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1969-07-04 第61回国会 衆議院 法務委員会 第26号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十四年七月四日(金曜日)     午前十時三十三分開議  出席委員    委員長 高橋 英吉君    理事 大村 襄治君 理事 鍛冶 良作君    理事 進藤 一馬君 理事 田中伊三次君    理事 永田 亮一君 理事 中谷 鉄也君    理事 畑   和君       植木庚子郎君    中馬 辰猪君       中尾 栄一君    藤枝 泉介君       猪俣 浩三君    神近 市子君       黒田 寿男君    山内  広君       岡沢 完治君    山田 太郎君       松本 善明君  出席国務大臣         国 務 大 臣         (国家公安委員         会委員長)   荒木萬壽夫君  出席政府委員         内閣法制局第一         部長      真田 秀夫君         警察庁刑事局長 内海  倫君         法務政務次官  小澤 太郎君         法務大臣官房長 辻 辰三郎君         法務省民事局長 新谷 正夫君         法務省人権擁護         局長      上田 明信君         公安調査庁次長 内田 達夫君         厚生省社会局長 今村  譲君         自治省行政局選         挙部長     皆川 迪夫君  委員外出席者         警察庁刑事局保         安課長     小野島嗣男君         警察庁警備局参         事官      後藤 信義君         法務省刑事局刑         事課長     石原 一彦君         法務省刑事局公         安課長     豊島英次郎君         厚生省医務局医         事課長     黒木  延君         厚生省児童家庭         局障害福祉課長 今泉 昭雄君         建設省住宅局住         宅建設課長   上野  洋君         日本国有鉄道公         安本部長    木村 善隆君         参  考  人         (日本放送協会         専務理事)   川上 行藏君         専  門  員 福山 忠義君     ――――――――――――― 七月三日  委員松野幸泰辞任につき、その補欠として早  川崇君が議長指名委員に選任された。 同日  委員早川崇辞任につき、その補欠として松野  幸泰君が議長指名委員に選任された。 同月四日  委員山口シヅエ君及び西村榮一辞任につき、  その補欠として中尾栄一君及び岡沢完治君が議  長の指名委員に選任された。 同日  委員中尾栄一君及び岡沢完治辞任につき、そ  の補欠として山口シヅエ君及び西村榮一君が議  長の指名委員に選任された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  法務行政に関する件  検察行政に関する件  人権擁護に関する件      ――――◇―――――
  2. 高橋英吉

    高橋委員長 これより会議を開きます。  この際、参考人出頭要求に関する件についておはかりいたします。  ただいま本委員会において調査中の法務行政に関する件で、報道の素材と刑事訴訟における証拠物提出命令について、本日参考人として日本放送協会専務理事川上行藏君の出席を求め、意見を聞きたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 高橋英吉

    高橋委員長 御異議ないと認め、そのように決しました。      ――――◇―――――
  4. 高橋英吉

    高橋委員長 次に、法務行政に関する件、検察行政に関する件及び人権擁護に関する件について、調査を進めます。  なお、日本放送協会専務理事川上行藏君に御出席をいただいております。  それでは、質疑の申し出がありますので、順次これを許します。中尾栄一君。
  5. 中尾栄一

    中尾委員 冒頭に、私はきょうの委員会におくれて出頭いたしましたことを、まことに心から深くおわび申し上げたいと思うのでございます。  きょうは、私はまことに法務問題には暗いのでございますが、プリミティブな問題からとらえて質問をさせていただきたいと思う次第であります。一つ事件、たとえば刑事問題等が起こり議した場合に、その結果の判決まで大体どのくらいの時間を要し、どのくらいの期日を要するかということを、私は前もって参考までにお聞きしておきたいのでありますが、ケース・バイ・ケースでいろいろ違いましょうけれども一つ刑事事件が起こって、それが訴訟を受け、しかも裁判にかかり、それが判決に至るまで、大体どのくらいの期日を要するのがほぼ平均であるかという点を関係当局にお聞き申し上げたい、こう思います。
  6. 石原一彦

    石原説明員 非常に概略的なお尋ねでございますが、平均と申しましても、事件は個性がございますので、一がいに申し上げることはやはり困難かと存じます。それで、たとえば身柄事件でございますと、逮捕いたしましてから検察庁に送られてくるまでが四十八時間、検事の手持ち時間が二十四時間、概略三日でございます。勾留をいたしますと十日でございますが、長くて、延長されたということになりますと、大体二十日間、合計二十三日で、それの間に処分がきまるわけでございます。問題は裁判でございますが、私どもの了解いたしておりますところでは、約八割程度は六カ月以内に終結いたしておるはずでございます。わずか二割が六カ月以上になっておる。その中には非常に長いものもございますし、あるいは一年ないし二年で終わるものもあるということでございます。ちょっと平均的には申し上げにくい点を、御了承賜わりたいと思います。
  7. 中尾栄一

    中尾委員 一つ事件参考までに申し上げます前に、たとえば警察当局から捜査状況に応じて、これは傷害致死容疑が濃厚と認められるに至ったというような事件に対して、これはやはり八割方六カ月以内、あるいは六カ月以上の場合もあり得る想定があるのかどうか、その点もちょっと関係当局お尋ねいたします。
  8. 石原一彦

    石原説明員 私が八割が六カ月未満と申し上げましたのは、起訴した事件が第一審の判決があるまでの期間でございます。捜査について大体二十三日ぐらいと申し上げましたのは、身柄事件でございます。それ以外の在宅事件でございますと、非常に早く終わるものもございますし、事案の性質によりましては、非常に長くなる場合もあろうかと思います。お尋ね傷害致死でございますが、一般的に申し上げまして、殺人よりむしろむずかしい場合があるわけでございます。殺人の場合ですと、殺されたという点での鑑定その他、あるいは凶器の点から、ある程度捜査はやさしい点がございますが、傷害致死の場合は、御承知のとおり、傷害の結果によって死んだという次の結果が発生するわけでございまして、傷害と死の結果との間の因果関係捜査は、これは相当むずかしいと思います。したがいまして、ある程度捜査に時間がかかるというのは、やむを得ないものではないか、かように考えます。
  9. 中尾栄一

    中尾委員 そこで、私はまことにこういう委員会の席上で個人的な問題にわたって恐縮でありますが、少しくその問題点について言及申し上げたいと思うのですが、当局は、農林省大臣官房課長補佐橘田泰三君に関する殺人容疑事件、この問題点については存じ上げなのかどうか、その点をまずもってお聞き申し上げておきます。
  10. 内海倫

    内海政府委員 昭和四十二年七月十七日でしたか、七月十日に発生しております傷害致死事件について、私どもこれを承知し、かつ捜査をいたしておるわけであります。
  11. 中尾栄一

    中尾委員 この事件は、たまさかこの橘田泰三君は私の友人でありましたために、私も二年数カ月たちました今回のこの事件の経過をじっと見ておりますと、警察当局というよりも、検察当局やり方にいささか不満を感ずるものがあるわけであります。この事件が発生したときは、先ほど言われましたようにいまから二年半前、一昨年の七月かと思うのでありますが、そのときに橘田泰三君、農林省大臣官房課長補佐、まさにエリート官僚でありまして、御承知のように、この問題は週刊誌並びに新聞等においても少しく話題を投げかけた問題でありますから、関係当局並びに皆さん方もよく熟知しておることと思いますが、たまさかその問題について少しく説明をさせていただきますならば、ちょうど死体が発見されたということを両親が聞きましたのが、昭和四十二年七月の十七日のことであります。そして見たところ、全く打撲そのもので吐血をして死んでおるわけでありますが、その右側の顔面に大きな打撲傷、というよりも強打を受けたあとが残っておりまして、それを警察当局の立ち会いの前で両親が聞いたわけでありますが、そのときには、その事件を起こした加害者、すなわち泰三君のいわゆる嫁に当たる人、しかもその嫁の実弟が協力し合って撲殺加害をしたということは、大体明確として警察当局では承っておる、このような報告をいただいております。しかるに、その嫁並びに実弟は、自分が犯した罪としてその場では認めておりながら、その後ずっとその事件は延び延びになりまして、両親警察当局との折衝の結果、この案件が、その年の末に、警察庁のほうではこれは殺人容疑濃厚であるという形で検察庁のほうに上申されております。しかるに、それから約二カ年、両親は山梨県甲府市において医者を営んでおりますが、自分息子の殺害のためにあまりにも気持ちが動転して、その後一切仕事はせずに、医者としての職業も全うできずにずっと息子事件判決までを待ち続けておるという実態であります。その間に検察当局に呼ばれたのが二回、一回は担当の検事がただ理由を聞いただけで終わり、二回目は全学連相当に拉致されたという理由によって、この案件はもう少し延ばすということで、五分間で打ち切りでそのまま、まさに二年数カ月以上たっても、これに白黒判決が一切ついておらないという問題であります。私は、この説明は、時間的に非常に束縛されておりますので、少しく後ほど説明を求められるままに徐々に話をさせていただきたいと思いますが、あまりといえば二年数カ月間、検察当局は、時に政治あるいはまたその他一般社会人の取り締まりには非常にきつい面もございますが、同時にこのような明確に殺人容疑というものが濃厚である事件に対して、黒も白もはっきりさせない、二年数カ月の間そのままにしておくということは、一体何を意味するものか、その点少しく検察当局お尋ね申し上げたい。
  12. 石原一彦

    石原説明員 検察庁といたしましては、常に不偏不党、厳正公平な立場捜査をいたしておるのでございまして、先生指摘事件につきましても、その公正を欠くというようなものはないと私は確信いたしております。ただ、この事件は、御承知のように被害者と申しますのは、被疑者の姉の夫でございます。したがって、義理兄弟関係での事件でございまして、そうした家庭内犯罪につきましては、いろいろ感情もまじりましょうし、真相の究明というのはまずむずかしい事件であろうかと思います。したがいまして、供述なんかも相当慎重に吟味しなければならないという点が、まずあるのでございます。  それから第二に、先生これはもうすでに御承知のとおり、この被疑者と称せられる者が被害者橘田さんをなぐったというのは七月の十日でございまして、なくなったというふうに認定できましたのが四日後の七月の十四日でございます。なぐられてから死んだという間に四日間の日があるわけでございます。しかも、なぐったというのが暴行程度、そうひどい傷ではなくて四日後に死んでおるということになりますと、その間に非常にミステリーがあるのではないかというふうに考えますのは、これまた当然ではないかと思うのでございます。しかのみならず、その四日の間の途中において、橘田さんは役所にも出ておられるのでありまして、そうなりますと、なぐられて死んだという間に外部の事情が入っていないということを捜査しなければなりません。したがいまして、ある捜査をすることは非常にやさしいのでございますが、ない捜査をするということは非常にむずかしいかと思います。あらゆる可能性、当時の被害者である橘田さんの行動を全部洗いまして、それでなぐられるほかに死ぬような原因がないということを十分認定しなければならないわけでございます。したがいまして、鑑定相当行なわれておりますし、この事件について二年有半を過ぎたのは、これは私はやむを得ない点があったのではないかと思います。もちろん、その間において、御指摘によりますと、おとうさんですか、お調べになったのは二回ということだそうでございますが、おとうさまを調べなかったからといってほかの捜査をしていないわけではないのでございまして、その間も捜査を遂げていたのであります。  なお、本件につきましては、近く処分はいたすというふうに検察庁からの報告を受けております。したがいまして、この事件は、非常に難件であるという点におきまして捜査が長引いたわけでございますので、その点はひとつ御了承を賜わりたいと考えます。
  13. 中尾栄一

    中尾委員 これは検察庁に出した上申書でございますが、その死に方を先ほどのそちらの報告から承りますと、まだ死因がはっきりしていないということでございますが、打撲であるという点において、こう出ております。その死体右側を下にして寝ており、左眼瞼から上方血腫で青く大きくはれ上がり、いまにも破れんばかりの状態であった。鼻腔入り口及び口腔入り口は血塊で一ぱいで、下あごから首及びふとんにまで血はみなぎっておる。右側は顔を下向けにして寝ており、毛髪と顔と敷布は血で一ぱいでよくわからない、こう出ております。これは医学的な問題になりますが、私はこの案件について医者ともいろいろと相談しておりますが、これは検察当局医者がおらないということもございましょうけれども、私は、医学的判断というものはそういうものではなかろうと思うのであります。たとえば、七月十日に殴打を受けて、しかもなおかつその翌日農林省に出ております。出ておりますが、農林省の方方に、呼んで聞いてみますと、一時間ほどで頭が痛い、とても耐えられないということで頭を押えながら自宅のほうに、月給だけ受け取って帰っております。それはどういうことかといいますと、殴打を受けた内出血というものは、大体五日から一週間ぐらいしますると、これがいわゆる脳内出血で出ていって、殴打を受けたその時点よりも大きくこれが致命傷になっていくということは、普通医学的に立証されることであります。たとえて言うならば、自転車に乗って人を乗っけて自動車とぶつかった場合、運ばれていった人間がころがって、いかにも一見運んでいった人間より致命的な立場で受けて重傷で、運んでいったほうが軽傷に見えても、むしろ死んでいくのは運んでいった人間で、重傷に見えた人間のほうが助かるという例は、よくあるわけであります。こういう点で考えてみますると、検察当局は、もう少し医学的な問題をも研究し、掘り下げていただいて、そしてこの問題も考えてみていただかなければならぬのではないかという感じさえするわけであります。前からこの問題は論議の分かれる問題点でありますが、いま言いましたように、十日に殴打されて四日後に死んだから、これは少しくミステリーであるというような甘い考え方で終始してもらいたくないという観点一つ。さらに、先ほど慎重審議をしておるということばを再三使っておりますが、いかにせん殴打を受けてから二年数カ月、まさに年老いた橘田先生夫妻が、自分のたった一人の優秀なむすこを殺されて、しかも自分自身の残された橘田泰三夫妻のところの孫に対して、警察でも検察当局でも、将来孫が育っていった場合に、あなたのおかあさんがおとうさま殴打して殺したというようなことがあっては、孫さんのためにもなりますまいということで慰撫したそうでありますが、これはあまりにも私情がまじっていると私どもは思います。それよりも、橘田先生夫妻は、自分の孫以上に自分むすこが冥土で全く安堵のいとまもないほど殴打をされてそのまま判決も受けないで死んでいるという状態のほうが、私は苦しい。はっきり言うならば、むしろ孫のかわいさ以上に自分むすこに対するれんびんのほうが強いということを強く言うておりまして、それに対して二年数カ月これを何の連絡もなく放置するということは、まことに私は、検察当局としましても情のないやり方過ぎはしまいか、人倫上の問題として、人道上の問題としてまことに嘆かわしいと思うのでございますが、この点はどうでございましょうか。
  14. 石原一彦

    石原説明員 一番最後のほうからお答え申し上げますが、全然連絡がないというお話でございましたが、先生先刻御承知のように、先生から直接私どもお話もございまして、私から検察庁にいろいろと連絡し、その結果を先生にもお答え申し上げておるところでございます。したがって、じんぜん放置していたということではないと思います。  それから次は医者の問題でございますが、確かに検察庁には医者はおりません。しかしながら、そこは鑑定その他によりまして専門的知識を得るようにしているのでございまして、この事件につきましても、たしか一人ならず相当の方の鑑定を得て処分の決定の際の参考にしたい、こういうふうに検察庁でも考えておるわけでございます。その鑑定相当程度の日数がかかったというぐあいに私ども報告を受けております。  それから、要するに非常に捜査のむずかしいという点で御納得をいただきたいのでございますが、先生のほうの御主張からいいますと、なぐられて死んで、その間医学上四日なり五日あるというのは当然であるということ、これは十分われわれも承知いたしているのであります。ただ刑事責任を負わせるわけでございまして、しかも義理の弟さんが犯人だ、こういわれている事件で、これを間違えましたときには、非常に大きな問題が出るだろうと思います。なるほど、橘田さんのおとうさん夫妻の、両親のお気持ちはよくわかるのでございますが、それだけに、もし無事の弟さんが逆に犯人になるというようなことがあっては、これはいけないのでございまして、やはり相当慎重に刑事責任を追及しなければならない。そうすると、四日の間にそうなったのでありましょうけれども、四日の間に、橘田さんがたとえば自分でころんだことはないとか、ほかの人とつき合っていてけんかをしたようなことはないとか、要するに被疑者と称せられる人の事実だけによって結果が生じたということを立証しなければならないわけでございます。それに相当な時間がかかったということでございまして、なぐられて死んだという点を疑っているわけでは決してないのであります。あくまでも証拠収集のために慎重な捜査をせざるを得ない案件が、この事件であるということでございます。
  15. 中尾栄一

    中尾委員 警察庁から私のほうにこういう報告書が来ております。「行政解剖の結果、死因外部打撲によるものと判明し、ついで被害者は七月十日夜けんかの事実が明らかとなったので、傷害致死容疑が濃厚と認められるに至った。よって七月二十一日から捜査第一課から応援し、七月三十一日まで捜査を行なった。その結果、被害者妻弘美実弟立川市」の「都住宅局建設部工事第一課技師武藤重康(33)の犯行と断定し、同年十二月十二日傷害致死罪で書類送致した。」これはまさに断定しておるのであります。警察庁では犯行を断定しておる。この事実を検察庁では、ただいま言いましたように義弟であるのかどうかも疑問である、まことに私は食い違いが激しいと思うのであります。そのために、この橘田夫妻仕事までやめて二年半、連日そちらのほうにも、五回にわたって上申書を出すことに精を出しております。にもかかわらず、呼んだ回数がわずか二回、さらにそちらの検察庁から犯行の成り行きを橘田さんあてに言ったことは一度もない、こういう観点において、少しく怠慢過ぎはしまいかということを私は言うておるのでありまして、この点あまりにも二年半たった今日、そのような言い方では私ども納得でき得ないという観点を、私はここで吐露させていただいたわけであります。あなた方の誠意を認めないというわけではありません。しかし、このように警察当局で断定しておるものを、検察庁ではその犯人であるのかどうかもわからないというような形において、一体どういうそちらのほうに言いわけをでき得る要点があるのか、その点さらに突っ込んでお聞き申し上げたいと思います。
  16. 石原一彦

    石原説明員 警察捜査だけで事件が解決するものであるならば、検察官というものは要らなくなるだろうと思うのであります。われわれは、やはり裁判所に納得していただくだけの証拠を固めるという意味におきまして、検察官が関与し、公訴提起の権限を持っているんだろうと思います。したがって、私はいま警察が断定されたというのは初耳でございまして、そのようなことがあったかどうかわかりませんが、かりにそう断定されましても、検察官捜査するというのは、むしろ事の当然であろう、この事件の性格と内容から見ますと、慎重な捜査をむしろすべき事件であろうかと思います。かりに逆なことばでいいますと、もし完全に断定してあれでありましたならば、先生からおっしゃられたので被疑者の名前として申し上げますが、武藤氏を逮捕したはずであろうかと思います。それから先ほど先生殺人とおっしゃいましたが、事件傷害致死でありまして、相当重大犯罪でありますから、かりに相当犯行が明らかであれば、むしろ逮捕事件になったのではないか。それが在宅で送られたといいますのは、やはり相当慎重な配慮が警察側でもあったのではないかと思うのでございます。私どもといたしましては、捜査はこの点は適正に行なわれたと思っておりますし、近く適正な処分がなされるということでございますので、それまでしばらくお待ち願いたいと思います。
  17. 中尾栄一

    中尾委員 時間が参りましたから、この問題点の具体的な内容にわたっては少しく避けさせていただきますが、とにもかくにも検察当局最後お尋ね申し上げたいのは、この種の事件が起こった場合に、その被害者の家族が約三年間放置され、そのままいたずらに結論も出さず、白黒もつけないということは、いまのような調査状況においていたし方ないとしても、一体どういう推移の中でどういうことになっているのか。   〔委員長退席進藤委員長代理着席〕 この点ぐらいは教えてもらいたいという気持ちで、そのまま医者仕事もやめて仏壇だけにすがっておるという老夫妻を見ましても、私どもはなかなか耐えられないものがあるのでありますが、その点もう少し検察当局でもお考えいただいて、時にふれおりにふれ、そういう電話があったときには、呼んだときにも数分間で、全学連がいまつかまって忙しいからそちらのほうのことはまたこの次のことにしてくれということでなくて、もう少し愛情を込めた言い方というものがあるのではなかろうか。さばくだけが法ではないと思いますし、さらにまたそういう検察当局も人がやっているわけでありますので、ひとつそちらの検察当局でも橘田さんに納得のいくような手続、これはぜひともお願い申し上げたいと思うのであります。橘田さん御夫妻は、自分自身むすこに受けた衝撃があまりにもショックであったためか、気も動転して、現在ではまさに廃人のような状態になってしまっております。捜査の面も二年数カ月かかるということがもし妥当であるとそちらのほうでいうならば、これもいたし方ありますまい。しかし、人一人が何はともあれ死んでいるわけでありますから、この問題点についてはもっと誠心誠意、少なくともこのような状態警察から報告が来ているということをデータにして、半年に一回くらいは、こういう推移のもとにやっているからひとつ御安堵いただきたいということを御家庭のほうに通知するぐらいの御誠意だけは持っていただきたいと思うのでありますが、その点いかがでありましょう。その点は、ひとつ政府当局のほうに御答弁願いたいと思います。
  18. 小澤太郎

    ○小澤(太)政府委員 こういう事件の関係者として、ただいま中尾委員のおっしゃるように、気持ちの上であるいは焦燥感、あるいはいろいろの非常に複雑な感情があることは、私も十分察知し得ることでございます。しかし、一面におきまして、検察は公益を代表いたしまして真実の発見に十分努力をいたします。場合によりましてはこれは公判を請求するような案件でございますので、したがって、そのために捜査の段階におきまして、あるいは判断をいたしますにあたりまして、十分慎重な措置をするということは、また当然でございます。その間の調和については十分考えてまいらなければならないことかと存じますけれども、この点もひとつ御了承いただきまして、この事件が真実がはっきりいたしまして、決着がつきますように私も希望いたす次第でございます。
  19. 中尾栄一

    中尾委員 政府当局にもよろしくひとつ、こういう案件が多々あろうかと思いますが、早急に解決をしていくような目安というものは、もちろん検察当局あるいは警察当局の事情もございましょうが、その御家庭のことも考えていただいて、その間において少なくとも、経過報告ではございませんけれども、一応こういう事情に相なっている、決して忘れているものではないという誠意だけは示してやりませんと、自分むすこが殺されて二年有半置いてきぼりにされているという点において非常に嘆いているわけでございますので、その点はひとつ御愛情を持った御処置を願い上げたいと思うのであります。  さらに、聞きますると、この問題点は近く判定が下るそうでありますが、判定が下る前に、おそらくこれは裁判のほうに上程されるということを承っております。時間がまいりましたので、最後に、いつまでにこれはできるのか、その点の見通し、一体裁判にかけられるのかどうか、この問題点もお聞きしたいと思います。
  20. 小澤太郎

    ○小澤(太)政府委員 ただいま御答弁申し上げましたように、検察当局におきまして、起訴するとかしないとか、その判断をするための捜査をいま慎重にやっておるわけでございまして、そういう段階でございますので、まだ見通しを申し上げることができないような状態でございます。この点はひとつ御了承いただきたいと思います。
  21. 中尾栄一

    中尾委員 見通しがつかない、見通しがつかないとおっしゃるけれども、いま課長の方がおっしゃったように、これは近くかかることになっておる、こういう話でありますが、どうも検察当局というのはそういう形で気休めばかり言うておって結論が全く出ない。そういうことで一年、二年、三年と流されるわけでありまして、そういう点では私もここに出てきた意味が何もないわけでありますが、その点担当者にお聞き申し上げたい。あなたは先ほど、近いうちにこれは大体解決がつきます、白黒をつけますという話でありますが、一体どういう見通しのもとにそういうことを言われたのか。
  22. 小澤太郎

    ○小澤(太)政府委員 担当者にという御質問でございましたが、私から申し上げたいと思います。見通しは近いうちにというようなことで進めておると思いますけれども、どういう形になるかということはこの段階で申し上げることができないということでございまして、見通しは持っておる、こう思います。御了承いただきたいと思います。
  23. 中尾栄一

    中尾委員 時間がまいりましたので、これで終わります。
  24. 進藤一馬

    進藤委員長代理 中谷鉄也君。
  25. 中谷鉄也

    ○中谷委員 私は、きょう、報道の自由という憲法に保障されている民主主義の基礎である憲法上の権利と、捜査権の行使というものの間に、現実の問題として矛盾が生じてくる、はたしてこれは調和できるものかどうか、これらの問題について、政府及び参考人お尋ねをいたしたいと思います。  まず、最初に参考人お尋ねをいたしたいと思いますが、福岡地裁の準起訴請求手続事件について、テレビ会社四社に対してフィルムの提出をお願いしたところ、報道各社は、報道の素材を証拠に使われることによって公正、自由な報道、取材活動ができなくなるおそれがあるということで、それをお断わりになったということが報ぜられております。そこで、この点についてさらに参考人の方からお断わりになった理由を、報道の自由という憲法上の問題との関係において補足的に御説明をいただきたい。これが最初の質問でございます。
  26. 川上行藏

    川上参考人 お答え申し上げます。報道の自由と申しますことは私たちの仕事の最大の目的でございまして、そのねらいと申しますことは、真実をお伝えするというところに目標を置いておるわけでございます。真実を伝えるということが同時にまた、それが今日の民主主義社会のすべての活動の大前提になろうか、というような形で考えております。それで同時に、この報道の自由ということは、真実を伝える、そのために私たちは三つの観点から、報道の取材において自由を与えていただきたいということを社会的な理解のもとに促進をしているわけでございます。一つは報道の取材の自由でございます。いろいろな場面に即しましていろいろな活動ができるということによりまして、事件の真相が十分にわかるということであろうかと存じます。その次に第二点は、その取材をいたしましたものをわれわれが自主的に判断をして編集をするということであろうかと思います。われわれは、その取材そのものを自主的に判断できるところに真相をお伝えできると思います。判断が片寄るとかあるいは他から制肘を受けるということになりますと、また真実がそこに曇ってくるということになろうかと思います。第三番目に、その真実の上に立って、自由にそれを放送し、あるいは新聞として発行できるというところに、報道の自由がある。この三点。いま申し上げましたような取材の自由、それからニュース価値としての判断の自由並びにそれを放送する自由、この三点からこれを考えております。  もちろん、私たちは、報道の自由ということが万能である、あるいはオールマイティーであるということは考えておりません。社会の公共的な福祉、あるいは個人の人権それにあわせて言論の自由という、この三つが、憲法上保障された国民的な基本的な権利であろうかと思いますが、その三つの調和の上に立って報道の自由、言論の自由ということを主張したいと思いますが、われわれは、報道関係者といたしまして、まず何よりも報道の自由というところに主眼を置いて仕事をしている。国民の期待もまたそこにあるのだということを自覚し、これが国民の寄託にこたえるゆえんであろうか、こういう観点から、いまお尋ねがありました事件につきましても、今後の取材活動が制肘されないように、われわれは報道の自由のために取材をしたのだからという観点で、この提出をお断わりしたい、こういうふうに申し上げたわけであります。
  27. 中谷鉄也

    ○中谷委員 そこで、報道の自由を守るために、守らんがためにこそ捜査に協力ができないという場合は、当然あり得るということをいま参考人からお伺いをいたしました。ただ、説をなす人によりますと、捜査というのも真実発見が目的であるということがいわれております。そういたしますと、ここに捜査権の行使と報道の自由との間に、やはりそれぞれの矛盾と交錯が生じてくる。そういう前提でお尋ねをいたしますが、一つ何らかの基準がここになければならないと私は思う。犯罪の態様、反社会性、それから報道機関が持っておられる証拠、たとえばフィルムが唯一の証拠方法であるかどうか、さらに、たとえばそれが無罪のための証拠になるのか、有罪のための証拠になるのかというふうなことの中において、報道の自由を守るために、それらの問題についての一応の基準があれば、あるいはまた参考人としてのお考えがあれば、この機会にお聞かせをいただきたい。
  28. 川上行藏

    川上参考人 非常にむずかしいお尋ねかと存じまして、私も的確なお答えはできません。ただ、私個人の意見として申し上げさせていただきたいと存じますが、報道の自由とかあるいは言論の自由というのは、やはり社会生活の基本であるという観点に立ちまして、やはり長期的にこれは育てていただくということを社会全体の方に御理解をいただきたい。そういう観点から、個々のケース一つ一つの場合においては、あるいは御提出してもそれに支障がないという場合もあろうかと思います。あるいは社会的な必要があってどうしても出したほうがいいという判断もありましょうけれども、しかし、それが一つ一つが積み重なることによって、いま申し上げました基本的なことがくずれてしまったならば、長い目で見ると、やはりかえって社会的な、あるいは公共の福祉にもそむくというようなことを心配するわけでございます。そういう意味に立ちまして、私たちは、やはり基本的にわれわれの自由を常に守るのだという立場であれをしていきたいということを申し上げるしかないかと思います。  それで、いまお尋ねがありました基本的な基準があるかどうかということでございますが、社会的な現象というものは、いろいろな事例、あるいはケース、あるいは前提条件が数多くございまして、基本的に数カ条あるいは数百字のことばで原則をつくっておきましても、かえって誤解を招きますし、それからそのときの社会の、国民の真意、心情というものも大きく影響いたしますので、われわれは常にケース・バイ・ケースというような形においてそれを処理していきたい。ただ、先ほど申し上げましたように、基本的には、私が最初に申し上げました前提で行動していくというのが、報道関係者の心がまえだ、このように考えております。
  29. 中谷鉄也

    ○中谷委員 次に、私は、いわゆる博多駅事件と離れて、報道の自由を守るためにという観点から、参考人の所信をお伺いいたしたいと思います。  かりに、捜査に協力ということで、素材としてのフィルム等を提出することが報道の自由をそこなうことになるという場合には、捜査機関からの提出のお願いがありますれば断わるということは、先ほどの参考人お話から、私は大体よくわかりました。かりに提出命令というふうなものが出された場合、これについてはどのようにお考えになるのでしょうか。また、もっと極端な場合を言えば、強制処分としての押収、差し押えというふうなものがあれば、これは一体どうなるのか。これらの問題について、一般論としてお答えできる範囲でひとつお答えをいただきたい。特に私がこういうふうな質問を申し上げたいのは、何といいましても、報道の自由に関する一番有名な判決一つの、いわゆる読売新聞社事件というのがございます。証言拒否をいたしました事件がございますね。この事件との関係においてのことを私は意識しながらお尋ねをしているわけでございますので、あるいは報道の自由を守るためには証拠の提出等についてお断わりできる立法化の必要があるというふうな御意見でもありますれば、そういう点も含めてひとつお答えいただいてけっこうでございます。
  30. 川上行藏

    川上参考人 いまお話がございました件は、昭和二十四年の朝日新聞記者の証言拒否の事件、このように存じます。これは御承知のような事件で、記者がニュースソースを証言拒否をいたしました。そのために罰金刑に処せられております。しかし、私たち報道関係者から見ますと、この処置としましては、先ほど来申し上げましたように、報道の自由を守るという原則から見て不当ではないかという感じは、すべての関係者が持っておるということでございます。ただ、現在の日本の法制の中において、これが具体的にどう取り上げられていくか、それは私は法律専門家ではございませんので十分に申し上げられませんけれども、アメリカあたりでは、約四分の一の州が、新聞記者は証言拒否の権限がある、権利を持っているということがすでに立法化されているわけでございます。そういう意味におきまして、報道の自由ということが社会全体で理解され、また、それが次第に全体に促進されていけば、そういう形が、たとえば宗教家とか、あるいは医者とか、あるいは看護婦とか、そういう職業的な観点で証言拒否の権限を持っておる人の中にこの報道関係者が入れてもらえるということになれば、先ほど来申し上げましたような報道の真実性を保つ上において一そう有力な支援が得られる、このように私は考えております。
  31. 中谷鉄也

    ○中谷委員 畑委員のほうから関連質問がありますが、私が引用いたしました判例は、二つあるわけなんです。一つは朝日新聞の記者の事件一つは読売新聞の記者の事件というのがございますね。いずれでもけっこうですが、事件番号もあえて申し上げませんけれども、だから、どちらでもけっこうです。けれども、念のためにそのことだけは申し上げておきたいと思います。
  32. 進藤一馬

    進藤委員長代理 畑和君。
  33. 畑和

    ○畑委員 いまの中谷君の質問に関連をいたしまして、お尋ねをNHKのほうにいたします。いま、現在問題になっておりまする福岡の公務員暴行陵虐事件ですが、この職権乱用の事件に関しての審判に付する問題について、一体審判に付する必要があるかどうかということを判定するために、福岡の地裁がNHKほか三社ですか、に提出をしていただきたいという要請を出しました。これはまだ任意提出を求めておる段階で、これに対してNHKその他でも相談をしたこともあるようでありますが、とにかく四社とも提出はできないという回答をされた。そうすると、あとの問題は、これを提出命令を出す、強制的な命令を出す、その命令に従わなければ裁判所のほうで押収をする、こういう強制処分があるわけです。これは刑事訴訟法の九十九条に書いてあるわけですが、ただ、いまのNHKの御答弁によりますと、また新聞の報道するところによりますと、任意的な提出はお断わりだ、これは報道機関として私は当然だと思います。やはり報道の自由を守るという立場から当然かと思うのですが、しかし、状況によってはこういう区別はできないでしょうか。捜査権と申しましても、普通の捜査をするのは検察庁です。検察庁が強制捜査の場合にも、裁判所の許可を得てというか、裁判所に願い出て、裁判所が押収令状なり差し押え令状なりを出すわけですが、そうした検察官の申請による裁判所の押収の場合と、すなわち実質的には捜査当局の要求、そういった場合、それから裁判所自体がそうした裁判で提出を命令をする場合がある、いずれも強制ですけれども。ところが、検察庁の側のほうで、強制でなくて同じようにひとつ出してもらいたいという場合と、裁判所が出してもらいたいという場合がある、私はそういうふうに二つに区別するのです。今度の場合は、明らかに裁判所自体が真相を明らかにしよう、審判に付する必要があるかどうか、付審判請求といいますか、そういうためのお願いであるわけです。捜査権のほうで捜査機関がやる場合には、相当立場もあるし、乱用のおそれもある。ところが、裁判所自体がやる場合、全部それは形としては裁判所がやるのですけれども――任意の場合はおのおの別です。強制の場合は、捜査当局がやるとしても、やはり裁判所がこれを出すわけです。この二つの場合、強制の場合と任意の場合と両方あるわけですが、そういった区別で、裁判所でやる場合には任意の場合提出するのがよろしいのじゃないか。しかし、それはおたくのほうの立場上無理もないと思う、強制の場合は別ですけれども。そういった区別は、あなたのほうではする必要があるのか、しようという考えがあるのかないのか、その点をちょっと聞きたい。
  34. 川上行藏

    川上参考人 私たちは、取材をいたします。そして取材された人は、報道のために取材に応じていただいた、このように考えております。それがまた報道の自由というものにつながってくるかと思います。それがさらに報道機関のために協力したのがどういう形でどう利用されるのか絶えず不安感を持って取材に応じられるということになりますと、真実のことが伝わってこない。わがほうとしても真実の取材ができなくなるということになろうかと思います。そういう意味におきまして、御本人が明らかにオフレコだとおっしゃってお話しいただいたものは、われわれも信義を守って報道いたしませんし、またどこにも使いません。しかし、先ほど申し上げましたような形で報道のためになら協力しようとおっしゃっていただいたものは、そういう限りにおいて報道のために使わしていただく。しかし、それが検察庁であろうとあるいは裁判所であろうがとにかくほかの目的で使われるということになりますと、やはりその時点としてはそれで済むかもしれませんが、長い目で見ますと、真実の報道というものに傷がつくのではないかと存じますので、いま申し上げましたような角度において、やはり全面的にお断わりしたい、このように考えております。
  35. 中谷鉄也

    ○中谷委員 私のほうでも、まさにこの問題は先ほど参考人が述べられたような理念のもとにケース・バイ・ケースで判断さるべきものであるというふうにお伺いをいたしますが、そうすると、本件福岡地裁の場合には、まず最初そのようなフィルムが存在するかという照会に対して、あるというお答えを四社はされた。新聞、ラジオ、テレビ、いずれの場合でもそうだろうと思います。この場合はテレビ四社があるという返事をされたということですが、本件の場合ではなしに、ケースによってはそのようなことについて、あるともないとも答えられないというようなことも、報道の自由を守る立場からは当然出てくるというふうにお伺いをしてよろしいでしょうか。
  36. 川上行藏

    川上参考人 そういう先生のおっしゃったようなお答えのしかたもあろうかと存じますが、その時点におきましては、私たちは率直にお答えの範囲においてお答えをした、このように御理解願いたいと思います。
  37. 中谷鉄也

    ○中谷委員 公安委員長出席いただきましたので、お尋ねをいたしたいと思います。御出席になる前に参考人に、報道の自由と捜査権の行使との間の調和、矛盾をどのように解決できるか、あるいは報道の自由を守るために報道の自由をどのように主張するかお尋ねした。捜査には捜査立場があろうと思うのです。そういう意味で私は公安委員長お尋ねをいたしたいと思いますが、今日まで報道機関から犯罪捜査について協力を求めるということについては、一般的にあり得たのでしょうか。そうして警察捜査にあたって協力を求めることが報道の自由の侵害になるような場合、があれば協力を求めるべきではないという原則が私はあると思いますが、それらの点について、国家公安委員長の御見解はどのようなものでしょうか。  さらに、公安委員長すぐ御退席になるようでございますので、もう一つお尋ねをしておきます。たとえばアメリカなどでは、報道機関の知る権利ということが強調されまして報道がされておるということを私は聞いております。ことに国家機関に対して知る権利、そういうような点で、国家公安委員長として、報道陣が知る権利を十分に行使できるために、警察が報道陣に対してどのような措置をお考えになっておられるか、どのように今日まで対応してこられたか、質問は以上でございますので、お答えをいただきたい。
  38. 荒木萬壽夫

    ○荒木国務大臣 犯罪捜査と報道機関の報道の自由との相関関係いかんという難問題でございますが、憲法的に、あるいは刑事訴訟法等を念頭に置いてお答えする能力は、私はございません。常識論を出ませんことをお許しをいただきたい。新聞、ラジオ、テレビ、報道機関は、片っ端から何でも知りたいということを含めて表現の自由があるものと思います。警察が犯罪を捜査するについて国民一般の御協力をいただくということは、非常な便宜であることも申し上げるまでもないことであり、また、その国民の一部としての報道機関に協力を求めることも、捜査機関として私は当然お願いしてしかるべき態度じゃなかろうかということを一般論としては思うのであります。現に新聞等によく出ますように、公開捜査といわれることが、しろうとながら記憶に残っていますから、これはとりもなおさず報道機関もぜひひとつ民主主義の敵であるところの無法者を探し出して、社会の害悪を排除することに御協力くださいというお願いをしている姿が、公開捜査の典型的な例かと存ずるのでありまして、お尋ねの第一点については、はなはだざっぱくでおそれ入りますけれども捜査に御協力を要請するということも自由であろうし、またそれに対してどの程度協力をしていただけるかは、これは報道機関自体の自主的な判断に従って、法律上どういうものがあるか存じませんけれども、法治国の憲法以下の法律が命ずるところの制約があるならば、その制約の範囲内において、できる限りの御協力をお願いするという態度は、当然あってしかるべきもの、だからできるだけ、ニュースソースは言えないということでなしに、許される限度で御協力を賜わりたいということが、私どもの側からのお願いの筋ではなかろうか、かように存じます。アメリカの州法等を引用しての御質問でございますが、そのことを存じませんので、お答えする資格がないように思います。
  39. 中谷鉄也

    ○中谷委員 非常に、率直に申しまして、常識的なお答えをいただきましたが、そうすると、もう少し公安委員長にこまかく、法律論ではなしに、お尋ねをしておいたほうがいいと思います。たとえば、公開捜査などといわれている、犯人が特定をしている場合とか、あるいはまたモンタージュ写真ができているような場合と、犯人が不特定である場合、あるいはまたいつどこでどの場所でどういう事件があった、その犯人を出してくれなどというふうな、はなはだ抽象的な協力依頼だとか、あるいは犯人の身分、地位、状況、犯罪の態様、さらにその協力を求めることが無罪の証拠なのか、有罪の証拠なのかなどというふうな点についての基準のようなものは、お持ちなのでしょうかという質問が一点です。  同時にしかし、国家公安委員長としては、憲法のもとにおける報道の自由を侵害するというふうな形においての協力を求めるなどという意味は断じてない。これは当然のことだろうと思いますが、念のために、ひとつお答えをいただきたいと思います。
  40. 荒木萬壽夫

    ○荒木国務大臣 第二の点は、中谷さん自身も当然のこととおっしゃるように、当然のことと私も思います。  第一の点については、ちょっと常識的な問題外にはお答えしかねる気持ちでございますが、警察当局としましては、御質問のような意味においての基準というものは、ないものと思います。おのずからそこには法治国らしい双方の常識的判断と申しますか、そういうことで、おのずから律せらるべき課題であって、基準を設けるべき性質のものではなかろう。したがって、基準というものがないというのが適当な態度じゃないだろうか、こういうふうに理解いたします。
  41. 中谷鉄也

    ○中谷委員 公安委員長、御退席になってください、けっこうです。  次に、同趣旨のお尋ね法務政務次官お尋ねをいたしたいと思います。報道の自由を守るということ、そして捜査によって真相を発見するという検察の仕事、こういう二つの相異なる、あるいはまたどこかで一致するかもしれないそういう二つの要請というものがあるので、本来的には異なるものだと私は考えておる。そういうことで、今日まで法務当局としては捜査の協力などということについて、報道機関、新聞、ラジオ、テレビ等に協力要請をした事実はあるのかどうか。なお、あるとすれば、それはどのようなケースに限るのか。特に今後憲法に保障された表現の自由、報道の自由がより一そう守られねばならないというときに、法務行政検察行政の、検察の衝に当たる人たちが、報道機関に対する協力ということが軽々になされては断じてならないと私は思っております。この点についての政務次官の御答弁をお伺いいたしたいと思います。
  42. 小澤太郎

    ○小澤(太)政府委員 お尋ねの趣旨は、報道の自由、憲法二十一条で保障しておりまする表現の自由の根幹をなすところの報道の自由、これと検察当局仕事といたしましての真実の把握のための措置との関連をいかように考えるかというお尋ねだと、かように考えますが、もとより憲法の保障しておりまするところの報道の自由につきましては、これをみだりに侵害をしてはならないことは当然のことでございます。しかし、これらの基本的権利につきましても、絶対に無制限のものであるということでないということは、先ほど中谷委員が御引用になりました最高裁の大法廷における二つの判断、これを見ても類推できることだと思うのであります。したがいまして、公共の福祉の観点から必要の最小限度の制約があるという場合もあり得ると、かように考え、これまたやむを得ざるものだと思うのでございます。しかしながら、さりとて、捜査当局が報道機関の公共性にかんがみまして、かってな判断でやってはならぬということも、これまた当然でございます。したがいまして、従来から報道機関の証拠の収集につきましては、捜査上きわめて慎重な配慮がなされてまいったのでございます。お尋ねの点でございますけれども、報道機関から証拠として任意に提供されましたことは二、三あるようでございます。ことに強制的に収集する場合は、これは御承知のとおり、検察当局が職権でできるわけでございません。裁判所の令状をもらわなければならぬわけであります。請求しなければなりません。そういう場合に、もちろん裁判所の判断によるわけでございますが、これはきわめて限られた特殊の場合でございまして、この例もあるようでございます。以上でございます。
  43. 中谷鉄也

    ○中谷委員 同趣旨の質問を公安調査庁にしてみたいと思います。破壊活動防止法の二十七条等には、公安調査官の調査権等の規定がありますが、公安調査庁としては、特にこれらの調査については問題のあるところですが、今日まで新聞、ラジオ、テレビ等の報道機関等に対して、資料の提供等をお求めになったことはありますか。
  44. 内田達夫

    ○内田政府委員 公安調査庁といたしましては、これまで、お尋ねのような、報道機関からフィルム、写真等の提供を受けた事例はございません。
  45. 中谷鉄也

    ○中谷委員 参考人お尋ねをいたしたいと思いますが、それぞれの捜査機関の方々の一応の見解を私承りましたが、特に私は、学識経験者としての参考人お尋ねいたしたいと思います。先ほどから、理念としての報道の自由についての判断とそうして決意を述べていただいたと私思いますが、それは単に報道機関としてのそのような意思決定、決意あるいは見解ということではなしに、当然一人一人の報道に従事する人たちの判断基準であるべきであろうというお考えなのでしょうかどうか。これは私当然そうだと思いますが、念のためにお聞きしておきたいと思います。
  46. 川上行藏

    川上参考人 私が先ほど理念として申し上げました件は、おそらく全報道関係者のひとしく持つ理念だと存じます。ただ、具体的ケースの場合におきましては、それぞれの企業が別でございますので、企業の責任者の判断があって、あるいは相違がある場合があろう、このようには存じます。
  47. 中谷鉄也

    ○中谷委員 公安課長さん御出席になっておられるのですけれども、法務省の公安課長さんにお尋ねしたいのです。二、三任意に協力を求め、協力を得た例があるということですが、この機会に、よろしければ御答弁いただきたいと思います。
  48. 豊島英次郎

    ○豊島説明員 最も明確になっております事例といたしましては、これは昭和二十七年の例のメーデー騒擾事件の際でありますが、この際に新聞社から当日の現場の状況を撮影いたしました写真を、これは買い受けをいたしております。代金を払いまして入手をしたという事実がございます。そのほかにも若干の事例があるというふうに聞いておるのでございますが、ちょっと事実確認をいたしておりませんので、具体例を申し上げるわけにはいかないわけであります。   〔進藤委員長代理退席、大村委員長代理着席〕 ただ、たとえば王子製紙苫小牧工場の争議事件の際の写真、これはデパート掲載の写真を裁判所の令状を得て押収したというような事例だとか、そのほか令状による押収事例として、第二次国会乱闘事件の際、日本映画新社からフィルム二巻を押収したという事例があるわけでございます。しかし、これらは令状による差し押えではございますけれども、事前にはもちろん事情をよく話し、そうして事情の了解を求めているという形であり、内部的には話し合いがあるということだというふうに理解をいたしております。以上のような事例でございます。
  49. 中谷鉄也

    ○中谷委員 法制局の第一部長さんにお尋ねをいたしたいと思います。先ほどから参考人及び政府の方々から、報道の自由と捜査の問題について若干の御答弁をいただきましたが、報道の自由を守るために、先ほどから何回か問題になりましたいわゆる刑事訴訟法第百六十一条違反事件、これは朝日の関係の事件でございますね、このような事件について、学説の大部分は、たしか報道関係者についても証言拒否権を認めるような立法措置をすべきである、それでなければ憲法上の表現の自由、報道の自由は十分守れないのではないか、こういう説が学説としては有力であるし、報道関係者の中からいまなお根強い意見があるということを、私は承知いたしております。いま一つは、先ほど、報道の自由というものは大まかに分けて三つあるという中で、一つ取材の自由ということを参考人御主張になりましたけれども、たとえば取材の自由の中で問題になりますのは、国家機関に対して知る権利を行使するということについての点が、立法上は問題になろうかと思うのです。たとえば、いつも問題になります原子力基本法の公開原則であるとか、裁判の公開原則などというものもありまするけれども、広く官庁に対して情報提供義務あるいは情報収集権を保障するというようなこと、たとえば西ドイツ等においてはすでにもう立法化されている、こういうふうなものについて立法化されることが、報道の自由を守るためには、憲法の規定をより充実するために必要ではなかろうか、こういうようなことを私は考えるわけです。ひとつこの点についての御見解を承りたい。これが第一点。  いま一つ部長さんのほうから、報道の自由と捜査権のこれは交錯の問題だろうと思いますが、について、そこのまあ公共の福祉という御答弁は論じ尽くされていますし、そういうことになるのかもしれませんけれども、法制局の御見解をひとつ承りたい。私の法制局に対する質問はそれだけなのです。お答えをいただきたいと思います。
  50. 真田秀夫

    ○真田政府委員 たいへんむずかしい問題について御質問を受けまして、私十分にお答えできるかどうか心もとない感じもいたしますけれども、一応私の見解を述べさせていただきたいと思います。  新聞とか放送とかの報道機関が真実を報道するということ、これは民主主義の社会のもとにおいては非常に大事なことでございまして、これを法律的に言えば、表現の自由の一内容であるというふうに考えます。この点につきましては、最高裁判所の大法廷の判決もこれを肯定しておるわけでございます。ただ一口に表現の自由と申しましても、真実を報道することそれ自体は中核をなすものだろうと思いますけれども、そのためにさらに取材活動の自由を認めるかどうか、それから報道機関の取材源の取得自由を認めるかどうか、あるいは報道の素材といいますか、フィルムとかその他の素材の取得の自由を認めるかどうかとか、いろいろ内容があるだろうと思います。まず、報道それ自体の自由を認めるということ、これは表現の自由の中身だろうと思いますけれども、いずれにいたしましても、これは最高裁判所の判例にもありますように、絶対無制限のものではないので、その他のいろいろな公共の福祉、つまり他の法益との均衡をやはりはからなければならぬということに相なろうかと思います。ただいまの御質問の中で、刑事訴訟法に基づく捜査あるいは裁判所の行なう証拠調べとの関連はどうかということでございますが、この点につきましては、先ほど来御指摘判決で一応の最高裁判所の解釈というのは出ているわけでございまして、私たちもそれがおかしいなどとはとても思えない次第でございます。つまり刑事事件に関連して真実、実体を発見するということは、これまた非常に大きな公共の福祉に沿うゆえんでございますので、それとの調整といたしまして、最高裁判所の事件になったものに即して申し上げれば、憲法二十一条は、新聞記者に取材源についての証言を拒否する特別の地位を与えたものではないというふうにいわれているわけでございまして、裁判所が強制証拠調べをする、あるいは捜査機関が裁判機関の令状を得て刑事訴訟法に基づいて強制捜査をするという場合には、その限度において報道機関の秘匿は、それはディスクローズされなければならないというふうに考えるわけでございます。それからまた、国家機関に対して報道機関は知る権利がある、これを保障すべきじゃないかというようなお話でございますが、これも非常にむずかしい問題であるとは存じます。ただ、報道の自由を保障するということになりますと、すでにそれとまた対立する他の法益があるわけでございまして、端的に申し上げますと、まず国家機関に対する報道機関の知る権利を法律上無制限に保障するということになりますと、国家機関のほうでは、また国家機関として職務上知り得た国の秘密、あるいは職務上知り得た個人の秘密というものもあるわけでございまして、それが無制限にディスクローズされていいかということになりますと、やはりそこには問題があろうかと存じます。ただ、いろいろむずかしい問題もございますので、現行法制がそのままで完ぺきかと言われますと、確かにそれは論ずべき、研究すべき点もあろうかと思います。それを検討することはやぶさかではございませんので、関係当局のほうで御研究の結果、何らかの立法措置でも講じたいということになれば、私どものほうでは、もちろん憲法に照らし、あるいはまた他の法律にも照らしまして、御相談に乗るということは当然でございます。
  51. 中谷鉄也

    ○中谷委員 いま法制局のほうから御答弁になった点ですが、一点だけ研究課題として法務省としても御検討いただきたいと思いますので、政務次官にお願いしておきたいと思います。やはりその報道の自由というふうなものと取材源の秘匿というようなことですが、ぎりぎり一ぱい捜査権とどこかで衝突してくると、証言拒否というような場合があり得ると私は思うのです。たとえばアメリカにおいては、一八九六年メリーランド州で証言拒否法というのがすでにできているわけでございますね。いまからまあ八十年くらい前からそういう法律ができている。これは、日本の刑事訴訟法はそれを認めていない。弁護士その他には、これはある分に限っては認めていますね。そういうような点については、これは研究に値するし、報道の自由と捜査の問題のあり方にかかわる問題として御研究になるべき課題ではなかろうか。また、政府としても、たとえば先ほど私が引用いたしましたが、西ドイツにおける情報提供義務を実定法において定めている。報道陣に対しては政府は情報を提供しなくてはいけないのだというふうなことを、取材の自由の観点から定めている。こういう点については、ひとつ研究課題として御研究になる意思があるかどうか、この点をひとつ御答弁を願いたいと思います。
  52. 小澤太郎

    ○小澤(太)政府委員 非常に重要な問題でございますので、十分に検討の課題にはなり得ると思います。したがいまして、研究はいたすつもりでございます。ただし、現在の運用は、憲法の精神を体して十分に慎重にやる、こういうことでやるつもりでおります。
  53. 中谷鉄也

    ○中谷委員 時間がないようですから、あと国鉄の公安本部長さんにおいでいただいているわけですが、その前に、公安課長さんにお尋ねしますが、刑事訴訟法の二十三条の忌避については、忌避申し立て権者は、判例、通説の立場は、だれとだれが忌避の申し立てができるのでございますか。
  54. 豊島英次郎

    ○豊島説明員 刑事訴訟法上の規定によりますと、被告人、検察官及び被告人の代理者であるところの弁護人という規定に相なっているわけでございます。ここで言いますところの被告人、これがはたしてどの範囲のものなのかという点につきましては、これは学説上いろいろ争いがあるように存じております。先ごろの福岡県警本部長から真庭裁判長及び白井裁判官を忌避いたしました忌避申し立てに対する真庭部の決定を見ますと、これは付審判請求事件におけるいわば被疑者立場にあるところの人間は、あるいはその代理人である弁護人は、忌避の申し立てをする権限がないのであるというふうに判断しておられますけれども、こういう場合を例にとって考えてみますと、これは決定の中でもいろいろ論議をみずから裁判官がしておられるのでありますが、比較的当事者的な構造だというふうに見て、忌避申し立て権があるという見解もあるいはあり得るかもしれぬけれども自分はこれはいわば訴訟手続的なものであって、忌避申し立てを認めるべき場合でないんだ、そういう結論を出しておられるわけでございまして、まあ私自身としてどういう解釈をとるかという問題は一つあるわけでございますが、当面一般論といたしましては、この付審判請求事件から、そういう判断からいろいろな解釈が出てくるであろうというふうに思いますし、それから現在この事件につきまして、即時抗告がなされて、福岡高等裁判所に訴訟が係属しておりますので、その福岡高裁の決定を待ってみたいというふうに考えております。
  55. 中谷鉄也

    ○中谷委員 報道の自由と捜査の問題というかなり基本的な問題について、相当時間をいただいて質問をいたしましたので、忌避の問題については、国鉄の公安本部長さんにも一言だけ私はお尋ねをしておきます。  これは具体的な、現に係属しておる事件ですので、そのことに触れてお尋ねするのは、当委員会としてはあまりしないような慣習になっていて、私はそのことでお聞きするのじゃないのだけれども、まあ公安課長が刑訴二十三条についての考え方をお述べになりました。国鉄公安官というのは、一部司法警察職員の職務執行をする権限が与えられているわけですから、これは当然その範囲内において刑訴の御勉強もしておられるわけです。これは一般的にお尋ねをいたしますが、公安本部長さん、公安官の諸君が御勉強になっておられる刑訴のテキストなどというのは、忌避申し立てをするのは被告人及び検察官、その他の者でもいいのだというふうなことの刑訴を御勉強になっておられるのですが、これはまさに少数説であります。たとえば九州大学の法学部の教授でもそういうことを言っておるからという、そのくらいの少数説なんですが、だから、そういうことをおやりになっておる、忌避申し立てをされておる人がいるのだけれども、これは国鉄の公安本部長さんとしては、この点についてはどういうふうにお考えになりますか。そういう点については、自分のところの関係者がやったので、刑訴の解釈については興味がないということであれば、それでけっこうですけれども、その点いかがでございましょうか。
  56. 木村善隆

    ○木村説明員 お答えいたします。この解釈につきましては、いろいろ議論のあるところですけれども、私個人といたしましても、今回の具体的なケースの場合におきまして、忌避申し立て権がある、かように考えております。
  57. 中谷鉄也

    ○中谷委員 あと一問だけ質問する時間があるようですから、政務次官から非常に明確な御答弁をいただきましたが、特に報道の自由との関係において問題になりますのは、七十年問題などというものを控えて、特に憲法がまさに守られなければならない、憲法の真価が問われるべきときが来ていると私は思うのです。そういう中で、特に、軽々に捜査権の行使の名において報道機関に対する協力などというようなことが、もし要請がなされるというようなことがあれば、たいへんなことだと思うのです。こういう点は絶対にないということ、そういうことが軽々になされることはないという点についての、憲法の精神を尊重するという点については、先ほどから何べんも御答弁がありましたけれども、ひとつもう一度御答弁をいただきまして、私の質問を終わりたいと思います。
  58. 小澤太郎

    ○小澤(太)政府委員 おことば通り、軽々にするようなことはいたさないということでございます。
  59. 中谷鉄也

    ○中谷委員 終わります。
  60. 大村襄治

    ○大村委員長代理 この際、川上参考人に申し上げますが、本日は、御多用中のところ御出席くだされ、ありがとうございました。どうぞ御退席ください。  引き続き、質疑を行ないます。岡沢完治君。
  61. 岡沢完治

    岡沢委員 私は、与えられました時間が三十分間でございますが、横浜市に起こりました水道誤接事件、それから千葉大学で起こりました採血ミス事件とあわせまして、最近の学生騒動等を中心とする暴動事件による一般市民の被害の求償問題、この三点についてお尋ねをいたしたいと思いますが、申し上げましたように、御答弁の時間も含めて三十分でございますので、できるだけ簡潔にお答えをいただきたいと思います。  日本の社会、経済がすばらしい発展を遂げたこと自体は非常に喜ばしいことではありますけれども、その反面、いわゆる公害問題あるいは交通事故の問題等、先進国に必然的と考えられるかどうかは別といたしまして、つきものの新しい犯罪あるいは社会的問題が提起されておるわけでございますけれども、本日はその公害とか交通事故問題とはちょっと性格を異にいたしまして、しかし、新しい文明社会において初めて考えられるようなケースが二つ、三つ起こってまいりました。何だか共通面があるような気がいたします。上水道を利用するということから起こった横浜の事件医学、特に献血と結びついた新しい衛生面あるいは医療面の対策と結びついた千葉大学の事件、そしてまあ、学生騒動が進歩した社会に必然的なものかどうかは別といたしまして、最も理性と知性の高かるべき学生と結びついて、一般市民が、考えられない生命、身体、財産等の被害を受ける事件、これについていずれも――公害、交通事故の場合は、率直に申しまして特別の場合でも業務上過失と申しますか、故意的な面は少ないわけでありますけれども、私がきょう取り上げようとする問題は、いずれも特定の人のミスと申しますか、過失と申しますか、不注意と申しますか、そういうことによって善良な市民が市民生活を脅かされるという点に共通面を見出せるかと思います。そういう観点から、特に被害面、それから事故発生を防止するという点に角度を向けまして、質問をさせてもらいたいと思います。  事件の概要につきまして、最初水道法違反事件、いわゆる横浜市戸塚区秋葉町に起こりました水道誤接事故に関連する事件の概要を、質問の形で言いますと時間がかかりますので、簡単に私のほうから事実を申し上げまして、それについての特に特別法違反、刑事事犯としての警察の取り調べの内容等を聞きたいと思います。  事件は、昭和四十四年五月三十一日より発生した秋葉幼稚園の赤痢集団発生につきまして、戸塚の保健所がその原因の追及過程で、六月七日に至りまして同園の水道水に残留塩素が認められないことが判明いたし、そのため保健所では水道局に通報するとともに、衛生試験所において水質試験を実施いたしました。水道局でも同日直ちに水質を調べ、残留塩素が検出されないことを確認しました。八日午前に至りまして、水道局及び衛生試験所の大腸菌群試験の中間結果から、検体の一部に、水が汚染されているのではないかとの疑いが持たれ、直ちに現地調査を行なった。その結果、水圧が低いこと、残留塩素が認められないことなどの理由から、汚染の疑いを深めた。水質検査と並行して、水道局では家庭用の井戸等と水道管が直接接続されていないか、いわゆるクロス・コネクションかどうかを中心に配水管の布設状況調査を行なった。その結果、この地区への配水管が工業用水道に誤って接続されていることが、掘さくの結果確認された、こういう事案でございます。  問題は、水道誤接についての責任の問題と、特に水道法二十三条にからむ特別法違反の事件だと思いますが、これについての捜査状況等、最初に警察庁立場から御答弁いただきたいと思います。
  62. 小野島嗣男

    ○小野島説明員 神奈川県警で本件は捜査中の事件でございますが、神奈川県警は六月十四日付の新聞記事によりまして、配管ミスのために約一年間工業用水を飲まされていたというような事件を見ましたわけでございますが、当時その地帯で集団赤痢が発生中でありまして、園児と家族を含めまして八十三名ばかりが赤痢患者になっておるというようなことで、問題を非常に重視いたしまして、事実調査をいたしたわけであります。その結果、その原因究明活動の一環として水道水の水質検査をいたしましたところ、六月七日に、残留塩素がなければならないのに皆無であったということがわかっております。六月八日に、水質基準では存在してはならないことになっております大腸菌が、検出されておるということが明らかになりました。この水道水が健康を害するおそれがございまして飲用に供し得ないということは、はっきりしたわけでございます。また、水道局の関係者の措置が適切でなくて、水道法の第二十三条の規定に違反する疑いが濃厚になりました。水道法の二十三条と申しますのは「水道事業者は、その供給する水が人の健康を害するおそれがあることを知ったときは、直ちに給水を停止し、かつ、その水を使用することが危険である旨を関係者に周知させる措置を講じなければならない。」という規定でございまして、これには「三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金」という罰則がついております。この疑いで、六月十四日に当面の責任者であります横浜市の戸塚営業所長を任意出頭を求めて取り調べましたのですが、六月八日午前中に衛生試験所から大腸菌が検出せられておるという連絡を受けて、秋葉町一体に給水されておる水が人の健康を害するおそれがあるということを聞き、直ちに給水を停止して水を使用することが危険である旨を関係者に周知させるという措置を講じなければならないのにかかわらず、それらの措置をとらないで、突発事故のために断水するということだけ公報いたしまして、その日の午後五時ごろから断水いたしまして、接続ミスの回復工事を行ない、午後八時三十分ごろに工事を完了しておったということが、明らかになったわけであります。営業所長がとりましたこの措置につきましては、対策会議を開いて協議をしておるようであります。証拠隠滅のおそれもあるということで、逮捕令状を得まして、六月十四日午後十時に宮越という営業所長を逮捕いたしまして、所要の捜査を遂げて六月十六日に検察庁に送致いたしたわけでございます。現在も関係者について取り調べ中でございまして、捜査は続行中でございます。以上でございます。
  63. 岡沢完治

    岡沢委員 いまの保安課長さんの御答弁によりますと、水道法の二十三条の違反で営業所長、関係者を調べておるということでございましたですね。そうしますと、その水道管の誤接、そもそもの原因になりました誤接ですね、この業者があるわけでございますけれども、この業者について、業務上の過失の責任というようなことは捜査の対象になっていないのでございましょうか。たしか加藤工業所というのが一年前に工事をしているわけでありますが、この面は刑事事犯としては捜査の対象にされておるのかどうか、お尋ねいたします。
  64. 小野島嗣男

    ○小野島説明員 現在、それらを含めて事実を調査いたしております。
  65. 岡沢完治

    岡沢委員 この問題は、刑事事犯というよりは、水というものは一億国民飲まない人はないわけでございますし、この事件の背景になりました誤接という事態がどうして起こったかということを調べてみました場合に、私の聞きました範囲では、道路の交通量が激しいということを勘案して夜間の作業で誤接をやった工事業者、先ほど申しました加藤工業所が多忙で、それに従事した工事人等も非常に過労といいますか、重労働、そういう点で、どうしても不注意が重なって、おまけに水道局の立ち会い検査がなされていなかったというようなことも、いえるわけであります。現実の大都市における交通量、あるいは道路工事、あるいは水道工事を考えますと、同じような事犯が起こることが十分考えられるわけでございますし、問題は、また一年間も工業用水道から接続された水を飲まされておったことが、秋葉町地区の方々の責任というよりも、どうして発見されなかったか。集団赤痢が発生して初めてわかった、非常におそろしいような気がいたしますし、全国的に同じような事案がなきにしもあらずという心配が先にくるわけでございますが、これは警察お尋ねすることではございませんが、こういう問題について、法務次官はお立ち会いで恐縮でございますけれども、一般の国民のこの不安をなくするという意味からも、何らかの対策というものを、これはやはり国としても、水道事業なんかは地方公共団体の固有の事務ではございますが、やはり考える必要があろうということで、この横浜市の一つの偶然的に発見された事故を契機にして、災いを転じて幸いにすると申しますか、今後こういう事案が起こらないための対策が必要だと思いますけれども、一応山口県知事という地方公共団体の長の御経験もある小澤政務次官の御所見を伺います。
  66. 小澤太郎

    ○小澤(太)政府委員 このような事件、またもう一件の千葉の問題、普通には責任ある人たちのやることとしては考えられないようなことでございまして、まさに無責任時代、その社会的な風潮を象徴しておるような事件のように思います。まことに残念に思います。これはしかし、法をもって処置すべき問題ではございません。御説のとおり、政府としても、国民としても、やはりおのれのすることには周到な注意を持ち、ことに人間の生命に関する問題でございますから、十分な責任を感じてやるというような風潮を醸成しなければならぬ、つくらなければならぬ、こういうことを切に感じております。この事件を契機といたしまして、国民の方々も、また局に当たる者も、十分に今後は注意するものであるということを私ども期待いたしております。私どももこういうつもりで、私ども所管に従った範囲内におきましては努力をするつもりでございます。
  67. 岡沢完治

    岡沢委員 時間の関係で、この問題の質問はこれで終わりまして、次に千葉大学の採血ミスの問題についてお尋ねしたいと思います。  事件の中身等につきましては、新聞等で詳しく報道されましたので省略をいたしまして、この事件加害者と申しますか、被疑者と申しますか、担当医師、看護婦に対する捜査等がどうなっているか、警察庁お尋ねいたします。
  68. 内海倫

    内海政府委員 千葉大学の付属病院で採血ミスによる事件がありましたが、警察におきます捜査状況を簡単に申し上げてみますと、事件の起こりましたのは、四月の二十七日でございますが、千葉県警察承知いたしましたのは、二十八日でございます。それは千葉大学の付属病院の第二内科長から、こういう事故が起こったという申告がございました。そこで現場検証あるいはこの事故の起こりました電気吸引器の押収、鑑定、あるいは被害者の家族等からの事情聴取、さらに医師、看護婦等の取り調べ、遺体の解剖というふうなことで、慎重な捜査を遂げましたが、その結果は、いわゆる採血、これは患者に輸血するために本人の血をとる、こういう状態ですが、採血に従事しました医師と看護婦が、この採血に使用いたします電気吸引器の取り扱いに過誤をおかしたもの、こういうふうに認められましたので、六月十四日に医師及び看護婦の両名を業務上過失致死罪の罪名をもって千葉地方検察庁のほうに書類を送致いたしました。
  69. 岡沢完治

    岡沢委員 捜査中の事件ですので限界はあろうと思いますけれども、業務上過失致死という犯罪が成立するということについては、お見通しがおありなのか。あるいは被疑者等は否認をしておるのか、認められておるのか、その辺のところを、お答えできる範囲内でけっこうですから、お答えいただきたいと思います。
  70. 内海倫

    内海政府委員 御承知のように、検察庁に送致して、なお検察庁におきまして係属中の事件でございますから限度がございますが、千葉県警察からの報告によれば、一応警察捜査の段階におきましては、業務上過失致死罪としての心証は十分証拠その他において出ておるようであるし、また、両名の被疑者においても、そのような事実は一応警察段階においては認めておるようでございます。
  71. 岡沢完治

    岡沢委員 この事件は、善意の健康体の供血者が医師及び看護婦の全く初歩的な単純なミスによって死亡させられた事件でございます。献血の必要性いうものは、交通事故等と関連いたしまして、これからきわめて要求される国民的な、ある意味では義務とも考えるべき行為でございますが、もしその献血意欲と申しますか、善意の献血者がこういう事犯のために献血をおそれるということになれば、社会的な影響も大きいと思うわけであります。そういう点につきまして、いままで医師の過失事件というものは、なかなか裁判所等でも実際に有罪になるのはむずかしい。被害者の実感からした場合、業務上過失の成立――裁判所の判断、あるいは捜査当局もその捜査について非常に苦労をなさりながらも、実際は不起訴事件になる事案が非常に多い。今回の場合は、たまたま健康体の人が被害を受けたということで、明らかなミスということを専門的な立場からも否定できなかったのかもしれませんが、それにいたしましても、人を助ける立場医者が健康体の人を殺したという結果に至った事案を、私はやはりそう軽く考えてはならないのではないか。先ほど小澤次官のほうから、無責任時代の象徴的なというお話がございました。私もまさにそういう感じがいたします。これは私たち自身の反省も含めまして――私は、最近新聞、テレビを見るたびに、国という名のつくところにあまりにも無責任な行為が多過ぎるのではないか、国会もそうかもしれませんが、国立大学、国立病院、国鉄、事故を起こすのはどうも大体国と結びつく官庁なり職域に多いということは、お互いに身を戒めましてしかるべきではないかという感じがいたします。この事件によって、先ほどちょっと指摘しました献血運動その他に影響はなかったかどうか、医事課長出席でございますので、お答えいただきたいと思います。
  72. 黒木延

    ○黒木説明員 ただいまの御質問でございますが、事件発生後の状況でございますけれども、直接には薬務局が所管しておりますが、献血運動のほうに影響を及ぼしたかどうかは、ただいまのところ私はつまびらかにいたしておりません。
  73. 岡沢完治

    岡沢委員 それからこれはなくなられた杉井さんという被害者には申しわけないのでございますけれども、なくなられた方の気持ちからしても、死はやむを得ないとして、せめて災いを転じて福となすという、先ほどの水道事件ではございませんが、この事件の場合、間違った処置を受けられた四月二十七日にすでに脳死の状態で脳波が停止したまま四十二日間生き続けられた。ある意味では医学上貴重な資料を提供せられたのではないか。いま問題になっております心臓移植、臓器移植等と結びついて、ある意味では貴重な資料ではなかったかと思うのでございますが、その点について、専門家の医事課長から、何か特別のこの事件のプラス面といいますか、学界への貢献といいますか、そういう面での資料なり御報告を受けておられるか、あるいは医事課長御専門のお立場から取り上げていただくべき課題がもしあるとすれば、お答えいただきたいと思います。
  74. 黒木延

    ○黒木説明員 ただいまの採血の件につきまして、採血のほうに影響を及ぼすかどうかにつきましては、ただいまお答え申し上げましたように、いまの段階では私どもつまびらかにいたしておりませんが、献血関係につきましてこの事件が影響を及ぼすのじゃないかという心配があるということは、御指摘のとおりでございます。これによりまして、まず採血関係、特に献血関係を担当しております日本赤十字社あるいは都道府県等のいわゆる血液センターでございますが、そういうところを中心にいたしまして、薬務局のほうから、こういうことを再度起こすようなことのないようにということにつきまして、十分の指導と監督を強くいたしたところでございます。それにつきまして、ただいまの杉井さんが御不幸にもおなくなりになりましたが、非常な長期間といいますか、いろいろ千葉大も相当手を尽くしたようでございますが、そういうところで、死の判定の問題ということにつきましては、確かに一つの問題を提供されたということは考えられるわけでございます。現在のところ、各学会、特に臓器移植学会につきまして、先ほど御指摘にもありました臓器移植関係の問題につきまして、死の判定の問題とさらに臓器移植の関係につきましての一つの制度といいまずか、あり方の問題ということについて、学会のほうで現在検討中でございます。この事例もまた、その場合に非常に貴重な参考となるということは申し上げられると思います。
  75. 岡沢完治

    岡沢委員 時間の関係でこの問題についてはこの一問だけで終わりますけれども、申し上げるまでもなしに、国立大学であります千葉大学の付属病院の事件であります。担当の笠貫医師、多田看護婦、いずれももちろん国家公務員だろうと思います。業務上の過失が成立することはほぼ間違いない点だと見ていいと思います。この場合に、いわゆる被害者、遺族がおられるわけですが、この方々に対する賠償の問題について、あるいは慰謝の問題について、法的にどのように考えられておるか、あるいはどう処置すべきか。私はやはり医者個人、看護婦個人の責任等は離れまして、国立病院であるだけに、先ほど指摘されたように、無責任時代ということを否定する意味からも、国家の責任あるいは大学の責任というものを明らかにして、誠意を披瀝して、せめて遺族の方々に償いをさしてもらうということは当然だと思いますが、法的に見て、この補償関係あるいは求償関係あるいはその後の処置等についての内容等をお尋ねいたします。――それじゃ、最初に新谷民事局長から、一応理論的に、国の責任について……。
  76. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 医師の責任でございますが、医師なり看護婦に重大な過失、また重大な過失とまでいかなくても、通常の過失でもいいと思いますが、不法行為の要件を備えるような事実があったといたしますれば、この当人が不法行為上の損害賠償責任を負うことは、当然であると思います。なお、使用者の関係も出てくる可能性もございます。学校の内部の関係等も十分究明いたしますれば、あるいは使用者責任が国に及ぶということもあり得るかとも思います。
  77. 岡沢完治

    岡沢委員 法制局のほう、見解は同じでありますか。
  78. 真田秀夫

    ○真田政府委員 国立大学の付属病院で診療行為を行なうに際しまして、そういう職員の過失がもとになって損害が起こったということになりますと、いろいろな責任が考えられますが、先ほど刑事局のほうでも問題にしておられましたような刑事上の責任――業務上過失致死という刑事上の責任が一つであります。それから被害者との関係では、いま民事局長がおっしゃったとおりでございます。  なお、厳密にいいますと、公務員法上の責任とか、あるいは医師法の行政処分の責任になるかならないか、これはもう少し事実関係によりますけれども、そういったもろもろの責任が発生することは、法制上はそういうふうに考えます。
  79. 岡沢完治

    岡沢委員 民事局長の知っておられる範囲でけっこうですが、あるいはきょう御出席の中でわかっておりましたらお答えいただきたいのですが、この杉井さんの遺族の方に、国なり、あるいは大学なり、あるいは病院なりから、何らかの弁償措置あるいは慰謝の措置をとられたかどうか、その辺のことをお聞きします。
  80. 上田明信

    ○上田(明)政府委員 私の所管外でございますが、最近は、医師の責任を民事上追及されて、国側が負けるという事件がわりに多かったような記憶がございます。それだけでございます。
  81. 岡沢完治

    岡沢委員 この件について……。
  82. 上田明信

    ○上田(明)政府委員 この件については存じません。
  83. 岡沢完治

    岡沢委員 杉井さんがなくなられてから約一月たつわけでありますが、御出席の皆さんの中では、この杉井さんの遺族の方に、国なり大学という立場からの慰謝、弁償の措置はなされていないようであります。先ほど民事局長のお答えで、これは不法行為が成立すれば、第一の責任者である笠貫医師とか多田看護婦が損害賠償の責めを負うのは当然でありますが、笠貫医師の場合はいわゆる無給医局員でございますし、看護婦さんの多田さんはそれだけ弁償の能力があるとは思えないわけでございます。実際問題として、使用者責任であるか国家賠償責任であるかは別にしまして、国立大学でありますから、千葉大学なりあるいは国なりが積極的な誠意を示すということが、やはり大事な政治的な義務ではないか。先ほど無責任ということを言い合いましたけれども、しかし、まず他人の無責任を責めるよりも、国自体が誠意を示すということも、無責任時代を解消する第一歩ではないかという意味からも、被害者の遺族が納得されるような措置をタイムリーにしていただきたいということをお願いをいたしておきます。  時間がありませんので最後の質問でございますが、いわゆる学生台風というのですか、デモの被害、この被害の中身も、当該の大学自体の被害、警察の受ける被害、あるいは国鉄の受ける被害、いろいろ考えられますけれども、きょうは質問の性質からいたしまして、先ほど申し上げましたように、善良な一般市民、何の縁もない一般市民が、やはりこのデモ被害によりまして、きわめて切実な生命、身体、財産の被害を受けておるわけであります。きのうも青山学院大学で、正門のわきを通っておった民間の人四人がいわゆるゲバ学生に監禁をされ、集団暴行を受け、三人が負傷するという事件もございました。彼らの羽田闘争、神田の解放区の闘争、新宿事件、王子事件、京都では立命館大学周辺の被害、数え上げれば切りがないと思います。俗にいわれる台風として、これはやむを得ない自然的な災害と私は見るわけにはいかないと思う。しかし、実際問題としては、大部分の被害者は泣き寝入り、これは性質上加害者が特定できないというような法律上の難問もありますけれども、しかし、もしこういうことを放置しておいた場合、一般市民の政治に対する不満というか、これが起こってくるのはあたりまえのことでございますし、一九七〇年闘争ということを控えまして、こういうケースは、私は政治課題として看過できないのではないかというふうに感ずるわけであります。ここでちょうちょう指摘することは避けますけれども、民家がガラスを割られ、商売ができない、車がとりでに使われる、非常に大きな被害が広範に、しかも繰り返されて行なわれているということは、これは事実として認めざるを得ないと思います。これにつきましては、千代田区なんか、災害対策費から見舞い金を一件当たり三千円出されておる例もあります。羽田事件のときは、東京都がやはり三千円災害対策費から出しておられるわけです。おもしろいことばがございますけれども、王子病院の事件に関連しては、防衛施設庁が王子病院周辺整備費ということで百三十五万支出をされているという事実もございます。これはやっぱりこれだけ事件が続発しておるときであるだけに、こういう一般善良な何の縁もない市民に対する生命、身体、財産の被害について、実際の解決策として、補償関係あるいは国の責任について明らかにするべき時期にきているのではないか。現行法あるいは立法、両面から考えてみる必要があると思いますが、この辺について、法務省民事局長のお考え方、あるいは法制局のお考え方、最後に小津政務次官のお考えを伺います。
  84. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 学生の暴力行為によりまして、各方面に被害が生じておるわけであります。被害者の方々につきましては、たいへんにお気の毒に存ずるわけであります。すでに御承知のように、これは典型的な一般の不法行為でございます。したがいまして、故意または過失によって人の財産権を侵害したということになりますと、当該の学生が賠償責任を負うことは当然でございます。この場合は普通の場合と違いまして、集団的な暴力行為が行なわれておるのでありましくその多数の者の共同不法行為というものになりますが、だれがその不法行為を行なったかということが確認できますれば、もちろんその全員が不法行為責任を負うわけでございます。かりに何びとがその損害を与えたかということがわからなくても、民法の規定によりまして、その共同不法行為者全員が連帯して賠償責任を負う仕組みになっております。したがいまして、現在の法律上の責任を追及する方法としましては、民法の規定で十分ではないかと思うわけでございます。現実の問題としまして、加害者を的確に把握することが非常に困難であるという問題はございます。しかし、これは学生の不法行為の場合に限らず、巷間に往々見られるわけでございまして、これはやはり何らかの方法によって、その加害者を十分に把握してその責任を追及していくというほかはないように思うのでございます。ただ、学生の場合におきましては、一部ではありましょうけれども、刑事上の訴追がなされております。もしもそういうことで具体的な事実関係が明白になりますれば、少なくともその範囲の者については共同不法行為の責任が明確になろうと思うわけでございます。方法といたしましては、そういう者を相手方として訴えを起こすなり、あるいは和解なり調停その他の方法でその解決策を講じていくことも、一つの方法ではないか、かように考えておる次第であります。
  85. 真田秀夫

    ○真田政府委員 現行法をもとにしての法律的な見解は、ただいま民事局長から詳細にお答えになりましたとおりでございまして、私から何らつけ加えることはございません。したがいまして、私も、学生の不法行為によって全く無縁の方々が被害を受けられたことをたいへんお気の毒だと存じますけれども、現行法上、さればといって、いきなり国に賠償責任があるというふうにはとうてい相ならぬわけでございまして、国から何らかの救済のお金を差し上げるということになれば、もちろんそれは政策の問題でございますけれどもそういうお金は法律上はお見舞い金という性格のものにしか相ならぬだろうと存じます。  あと、現行法はそれとして、何らかの立法をはかって現実の救済をはかられるようにしたらどうかという御意見も、ごもっともと存じますけれども、それは個々の立法政策にわたることでございますので、私からお答えするのは差し控えたいと思います。
  86. 小澤太郎

    ○小澤(太)政府委員 民事局長からお答えいたしましたように、現行の民法並びに民事訴訟法の規定によって、被害を受けた者が加害者から損害の賠償を要求するということはでき得るし、またそうしなければならない問題だと思います。現に私聞いておりますのは、羽田空港の食堂の被害の事件で、これは加害者がはっきりしないということでありましたが、検挙いたしまして、それは起訴したかどうか知りませんけれども、明確になったものを相手として、いま民事の訴訟をしておるということを聞いております。私は、こういうようなことで、被害者が現行の法規に従ってその権利を民法上主張していただくということが、大事だと思います。それから自治体等におきまして見舞い金を出しておる、これもまた一応私はうなずけると思います。あるいは聞いておりますところによりますと、アメリカでは州法等によりまして、ニューヨーク州ですか、当然に州から被害者に対する補償をしておるということもあるようでございます。しかし、これは考えてみますと、不法な行為をあえて行ないましてそして他人に損害を与えた者、それに対する見舞い金にしましてもあるいは補償にいたしましても、善良なる国民なり市民なりから出たところの税金でございます。それを不法なることをあえてし、法律を犯して暴虐の限りを尽くして隣人に被害を与える、そういうものの損害を善良なる市民の負担において行なうということの道徳的な、あるいは法理上の矛盾があると思います。私は、見舞い金としての処置は別途やはり政治的な考慮からこれを否定するものではありませんけれども、法制的にこれを裏づけいたしまして、国家なり地方自治体がこれを賠償するということにはならない。それよりも、むしろ加害者に対しまして法の許す限りにおいてあくまでもその違法を追及する、損害の賠償を要求する、こういう法を守る慣習というものを打ち立てていきたい、このように考える次第であります。これは私の個人的見解でございまして、法務当局と十分に検討したものではございませんけれども私は、政治家としてそのように感じておることを申し上げる次第でございます。
  87. 岡沢完治

    岡沢委員 時間がございませんので、あと一、二分意見だけ述べさせていただきたいと思いますが、理論的には民事局長のお答えのとおりだと思いますが、私から申し上げるまでもなしに、民事局長自体が、実際に裁判がやれるか、またやる価値があると考えられるか。先ほど次官がお答えになりました羽田事件にいたしましても、いまだに解決されてないわけでございますし、加害者が特定できない。かりに特定できましても学生、これは資力の面から、全く無意味な裁判被害者とすれば裁判費用だけさらにばかを見るというのが、現実問題といたしまして落ちだろうと思います。法律的な問題は別といたしまして、この種の被害がいわば公害というような性格――政治不信その他もございましょうが、全く災害と同じような、あるいはまた公害的な要素を持っているだけに、これに対する救済は、次官おっしゃったような意味で政治的に無視できない。したがって、法律的には責任がないのだからということで、ほんとうに善良な一般市民にまで国に対する、あるいは地方公共団体に対する不平、不満を助長するということは、やはり一つの大きな社会問題、政治課題だと思います。外国の立法例等も参照していただき、加害者の本人たちの責任を無視したりあるいはこれをかばう意味では全くありませんが、やはり善良な市民の生命、身体、財産を守るというのが国家の大きな義務でもあろうかと思いますので、その辺の処置についても今後前向きの御検討をお願いいたしまして、私の質問を終わります。
  88. 大村襄治

    ○大村委員長代理 山田太郎君。
  89. 山田太郎

    ○山田(太)委員 私は、きょうは人権擁護局のあり方について、具体的な事実等からもまずお伺いしてみたいと思っております。同時に、厚生省当局の処置あるいは考え方も、あわせてお聞かせ願いたいと思っております。  そこで、先日の中央学院の事件に引き続いて、鹿児島県においてオレンジ学園の――重度心身障害児童の収容施設でございますが、このオレンジ学園についての事件も、当然人権擁護局においても一応の調査はされておることと思います。ことに人権擁護局にあっては、鹿児島県の法務局に一応の申し立てがあったということも聞いております。そのときに、その法務局はそれを受理したのかどうか。私の聞く範囲では、それは受理しなかったというふうに聞いております。まず、その点について明確にしていただくとともに、このオレンジ学園事件が表面化して、人権擁護局としてはどのような動きをしておるか。参議院の同僚議員からも、具体的な質問についてはせんだってもうすでにやっております。しかし、その質疑の経過を見ると、非常にかみ合ってないまま次回に送られたようでございます。したがって、きょうの立場は、そういう意味において、人権擁護局が知れる範囲、あるいはどのような初動を開始しておるのかというような点について、まずお伺いして  おきたいと思います。
  90. 上田明信

    ○上田(明)政府委員 お尋ねの鹿児島県のいわゆるオレンジ学園における児童に対する虐待事件に対しましては、鹿児島地方法務局から、あらまし情報の収集をやっておったわけでございます。そしてこれは立件調査したいという報告が私のほうに参りました。だから、先生お尋ねになったころはまだ立件調査してなかったかもしれませんが、私のほうは直ちに立件調査するように掲示いたしました。これが十七日のことでございます。六月二十七日に報告が参りましたので、それまでに大体情報の収集はやっておったようでございます。その端緒となりましたのは、本件は鹿児島県議会における公明党議員の県当局に対する質問がもととなったのでありまして、申告に基づいたものという報告は受けておりません。いわゆる私のほうでいう職権でといいますか、やった。つまり公明党議員の県当局に対する質問がもとになって新聞に出た、そこでわかったというので、直ちにその議事録をとりまして読んだところ、これは人権問題だということで新聞その他の情報を収集した、そして立件するつもりだという報告があったので、おまえのとおりにやれというように私のほうから指示したのが、実情でございます。したがって、申し立てがあったということの報告は受けておりません。しかし、立件調査せよという指令は出しております。したがって、調査中でございますので、具体的なこういう事実があったのかなかったのかということは、私のほうではいまだにわかりません。しかし、もしこういう事実がありましたら、本人に対する私のほうのとれる処置をとるということになろうかと思います。
  91. 山田太郎

    ○山田(太)委員 擁護局における調査中であるということは、これは当然のことであるし、また了としておきましょう。申し立てがなかったということは、これは私の知る範囲では、新聞報道では、申し立てをしたのが、それが法務局において受理されなかったという報道がありますので、この点は水かけ論になってもしようがありませんが、その点を補足しておきます。これは、またあとで調査してもらいたいと思います。  そこで、厚生省当局のほうにもお伺いしたいのですが、このような弱い立場の重度心身障害児童の虐待事件、あるいは三十数名にわたって短期間に死亡する児童が相次いでおります。   〔大村委員長代理退席、進藤委員長代理着席〕  ことに不注意のために、マットと寝台の間に首を突っ込んで、そしてその結果死亡に至った、そういう児童も、これは事実あるようでございます。警察の動きは、まだ明確には聞いておりません。しかし、このような虐待事件あるいは過失がもし事実であったとした場合、厚生省の立場として――事実園長の使嗾なりあるいは指示がなければ、当然園長の刑事責任はないことになるのはいまの法理論からいって万やむを得ないことではありますが、そのようなときに、厚生省としてどのような処置を講じるのか。全く園長に責任はないとは言えない。まだ調査中でございますという答弁しかできないかもしれぬ。しかし、それでは、厚生省の責任としては納得できないわけです。そこで厚生省として、現地に調査官を派遣しておるかどうかということと、そのような事実があったときは、園長の責任はどうなるのか、厚生省としての処置はどのようになるのか、その点について、厚生省当局のほうからお伺いしたいと思います。
  92. 今泉昭雄

    ○今泉説明員 ただいまの点でございますが、現在、県の衛生部と民生労働部のほうで合同して調査団を編成して詳しく調査を行なっているというふうになっておりますので、厚生省といたしましては、その結果をまっていま申しました点につきましていろいろ善処してまいりたい、このように考えております。
  93. 山田太郎

    ○山田(太)委員 県の衛生部あるいは民生労働部において調査しておることも、知っております。しかし、このような事件が全国に数十カ所あるにもかかわらず、それを県当局だけに調査をまかしているが、厚生省として係官を派遣してこれを調査すべきではないかと思うのですが、その点について、厚生省はその報告を待っておればいい、そういう考え方ですか。
  94. 今泉昭雄

    ○今泉説明員 その報告の自体の状況によりましては、現地調査ということも考えられます。
  95. 山田太郎

    ○山田(太)委員 私の言っているのは、厚生省当局が、本省側が、もっとこういう事件に熱を入れたらどうか。直ちに係官を派遣するぐらいの熱を入れたらどうか。ついせんだって、中央学院の問題があったばかりです。また、引き続いてオレンジ学園、それを現地の調査だけにまかしてすましておる。もし事実があれば、それから調査する、それではあまりにも怠慢ではないか。その責任は、厚生省として追及されてしかるべきだとさえ言いたくなるわけです。
  96. 今泉昭雄

    ○今泉説明員 状況によりましては、直ちに調査をいたしたいと思いますが、現在は、鹿児島県当局がいろいろ調査中でございますので、その状況報告をまちまして判断してまいりたいと思っております。
  97. 山田太郎

    ○山田(太)委員 同じ答弁が二度出てくるのですが、状況によっては直ちにというけれども、直ちにの前に状況ということばがある。これでは、厚生省の不誠意ということを糾明せざるを得ません。もしも万一こういう事件がまたも出てきたような場合、厚生省の責任は、そのような怠慢な不誠意な姿では済まされないと思うのです。同じ厚生省の局長として、所管は違いますが、今村局長にその見解をお聞きしたいと思います。
  98. 今村譲

    ○今村(譲)政府委員 お答え申し上げます。おっしゃいます御趣旨のとおりだと思います。たとえば、これは児童局ではありませんが、埼玉県にある病院があって、いろいろ不正あるいはその病院内にいろいろ傷害事件があったというので、県がいろいろ監査をしまして、新聞にも載り、それで県と打ち合わせて、それではひとつ本省が出ようかということで、すぐに数名の監査官にお医者さんを五、六人、計十人くらいの一団でこちらから乗り込んでいく、そういう場合もございました。それで結果において、県のほうは解散命令を出すというような事件も、最近ございました。ただ、私ども気にいたしますのは、県が第一次的な監督の責任を持っておりますので、県の民生部長なり知事さんなりが監督の責任を持っているので、こっちから出ます場合には、やはりこっちから出るのがいいかということを県に聞き、県のほうも一応全部調べるだけ調べたが、やはり本省からも出てきてもらわなければ困るというようなやりとりを実はやるわけです。局が違いますので、このオレンジ学園事件につきましては、詳細は存じませんが、おそらく県議会でもいろいろもめた事件であろうと思います。したがって、県知事のほうとしても、真剣にいま調べているであろうし、その状況によっては、本省にもすぐ出てきてくれ、こういう連絡を、おそらく児童局長としては待っているのではないか。ほんとうを言えば、すぐそれをやりますといいわけですが、すぐ行くと、県のほうの第一次の監督の責任ということとぶつっかってまいる場合も出てきます。その辺で、いろいろ手続の面でその連絡を待っているのではないか。これは監査の要員もおりますし、お医者さんもおりますし、精神病のほうの専門医もおりますので、いつでもそれは出動できる体制にあるのではないか、こういうふうに考えますが、これは、さっそく私どもも県のほうと相談の上、本省も出てこいということでしたら、飛行機ですぐにも行くことができますので、そういう事態でありますことを御了承願いたいと思います。
  99. 山田太郎

    ○山田(太)委員 局長の答弁で一応了承しておきましょう。ただし、不誠実な解決のないように、本省としても係官を派遣するというくらいの措置をとってもらいたいと思います。  そこで、時間がないので、まず本題の老人の福祉の問題に移っていきたいと思います。  そこで、せんだって法務省の役人の家族の中で、嫁のしゅうとに対する殺人事件がありました。これはすでに新聞で報ぜられたとおりでございますが、人権擁護局として、老人の人権の問題について積極的な人権擁護局の処置がとられていないという感じを受けるわけです。申し立てがあってから動く、あるいは事実を発見してから動く、そういうふうな弱い人権擁護局の態勢というものが、基本的人権を守るという立場からいっても、これは非常に間違った方向ではないか。この点は、当然司法のほうにおいて起きた一つ一つ事件については措置されるでありましょうし、それに至るまでの事柄については人権擁護局でも措置されるでありましょうが、もっと弱い立場の児童なり老人なり、ことに老人の人権に対して積極的な人権擁護局としての措置を講じてもらいたい。未然に防ぐ、その使命が人権擁護局にあるのではないか。時間がないから、こちらのほうから先に言うておきますが、その点についての擁護局長並びに政務次官のお考えを聞いておきたいと思います。
  100. 小澤太郎

    ○小澤(太)政府委員 山田委員の仰せのとおり、最近、老人が大事にされないというような世相でございまして、実に私ども遺憾に思っております。これは一つは、家族生活が、いわゆる核家族と称して、老人なしに夫婦だけで別の生活をする、こういうふうな生活の実態からくる、したがって、老人を大事にしないというような実態からくるものもあろうかと思います。また一つには、風潮からいたしまして、たとえば家族制度がなくなった、もう親は関係ないんだ、こういうふうな間違った考え方、ことに子供の親に対する扶養義務もなくなったのだ、こういうふうな間違った考え方というものが、やはり世間にあるようでございます。これは人権擁護という立場ももちろんでございますけれども、もっと広いいわゆるホームライフというものが、家族生活というものが、親と子供、孫を含めて、これが社会生活の基本であり、単位であり、社会生活というものが今度は国民の生活を形づくっていくその基本になるんだという認識ですね、これがやはり必要だと私ども思います。そういうことを私どもだけでは、人権擁護立場というような立場だけでは不十分でございますので、これは政府あげてそのような方向にいかなきゃならぬ。たとえば敬老の日というのをつくりました。つくりましたけれども、その一日だけおとうさんを大事にしただけで済んだというような感じでは困る。こういうようなこともございまして、私ども非常に心配しておりますけれども、もちろん人権擁護立場からも積極的ないろいろな方法は講じたいと思います。ただ立場上、人権を持ってこられたときに私どもは発動するというような仕組みになっておりますので、おっしゃるような積極的な措置は、私どもだけではできがたい、こういうような気持ちでおるわけでございます。
  101. 上田明信

    ○上田(明)政府委員 私のほうの所管と申しますか、やるべきことは、いろいろ法律できまっておるわけでありますが、その中で、私のほうで老人との関係で問題になってまいりますのは、人権侵犯事件として老人が虐待されているというような場合に、その虐待をやめさすというような、いわゆるそういう調査、処理を通じて老人の人権を守るというようなことが許されております。もう一つ、啓発宣伝と申しまして、われわれといたしましては、そういうことの起こらないように、国民の一人一人にそういうことのないようにという啓発宣伝をするのが、一つ仕事になっております。過去におきましても、講演、座談会、パンフレットその他を通じまして、老人を敬い、大切にしなさい。老人というものは、いまも御指摘のございましたように、過去において国家社会に貢献のあった人で、しかもいまは弱者になっておる人であるから、十分尊重し、大事にしなさいという啓発活動を行なっております。そうして老人の日あるいは人権週間というような場合には特に力を入れて啓発しておりますし、本年度は特に家庭における人権というものを重点目標に置きまして啓発宣伝をするつもりでおります。家庭における人権となりますと、重点になりますのは児童と老人でございまして、今年度は特に老人について、一般の国民に老人を大切にせよというふうに、大切にしなければいかぬという啓発宣伝をいたす予定であります。で、現在やっておるわけでございます。
  102. 山田太郎

    ○山田(太)委員 その点は、よく承知しております。そこで要望しておきたいことは、いわゆる人権擁護局のあり方として消極的ならざるを得ないという考え方、そういうあり方というものを少し改めて、方法を講じて改めて、いまの老人の方々は、戦時中あるいは戦後非常に苦しい中を子供を育て、国に貢献し、そうしてやっと落ちつくとなると、すでに時代の潮流が、家族構成が変わってきて、核家族のその趨勢の中に、はみ出された老人として苦労しておる人が多いわけです。こういう立場の老人の人権を擁護する、それを積極性を持って、人数が足らないなどと言わないで、各地あるいは市町村にはやはり人権擁護委員の方々がいらっしゃるわけですから、当然そういう方々にも御協力していただいて、老人の方々の生活状況あるいは意識調査なり、そういうものも積極的にやっていくべきではないか、そういう点を要望しておきたいと思いますが、いかがでしょう。
  103. 上田明信

    ○上田(明)政府委員 ただいまのお説はごもっともなことと思いまして、われわれといたしましてもぜひそういうふうにやりたいと思って、一体老人の人権は現在どうなっておるかということを調査したいのでありますが、いま申されましたように――先に言われたのでありますが、人間が少ないものでありますから、どうしても人権擁護委員、これは全国に九千二百名おいでになりますが、こういう方々の御協力なしでは実際問題としてやれない。だから、われわれといたしましては、人権擁護委員の方々の協力をお願いして、老人の現状、人権の現状というものを実態調査をすべく現在検討しておるわけでございます。
  104. 山田太郎

    ○山田(太)委員 そこで政務次官、並びにきょうはおいでにならない大臣にも、その点はことに強力に要望しておきたいと思います。  時間がないので次の問題点に移らしていただきます。老人の問題は、当然住居あるいは生活費の問題が――精神的な面は大切でありますが、それを除いて考えた場合、この住居と生活費の問題が、非常に大きな問題になると思う。ことにきょうは建設省の方にも来ていただいておりますが、いまの公営住宅は、二DKとかあるいは二LDKとか、そういう公営住宅が核家族からはみ出す老人を非常に多くしているということも、当然考えられるわけです。時間のない関係上要点だけをこちらのほうからお伺いしたいと思いますから、その点について今村局長あるいは老人福祉課長――ことに老人福祉課は、昭和三十八年でしたかできて、それから後の非常に意欲的な努力は多とするものがあります、非常に敬服に値します。と同時に、そういう住宅の問題を建設省とタイアップして――長期的な計画もまだできてないそうでございますが、これは早急に目標をきめて住宅の長期的計画を立ててもらいたいという計画を局長のほうからお話ししてもらいたいと思いますし、またこれについて当然建設省の側でも、現在すでに昭和六十年を目ざしての住宅宅地審議会も行なわれていることですし、それに十分その要望を盛り込んで、コロニーとかあるいは分層アパート、たとえば一階に老人あるいは老人夫婦が住まい、二階、三階に若夫婦が住まう、あるいは老人向けのアパート、こういうものも当然考慮すべきではなかろうか。と同時に、いわゆる養護老人ホームとか、あるいは軽費老人ホームとか、あるいは特養老人ホームとか、そういう点において日本においての老人ホームは諸外国に比較して非常に少ないということが、厚生省の統計にも出ております。非常におくれております。日本の国の総生産は世界の自由国の第二などといいながら、ものすごいおくれをしております。この諸外国の例を引きながら、このようにしていきたいということを、建設省はもちろん、今村社会局長から答弁してもらいたいと思います。
  105. 今村譲

    ○今村(譲)政府委員 お答え申し上げます。いま先生お話しのように、家族制度の崩壊、おそらく諸外国が一世紀かかって世帯が核家族化したものを、昭和三十年から昭和四十年、十年間でもうその線にくるというふうな非常な変動の時期でございまして、それで、ただいま結論だけ申し上げますと、六十五歳以上が約六百九十一万、約七百万でありますが、老人ホームは、とにかく明治以来いろいろつくりましたのが全部で大ざっぱに申しまして七万人分、老人人口の一%分ちょっと切れるというふうなことでございます。しかも老人人口がどんどんふえてくる。諸外国につきましては、老人人口の四%あるいは五%ということでありますから、三倍にしても二十一万人分くらい、現在七戸としましてしなければならないというふうな意味で、私どもはとても家族制度の変貌過程、あるいは西欧の水準に一気に三年、五年にいけるものではないというように思いますけれども、少なくとも全老齢人口の二%あるいは二・五%くらいの線までは、たとえば十年なら十年のうちに追いつかなければならない。ことにそのうちの寝たきりたれ流しの老人といいますか、非常にたいへんな人が、日本全国で四十万人くらいおります。家族構成から見て世話ができないという人が、数万人おります。そういう点を重点的にしていって、大体二%くらいから三%の線まで持っていかなければならないということで、こういう長期計画をつくろうということでいま内部でいろいろ検討いたしておりますが、社会福祉審議会の老人部会というものに、この前厚生省が老人福祉全体の対策、ことに施設整備の問題を中心として諮問をいたしておりました。その点はわれわれとしては十分努力をいたしたいというように思います。ただ問題は、施設は厚生省でよろしゅうございますけれども、いま先生お話しになりましたように、いわゆる老人住宅、あるいは一階が老人夫婦で二階が若夫婦、スープのさめない距離に住宅をつくるというふうなことにつきましては、建設省の御所管でありますので、私どももしばしば建設省にいろいろ事情を申し上げて、長期の住宅建設の中に老人問題を特に御考慮願いたいというふうなことをいろいろお願いしておる。共同で研究いたしていきたいというふうに考えております。
  106. 上野洋

    ○上野説明員 建設省では、公営住宅を中心にしまして、老人世帯向けの建設をいたしております。公営住宅は、御承知のように、低額所得者のための低家賃住宅でございますが、その中でも特に特定目的住宅と称しまして母子住宅、老人向き住宅等について、老人福祉御当局とよく相談いたしまして優先的に割り当てている実情でございます。四十年から開始いたしまして、四十四年度までに約二千九百戸ほどの老人世帯向けの住宅を建設しておりますけれども、御指摘のように、老人世帯全体の数からいいますと、決して大きな数ではございません。そこで、これはもう十分に各事業主体のほうに話をいたしまして、老人福祉当局ともよく相談をして、優先入居をはかれというような指示をいたして、できるだけ老人の住宅をつるようにいたしたいと思います。
  107. 山田太郎

    ○山田(太)委員 最後の質問をしておきます。私は、質問に具体的な事項も入れたはずです。ただ時間がないからこちらから話をしたのであって、たとえばコロニーにしても、あるいは分居住宅にしても、あるいは老人ホームの問題も、長期計画を立ててください。これはいまおっしゃったように、各国から比べると非常に少ないです。あわせて生活費の問題だって、他の国から比べると、日本の場合は老齢福祉年金は他の国の十分の一から二十六分の一です。そんなに低いいまの状態です。きょうは係が違いますからそれは問題にしないけれども、非常にこれは問題です。したがって、いま問題にしたいことは住居の問題、コロニーとか、分居住宅、あるいは老人向けのアパート、そういう問題についての具体的な答弁をいただきたかった。ただ漫然としたそういう答弁をもらいたかったわけではない。また、建設省のほうとしても、当然多くするように努力いたしますという、そんな答弁なら、だれだってできることなのだ。いままで住宅計画は何をやっておったのだと言いたくなる。それについての具体的な答弁を両方から、建設省のほうからも、あるいは社会局長のほうからも、いただきたいからこそ、ぼくはさっき具体的に聞いたのです。それに対しての具体的な答弁をしてください、それで終わりますから。
  108. 今村譲

    ○今村(譲)政府委員 抽象的に申し上げましたが、こういうことでございます。大体六十五歳以上七百万、これは今後どんどんふえます。それに対して現在〇・九七、約一%くらいしかない。これは世論調査あるいは老人の実態調査いろいろで、希望としては三・五%あるいは四%くらい老人ホームに入りたい。それはいろいろございます。しかし、いろいろな点を考慮いたしまして、長期十カ年計画で約二%くらいまでは持っていきたい。その後も続けますけれども、ということで、その中においては、普通の老人ホーム、あるいは特別の寝たきりのホーム、あるいは軽費の老人ホームというふうなものをどういう配分で、どういうかっこうにして、立地条件はどういうふうに変わるかというようなことを、いまいろいろ事務当局がやっていると同時に、社会福祉審議会のほうにも諮問をしておる、こういう状況でございまして、現在ここではっきり申し上げられるようなケースは、まだ固まっておりません。しかし、現在七万ぐらいしかない老人ホームについては、少なくとも二倍前後というものを年次計画で早急につくりたいというふうなことで、いまいろいろ作業をやっております。それから建設省の住宅局の住宅関係とかみ合わないそちらのほうにつきましては、今後どういうふうに建設省のほうでお考え願えるか、こちらの希望なり何なりを省のほうに申し上げているような段階でございます。どうせこういう住宅計画というのは、ときどき改定になります。したがって、その中になるべく多く入れていただきたいということでございます。  それともう一つは、公営住宅というのは単身者は入れない。老人ですから、いつどんなことになるかわからない。しかも相当健康であって、仕事にもついているというふうな単身者については、これも住宅対策でいくのか、または普通の老人ホームのように、ほとんど仕事についていないという弱った人たちではなしに、その中間の者を住宅対策の中でいくか、あるいは西欧によくございますが、老人のパンションみたいなものがありまして、一階には管理人と看護婦さんみたいないわゆる世話をする人が二人か三人おりまして、しかもその形というものはいわゆる住宅的なもので、煮たきも全部自分でして生活をするというようなものでございまして、そういうタイプの施設というかっこうでいくか、あるいは住宅対策の中に盛り込むか、その辺がちょうど接点のような問題がございますので、その辺をどうするかということは、今後われわれは詰めますが、建設省ともいろいろ御相談申し上げたい。新しいタイプの中間的なもの、そういうものをいま詰めつつあるという段階で、ひとつ御了承いただきたいと思います。
  109. 上野洋

    ○上野説明員 まず、長期計画についてでございますけれども、四十六年から第二期の五カ年計画が始まりますので、その五カ年計画の中で老人住宅をどういうような数字、どこに配分するかということについては、厚生省とも十分御相談いたしまして詰めたいと思います。なお、現在やっておりますのは、立地を当然考慮しなければいけない、それから老人の方だけの団地ということよりも、むしろ一般団地の中に融合するような形でお住いなさっているほうがよろしいのではないかというようなこと、あるいは平家の場合はもちろん平家に入っておりますけれども、都市の再開発や立地等のこともございますので、たとえば五階建てのアパートを建てたときは一階にお入りいただくような考慮を払うとか、あるいは特殊の設計の配慮あるいは庭園等を整備いたしまして、余暇利用をできるだけするようにするというような配慮も講じまして、現にやっている次第でございまして、四十三年度でたいへん少のうございますけれども、七百十戸ほど計画をいたしており、いま建設中でございます。
  110. 山田太郎

    ○山田(太)委員 終わります。
  111. 進藤一馬

    進藤委員長代理 松本善明君。
  112. 松本善明

    ○松本(善)委員 まず、いま東京都議会の選挙が行なわれておりますが、この選挙違反の取り締まりの問題について、少し伺いたいと思います。  選挙が公明に、公正に行なわれるということは議会制民主主義の基礎であるということは、これは言うまでもないことであります。正々堂々と選挙戦が行なわれ、そしてその政策宣伝が周知して、選挙民が各政党の政策でありますとかあるいは候補者の識見だとか経歴、そういうものを十分知って判断することができるような、そういう状態をつくることがどうしても必要なんではないかというふうに考えます。これについて、まず第一に政務次官に御意見をお聞きしたいと思います。
  113. 小澤太郎

    ○小澤(太)政府委員 選挙が公正に行なわれなければならぬということは当然のことでございまして、これに対する妨害あるいはその他の事犯というものは、それぞれ法に照らして厳重に取り締まるべきである、かように考えております。
  114. 松本善明

    ○松本(善)委員 東京都議会の選挙の中でこういう事件が起こっておりますので、少し申しますが、中央区で七月一日、八丁堀で午前七時から九時の間に候補者のポスターが破られた事件がございます。これはすべてわが党の場合であります。日本共産党の場合のポスターです。新宿区で七月一日の昼から夜にかけて、牛込の神楽坂で候補者のポスター三枚がペンチで切られております。七月二日、新宿区で候補者のポスターが破られておる。戸塚、戸山、大久保、落合地域では公営掲示板のポスターがはがされております。豊島区では、巣鴨四丁目、清和小学校前の公営掲示板で、候補者ポスターに何か薬品がかけられております。これは選管が立ち会いの上取りかえました。それから板橋区では、六月二十八日午後十一時ごろ、小茂根町二ノ十四ノ十五の住宅のへいに張った候補者のポスターが破られております。これは犯人が逮捕されておるようです。江戸川区篠崎町で証紙二枚が取られておる。葛飾区では六月二十八日、ポスター四枚がコールタールでよごされて、二十九日は四、五枚持ち去られております。立石では白ペンキでよごされております。それから江東区では、深川森下地域と南砂川地域で証紙を取られております。台東区では、ベニヤ板に張った候補者のポスターがペンチで切られておる。目黒区では、六月二十八日、ポスターを張って一時間後に、公営掲示板のポスターが公明党のものを除いて全部墨を塗られております。それから渋谷区の本町では、証紙をマジックでよごされております。渋谷区神宮前三ノ二十七の住宅のへいに張った候補者のポスターが破られております。これは犯人は逮捕されておるようであります。こういうポスターの破損というのが、あるいは証紙をはがすということが、全都的に行なわれておるわけです。  こういう事態について、これは選挙の自由妨害というのは申し上げるまでもありませんが、長期は四年の懲役または禁錮ということで、公務執行妨害とか贈収賄、名誉棄損とか信用棄損とか業務妨害なんかの長期三年のものと比べても、非常に重視しておるというものであります。全都的にこういうことが行なわれているという事態について、警察の取り締まりは一体どうなっておるのか、どう考えておるのか、意見を聞きたいと思います。
  115. 内海倫

    内海政府委員 お説のように、選挙法令の違反の中でも、選挙の自由を妨害するというふうな犯罪は、たとえば買収供応等と並んで、私どもも最も悪質な違反であるという観点で重視をいたしておるものでございます。いかなる選挙の場合でも、そういうふうなものについては、警察としましては厳重な取り締まりを行なっておるところであります。私どもも全国に対しまして、選挙のつどそういう方針は強く指示いたしておるところであります。現在、東京都におきまして都議会議員の選挙が行なわれております。まだ私ども警視庁から取り締まりの対象となる違反の状況というふうなものの個々の問題についての詳細な報告は聞いておりませんけれども、いま松本先生の仰せられたようないろいろな自由妨害にわたるような違反が行なわれておるということでございますし、警視庁のほうでもそういう実態を把握しておる限り、これに対してはきびしい措置をとっておるものと私どもも考えております。もし、いま仰せられたような事例について警視庁のほうで承知しておらない――これはおわかりいただけますように、警察のほうで事態を現認したとか、あるいはそういうふうなものを発見された向きから直ちにお知らせをいただくというふうなことでないと、ポスター等に対する汚損あるいははぎ取りというふうなものは、なかなか犯人を見つけがたいものでございます。また、犯罪の事実をなかなか知り得ないものでございますので、極力努力はいたしますが、たとえばいま仰せられたような事例について御承知になっておっても警察のほうではそういう事実を知らない場合もあろうと思いますが、いずれにしましても、最大限の力をもってそういうふうな悪質な違反については、きびしい取り締まりの手を伸べるべきである、こういうふうに私どもは考えております。いまの事例は、またよく警視庁のほうにも伝えておきたいと思います。
  116. 松本善明

    ○松本(善)委員 事例についてはそうしてもらいたいと思いますが、この選挙の自由妨害というのは予防が大切で、検挙ということ、もちろんそのきびしい取り締まりは、そういうことは絶対やらせないというふうにするために必要なのであって、やっぱり犯罪の予防という観点から、起こさせない――これだれ起こっておるということについては、警察あるいは自治省の選挙局も相当責任を感じなければならない。この予防ということについて、どう考えておられるか、警察庁の見解を聞きたいと思います。
  117. 内海倫

    内海政府委員 まことにごもっともでございまして、先ほど法務省の政務次官からも仰せられましたように、選挙の公正を維持していくために取り締まりということが行なわれるとすれば、特に自由妨害などは、そういう予防が行なわれることが一番望ましいことでございます。当然警察におきましても、夜間におけるパトロールなどもできるだけふやして、そういうふうな妨害が行なわれないような措置をとっておるものと思いますが、これも御了解いただけると思うのですけれども、何と申しましても限りある警察官の数において、非常に広大な地域の至るところに張られ、あるいは掲げられておるポスターの類について、完全に目を届かしておるということは、これはまあ現実の上ではなかなか容易なことではございませんので、この点は十分になし得ない点もあるかもしれませんが、努力としては、そういう点についても予防の手もよく講じなければならない、こう考えております。
  118. 松本善明

    ○松本(善)委員 選挙の自由妨害が非常に重大な犯罪だということについて、自治省などは、周知するためにどういう効力を払っていますか。
  119. 皆川迪夫

    ○皆川政府委員 自治省では選挙に対する周知の方法といたしましていろいろな手段、方法を講じておるわけでございますが、何よりも明るく正しい選挙をしなければならぬ。そのためには投票を獲得するための運動が公正であると同時に、候補者がそういうことを積極的に正しい方法でやっておることに対してこれを妨害するということは、これは全くそういった精神に相反するものでございます。したがって、そういうものについてはかなりきびしい罰則があるということも、十分に周知させると同時に、お互いにそういうどろ仕合いになってはたいへんでございますので、いろいろな機会を通じて、こういうことのないように、選挙管理委員会を通じて指導しておるわけであります。
  120. 松本善明

    ○松本(善)委員 どろ仕合いと言うけれども、そういう感覚ではいかぬのですよ。選挙が公正に行なわれるというのは、議会制民主主義の基本なんだ。これは断固として取り締まる――どろ仕合いになったらたいへんだ、こういうような感覚ではいかぬのです。それはさっき言ったように、公務執行妨害や贈収賄よりも、もっと強い犯罪だ、そういう考え方でいかなければいけない。もっと強力にやるように言って、次のことをちょっと聞きたいと思います。  共産党に対する怪文書が出ておる。これは共産党の東京都委員会が昨日名誉棄損と業務妨害、選挙の自由妨害で東京地検に告訴をしたわけであります。その内容をもう少し申し上げておきますと、第一は「共産党は恐しい」という見出しの、中傷デマ文書です。その中には、「共産党は七〇年安保を目標に着々と準備を進めていると聞いています。その準備とは安保が改定されるとき、都内の電力、ガス会社の機能をマヒさせ、主要道路を破壊し、すべての橋を粉砕して、自衛隊、機動隊の行動を封じてしまい、一挙に政府の転覆を計ろうとしているそうです。」と書いてある。それから、日本共産党が病院に患者を入院させた上、入党を強制したり、資金カンパをさせて人をおびえさせていると、こういうこともある。それから別の文書は「反レーニン・マルクス主義同盟」と  いう名で「勇気ある区民のたたかいを支持しよう」という見出しを用いて「共産党の「赤旗」号外やチラシがくばられた翌朝は「下駄箱から靴がなくなった」とか「自転車がとられた」とか「女性用の下着がとられた」などというぶっそうな声もきかれます」というデマを書いておる。「北区を共産党の見えざる魔の手から守るため」「区民の皆さま家庭でできることは共産党のチラシや「赤旗」の号外をうけとらないこと」と、こういうことで政治活動の自由を妨害し、共産党と所属都議会議員候補に対する選挙民の信頼を傷つけている。これは全部責任者の所在もわからない、それからどこから出したということも。全く無責任でやっているものであります。そのほか「みのべ都政を守る会」という名称で「みのべ都政の足をひっぱっているものニクイ共産党」と書いたり、「共産党が劇物くばる」という見出しで、北区生活と健康を守る会が北区役所とねばり強く交渉した結果、五年前から引き続いて北区生活と健康を守る会を通して殺虫駆除剤を希望者に無料配布するということになっている。これを、共産党が赤ん坊を殺すために意識的にやっているんだ、こういうような書き方をしている。もう一つの文書は、自民党と公明党が伸びて、社会党、民社党、共産党の退潮が予測されるという見出しの文書で「北区政治をよくする会」という名で、世論調査によに各政党の伸び率検討という形を装い、「自民党がのびると思う層には“ひいき筋”が多いのに対し、公明党がのびると思う人は、各党支持者にまたがっている」と公明党を持ち上げた上、共産党が期待されない理由と称して「二重人格的な共産党」という小見出しを掲げて、共産党は「デマ宣伝をして」「都民の反感と怒りをかっている」「国鉄運賃値上げの際民社と共に協力した」「その本質が暴力革命をめざしている」「党員やそれをとりまく民主勢力諸団体の人間的陰険さと二重人格的根性」、こういうものが大量に全都にばらまかれておるわけであります。選挙というのは、やはり各政党あるいは候補者が正々堂々とその責任の所在を明らかにし、政策を周知徹底させるということによって争われる。そういう点から見ました場合に、まことに遺憾な事態になっておるわけです。これは告訴をしたわけでありますが、こういうようなことについて、当面告訴したのは東京地検に告訴したのでありますけれども法務政務次官、こういうような事態が起こっていることについて、どうお考えになるか、御意見を伺いたいと思います。
  121. 小澤太郎

    ○小澤(太)政府委員 ただいまお述べになりましたようないわゆる怪文書が出回っておるということは、きわめて遺憾でございます。先ほどお話しのとおり、選挙の自由、公正を確保するということは、議会制民主主義の基本でございます。そういう意味からも、私ども検察当局といたしまして、こういうことにつきましては、十分き然たる態度でもって臨みたい、かように考えております。
  122. 松本善明

    ○松本(善)委員 警察庁の取り締まりについての考え方を聞きたいと思います。
  123. 内海倫

    内海政府委員 基本的な考え方につきましては、いま法務政務次官からお答えになりましたところと異なるものではございません。さらに、実際の第一線的な場において取り締まりに当たります警視庁といたしましては、先ほどお述べになりましたような事柄については、十分事情あるいは事実を調べまして、もしそれが刑法なりあるいは公職選挙法その他の法令に該当するようなものにつきましては、当然犯罪の容疑をもって捜査に当たるべきものと考えます。ただ、いまお話の中にございました、それはだれが出しておるか、あるいはいつどこでどういうふうになっておるかというもののわからない捜査というものは、過去のいろいろな経験からも、捜査は非常に難渋いたしますが、もしそういうふうな場合でも、それが公選挙法なりあるいは刑法の規定に触れるものであります限りは、警察といたしましては捜査に当然当たるべきものと考えております。
  124. 松本善明

    ○松本(善)委員 それからもう一つ、自民党の渋谷の都会議員の候補の事務所が三カ所設けられた。これは公然たる選挙違反なんですね。それについて、私どものほうで選挙管理委員会にすぐいったわけです。それをすぐ調べろといったら、選挙管理委員会は立ち会わない、こういうことで、警察へいったら、警察は翌日に行って、そのときには一つの事務所はもう取っ払っておる。二つ残っていて、警察が二つ確認をして、一つを選挙管理委員会が閉鎖させた、こういうことがあります。こういうのは、やはりすぐに動かなければならない。その選挙の公正をほんとうに確保するというための心がまえが、非常に弱いんじゃないか。選挙管理委員会は何ですぐに動かなかったか。それから警察も、動いたけれども翌日なんですね。やはりそういうようなものは敏速にやらなければならないと思うのですが、それについて、自治省とそれから警察庁について意見を聞きたいと思います。
  125. 皆川迪夫

    ○皆川政府委員 お話のとおりであろうと思います。私たちもよく事実を存じませんでした。敏速にやるように十分注意いたしたいと思います。
  126. 内海倫

    内海政府委員 自治省と同意見でございます。
  127. 松本善明

    ○松本(善)委員 もう一つ警察捜査やり方の問題なんですが、警察捜査が、やり方によって警察自身が選挙に干渉したり、選挙の自由妨害になるような性質のやり方になる場合がある。たとえば、六月二十九日から七月一日にかけて、中央区の築地で、私どもの共産党のポスターを張ってくれた家に警察が聞き込みをやった。それから六月二十九日に台東区の谷中六丁目と橋場二丁目で警官が、政党ポスターを張った家に対して、政党ポスターの無検印は違法だというようなことを言って威嚇的な聞き込みをやった。品川区西大井でも、同じようなことがあるわけです。これは前にも私ども経験しておるのですが、特に投票日の近くになって、警察が選挙違反の取り締まりに名をかりて、これは総選挙のときにあったのですけれども、私用とか業務で、あるいは機関紙の販売、配布というような目的で出歩いております共産党の活動家を尾行して、その訪問先を戸別訪問して、共産党の者が来て選挙の話をしていっただろう、赤旗を読んでいるだろう、だれにすすめられたんだ、こういうことを聞く。そうして選挙用のポスターを掲示してある家へやってきて、なぜポスターを張らせたんだ、こう言うこともある。それから民主診療所の患者の多い地域に無差別に訪問をして、そしてどこどこの診療所に行っているだろう、診療所の人から共産党の候補を頼むと言われなかったか、こういう聞き込みをやっておる。そのために、赤旗の読者が突然購読を中止したり、一たん掲示を承認してくれたポスターを返したりする、こういうような問題が起こった。こういうような聞き込みをやりますと、これは全部無差別にどこでも警察官が入っていくということになる。そういうことをやられると、警察官がやってきた、特に投票日直前にやってきたということになると、票がたいへんに大きく動いてしまう。そういうような事態になっておることがあるわけなんです。警察捜査というものについて、選挙の公正と選挙民の投票の自由というものを最大限に尊重するような捜査がやられなければならないと思いますが、この点について警察庁の見解を聞きたいと思います。
  128. 内海倫

    内海政府委員 警察の犯罪捜査、あるいは取り締まり、あるいは内偵、そういうことが選挙の自由あるいは選挙の公正を侵すというふうなことはたいへん残念なことでございますし、もしそういうふうなことがありとすれば、私どもも十分注意をしなければなりませんが、私どもは選挙の違反の取り締まりというものは、警察はどこまでも完全な中立、厳正公平な立場で行なわなければならない。特に私いつも申しておることは、いわば相撲の土俵における行司の立場でありますから、一方に少しでも不利なことが行なわれれば、必ずそれは他方の有利というふうなことになって、影響するところがきわめて大きいわけですから、いやしくも選挙違反の取り締まりということについては、慎重に、しかしながらその違反に対しては厳正に、きびしく行なわなければならないということを常々申しております。ただいま申されました点において、私ども反省しなければならないものは当然反省して、今後そういうことのないようにやらなければならないと思いますが、同時に、先ほどもお話のありましたように、こういうものについては場合によると予防もしなければなりませんし、また犯罪の容疑があれば、これに対しては法の定める手続による捜査はいたさなければなりませんし、また捜査の過程においては、いろいろな証拠資料の収集ということも行なわなければなりませんので、あるいはそういうことが公正な選挙の妨害というふうに受け取られることもあろうかと思いますが、しかしながら、そういうふうな公正な立場において行なわれる犯罪の捜査であれば、これはやむを得ないものと私どもは考えております。しかしながら、やむを得ないと申しましても、それはどこまでも法律のルールにのっとった犯罪の捜査あるいは証拠の収集ということであるべきでございますし、もとより警察が何らかの意味において選挙の公正を妨害する、あるいは干渉にわたるというふうなことは、絶対になすべきでありませんし、厳に慎むべきことである、こういうふうに考えております。
  129. 松本善明

    ○松本(善)委員 法務省と警察庁、それから自治省は、選挙の公正ということを保障する上で非常に重大な役割りを持っておるわけなんで、いささかも非難されないような公正なやり方をしてほしいということを要求して、私の質問を終わりたいと思います。
  130. 進藤一馬

    進藤委員長代理 次回は、来たる八日、午前十時より理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後一時四十七分散会