○鹽野
政府委員 まず、保護観察中の事件でございますが、これは一口に保護観察と申しますと、先ほど来申し上げております少年に対する保護観察のほかに、少年院仮退院者に対する保護観察、あるいは仮出獄者に対する保護観察というような、いろいろの種類があるわけでございますが、全体で申しますと、昨年の統計がまだ正確に集計ができておりませんので、若干古いので恐縮でございますが、四十二年の統計で御
説明させていただきます。保護観察の常時継続中の事件は、四十二年末で十万六千件に達しております。そのうち少年の保護観察というものは、そのうちの六万四千人余りということでございます。そして、これに対しまして、保護観察を担当する側の数でございますが、これは保護観察所は、御承知のとおり、全国に四十九カ所置かれております。そこへ配置されております保護観察官の数は、六百八十四名でございます。ただし、それの中には、課長というような
管理者が含まれておりますので、常時保護観察の事務に当たるという者は、概数で約五百名程度であろうかと思います。したがいまして、少年だけを見ましても、六万をこえる
対象者に対して実際の保護観察を担当する観察官は五百名前後、こういうことで、割り算をしてみればわかりますように、観察官一人で全体としては約二百、少年だけを見ますと百三十件ぐらいになるでありましょう、という数でございます。
そこで、次が保護司の問題になります。これは、保護観察官と協力して保護観察の実務を担当するという職責を持っております。この保護司は保護司法によりまして、定数は五万二千五百名というふうに
法律上定められておりますが、なかなか適任者を得ることが困難だというような事情もございまして、最近では、実員は四万八千名前後になっているようでございます。したがいまして、十万余りの
対象者に対して四万八千の保護司ということになりますので、保護司一人の担当という面から見ますと、保護司が一人で
対象者二人ないし三人を担当していただけばまかなえる、こういうような数になっているわけでございます。
そこで次は、保護観察のやり方の実情でございますが、まず保護観察の
処分が定まりますと、
対象者は観察所に出てまいりますので、最初は保護観察官が、これに面接いたしまして、はたしてどういうふうな点を重視して保護観察を実施するのが効果的であろうかということを見定めるわけでございます。これは観察所によって、若干その取り扱いは違っているようでございます。たとえば、
東京都の保護観察所あたりでは、保護観察の当初約二カ月間を保護観察官が直接保護観察に当たる、こういう方針をとっております。したがいまして、二カ月の間に
対象者と何回も面接をいたしまして、大体この少年はこういう方面に
注意していけば更生できるであろうという見通しをつけた上で、担当の保護司を指定いたしまして、保護司のほうに事務を引き継いでいく、こういうことになっているわけでございます。そこで、担当の保護司の保護観察のやり方でございますが、これはいわゆるケースワークでございますので、
事案によって各種各様でございまして、それぞれの少年に向き向きの形で保護観察を実施していくということでございます。一番
注意しておりますのは、
本人と接触を続けるということでございます。
本人を月に何回か保護司の宅あるいは保護観察所に出頭させるようにする、場合によりましては、保護司が
本人の家庭、あるいはまた住み込みの場合には雇い主のところに出向いて、事情を見てくるというようなこともいたしております。そうして、
本人の動向と申しますか、平素の行状が手に取るようにわかるように努力するということが、実は保護観察の第一歩であるわけでございます。さらに、具体的な個々の取り扱いといたしましては、保護観察に付せられましても職がないという者もございますので、就職のあっせん等に努力してやる。あるいはまた、保護観察に付されたけれ
ども住む場所がないというようなものについては、住居を考えてやる。場合によりましては、更生保護会に寝泊まりできるように手配をする。あるいはまた、健康を害している少年というような場合には、医療の関係について医療保護をやるというように、それぞれの
対象者に向き向きの保護観察の
方法を考えていくというのが、実情でございます。
そこで、今回の事件を例といたしまして、どこに問題があるかというような御
指摘がございましたが、ただいま申し上げました実情から申しましても、保護観察官の数が十分でないということは一つ言えると思います。この点につきましては、毎年若干ずつ増員を得て、逐次充実させているわけでございます。それから、先ほど申しましたように、
対象者と保護観察をする者との連絡が密接にできているということが一番必要でございますので、
本人がともすれば保護観察から脱出してしまうという
対象もあるわけでございまして、そのような場合に、その行くえを早くさがし出すということが必要なわけでございます。これは一つの観察所の管内だけで住居を移しておりますれば、まだ比較的簡単でございますが、近ごろ交通も非常に便利でございますので、遠いところへ出かけていってしまうということがしばしばございます。さような場合には、保護観察所相互の協力態勢によって所在の発見に努力するということをいたしているわけでございます。これも職員の手不足とか、あるいは保護司さんにお願いいたしても、御承知のとおり、保護司の方は、ほかに本来の職業を持っておられますので、そういますぐに所在の発見に努力するということもできない場合もございましょうし、若干その点にまだ不十分な点があるように考えられます。私
どもといたしましては、各庁間の連絡、共助という面につきまして、さらに努力をしてまいりたいと思っているところでございます。
それからさらにもう一点つけ加えさせていただきますと、保護観察と申しますのは、
本人を社会内で生活させながら、これを
指導し、援助し、あるいは監督して更生をはかっていくということでございますので、初めから保護観察に服す気持ちのない
対象者、あるいは保護観察に服せしめることが非常に困難な
対象者というものは、観察側で非常な努力を尽くしましても、必ずしも思うような効果をあげ得ないという場合がしばしばあるわけでございます。この点は、私
どもはお医者さんの診断と治療という面に似ているのではなかろうかというふうに考えております。診断が的確でございましても、それに続く治療が十分でなければ、思わしい効果をあげ得ない。また逆に、治療に一生懸命努力いたしましても、最初の診断が見込み違いであれば、その治療も効果をあげ得ずして終わる場合があるということでございます。今回の問題の事件につきましても、いま振り返って過去の経過を考えてみますと、診断にも若干問題があったのではなかろうか。保護観察を担当した者が、
本人との面接、接触ということについて非常な努力を重ねましたのに、
本人は保護観察から脱出しよう、脱出しようという気分が非常に強くありましたので、その点について担当の観察官、保護司は非常な苦心をし、また努力を続けましたけれ
ども、こういう結果におちいってしまった次第でございます。
〔発言する者あり〕