○渡辺惣蔵君 私は、ただいま
趣旨説明のありました
石炭鉱業合理化臨時措置法の一部を
改正する
法律案、及び
石炭鉱業再建臨時措置法の一部を
改正する
法律案に対して、
日本社会党を代表して
質疑を行なうものであります。
政府は、昨年末に第四次答申を受け、その新石炭政策に基づいて、四十四
年度の石炭予算として八百八十四億円を組み、二月十八日の閣議決定によって
関係法案の
提出を決定されました。ところが、この新政策によれば、この
法律の適用を受けて閉山特別交付金をもらって閉山しようとする会社は、三月三十一日までに届け出をすることになっておりますので、
法案の通過を予期し、その適用を受けてばく大な閉山交付金をもらい、石炭業界から全面的に撤退しようとする会社が続出し、特に明治鉱業、麻生産業、杵島炭鉱などが新制度による
企業ぐるみ閉山を打ち出したことによって、大きな波紋と混乱を巻き起こしておるのであります。
すなわち、この新制度によれば、四十四
年度において三百八十万トン前後にわたって閉山する計画になっておりますので、大手はもちろんのこと、中小炭鉱にも大きな連鎖反応を起こし、撤退、閉山のなだれ現象を引き起こしつつあるのであります。明治、麻生、杵島は、
日本の石炭鉱業発祥以来、石炭界に君臨して主役を演じてきた有力
企業であることは、周知のとおりであります。それだけに、大きな社会的、経済的影響があり、各界の強い関心がここに集中され、
政府並びに石炭
企業に対して鋭い批判と責任の究明が行なわれるのは当然のことであると信ずるのであります。(
拍手)
私は、石炭産業の抜本的な再建をはかるには、まず第一に体制問題を解決しなければならないと信ずるものであります。わが党が石炭国有化
法案、及び石炭公社
法案を
提出しているゆえんであります。
石炭鉱業審議会といえども、第四次答申にあたりまして、前後八カ月にわたる長期審議の
日程の大
部分は、体制と経理の問題に集中されてきたのであります。しかるに、いわゆる植村構想として提案された体制的解決の方向も、その審議の途中において、通産省、大蔵省の圧力でつぶされて、
内容は第三次答申の補充のみにとどまってしまったのであります。この審議会の体制問題ぶっつぶしの原動力をなすものは、私
企業の
原則という、石炭会社のエゴによるたてまえ論であります。
日本の経済組織は資本主義経済であるから、私
企業の
原則を守らなければならないという観念論が横行し、圧倒したからであります。しかし、今日の石炭産業が、かつてないほどの危機段階にありながら、大小の石炭会社は百五十余を数えており、鉱区は分断され、錯綜し、石炭の銘柄は数百に及び、九州の石炭が東京へ、北海道の石炭が大阪へと、販売市場をかって気ままに横行しているのであります。この石炭産業の無
政府的な
企業エゴイズムこそ、自由主義の典型であり、石炭産業をみずからの手でむしばみ、食い散らかして、今日の破滅を導いた原因であります。これを規制し、これに計画性を導入し、統一をして、新しい秩序を打ち立てることこそが、
国民経済的立場からも、国の当然の責任でなければならないと信ずるのであります。(
拍手)
この根本問題に手をつけないで、一方では、一産業としては類例を見ないような膨大な財政投資を行ない、二十に近い
法律を制定し、経理を規制し、政策需要を確保し、安定補給金など、数々の国のささえの上に石炭産業の安定をはかろうとすることは、まさに、内臓疾患の患者に頭痛の薬を施そうとするやぶ医者の処方せんにひとしいのであります。いまや石炭
企業は、従来の私
企業としての存在の基盤を完全に失っているのであります。だからこそ、その反発のあらわれとして、石炭産業に対する秩序と統一を要求する声が、石炭業界自身の中からさえ打ち出されて、北炭の萩原会長による全国一社案、あるいは舟橋北海道鉱業会長の三社案、もしくは国有民営論が、
国会の参考人として、公然として主張され、三井鉱山でさえ、仮称石炭公団というような、体制問題に対して意見を出さざるを得ないことになってきておるのであります。いわゆる石炭産業の体制
整備の問題は、岸信介流にいえば、いまや天の声となっておるのであります。
政府・自民党は、この体制問題に対して目をおおうとしていますが、このことを逃避して、石炭産業の安定と展望を切り開くことは絶対にできないことを自覚すべきであります。
佐藤内閣総理大臣は、石炭問題の体制的解決として、その展望において国有化・公社化案、全国一社案、三社案、そのいずれの方向においてこの問題を解決しようとするのか。総理大臣並びに通産大臣の所信を明らかにしていただきたいのであります。(
拍手)
政府は過去の第三次答申のおかした誤りを反省することなく、前回と全く同じようなその場限りの政策で糊塗して、再び一千億円という膨大な
国民の
税金、血税をもって金融
機関の救済をはかろうとしておるのであります。本来、石炭会社の金融債務に対して、財政資金をもって国がこれを肩がわりしようとする
趣旨は、多額の負債を背負い、担保をとられたり、金利の重圧に苦しんでいる会社の重荷を軽くさせて、今後の銀行融資をしやすくさせ、円滑化させることによって、石炭会社の経営を安定させることにあったはずであります。しかるに、負債を回収した銀行のほとんどが、予期に反して窓口を閉ざしてしまったので、石炭
企業はかえって金融難におちいってしまいました。結果は、石炭産業の建て直しではなくて、金融
機関の債権回収の片棒をかつぎ、銀行をもうけさせ、喜ばしただけに終わって、この方策は完全に失敗に終わってしまっておるのであります。(
拍手)今回の
企業ぐるみ閉山の渦中にある某石炭会社の金融債は約八十五億円といわれておりますが、この金融債のうち約五十億円は開発銀行であり、残りが市中銀行であるといわれております。とすると、財政資金をもって
政府関係資金の回収をはかろうとするからくりではないのかと疑わざるを得ないのであります。
このような状況の中で、このたびの第四次答申に基づく本
法案の実施は、はたして
政府が主張するような最終的な
措置になるという確信があるのか、ほんとうに石炭産業の再建と
整備のきめ手となり、役立つと確信しているのか。それとも、石炭
企業が石炭産業から撤退をはかろうとするのに、
政府はそのしり馬に乗って、その手助けをしようとしておるのではないかという
国民の大きな疑問に対して、総理大臣、
大蔵大臣、通産大臣の明確なる見解を承りたいと思うのであります。
次に、私は、
企業ぐるみ閉山を行なおうとする処置について、具体的に明治鉱業の例によって質問をいたします。
明治鉱業は、かつて十五山の炭鉱でありましたが、今日では九州三山、北海道二山、計五山によって構成され、会社は上がり山三山を分離して、炭量の豊富な他の二山——北海道の
昭和、本岐の両炭鉱を閉山することによって、
企業ぐるみ閉山として処置することをすでに
労働者側に提示しておるのであります。しかし、この二山は、現地札幌通産局による北大の磯部教授を団長とする調査団の
報告によっても、経済炭量も向こう十カ年採掘できるほど豊富であり、
国民経済の立場から、一定の条件が満たされれば経営的にも技術的にもその存続が可能であることが立証されているのであります。しかるに通産省当局は、明治鉱業の
企業ぐるみ閉山を支援するために、この貴重な調査資料の公表を拒否し続けて、この問題の真相究明を故意に妨げていることは、はなはだしく不可解な態度であるといわなければなりません。(
拍手)
また、この炭鉱は、
企業ぐるみ閉山ではなくて、単位炭鉱の閉山をすれば、
労働者の退職金に限ってはほぼ一〇〇%保証されまするのに、
企業ぐるみ閉山をすれば七五%しか退職金は保証されないということになり、本
法案は、
矛盾に満ちておるのであります。このことは明治鉱業のみならず、明治
昭和鉱に隣接する太刀別炭鉱の場合といえども同様であります。特に明治鉱業の場合は、過去二度も閉山にあいながら、九州から北海道に渡り、今日まで炭鉱に踏みとどまっている
労働者も多数いるのであります。いままでの閉山の場合は、退職金一〇〇%プラスアルファの支給を受けて炭鉱を離れておりますのに、
企業ぐるみの閉山の場合は、退職金は七五%しか保証されないというのでは、山の
労働者は断じて承服せず、閉山に同意しないのは、当然過ぎるほど当然のことであると思います。(
拍手)
これらの
矛盾を解決するためには、
労働者に対する退職金は一〇〇%支給を保証する
措置を講ずべきであります。特に
企業ぐるみ閉山に対しては、単に会社の一方的申請によるのみでなく、
政府は調査団を派遣して、地域経済、関連
企業等の
関係を十分調査して、納得させる方策を示すべきであり、当然また札幌通産局の磯部調査団の
報告書の公表を要求というものであります。この点について、総理大臣、通産大臣、労働大臣の見解を明らかにしていただきたいと思います。
北海道における石炭産業は、九州地方に見るような、平原にあり、道路、交通が
整備され、国鉄を直ちに利用し得るような立地条件に乏しく、多くは山間の奥地に存在しておりますので、運輸交通手段に対する依存度はきわめて多いので、炭鉱
関係の専用路線ともいうべき私鉄が九社を数えております。すなわち、石炭
企業の傍系会社が六社、直営が二社、一社だけが単独経営であります。これらの私鉄は、炭鉱が閉山、縮小することによって、直ちにその命脈を断たれてしまう運命に置かれております。私鉄が運休、廃業する場合は、閉山後の地域の住民はもとより、沿線の住民は完全に孤立してしまい、農業経営も通勤も通学も、
生活物資に至るまで、全く不可能になってしまいます。私鉄それ自身の経営責任によるものではなくて、石炭
企業の犠牲となって崩壊する私鉄
企業並びに私鉄
労働者に対する補償は、国が石炭
企業と同様に配慮して処置することは当然のことであると信ずるのであります。(
拍手)
すなわち、
政府は、鉄道事業の公益性にかんがみて、万一私鉄の運行停止の場合には、それにかわるバスその他の運輸交通手段を配備すること、その保証が確立されるまでは、私鉄の運行を行なわしめ、これに対して運輸省が、国の責任において適切なる助成
措置を講ずべきであります。また、私鉄の退職
労働者に対しては、炭鉱の
労働者の場合と同様に、炭鉱離職者
臨時措置法を全面的に適用せしめるべきであると考えますが、運輸大臣、通産大臣、労働大臣の所信を明らかにしていただきたいのであります。
石炭
企業の崩壊と撤退によって最大の被害をこうむるのは産炭地域であります。北九州地方各地に続発する鉱害は、その最も具体的な例であります。炭鉱地帯に定着する低
所得者、失業者、
生活保護者の激増、住民福祉の破壊、中小
企業の倒産、地域経済の混乱など、数え切れないほどの社会問題が勃発いたします。これらの問題は、ただでさえ赤字財政に悩み抜く市町村に背負わされ、財政破綻に瀕していることは、すでに全国の
関係市町村がきびしく体験し、実証されているところであります。特に、今般のような無責任な、しかも、急激な
企業ぐるみ閉山による打撃は、
関係市町村に対して破滅的な打撃を与えますので、緊急、特別の
措置を強く要求するものであります。
この石炭のなだれ閉山が最も極点に達する時期は四月から六月にかけてであります。四月から六月、この時期は児童、生徒の入学、通学の時期でありまして、教育計画が根本的に破壊されてしまいます。
一つの例ですが、沼田町では、昨年十一月に雨竜炭鉱が閉山し、続いていままた
昭和、太刀別と三山が一挙に消滅してしまいますと、小学校二、中学校二の四つの学校が同時に閉鎖、廃校の危機に立たされておるのであります。これらによって生ずる各種の問題と対策を含めて、自治大臣並びに文部大臣の見解を承りたいのであります。
最後に、炭鉱
労働者に関する問題について質問いたします。
山に働く
労働者たちは、戦後二十余年にわたって幾たびかの首切り、合理化のあらしをくぐりながら生き抜いてきたのであります。かつては二十八万余の
労働者が、いまではわずかに三分の一、九万人に減ってしまい、その平均年齢は四十歳を上回る高齢者となり、しかも生産能率は、かつての一人当たり十四・二トンから四十二・二トンと、三倍にはね上がっております。炭鉱がいかに合理化され、
労働者がいかにきびしい重労働のもとにあるかを率直に示すものであります。このままで推移いたしますと、石炭
企業は労務倒産に追い込まれて、石炭政策は根底から崩壊するおそれに迫られておるのであります。
私は、そのために、地下産業にふさわしい労働条件の確保と
生活環境の改善及び
労働者の雇用形態を根本的に改革して、おのおのの
企業から脱却して、石炭産業全体としての雇用体制を確立することが最も肝要であると確信するのであります。
また、炭鉱保安の現状は、私が述べるまでもなく、頻発する災害は、その死亡率においてヨーロッパ諸国の十倍の高率を示して、
昭和三十一年の合理化以来、実に六千六百七十九人の殉職者を出しているのであります。
私は、この際、炭鉱の保安確保のために、
労働者側の保安監督員制度を確立して、災害絶滅のために
労働者の積極的参加の方途を講ずべきであると信じます。
以上申し述べました二
法案をめぐる諸問題について、総理大臣、通産大臣、労働大臣の明快にして誠意ある答弁を求めて、私の質問を終わる次第であります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕