○
広瀬秀吉君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま
趣旨説明のありました
所得税法の一部を
改正する
法律案について、
総理大臣及び
大蔵大臣に質問をいたし、その所信をたださんとするものであります。
まず最初に、
総理にお尋ねいたしたいのであります。
四十三年度、昨年度は、
財政硬直の
一大キャンペーンのもとに、
所得減税は一千五十億、一方、酒、たばこ、
物品税の増税千五十億であり、まさに
減税ゼロ、
所得減税をすら受けられない低
所得層に対しては、
実質増税であったことを想起していただきたいのであります。しかも、
消費者物価一%上昇につき必要とされる
物価調整減税は七十億といわれますから、五・二%の
物価上昇によって三百五十四億は確実に増税になったと見られるのであります。
しかるに、
昭和四十四年度
予算編成においては、今年度当初あれほど喧伝されました
財政硬直化については、ほとんどその声が聞かれなかったのであります。
財政硬直化はもはや終わったのであります。
しかも、四十四年度予算は、すでに有識者から指摘されているように、
景気警戒型ないし中立型ではなく、
インフレ促進的積極施策型予算ないしは
軍備促進、
治安増強、
海外援助に重点を置いた
選挙対策、七〇年に向けての大
資本優先に編成をされました。これは
自然増収という名の
増税見込み一兆二千億円、うち四九%は
所得税の増収でありますが、この数字にささえられたものと思われます。したがって、長い重税に苦しみ抜き、しかも、
昭和四十三年度における
実質増税にあえいできました
納税大衆は、これだけ巨額の
自然増収がある以上、四十三年度の過酷な増税への埋め合わせを含めて、今回こそ実のある
大幅減税をしてくれるであろう、こういう大きな期待を持ったのであります。この国民の切実なる願いと期待は、もののみごとに裏切られたのであります。
今次
所得税制改正の基礎となった昨年七月の
税調答申が尊重されるならば、
課税最低限引き上げで千二百億、
税率緩和で千六百億、合わせて二千八百億程度の
減税を待ち望んでおったのであります。にもかかわらず、今回提案されている
減税は、
自然増収に対し一二・五%、千五百三億円にすぎません。かつて税調が答申をいたしました
自然増収の二〇%ぐらいは毎年
減税することが望ましいとした数字からも隔たることまことに遠い、お粗末な
減税規模でしかないのであります。
総理、いかがお考えでありますか。
四十四年度
予算策定において、減債か
減税かの激しい論議の末、
減債方針に軍配があがって
減税が犠牲にされた、このように評されるのもむべなるかなと思うのであります。減債千五百億円によって
国債発行は四千九百億、
依存度は七・二%に押えることができましたが、これが
景気抑制の意味をどれだけ持ちますか。おそらく減債千五百億円は、今日の
国債引き受け方式から申しましても、
市中銀行の
余裕金となり、かえって大
企業中心の
民間設備投資に向けて貸し出され、その
刺激要因となることは確実であります。
減税分を増額すれば景気に拍車をかけるとの論をなす者もありますが、今日まで相次ぐ
インフレ、
物価値上げの中で、
生計費を切り詰め、貯蓄を減らしてきた
国民大衆は、
減税分はささやかな家計の
改善と不時の災害に備えての貯蓄に向かうでありましょう。国民総支出における
個人消費支出五二・四%、これは
先進国から見て著しく低いことが、総生産では世界第二位だ、国民一人
当たり所得、そして
生活水準では第二十位だという、その数字の裏づけになっているのであります。
経済高度成長政策は
個人消費支出の
引き上げ、
生活向上をもたらすことにその主眼を置くべきだと言えるのではないでしょうか。
大蔵大臣は、
自然増収見込み額に対して上回った数字が出た場合には、これを減債に回すと言明しております。
総理は、このような場合、年度途中においても
減税を行なうよう、
大蔵大臣に指示される気はございませんか。
次に、
総理にお伺いいたしたいのは、
法人税と
所得税の関係についてであります。
税制調査会は、その答申において、
所得税については、
納税者個々の
所得水準や蓄積の低さにもかかわらず、いわゆる
中小所得者層にかなりの重い
税負担を求めている、特に
給与所得者は
捕捉率が高く、負担が過重であるといっております。一方、
法人税については、
国際的水準に比べても、
個人所得の
負担水準から見ても、相対的に高い水準ではない、
法人税負担にはなお余裕があるということを認めておるのであります。
ちなみに、この十年間を通じ、
所得税の伸びが
実質所得の伸びの二・四、五倍になっているのに対し、法人の場合は、三十五年度に比較いたしまして、四十二年度で総資産、資本は三倍に、
桂内留保は三・二八倍に、
配当金は二・八四倍と伸びているのに対し、
法人税はわずかに二・一倍にしかなっていないのであります。
このような状況を念頭に置き、かつ法人、特に
法人数において一・二%にしかならないそういう数字の大会社が、総
所得の六四・四%を占める、こういう一億円以上の大法人は、
租税特別措置による
減税額、国税、
地方税で四千二百億と推定されておりますが、そのうち七割の恩恵をこれらが受けておるのであります。こういうことを考え合わせますると、大法人にはなお十二分な
税負担能力があるものと思います。
総理及び
大蔵大臣は、これらに着目をいたしまして、
法人擬制説から脱却をし、法人独自の
税負担を求めること、このことこそが社会、経済の実態に即して税の公平を回復するものであることを認識し、法人に対して
法人利潤税導入など能力に応じた
納税強化を行なうとともに、
租税特別措置の勇気ある改廃を行ない、そして、これを財源として
所得税減税を大幅に行なうことが必要であると思いますが、所信を承りたいのであります。(拍手)
次に、
課税最低限についてお伺いいたします。
今次
改正案によりますれば、
標準世帯が四十四年度で九十一万五百十八円、
独身者で三十二万五千四百八十六円であります。戦前、
昭和十一年ごろの
給与所得者の
課税最低限は、今日に引き直して比較をいたしてみますると、
平均所得の一・八倍程度の高いところに
課税最低標準があったのであります。それに引きかえ、
昭和四十年度一人
当たり給与所得は、
大蔵省提出の資料によれば九十万六千円であるのに対し、
課税最低限は九十一万という数字であります。この点から考えましても、戦前に比して
課税最低限が低く押えられて、
課税が今日広範な低
所得者層にも及んで、その
最低生活費に食い込んでいたことが明らかになるのであります。
総理並びに
大蔵大臣は、
昭和四十五年度には
課税最低限を百万円以上にするとしばしば国会で公約されているのでありますが、戦前、
昭和十一年当時、八十七万人の
所得税納税者に対し、今日は二千百六十四万に及ぶ
納税者数を数えているという、その革命的な変化が、
課税最低限を低く押えてきたことによるものであるとは思いませんか。今日、
理論生計費を基礎に算定すれば、五人家族で百七十万円以上の
生計費を要するということを考え合わせる場合、
最低生活費に
課税せず、蓄積と
ゆとりのある家計をという見地に立って、少なくとも四十四年度百二十万円程度に
引き上げるべきであると思うのでありますが、お考えを承りたいのであります。
今日、
高卒者の
初任給にいたしましても、月額二万五千円以上になっております。これを、ボーナス三カ月分として十五カ月で計算をしてみますと、三十七万五千円になります。
課税最低限を少なくとも四、五万こえるわけであります。就職して、とたんに、まだ
未成年者が
所得税を取られるという事態になるのであります。
さらに、この点に関し
大蔵大臣に所見を伺いたいのは、
大蔵省の統計によっても、
給与所得者の
家族構成は、
世帯主を含めて三・八九人であります。
夫婦子供三人を
標準世帯としている今日のやり方は、現実の姿を反映しておりません。したがって、現実と遠い五人世帯を
標準世帯とする方式を、四人世帯に改めることが必要であろうと思いますが、その点について、いかがでございましょうか。(拍手)
次に
大蔵大臣に伺いたい点は、税率についてであります。
今次
改正案によりますると、現行十万以下の
最低税率九・五%を三十万以下一〇%に引き下げるとともに、現行の五%刻みの
累進税率を、七百万以下の各段階について、その刻みを四%に引き下げたのであります。このことは、今次
改正案がいわゆる
部課長減税といわれるゆえんであり、
中堅所得者の
減税をはかる最大の点でありました。しかしながら、この点について考えまするに、
所得税制の最も原理的な
応能負担、
公平負担、
所得再配分の原則の立場に立てば、
課税標準所得二百万円くらいまでは二%刻み、三百万円くらいまでは三%刻みにするというくらいの、きめこまかな
税率改正をなすべきであったと思いますが、なぜ一率に四%刻みにしたのか、その理由を明らかにしていただきたいのであります。(拍手)
おそらく財源が足りなかったと答弁されるでありましょうが、財源が足りなければ足りないように、税調の答申のごとく、百五十万円までの四段階は二%刻み、三百万円まではその三段階について三%の刻みにするという、そういうものを実現させて、残余のものについては
明年度に持ち越すくらいの配慮があってしかるべきであったと思いますが、いかがでありますか。このような態度があってこそ、
国民大衆の切実な願いにこたえた
税制改正と言えるのではないでしょうか。
次に、
課税単位の
あり方の問題について、
大蔵大臣及び
総理に質問をいたします。
所得税の
課税単位については、
所得をかせぎ得る
個人ごとに
担税力を見出す方法と
消費生活を同じくする
単位ごとに
課税する
考え方とがあることは、御承知のとおりであります。そこで伺いたいのでありますが、すでにアメリカや西ドイツにおいて実施されている夫婦間の
所得分割法がとれないかどうかであります。これは、いわゆる二分二乗方式といわれるものであります。今回の
税制改正は、
基礎控除、
配偶者控除各一万円、
扶養控除二万円
引き上げ、税率の一部緩和が中心であります。さらに、
給与所得控除の
定率分の
引き上げ、
限度額の
引き上げ等でありますが、このような方式による
減税は、いまや限界に達しつつあると思います。真に蓄積と
ゆとりのある家計の実現を目ざす
財政政策の中で
減税を考えるとするならば、やはり
抜本的減税方式を考える時期に来ているのだと思います。その観点から、
夫婦所得に対して二分二乗方式が採用されてしかるべきときと存じます。共かせぎの夫婦ないしは内職する妻の場合等においてはもちろん、
家事労働に従事し、子供の教育、夫をして安んじて職場において精一ぱい活動していくことができるようにするための妻の内助の功、働きというものを正しく評価すべきであります。
現行配偶者控除は、
独身者に与えられる
基礎控除十七万と同額にするという現行の方式は、妻の一家の
所得に対する
貢献度を正しく評価しておりません。かりに妻のかわりに、いわゆるお手伝いさん、
家政婦を雇っても、月額二万五千円以上は支払わなければならない現状から見ても、まことに不当であります。このような見地に立って、
配偶者控除の思い切った
引き上げを断行するか、いわゆる二分二乗方式による
課税方式を採用する必要があると思うのでありますが、
総理及び
大蔵大臣の所信を明確にお聞きいたしたいのであります。(拍手)
もし、
佐藤総理にして、公平な
税制確立について、
抜本的方式としてこの方式を採用する英断を行なうならば、少なくとも千数百万の
納税者の
妻たちは、
佐藤総理こそ希代の名宰相として、大きなかっさいを与えるであろうことは疑いをいれません。
次にお尋ねをしたい点は、
給与所得に対する
源泉徴収の
制度についてであります。
この
制度は、
昭和十五年、
戦争財政の必要に基づいてつくられた
制度であり、
民主憲法のもとにそのまま引き継がれ、今日に至っているのでありまして、今日違憲の疑いがあり、現に
同志社大学大島教授から
違憲訴訟が提起されておる重要問題であります。すなわち、
給与所得者は、
源泉徴収制度によって、他の
所得者に比して著しく不利な取り扱いを受けているのであります。本来、法の前に平等であるべき国民のうち、
給与所得者だけが、これあるがゆえに他に認められている
自主申告の権利を奪われ、一〇〇%税金を
先取りされ、
給与所得を得るための
必要経費の主張すら否定されているのであります。今日俗に言うクロヨンあるいは
トーゴサンということは、
給与所得者、
事業所得者、
農業所得者に対する
課税捕捉率の状況を端的に表現するものでありまして、裏返せば、サラリーマンの憤りと恨みつらみの象徴であります。
インフレ、
物価値上げの
高度経済成長政策の中で、有無を言わさず
源泉徴収されている
給与所得税の重さこそ、
勤労大衆に耐えがたい
重税感を与える最大の
問題点であります。
総理大臣、
大蔵大臣、この
人権無視、
憲法違反の疑いの濃い
源泉徴収制度を
自主申告制に改める意思がありますか、所信をお伺いいたします。(拍手)
もし、二千二百万に近い
給与所得納税者に一々
自主申告制を認めることは
徴税事務上困難である、これをやめることはできないと説明されるならば、あなた方は、
給与所得者には他の
所得者に対する以上に有利な
必要経費控除が
給与所得控除の中で考慮されていることを数字をもって説明すべきであります。これはできないでありましょう。他の
所得者は、いずれも翌年三月十五日の
申告期限までに申告納税すればよいのに、
ひとり給与所得者だけが毎月税金の
先取りをされているのであります。
総理並びに
大蔵大臣、このような不公平に対して、
税金先取り分の
利子補てん、
徴税費節約分などを考慮して、とりあえずの
措置として、現在の諸控除のほかに、たとえば
源泉徴収特別控除を、仮称でありますが、新設し、不当な
給与所得者の重税を緩和し、税の公平を期するお考えはございませんか。
さらに、
給与所得控除を、
定額分、
定率分の思い切った
引き上げを行なうべきであると思いますが、いかがでございますか。
源泉徴収制度について、少なくとも
給与所得に対しても、
概算控除の
現行制度と
必要経費を
自主申告によって認める
制度の導入、いわば
選択制度を採用すべきであると思いますが、いかがでございますか。これはすでに西ドイツにおいて実施せられておるのであります。この
制度導入を、勇断をもって実施せられることこそ、従来の惰性による
税制改正のからを破って、真に国民の切実な期待にこたえるゆえんであると信ずるのであります。
最後に、私は、次の一文を呈して私の質問を終わりたいと思います。それは、税金酷書を発表した総評、社長や部課長を構成員とするサラリーマン・ユニオン、全国サラリーマン同盟の各代表者による共同討議の末、まとめられた共同宣言の一節であります。
全国二千七百万人のサラリーマンは、有無をいわせず取立てられる重い税金に泣いている。サラリーマンは、その苦しさを訴えるすべを知らず、運動を起す組織を持たず、ただひつじのように従順に税金を納め続けてきた。しかし、いまこそわれわれサラリーマンの立上がるときが来た。「これ以上、不当な税金の手カセ足カセに甘んじることはできない。日本の中堅たるわれわれサラリーマンの声を、政治に反映させよう」と重い腰を上げたのである。
総理、
大蔵大臣、このように
給与所得者は、いまきゅう然として
減税の要求を掲げて立ち上がっておるのであります。これはかつて見られなかったことであります。長い長い酷税の中で苦しんだサラリーマンの血の出るような叫びであります。
この声に謙虚に耳を傾け、
給与所得を中心に
大幅減税を断行されるよう明確な答弁を求めて、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣
総理大臣佐藤榮作君登壇〕