○
松永忠二君 私は、
日本社会党を代表して、
政府提案の
昭和四十四年度
予算三案に対し、
反対の
討論を行ないます。(
拍手)
討論に先き立ち、ぜひ一言述べなくてはなりません。今回の
予算審議の途中において、
政府、
自民党の
衆議院における無暴な
国鉄運賃値上げ法案の強行によって
国会が混乱し、
分科会審議を十分行なうことができなかったのみでなく、
審議を中断させ、充実した
予算審議を妨害したことは、まことに憤慨にたえないところであります。これ全く、
政府・
自民党の参議院における
予算審議の軽視によるものであり、許しがたい暴挙であります。われわれはこの
責任を強く追及するものであります。
さて、
佐藤総理は、
佐藤内閣発足当時、「
社会の主体は
人間であり、
経済の
繁栄は
人間の尊厳と
社会の
福祉に奉仕するものでなければならない。私は長期的な展望のもとに、特に住宅、
生活環境施設など
社会資本の
整備、
地域開発の促進、
社会保障の
拡充、
教育の
振興などの諸
施策を講じ、もって高度の
福祉国家の実現を期する
考えであります」と述べました。また
福田蔵相は、
昭和四十一年第五十一
国会の
財政演説で、「
わが国経済は、その
成長があまりに急速であったため、
経済社会の多くの面にひずみを生じたのであります。私は、
わが国経済の新たな発展を期するためには、この際、このような
経済社会の不
均衡を是正していくことに、
政策の
重点が置かれなければならないと
考えます。」と述べました。この
総理と
大蔵大臣のことばは、そっくりそのまま、今日の
演説として述べても、何のふしぎもないものであり、それほど
政府の
施策は実効をあげていないことを示すものと言わなくてはなりません。
政府は、口を開けば、
国民総生産は
自由世界第二位、
工業生産は
世界第三位、
わが国経済はかつて例を見ない長期にわたる
好況を続けておりますと言うのであります、なるほど、
総体としての
日本経済は、
自由世界での一方の雄にふさわしいスケールを誇れるまでになりました。われわれもまた
経済成長そのものを評価することを否定するものではありません。だがしかし、庶民の
生活感は、はたしてそのとおりでありましょうか。
国民総生産世界第三位という
経済に対するそらぞらしいまでの違和感が、
国民生活のあちらこちらにありはしないでしょうか。
政府の
国民所得統計も「一人
当たり国民所得は三十四万五千三百六十二円で
世界二十一位にとどまる」と述べています。三位と二十一位を単純に比較すべきではないとしても、
総体としての豊かさと、個々人の
生活水準の低さを端的に示すものとしては、動かしがたい数字であると言わなくてはなりません。
国民総支出に占める個人消費支出の割合は欧米諸国に比べて低く、個人消費支出は米国の三分の一、西独の二分の一、イタリアよりも二〇%も低いのであり、
国民所得の
伸び率が高いから二十年後には
国民所得が
世界一になるなどと、うれしがらせて済まされる問題ではありません。
国民生活は私的に購入できる財貨サービスの消費だけでは維持できません。道路、上下水道、公園、保育所など、
社会構成員全体が利用し恩恵を受ける
社会資本が生活に必要不可欠であります。道路舗装率一三%、下水道普及率二二%、都市公園は欧米の六分の一、住宅一室当たりの平均面積は欧米の二分の一、
社会資本のおくれは、これは例をあげるにこと欠きません。
社会資本のおくれは交通事故率を国際的にも高いものにし、都市河川の汚濁をはなはだしいものにし、工場
公害を耐えがたいものにしているのであります。
社会保障費は、西欧諸国の
水準に比べて、
国民所得では二分の一、一人当たり
水準では三分の一にも達しておりません。
消費者物価は、年平均六%を上回る上昇を続けています。食料費などについては、
国民一人当たりの
所得が三倍の米国人と
日本人が、同じ食料費のかかる食生活をしいられているほどになりました。
総理は、施政
方針で、「物質的な豊かさが心の豊かさに結びつく新たな精神文明を確立」しなくてはならないと述べているのでありますが、物質的な豊かさが、
総体としての豊かさで、個人の豊かさになっていない反省と
施策がなくては、空虚な美辞麗句と化してしまうでありましょう。
政府は、いま
経済社会発展
計画を改めようとしています。これは、
経済成長率の大幅な相違、特に民間
設備投資が第二年目で
計画の最終年を上回ったことと、
物価上昇が
計画終了時の三%を上回る上昇で、
計画と実勢が大きく相違したからであります。民間
設備投資は常に予想以上の上昇を示し、
社会資本は常に民間
設備投資をはるかに下回り、アンバランスはむしろ拡大してまいりました。
昭和四十四年度
一般会計予算でも、
政府投資
増加率は一〇・四%で、民間
設備投資の一六・三%をはるかに下回っているのであります。佐藤内閣は、民間
設備投資主導型の
成長メカニズムを廃棄して、新しい
成長メカニズムをつくり出そうとして掲げた安定
成長、
社会開発は実現できなかったのであります。
政府は、口を開くと、
経済の
繁栄は
政府自民党の
政策のよかったことによると言うのでありますが、これまた、はなはだ疑わしいのであります。発展
計画で
政府が意図的に左右できる
政府投資支出が
計画を下回っているのに、
経済成長の諸
要素が
計画をはなはだしく上回っていることは、
政府の意図しない
繁栄であり、少なくとも
経済政策という観点からは、偶然の
成長だと見ることができる根拠が大きいと言わなければなりません。今後の
繁栄は、意図しなかった
繁栄から意図した
繁栄への道を開かなければなりません。そうして、
経済の
成長が
社会的アンバランスを加速度的に拡大している事実を
考えれば、
経済の
成長目標にかわって、
福祉が前面にあらわれ、「
福祉なくして
成長なし」という価値の転換が
経済政策の基調となることを
考えなくてはなりません。大きいだけがよいことではないということを銘記すべきであります。
以上の観点から、まず、
財政規模の問題について述べたいと存じます。
大蔵大臣は、その
演説の中でも、
予算編成にあたって
経済拡大が過度にわたることのないよう、
政府財貨サービス購入の
成長率は一二・三%で、
経済成長率を下回っています、
公債を千五百億
減額いたしました。と
説明しているのであります。しかし、
政府財貨サービス購入の
成長率は、実績が
計画を下回ったことはほとんどなく、
昭和四十三年度の実績から見ても、実際は一五%以上で
経済成長率を上回るのであります。発展
計画には、
財政の健全性から、
財政支出の
増加率を名目
国民総生産の伸びにほぼひとしい
程度にとどめることと明記してあります。
国民総生産一四・四%を上回る一般
予算一五・八%の
伸び率であるため、ことさらに
政府財貨購入の
成長率などを取り上げてきたのであります。一兆二千億にのぼる
自然増収の際に四千九百億の
公債発行も問題ですが、減債した資金が金融機関に利用されれば
景気刺激的であります。金融機関が強く
公債減額を要望していたところを
考えれば、減債相当分の
通貨は日銀の売りオペによって吸収するという
通貨政策の前提ができていない現在、減債がそのまま
景気抑制につながる保証はありません。われわれは、実績と
計画の違う数字のもとに議論するのではなくて、
一般会計一五・八%増、
歳入歳出
予算純計表二〇%増、
財政投融資一四%増、
予算に基づく
財政資金民間収支見込み千百三十億散布超を問題にするのであります。
自然増収も一兆二千億と予定していますが、
自然増収は
好況期国民総生産の
増加率の約一・五倍であることを
考えると、少なくとも二、三千億が追加されると見込まれるのであります。
自然増収を過小に見積もって、
総合予算主義で
予算を押え、
減税額も引き下げるということになると、
自然増収の過小な
見積もりは、
減税や国債
減額の配分よりも、
景気調節に及ぼす影響は大きくなるのであって、これは全く隠れた
財政操作、
財政操作の欺瞞ということができるのであります。
国会軽視もはなはだしいと言わなければなりません。(
拍手)
次に、
財政の支出面の問題であります。
ここでは
国民生活中心の
社会開発の乏しさと、大企業中心の点を指摘しなくてはなりません。
昭和四十二年度下水道五カ年
計画は、四十四年度
予算を消化しても四五%で、あと二カ年で大半の五五%の達成をしなければなりません。都市公園事業五カ年
計画の達成も危ぶまれているのであります。
公害対策予算が厚生省全
予算に占める比率はわずかに〇・〇八%です。
社会保障のバロメーターといわれる生活保護費は扶助基準一三%
引き上げで、消費
水準の伸び一四%に及びません。多いのは数だけで、
社会保障の指標となる大きな
施策は意外に少ないという批判が当たっています。児童手当も医療保険の抜本的改革も見送られてしまいました。すぐれた
教育環境をつくる決意だけで、
教育費の伸びは
一般会計の伸びに及びませんし、マスプロ
教育の弊害がいわれているのに
国立大学特別会計の伸びは少なく、私立
大学助成は六億の増、私学
振興会は二十五億、
財政投融資の額が少なくなりました。厚生省の
公害課を充実させるため七人の人員要求、百人の
公害担当職員があっさり削られるとき、一方では、いまでも一万六千余の欠員があるのに、自衛隊員七千七百人の増員が認められ、当初要求しなかった警察官の増員が五千人も認められているのであります。
財政の硬直化をしり目に、新戦闘機F4E百四機、艦船建造などで百五十五億の継続費、千六百十億の国庫債務
負担行為を認められているのであります。これでは、
社会開発の
予算ではなく、安保
対策の大型
予算だというのはあたりまえのことであります。
また、
地方財政が好転したとして、本年度の
地方交付税を六百九十億
減額いたしました。
地方の単独事業は、生活基盤強化のための住民生活と密着したものが多く、国の欠陥を補完している面が多いのであります。また近来、国に先がけて、
福祉行政の立場から進んだ
施策を実行し、実行しようとする
地方公共団体が多くなりました。六百九十億を削るのではなく、むしろ、国・
地方一体となって、豊かな暮らしよい生活のため、行政を効率的、
計画的に推し進めるべきときであります。輸出拡大、
経済協力を名目に、
日本輸出入銀行、海外
経済協力基金の
増加は著しく、輸出拡大をてこにする大企業中心の高度
経済成長政策が新しい
重点として打ち出されてくるとともに、
アメリカの
経済援助肩がわりの準備も着々進められています。
次に、
政府収入面であります。
所得税は、
負担率の
増加している現在、大幅な
減税を行なうべきであります。一兆二千億の税の
自然増収に対し、千五百億の
所得税減税、七百六十三億の
住民税の
減税の少なさは、いまさら述べるまでもありません。
所得の少ない人に効果のある
課税最低限の
引き上げ額の少ないことにも不満があるのに、
所得のとらえ方の不公平さについては、一切触れていないのであります。
企業税制に関しては、問題が多過ぎます。
景気のかげりも問題になっていますが、
設備投資の意欲、資金
需要も根強く、民間
設備投資主導型の過大な
経済成長を調整するために、税制の効果を活用すべきであります。しかも、現行の法人税は、答申にも明らかなように、国際的
水準と比べても、個人
所得税の
負担水準からも低いのであります。その上に、多数の
資本蓄積促進用の
租税特別
措置が行なわれているのであります。しかも、それらが大企業に集中的に行なわれているのみでなく、
増加率も二〇%台をこえているのであります。その上に、これが内部資金として活用され、投資を促進しているのであります。佐藤内閣は、
設備投資型の高度
成長経済をはかるてことして、大法人、資産所有者優先の税制を進めてきたのであります。法人税率の
引き上げ、四百七十億減収の利子
所得、三百四十五億減収の配当
所得の特例の廃止、準備金、引き当て金の整理、進んでは、投資平準化準備金の創設など、なすべきことは多いのであります。金融
政策による
景気調整機能の強化について、公定歩合の年利建て、公社債条件の
引き上げなどに着手した
努力は認めるとしても、日銀対象外の金融機関に準備預金制度を広げるとか、生保、損保資金を
財政投融資計画に乗せるなど、これまた今後の
努力に待つところが多いのであります。次に、
物価の問題であります。
消費者物価上昇は、
国民生活に重大な脅威を与えているばかりでなく、今後の
経済成長にも大きな障害になりつつあります。しかし、
総理、
大蔵大臣、
経済企画庁長官の
演説も、
予算委員会の
説明も、説得力、迫力に欠け、具体的に何をやろうとしているのか、その決意がどれだけ強いのか、全く明らかではありません。いや、それどころか、
消費者物価の上昇は
経済成長にまつわる構造的要因で、
成長と
物価安定を両立させることの困難を強調することに
努力しているとさえ言って差しつかえない態度であるのであります。問題の
国鉄運賃も、平均一五%
値上げと言いますが、昨年上げたばかりの定期運賃も自動的に値上がりになり、その上遠距離逓減制を手直しされますので、区間によっては八〇%の値上がりになるところもあるのであります。
国会でも終われば、また型どおり
私鉄、バスにも波及するおそれも十分あります。
消費者米価は
値上げしないといっても、売れない古米を値下げして新米を
値上げすることになっているのでありますから、古米だけ食べ続けなければ
値上げになるし、
自主流通米という形での米の
値上げも含まれているのであります。地価の上昇も
物価上昇に大きな役割りを果たしています。四十四年度、
政府は土地税制を大きく宣伝していますが、税収上は増収、減収相殺ゼロであります。地価問題
解決には総合的な土地
施策が必要で、土地税制の果たし得る役割りは補完的なものであります。土地
供給の増大という大幅な宅地造成の
努力なくして、土地税制を改めることのみに
重点を置くことは、安上がり地価
対策であります。
政府の
物価安定
予算の裏側には、こうしたすりかえやごまかしが一ぱいあるのであります。(
拍手)
物価安定推進
会議は、最近の
消費者物価の上昇要因は、必ずしも構造
政策のみで対応し得ないものがあるとして、総
需要の
増加を
抑制ぎみとし、
経済成長と
通貨供給量との妥当な
関係について検討すべきことを提言しています。だが、総
需要圧力
抑制の具体的な
経済政策は何も提示がないのであります。また、四十二年以降、日銀券発行残高は
経済成長率を上回って
増加し続けているのであります。外貨蓄積
増加のいま、
物価対策として輸入が活用されなくてはなりませんが、民間
設備投資を適度にコントロールし得るように
通貨供給を調節することなしには、
国民生活を豊かにしていく
成長を続けることはできません。
物価安定推進
会議は、
物価政策の各種の提案
実施状況を調査し、強い提言を用意しつつあります。
政府は、これを機会に、
関係各省庁の意思を結集し、公正取引
委員会の強化もはかりながら、
政府全体として決意と気迫を傾けて
物価対策の推進に邁進すべきであります。
私は、最後に、佐藤内閣の政治
姿勢に触れたいと存じます。
国民は、
日本が大きな転換期に来ているのに、政治がこの期待にこたえることのできないことについて、強い不安と不信の念を抱いているのであります。
紛争を続けている
大学問題の背景にも、若い者が現代の政治、将来の
日本の方向に不満と不安を持ち、その変革への参加について強い要求があることは申すまでもありません。
日本はいま将来の安保体制をどのような方向に持っていこうとするかという決定に迫られているときです。核中国の脅威の増大と
アメリカの核
抑止力への依存を前提と
考えれば、
抑止力としての日米
安保条約は半永久的に堅持するという方向を選ぶよりほかにはありません。それとも、
日本側の主体的な要求を強め、幅広く定着している中立志向型の民意の上に立って、軍事力のみに依存しない自主的な安全保障の長期ビジョンを探究するかどうかということであります。(
拍手)われわれは、一九七〇年代における中立化の
可能性、諸条件の討議を深めることは、
国民的合意の形成にとっても現実的な
課題であると存じます。この
課題の
解決こそ、
日本のアジアの脅威からの安全だけではなく、貧困からの安全を守る道であり、
国家予算はこのためのものであるべきだと存じます。私はこのことを強く要求して
討論を終わります。(
拍手)
—————————————