○松澤兼人君 私は日本社会党を
代表して、ただいま
議題となっております
都道府県合併特例法案について、
反対の
意見を述べたいと思います。
第一に、この
法案は、
都道府県の自主的合併の手続の特例を目的としておりますが、全国的に見て、現在合併を自主的に推進し、
広域行政を実現しようとする
都道府県が
一つも存在していないことをもってしても、府県合併が
住民、
国民になじんでいない事実を証明しているものと思います。財界の一部に安上がりの
行政の実現を求める
意見があり、それが
地方制度調査会によって取り上げられ、その
答申を尊重して
自治省が立案して、
国会に提出したものであって、
住民の
意思が立案の
過程でいささかも取り上げられていないことは、この
法案の致命的欠陥と言うべきであります。
政府が予想し期待している阪奈和三府県、東海三県ですら、この
地方行政委員会の現地
公聴会において見られるごとく、財界
代表と
学者の一部から賛成の
意見の開陳があったほかは、ことごとくが時期尚早、慎重論であったことを見ても、
住民意思がどこにあるかを如実に示していると言っていい。
住民の
代表たる知事、議
会議長がこのように明確に
反対ないし時期尚早の
意見が圧倒的である事実は、明らかに合併論が
住民の側から出てきたものでなく、財界のバックアップに気をよくした
政府自民党の
地方自治に対する中央権力の介入の端的な表現と見なければなりません。
住民不在の合併促進には、われわれは賛成するわけにはいきません。
第二には、この
法案が
憲法違反の疑いがある点であります。
憲法第九十二条は、
地方公共団体の組織及び
運営に関する事項は自治の
本旨に従って
法律で定められなければならないとし、
住民自治が
地方団体の機構
運営の基礎でなければならないことを規定しています。また九十五条は、
一つの特定の
地方公共団体のみに適用される特別法は、その
団体の
住民投票において半数以上の同意がなければ
制定することができないといっております。
都道府県合併法案は、数個の
都道府県を廃止して、新たな
地方公共団体をつくる意図でありますから、
法律制定にあたって
住民の
意思表示を必要とすることは言をまたないところであります。この
法案で、
住民による
住民の自治という新
憲法の
地方自治の精神を抹殺して、それぞれの議会の三分の二の賛成があれば、
住民の
一般投票を無視してもいいということは、明らかに
憲法に反するものであります。
公聴会において
学者、弁護士の間からこの
意見があったことは、真理の追求に専念する
学者、法曹界としては当然と言わなければなりません。このような
国民、
学者の中から
憲法違反の疑いのあることを
指摘されている以上、
立法府にあるわれわれとしては、この
法案に賛成して、
法律制定に協力することはできません。
第三点は、圏計画と合併の関係から見て、その
法案に疑点があることであります。いま、わが国は新全総という全国的な開発計画を持っており、ブロック的には首都圏、中部圏、近畿圏とそれぞれ中間的な開発整備計画があり、府県はまたこれらの全国的、ブロック的な計画に即した各府県の
地方計画を持っております。特定の圏内の府県は、たとえば中部圏では九県、近畿圏では七府県が、一体性、連帯性を持って、計画が共同的に立案され、実施に移されております。関係府県は、三県あるいは三府県の合併が、全体の連帯を傷つけ、一体性を失わせることを非常におそれております。たとえば水、道路、港湾、住宅、産業立地等、いずれもそれぞれのつながりを持ち、三県ないしは三府県の合併で解決つかない多くの問題があり、それのみでなく、一部の府県の合併が、自己の恣意的関係から利己的に合併をすることにより、圏内他の県との調和が破れ、合併した圏内の一部と合併しない圏内他の県との間に圏内アンバランスと格差を増大することを地元では懸念しているのであります。近畿は
一つ、中部は
一つの共同的連帯が失われて、合併府県だけが利益を得ても、それは全く無
意味と言わなければなりません。
第四点としては、全国的に見て、合併府県と未合併府県の格差の増大の点からの
反対であります。
政府は、この
法案は、合併の障害除去の手続のみを規定したのであって、これを促進するため特別の行財政に対する援助を国が保証する
法案ではないと言っておりますが、新公共
団体の合併からくる
事務の統合整理、営造物の廃止、移管、
地方計画の是正と事業の援助等、新県設定に要する新たなる財政需要の増高をもたらすことは明らかであります。
政府の
答弁によっても、新県設定に伴う
行政費の増大については今後考えなければならないと言っているが、合併府県に対するこのような特別な財政援助や、機構、
運営についての特別な措置は、未合併の府県に対し行財政の不公平な取り扱いをすることになり、これらの未合併の府県に対しても別途何らかの特別な措置を講ずるとすれば、全国
都道府県があまねく一部の府県合併に起因する特別の援助を必要とすることとなり、
制度上、財政上、その波及するところ想像に絶するものがあるのであります。もしこのような全国
都道府県に対する特別の措置ができないとすれば、合併府県と未合併府県の間に生ずることを予想される格差の増大はいかにして解決されるか、
審議の
過程で
政府側から何ら明確な保証が得られなかったのであります。
第五点は、
法案にうたってある
行政能力の充実強化が合併によって期待されるかどうかという点であります。
法案は、合併の目的として、合理的かつ効果的な処理、能力の充実強化、効率的
行政の確保といっておりますが、これは、明らかに、企業における合併が生産の増大、効果、能率の見地からのみ考えられているのと同じものであって、
地方行政の分野に経済
原則を導入しようとするものであり、安上がりの
行政を意図するものであると言わなければなりません。たとえば、阪奈和の合併によって、新県の人口は八百五十一万、面積は一万二百五十八平方キロメートル、東海三県は、人口八百一万、面積二万千四百三十五平方キロメートルであります。
行政にはおのずから適正な規模があるはずであります。その規模は、二百万といい、三百万といわれておりますが、いずれにしましても、阪奈和新県、東海新県が八百万をこえる人口を擁することは、一知事の
行政能力をはるかに越えるものであることは言うまでもありません。東京都は人口一千万で、過大といわれております。しかし、都には二十三区の、完全自治体ではないにいたしましても、区があり、都の
行政と区の
行政とが相まってある
程度の
行政効果をあげております、都区の関係には、いろいろと
事務、財源の再
配分の
意見があることは、
指摘するまでもありません。しかし、都は現実に存在するものであり、合併はこれから人為的につくられるものであります。知事の
行政能力を越える規模の新県をつくることは、知事がいかに、有能であっても、きめこまかい
住民のための自治を達成することは不可能であります。財界の要望である安上がりの
地方自治をしようとすれば、結局安かろう悪かろうにならざるを得ず、これを救う道はただ
一つ、中央権力の
地方支配の導入であります。
制度、機構を改正して、中央が新県の
行政に力をかしてやることであり、やがては府県合併が
地方制、道州制への道を開くことは必至であります。
第六点は、
政府にこの
法案を成立せしめる積極的な統一的な意図が全くないことであります。建設
大臣は、圏域開発に努力し、合併問題は関知しないと言い、
総理大臣も、成立は望むが、特定府県の合併が具体性、緊急性を持っているとは思わないと言っております。要するに、この
法案は
昭和四十一年からの懸案であって、
自治大臣も引き継ぎ事項として前
大臣から引き継いだだけのものであり、
国会の情勢や地元
住民の
意向など全く考慮に入れず、
事務的に提案しただけのものであるとわれわれは理解しております。
大臣は終始われわれの
質問の矢面に立たれ、全く御苦労された点は、了としますけれ
ども、
政府全体に成立に対する熱意がなければ、
大臣一人ではいかんともすることができないわけであります。最初の提案以来四年、五十一
国会から現六十一
国会に至るまで、
国会十一回にわたり、この間
大臣は、永山、塩見、藤枝、赤沢を経て現在の
野田大臣にかわっておられます。最初の提案と一字一句も
内容が変わっておらず、最初の
法案でも
法律の実施以後十年間の時限
立法であり、今回もまた実施後十年間の時限
立法となっております。旧態依然、新味もなく、緊急性もなく、また現実性も持っておりません。
自治省が好んで用いることばの、社会経済の急激な変化に即していないこの合併
法案は、もう一度洗い直して出直すべきであり、このままの姿では、われわれは
反対せざるを得ません。
これをもって
反対の討論を終わります。