○渡部一郎君 私は、公明党を
代表いたしまして、
日本海の最近の
情勢に関するただいまの
外務大臣の報告に関連し、
総理並びに
関係大臣に
質問を行なうものであります。どうか
国民と語る
姿勢で、落ちついて御回答を賜わりたいと存じます。(
拍手)
十五日の米海軍
偵察機EC121
撃墜事件に関して、
米国政府は十九日になって、大統領から
護衛つき偵察飛行の再開という
対応措置を
発表し、今後、同様
事態が
発生した場合には、無
警告報復を行なうと威嚇し、さらに、
日本海に空母四隻をはじめとする二十三隻の
艦艇よりなる第七十一特別機動艦隊を編成、投入してきたのであります。続々と北上、
対馬海峡を遊よくする米艦隊に対し、ほぼ同数の
ソ連艦隊の
日本海集結も伝えられ、いまやベトナムの戦火は
日本海に燃え上がろうとしております。
北鮮側は、二十四日、
警告声明を
発表し、強硬
姿勢をとり、
日本国民としては、もはや黙っているわけにはいかないのであります。このまま推移していくならば、一機の
偵察機の
撃墜に端を発して
朝鮮戦争が再発し、アジアにおける第二のベトナム
戦争へと発展する危険性はあまりにも濃厚だからであります。このような一触即発という最悪の
事態にありながら、
佐藤総理をはじめとする
政府・自民党は、国家の運命を忘れたかのごとく、いたずらに
米国一辺倒の言動にくみして平和
努力を怠っている
態度を、われわれはとうてい理解することができないのであります。(
拍手)
すなわち、あの
戦争の惨禍の反省の上に築かれた
日本国憲法の前文において、「われらは、全
世界の國民が、ひとしく恐怖と缺乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」とうたっているのでありますが、これこそ、まさに
日本外交の本質であり、
国民の総意であらねばならないのであります。
米軍の
行動のみを支持し、一方的に
北鮮側を
非難する
政府・自民党は、一方的に
北鮮を支援し、アメリカを
非難する
立場と同じことであり、まさに平和憲法の精神に逆行するものといわざるを得ないのであります。自主性を忘れた対米追随
姿勢をあらためてここで強く
非難し、かつ反省を求めたいと思うのであります。
次に、
外務大臣をはじめ官房長官等は、
米軍偵察機の
撃墜が
公海上において行なわれたという
米国側情報をそのまま支持しているようでありますが、なぜこのような愚かな
態度をおとりになったのか、確固たる根拠をこの際伺いたいと存じます。
過去の例を取り上げるまでもなく、国境紛争においては、いずれが先に
侵犯したかは常に不明確であって、いずれもが正当性を主張するのが常であります。したがって、軽々にいずれか一方のみの言い分を過信することは決して適当でないばかりでなく、場合によっては、平和国
日本をきわめて危険な
立場に招き込むことも銘記すべきであります。近くは中ソ国境問題にしても、また、ベトナム北爆のきっかけとなったトンキン湾
事件についても、その後
米国議会においては、アメリカ軍自身の仕組んだお芝居であったのではないかと大問題になったのであります。アメリカの議会においてさえ慎重に、と言っているのに、
日本政府が軽率にも、
米国政府の公式
発表だからといって、いち早くそれをうのみにして信ずるのはどういうわけなのでありましょうか。一体、ほんとうの事実
関係はどうであったのか。それが明らかにできない以上、
日本国民の前に弁明し、
日本国の中立性を回復せられたいと存ずるのであります。(
拍手)
ニクソン大統領の言明によれば、
北鮮への
偵察は合計百九十回にのぼっていたそうでありますが、このような
領空侵犯の危険度の高い
偵察を百九十回も行なうことはとうてい理解しがたいと、ニューヨーク・タイムズやワシントン・デイリー・ニューズも首をかしげているところであります。いわば過剰
偵察と言うしかないのであります。
総理は、こうした
行動が
日本にとって大きな脅威となると考えるかどうか伺いたい。
また、
総理は、先ほどから、
レーダーに映ったと何回も弁明されておるようでありますが、
撃墜機には三十分も前から
北鮮機が追尾しており、そのことはアメリカ側の
レーダーサイトで確認されていたというにもかかわらず、
米側は指揮官不在で三十分も放置していたという
報道があります。この事実が確実ならば
領空侵犯と言われてもやむを得ないと考えますが、この点どう認識されておるか。また、
北鮮との間に
戦争状態が起こることを公然黙認していたという
報道すらありますが、この点はどうか、伺いたいと存じます。
次に、
政府は、
米軍の
偵察行動は
日本の安全に必要なものだと考えているようでありますが、
朝鮮民主主義人民共和国と
米国との
関係は、休戦状態にあるとはいえ、
戦争状態に準ずるほど極度に悪化しているのであります。したがって、
わが国政府は、
戦争挑発行動を厳に慎むよう、
関係国、特に
米国に
警告してしかるべきであります。しかも、
米軍偵察機が
日本の厚木
基地から発進している以上、厳重
抗議するのは当然ではないかと存じます。さらに、
事件後、
米国は
護衛機つきの
偵察行動を続行すると言っておりますが、これはすでに
偵察行動をはるかに逸脱した
戦争予備
行動というしかありません。このような
米国の力を背景とした
行動は直ちに中止するように申し入れることが
日本国民の利益にかない、
世界平和を進める道であると考えますが、いかがでありましょうか。(
拍手)
また、
愛知外務大臣は、
偵察行動は
日米安保条約に基づく
行動であって、もし、かりに
米国が行なわないとしたら、
わが国みずからが行なうべきであると、勇ましくも
演説されたのでありますが、
総理も同意かどうか伺いたい。同意であるならば、
わが国みずからが、
朝鮮ばかりでなく、
ソ連、
中共の
沿岸まで出かけて
偵察行動を行なうべきものであるとお考えなのかどうか、伺いたい。そして、このような形で
海外派兵さえもなしくずしに強行されるおつもりなのかどうか、伺いたいのであります。
次に、今回の
事件の発端であるところの
米軍機による
偵察行動そのものの考え方であります。
政府・自民党の考え方は、先ほどからたびたび申しましたように、
日本の安全を守るためのものである、
日本にとって必要なものである、こう言われております。お人よしもいいかげんにしていただきたい。
米国は、
日本の安全のためにと最近一言でも言ったことがあったかどうか。去る十八日、ニクソン米大統領は
記者会見において、「
日本海上空での
偵察行動は、五万六千人の
米軍が
韓国に駐留しており、
北朝鮮からの脅威に対してこれを守るという最高司令官の責任がある以上、
米国にとって必要である」と述べておるのでありまして、この中には、
日本の安全を守るなどとはただの一言一句も言っていないではありませんか。はっきりと、
韓国に駐留している五万六千の
米軍を守るためと言い切っているのであります。
日本の安全などは
ニクソン大統領の脳裏にあったかどうか、疑わざるを得ない。たとえ百歩譲っても、
日本の安全などは第二、第三、第四の考慮であったというしか言いようがないではありませんか。(
拍手)いまこそ、このような対米追随政策の根本的再検討が必要であると信ずるのであります。
次に、
佐藤総理はきのうの参議院本
会議で、先ほどもまた野党の
質問に答えまして、第七十一特別機動艦隊は大きな
戦争抑止力であると申されましたが、これは一体いかなる意味でありましょうか。
佐藤総理は、
日本海に
機動部隊を導入することで、ほんとうに
戦争を抑止することができると思っていらっしゃるのでしょうか。これはむしろ
挑発行為そのものではありませんか。その考え方は、
日本を核
武装し、軍事的大国家とし、アメリカの
日本駐留軍を強大ならしめることによって
戦争抑止ができると考えていることに通ずると思うのでありますが、どう考えるのでありましょうか。
世界各国は、軍事的均衡より軍備の縮小が平和をもたらすゆえんである、こう考えて、軍縮に対して大きな熱意を示しておるにもかかわらず、
佐藤総理のみは、軍事的エスカレーションが
戦争抑止になると考えていらっしゃるとすれば、時代に逆行した考え方であるというしかないのでありますが、その点はどうお考えになっているか、伺いたいと存ずるのであります。
昨年わが党が
発表した
在日米軍基地総点検に刺激され、約五十
基地の返還検討
基地が
発表されましたが、その後、具体的に名ざしで数
基地の返還提案がなされておるわけであります。アメリカ側のこのような提案について、
政府はどのように対処されているか、御説明を願いたい。さらに言うなれば、現在の
状況にかんがみ、
米国の提案を待つなどという消極的な
姿勢を改め、
在日米軍基地の撤去をすみやかに
米国政府に申し入れるべきであると考えますが、
総理のお考えを伺いたいと存じます。
次に、
日本側は、常にアメリカ軍がこのように危険な
威力偵察を実施していたことを知っておられたかどうか。また
日米安保体制の中に直接組み込まれておる
自衛隊の最高責任者として、特に
防衛庁長官は
米軍偵察機の
行動をよく知っておられたかどうか、伺いたい。もし知っていないとしたら、それは怠慢というしかない。
日本の安全を守るためには、
米軍がどのような危険な
行動をとっているかを知ることもなくして、
対策もできなければ政策もできないのであります。
米軍の
行動については詳細に
連絡を受け、かつこれをチェックすることは、
日本の安全を守る上においてきわめて重かつ大であると信ずるのであります。もしも、かりによく知らされていたとしたら、
防衛庁長官は、このような
米軍の
偵察行動と、それに伴う危険な
事態発生をすでに黙認し、許容したと言われてもやむを得ない。この点について、
総理、
外務大臣、
防衛庁長官は特にしっかり返事をしていただきたい。
さらに、航空
自衛隊、海上
自衛隊等は、本
事件発生以来アラート
体制に入っているといわれていますが、
米軍とどのような分担役割りになっているか、特に明確に御
答弁を願いたいと思うのであります。(
拍手)
また、
安保条約の事前協議の問題でありますが、
外務大臣は、二十二日の参議院外務委員会において、また先ほどにおいても、一機動艦隊の寄港の場合は事前協議の対象にならないと答えられた。本拠地を
日本の港湾に置くのでなければ配置の変更にならないし、事前協議の対象でもないとするならば、事実上、
日本の各港湾は自由にアメリカの海軍
艦艇に開放されたと同じではありませんか。本拠地を
日本に置くような艦隊の必要性はほとんど考えられない。その上、一機動艦隊全部が入港してくることなど考えられないわけであります。また、
総理は、米艦隊の反復寄港も事前協議の対象外と言われた。もはや安保第六条によって規定された事前協議は、アメリカ側の拡大解釈と、それに迎合する
日本政府によってすっかり踏みにじられ、これを
日本側によってチェックする何の歯どめも、
法律解釈も、
条約もないのであります。この点、一体どう考えておられるのか。
また、このような対米迎合の
姿勢というものが、最近の沖繩返還交渉の前提としてアメリカが
日本に要求してきたものなのか、または、
日本政府がアメリカ側に示すところの媚態なのか、しかと伺いたい。
日本国民の一人として、私は、このような危険な取引、危険な
態度というものに深い憂いを表明せざるを得ないのであります。
しかも、今回の
事件によって、
米国が
極東の
安全保障のため沖繩の
基地は一そう重要だと
判断した場合は、
総理はどう説明をされるのか。われわれのようにアジアの
緊張緩和の
努力を傾けてこそ、沖繩
基地の持つ相対的重要性を低下せしめることができるのであります。しかるに
総理は、力の対決に加担し、アメリカの一方的な支持に直ちに加わること自体、沖繩返還をおくらせることになると思いますが、この点はどうお考えであるかを伺いたいのであります。
次に、二十三日の
報道によれば、
米国務省は、二十一日駐米
日本大使館に対し非公式に、
北朝鮮沿岸の
偵察飛行を護衛する
戦闘機が
在日米軍基地から発進することはあり得る、また、事前協議の対象にならないという
条約上の解釈を伝えてきたそうでありますが、
政府はこのような通報を受けた事実があるかどうか、また、その有無にかかわらず、これについてどう考えておられるか、
見解を承りたい。
最後に、当面の問題であります
日本海における漁船の安全操業に関し伺いたいと存じます。
御
承知のように、
日本海は
米国艦隊とそれを監視する
ソ連艦隊の存在によって、漁民は危険におびえて操業もできない状態に追い込まれております。特に、第七十一特別機動艦隊の遊よくする対馬
海域は、まき網、底びき漁船が三千五百そうも出漁するところであり、漁民の不安は想像以上のものと存じます。しかも、この状態は長期化することも考えられますが、漁民の生活に与える影響は深刻であります。この
海域の漁業操業状態はどうなっておるか、農林省としては、漁民の声を
代表して、各
関係方面に対して強い申し入れを行なう気があるのかどうか、また、操業できないことに対する補償はどうするつもりか、また、
政府が強力に支持している
米軍の
行動が
原因となって、このような満足な収穫も得られない状態になっておるとするならば、損害に対する補償はどうするか、それは
日本政府の責任においてなされるのか、それとも、アメリカ側の責任において補償すべきものかどうか、伺いたい。また、当面、漁民の安全操業を確保することが最大の急務でありますが、これに対して海上保安庁の警備保障
体制は一体どうなっておるのか、特に運輸大臣に伺いたい。
また、第七十一特別機動艦隊の
行動について、今後どのような
行動をとると予測せられているか。
日本国民の不安を静めるためにも、この際説明をしていただきたいと思うのであります。
以上をもって
質問といたします。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕