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浅井委員 私は、公明党を代表して、
政府提案による
昭和四十四年度
一般会計予算、同
特別会計予算及び
政府関係機関予算案に対し、これを撤回し、公明党提出の組みかえ案による予算の編成がえを求める動機について、その趣旨の説明をいたします。詳細につきましてはお手元に配付されております組みかえ案のとおりでございますが、これを要約して申し述べたいと思います。
まず、予算組みかえを要求する理由について申し上げます。
昭和四十四年度のわが国を取り巻く国際
経済の見通しは、かなりきびしいものになると予想されるのであります。四十三年度にわが国が国際収支の黒字を達成することができた要因は、世界貿易が予想外に伸びたことであり、特にアメリカの好況にささえられたものでありました。しかしながら、現在アメリカは景気過熱に加えて、大幅な国際収支の赤字を控えており、当然、ドルの威信を維持するために、インフレ抑制に力を入れるでありましょうし、国際収支の改善につとめるものと思われるのであります。結局アメリカの
経済成長はかなり鈍化すると見なければならず、貿易
政策に敏感に反映することは明らかであります。このことから、世界貿易の伸びは五%程度にとどまるものと予想されているのであります。対米貿易に依存する度合いの大きいわが国に、直ちに影響することは言うまでもありません。またアメリカの対日輸入制限の問題も軽視できない状態であります。
さらに、国際
経済の大きな不安定要因は、国際通貨の動揺であります。ポンド切り下げから一年目に発生したフラン危機は、フランスの厳重な為替管理の実施、ドイツの国境税調整等の措置によって小康状態にありますが、金問題と平価体系の再調整という根本問題が未解決であるため、依然として通貨不安は取り去られていないのであります。そこで、イギリス、フランスにおいて通貨防衛のためにきびしい緊縮措置をとることになるであろうし、そのために輸入制限措置が強化された場合には、当然わが国の輸出も打撃を受けることは明かであります。また、世界各国とも保護貿易の機運が高まっているとともに、高金利が世界的に定着して資本導入に不安が生じ、一方では、発展途上国に対する特恵関税適用によって、これらの諸国と市場の競合するわが国の輸出は、それだけ環境がきびしくなるなど、わが国をめぐる国際
経済はかなりきびしくなるものと予想されているのであります。
振り返って、国内
経済は、すでに景気は過熱ぎみであり、
経済指標はかげり現象を呈しているのであります。その中にあっても、中小企業は相変わらず倒産があとを断たず、
経済の構造的な欠陥をはっきりとあらわしているのであります。消費者物価は継続的に根強い上昇傾向を強めており、四月一日からの国鉄運賃値上げに伴い、便乗値上げを招き、
国民生活への圧迫はさらに強まると予想されているのであります。
このような状態にあっては、当然予算は景気に対して警戒型でなければならないし、最も
国民の
期待する物価安定こそ、すべてに優先されなければならないことは言うまでもございません。
しかるに
政府は、第一に、財政面から景気刺激は避けると称しながら、財政規模は
政府の
経済見通しの名目成長率を大幅に上回っているのであります。のみならず、さらに膨張する予算規模を欺瞞するため、国有財産特殊整理資金等に見られるように、予算規模の操作まで行なっているのであります。さらに、四千九百億円にものぼる実質赤字国債を依然として発行していることから見ても、まぎれもない景気刺激型予算なのでございます。これでは、景気過熱は必至といわざるを得ません。
第二に、
政府は税負担の軽減をはかると
言明しながら、一兆二千億円もの自然増収が見込まれる四十四年度において、わずか千五百億円の減税しか行なおうとしていないのでございます。千五百億円の減税は、三十三年度から四十二年度までの減税割合の平均二二・三%を一〇%も下回っているのであります。物価高と高度成長に取り残されている
国民には、全く納得できない減税としか言いようがないのでございます。
第三に、国債についてでありますが、本年度も国債発行額は四千九百億円と巨額に達しているのであります。
政府は国債依存率を七・二七%に引き下げたと誇示しているのでございますが、四十三年度の実質発行額四千七百億円を上回るもので、決して減額したとはいえないのであります。景気過熱を懸念しながら多額の国債を発行するとは、矛盾もはなはだしいのであります。
第四に、
政府は引き続き総合予算主義の堅持を主張しておるのでありますが、四十三年度補正予算に見られるように、そのずさんな財政運営は
国民の大きな不信を買っているのであります。総合予算主義をたてに、消費者米価の引き上げを行ない、人事院勧告の完全実施を履行しないでおきながら、補正予算を強引に成立させたことから、四十四年度にも同じ行為を繰り返さざるを得ないことは必定であります。
第五に、
政府は物価安定を喧伝しておりますが、その内容は、全く無策としか言いようがございません。なぜかならば、四月一日からの国鉄旅客運賃の一五%の引き上げは、直ちに私鉄運賃等の値上げを誘発し、消費者物価に大きな影響を及ぼすことは必定であります。また、消費者米価も据え置きと
言明はしてはいるものの、生産者米価引き上げから、食管特別会計の赤字防止、そして消費者米価引き上げということも懸念されているのであり、その他電話の基本料金、タクシー料金の値上げ、
医療費の値上げ等を勘案すると、
政府主導型物価上昇となることは避けられず、結局
政府の物価上昇の見込み五彩をはるかに上回ることは明らかであります。
このような予算編成の中で、特に目立つものは防衛費、治安対策費の大幅計上であります。あたかも七十年
安保を控えて、
安保予算といわれるゆえんであります。その反対に、物価対策費、
社会保障費、中小企業対策費等の大衆福祉
関係予算は冷遇されており、
国民不在の予算といわざるを得ないのであります。
このような
国民不在の
政府予算案の撤回を要求し、
国民生活の安定向上を基盤とした、わが国
経済の発展と大衆福祉の実現を目ざすわが党提案の予算組みかえ案に賛成されんことを強く要求するものであります。
次いで、組みかえ案の概要を申し上げます。
まず、歳入につきましては、本年度予算で四千九百億円の国債の発行が予定されております。国債は、これを見合いとして施行される公共事業費が、国債元利償還のメカニズムを持っていないという
意味で、赤字公債にほかならず、またこれが市中消化をたてまえとするといっても、日銀よりの信用供与に依存する市中銀行受けという形式をとる以上、インフレ要因となることは明らかであります。そうでなくても、わが国財政や金融の持つ膨張主義的傾向からすれば、このような公債
政策は旧きわめて危険なのであります。したがって、自然一増収が大幅に見込まれる四十四年度においては、国債発行を二千億円の減額を実施することを主張するものであります。
税制につきましては、今回の
政府案に示された所得税減税は、標準世帯の課税最低限を十万円引き上げ、また累進税率を若干緩和したにとどまり、減税というよりは当然必要な調整にすぎないのであります。このことは、税の軽重の尺度である租税負担率の上昇にもあらわれているのであります。すなわち、減税したにもかかわらず、四十三年度においては一九・三%であった租税負担率は、かえって一九・七%に上昇しているのであります。また税収に占める所得税分が法人税分を抜いてトップになることからも、所得税負担が相対的に重くなることを
意味し、税制が富裕者重課の累進構造ではなく、大衆課税化していることを示すものであります。これらの点から、矛盾多き税制から脱却し、
国民生活の安定のためにも、次のごとく税制の改正を行なうことを主張するものであります。
すなわち、
昭和四十四年度より所得税の課税最低限を標準世帯で百三十万円まで引き上げ、さらに現行の強度の累進税率を緩和し、特に中堅以下の所得者の負担軽減をはかる等の措置を講するべきであります。以上の国債減額と減税の財源は、交際費課税の強化、租税特別措置の合理的改廃、高額所得者に対する強化、
政治献金の課税、そして自然増収、専売納付金等のその他の歳入増加などによって十分確保できるのであります。
次に、歳出の組みかえに関し、増加分について申し上げます。
第一に、
社会保障の充実についてであります。
社会保障の制度のきわめて貧弱な現状では、なすべき対策は文字どおり山積しておるのであります。今回は、そのうち緊急を要するもののみを取り上げることとし、生活保護基準の大幅引き上げと、出産費用の全額公費負担をはかり、さらに児童手当の全面実施を目途とし、当面第二子以下の児童に一人月額千五百円の実施を強く主張するものであります。
第二に、物価対策として、国鉄運賃は据え置き、公共料金の抑制をはかるため、
一般会計から国鉄に対し出資を行なうことを要求するものであります。また、生鮮食料品を安定供給するために、卸売り市場の拡充など流通機構の合理化をはかることを主張するものであります。さらに独占禁止法の厳格なる運用のため、公正取引
委員会の一定員増加を主張するものであります。
第三に、住宅対策につきましては、わが党が主張する
政府施策住宅六割、民間施策住宅四割の住宅五カ年計画に沿って、公営住宅を
政府案の十万八千戸を大幅に上回る十五万戸を建設するよう強く主張するものであります。
第四の公害対策につきましては、公害が人命をむしばんでいる現状にかんがみ、人間尊重という
立場に立ち、公害被害者に対しては十分な補助を行なうとともに、公害発生予想地域を指定し、公害総点検を行なうなど、公害を未然に防ぐ方策をすみやかに樹立することを主張するものであります。
第五に、教育
関係費につきましては、幼児教育から
大学教育までを一そう強化すべきであります。そのため、国立
大学の財政確立のための助成費の増額とあわせ、特に国立及び公立
大学と私学の教育費負担の不均衡是正のため、私学振興費の増加をはかろうとするものであります。
第六の交通対策費につきましては、モータリゼーションにより、年間八十五万人の死傷者、十万人に達する不具者の発生は、文明の必要悪として見のがすことはできない緊急な問題でありますので、早急に人命を第一とした交通対策を実施すべきであることを主張します。
第七、中小企業対策につきましては、
日本経済の発展をささえているものは、不利な条件を克服して営々と
努力を重ねてきた中小企業のじみな貢献にあるといっても過言ではないのであります。中小企業の生産性の向上をはからなければ、今後のわが国の
経済の発展はあり得ないのであります。したがって、中小企業の抜本的な構造改善、近代化をはかるため、中小企業対策費の大幅増加を行なおうとするものであります。
第八には、農林漁業対策費についてであります。農業等低生産性部門の生産性向上は、わが国
経済の生産性格差を是正し、均衡のとれた
経済の発展を遂げるためにも必要なことであることは言うまでもありませんが、従来の
政府の施策は有名無実であって、この欠陥を是正するため、特に農林漁業部門の構造対策に対する予算措置を充実強化しようとするものであります。
第九には、科学技術振興、特に海洋開発費の増額であります。資源の乏しいわが国にとって、海洋資源の開発は絶対に必要であります。画期的な対策を講じなければならないことは当然であります。
第十には、
沖繩援助費の増額であります。
沖繩県民の福祉は踏みにじられている現状から、本土と同一の水準において
国民生活を維持するに必要な財政援助を行なうべきであります。
第十一には、地方行政の強化であります。四十四年度地方からの借れ入り金は、住民の財政需要を犠牲にしたものであり、これを中止するべきであります。
以上による歳出予算の増額に対して、次のように予算減額を行なうものといたします。
まず、防衛庁予算については、人件費、旅費、庁費、被服費、
医療費、食糧費以外の三次防予算を認めず、装備施設等については四十一年度予算の範囲にとどめ、その差額を減額するものといたします。
また補助金は、零細なものについてはこれを整理合理化して五%を減額し、行政の簡素化、合理化による物件費及び人件費は、物件費については一割を減額、人件費については、欠員補充をせず、首切りを行なわないで二%の減額を行ないます。
さらに、大企業優先の国家資金は中小企業に向けるべきであり、産業の投資特別会計への出資は約二分の一を削減することとし、そのほか、予算の効率的使用によって五百億円程度の削減は可能であると
考えるものであります。
なお、公共事業費については、緊急度について科学的測定に基づく選択的投資の上に、綿密な事業計画を作成し、効率的運用をはかり、二千億円を削減することといたします。
また、国債の二千億円の減額に伴い、利子支払いの減少に伴う削減を行なうものであります。
以上が、わが党の組みかえ案の概要でございます。予算
委員の各位におかれましては、わが党の動議に賛成され、
政府案の欠陥是正につとめられるよう強く要望いたしまして、提案趣旨説明を終わります。(拍手)