○国務大臣(大平正芳君) 今月の十二日、十三日、米国商務
長官並びにその一行が来日をいたしまして、日米間の通商
経済問題につきまして
意見の
交換が行なわれました。その概要を御報告申し上げます。
今度の商務
長官の来日は、ニクソン政権にとっての最初の閣僚の訪日でありますけれども、具体的に問題を交渉をして結論を得るという、いわゆるネゴシエーションということを目的としたものではなくて、相互の自由な
意見の
交換を通じまして一そうの理解を深めたい。そういうふれ込みでございました。
取り上げられた問題は、大別いたしまして四つあると思います。
一つは
日本の資本の
自由化の問題、第二は残存
輸入制限品目の
自由化の促進の問題、第三は非関税貿易障害の除去に関連した問題、それから第四は
繊維の対米輸出自主規制の問題、この四つであったと思います。
第一の資本の
自由化でございますが、今日、自由世界第二位の
経済力を誇るようになってきた
日本が、いまなお外資に対しまして非常に複雑な、非常に厳重な規制をいたしておるのは全く了解に苦しむ。アメリカは完全に資本の受け入れ、投資等を完全に
自由化いたしております。そのことはアメリカのみならずアメリカに投資する国も、アメリカから投資を受ける国も、お互いにいままで利益を享受してきておるように思う。今日の段階になりまして、できるだけ早く一〇〇%の
自由化を
日本に求めたいということでございました。とりわけ自動車のように十数万台も
日本の自動車はアメリカ
市場に出ておるけれども、
日本はわずか三、四千台しか買っていないじゃないか。しかも関税が高くて、物品税が高くて、自動車税が高くて、しかもアメリカの自動車すなわち大型の自動車に一番不利に
日本の体制はできておるじゃないか。何としても理解に苦しむという
指摘がございました。当方といたしましては、われわれも資本の
自由化をしないと言ってはいない。そういう
条件を整備いたしまして、できるだけ早く
自由化にもっていくべく、昨年の七月の第一次、ことしの三月の第二次、資本の
自由化への前進を着実にやっておる。来年は第三次、再来年は第四次をスケジュールとして持って、不断に
努力をいたしておる。ただわが国は第一、国民性から申しまして、長くアイソレートした世界におりましたので、あまり外資にもなじんでいないのみならず表面はなるほど生産力は高まっておりますけれども、
経済の実態に入ってみますと非常な弱点をたくさん持っておる。たとえば
技術水準においてあるいは
金融力において、たいへんな
格差が
先進国との間にあるのみならず、
中小零細企業、農業という低出産性部面においては、
先進国に比べまして非常に高いような状況で、完全な
自由化を望もうとしても、
環境は、そういうきびしい制約があるので、そういう状況を踏まえた上で漸進的に
自由化をやっていっているのだという点が一点と、われわれの
目標は五〇、五〇というもの、つまり外資五〇までの受け入れば認めよう、フィフティ・フィフティの
方式を一応の目安としてやっておる。これは
ことばの正確な意味において
自由化というものじゃない。
自由化というのは一〇〇%のことでございますから。しかし、外資アレルギーが十分払拭されていない今日、またこういう
経済の実体を抱えておるので、ひとつ試みにフィフティまでは外資を入れてみよう。外資による資本力、
技術力並びに
日本の
労働力と
市場に対する知識、経営力、そういったものを詰め合わせて比較的いい結果が出てきておるものもありますので、これを
一つの目安としてやっていく。それで十分慣熟いたしまして、一〇〇%に
自由化していけばいいものがあればやっていくつもりだし、現にそういうものもある。自動車につきましては、それは御
指摘のようにいろいろ問題はあるんだけれども、何として
企業の
格差というものは格段の差が日米間にありまするし、いま
業界は鋭意体制整備に
努力をいたしておるわけであるばかりでなく、去年の八月二十日に日米自動車交渉というのをやりまして、一応の了解点ができておるじゃないか。まだ一年もたたないうちに、われわれとして新しい
提案が出るはずはない。しかし、私どもも八月二十日に了解があったから、もうこんりんざいそれに固執するというようなことはしない。
条件ができればそれを少し早めるようなものがあるかもしれぬけれども、いずれにせよ、もうそういうことで鋭意やっておるのであって、そういう点について十分の理解を求めたい、そしてその結論といたしまして、自動車の問題については業者レベルで話し合いをさしたらどうだというような
提案がありましたから、それは相互の理解を深める意味においてけっこうじゃないかと答えておきました。それが第一点でございます。
それから第二点の残存品目の
自由化の問題でございますが、これにつきましては、今度の会談ではそう大きな問題にはなりませんでした。なぜかならば、去年の暮れ、トレザイス特使が参りまして、すでに御報告申し上げましたように、アメリカの関心品目三十幾つかを提示されて、
政府も鋭意検討して三月に一応の答えをしたわけでございます。それに対しまして五月にもう一度アメリカから、なおこういう点は
努力できないかというようなことを言ってきましたけれども、そういうような点もいま外交チャンネルを通じて交渉中、話し合い中なんでありまするから、今度
スタンズ長官とお話し合いをするという性質のものでもなかろうと申し上げ、向こうもそう了解いたしまして、そういう点については深い追及はございませんでした。
それから第三点のNTB、いわゆる非関税障壁の撤廃の問題でございますが、これはすでに御承知のようにガットで非関税障壁の除去について加盟
各国は交渉いたしておるわけでございます。スタンズさんのおっしゃるのは、
日本側も輸入担保制でございますとか、ユーザンスの標準期限の問題とか、輸入割り当て
制度の非常に難解な手続とか、さらには
政府の専売制、ともかくわれわれの了解できないような非関税障壁がずいぶんあるじゃないか、ひとつこれはMITIつまり通産省というのは強い権限を持ち過ぎて困るというようないろいろ苦情がありました。あれはまあ
業界からもいろいろ苦情が出ているのだと思うのでございますけれども。しかし、われわれのほうもアメリカ側にアメリカンセリングプライスとかバイアメリカンとか関税法四百二条の問題とか、いろいろこちらからもしょっちゅう会うたびごとに言っておる。これはNTBで、つまり非関税障壁で早くやめてくれと言っていることが、これは両方ともあるわけでございます。そこで、ひとつ何とか話し合いせぬかと言うから、いまガットでやっているじゃないかということがございましたけれども、ガットでやるというよりも何よりも、もう少しあれはもっと突っ込んでお互いに資料を出し合って真剣に話し合う場がほしいというようなことを言っておりました。ガットの場でそういう突っ込んだ話し合いをすることもけっこうだし、バイラティラルに日米間でNTBの撤廃問題についていろいろ資料を出し合って検討していくというようなことはけっこうじゃないかということでございます。事実われわれも非関税障壁の問題につきましては、
政府自体もいろいろ
考えなければいかぬことがあると思います。私も不必要なものを何も置いて置こうとは思っていない。これを除去していくという前向きの
方向で
日本政府も
努力しようじゃないか、そういうことを申し上げておきました。
それから最大の問題の
繊維の問題でございますが、
繊維につきましては十二日の会合で触れる時間がなくて、とうとう十三日にもう一度早朝から一時間半もかけてお話し合いをしたわけでございますが、私の印象では、先方の関心は非常に強いということ、われわれが想像したとおり非常に強いということを
感じました。おそらく先方の受けた印象も、
日本は想像しておったより強いと、お互いにそういう印象を受けたのではなかろうかと、まあ想像するのでございますが、向こうの言い分は、要するに、アメリカの国際収支が商品貿易におきましては
——貿易収支におきましては大幅の黒字を記録しておったが、だんだんとそれで
あとの総合収支でアン
バランスを埋めておったわけでございますけれども、貿易収支の黒字幅がだんだん減ってきた。特に
繊維なんというのは八億ドルもの輸入超過である、これはアメリカの国際収支の危機に非常に大きな影響をしておるわけで、その大半は
日本じゃないかというようなこと、このままいけばアメリカの
繊維産業はだんだん衰退して、
労働力がつまり
日本の
繊維の
労働力、雇用がふえて、アメリカの
繊維の雇用が減る。
労働力が、アメリカから
日本に雇用が移動するようなことになりかねないじゃないか。しかしそれよりも何よりも、この話がつかないと、ニクソン政権としては通商拡大法とか新しい貿易
自由化への立法をいろいろコングレスにお願いしようとしても、そういうスタートが切れないのだ、したがってLTAで、いままでの綿製品協定ができて、それを踏み台にしてケネディ政権がいろいろ通商拡大法とかケネディラウンドとか、いろいろなことが言えたのだが、これが最初からつまづいてしまうと、たいへん憂慮すべき結果が出るおそれがあるので、何としてもこれは理解してくれぬかというような切々たる、
経済的な
理由もありますが、政治的な
理由、政治的な要因に対して非常に憂慮しておるということがうかがえたわけでございます。そこで当方といたしましては、そういうこと、わからないでもないけれども、いずれにせよアメリカは自由貿易の父であるし、ガットのリーダーであるし、いままで自由貿易、貿易の
自由化という
方向に強力なリーダーシップを発揮されて、それで貿易の拡大に寄与されてきた、そういう国柄なんで、それがこの自由規制を毛織物や毛
繊維や化織にまで及ぼそうということになってくると、時計の針を逆に回すようなことでアメリカのプレスティジのためにもとらないし、そんなことになると、第一世界の貿易全体が縮小してくるおそれがある、だからどうしてもそんなことは断念してくれ、むしろ
国内におきまして
日本もやっているのだが、
構造改善政策をあなたのほうもおやりになって、それで供給力をふやしていく、供給能力、適応力をふやしていくようにしたほうが非常にオーソドックスなやり方じゃありませんかという点、しかしそれでもどうしてもいけないという特殊な
繊維の
分野で非常にフェータルな影響が起こるというようなことが起きた場合にはガット十九条の援用の道があるんじゃないか、ガット十九条によってガットに提訴する道があるんじゃないか。ガットの体制のフレームの中で解決するように
努力してもらいたいということを切々とこっちも向こうの
反省を求めたわけでございますが、そういうようなことに対して、いろいろ向こうも七十億ドルも使ってずいぶん改善をやってそれで
技術水準も上がったし、供給力もふえたけれども、もういまからこちらが言うように、この上この
政策を入れてもたいして余地がないというのです。ガットに提訴するなんということでガットに提訴するとなると、おそらくアメリカがそういう提訴する
条件を満たしておるかどうかということを、ガットの中でいろいろ被告の立場で調べられますし、そんなことをやるよりも端的に輸入規制の法案を出すほうが簡単だというふうなことで、コングレスのほうの反応はそんなことではなかなか克服できないように思う。こちらの言うことに対して遺憾ながら消極的な反応でございました。
日本としては国会から労働
組合に至るまで、もういま全部、こういう自由貿易に逆行するような
措置、アメリカの
繊維産業の雇用や収益や生産の状況からいって、どうも
理由がないんじゃないかという空気が非常に一般的に浸透しておるので、
政府の立場でひとつこれに賛成せよといっても賛成できるという立場にはない。そういう
理由もない。国際会議でそれじゃ討議したいから応じてくれるかというと、それに応ずるというようなお答えをすることもできない。非常に残念だが、これはお
考え直し願わなければならないということで別れようとしたら、引き続き外交ルートで話し合ってくれというようなことでございました。資料の
交換とか、対話の継続といいますか、そういうことはそれじゃやりましょうということでお別れいたしたわけでございます。それがあらましの経過と結果でございます。