○武藤山治君 私は、
日本社会党を代表して、中小企業の動向に関する
年次報告、いわゆる中小企業白書に関し
質疑をいたし、佐藤内閣の方針を伺うものであります。
第一に、中小企業省設置について伺います。
佐藤内閣は、貿易資本の自由化政策を進め、関税一括引き下げ
措置を決定し、明年度には開発途上国に対し特恵関税を
実施する約束をいたしました。これらの開放経済体制に対処するためと称し、大企業の合併機運は高まり、
政府はそれを支援する方策をとっております。数の少ない大企業に対する
政府施策は容易であり、目に見えて多いのであります。だが、中小企業はこれから先一体どうなるのか、
政府の指導方針はどんなものか、中小企業は不満と不安を抱いているのであります。
白書は、中小企業の業種別、規模別の実情を正確に把握しておりません。中小企業と一口にいわれるが、事業数が四百二十三万余あり、そのうち、個人営業が三百三十八万、法人企業八十四万余となっており、小規模の個人営業数が圧倒的に多いのであります。これらの零細な小規模企業は、国の方針として今後どうするのか。経済合理性や競争原理の完全導入で解決できるものではないのであります。また白書は、中小企業の
実態を
説明するのに、法人企業統計年報や統計季報及び
生産動態統計の数字を用いているが、これらの統計には個人営業が含まれていないし、零細法人も含まれていない統計数字が多いのであります。したがって、白書の
実態説明は、現実を正確に反映しているとはいえないのであり、中小企業の今後の指針を導き出す正しいカルテとしては採用しがたい点が多いのであります。
明年度からは、できるだけ業種別、規模別の
実態調査を行ない、現状に
基づいた統計数字を基礎にすべきであります。再検討する必要があると思うが、大臣の見解はいかがでしょう。さらに、中小企業政策が通産
行政の中に埋没しないために、中小企業専門の中小企業省を設置し、国際化時代に対応し得る体制にすべきときが来たと思うが、中小企業省設置について総理大臣の方針を伺いたい。
〔
議長退席、副
議長着席〕
第二に、アメリカの輸入制限、保護貿易の動きと特恵関税についてであります。
ニクソン政権誕生と同時に、輸入制限の動きが活発化しているようであります。紡毛及び梳毛の織物、化繊合繊の織物、毛織と衣服及びこれらの織物の加工品を対象にしているようだが、
政府が入手している情報ではどんなものか。鉄鋼の場合、現在自主規制を行なっておりますが、アメリカでは、最近ハートケ氏が
法案を提案し、鉄鋼輸入に対する法的輸入制限を主張しているようであります。これではアメリカを信用できないではありませんか。日本の化繊業界が、
政府間交渉に
賛成できないと主張する気持ちは、この鉄鋼の例から見て、協定を結んでも意味がないという不安があるからにほかなりません。佐藤内閣は、このようなアメリカの身がってな動きに対し、現在までどんな手を打ってきたか、業界交渉にまかせようとしているのか、
政府間協定が望ましいと考えているのか、総理大臣に明らかにしていただきたい。
アメリカは、ドル防衛、国際収支
改善のためと称し、輸出リベート
制度や輸入担保金
制度を
実施し、自由貿易に逆行する
措置をとっております。ざらに、これを合法化するため、ガットの場で輸入制限禁止の例外
規定を
改正しようと提案する模様でありますが、まことに身がってなアメリカの態度といわなければなりません。この態度に対し、日本
政府はいかなる態度をもって臨むか、お聞かせを願いたい。これが合法化されると、世界貿易や日本の輸出にどんな影響が起こるか、外務大臣、通産大臣に伺います。
佐藤内閣は、三月十日、特恵関税の
実施案をOECDに送ったようだが、特恵関税は明年度から
実施されると見通しておられるのかどうか。その適用について、日本の資本が進出して
生産をしている国々も含まれるのかどうか。現在、香港に設立されている日本の会社は二十三社、台湾が五社、今後進出し増大が予想される韓国、インドネシアなども特恵対象国になるのか。これらの国から輸入される商品、これらの国と競争する先進国への輸出競争等を考えると、中小企業に相当の影響が起こると思うが、その見通しはいかがでしょう。
第三に、中小企業のビジョンと倒産対策について伺います。
中小企業の上位層は、重工業部門の好調を反映して、
価格の下落や資金繰りの窮迫化といった事態は見られなかった。しかし、繊維、食料品等の軽工業分野では過剰
生産、競争激化などで
生産の伸びは停滞し、加えて、金融引き締めの影響はひどく、借り入れ難の増大や取引条件の悪化が目立った年だと白書も述べております。零細小規模事業では、この傾向は一そう激しいものがあったのであります。
生産性の
向上、技術開発、重化学工業への転換を力説している
政府は、はたして適切な方策を具体的に講じているであろうか。四十四年度の予算を見ると、一般会計予算でわずか四百三十億円、前年比四十億八千二百万円の増にすぎません。これで中小企業がどの程度
近代化や構造
改善ができると思っているのか。金融の面でも、中小企業金融
政府系三機関の資金は、前年比八百三十五億円の増にすぎない。先進国型中小企業に成長させるための予算としては、あまりにもお粗末、僅少の額であります。
政府の考える中小企業政策の本質は一体何か。この際、重化学工業、軽工業、流通産業のそれぞれについて、総理大臣から政策のビジョンを示してほしい。
中小企業が不安定であることは、年間三万五千余の法人企業が消滅する事実を見ても明らかであります。昨年一カ年の倒産数は前年より二〇%増加し、ついに一万七百七十六件に達し、戦後最高を記録した。金融引き締め、大企業の進出による圧迫、資金力の弱さ、過当競争などが原因と思われるが、白書はこれらに対処する方針を明らかにしていない。大企業の下請代金支払いについても、繊維の場合九十日、機械、金属の百二十日の手形期限が守られておりません。約半分が長期違反手形であります。この違反手形に対する処置も、適切になされていないのではありませんか。昨年の倒産原因を調べると、販売不振が第一位で三千八百三十件、続いて売り掛け回収難一千七百二十一件となり、経営者の放漫で倒産するものは減少をしております。
政府の施策のしわ寄せで倒れる企業が増加していることを物語っておるのであります。これらの倒産
現象に対し、自由経済は弱肉強食、無
計画生産を本質としているので防止できないというのか、資本主義では景気循環は避けられないから、しかたないというのか、需給調節能力がないから、どうにもならないとでも考えているのか、今後は、行き詰まりそうな企業の手形に対する
政府の救済機関をつくるとか、何か新しい方策を樹立し、中小企業を守る必要があると思うが、
政府の見解はどらか。
第四に、中小企業金融についてお尋ねをいたします。
先月、公正取引
委員会が
報告をした拘束預金の
実態によれば、拘束性預金が前回調査の四十二年よりも増加している。また、預金額に対応する
部分の貸し付け金利は引き下げることになっているはずだが、今回の調査では、何ら引き下げ
措置を講じていないものが三七・九%に達しております。これでは、不公正な取引が是正されていないことになります。金融機関の誠意は見られないではありませんか。前よりむしろ悪くなったと答えた企業が前回の二倍に達し、前回より
改善されたと答えた数も一〇・九%も減少したのであります。拘束性預金を金融機関が解消しようとしていないことを物語っております。われわれは再三要求を続け、中小企業金融の姿勢を正してまいりましたが、またまた方針がゆるんできたのではないかと疑わざるを得ません。福田
大蔵大臣はどう理解しているか、拘束性預金解消のため、第三ラウンドの
措置をとるべきと思うが、大臣の所見を承りたい。
国民金融公庫、中小企業金融公庫の金融は、拘束性預金や歩積み・両建てがなく、小規模企業が最も喜ぶ融資であります。しかし、その資金量が少ないため、業者の需要を満たすことができない状況にあります。融資申し込みに対する充足率は、
国民公庫で、四十一年度六六・七%、四十二年度六九・八%であり、十件のうち三件は融資を受けられなかったことになる。中小公庫においても、四十一年度は六六・九%、四十二年度は七九・六%の充足率であって、低利長期の資金を必要とする者にとっては、まことに不十分と感ずるわけであります。中小企業全体の融資額十九兆二百九十五億円のうち、
政府関係三機関融資比率はわずか九・一%であり、過去五年間この水準は同一であります。この比率をこの際大きく
引き上げる必要があると思います。資本自由化、貿易自由化、特恵関税などが、中小企業の体質脱皮を、好むと好まざるとにかかわらず要求しているのであるから、それに呼応した金融政策が緊急事であると思います。この際、思い切った三機関の資金増をはかられたい。
大蔵大臣の
答弁を求めます。
第五に、税制についてお尋ねをいたします。
中小企業の資本装備率は低く、
近代化はおくれており、
わが国には同族会社と呼ばれる法人が七十四万二千あり、課税
所得にして一兆七千八百三十億円に達するのであります。同族法人とは、株主に親戚一族が多く、その株主に同族三人で五〇%の株保有、四人の場合、六〇%以上の株保有をしておる法人のことであります。これらの法人に対しては、大法人に適用しない留保金課税を法人税以外に賦課し、同一
所得に二重課税をしておるのであります。その金額は、
所得額にして一千二百十億円に達するのであります。なぜ、かかる二重課税をするかという理由について、国税庁の
説明によれば、同族法人では、株主の待遇をよくするために賞与や配当を出すと、株主個人の
所得が多くなり、個人
所得税が累進課税で高くなるから、これをのがれるために、賞与や配当を出さず、会社の利益を必要以上に社内に留保する傾向があるからだと国税庁は
説明をしておるのであります。これでは
近代化や構造
改善のための資金の積み立て、すなわち、社内留保を制限することになり、小規模企業を圧迫することであります。何たる時代逆行の税制であるか。さらに、大法人との間に差別を設け、憲法の定める法のもとの平等の精神にも反することだ。
大蔵大臣に善処を要求し、見解を承りたいのであります。
税制の問題で、中小企業に差別をしている問題の一つに、さらに、同族会社の役員賞与は損金に認めないというのがあります。とうちゃん社長、かあちゃん専務、じいちゃん監査役という小規模法人では、社長も専務も従業員同様に働いているのであります。それを
政府は、役員賞与とは、企業経営に寄与した業績に対する株主の謝礼だと定義し、巨大資本の会社と同族会社の社長とを同一視している。何たる悪平等か。通産大臣はどう思うか。法人税法第三十五条は、小規模法人については適用を除外せよ。
大蔵大臣の
答弁を求めます。(
拍手)
最後に、今回の
改正案で、商工中金が設定する抵当権登記の登録税が千分の四から千分の一に減税されますが、県単位に設立されている県の信用保証協会、この保証協会が抵当権を設定する場合にも、当然免税
措置をとってしかるべきであると思うが、
大蔵大臣、通産大臣の見解はいかがであるか、明らかにしていただきたい。
以上、私の受け持ちの時間が終わりましたので、簡単でありますが、
政府の見解を求めて、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕