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政府委員(
吉國二郎君) 日本税法学会で「権利救済
制度に関する意見書」を出されたことはよく承知をしておりますが、「第三次答申」の
調査会におきましては、
税制調査会といたしましても、学界、法曹界、
納税者代表等に御参集をお願いいたしまして一年有余にわたって
審査をしていただいたわけでございまして、この簡素化答申の結果に基づいているわけでございます。日本税法学会の意見のうちでもこれと同じ趣旨のことを申しておる部分もございますが、そうでない部分につきましては、政府としては、各界の意見を網羅した
税制調査会の意見を中心にこの実現をはかるべきものだということでこれを採用したわけでございます。
まず、第一に、
納税者の出訴について訴願前置を廃止するかどうかという問題は、これはもう前々から申し上げておりますとおり、行政事件訴訟特例法の
規定を設けました際にも、大量の処分であるとかあるいは専門的な処分というものについては訴願前置をむしろ継続する必要があるであろうという意見があるわけでございます。それで、
税務署の更正
決定という処分は、他の行政処分に比べてはるかに大量であり、しかも継続的でございます。そういう
意味では、現在ございます行政処分を数の多いほうから比べてまいりますと、ほとんど上位のものはすべてが訴願前置をとっておるわけでございまして、これだけの、
異議申し立てでも三万、
審査請求でも一万数千という数を考えますときに、全体の訴訟
制度自体に混乱を起こさないという
意味ではなお訴願前置を必要とするのではないかという考え方がとられたわけでございます。アメリカにおきましては、確かに、タックス・コートに出訴するか地方裁判所に出訴するかは自由になっておりますが、そのかわりに、地方裁判所に出訴する場合には、税金を全額納めた上でいわゆる返還請求という形でやらざるを得ないということになっております。そういう
制度をそのまま取り入れていいかどうか、これも一つの問題かと思われたわけでございます。
第二番目に、更正前の
納税者と
税務当局の話し合いの
手続を整備して、
異議申し立てを廃止すべきではないかということ、これもこのあいだ御
説明をいたしましたが、アメリカのいわゆる
調査官による三十日レターとか九十日レターという
制度は、単独制官庁あるいは独任制官庁といいますか、日本のいまの官庁組織としては個々の
調査官に官庁の
意思決定をゆだねるという形をとっておりませんので、その精神はできるだけ更正にあたりまして実務上取り入れるとしても、
制度として取り入れるまでにはまだ現在立ち至らないという判断でございます。
それから三番目の、置き場所を総理府とする問題は、もう先ほど御
説明したとおりでございます。
それから身分保障、待遇につきましては、これは非常に望ましいことではあると思いますけれども、行政上のいわゆる準司法機関にいたしましても、身分保障は一般の公務員と同じ身分保障になっております。特別の身分保障をしていないという点から、実際問題として特別の身分保障を置くということは実行困難であったわけでございますが、待遇につきましては、特別の給与
制度をとるということも考えられたわけでございますが、人数の少ないという点から申しましてそれも困難であろうということで、むしろ高い地位の職給をたくさんに準備をするという形で事実上その問題を解決するようにしたということでございます。
それから
審査請求の方式を現行よりわずらわしくしないということでございますけれども、これは現在の不服
審査法その他の考え方と同様でございまして、特にそれをわずらわしくした点はないと思います。税法学会ではいかなることを考えて言われたのか、私どもわからないということでございます。
それから青色申告者の徴収停止という問題につきましては、従前から、青色申告については、その特典として、青色申告者が
異議申し立てを行ないました場合には徴収の執行を停止するという
規定がございましたが、これは青色申告というものを育成する時期としてはある程度やむを得なかったわけではございましょうけれども、本来、青色申告というものは、帳簿を正しくつける、それによって課税標準の計算を正確にするというところに
意味があるわけでございます。租税債権が確定した後の徴収については、白色申告者とこれを同一に扱う、異なる扱いをする
理由はあまりないわけでございますので、御承知のとおり、
国税通則法制定の際に、青色申告者についても白色申告者についても徴収猶予という手段をとり得ることにしてこの
制度を廃止したものでございます。そういう
意味から申しますと、青色申告者だけ徴収停止をさらに復活しようという考え方はむしろ逆行ではないかということで採用しなかったわけでございます。
それから事前照会
制度につきましては、事前照会
制度を法制化すべきであるという点でございますが、これもいろいろ税調でも検討されたわけでございますが、
法律上の
制度としてやった例は、現在西独に法案として出たということを聞いておりますが、その他ではないわけでございまして、アメリカにおきましては、御承知のとおり、かなり広範な事前照会
制度をとっておりますが、これは
国税庁長官のいわゆるレギュレーションを基礎にしてやっておることでございます。そういう
意味では、むしろ形式を整えるよりも、現在の各種の具体的な租税に対する問い合わせに対する
国税庁のとっております態度、書面をもって正確な返答をするというやり方をできるだけ今後整えてまいる。また、同時に、
納税者の出される照会も、具体的な案件についての具体的租税債権についての照会であるということにできるだけ近づくようなことにしていただいて、それに応じた文書による回答を今後進めていくということで対処すべきで、
法律化するのはまだ時期尚早であるということでこれを採用しなかったといったようなことが、税法学会と異なった結果になった
理由でございますが、しかし、税法学会が言っております精神と申しますか、権利救済
制度としての前進という
意味は、私はこの法案は十分に盛っているものと考えている次第でございます。