○長谷川仁君 私は、自由民主党を代表いたしまして、ただいまの
外務大臣の
報告によって明らかにされました
沖繩返還問題につきまして、幾つかの観点から、具体的に
交渉の経過と今後の見通し等について、佐藤
総理及び
外務大臣にお伺いいたしたいと存じます。
このたびの
外務大臣のワシントンにおける
ニクソン大統領及び
アメリカ政府首脳との折衝については、内外からその
努力が高く評価され、その前途は多難であり、その壁は予期したとおり厚かったにせよ、これからの
話し合いへの軌道を敷き、
日本国民の
沖繩に対する非願がいかに切実なものであるかを彼らに訴え、
日本に比べて非常に低かった
沖繩問題に対する
米国政界及び世論を喚起したその労は、まことに多とするものであります。
言うまでもなく、
沖繩問題はただ単に
日米両国間の一種の領土問題だけでは処理し得ない複雑な内容を持っております。しかも、それぞれの
立場、
政策、国情を異にする
日米両国が、
極東情勢の分析や
判断で相当の食い違いが出てくるのはむしろ当然でありまして、それはそれなりの理由があり、国際政治においては、最近、軍事的には二極化、政治的には多極化の傾向が強まっているのはその証左でございます。双方があらゆる
見解を
一つにするならば、
協議する必要は全然ございません。
協議は
意見を異にするからこそ必要なのであって、そういう観点からいたしまして、
外務大臣が率直に
日本側の
考え方を
ニクソン大統領に披瀝したことは大いに意義があったものと言えましょう。しかし、この
交渉のいわば第一ラウンドの実績をここで総括してみて、双方の感触から痛感されますことは、いま述べましたところの
極東情勢の展望ばかりでなく、あらゆる面におきまして両国のイメージ・ギャップが深過ぎるということでございます。この点につきまして私はまず佐藤
総理がどういうふうに受け取り、これをこれからどう打開し、調整し、かつまた合意の線に到達させるかについてお伺いしたいのでございます。と申しますのは、過去十年来のいろいろな世論調査を検討してみますと、
日本人の
国民意識の中に、いわば徹底した平和主義的観念、そして戦前とは全く異なった一種独特のナショナリズム、これに加えまして経済福祉の三つの主義が、国の
安全保障についての
国民としての
判断あるいは反応、意思決定に大きな影響を及ぼしております。一例が、佐藤
総理御自身の「自分の国はみずからの手で守る気概を持つべきである。」との
国民の奮起を促した当然の叫びに対するその反応でもおわかりのとおりでございまして、
日本の
安全保障にいたしましても、できるだけ
日本の平和と
極東の安全とは切り離したがる傾向が世論調査のパーセンテージにあらわれておるわけであります。その是非はしばらくおくとして、こうした傾向はそのまま国際問題をめぐるイメージ・ギャップ、すなわち
見解の相違となっておりまして、
日米相互の映像の差が、あるいは
ベトナム問題、あるいは
朝鮮半島、ひいては
沖繩問題にも広がっているように思われるのでございます。このようなイメージ・ギャップを、もし双方が何ら埋めようとする
努力が行なわれないままに放置するならば、たとえ
安保体制を堅持し、かつまた
沖繩返還が
実現しようとも、両国の友好
関係は目に見えない底のほうからそこなわれる懸念さえ抱かれるのでございます。もちろん最近では、戦略的にも政治的にも
日米共通の基盤を見出そうとする
姿勢がうかがわれますが、この問題が
沖繩返還問題の出発点であり、
基本路線とみなされているだけに特に取り上げた次第であります。
引き続き
総理にお伺いいたしますが、来たる十一月
訪米によって最終的な結論が出ることは明確になったようでございますけれども、その際、両国の合意の方式として、大体次の三つの場合が考えられると思います。
まず第一に、
総理訪米の際に、一挙に
返還協定と附属文書の正式調印を行なう。
第二に、とりあえず覚え書き等に仮調印し、
返還時期までに多少の手直しの余地を残す。
第三に、
返還取りきめの大筋については実質的に合意するが、正式の調印は後日にする。
以上の三つの
方法のうち、そのいずれの方式をとろうとされておるのかを承ることができれば幸いに存じます。
総理にお伺いいたしたい第三点は、最近の
ニクソン大統領の、新しい
国際秩序を求めて、
アメリカ自身が冷静に自己批判し、戦後ゆがめられてきた諸国との友好
関係を新しい原理のもとに再生させようといろ
外交施策をどう受けとめておられるかということでございます。たとえば
ニクソン大統領は、「将来の
アメリカと
アジア諸国との
関係の根本は、
アジアがイニシアチブをとり、
アメリカがそれを援助する形でなければならない」と
発言して、暗に
日本は
アジアに重要な存在であることを指摘し、その後もこう述べております。「その形がどうあろうと、大切なことは、
アジア諸国が将来
アジアでのいかなる新しい侵略に対しても、みずからの手で
最初の反撃を行なえるようにしておくことである。自由
世界の国々が真に自由でありたいと願うなら、もはや
アメリカの力にたよるぜいたくは許されないのである」と述べていることは、
アジアのすべての国に対する自主防衛の自覚を促したものでございましょう。このような自助の原理と
地域内の
責任体制を強調する
アメリカの
アジアの
政策は、当然
日本に対しましては、自主防衛の強化と
アジアの自由諸国に対する経済援助の
責任分担を要請するものと見られます。もうすでにその現実的問題として、
ベトナム戦争終結後の平和監視機構に、
アジアの大国としての
日本がぜひ
参加してほしいとの要望が伝えられております。まあこれに対しまして、
外務大臣は一応拒否されたようでございますが、今後こうした
役割りが次々と求められる
時代が到来しつつありますが、将来の
日本の自主防衛の
あり方や、
アジアの平和と安全にどう一体寄与するかということについて、
総理はどのような
態度と
姿勢で臨まれるか、
国民もひとしく期待しているところでございましょう。
いまや
日本が
世界の国々から期待されているものは、あらゆる苦悶にあえぎますところの諸国に対して、種々の制約を理由にいたしまして、ただ単に物や金の物質的援助を提供することだけではなく、
民族・
国家間の
紛争解決には率先して調停、あっせんの労をとるという勇気と信念がこれでございまして、これあってこそ初めて、
アジアはもとより、
世界の国々は、これこそほんとうに平和を愛好する大国として
日本を尊敬するのではないかと確信するものでございます。
総理に対する
質問は、時間の都合もございますので、この程度にいたしまして、次に
外務大臣に、
交渉の最大の焦点と見られる「核ぬき
本土並み」の中の「核」及び
事前協議、そのほか数点について
お尋ねいたします。
外務大臣は、ワシントンに到着以来、ただいま
総理の
お話の中にもございましたが、
核兵器に対する
日本国民の
感情は、その効果のあるなしや損得だけでは
説明できないものがあることを粘り強く訴え、ホワイトハウスの官辺筋にかなりの心証を得られたということは、現地からつまびらかに
報道されてまいっております。
従来、
日本におきまして、これまで
沖繩問題が論議されるとき、
沖繩が
アメリカの
極東戦略体制にとってのかなめであり、
沖繩に存在する核は、このかなめにとってのかなめであるという
認識が基礎になり、これが論議の基礎となってまいりました。けれども、数年来、
米国内に武器搬送手段に関するテクノロジーと命令、管理及び兵站的支持活動についての技術上の進化の結果、近接地点からの核作戦の価値は減少し、これから先も減少するであろうという
認識のもとに、
米国の
極東戦略は再検討の
時代に直面しているようでございます。ことばをかえて申しますならば、いまや核の抑止力は、大陸間弾道弾——ICBM、戦略爆撃機、ポラリス潜水艦等の総合的な核戦力の所産とみなされております。そこで、現在
沖繩の第一線にある旧式な
核兵器は、いわゆる抑止力としての価値に乏しく、大局的な政治
判断としては、その撤去を求めても差しつかえないと考えますが、いかがでございましょう。そもそも核をめぐる双方の言い分は、
日本側の
核抜き本土並みの発想は、それでも軍事
基地としての
沖繩の価値はそこなわれないという希望的な観測に基づいたものでございましょうが、もし
アメリカ側から、それでは
沖繩の価値が減殺されるときめつけられた場合に、どこにどういう反論の根拠を求められようとするかが
一つの課題であろうと思われるのでございます。これは前にも触れましたように、それぞれの
立場で異なる
極東情勢の評価、
日本側にはややもすれば、近い将来には
極東に大規模な侵略は行なわれないだろうという期待を交えた予測、いわば楽観的な見通しがありますが、他方
アメリカ側には、万一の場合を重く見る危機感と申しますか、
脅威論が常に存在している事実でございます。このような
認識の相違を克服し、
交渉を円満妥結に導くには、これから幾多の紆余曲折があり、
アジアの平和と安全が力の対決ではなく、新しい
秩序と方式で確立できるということを主張するならば、これを
米国側にいかに説得をし、納得させるかは容易ではないだけに、この際、
外相のワシントンではだで感じた
米国の現段階におけるお感じなり感触なりをあわせお伺いしたいわけであります。
一方、今後最も活発な論議がかわされると思われます
事前協議の点について触れてみたいと思います。もともと
事前協議の
条約上の正確な
解釈に従えば、そのときそのときの事情によって
日米両国政府が相談することでございまして、結果は
イエスの場合も
ノーの場合もあると考えるのが正しいのであって、この
協議が歯どめとなるのは相談をすることの結果であって、一般的にはこの点が混乱して考えられている印象が強いように見受けられます。
事前協議の
議論は
議論として、
施政権の全面
返還の際、どのような方式でこの
事前協議条項が適用されるか、もちろん、現在
交渉がようやく軌道に乗った段階で結論を求めようとは存じませんけれども、
米軍基地の
あり方については、佐藤
総理は昨日の
衆議院本
会議の
質問で、
自由使用はあり得ないと
答弁されたようでございますが、純然たる
本土並み以外に考えられるものとしては、全面適用の場合でも、運用面で考えるいわゆる
弾力的運用と、有事に限って
事前協議を除外するという有事
自由使用の
方法があり、これと異なって、かりに一部を除外する方式としては核だけ
事前協議、あとは除外する、いうなれば核なし
自由使用と、核と
戦闘作戦行動は
事前協議を除外するところの核つき
自由使用などがあるわけでございます。このうち後者の二つは、これは考慮外といたしましても、この一連の方式に対して
外務大臣は、もちろん徹頭徹尾これからは
核抜き本土並みで押していくことと思いますけれども、このような
考え方が
外交交渉であります以上は当然あると見なければなりませんが、
外務大臣はどのような見通しを持っておられるか、伺いたいわけでございます。
このほか、
外務大臣はワシントンで繊維品の輸入規制、自動車の資本自由化の問題等についても
話し合いが行なわれたと
承知しております。
日本側としては、これらの問題はあくまで
沖繩問題と切り離して考えるとの
態度で臨まれたことと思いますけれども、最近のワシントン電報を見ましても、これらの問題提起に示された
米国の対日
感情には微妙なものがございまして、世論も予期以上に強硬であり、
沖繩交渉へのはね返りのおそれなしとしないと思いますけれども、こうした懸念は必要ないかどうかもお答え願いたいのでございます。
なお、最後に、今回開催されましたASPACの
会議でも、
沖繩の軍事
基地と関連のある韓国及び国府の諸国が、
沖繩交渉の推移には重大な関心を払っている旨の非公式の
発言がございました。これらの国々が、
沖繩の
日本復帰によって不安と動揺を来たさぬように、十分な意思の疎通をはかることが大切であり、善隣友好のたてまえからも、必要な
外交措置を講じておられるかどうかという点もお伺いいたしたいわけであります。
以上、私は幾つかの
見解を述べながら
質問いたしましたが、今後とも多難なこの
返還交渉に当たろうとしている
政府に対して、
国民のこの切実な
願望を踏まえて、独自の主体性を持った
日本と
米国との間に、長い将来という観点から、幅広いビジョンに立って、両国首脳の理性に基づきました政治的
判断によって早期
解決するように、一そうの
努力を切に要望いたしまして、
質問を終わらせていただきます。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕