○松本七郎君 ただいまの
愛知外務大臣の
訪米報告に対して、私は、
日本社会党を代表して、
質問を行なわんとするものであります。(
拍手)
きわめて遺憾ながら、外務大臣の
報告は、国民が最も関心を寄せている政治的核心に触れた
問題点には一言も触れていないお粗末なものであることを指摘しなければなりません。これは、佐藤
内閣の対米交渉の
基本的姿勢からくる当然の帰結であります。よって、私は、
相手国たるアメリカの
基本政策についての客観的な事実に基づいて
問題点を指摘し、これに対する日本
政府の明確な
見解と態度を、本院を通じて国民の前に披瀝されるよう求めるものであります。(
拍手)
第一点。
政府は、一貫して沖繩の早期返還と基地の
重要性とを不可分一体のものとして強調しております。すなわち、安保堅持の上での沖繩返還であり、沖繩を安保体制の中に組み入れようとしているのであります。このように、アメリカの極東戦略を大前提にしている以上、アメリカ側からは、返還の代償として、戦略上必要なもろもろの保障を日本に要求してくるのは当然であります。今回の対米交渉なるものが、実は外交交渉にあらずして、陳情交渉の醜態をさらしたのはそのためであります。(
拍手)
日本国民は、この点に大きな疑惑と不安を抱いています。佐藤
総理としては、今後もこの
基本姿勢をくずさない方針なのかどうか、第一に明らかにしていただきたいのであります。
もともと沖繩は、日本個有の領土であるばかりでなく、
わが国の国連加盟と同時に、沖繩占有の国際法上の根拠は失われている。(
拍手)すなわち、サンフランシスコ平和
条約第三条の信託統治条項は無効となり、さらに
日本国憲法及び国連憲章に違反し、世界人権宣言、さらには植民地廃止宣言への違反であることは明瞭であります。(
拍手)したがって、日本としては、当然の
権利として、即時無条件全面返還を要求すべき性質のものであります。(
拍手)沖繩県民の圧倒的多数が、屋良主席当選を通じて、このことの正しさを立証し、また本年一月の朝日新聞全国
調査によりますならば、本土国民の過半数もこれを支持していることが明らかにされています。(
拍手)戦略上どう取り扱うかということは、無条件返還後の時点において、日本独自の立場と判断によって、右するか左するかをきめるべきものであります。この姿勢こそが、独立国としての民族的
基本権に基づく外交の姿ではないでしょうか。
日本国民のこのような要望にこたえ、いま一度、
政府は根本的に再
検討すべき時期だと思うが、首相の
所信を伺いたいのであります。
いやしくも、人口百万を擁する国土が異民族によって支配されている例が、世界じゅうのどこにあるでしょうか、あれば、その実例を外務大臣から示してもらいたい。
このように、
政府の
基本姿勢がそもそも誤っているために、陳情交渉が進めば進むほど、最初の勢いとは反対に、続々とぼろが出てきて、苦境に追い込まれたのであります。外務大臣渡米前の大げさな前ぶれに続いて、ニクソン大統領と会って予想以上の成果などとうちょうてんの感激にひたったのもつかの間、ロジャーズ国務長官その他との会談を重ねるにつれて、米国からもろもろの戦略上の保障を要求されるに至り、意気は上がらず、帰国するや、全く意気消沈した外相の姿を、首相はどう評価されるのでしょうか。(
拍手)よかったよかったと宣伝ばかりは声を大にして誇張されているが、
内容的には、一体何がよかったのか、外務大臣の具体的な、明確な答弁を求めます。(
拍手)
保利官房長官は、十一月に決着する約束でもできたかのごとく吹聴しておりまするが、実際はニクソン大統領が、十一月の佐藤訪米をめどに、もっと煮詰めよう、結論を得るように努力をしようという程度のことしか言っていないのではないか。しかも、その煮詰められる
内容として予想されるものが、これまた従来
政府が宣伝につとめてきた核抜き、本土並みとはおよそ無縁にして危険きわまりない、核を含む自由使用で、本土の沖繩化に通ずるものになろうとしているのであります。日本の外務省は早く手回しもよく、従来使ってきた核抜き、本土並みという表現をやめて、今後は本土、沖繩を通じて日米安保
条約の全面適用、事前協議は本土、沖繩とも同様に使うが、弾力的運用でイエスもあればノーもある、こういう
説明に切りかえることに意思統一をしたといわれております。国民が疑惑と不安を深めるのは当然ではないでしょうか。
政府は、今回の外相渡米の機会に、非核三原則を本土、沖繩を通じてあくまで貫徹するとの決意を大統領に対し明確に示したのかどうか、外相から明らかにされたいのであります。
B52の撤去さえなし得ず、国政参加もまだ実現できずにいる佐藤
政府の手で、非核三原則の貫徹などとてもできまいとの不信感が国民の間に広がっているのが現状であります。(
拍手)
政府は、ほんとうにその決意があるならば、その裏づけとして、権威と迫力をつけるためにも、
国会において、非核武装宣言をするのが当然な
措置であり、国民の疑惑と不信を一掃する最良の道とも思われるのでありまするが、この際、これに賛同する意思がありやいなや。また、事前協議は弾力的運用でイエスもノーもあるといいまするが、核の持ち込みについては、イエスの返事は絶対にないとの確約ができるのかどうか、この点、佐藤首相から明確な答弁をお願いしたいのであります。これが
質問の第三点であります。
第四点。外相渡米前の否定にもかかわらず、日米経済
関係が相当の話題になったことも見のがすわけにはいきません。これもやはり対米交渉の
基本姿勢の誤りのために、沖繩返還の取引に使われるのではないかとの
日本国民の憂慮が、決して杞憂ではないことを物語っております。七月下旬に予定されている日米貿易経済合同
委員会における佐藤・ロジャーズ会談で、この問題を煮詰めようということになったようでございまするが、
政府の言うように、経済
関係を沖繩とはからませないという保証がどこにあるのでしょうか。あるのならば、具体的根拠を外務大臣から示してほしい。
沖繩返還についても日米経済
関係についても、ともに詰めに入る時期が一致しているという点からしましても、
政府のことばどおりに、からませない方針を貫徹するには、ここでもまた民族の
基本的
権利として、沖繩の無条件返還を要求するという強い態度がなければだめではないのか。極東戦略を前提にしながら、返していただくといった姿勢である限りは、お返しの代償として、経済問題が取引に使われるのはあまりにも見えすいていると思うがどうか。
総理の
見解を聞きたい点でございます。
誤りの第五は、日本側の
意見や希望や手のうちは全部さらけ出して、米国に聞きおかれ、十一月までには煮詰める努力をしようと軽く受け答えされたにとどまっておりながら、肝心の米国側の
基本的
考え方や態度については、何ら
日本国民に明らかにされていない点であります。(
拍手)
一体、ニクソン大統領のこれまでの言動に照らし、また、今回の会談を通じて、沖繩問題をめぐる米国側の
基本的態度をどのように日本
政府は理解しておるのでしょうか。国民に明らかにする義務があります。
われわれの
調査による客観的事実から重視すべき点は、アメリカの要求の根底に一貫して流れているものであります。それは、日本をアジアにおける反共のとりでとして、安全保障体制の指導的存在にしようとしている点にあります。これはいまに始まったことではなく、サンフランシスコ
会議におけるトルーマン大統領の演説以来一貫しており、政治的、経済的役割りだけでなく、軍事的な役割りも要求していることは明らかであります。ニクソンが昨年の大統領選挙に際して内外に公約した政策を集めまして、共和党選挙本部が昨年十月二十九日に公表いたしました白書、すなわち、「重要問題に関するニクソン
発言」によりますならば、この点がきわめてはっきりと浮き彫りにされてくるのであります。
その中の日本に関する項目で、ニクソンは次のように言明しております。「日本では、依然として、軍事的な準備に関しては、
政府当局の認識よりも世論のほうがおくれている。日本は注意深く、慎重に指導者としての役割りを拡大してきた。その過程で、日本は常にあまり激しく、そして熱心に指導的役割りを求めると、大東亜共栄圏というかつての苦い思い出がよみがえるのではないかということをきわめて強く気にしてきた。しかし、十年前、あるいは五年前に不可能であったことが、現在では可能になりつつある。現在アジアに住んでいる人々の半分は、第二次世界大戦後に生まれた人たちであり、この新しい世代は、征服することについての古い罪の意識も恐怖心も持っていない。」このようにニクソンはぬけぬけと聞き捨てならぬことを公言し、彼の持論であるところの、アジア人の犠牲において極東戦略を推し進め、日本にアメリカの肩がわりをさせる方針が随所に露骨に表明されているのであります。そのあとでニクソンは、沖繩問題について次のように結論づけています。「
長期的に見れば、米国の政策は沖繩を日本に返還すべきだということであるべきだと私は
考えている。日本の参加なしにはわれわれはアジアに真の集団安全保障を実現することはできないということをわれわれが認識することがきわめて重要だと私は思う。……
長期的に見れば、自由で強力な日本から得られる日本とアジアの利益は、太平洋における自由で強力な米国の利益でもある。したがって、日本が指導者としての役割りを果たすときが来れば、沖繩は必ず返還できると私は
考えている。」ニクソンはこう結んでいます。佐藤首相の率直な
見解が聞きたい点でございます。
自由で強力な指導者などとおだてられていい気になっていようものなら、再び日本は過去の誤りを繰り返す岐路に、いま立たされているのです。(
拍手)この点を、
総理は厳正にえりを正して反省すべきであります。人口の半分は第二次大戦のあとに生まれた人だから古い罪の意識がいまや消えている、だから過去の罪を再び犯し得る基盤が現在はすでにできている、その条件を生かして指導者になれ、そうして、日本が極東戦略上の役割りを果たし得る資格を備えたと認められれば沖繩を返そう、これがアメリカの一貫した立場であります。これを否定する根拠があるなら、佐藤
総理から、納得のいく
説明をいただきたいのであります。
第六点。これを要するに、アメリカの一貫した対日要請は、日本が軍備を増強し、アジアの反共防壁として、沖繩、本土は言うに及ばず、アジア全域にわたってアメリカの肩がわりをして、いわゆる軍事力による安全保障の共同責任を果たすことにあるからこそ、今次の会談においても、外務大臣に対して極東情勢を説き、中国の核脅威を叫び、これに対する日本の防衛努力を強く要請した次第でありましょう。外務大臣が、ニクソンとの会談では、抽象的な外交辞令に気をよくしながら、その後の会談でたちまちしゅんとなったのは、これらの具体的要求がいかにきびしいものであったかを物語っているようであります。佐藤
内閣の姿勢が、この要請を受け入れる方向に向かっていることは、一昨年の共同声明ですでに示されております。これは
政府の言う安保の自動継続にあらずして、かってな拡大であり、アジア安保へのエスカレートである。
これと関連して注目すべきは、ASPACの動向であります。
政府や外務大臣は、口をきわめて、ASPACがアジア諸国の仲よしクラブだと宣伝しておりますが、その底流は、決してそのような甘いものではない。現にニクソン大統領は、フォーリン・アフェアーズの論文におきまして、次のように述べております。「ASPACは現在、文化や経済問題を主にしているが、中国の脅威に気づけば、この
地域の安全保障の同盟に発展させることが可能である」と言明しております。この
考え方が、今度のロジャーズ国務長官の記者会見でも、「日本がアジアの安全保障に果たす役割りを期待する」との
発言で表明されているのであります。しかも、韓国の崔外相の、表面慎重なポーズをとりながらも、裏面では沖繩基地の完全確保を要請するなどの活発な動きを見るならば、アジア安保との関連で、国民の不安がつのるのは当然ではないでしょうか。社会主義諸国を除いたアジア仲よしクラブにつながりを持つこと自体が問題なのであります。
いまや、国民は重大な選択を迫られています。佐藤
内閣のアジア安保に
賛成するのか反対か、この選択であります。安保、沖繩についての自民党から共産党まで五つの政策方針のうちから、一つを選択するということではない。佐藤
内閣のごまかしの自動延長、アジア安保へのすりかえ、韓国、台湾など、極東のいわゆる自由
地域の防衛の責任を肩がわりする方向に対して、イエスかノーかを迫られているのであります。(
拍手)現に、韓国や台湾
政府は、沖繩は決して単なる日米間の問題ではないと主張しています。極東戦略に協力せんとする佐藤
政府の立場からすれば、当然これらの主張に同調するほかないと思うが、どうでしょう。
また、訪米にあたってのポジションペーパーには、自衛隊増強、安保体制堅持、対外援助等が含まれているといわれておりまするが、真相はどうか。もしこれを否定するのであれば、ポジションペーペーを
国会に
提出すべきであります。首相の責任ある答弁を要求します。
以上指摘しましたような、これから歩もうとしておる道は、日本がアメリカの下請帝国主義に進む道であり、日本が、中国のみならず、アジア諸民族の反帝国主義、反植民地主義、民族解放の勢力と対立する道であります。断じて進んではならない道であります。このような民族の運命にかかわる重大な選択を迫られている国民に対して、何らの
説明も相談もなしに、外相が安保自動延長の意思表示を米国に対して行なった事実は、主権者無視の越権行為であるといわなければなりません。(
拍手)しかも、外務大臣の先ほどの釈明によりますならば、正式な
提案ではないという。一自民党内の多数
意見を、外務大臣として
外国に
発言するということは、明らかに職務権限を逸脱した行為として、責任を糾弾さるべきであります。(
拍手)