井でございます。私に対する
公述は、今後の
産業政策のあり方についてというようなことでございますので、若干愚見を申し上げまして御参考に供したいと存じます。
御承知のように、
日本は鉄鉱
資源も石油
資源、繊維原材料その他主要工業原材料を持たないまことに
資源の貧困な国でございますけれども、幸い
国民の努力によって御承知のようにここ十年間、年率一〇%といったような非常な高い経済
成長を続けて今日に至っておりまして、四十三年度のGNPは大体一千四百五億ドルと見込まれる次第でございまして、私どもが
関係しております鉄鋼業におきましても、大体四十三年度で六千八百六十万トン、これは粗鋼でございます、そして四十四年度はおそらく七千七百万トンの粗鋼生産になるだろうとわれわれ予定いたしております。しかもその中で、輸出は鋼材で千三百万トン、粗鋼にいたしますと千六、七百万トンでございますが、いずれにいたしましても世界第一の鉄鋼輸出国になっておるわけでございます。まあ
アメリカの一億二千五百万トン、ソ連の一億トンに比べますと、大きな開きがまだございますけれども、しかし
フランスが二千万トン、
イギリスが二千五百万トンあるいは奇跡の繁栄をうたわれました
西ドイツにおいてすら、ここ数年間三千七百万トンといったようなところを低迷しておるに比べますと、鉄鉱
資源を持たない
日本が、四十四年度七千七百万トン程度の生産ということは、これはまさに脅威的といわざるを得ぬわけでございまして、しかも非常に安い、いい鉄を供給しておるというて、多少コマーシャルみたいになりますけれども、そういうわけでございますので、したがって、それを材料とする造船工業も四十三年度はおそらくグロストンで八百九十万トンの建造高になるであろう。むろん世界第一であり、世界の造船の約四〇%、そして輸出造船は世界の輸出造船の約五〇%を占めるという、これは圧倒的な国際競争力を持っております。
自動車もまた自由化の問題がいまいろいろいわれておりますけれども、これまた大体四百三十五万台という四十三年度の生産見込みでございまして、これもドイツ等を抜きまして
アメリカに次ぐ第二の
自動車生産国になって、かなりの輸出の額に達していることも御高承のとおりでございます。石油
産業にいたしましても原油がほとんどございませんけれども、大体四十三年度で一億四千万キロリットルの原油の輸入精製、それを原料とする石油化学とその他の化学
産業をも含めまして、これまた世界第三位であるわけでございます。かように重要
産業は一位もしくは三位という
状態でございまして、いわゆる世界の三大工業国にのし上がっておるわけでございます。これは結局
国民の非常に
教育水準の高い、しかも勤勉なそして貯蓄性向も、最近はレジャーだ、バカンスだといいますが、世界の最高の貯蓄性向という、こういった優秀な
日本民族のエネルギーと申しますか、バイタリテーと申しますか、そういったものがこの繁栄を築き上げたわけでございますけれども、しかしながらこの背景といたしましては、やはり日米安保条約によって、
日本の国土の安全、生命、財産の安全が保障されておるという大前提があって、しかも戦後経済
援助のみならず技術革新といわれるもの、あるいはオートメーション、マスプロダクションといったような近代的な設備のほとんど大部分を、
アメリカから輸入し導入したというような背景、あるいは軍事費
負担も、最近では一般
予算の中で九%程度になりましたけれども、数年前まではほとんど軍事費的な、いわゆる防衛費の
負担なしに、
資本蓄積の大部分を
公共投資なり
産業投資なりに投入できたからこそ、こういった世界に比類のない経済
成長ができたのではなかろうかとわれわれは考えておる次第でございます。しかしながらいまや国際経済環境も非常な大きな変化が起こってまいりまして、従来のような高度
成長が、はたして持続できるかどうかという大きな問題にわれわれは当面しておるわけであります。と申しますのは、その国際経済環境の
一つの大きな変化は、いわゆる貿易の自由化から
資本の自由化へ、三十年代後半はいわゆる貿易の自由化、そうして四十年代に入りましていよいよ
資本の自由化をわれわれは迫られておる段階でございまして、すでに鉄鋼業、造船業といったような国際競争力の強い
産業は、第一次からもう一〇〇%自由化されておりますけれども、そういうわけでございまして、いよいよ国際経済時代というものを迎えまして、われわれは単に安いいい品物をつくっておるというだけでは競争できない、そこにはいわゆる革新的な技術力であるとか、あるいは
資本の調達力であるとか、あるいは市場の開拓力であるとか、あるいはまた経営の管理能力、こういったあらゆる
企業の総合的な力でもって国際競争に耐え得るような
日本の
産業体質、経済体質にしていかなければならぬ、こういう大きな問題にわれわれは取っ組まなければならぬ
状況でございます。したがいまして、いま申しましたような鉄鋼とか、造船であるとか、あるいは
自動車、あるいは機械、そういったいわゆる先端
産業、あるいは戦略
産業的なものを
企業の再編成、
産業の再編成
——いわゆる
企業の合同であるとか、合併であるとか、
企業の提携であるとか、そういうことを通じて国際競争力を一段と強化していかなければならぬ、なかんずくこれからの大きな問題点は、非常な技術革新が進んでおるということ、これが第二の問題であります。
御承知のように、戦後は
日本の経済が非常に急速に発展したということは、いま申しましたように、主として
アメリカから技術革新的なものを導入し、あるいは新鋭設備を導入して急速な
日本の
産業の近代化を行なったわけでございますけれども、これからは
資本の自由化の問題に
関連しまして、従来のように、簡単にパテントとかノーハウというものが、それだけが輸入できないような
状況になって、大体
資本と抱き合わせて輸入するといったような
傾向が非常に強くなってきておるわけでございます。その意味におきまして、私どもこれからはむろん海外の科学技術を取り入れることは当然といたしましても、自主的に科学技術を開発し、新製品あるいは新工法を開発して、その面からの国際競争力をどんどん強化していかなきゃならぬという、これは時代的な大きな要請をされておるわけでございます。したがいまして、この技術革新にいたしましても、まあ
日本は幸いにして
教育水準は高うございますので、いままでのところは海外のそういう技術革新なり、あるいは近代的な設備を輸入し、導入いたしましても、それを消化していくだけの技術水準があったということ、これは
日本の強みでございます。しかしながらこれからは、ただ模放経済的なことはもう許されない。
日本みずから自主的に技術を開発し、新製品を開発し、あるいは新工法を開発して国際競争力を強めていかなければならぬ、こういうことになってまいるわけであります。その点につきましてちょっと大きな問題点は、
日本は御承知のようにまだ非常に
資本の蓄積が少のうございます。したがって、研究開発
投資もたいへん立ちおくれておるわけであります。
アメリカ等の例をとりますと、大体科学技術の開発については七〇%がいろいろな形でこれは
政府が行なっておりまして、
あとの三〇%を
民間が行なっておるというのが大体の数字でございます。ところが、
日本はそれと全く逆に、いわゆる
政府関係の科学技術の開発に関するウエートというものは大体が三〇%でございまして、
あとの七〇%は
民間の努力によって、
民間の研究開発
投資によってこれを行なっておるというのが実情でございまするので、その点につきましてわれわれは
予算を拝見いたしましても、もう少しこの科学技術振興等について御考慮願いたい。と申しますのは、これからは御承知のように宇宙開発あるいは原子力あるいは海底開発、こういった時代にいま進んでいくわけでありまして、同時にまた、一方においては情報革命であるとか、あるいは物的流通革命であるとか、とにかく何でも革命という字がつくほどどんどん時代は進展しておるわけであります。ある学者の説によりますと、過去二十年前に生産されていなかったものが現在世界生産の四〇%を占めておるということだそうであります。そして、おそらく今後二十年後には現在生産されていないものが世界生産の六〇%を占めるであろうという想定をなしている学者があるわけであります。事ほどさように、技術革新を
中心に
産業構造も高度化し、したがって
社会構造
——最近でもごらんのように、都市への
人口の過度集中といったような、あるいは
地方の
人口の過疎化といったような、そういった
産業構造の変化からくる
社会構造の変化、それに伴うまた
社会意識の構造の変化という大きな問題にもこれはつながってくるわけでございますが、いずれにいたしましても私ども鉄鋼業であるとかあるいは石油精製あるいは電力あるいは
自動車、こういった方面は、今日までこういったいわゆる装置
産業といわれる
関連産業におきましては、自主的な努力でこういった技術開発をどんどんしておりますけれども、いま申しますようにこういった宇宙開発であるとか、海底開発であるとか、原子力であるとか、こういった大きな問題、あるいはまた最近問題になっておる公害対策についての脱硫設備の開発であるとか、あるいはまた工業用水がだんだん
不足してまいりまするので、海水を普通の工業用水、淡水化すといったような、こういったものをこれは一
企業を越えた国策として、国家
予算によって技術開発をするといったような努力をしていただきませんと、あるいはそればかりじゃございません、ほかの大きな大型プロジェクトといったような技術開発は、これはぜひとも
政府の力によって、あるいは官民の共同の力によって開発していかなければ、
日本は先ほど申しましたような大きな変革期に遭遇して非常な立ちおくれを来たすのではなかろうかという心配を私どもはせざるを得ぬわけでございます。
そこで、第二の問題に
関連して少しお話し申しますと、世界の各国
——アメリカは御承知のようにこういった問題に対処してすでにかなりの寡占経済が進んでおるわけでございますが、
ヨーロッパにおきましても
企業の合同、合併、提携といったようないわゆる
産業再編成が行なわれておるのでございまして、鉄鋼業について
一つ例を申し上げましても、たとえば
イギリスにおきましては、全鉄鋼メーカーを合同いたしまして、いわゆる鉄鋼
公社つまり国有国営の形態をとって一社にまとめてしまっておる。そうすることによって
イギリスの鉄鋼業の国際競争力を強化することに現実になっておるわけであります。あるいはまた
イタリアにおきましてはフィンシデルというこれも国策会社ができました。実は一週間前にその代表者が数人、鉄鋼視察団として参りました。そういう
状況にもなっておるわけであります。また
西ドイツにおきましても御承知のようにオーグストテッセン、ヘッシュ、こういった二大グループに鉄鋼業が再編成されておるわけであります。
フランスにおきましても御承知のように、これまたユジノール、バンデルシデロール系統の
二つのグループに製鉄業が編成される。こういうわけでございまして、国内の占有率いかんという問題ではなくて、国境を越えて、あるいはものによっては世界的な
企業の提携、合同まで行なわれるといったような非常に大きな
産業の再編成が各国も行なわれつつある
状況でございます。
第三の問題は、先ほどから申しますように、
日本には非常に知的水準の高いしかも勤勉な、貯蓄性向の高い労働力が非常に豊富にあったということが
日本経済の高度
成長を可能ならしめたこれが最大の原因と申し上げてもよろしいわけでございまするけれども、その豊富な労働力にそろそろ限界がまいりまして、労働の需給
関係が年ごとに非常に逼迫してまいりつつあるという
状況でございます。これはもう申し上げるまでもなく、
一つには、戦後のベビーブームが一巡しました
あと、
日本の出産率ががたっと落ちてきて、少ない少ないと言われる
フランス等よりもはるかに落ちておる。私はっきりした記憶がございませんけれども、大体
アメリカ並びに
ヨーロッパ諸国、
フランスを含めての諸国の出産率は千人に対して大体十七、八人でございます。ところが
日本はもう千人に対して十三人を切っておる。おそらく十二・七、八人ではなかろうか、こういうふうに非常に出産率が低下しておるということが最近の労働力
不足の
一つの大きな原因である。
もう
一つは、これは喜ばしい現象ではございまするけれども、御承知のように上級学校への進学率が非常に上がりまして、昨年度の高校進学率も御承知のように七六・七%といったような率に達した。
大学生も、御承知のように、同じ時代での占める率が二〇%という、つまり八百六十幾つかの
大学——これは短大も含めてでございますけれども、百六十万に近い
大学生になりまして、
大学生といいましても、量質ともに非常に変貌して、これが
教育制度、
大学制度等のいろいろな矛盾と相
関連しまして、目下学園紛争が続いておるということは、これはもう御承知のとおりであります。そういうわけで、一方では出産率の低下、一方では
教育水準の急激な上昇という面から、いわゆる
産業労働、ブルーカラー、こういった労働力がたいへん減ってまいりまして、ホワイトカラーが逆にどんどんふえていっておる。
産業の労働
人口構成から申しましても、非常なアンバランスが生じつつあるという
状況でございまして、こういう意味で、これは一面におきましては、大、中、小
企業を問わず、働く人たちの所得水準も上がり、生活水準も上がってきた。これはまことに望ましい
傾向ではありまするけれども、一方では、こういった労働の需給の逼迫から、ことに労働集約度の非常に高い
中小企業等において非常な労働力
不足という問題が起こりつつあります。このことが、また同時にベースアップ等を通じて
中小企業製品の物価の上昇ということになりまして、あるいはまた農産あるいは水産等の一般の生鮮食料品の値上がりという問題とともに、物価問題、
消費者物価の大部分の問題は、この食料
関係と
中小企業製品の物価高に基づいておるのでありまして、いわゆる基礎
産業的なもの、大
企業経営的なものは、これはもうほとんど卸売り物価は横ばいでございまして、私ども鉄鋼業について申しますと、十年前を一〇〇%としまして、現在の鉄鋼価格はまだ九二、三%という、これだけ物価が上がり、これだけ賃金が上がっているにもかかわらず、まだそういった
状況でありまして、まあそう言っちゃはばかり多いことでございますけれども、世界で一番安い、いい鉄をつくっている。
アメリカあたりは、大体いまトン当たり百七、八十ドルあるいは九十ドルしておるのに対して、
日本は大体百三十ドルから三十五ドル見当でございまして、その間の値幅が四、五十ドルございますから、先ほど一千三百万トンの鋼材の輸出と申しましたけれども、そのうちの半分の六百五十万トンは
アメリカに輸出されておるという
状況でございます。
もう
一つ、これは会社のコマーシャルみたいになりますけれども、いまニューヨークで、ワールドトレードセンターという世界最大最高の、ちょうどいまのステートビルよりもっと高い、ああいうのを二本建てた、世界最大最高のビルがつくられておるわけでありますが、その使用鋼材は全部私どもの会社から輸出しておる
状況でございまして、そういうことが
アメリカの鉄鋼業を非常に刺激して、輸入制限について国会へメーカーが非常に働きかけておる。したがいまして、ことしは、われわれ業界としましても自主規制をして、二五%くらいの思い切った自主規制をいたしますが、しかし、最近では
ヨーロッパ諸国からも非常に膨大な引き合いがまいりまして、おそらく
アメリカで落ち込んだ穴は、われわれは
ヨーロッパ、その点で埋めることができますので、ことしも依然として千三百万トンの輸出は可能である。ということは、結局砕いて申しますと、四十三年度鉄鋼の原材料は、鉱石が七千万トン、石炭が三千四百万トン、スクラップ銑鉄が六百万トン、その他重油等を入れまして十八億ドルという膨大な原料を輸入しますけれども、千三百万トンの鋼材を輸出しますと、大体十八億六千万ドルぐらいの輸出になるわけですから、おつりが六千万ドル、そのほかに、造船であるとか
自動車であるとかその他機械等に含まれておる素材としての鉄が八億ドルでございますから、結局、鉄鋼業は基礎
産業であると同時に、非常に大きな貿易収支の上でも輸出
産業としての役割りを果たしておる。ことばをかえて言いますれば、貿易収支だけの面から申しますと、わずか千三百万トンの鋼材を輸出することによって、原材料代を払ったあげくにドルをかせいでおる。そうすると、国内で使う五千三百万トン程度の鉄鋼はビルディングになったり機械になったりあるいは
社会資本——いろんな形に、
住宅になったり、電化製品になったりしますけれども、そういうことは
国際収支からいえばただということになる。つまり五千三百万トンの鉄が何らかの形で国に温存され、蓄積されると、それだけ
日本経済がぐんぐん大きくなっていくということでございまして、
日本経済が発展しておる姿というのは、結局、具体的に言うとそういうことでございます。しかし、これはいま申しましたような大きな三つの制約にわれわれは当面しておるわけでございます。
そこで、まずこれからの
産業政策のあり方としましては、
産業構造をどんどん変化せざるを得ない。たとえば、国内の総生産を
産業別に見ますと、
日本では、農業が一一・五%、工業が四五%、その他のいわゆる第三次
産業等が四三・五%という数字でございます。ところが、
アメリカでは、農業はわずかに三・三%、それでも食料品が余剰で困っているくらいの
状況でございます。そうして工業
関係が三七・八%、その他の第三次
産業が五八・九%、こういう形になっておる。
西ドイツにおきましても、農業はわずかに四・二%、工業が五一・九%その他の第三次
産業は四三・九%、
イギリスにおきましても、農業が三・一%、これは食糧輸入国でございますが、工業が四六・六%、そして第三次
産業というのは五〇・二%、
フランスも同様にかなり農業の比重は高いといわれておりましても、これは七・四%、工業が四七・三%、その他が四五・三%、こういう
状況でございまして、しかもこれは
産業別のいわゆる就業者
——働く人たちの
割合いを見ますと、
日本では第一次
産業が二二・一%、第二次業が三三・五%、第三次
産業が四四・三%、だんだん近代化的な
産業人口構成になってまいりましたけれども、しかし、
アメリカの第一次
産業が五%、第二次
産業が三三・二%、それから第三次
産業が六一・八%と比べますと、非常にまだ第一次
産業が多いということがこれでわかります。
西ドイツにおきましても、第一次
産業は一〇%、第二次
産業が四七・三%、そして第三次
産業が四二・七%、こういう
状況になっておるわけでございまして、まだ、輸出は伸びた、近代工業化したと申しましても、
産業構造の面から見ますとまだまだ立ちおくれておるという感じがしないではございません。たとえば、輸出に例をとってみましても、
アメリカの輸出が大体昨年で三百三十億ドル、
西ドイツが二百四十七億ドル、
イギリスでは非常に斜陽斜陽と申しましても、まだ百五十四億ドル、それに対しまして
日本が百三十億ドル、こういうことを考えましても、まだまだ一億の民族が、非常な高い文化的な水準を享受するような
状態になるまでには、もっともっと、輸出を百五十億ドルから二百億ドル見当にしないと、とうてい
国民所得の増大なり、あるいは快適な
国民生活を営み得るような
状態にはなり得ない。ことに農業の近代化につきましては、もう国をあげて非常に御努力をなさっておりますけれども、いま申しましたような
産業構成から見ますと、もっともっと農業の近代化、あるいはまた
日本の非常に大きな
産業構成の比重を占めております
中小企業につきましても、近代化、合理化、そのための合同なり、あるいは協業化なり、こういったものをどんどん進めて、特色のある、個性のある
中小企業をどんどん育成強化しなければならぬというふうに私どもは解釈しておるわけでございます。特に
中小企業の場合は、先ほど申しましたように労働力の
不足ということが決定的な
一つの問題点でございますので、労働力を節約するための、いわゆる省力化のための近代化がよほど思い切って推し進められなければならない。そのために
政府予算でも、
中小企業関係はかなり潤沢に盛られておりますけれども、それはいわゆる運転
資金的な金融が非常にウエートが多うございまして、いわゆる
産業構造を変化するといった意味の配慮がまだまだ不十分ではなかろうかという点を私どもはあえて御指摘申し上げたいと思う次第であります。
それからもう
一つは、先ほど申しましたけれども、これからの輸出はただ単に安いいい品物を出すというだけではなくて、いわゆる国際経済化時代になりまして、ワールドエンタープライズ、つまり国際
企業化時代になってまいりますので、
資本と技術と密着したわれわれは競争力を強化しなければならぬ。そういう点でわれわれはよほどこれから前向きに問題の取り組み方をしなければ、やがて
日本の経済
成長も、あるいはまた国際競争力も頭打ちになるおそれがなしとしない。なかんずく、私は特にきょうお願い申し上げたいのは、先ほども申しましたように、科学技術の開発についても、もう少しこれを
政府の
予算面でも御配慮を願いたいということでございます。理由はさっきるる申し上げましたけれども、たとえば通産省の
予算を拝見しましても、石炭対策費
——これは重要な問題でございますけれども、
産業的には、これはどちらかといえばうしろ向きの
資金でございます。それが八百八十五億円も計上されておるのに対しまして、技術開発費は大型プロジェクトが四十七億、その他を含めて全体でわずかに百七十億程度というまことに微々たるものでございまして、これはそう言っちゃ失礼でございますけれども、われわれ
民間、特に鉄鋼業だけの例をとりましても、少なくとも、
民間の
企業でも、これぐらいのことは鉄鋼業だけでもやっておるということを申し上げたいのであります。あるいはまた科学技術庁
関係の
予算を拝見しましても、ことしはかなり増額されましたけれども、まだ九百十七億、原子力
関係が二百九十七億、宇宙開発が六十一億、海洋開発が八億、大型工業技術開発が四十七億、まあかなり増額されておることは、これは私どもも認めるにやぶさかではございませんけれども、
アメリカの宇宙開発費だけでも一兆何千億円といったような
——二兆でしたか、数字を先般新聞で拝見しましたが、とにかく
日本の
予算の総額の三分の一近いものが宇宙開発費だけでも投入されておるというようなことを見ますと、いかにこの科学技術に対して
政府の
予算的な配慮が少ないかということを、われわれはあえて申し上げざるを得ないのであります。
それから、第四番目の問題点としまして、これからは
日本は国内の経済発展をはかることは当然といたしまして、海外へもよほど積極的な進出の姿勢をとるべきではなかろうか、特に
日本は東南アジアにおける唯一の工業先進国として、開発途上にある東南アジアの諸国に対しまして、
資源の開発、
産業の
建設はむろんのこと、
教育、保健衛生、文化、あらゆる面におきまして
日本は協力
援助の手を積極的に差し伸べるべきではなかろうか。と申しますのは、
日本の輸出構造を見ましても、大体昨年度の例を申しますと、北米に対して三一・五%、
ヨーロッパ方面に対して一〇・三%、東南アジアは二八・一%、西南アジアが三・三%、それから中南米が五・九、大洋州が四・五、アフリカが八・一と、これで自由諸国圏で九五%でございます。そしてわれわれは中共貿易、ソ連貿易等に努力をいたしますけれども、まだ東
ヨーロッパを含めた共産圏貿易が全体としてわずかにまだ五%であります。こういうことは、よほどもう少し
国民の皆さんに経済の基本知識として周知徹底していただくように私どもはお願いしたいと思います。こういうことで
日本経済が成り立っておる、つまり購買力のある欧米の先進国なり、あるいは東南アジア等の自由主義諸国に対する輸出が九五%、それで
日本経済が成り立っておる。
資源の貧困な
日本が、こういった輸出によって
国民経済なり
国民生活が成り立っておるということの認識を十分に持っていただきたい。われわれは決してソ連貿易、中共貿易を軽く見るわけじゃございません。せっかく努力しておりますけれども、共産圏貿易はわずか五%といったような輸出構造であるということは、これはただ単に経済的だけでなくて、政治的にも重大な意義があるということを私は率直に申し上げざるを得ないのであります。そこで、この東南アジア等の開発途上国の輸出が四九・九%、約五割を占めておるというこの事実、これを考えます場合に、私どもは従来のような、こういった開発途上国に対する経済
援助なり
産業政策のあり方で、それでいいのかどうかという問題、そのためにはわれわれはもっともっとこういった開発途上国に対して、積極的に、いい意味での経済協力、
資源の開発なり
産業の
建設なり、こういった前向きの姿勢をもうそろそろとらなければ、
日本はこれまたやはり立ちおくれを来たすおそれがある。と申しますのは、たとえば石油
資源、あるいは非鉄金属等の
資源におきましても、インドネシアの例をとりましても、これは東南アジアにおける最大の
資源国でございますけれども、ほとんど欧米
資本によって大部分の利権が押えられておる、取られておるという
状況でございます。私も実はそういうことを感じまして、
日本の石油
資源がもう九割近く中近東に依存しておる、しかも、七一年以降、
アメリカの軍事力が全部中近東以東から引き揚げるということになってまいりますと、真空
状態になってまいります。中近東は王国であり、土侯国であり、貧富の差が激しゅうございますから、いつ何が起こるかわからないというような
状況でございます。こういうところに九割近くも
日本のエネルギーの対象が依存しておるということは重大問題でございます。でございますから、アラスカ、あるいはカナダ等の油田の開発等に
——私自身も九州石油開発という会社を興こしまして、インドネシアの南カリマンタンに
日本の六割という広大な油田の権利を確保して、探鉱からいよいよ試掘の段階に入っております。幸いにこれが当たりますれば、非常に硫黄分の少ない、つまり〇・一以下のロー・サルファーの油でございます。輸送距離も中近東の半分以下で済む。マラッカ海峡を通らなくてもいいから、五十万トンから六十万トンのタンカーでも運べるという
状況でございます。これは海底でございまするから、はたして当たるか当たらないかわかりませんけれども、こういうふうに
日本の石油
資源も分散確保するといったような
政策をはっきりとらなければならないと思います。そういった問題に対して、石油公団等に対する今年度の
予算も八十五億ほどいただきましたけれども、そう言っては失礼でございますけれども、ほんのスズメの涙の程度でございまして、こんなことではたしていいのかどうか、こういった意味で、
民間企業も東南アジア等の開発のおくれた国々に積極的に進出するのは、これは当然でございますけれども、
政府におかれましても、ただ漫然たる経済
援助でなくして、そういった
一つの
産業政策の構想の
もとに、積極的な進出というか、経済
援助協力の態勢を打ち出していただきたい。
それから、もう
一つ最後に申し上げたい問題は、御承知のように、いまやかましい
産業公害の問題でございます。これはむろん
企業の責任に帰属するところが大部分でございますけれども、先ほど申しましたように、まだ脱硫についてのほんとうの意味での技術の開発、あるいは設備の開発が行なわれておりません。大気汚染の一番の問題点は、これは
一つはこういった脱硫装置の不完全なことと、しかも、硫黄分の多い中近東の原油を輸入しているということでございますので、
一つは先ほど申しましたように、インドネシア等で、ロー・サルファー、低硫黄の油田を確保するという問題と並行して、脱硫の技術なり設備の開発について
政府ももう少し思い切った手を打っていただきたい。こういった公害対策についても、若干の
予算は組んでおられるようでございますけれども、まだまだ問題の基本的な解決についての取り組み方の姿勢とは私どもは解しがたいというふうに考えておるわけでございます。
それから、最後に、
大学問題を含めまして、これからの
日本は、いま申しましたように、労働力がどんどん窮迫してくる。そうなってまいりますと、問題は、いかに人間能力を開発し、いかに創造的な能力を開発し、高揚していくかということが、これからの
日本経済のみならず、政治、
教育、文化、あらゆる部面を含めての、
日本の将来の発展のこれが
中心課題になるわけであります。その意味におきまして、現在の
教育制度なり、これはどちらかと言えば、率直に申しまして、
大学への進学のための、上級学校への進学のための準備勉強のようなふうに
教育がだんだん変形しつつある、六・三・三・四制が全部悪いとは申しませんけれども、
教育制度なり
教育課程等について、よほど根本的に
日本の民族の能力を開発する、創造性を高めるような
教育のあり方に変えていただく必要があるのではなかろうか、このことがやはり
大学問題の解決につながる大きな問題であるというふうに考えております。むろんそれには、
民間の
企業におきましても、能力主義、実力主義に徹して、従来の年功序列とか、あるいは学歴偏重といったような弊害を打破することが、やはりこれは
教育を刷新する
一つの大きな背景をなしているわけでございますから、
企業はそれぞれの立場でこういったほんとうの意味での人間能力の開発のための、あるいは創造性を高めるための能力主義、メリット・システムというものを積極的に採用しつつありますけれども、
教育の面でもそういった御配慮をいただくことがたいへん必要じゃなかろうか。
はなはだ簡単でございますが、概要を申し述べまして、失礼をいたしました。