○渡辺武君
SDRが発動されてすぐ
アメリカが使うかどうかというようなことを私は言っているわけじゃない。しかし、
アメリカがいままで趨勢的に赤字をたどってきている。イギリスももう私が申し上げるまでもない激しい
国際収支の赤字に見舞われているという
状態ですね。しかも、いままで、これが突然あらわれた問題じゃなくて、もう十年以上の期間にわたって何回もこれを克服しようと思って努力を重ねているのです。しかも、なおかつ依然として特にイギリスは
ポンドの切り下げなどをやらざるを得ないような
事態にいるわけですね。
アメリカの
国際収支についても、一億数千万
ドルの黒字が昨年は出ましたけれ
ども、しかし、先ほど申しましたように、その中身を洗って見れば、これはまことにもう政策的なものです。
アメリカの
国内経済、あるいはまた
世界経済における地位を根本的に改善して、そのことによって
国際収支が改善されてきたというふうにはとうてい見られない。これは大蔵省につくっていただいた資料ですから、おそらく
アメリカの「サーベイ・オブ・カレント・ビジネス」あたりからとった数字だろうと思うんですが、これを一見しただけで明らかですよ。たとえば昨年はなるほど黒字にはなっているけれ
ども、しかし、いままでの
アメリカの
国際収支赤字の根本的な原因であった海外に対する軍事費の散布ですね、それからまた、さまざまな
経済援助その他での
ドルの流出、つまり
アメリカ政府の海外軍事
経済支出、これが依然として非常に大きい。この点での純流出額を申し上げてみますと、この数字から計算したのですけれ
ども、七十四億一千六百万
ドルにもなっている。もっとも、
アメリカが中古兵器などを売りつけて回収している分もありますので、その点も考慮していえば、九十七億八千二百万
ドルというばく大な金額が政府の海外軍事
経済支出として出ているんですね。終戦直後は、
アメリカが
世界支配、
ドルの
世界体制を維持するために海外にばらまいた
ドルも、
アメリカの貿易収支が大幅な黒字を重ねている間は、一ぺんばらまいた
ドルを吸収することができた。ところが、いまはどうですか。一九六八年の
アメリカの貿易収支の黒字を見てみると、一九六七年にはまだ三十四億七千七百万
ドルの黒字を出していたのに、一九六八年になったら一億三百万
ドルと激減している。
〔
委員長退席、
理事青田源太郎君着席〕
これは、いかに
アメリカ工業の競争力が衰えたか。これは、内部的に
アメリカ資本主義が腐り始めたということと同時に、
国際的に
アメリカの競争力が非常に衰え始めたという二面を表現していると見て差しつかえないと思う。同時に、また、輸入も
アメリカ国内のインフレーションによって急増しているというような
事態の反映と見なきゃならぬと思うのです。
アメリカの
ドルが非常に流出し始めた一九六七年、八年ごろの際の貿易収支の黒字は、大体六十億から七十億
ドルというぐらいの大幅なものであったと私は記憶しているんですけれ
ども、それが一億三百万
ドルにまで激減したというような
状態ですね。一方では、ベトナム侵略を中心とする
経済的、軍事的侵略のために政府のばらまく
ドルは非常に大きい、他方では、
国際収支の貿易収支の黒字幅が決定的にもう減ってしまっているという
事態、これはもう
アメリカの
国際収支の状況が内部的には非常に悪くなっているということを示していると思う。
ところで、それじゃなぜ黒字が出たのか、よく調べて見ると、主として外国からの資本の導入ということになっています。その内容を調べてみると、
一つは
中期債、
アメリカが政治的に
西ドイツ、カナダなどに持たしている
中期債、これが
アメリカの
国際収支の大幅な赤字になるべきところを食いとめている
一つの大きな原因です。もう
一つは、金利操作その他によって海外に流出しているユーロダラーなどをかなり本国に還流さしているということもあるし、
アメリカの民間企業がそのほかの形で外国資本を導入しているということもあると思うんですが、とにかく、そういう形で、かなり政治的な努力によってやられている。ですから、これを一見して、
アメリカの
国際収支が黒字になったかのように見えるのだけれ
ども、私はかなり政治的な意味を持っていると思う。なぜならば、いまあなたの言われました
フランスを先頭とするEECの非常に強い要求によって、とにかく基軸
通貨国である
アメリカとイギリスこそがもう少し節度を保ってやる必要があるんだ、こんな
国際収支の大幅な赤字を重ねていたのでは
SDRの発動についてOKを出すわけにいかぬというようなことでかなりもめてきておりますね、いままで。だからして、
アメリカは、どうしても
SDRの発動をするためには、一時的にでも
国際収支の黒字をつくらざるを得ない。しかし、もし
SDRがいよいよ発動されるというような
事態になれば、いままで
国際収支の趨勢的な赤字に見舞われている
アメリカとしては、
SDRを使わざるを得ないと思う、私は。そこをはっきりと見てとる必要があると思う。そういう
事態、
アメリカの
国際収支が赤字で
ドルがどんどん海外に出て、したがって、このために
ドルの信用が下落する、逆に言えば、金の値段が大幅に高騰する、こういうような
事態があらわれているからこそ、したがって、
アメリカはこの
ドルの流出を食いとめるために
SDRなるものを使って、他国の
通貨を引き出して
ドルの流出のかわりに使おうと、こういうようなことが事の本質だと見なければならぬじゃないですか。いままでのあなたの答弁を総合してみれば、そうとしか
考えられないと思う。