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参考人(
宮地政司君) 本日お話し申し上げる
問題点をまず申しますと、私に与えられました題は、
人工衛星の
利用に関する将来展望、将来どうなるかという問題と、
わが国においてそれにどう対処すればいいかという問題、
開発の一元化と
事業団の問題、この
二つの大きな問題をしばらくお話し申し上げようと思います。
まず
最初に、
現状の概観を申し上げたいと思うのでございますが、
人工衛星を使って
宇宙の
研究を始めましたのが、いまからちょうど十数年前でございます。ちょうど
地球観測年というものが、御
記憶でございますかどうか、十年ほど前に、そういう大きな
世界的な
研究を
世界各国が
共同いたしましてやったことがございます。その二、三年前、ちょうど
昭和三十年だと思っておりますが、それの
準備会議がブラッセルで開かれたことがございます。その席で
アメリカの代表が立ち上がりまして、実は今度の
研究に
人工衛星というものを打ち上げて、そうして
地球の非常に高いところを
研究する、ついては、これを大いに
利用していただきたいということを述べたのであります。当時の
アメリカの大統領が、この間なくなりました
アイゼンハワーでありますが、
アイゼンハワーのメッセージをそのときに読み上げました。
アイゼンハワーが申しましたのは、
アメリカはこの打ち上げによりまして
科学の
進歩のために
人工衛星というものを役立てようと考えるのだということを言っておりました。いわゆる
科学研究を主体にしましてこの
人工衛星というものを
最初に打ち上げる
計画ができたわけであります。ところが、実際に打ち上げたのは
ソ連でございまして、当時の
ソ連の
人工衛星が初めて打ち上がったときには、スプートニク、ショックと称して、
世界じゅうがいろいろ騒いだのは御
記憶と思います。こういう
時代になりますと、
経済、政治、軍事、あらゆるものがたいへん大きな
影響を受けるだろうというので、
世界じゅうがたいへん騒いだわけでございます。しかしながら、実際にその
最初の
人工衛星の
利用というのは、
自然科学の
研究として生まれたものであります。
しばらくいたしまして、非常に高いところのいろいろの性質がわかってまいりますと、次に出てまいりましたのは、この
空間を
利用しようということでございます。いわゆる
空間の実
利用と呼んでおりますが、それによりましていろいろなことができるということがわかったわけでございます。これはあとで申し上げますが、そういうことがわかりまして、これはどうしても
世界じゅうで大いにやらなくちゃいけないということになりまして、学問的にはそれを取り上げる連合体がございます。
宇宙空間の
研究というのは、半
政府機関として進める、そういうものもございますし、
民間の団体もございます。一方、
国連では、
国連でこれを大いに活用しようという動きもございます。一方、こういう有用なものになりますと、いろいろ軍事的な
利用というようなこともありまして、そのために、
国連が、例の
宇宙平和利用条約というものを、国際的な協約として結ぶようにしております。そういうものができたわけでございます。
それから、最近の、御存じのように、月へまで
人間を送る、これがどういうふうな意味を持つか。いろいろ問題がございますが、そういうような
時代になってきたわけでございます。
全般的に申しますと、
科学研究のためにはなくてはならないものになる。新しい
宇宙観というものが確立されつつあるということ、それから一方、実際の
社会生活のためには、実
利用と申しまして、
通信衛星とか、
気象衛星とか、いろいろなものが出てまいりました。これまた洋々としてその先があるわけでございまして、これに手をつけないでこまねいておりますと、いわば低
開発国に落ちてしまうというようなことをヨーロッパなんかではみんな言っております。一方では、
宇宙を
研究開発するために、いろいろな、いわゆる
波及効果とわれわれが言っておりますが、そういう副産物がたくさん出てまいりまして、それがたとえば
アメリカから
日本にどんどん入ってまいります。
日本は安閑としていままでの工業だけではやっていけないというおそれがあるというのが
現状でございます。
しからば将来どうなるかというようなことを、ざっと申し上げますと、昨年開かれました
国連の
宇宙開発関係の
委員会におけるその
事務局長の
報告がございますが、それにのっとって大体お話し申し上げたいんですが、
まず、
科学的な
研究、これはもう
幾らでも次々と出てまいりますので、それを進められることは当然でございます。これは、将来とも
人間が知識を求める限り続けられるものでございます。
次に、実際の
利用の問題といたしまして、たとえば
気象衛星を取り上げてみます。さっき話がございましたが、
世界気象機構というのが
国連の中にございまして、それの
報告を見ますと、一九七〇年代の半ばまでには
気象衛星を使っていろいろな
予報ができるために、年々その災害のために
世界じゅうで失っておる五兆円という金が浮かぶであろうということを
報告しております。実際
日本なんかでそういうことができるようになりますと、どれだけ
利益があるか、ちょっとわかりませんが、少なくとも
日本では、台風の
予報だとか、それから
集中豪雨の問題、津波が来るか、その
予報、そういったようなものが的確にできるということになりますというと、非常に大きな
利益をこうむるわけでございます。現在の
気象衛星は、
アメリカでつくった
気象衛星が飛んでおりまして、それは
人類一般に現在では開放せられております。三十五カ国の
国々が約五十カ所の
地球受信所をつくりまして、それを受けて、そしてそれを
天気予報のために使って
利用しておるわけでございます。将来は、これがもっと進みますと、
予報はもちろん的確になりますし、もう一歩進めて、
気象を修正することさえできるんじゃないかというようなことが予想されております。
それから次に、
通信衛星を取り上げてみますと、先ほどもお話がございましたが、すでに
通信衛星は、御
承知のように、
商業用の企業として成り立っております。この
通信衛星は現在のところ三つに分かれておりますが、現在使われておりますように、
日本とたとえば
アメリカとの間の
通信をやるといったような二点間の
通信、それからNHKなんかで考えておりますいわゆる
放送衛星というようなものが考えられております。これはもう
衛星から直接
放送をいたしますので、これは政治的にも非常に大きな
影響を与える、最も将来おそるべき、また重大な問題だと考えられるものでございます。現在のところは、それができるのはやはり一九七〇年代の半ばだろうということを
報告しております。
それで、その二点間の
通信をやるのと、
放送衛星のように広く
放送する、その
中間に、
分配衛星というものが考えられております。これは、
国連なんかが大いに奨励いたしまして、いわゆる
発展途上の
国々のために、たとえば人口問題の解決とか、農業の
指導とか、
鉱山技師の
養成とか、
看護婦の
養成、そういったものに
利用しようとして考えられております。たとえば、
国連が援助をいたしまして、インドのアメダバッドというところに
実験衛星地上局というのをつくりまして、そうしてそこで訓練を行なっております。これは、将来
インド洋中心のまわりの
国々のために活用しようというわけで、現在それを訓練しております。そういうものを使いまして、もし
教育放送のようなものができますならば、その
報告に述べておりますのでは、二十年後には、いわゆる
発展途上の
国々の文盲を全部なくすることができ、そうして、いままで
地球上でかつて見たことのない、教育をみな受けた
人間がこの
国々を発展さすだろうということを述べております。これは、テレビ
一つを通しまして、そうして
各国のことばによる音声のほうの
放送はそれぞれの
国々でやる。そういうような方法で、人口問題とか、農業問題を大いに推し進めていこうというようなことを、
国連がいま先頭に立って進めているのが実情でございます。
それから
航行衛星というのがございますが、これは将来、交通の管制——一九七〇年代の半ばころには、いまの交通量の三倍になるだろうということが予想されております。そうした混み合った飛行機、船舶、そういったものを管理するということは非常に大きな問題でございますが、それを将来はその
航行衛星でやっていこう、もちろん、
航行衛星は、その船または飛行機の
位置を時々刻刻つかまえておりまして、そうして救難にも役立てようというわけでございます。
それからもう
一つ、資源
衛星と呼ばれているものがございます。これは、いろいろなことに
利用できるものでございますから、多目的
衛星とも呼ばれておりますが、これはほうぼうに関係しております。たとえば、農業、林業、そういったようなことに関係いたしまして、収穫の大体の予想をいたしますとか、病害虫を発見するとか、そういうことに使われますし、またそれが、地質、鉱物の発見に使われております。たとえば、油田の発見とか、いろいろな鉱山、これは、上のほうから写真を写しまして見ますと地形的に判断ができます。そのほかに、いろいろな
調査する方法がございます。それから、海洋のほうへこれを使いますと、海流の流れ、たとえば
日本なんかでは黒潮の動きというのが非常に漁業と関係しておりまして、そういったものと結びつけまして漁業に役立てることもできる、将来は鯨のいる場所までつかまえることができるとまで言われております。それから
日本なんかでは、北海道から北の海氷の問題なんかは重要な問題だと思います。そういうことに使われる。それから地図をつくることにも使われますし、
日本では将来大きな問題になります水資源の
開発、そういうことにも
利用できるというのでございます。このほかにも、生物
衛星とか、いろいろございます。これの
利用のほうは今後もいろいろ考えられまして発展させられるものだと思います。
もう
一つ、最後に、こういう
研究の過程におきまして、先ほど申しましたような
波及効果というのが出てまいります。いままでやられました中で、いわゆるリモートコントロールなんかもその
一つでございますし、それから、最近だいぶん、はやってまいりました計算機を使った経営をするとか、いろいろなものを管理するというようなこと、こういうシステムが、この
宇宙開発のためのいわゆる
波及効果として、あらゆる
分野に広がっておるものでございます。こういったようなものが将来とも
幾らでも出てくると私なんかは考えております。
そこで、
日本ではどうしたらいいかという問題でございますが、
日本は、御
承知のように、国は狭いところで、資源もございませんし、たくさんの
人間がとにかくおるわけでございます。それが今日の繁栄を導いたのは
科学技術の発展だとわれわれは思うのでございますが、国の独立のためには
科学技術自体も独立でなくちゃならないと私は考えるのでございますが、じゃ、その
科学技術をそういう意味で振興するためにどうすればいいか。これは二通りございまして、個々の
分野の
科学技術を育てていくというのが
一つ。これはいままでのやり方でございますが、その上にもう
一つ、先ほどちょっと話がございましたが、巨大
科学、
ビッグサイエンスというものを取り上げることが必要であると考えるのでございます。これは最近の新しい行き方だと思うのでございますが、
最初に私が申し上げました
地球観測年が行なわれたときにわれわれが感じたことは、今後は、いわゆる
宇宙と南極と海洋であると考えたのでございます。現在、
日本では、南極を取り上げ、そして
宇宙を取り上げ、近くはまた海洋を取り上げる。この三つは、ちょうど領土権のない、
世界じゅう共通の
人間の場でございます。そこで、その
一つとして、この
宇宙開発というのがいまあるわけでございまして、これを巨大
科学として取り上げる場合に必要なことは、いわゆる
研究資金、
開発資金という金の問題と、それからそれに従事します
科学者、
技術者の問題、それから設備の問題、組織の問題、そういったものを考えなくちゃならないのでございます。同時に、そうした非常に膨大な組織のものを運営していく上には、全体的に企画をし、調整をし、そしてそれを評価して
推進するものがなくちゃならない。その
二つのものが必要だと思います。そのやり方については、いまの
宇宙開発を
アメリカなんかでやりました、そのお手本があるわけであります。いわゆるシステム・デザインと申しますか、システム・エンジニアリングと申しますか、そういったものが最近ほうぼうで使われておるわけでございます。
そこで、一体
日本ではどうしたらよいかというのが問題でございますが、今後やることといたしましては、先ほど申し上げましたように、
科学研究、これは、学問の
進歩のために、これはもう知識を求めるのは
人間性でございますから、必ず行なわれるであろう。それから実用的な
開発、これも必ずやらなくてはならない。これをやらないで放置すれば転落するだけであると考えます。その場合に、しからば何でもやるのか、たいへんな金をお互いに
日本はださなければならないかということが問題ございますが、
宇宙開発は、先ほどから申しましたように、ほとんどがみな、国際
協力、お互いにいわゆる
地球的な問題でございまして、お互いに国際
協力の線で進めるものがたくさんございます。これは、いまの
商業通信衛星の組織でもそうでございますが、
一つの企業として成り立った場合に、
世界じゅうが
協力してやろうと……。これは、インテルサットに対してインタースプートニクが出てまいりまして、いろいろ問題がございますが、とにかく、
世界じゅう手をつないでやるという国際
協力の線がございます。ですから、それはそれで進める。だから、それの仲間入りをして進めるというのが
一つ。もう
一つは、
日本独自にやらなくちゃならないものがあると思います。たとえば、
気象衛星にいたしましても、国際的な
気象衛星というものもございましょうし、
日本がそれを持ちまして
日本独自にどうしてもやらなくちゃならないものが将来出てくると思うのでございます。そういうような意味で、
日本だけでやらなくちゃならないものもあるという、その
二つのことを考慮して、それが何であるかということを考えなくちゃならないと思うのでございます。
で、まあとりあえず
日本なんかでは、将来、この
気象衛星は、国際的なものとともに、
日本独自のものを持つ必要があるんじゃないか。それからまた、最近のように国全体としていろんなものを
開発するためには、いわゆる資源
衛星のようなものを打ち上げておきまして、時々刻々
日本の中で変わっていくものを見つめていく必要があるんじゃないか、こういうように思います。ことに、
日本が将来東南アジア方面へもし大いに
協力するつもりがあるならば、いわゆる
放送衛星のようなもので、たとえば
教育放送に大いに力を尽くすといったようなことを
日本でやらなくちゃならないんじゃないか、こういうように思います。
さて、そのためにどういう体制にすればよいかということでございますが、これは、御存じのように、
日本では
最初に出発いたしましたのが東大で——東大といっては、ことばが悪いのでございますが、
科学者がいわゆる
自然科学の
研究のために
最初ロケットを打ち上げ始めたと思うのでございます。ここ十年間そういうことをやってきたわけでございます。そこで、新しくさら地に大きな
宇宙開発の殿堂を建てるというのではなしに、もうすでに一本の大きな東大の柱が立っておったわけでございます。そこで、実用というものを
日本でどうしてもやらなくちゃならなくなりまして、それをやるために
科学技術庁が新しく
推進をはかって、
各省庁の要求によりまして、いろいろなものがいま
研究され、それを
開発されようとしておるわけでございます。そこで、そういったものをばらばらにやるというのは問題があるので、これを一本化しなくちゃならない。そのためには、
一つのかさの中へ入って、これを一体化するのではございません。
一つのものにするのではなくて、それぞれの
分野で自主的にやるものをまとめて調整をする、そういったような意味でいまの
委員会ができたと思います。そういうものがなくてはならないということで、それをつくっていただいたと思います。で、
委員会は出発いたしまして、その
一つのかさのもとに大学があり、
各省庁の
研究があり、するのでございます。さて、その大学は、御存じのように、自主的にいろいろなことをやっていきますので、ここでこういうことをやれという命令を下すわけにはいきません。そこで、どうしても実際に何かやる
事業団のようなものがほしい。それは必ずしも
事業団でなくてもいいわけでございますが、われわれが考えましたのは、
事業団という形をとれば、
官学民といったようなものが、うまくそれの中に入ってやれるという組織がそうでございまして、それならばそうしていただくのが一番よかろう。つまり、一番問題は、
日本では一番先頭に立っております学者の連中をどのようにしてそれに参加させるかということが
一つの大きな課題だったのであります。そういうふうにしてこの
事業団が育つならば、いまの東大のほうでいろいろやっておることと両方をうまくまとめまして
開発が進むだろうというふうに考えます。そのようにするならば、いわゆる責任を持った
宇宙開発を進められる。何をやるかというこまかい具体的な問題に関しましては、この
委員会のほうできめていただき、それを進めていくことが必要であると考えるのであります。
で、もう
科学技術は、御
承知のように、どんどん進んでいきます。いろいろなものがどんどん変わってしまいます。変わってくると同時に、政治、
経済教育、あらゆるものが変わってまいります。それをやはり推し進めるのが
科学技術である。その
科学技術をやるためには、先ほど申しましたように、ここの
分野を育てると同時に、こうした巨大
科学を進めていただきたい。これは私たちの希望でございます。