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公述人(
秋山龍君) 私、ただいま御紹介を受けました
秋山龍でございます。
私は、
国鉄財政再建推進会議の末席を汚しました
関係かと思いますが、今回
内閣から
提出せられまして当
委員会で御
審議になっておられます
国有鉄道財政再建促進特別措置法案及び
国有鉄道運賃法の一部
改正法律案に対しまして、
意見を述べるようにというお
呼び出しを受けた次第であります。
まず
結論から申し上げますと、私はこの二
法案に賛成でございます。その
理由を一口で申し上げますと、
国鉄の
財政が、まあ
ことばはどうかと思いますが、
破産寸前という
状態にあるようでございまして、これを立て直しまして、将来にわたって
国民経済上及び
国民生活上、
国鉄に課せられております
重要使命を果たさせるというには、これよりほかに方法がないのではないかと心配するからでございます。
以下、
国鉄財政再建推進会議の
審議経過と、これは少し古いことになりまして、恐縮でございますが、私が多少
関係しておりました当時の感触といったようなものをあわせまして、若干
理由を申し述べてみたいと思います。
国鉄財政再建推進会議につきましては、すでに御高承のとおりと思いますから、詳しくは申し上げませんが、昨年の五月に
閣議了解によりまして、
運輸省に設置いたしまして、
委員は大学の
先生方、
言論機関の
論説委員の
方々、
産業界の
指導的立場におられる
方々等三十七人をもって構成されまして、
会議の座長は、その方面の権威であられる
脇村先生でございます。
会議は五月から十一月にかけまして三十数回にわたって開かれましたが、十一月に
運輸大臣に
意見書を
提出した次第でございます。
会議の冒頭に、
国鉄財政の
現状について報告されたのでございますが、それによりますと、
国鉄の
収支計算は、ここ数年
赤字の連続でございまして、三十九年度に三百億円、四十年度に千二百三十億円、四十一年度に六百億円、四十二年度九百四十一億円という
赤字を計上してまいりました。さらに四十三年度にも千四百億円ぐらいの
赤字が見込まれるという
状態でございます。さらに悪いことには、このまま推移いたしますると、四十四年度には償却前の
赤字が出るのではないかというように見込まれることでございます。償却前の
赤字が出ますと、これが処理上また借金をせざるを得ない
状態になります。その借金の利払いにまた借金をしなければならんということになるのでございまして、いわゆる雪だるま式に
赤字がふえていくということになるのでございます。民間
企業ならば、確実に破産という
状態になるのでございまして、償却前の
赤字ということは、
企業にとりまして実に重大な
事態であると思うのでございます。
それでは、なぜこんな
状態になったのだろうか。いろいろ
理由はございますが、私の感触では、根本的には、戦時から戦後にかけましてインフレ抑制のてことして
国鉄運賃を使っていたという、国の
政策の余波が今日に及んでいるのじゃないかということをどうも感ぜざるを得ないのでございます。
昭和十一年を一〇〇といたしました指数で見ますと、
国鉄旅客運賃は現在二一六・七という数字になっております。貨物
運賃のほうは二四三・〇ということでございます。これに対しまして、卸売り物価は三六〇・三、都市消費者物価は四六四・四、郵便はがきは四〇〇、消費者米価は四八〇、入浴料金というようなものが対象になるかどうか知りませんけれども五六〇、というような数字を示しているのでございます。また、鉄道
運賃は、主要諸外国に比べて見ますと、煩を省きまして旅客だけについて見ますと、
日本を一〇〇といたしますと、イタリアは一六二、フランスは一八二、西独は一八一、イギリスは二一一、米国は二五〇、こういったようなぐあいになっているのであります。で、第二には、こういう環境から来ました投資不足でございまして、戦前、
国鉄はかなり優秀な
経営成績と輸送の余力を持っておったようでありますが、しかし、このインフレ克服期に課せられましたきびしい環境の中で蓄積も食いつぶしました。かつ時勢の進運に応ずる投資が不足してきたのではないかというふうに
考えました。その間
道路の改良、自動車の発達、航空機、海運等に対する技術的なあるいは経済的な進歩というふうなものが著しいためにシェアがだんだん減ってきておる、こういうことではないかというふうに
考えたのでございます。推進
会議は大体こういうような基本的な認識の上に立ちまして、三つの主題について検討されたのでございます。
第一は、総合的な交通体系の上における
国鉄の
役割りは何であるか。そのためには、いかなる投資を必要とするのであるかということでありまして、この問題を討議するため第一小
委員会が設けられまして、
委員長としては一橋大学の都留教授が当たられました。第二は、現在の収支状況にかんがみ、
国鉄の
経営はいかにあるべきかということであります。
国鉄当局もきびしい環境下ではありますが、ここ十数年来近代化、合理化の
努力をされておりまして、その実績もまた相当に見るべきものがあると信ずるのでございますが、なお今日の段階に応じて
国鉄の
経営を近代化し、合理化し、能率化するにはどういうことが行なわれるべきであるかということでございまして、これが第二小
委員会で取り扱われました。
委員長は東芝の土光さんでございました。第三は、
財政再建のためにとらるべき資金上、
財政上の
措置はどうかということでございまして、第三小
委員会がこれに当たりまして、
委員長は土屋清さんでございました。この各小
委員会の
結論を持ち寄りまして、総合調整せられましたものが
国鉄財政再建推進会議の
意見書であります。
その大筋を申し述べますと、まず今日の交通輸送界において、
国鉄の
役割りはどういう点であるかといいますと、すなわち
一つは、都市間旅客輸送、第二は、中長距離の大量貨物輸送、第三は、大都市周辺の通勤・通学輸送、こういうふうに規定されました。この三つの分野では、
国鉄は他の輸送機関では果たせない重要な機能を持っているわけであります。しかし、
国鉄の
財政の
現状では、その使命達成に重大なる支障を来たすことが明らかでありますので、すみやかにその収支の改善に着手する必要がある。そのためには、十年間を再建期といたしまして、逐次収支の均衡をはかる、再建期間の前半には、おおむね償却前の
赤字発生を回避しつつ、その間の輸送力増血や合理化投資の効果等を合わせまして、後半には、ほぼ収支の均衡をはかり、十年目には何とか
経営収支の均衡を得られまして若干の黒字を見るようにする、そういうことを
考えてみたらどうかということで出発したわけであります。
その投資規模は、幾ばくが妥当であるかということでありますが、これはいろいろな角度から検討されたのでございますが、
国鉄の近代化、合理化及び安全対策を含めまして、現在の第三次
計画をやや下回る三兆七千億円ぐらいが適当であろうという
結論になったのでございます。この中には新幹線の工事経費は山陽新幹線の分しか含んでおりません。将来問題となってくるかもしれませんその他の新幹線につきましては、
国鉄財政の
現状ではどうにもなりませんので、
国鉄財政の負担にならないような別途の方法を講ずるほかはないと
考えられるので、今回は一応対象外として
考えたわけでございます。
さて、
国鉄の使命とその投資規模をただいまのように
考えまして、十年間で
財政再建を
考える場合には、これは一般の
企業の場合と同様でございますが、まず、三つの点を
考える必要があると
考えます。
第一は、
国鉄自身の
経営の合理化、すなわち能率化、経費の節減化と増収でございます。これに関しまして徹底的な真剣な当局の
努力が要請せられるわけでございます。
経費の面では、定員規模の問題もございましょうし、ローカル線区に対する自動車輸送への切りかえの問題あるいは小駅の無人化、進んでは整理というような問題もありましょう。また、職員の給与につきましても、物価の情勢と生産性の向上等に見合った適正なものにもっていくというような必要があろうかと
考えるのでございまして、こういう面で当局のきびしい真剣な
企業努力が
国鉄当局にまず要請されると存じます。
収入をふやす面では、特に近代化のおくれている感じのございます貨物輸送の抜本的な合理化、近代化の方策、たとえばフレートライナーでございますが、物資別適合輸送でございますとか、またはドアー・ツー・ドアーの
サービスの確立といったような事柄などいろいろあると思うのでございます。また、
国鉄の
事業範囲につきましても、
国鉄の
事業本来の目的の範囲を逸脱しては困ります。民業の不当な圧迫も困るわけでございますけれども、まだまだ
国鉄当局にくふうの余地があるのではないか、こういったことが
国鉄の
経営努力の問題として強く要請されたわけでございます。
次は、
政府に対しましての要望でありますが、その第一は、適正な総合交通
政策の確立ということでございます。これはなかなかむずかしい問題でございまして、少なくとも各種の輸送機関の公正な
競争が確保され、
交通需要が望ましい輸送分野に流れるように各種分野の交通機関の
経営上の基礎
条件が適正であるかどうか、不適正なものはこれをすみやかに是正していただきたいということであります。たとえば鉄道と自動車の間と鉄道と航空機の間、鉄道と海運との間について、その
経営上の基礎
条件が適正であるよう合理化の配慮が望ましいのでございます。先ほどもちょっと申し上げましたが、
国鉄ローカル線区のあるものの自動車輸送への切りかえ、あるいは新線建設の再検討といったことなども、
政府にぜひ
考えてもらいたい問題でございます。そのほかいわゆる通運体制の問題、鉄道敷設に伴う開発利益の鉄道への還元問題といったようなことが、いろいろ
議論があったわけでございますけれども、これにつきましては、
委員会といたしましては時間の
関係もございまして、問題の指摘にとどめさしていただいたのでございます。
こういう配慮を
政府に要請いたしますと同時に、特に資金調達及び
財政措置に関しましては、次のような提言を行なったのでございます。この提言が、今回の二
法案に
関係があるわけでございます。
第一は、
国鉄資金の長期性と低利回り性にかんがみまして、新規の投資分に対しましては、その利子負担を六分にとどめるよう、また、再建期間一ぱい利子差額を補給してほしいという提言でございます。現在、
昭和五十年までは利子六分五厘との差額をそのまま
国鉄財政再建補助金として出されておりますけれども、これを強化してほしいというのでございます。できれば六分五厘にしてほしいということでございました。
次は、
財政投融資としての借り入れ金でございます。つまり
政府関係機関から出ております借り入れ金でございますが、債務総額二兆円のうち約六千億円の利子を十年間たな上げにしてほしいということでございます。このたな上げの方法につきましては、相手側のほうも、
政府機関とは申しましても、金融
制度でございますので、いろいろな方法があると思います。単なるたな上げはむずかしいと思いますが、その方法につきましては、別に具体的な提言はいたさなかったのでございます。
次には、固定資産税にかわるべきものとして
国鉄から
地方自治体に納付している
納付金を、地方
財政の問題もただいま
池田先生の御指摘のようにいろいろ問題あると思いますけれども、
国鉄の
危機にかんがみまして、若干でも、できれば大幅に軽減して
国鉄の再建を援助していただきたい、こういう希望でございます。
以上の諸点を
政府に要望いたしたのでございます。
最後に
運賃を
考えたのでございます。実は、以上の諸方策だけでは、どうしても破産直前と
考えられております
国鉄の
財政が立ち直らないのでございます。そこで、その分だけはやむを得ず
利用者に御負担願うほかないと
考えるに至ったわけでございます。もちろん大衆の
立場を
考えれば、
運賃値上げは避けることができればそれにこしたことはないのでございますから、何とかならぬものかということで十分いろいろ検討したのでございますが、ほかに方法がございません。まことにやむを得ず提言の決心をした次第でございます。それは取りあえず再建の初期において、
公共負担の是正も含めまして実収一〇%程度の
運賃改定を行なう必要があると提言したのでございますが、一回だけで済みますか、今後も物価や賃金の状況いかんによりましては、弾力的に
措置をしていく必要があるのではないかと予想されておりますけれども、今回は第一回の
運賃値上げだけを提言いたした次第でございます。もちろん、あまり頻繁では困るわけでございます。
私は、もちろん
国鉄運賃の
引き上げが
国民の家計や物価に対して与える
影響を決して軽視するわけではありません。推進
会議でも、この点特に慎重なる
審議が行なわれたのでございますが、
結論として、この程度の
引き上げはまことにやむを得ないのではないかという
結論に落ちついたわけであります。総理府の家計調査によりますと、全国都市家計支出における
国鉄運賃支出の占める割り合いは、
昭和四十一年度におきまして約〇・八九%、また全国勤労者世帯の家計支出におきまする割り合いも大体これと同じでございまして〇・九%、この数字を基礎として一〇%程度の値上げを
考えますと、何とかごしんぼう願えるのではないかというふうに
考えた次第でございます。また、一般物価に対する
影響はもちろん心理的
影響もございましょうし、また、便乗値上げといったようなことも出てくるおそれがありますから、上げないで済めばそれにこしたことはないのはもちろんでございますけれども、計算上は今度の場合は、消費者物価に与える
影響は〇・二%程度であろうということでございます。といたしますと、
国鉄財政の窮迫の
現状、また、冒頭申し上げました
運賃指数の水準等から
考えまして、どうにか甘受していただけるのじゃないかというふうに
考えた次第でございます。
すなわち、
国鉄財政を立て直しまして、この窮迫した
現状を救うのには、
国鉄みずからも、もうほんとうに血みどろになって
努力をする必要がある。
政府も思い切って行政あるいは
財政上の援助もする。それと同時に、
利用者も足らない
ところを負担していただく。結局、三者協力してこれに当たる、これよりほかに方法はあるまいというのが
結論でございます。ただし、これはあくまでも三位一体であるべきでございまして、
国鉄も
政府も
国民も、どれ
一つでもその負担をのがれるようでは成り立たないと思うのでございます。いわゆるえり食いをされては困るというのが推進
会議の
立場でございます。すべて一体の
関係で
措置が行なわれまするように、確実に、そうしてすみやかに行なわれまするように、
政府に対しまして勇断をもって当たられたい。そのためには、総合的に
国鉄財政再建法とでもいうようなものを、臨時立法あるいは緊急立法とでもいうようなものとして、国会に
提出せられたいということを特に強調いたしまして、
政府に強く要望した次第でございます。
その後、
政府の御
措置を見てまいりますと、行政上のことは今後に待つといたしまして、
財政的
措置といたしましては、
国鉄再建補助金は六分の要求が六分五厘になったのはまことに遺憾でございますが、ともかくも再建期間一ぱいまで、これを認められるというような方向のように承っております。また、利子たな上げは、利払い必要額を
財政投融資として貸し付けまして、その利子を
国鉄再建補助金として見るという、いわゆる孫利子方式でございますが、ともかくも実現をいたしております。固定資産税にかわる
納付金の減額もある程度容認されたようでございます。
国鉄の
経営努力は、これを
国鉄が
考えております
ところを基礎として、予算として計上されておるようでございます。そして、ここに
国鉄運賃法の一部
改正法律案及び
日本国有鉄道財政再建促進特別措置法案が
提出されておる次第でございます。
国有鉄道運賃法の一部改正案の内容は、旅客のみ一五%、貨物は上げない。それで全体として、一〇%程度の増収を確保しようとするもののようでございます。また、
旅客運賃につきましては、一等を廃止して、特別な車両利用料金制というようなものにしようというものでございますけれども、これは、他の交通輸送機関との
競争が非常に激しくなっておりますおりから、
国鉄の
競争力を強め、収入を確保する目的から申しますというと、妥当な
考え方ではないかと
考えておりましたので、さきに述べました一般論とあわせてこれに賛成したいと思うのでございます。
また、
日本国有鉄道財政再建促進特別措置法案につきましては、
国鉄財政再建推進会議の提言と多少の相違があるようでございますけれども、大綱としては、同じ目的をねらっておられるようでございますし、また、目的達成上は大した支障もないようでございますから、これも賛成でございます。
国鉄財政窮迫の
現状はまことに見るにしのびないものがございますので、どうか一日も早く再建の途につきますように御指導、御協力を与えられますようお願い申し上げまして、私の公述を終わらせていただきたいと存じます。 (拍手)