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参考人(
樋口健治君) 私、
東京農工大学の工学部の
機械工学科の
教授でございまして、
専門が力学でございまして、それを応用いたしまして、
自動車関係の研究並びに教育をいたしておるものでございます。今回の
欠陥車問題につきまして、私なりに
専門的あるいは技術的な
立場からいろいろと調べてまいりましたので、それにつきまして申し上げたいと思います。
大体大まかに申し上げますと、まず
欠陥車の
現状はどうであるかということ。次に、
自動車の
欠陥というのはどういうふうにしてできてくるかという問題。それから三番目は、これも
専門的立場からでございますが、
欠陥車に対してはどういう
対策をとったらよろしいだろうかという私の
個人的見解でございます。それから、問題は、
欠陥はわれわれの生命あるいは財産の安全につながる問題でございますので、
専門技術者として安全に対してどういうふうな考え方を持っているか、これも私の
個人的意見でございますが、こんな点について申し上げたいと思います。よろしくお願いいたします。
欠陥車の
現状につきましては、ただいままで私
どもにございます手持ちの
資料といたしましては
新聞紙上にすでに
発表されたものだけでございますので、非常に狭いかと思いますが、一応それの範囲で申し上げたいと思います。現在まで
発表になりました分では、
日本の
自動車メーカーから
発表になったのでございますが、
欠陥車の
件数としましては六十九件、それが市場に出ております
台数としましては約三百万台弱と
発表されております。さて、問題はその
欠陥車の
内容でございますが、ただいま
清水参考人から出ましたように、非常に表現に
専門的ことばを使っておりますので、おわかりにくいかと思いまして、私なりにそれを整理してまいりました。まず、
欠陥がどういうところに起っているかということを安全の面から重要な順に申し上げたいと思います。先ほど申し上げました六十九件の
欠陥の
発表があったのでございますが、まず一番大きな問題としまして、
ブレーキ関係。これは
ブレーキが故障しますと、重大な
事故につながるおそれがありますので、われわれとしても一番重点を置くところでございますが、それは二十一件の
発表がございます。次には
ハンドル装置でございます。これも御
承知のとおり、故障しますと重大なことが起こります。
ブレーキに次いで重要ではないかと思いますが、これについては十一件の
資料が見つかりました。それから直接には、安全とはやや離れますが、やはり
エンジン関係で火災その他の
事故が起こっております。これが十五件ございます。次は、
エンジンの
動力を
車輪に伝えて
自動車が走るための
装置関係でございますが、われわれはそれを
動力伝達装置という
ことばを使っておりますが、その
関係では八件ございます。この中には重大な
事故を及ぼすような、たとえば
エンジンと
車輪とをつなぐシャフトが抜けた大
事故がございますが、そういうものと、そうでない非常に軽微なものとがまざっているかと思います。次には
車体関係、これはおもに
車体の
基本的構造と、先ほど
清水参考人が述べられました安全上の
部品の問題と二つ入っておりますが、一応
件数としては六件ございます。そのほか、
自動車は
車輪と
車体との間にスプリングその他の
緩衝装置がございますが、その辺に
ふぐあいがあった。その
件数が八件。以上
合計六十九件でございます。この
資料はあくまで
新聞紙上に
発表された
資料だけでございますので、
信憑性はやや薄いかと思います。
さて、これらの
原因、あるいはなぜこういう
欠陥が出たかということを一部の
メーカーはそれにつけ加えてございますし、一部の
メーカーはまた
対策まで書いてございますが、私なりに
判断をいたしますと、次の五つの
原因が考えられると思います。まず第一番は、
設計が不適当であった。必ずしもミスという
ことばは私
どもは使いません。不適当であった。これにはいろいろなわけがございますが、またあとで機会がありましたら申し述べたいと思います。これが二十七件。これの
対策は、当然
設計変更すればある
程度技術的に可能でございます。その次が、
材質が不良であった。これは激烈なる競争をするために、
コストダウンということの
一つのあらわれかと思いますが、やや価格の安い材料を使ったためと思われるものが大
部分でございます。それが十一件。それから
加工方法が悪かった
——そういう
部品をつくるときに
酸素溶接が悪かったとか、あるいは
焼き入れがまずかった、そのためにこわれた、そういう面でございます。それが十五件。それから、そういう
自動車を組み上げていくときに
コンベアラインの上で工員さん
たちが組み立てますが、その組み立てがよくなかった。これが十六件。以上
合計六十九件でございますが、これも私なりにあまり十分でない
資料から判定いたしましたのですが、おおよその傾向はこれからも言えるのではないかと思います。
ただいま申し上げましたのは
欠陥車の現在までに
発表された状況でございますが、それでは
自動車の
欠陥というのはそもそもどういうものであるか、あるいはどういうふうにして発生するか、一応現在の
原因別には説明いたしましたのでございますが、基本的に
自動車というものがたくさんの
部品から成り立っておって、それを使っていけば自然にある
部分はすり減り、ある
部分は衰損してくる、機能が低下してくるということはいろいろ問題がございます。当然
欠陥には最初からぐあいの悪い
欠陥もございますし、使っていく上に
欠陥を生ずる問題もあるかと思います。それを私は大きく三つに分けてみました。まず一番は、今回出ましたような、たとえば使う
立場の者、われわれ
ユーザーと申しております、あるいは
ドライバーでございますが、そういうものが予期しないで出てきた
欠陥、これは非常に重大だと思います。それからその次は、使っていけば自然と
欠陥が生ずるという
部品がたくさんございます。平たく申しますと、まずタイヤがすり減ってきてパンクする、あるいは
ブレーキ装置がすり減ってくる、いろいろございますが、こういった使ってくるといたんできて
欠陥になる、そのまま手入れをいたしませんと、これは当然
整備という形でもって直していくのだと思います。その次は、使っていく上に特別に、急におかしいという症状ができてこないが、長い間使っているといたんでくる、こういう
部品がたくさんございます。それを定期点検、あるいは
整備するというはっきりとした
基準がとりにくい面もございます。あるものは長持ちし、あるものは早くいたむという面がございます。たとえて申しますと、大まかにゴム製品でございますが、これは使っていく上に目で見てはわかりませんが、中の
材質がいろいろと紫外線あるいはガソリンその他油類の影響を受けまして、いたんでまいります。われわれはそれを劣化、衰えてくるという
ことばを使いますが、そういうために生ずる
欠陥。以上三つあるのじゃないかと思います。今回の
欠陥は、そのうち、使う
立場で、通常使っていく上にいたんでくるもの、あるいは自然と機能が衰えていく、そういう以外の問題であると思っております。以上が
自動車を使っていく際に起こる
欠陥の問題でございます。
それから三番目に申し上げますことは、
欠陥車に対してはどういう
対策をとったらよろしいかという点でございますが、この点につきましては、いささか私の工学部における機械工学の専攻という点から離れておりますが、長年私自身も
自動車関係の
設計、研究あるいは
整備関係、その他教育
関係、いろいろ携わっておりますので、
専門家ではございませんですが、少なくともそれに相当深い関心を持ち、あるいはいろんな
委員会その他へ出ておりますので、一応申し上げてみたいと思います。
まず
欠陥車の
現状というものを詳細に、しかも厳格に
調査していただきたいと思っています。ただ一部の方あるいは特に、まことに申しわけないのでございますが、
専門的立場あるいはごく狭い分野からの
発言だけをお取り入れになりまして、それがすべてであるというふうにお思いにならずに、あらゆる
専門家を招集いたしまして、それぞれ総合的に
調査をしていただきたいと思います。それから二番目は、その
調査の結果、
欠陥ということが間違いなく認められた場合、まず技術者としてこの
欠陥を直すことは技術的に非常にやさしい問題ばかりと言い切れると思います。特に今度起こりました問題で、基本的に解決がむずかしいという点は技術的にはなかったと私は思っております。ただ問題は、それがなぜできないかという点。私の
専門外になりますが、そこには経済的な問題、
ユーザーの教育の問題、いろいろと
問題点が多うございますが、とにかく純技術的に私の
専門の
立場では解決はやさしいということでございます。それからその次は、
自動車人口が急にふえてまいりまして、わが国も世界第二位の生産あるいは保有
台数となってきたわけでございますが、そこで問題は、急激な
自動車関係の成長に対しまして、もちろんつくる側はすばらしく成長したのでございますが、われわれ使うほうの技術的の素養と申しましょうか、教養、これが少し足らない面がある、要するに車を扱いなれておられない方がわりあいにふえてきた。それに対しては
一つは、私
ども大学で教育に携わっておるものですから、そういう
運転者の教育ということも大切かと思いますが、一方、あまり
専門的でなくても使えるような
自動車、安全な
自動車、わりあいに
専門的じゃない人が使っても
事故にならないような
自動車をつくるという責任もわれわれにあるのだと思いますが、そういう意味で使う方が、なれていない方がふえてきたということ。それから二番目は、たくさんできてきまして、車を手入れし、点検し、あるいは
整備する、先ほど
清水参考人から出ましたように、車検その他の問題がございますが、そういう体制が
自動車の
台数の増加に伴っていないような感じがいたします。これは感じという
ことばをあえて使っておりますのは、統計的
資料によっておらないからでございます。それからその次には、特に私の
専門外になりますが、その適用を受けておりますいろいろな法律上の問題、まず一番には
保安基準その他の問題あるいは型式認定、定期
整備あるいは車検、いろいろございますが、そういう問題。それから一方、道交法その他車を運転する上の法律、いろいろございますが、それが
現行では技術のいろいろな発展と、あるいは
自動車台数の増加と少しく傾向が違うのではないか。違うという言い方は、ちょっと誤解を受けるおそれがあるかと思いますが、少し違った方向にいくおそれがあるという感じがいたします。
以上が
欠陥車に対する私の個人的な見解でございます。
それから、最後になりましたのですが、私
ども、あるいは私かもしれませんが、技術者として安全に対してどう考えているかという点でございます。
まず一番目に、人の生命財産というものはあらゆるものに先立つべきものであることは十分
承知しておりますが、そのためには、いろいろと私
ども専門の
立場から
自動車の安全ということにつきましては大いに努力いたしておるというつもりでございますが、残念ながら
現状では、いろいろと安全については十分でない点があるかと思います。しかしながら、一方、安全に対しては極限まで、経済的にある
程度導入いたしますと
安全性は向上するということも常識的であるかと思います。極端な例をあげて恐縮でございますが、たとえば人工衛星に対する乗員の安全という面につきましては、現在考えられるわれわれの頭では最高の技術的のスタッフとあるいは経済をつぎ込んで、しかも長年の研究の積み上げの上に安全装置がいろいろできておるのでございますが、それにしてもやはり
事故が起こり、やはり貴重な人命が失われておるという
現状は、感情的には何とでも申し上げることができますが、われわれ
専門的な
立場で冷静に考えますと、そこに
問題点の発足があるのじゃないかと思います。それでは、
自動車の問題にこれを移しまして、どうなりますかと申しますと、まず値段の高い車、大きな車、じょうぶな車、安全な車、これは安全に対しても相当費用をつぎ込んでおります。衝突しましても乗っておる人がけがをしないように、あるいは歩く人がけがをしないようにいろいろと配慮がなされております。しかしながら、われわれ勤労生活者あるいは
一般の者が使う車は、なかなかそういう車は高価になりますので使えませんので、それでやむなくかもしれませんが、比較的安い車が市場にはたくさん出回り、われわれも使っております。私自身
専門的に安全を研究いたしておりますので、安全という
立場から見ればこういう車は使うべきでないともちろん思っております。しかし、
現実的にそのために出し得る私の経済力の点からおのずから制限がございます。そこで、安全を経済力でカバーするかわりに、私の運転技術なりあるいは経験なりによってできるだけ安全な運転操作をし、あるいは
欠陥問題につきましても、先ほど申しました
部品のいろいろな損耗につきましてもできる限り早目に手当てをし、手入れをして、そして使って、安全な行動をとるということをやっております。もっと極端な例をあげますと、
自動車は最近軽
自動車といって非常に安い価格の車がございますが、これは安全という点でごらんになれば、どなたがごらんになってもわかりますように、非常に足らない点があるかと思います。しかし車の大きさの小さいこと、機動性のよろしいこと、あるいは安いこと、こういう意味でわれわれ大衆にとってはこの上ない便利な交通
機関として、あるいは遊びに使うこともあるかと思いますが、使っております。そういう一面も御検討いただきたいと思っております。
それから一方、今度は純研究者の
立場として、
日本の
自動車技術を向上し、あるいは産業をさらに伸展するために今度は違った
立場の
意見を申し上げますが、現在の激烈ないろいろな産業
関係の競争下にありましては、同じ性能あるいはよりすぐれた性能を出すためにできるだけ安い経費でつくらなければならない。
専門の
皆さま方を前にいたしまして一介の機械技術者がこういうことを申し上げるのは失礼でございますが、そういう意味で品質につきましては適正品質、だれでもいい材料を使って高い費用をかけて安全なものをつくるということは、最初申したとおり技術的には非常に簡単でございますが、そういうものは機能としては十分でございますが、経済的に多少
問題点が生ずる。たとえば、われわれが使うことができないという面でございますが、あるいは
一般産業においても非常に高価な車は実用性がないという意味で、問題はそういう実用性がないという面等を除きまして、安全その他について実際の
事故をたくさん
調査いたしまして、もし
事故がなければ少しでも装置が簡単で、しかも長持ちして故障しないで、しかも安い材料で簡単な
構造というふうに
設計しておるのが、今日われわれ技術者の
立場でございます。
そういう意味で現在の
日本の
自動車というのは、
専門的な
立場から申しますと、いささか欠点も多かったのでございますが、一方、品質的には非常に過剰なものも残されております。具体的に例を申しますと、一台の車を使い始めて使えなくなるまで走る距離が非常に長い、十万キロ、二十万キロも走れるような
部品を相当使っておる。こういう意味では、われわれ
専門的な
立場から、そういうものは過剰品質ということでございまして、いま少し耐用命数が少なくて、
一般ユーザーが新しい車に乗りかえるというなら、もう少し
材質的に、あるいは
設計的に考えて安い経費で同じ性能、あるいはより以上の性能のものができるものがないかということを研究いたしております。
だいぶざっぱくな
意見になりましたが、時間もまいりましたので、終わりはまとまりございませんですが、これで私の
意見を終わります。失礼いたしました。