○北條浩君 私は、公明党を
代表して
総理並びに
関係閣僚に若干の質疑を行なうものであります。
総理は、先日の施政方針
演説において、「明治百年を終え、新しい百年に向かって第一歩を踏み出した
わが国は、多くの分野で
転換期を迎えつつある」と述べておられます。当然政治の分野にありましても大きい
転換期が訪れていることを、
総理みずから認められたことばと思うものであります。
昨年は、国の内外に権威の失墜が相次いで起きました。ドルの威信地に落ち、ソ連の権威昔日の面影なく、
東大紛争は明治百年の旧時代に終えんを告げて、ここに新しい百年の幕があけたのであります。一方、人間がやがて月へ到着するという時代に、この地上には、紛争と殺りくがますますその度を加えようとしております。精神文明の著しい立ちおくれが、人間をして肝心の人間性を失わしめたことが、まさしく現代
社会の病根であろうと思うのであります。
総理は、続いて「人間の尊厳と自由が守られ、
国民のすべてが繁栄する
社会を実現する」と言い、さらに「物質的な豊かさが心の豊かさに結びつく新たな精神文明を確立する」と言われましたが、少なくとも現在までは、
総理のこのことばとは正反対な事態であったではないか、このように思うのであります。
そこで私はお伺いいたしたい。
総理はいかなる方途をもってこの理想を実現されんとするのであるか。新しい精神文明とは一体何を意味するのか。それとも、これは単なることばのあやでありますか。きのうの答弁で
総理は、政治の姿勢を正すことだ、このように言われましたが、それだけでは、新しい精神文明とは納得ができないのであります。この際、
総理の言われる新しい精神文明とは何であるか、もっと詳しくこの論拠を明らかにしていただきたいと思います。(
拍手)また、
総理の言われるように、新しい精神文明を興すためには、まず政治姿勢を正すことだ。それがそれほど大事であるなら、なぜ施政方針に具体的な方途を示さなかったのですか。ただ一言、施政方針では、「政治の姿勢を正し」と言っているにすぎないのは、まことに不可解であると思うのであります。政治姿勢を正すために、政治資金の規制を行なうとは、
総理の二年越しの
懸案事項であり、
公約ではないでしょうか。なぜ政治資金の規制を行なうと、はっきり
総理は言われないのですか。
さらに、この点についてお伺いしたいのでありますけれども、さきに
世論の総攻撃を受けて廃案になった
政府案は、いさぎよく撤回して、少なくとも第五次選挙制度審議会の答申案まで前進させて、本国会で成立させる、そのような覚悟は、
総理にはおありにならないのか。それとも、政治資金規制の問題は、さきの廃案とともに終わったとして、これで逃ぎ切ったとでも
考えておられるのかどうか。もしもそうであるとすれば、
国民を愚弄し侮辱するもの、これに過ぎるものはないと思うのであります。(
拍手)かつて、
佐藤総理は、共和製糖事件など相次ぐ黒い霧の発生に対して、「政界の一部で公党の道義にそむき、
国民の
不信と疑惑を招いたことは遺憾であり、
国民に申しわけない。積年の病弊を根絶するため、積極的かつ具体的な
措置をとることが私の義務である」、このように政治資金の規制を叫んだことを、よもやお忘れではないと思うのであります。巨額の政治献金が、特定の利益に結びついて政治腐敗の温床となっていることは、最近の日通事件、京阪神土地事件を見ても明らかなことであります。このような腐敗の事実を前にして、意識的に会社、法人などの政治献金を規制しないのは、全くうしろ向きの政治姿勢と言うほかはありません。
さらに、四十三年上半期の政治献金の報告書は、総額で九十七億円、そのうち半分以下の四十五億円だけが寄付として届けられ、その他は会費名義にして出所を明らかにせず、逃げているのであります。政治の姿勢を正すためには、まず、選挙の腐敗を正さなければなりません。選挙の腐敗是正は、資金の規制と公開原則の徹底、この二本の柱を確立しなければ、達成できるものではありません。この明白な事実に対し、
総理はどのように
考えておられるか、明確な御答弁を承りたいのであります。
次に、外交問題について
質問をいたします。
まず、私は、
佐藤総理の重大なる決意をお伺いすることから
質問を始めたいと思うのであります。
佐藤総理は、これまで沖繩の祖国復帰を必ず御自分の手で実現させるとの決意をしばしば明らかにされております。
国民は、
佐藤総理がこの問題に政治生命をかけておられることを確信しておるのであります。
佐藤総理の御決意には、いまでもいささかの変わりもないものと信ずるのでありますが、いかがでありましょう。また、きのうまでお伺いいたしました
佐藤総理の御答弁によりますと、沖繩
返還は、もし早期復帰を望むならば、将来本土並みにすることを
条件に、核
つきでもしかたがない、このように感じられますけれども、この点きわめて重大なことでありますので、
総理のお
考えをはっきりとお伺いしたいと思うのであります。
申すまでもなく、本年は、まことに重大な年であります。秋には、
佐藤総理は訪米され、ニクソン大統領と初めて会談されるわけでありますが、これは、一昨年の十一月に行なわれたジョンソン大統領との共同声明から満二年目にあたるのであります。
佐藤総理が、任期中に沖繩
返還のめどをおつけになるつもりならば、はっきりと
国民の合意をとりつけた
日本側の構想を持って訪米される必要があることは、もはや常識であろうと思うのであります。つまり、今後十カ月の間に、
わが国は、まことに重大な選択を迫られていると、このように思うのであります。
しかしながら、外交
交渉は相手のあることであります。
交渉に成功するためには、相手がどう
考えているか、これを十分につかまなければなりません。それに対して、こちら側の主体的な
考えをかみ合わせていく、そこに合意が成立するのであります。施政方針
演説の中でも、
佐藤総理は、沖繩の施政権
返還について「日米
両国政府及び
国民の相互理解と友好協力のもと祖国復帰の実現の時期を取りきめたいと思います」、このように信念を強調されたのであります。来たるべきニクソン大統領との会談に際しても、
佐藤総理は、同様な
態度でお臨みになるであろうと、私は期待しております。
そこで、われわれは、まずこの問題についてのアメリカ
政府の
考え方をはっきりつかんだ上で、そこから疑問点を導き出し、
政府にお尋ねいたしてみたいと思うのであります。
まず、ニクソン大統領は、その内外
政策白書で、このように言っております。「
日本はアジアで集団安全保障の指導的役割りを演じなければならない」、また、「
日本が一たび指導的役割りを引き受けるなら、沖繩は確実に
返還できるであろう」——いかがですか、
佐藤総理。ニクソン大統領は、アジア集団
安保へ
日本が指導的役割りで参加することを沖繩
返還の
条件としている。これに対して、
総理はどのように答えられるつもりですか。お伺いいたします。
次に、沖繩の
米軍基地の性格をいかに理解すべきか。去る一月二十七日の沖繩からの報道によれば、このほど嘉手納
基地からほど近い山間地帯、通称多幸山に、核兵器の貯蔵庫と見られるものが六つも完成したと伝えられております。ほかにも、沖繩では、最近ますます盛んに
基地建設が行なわれております。ここ数年、われわれは国会において、沖繩
返還の場合、その
基地の態様について
政府はどうするつもりか、いろいろ追及してまいりました。それに対し、
佐藤総理は、「いまのところ白紙でございます」、このように白紙一本やりで押し切ってきたのであります。白紙——なるほど、これはいかにも
日本的なことばで、含蓄があり、その意味は、白紙にこれから何か書いて見せますというようにもとれますし、何にも書かないで済ます、このようにもとれるのであります。とにかく今回の施政方針
演説では、何物も盛り込まれていなかったことは、たいへん残念だと思います。ところが、去る一月六日の下田駐米大使の記者会見、あるいは去る一月二十一日の全国経営者大会における愛知外相の講演、さらに二十四日の床次総務長官の記者会見、これらを
検討いたしてみますと、どうも、ふに落ちないところが、出ております。すなわち、下田大使は、「アメリカの方針は、
基地は
現状維持だ」と言い、それを追って愛知外相は、「しばらくは
基地の地位を承認してもいいのではないか」、さらに床次総務長官も、「
基地は
現状維持よりしかたがない」と言われたのであります。
現状のままの
基地を認めるということは、核
つきを意味するのか、その場合は
安保条約の変更もあり得ると
考えているのか、いかがですか。この点、
総理並びに外相にはっきり
お答えを願います。
また
総理は、
基地の態様について、「アメリカ側はキューバのグアンタナモのようなことを
考えているかもしれないが、自分はまだそこまでは
考えていない」とも
発言しておられますけれども、あるいはそのようなこともあり得るとお
考えになっているのかどうか、お尋ねしたいのであります。
今月二十八日からきのうまで、沖繩問題に関する日米京都
会議が開かれました。ニクソン大統領のブレーンもホワイトハウスから出席されたようで、日米
双方がお互いの感触を知るためにはなかなか重要な
会議でありました。報道によりますと、沖繩
基地問題
研究会の久住座長は、自衛隊の沖繩防衛分担構想を次のように報告をしております。「施政権が全面的に
返還された
あとは、当然の帰結として、沖繩に対する防衛の
責任は第一次的に
わが国が負うことになる。……
日本が陸上防衛、沿岸警備、防空を分担することになるから、それまでにこれらに関連する
基地の移管計画も
検討する必要があろう。しかし、
基地全般に関しては、本土の
基地とあわせて今後の日米
安保体制の進展の中で判断さるべきものである」。このように言っております。有田防衛庁長官にお尋ねしたい。防衛庁としては、この点について、どういう構想をお持ちになっておりますか。それがありませんと、
佐藤総理はニクソン大統領との
会議がおできにならないわけであります。以前、防衛庁は南西師団の設置を
考えているという新聞報道が流れたこともありますが、いまはどんな構想になっておりますか。また第三次防衛計画、それを手直しなくてもできるのでありますか、
お答えをいただきたい。
また、このたびの予算案は、自衛隊の六千人増強、その他、防衛予算はずいぶん豊かになっておりますが、これは沖繩
返還とは
関係はないのですか、福田大蔵
大臣に御説明をいただきたいと思います。
さらに、ニクソン大統領の希望しておられるプラス・アルファは、初めに申しましたように、アジア集団安全保障において、
日本に指導的役割りを演じてほしいということであります。ASPACの軍事同盟化、あるいはPATO、すなわち太平洋条約構想、それは広く知られているニクソン大統領の持論であります。こういう期待にこたえまして、すでに
日本に近い国々の
政府からは、いろいろな積極的な意見が出ております。たとえばお隣の韓国では、朴大統領が本年の年頭記者会見で、「ベトナム戦後のアジアの緊張に備えて、しっかりした集団安全保障機構を設けたい」と
発言し、また、タイのタナット外相も、「ベトナム戦後に、参戦国軍を北大西洋条約機構のように、アジア太平洋条約機構に置きかえる案が一部にあるが、私は、アジアの自由
諸国家が、
日本も含め、軍事防衛同盟でなく、政治的防衛同盟を結ぶのが好ましいと思う」、このように
発言しております。タナット外相によれば、アジアの国々の軍隊は、軍事力どころか、軍事同盟をつくったところで張り子のトラにすぎないそうで、なかなかおもしろいことを言っております。
このように各国から、ニクソン大統領の要望にこたえて、いろいろ意見が出ておりますけれども、
佐藤総理は、いつまでも、
日本だけは
関係ない、このような
態度をおとりになるつもりかどうか、お尋ねをしたのであります。この点、愛知外相にもお伺いいたします。
この問題に対し、佐藤
内閣がどういう
態度をおとりになるか。これがやはり沖繩
返還交渉のプラス・アルファとして、アメリカ側の望んでいる重要な点だと思うのであります。ところが、
日本が集団
安保に参加すると仮定しても、現行
憲法第九条はそれを許しません。現行
憲法は、
日本が個別的自衛権を持つことを認めているが、集団的自衛権を持つことは認めていないというのが、これまでの
政府の解釈です。ところが、すでに
憲法調査会では、集団的自衛権を認めるように解釈を変えてしまえ、そうすれば
憲法改正をしなくてもいいではないか、このような議論も出ていたようであります。この点、
佐藤総理の決意のほどをお伺いをしたいのでありますが、解釈を変えることは今後とも絶対にしない、このように
国民に対し約束をしていただけますかどうか、お伺いしたいのであります。
さらに、もう
一つのプラス・アルファとして
考えられる問題があります。アメリカが沖繩
基地施設に注ぎ込んだ費用は、ばく大なもので、約十二億ドルに達しているそうであります。水道も電気もアメリカ軍のものなのであります。施政権
返還を要求するとすれば、
政府はこれをどうなさいますか。日米共同防衛となれば、そういう設備投資の負担はどうなりますか。幾らか肩がわりをするわけでしょうか。ドル防衛の見地からすれば、アメリカにとっては重要な問題であります。愛知外相はどうお
考えになりますか。福田大蔵
大臣にも所信をお伺いしたいと思います。肩がわりというのは、費用面が大きな問題だと思うからであります。
次に、佐藤
内閣の当面の試金石となる問題についてお伺いいたします。
沖繩県民の超党派の要求であるB52の撤去、新労働布令の撤回に対し、どういう決心で臨まれておられますか。すなわち、いままでの答弁では、B52を常駐させないとアメリカが言っているから、しばらく待てとのようでありますけれども、新布令の実施延期になった三月一日までに撤去の
見通しがあるのでしょうか。もしだめなら、どうするのでしょうか。また、二月四日のストは回避できない
情勢にあるようでありますが、その
責任をどう感じておられますか、
総理の決意のほどをお伺いしたいと思うのであります。
佐藤
内閣に最も欠けているものは、沖繩同胞の境遇をわがことのように憂える一体感であります。一体感のない
政府が、幾ら口先だけで本土・沖繩一体化などと言っても、
国民は信用いたしません。沖繩同胞にかわって本土
政府が強くアメリカ側に働きかけるのは当然の義務ではありませんか。その
努力をろくにやりもしないで、沖繩同胞だけに自重を要求するような
態度では、
国民は
政府を信頼するわけにはいかないのであります。もしも、佐藤
内閣が沖繩県民の生命、
基本的人権を守る要求に対してさえ期待に沿う行動ができないようなら、それはとりもなおさず、今後の沖繩
返還交渉においても佐藤
内閣が
国民の期待に沿うことができないことをみずから証明することになるのではありませんか。
佐藤総理の積極的な御答弁をお願いいたします。
次に、国連
政策についてお尋ねいたします。
日米
安保条約の前文にも明らかなとおり、日米
両国の国連
政策は
安保体制の
基礎になっている重要な問題であります。ところが、これまで
政府は、国連に派遣した
代表団に、国会に対する活動報告をさせたことがありません。これは、はなはだ不満であります。この通常国会におきましては、ぜひとも
代表団が国会に出席して活動報告を行ない、
質問にも応ずるようにしていただきたい。そういうよき慣行をつくることが必要ではないかと思うのでありますが、
総理の御
見解をお伺いしたいと思うのであります。
昨年十一月、十二月の
国連総会におきまして
日本代表団が最も力を入れたのは、
中国代表権問題と朝鮮問題決議でありました。
二つの決議において、
日本は両方ともアメリカ側の
共同提案国となり、ロビー活動もアメリカ以上に活発に行なったと聞いております。それどころではありません。先ごろカリフォルニアのサンタバーバラで開かれた日米ハト派議員
会議におきまして、アメリカのゴールドバーグ前国連大使が明らかにしたところによりますと、
イタリアの
中国問題特別
提案に、アメリカは賛成の意向を持っていたけれども、
日本はこれに反対した、このようなあきれた事実があったということであります。一体これはどういうことでありますか。
国民の気づかぬ国連で、
政府は何をやっているのかわからないのであります。愛知外相、この点について説明をしていただきたいと思います。
あの
中国代表権の
重要事項指定方式とか、朝鮮問題決議とかは、中華人民共和国や朝鮮民主主義人民共和国に対する
敵視政策に形式上の
基礎を与えているものでありますから、これらの国々との善隣友好の道はなかなか開けないのであります。わが党は、この決議について、せめて
日本が
共同提案国となるような活動をまず改め、棄権すべきだ、このように主張するものでありますけれども、
政府はいつまでそれを続けるおつもりか、
お答えを願いたいのであります。
次に、経済問題についてお伺いしたいと思います。
一月二十三日、経済企画庁が発表した
消費者動向予測調査によりますと、昨年の秋ごろから家計が苦しくなって、貯金や預金を引き出すとか、借金をしてやりくりをする世帯がふえて、一年前に比べて暮らし向きが悪くなったと答える世帯が非常にふえております。これに比べると、よくなったと答えている世帯は非常に減少しておるのであります。さらに、この原因は
消費者物価の上昇にあると言っておるのであります。
国民一人一人の
立場からいえば、
国民総
生産が
世界第三位であるなどといっても、毎日の生活は質が低下して、物価は上がる、公害、交通難は急増する、このように経済の恩典は全く感じられないのであります。
国民生活にマッチしない経済
発展などもうごめんだというのが、
国民の偽らざる感情であります。
総理は、この
国民の声をどのように感じ、どのように
責任をおとりになるか、まず、このお
考えを承りたいと思うのであります。
総理は、
総理になられたときに、
池田内閣の経済
政策を批判して、「量の拡大が必ずしも
国民福祉に結びつかないばかりか、人間性喪失の
方向へ向かっている。経済の質の向上と人間性尊重の経済に変えるべきだ」、このように強調したはずであります。ところが、佐藤
内閣になって以来、ただの一度もこのことばを実行したことがないのであります。それだけではなく、かつて批判した経済の量的拡大の
政策を最近では誇らしげに言うようにさえなっているのであります。現在では量の経済に対する反省どころか、何のための経済の拡大なのか、だれのための繁栄なのか、このような目的意識さえあいまいになってしまっているのであります。すでに米英
諸国でも量的拡大に片寄ったことに対する反省が痛切になされており、当然
わが国でも真剣に質の問題に取り組むべきときがきている、このように思うのであります。しかるに、経済
社会発展計画のように、発足二年にして全面的改正をしなければならないようになっております。この一点だけを見ても、いかに無定見であり、口先だけの質の向上と人間性尊重にすぎなかった、そのことが言えると私は思うのであります。その結果、物価上昇などの質の面のひずみをますます拡大してきたのであります。私は、
総理が
公約された質的向上、人間性尊重の経済運営、
国民福祉を優先する
政策、これに直ちに変更することを要求するものであります。もしもこの点に自信がないならば、
総理自身の政治主張とあまりにも違い過ぎたこの
現実に対し、
総理は
責任をとって辞職されるのが政治家のとるべき道ではないか、このように思うのであります。この点、所見と決意のほどを承っておきたい。
次に、具体的な問題についてお伺いいたします。質の面の最も大きなひずみは急速な
消費者物価の上昇であります。その原因は、第一に、
政府が国債発行を含めたインフレ助長的な財政金融
政策をとってきたことであります。企業の投資意欲をかき立てるために低金利
政策や財政上の種々の助長
政策をとり、大企業の利潤
増大に協力し、膨大な設備投資需要を起こさせ、そのために需要供給のバランスをこわしたことであります。すなわち、
政府の
国民不在の大企業優先の
政策が、物価上昇の原因であると断定するのでありますが、
総理のこれに対する
見解並びに
政府の対策を承りたいのであります。
原因の第二は、
政府が
農業や中小企業の近代化、
生産性向上のための
施策を怠っているからであります。今回も体質強化をうたい、構造
政策に力を入れると述べておりますけれども、その予算書を見ますと、
農林関係財政投
融資は、財投総額のわずか五・五%にすぎません。また、中小企業対策費も、総予算の〇・六%、四百三十億円という少額にすぎないのであります。これで、はたして近代化、構造改善ができると
考えているのでありましょうか。三倍や四倍の額に引き上げるのが当然と思いますけれども、この点、予算の組みかえなり、補正なりをなさるお
考えはないかどうか、お伺いしたいのであります。
第三の原因は、経済のあらゆる分野に管理
価格、カルテル行為、やみ再販
価格など、自由かつ公正な競争を阻害するような制度や慣習があるためであります。これらの制度や慣習を排除して、公正な有効競争の実現をはかることが大切でありますけれども、すでに独占禁止法は骨抜きにされ、また、公正取引委員会も、
政府や財界の圧力によって、その機能を十分に発揮できない
現状であります。経済の質的向上をはかり、物価を押えるためにも、独占禁止法を強化し、また、公正取引委員会の拡充をはかるべきだと思うのでありますが、
総理はどう
考えておられますか、お伺いしたいのであります。
以上、いずれも
政府主導型の物価上昇の原因でありますが、特に、
消費者米価並びに公共料金の値上げが、物価高騰の最も大きな原因であります。
政府自身が毎年、
消費者米価をはじめとする
一連の公共料金を、
国民の反対を押し切って、強引に引き上げたことが、諸物価の高騰を誘い出し、現在の物価高を生んだのであります。物価安定を唱える
政府自身が、物価上昇の真犯人になっていると言わざるを得ないのであります。これほど
国民をだましていることはないではありませんか。今回も、
世論や
国民の願いをよそに、国鉄運賃の値上げを決定しております。その物価への
影響はわずか〇・二%とうそぶいていますけれども、必ずや国鉄運賃値上げは、他の物価へ波及することは必至であります。
政府はいさぎよく、物価上昇の真犯人の汚名をそそぐべく、国鉄運賃の値上げを直ちに撤回すべきであると思いますけれども、勇断を叫ぶ
総理の決意のほどをお聞かせ願いたいと思うのであります。
次に、税金問題についてお尋ねいたします。六兆七千億円にのぼる一般会計予算を見まして、
国民のだれでもが感じることは、依然として、量の拡大のみを誇示し、
国民生活を無視しているということであります。ひとしく、ことしもインフレ高進と物価の連続的値上がりを覚悟しなければならない、このように感ずるのであります。いま
国民が
政府に望んでいるのは、経済の
高度成長よりも、物価の安定と大幅減税であります。ところが、今度の
予算編成を見て、大きな矛盾を感じますのは、史上
最高といわれる一兆二千億円にものぼる租税の自然増収が見込まれておりながら、減税は、わずかその一三%にすぎない一千五百三億円であるということであります。これではだれも納得はできないのであります。九月の税制調査会の答申を一千億円も下回った減税は、どういうわけでありますか。また、当然増経費を押えても、減税に回すべきであったのを、なぜしなかったのか、この点、
総理並びに大蔵
大臣に
お答えを願いたいと思います。
また、
わが国の税制は、非常に各種税目の間に課税負担のアンバランスがあるのであります。その
代表的なものが、八千億にのぼる大企業などの交際費に対する不当な特別
措置であり、また、利子、配当などのように、働かずして得た不労所得に対する分離課税であります。これに対して、サラリーマンなどの給与所得者は、給料から所得税が天引きされ、また事業所得のように必要経費も認められないため、他の所得者に比べて税負担が非常に過重となっておるのであります。ところが、
昭和四十四年度の税改正では、親子五人世帯で年収百万円の場合、六千四十九円の減税となり、月割りにすればわずか五百円にすぎないのであります。これでは物価上昇に対して焼け石に水でしかないのであります。どこに
総理の言う人間尊重の政治がありますか。これでは全く
国民の期待を裏切るものとしか言えないのであります。
総理は、この際、税制のバランスを乱している交際費課税、利子配当分離課税などの特別
措置を大幅に改廃していく気持ちはないかどうか、承りたいのであります。また、所得税については、特にサラリーマンに重点を置いて、親子五人世帯の年収百三十万円までの大幅減税を断行すべきであると思いますけれども、どうでしょうか。またサラリーマンの必要経費をどう
考えておるか、あるいは給与所得控除の大幅引き上げが必要と思うけれども、この点に
つきまして
総理並びに大蔵
大臣のお
考えを伺いたいと思うのであります。
次に、
社会保障について若干お尋ねをいたします。
政府の経済
社会発展計画によれば、
社会保障長期計画を策定し、これに基づく体系的整備を行なうと言明しておりますが、いまだに
社会保障長期計画が決定したことを聞いておりません。人間性尊重の上に立って福祉国家の繁栄と
発展を遂げるためにも、当然長期展望を示すことが
政府としても重要な政治的課題であると思うのであります。
総理自身、しばしば
社会保障の充実を期すると決意を披瀝しているにもかかわらず、一向具体的に示し得ないのは、いかなる
理由によるのでありましょうか。
国民は抽象的なきれいごとを並べるだけでは納得するわけはありません。この計画が具体的にどう進んでいるか、また進める
意思がおありなのかどうか、この際明らかにしていただきたいと思うのであります。
次に、昨年十二月、
社会保障制度審議会の申し入れ書によれば、「
社会保障の実績は、
人口一人
当たりの
水準でいえば西欧のほぼ三分の一、
国民所得の比率でいえば目標の二分の一しか達成していない、その実績はむしろ後退ぎみといわねばならない」と、このように述べております。これを裏書きするように、
昭和四十四年度の予算では、
社会保障費の伸びはわずか一六・一%となっておりますが、これは当然増が大半で、先進国並みの
水準にする
努力は全く見られないのであります。
社会保障費は最優先的に
確保し、早急に拡充強化をはかる必要があると思いますが、
総理のお
考えをお聞きしたいと思うのであります。
次に、児童手当制度についてお伺いいたします。
総理はもとより、歴代の厚生
大臣は、その実現を約束しておきながら、
昭和四十四年度に至るも、いまだに創設の運びに至らない
現状であります。このことは、
政府の政治的無
責任、無能ぶりを遺憾なくあらわしたものであり、
国民を欺瞞するもはなはだしいと言わねばなりません。昨年末における児童手当懇談会の結論では、
昭和四十四年度から実施できるはずでありました。しかし、今回もまた見送られることになったのは、なぜでありますか、今後の
見通しとあわせまして、
国民が納得できるような答弁を願うものであります。
次に、老人問題について伺います。
人口構造の著しい変動とともに、老人福祉の問題はますます重要なものとなっております。したがって、
政府も老人福祉対策は重点
政策として取り上げておりますが、予算面ではせっかくの老人の公費医療負担が実現を見なかったのであります。また、老人福祉対策については、六十五歳以上の約四十一万人に及ぶ寝たきりの老人の収容
施設定員は、現在、四十三年、四十四年度予算計上分を入れても、わずかに一万人にすぎません。いずれにしても、愛情のない対策としか言えないのでありますが、大蔵
大臣並びに厚生
大臣の、今後の老人福祉に対する
見解を伺いたいのであります。
また、ILO第一〇二号条約、すなわち
社会保障制度の最低基準の条約は、すでに一九五二年に決定されておりますが、いまだに
わが国は批准をいたしておりません。さらに、一昨年第五十一回ILO総会で決議された第一二八号条約、すなわち障害、老齢及び遺族給付に関する条約について、これも早急に批准すべきであると
考えますが、両条約に対する
政府の
見解を厚生
大臣より承りたいのであります。
最後に科学
技術について
質問をいたします。
わが国の経済の
発展、
国民福祉の向上のために科学
技術の振興が不可欠の要素であることは言をまたないところであります。現在の科学
技術は、一人一人の専門
技術にたよっている時代から大きく変化し、それぞれの部門をまとめていくという大規模な
研究開発の時代へと移ってきたのは御承知のとおりであります。したがって、
技術開発はすでに一企業、一産業のみではとうていなすことができないのであり、ここに国の科学
技術に対する役割りが重要になってきているのであります。しかも、
わが国が今後生きる道は
技術移民、
技術輸出に負うところが大きいと思いますけれども、国の役割りなどについて
総理はどのように認識されておりますか。科学
技術に対しては
日本民族は優秀な民族であるにかかわらず、
政府の
施策と熱意のないために各国に大きなおくれをとっているのが
現状であります。まことに残念であるとともに、
総理はこの
責任をどのようにお
考えになっておりますか。
科学
技術関係予算は一般会計に対し約三%にすぎません。
西欧諸国が一〇%前後となっているのに比べ、はなはだ少ないのであります。また、
わが国の
民間分も含んだ
国民一人
当たりの
研究費負担額は、アメリカの十二分の一、イギリスの四分の一、フランスの三分の一、西ドイツの五分の二にすぎないのであります。
政府は、経済
社会発展計画において、
昭和四十六年度までに
国民所得比率二・五%まで
研究投資額を引き上げると言っておりますけれども、
現状では一・七%前後で、まことにほど遠いのであります。国家百年の大計の上からも、冷淡な
態度を捨てて国の支出を大幅にふやすべきであると思いますけれども、
総理並びに大蔵
大臣の御所見を承りたいのであります。
例を海洋開発について申しますと、海洋海底資源の開発は、資源に乏しく、四面海に囲まれている
わが国にとりまして、実に重要であります。ところが、最近では
外国石油資本が
日本近海の海底油田調査に乗り出し、すでに数十億の調査費をもって行なっている
現状であります。これに対し
わが国の海洋開発の科学
技術庁予算は、四十四年度二十五億円にすぎません。このままでは
日本の近海の資源は
外国資本のものとなるおそれがあります。必ずや何倍にもなって返ってくる資金であり、
日本を宝庫にすることも夢ではないはずであります。この点に
つき、国家民族の将来を
考え、ここにも強い指導性が必要であると思うのでありますけれども、
総理の海洋開発に対する決意のほどをお伺いし、私の
質問を終了いたします。(
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〔
国務大臣佐藤榮作君登壇、
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