○
中山参考人 中山でございます。
ただいま
委員長から御紹介のありました趣旨に従いまして、できるだけ簡単に、現在の
物価の問題、その
原因、それから
対策、そういう問題を順次お話し申し上げたいと思います。
まず第一に、現在の
日本の
物価の状況でございますが、これはもう
皆さんが十分御
承知とは思いますけれ
ども、この本年の六月末までの結果でこれを見ますると、四十二年中の
東京のCPI、
消費者物価は四・一%の
上昇でございます。それから、四十二年中ではなくて四十二
年度、つまり四月-三月という
年度で申しますと、これはまた偶然でございますけれ
ども、四十二
年度の場合には四・一%の
上昇でございます。それから四十三
年度になりますと、四十三年中の
物価騰貴は五・六%、四十三
年度の
物価騰貴は五・二%、大体、昨年と一昨年との間では、
年度をとりましても年中をとりましても、およそ
政府の宣言しました
物価上昇の
ワク内、あるいは
ワク内外と言ったほうが正確でございますが、大体その
ワクにおさまってまいりました。しかし、これは
あとから申し上げますが、その
ワク自体が相当大きなものでございますから、これで安心はできないわけでございます。
ところが、ことしになりましてから
消費者物価はだんだんに
騰勢を強めておるような
傾向でございまして、一月から六月までの
上昇率だけを申しますと、〇・六、〇・三、一・〇、一・三、
マイナス〇・二、そして〇・一、これが一月から六月までの
物価上昇でございます。すなわち、五月一カ月がごくわずかの
マイナス、〇・二%の
マイナスであった以外は、毎月ずっと
騰貴が続いてまいりまして、したがいまして、この六月の対前年同月比は実に五・七%という、近来数年間にまれに見るような高い
上昇率を示したということになっております。このことが、
消費者物価につきましては、ことしはこのままでまいりますと、あるいは
政府の予定しております四・五%というような
上昇率ではとどまらないのではないかという心配をみんなに与えているわけでございます。これが
消費者物価の
情勢。
次は
卸売り物価でございますが、本年の
日本の
物価情勢の
一つの特色は、
卸売り物価の
騰勢が続いているということでございまして、
日本銀行の
調査も、四十年を基準といたします
物価指数がいまちょうど一〇七・〇という
指数でございます。この
指数だけを見ますると、
日本の
卸売り物価は幸いにして、まだそんなに高い水準ではございません。けれ
ども、これを本年一月から六月までの
騰勢をずっと見てまいりますと、これから申し上げます六つの
数字がそうでございますが、一月〇%、〇・一%、〇・三%、〇・三%、〇・三%、そして六月が〇・四%、ごくわずかでございますけれ
ども、一月から六月まで全部プラスで、つまり
騰貴ばかりでずっと今日まで上げ調を続けております。この
理由は、一番大きなものは
輸入原材料が上がったというようなことでございまして、特に
非鉄金属、したがいまして
日本のほうでどうもできない
事情もございます。けれ
ども、この
卸売り物価の
騰貴というのは、これは何と申しましてもやがて
日本の
輸出に響く
数字でございますから、
輸出をてこにして今日続いております好景気には、これは
一つの暗影と申さなければなりません。
この
意味で、
日本の
物価は、
消費財物価の
数字が
騰勢を続けておるという、この累年の、三十六年以降の引き続いている現象につけ加えまして、つい昨年までは
卸売り物価が安定しているからいいじゃないかというような感じで見られておりました
卸売り物価のほうが、どうやらはっきりと長い
上昇の
傾向を示しているところに特徴を持っております。
そこで、このような
物価問題について一体何が
物価騰貴の
原因であるかということが問題になります。この問題は、
経済学のABCから申しましてきわめて簡単なことでございまして、
需要が
供給よりも大きいから
物価が上がる、これは
世界的な、そして古今を通じて曲がらない
一つの当然の
理由でございます。
日本の場合にもこの
需要と
供給のそういう相違から
物価が上がる、こういうことについては何の違いもございません。
ただ、これをもう一歩立ち入って申しますと、実は
二つの問題がございます。
一つは個別の
物資、たとえば
野菜でありますとかあるいは魚でありますとかの
一般生鮮食料品でありますとか、あるいは
特定の
サービスでありますとか、そういう
特定の
物資もしくは
サービスの
需要供給の
アンバランス、ここからくる
物価騰貴という問題、もう
一つは
所得と
生産と申しましょうか、つまり
購買力が一方でふえて
需要がふえる、これに対して物の
生産もしくは
供給が追いつかない、こういう
意味での
物価騰貴、これは非常に一般的なものでございます。そういう
需要と
供給の
関係がございます。
つまり、
物価騰貴の
原因というのは、総じて申しますれば、
需要のほうが
供給よりも大きいということから起こることは間違いございませんが、場合によってはそれは
特定のものについて起こることもございますし、もっと一般的に国全体の
購買力、それは結局
財政、
金融政策というようなところにいくものでございますけれ
ども、そういう
購買力と国全体の持っている
供給、すなわち
物資というものとの
関係から起こってくる場合と、
二つございます。
もっと詳しいことを申し上げますと、実は
需要と
供給と申しましても、さらにめんどうな問題がございまして、
需要と一口に申しましても、本来の
需要なのか、つくられた
需要なのか。
供給と一口に申しましても、これは自然に出てくる
供給なのか、押えられてコントロールされている
供給なのか。
つまり独占の問題、それから
消費者をだますようないろいろな策略の問題、いろいろな問題がここにからんでおるのでございますが、ここでは問題を非常に簡単にするために、
需要と
供給の
ギャップから
物価騰貴が起こるんだということを申し上げておきたいと思います。
そこで今度は、そういう
物価騰貴に対する
対策はどういうことであるかということになりますと、やはり
二つに分かれます。
一つは
個別物資の
対策。これは言うまでもなく、たとえば
野菜が
東京都について足りないということになりますれば、近郊の農家の
野菜の
生産を奨励する、こういう形で
供給力を
増加していくということが必要になってまいります。もしどうしても急に間に合わないという場合には
外国から輸入する。たとえば
豚肉が足りないといえば、その
豚肉を
緊急輸入をする。実はこの
緊急輸入も、簡単に申しますけれ
ども、いままでの
実績では、
緊急輸入したときにはもう上がり過ぎておったというような時期で、間に合わないといういろんな欠点はございますけれ
ども、足りなければ輸入してこれを間に合わせるということも
一つの
方法になります。根本的には、たとえば
農業基本政策を推進するとかあるいは
中小企業に対する
対策を、
合理化によってどんどん
生産力を進めていくようにするとか、そして
供給力を増す以外にないのでありますけれ
ども、やむを得ない場合には
輸入政策というものも非常に大きな問題になる。これは
個別物資の場合の
需給を調節する
方法でございます。
それから、
一般物価、一般的な
需給の
アンバランスは、これは
財政金融政策でやるよりほかにはございません。つまり
財政でできるだけ所要の費用を節するか、あるいは、これも緊急的な場合でございますけれ
ども、
前途が非常に危険であるというならば、当然予算で確定しているような
支出でも、せめて三カ月とかあるいは六カ月でも
支出を延ばす。あまり有効な
政策ではございませんけれ
ども、それでもそういう形で調節をとるということもできましょう。
それから、
金融政策のもとは、何といっても
成長金融をどこまでまかなうかということでございます。したがいまして、
前途に非常に大きな
国民経済的な
需給の
アンバランスが出てくるという
傾向がございましたら、そのときには少しは
設備投資を押えて、そして銀行の金の出し方を押える。そうしますれば、自然にこれが
購買力として回っていく
程度も少なくなりますから、したがって
需要を押えることになる。この
政策は、実は
日本以外のヨーロッパ、
アメリカ、
日本以外のほとんどすべての国が最
重点を置いている
物価政策でございます。これはもう
世界の
物価政策を、イギリスであろうとフランスであろうと、西ドイツであろうと
アメリカであろうと、ごらんになりますれば、およそ
物価騰貴に対する
対策というのは何かという場合に、
最初に出てくるものは
金融の引き締めあるいは
財政の縮小ということなんでございますが、
日本ではどういうわけか、これが正面にいままで出てまいりませんでした。この
理由は、
あとから御
質問があると思いますけれ
ども、おそらく
日本の
経済政策の
重点が、
外国貿易の伸長という点に置かれていた。そのためには
設備を更改して、そして
設備投資を十分にやって、
競争力をつけなければならぬということが
一つであった。そのためにどうしても
財政金融政策を第一義に置くよりは、むしろ他の
政策によって
物価の
騰貴を押えようという努力が行なわれたというふうに考えておりますけれ
ども、もし
物価政策というものをほんとうに考えますならば、これからはそろそろもう総
需要対策といいますか、そういう
金融、それから
財政政策のほうにも、いままでよりももう少し
注意を払う必要があるんじゃなかろうかと考えております。
それから、
日本でやれますこういう
物価政策には、
二つの面からまだ非常に期待が持てる面を
日本の
経済は持っておるのです。
一つは、
物資の
政策についても
流動性というのはまだかなりあるのです。たとえば
労働が、
生産性が低い
部門から高い
部門に移る
可能性も
外国から比べて大きい。それから
一般物価政策にしましても、いままで手をつけていませんので、これもいざ手をつければ有効であろうと思われる面も相当にあるというようなことで、両方ともまだ
対策としては打つべき手が残っておりますが、さて一体そういうような
消費財の
物価騰貴、特に最近では
卸売り物価の
騰貴というものがあったにかかわらず、
日本の
物価問題が、
国民大衆の中に大きな
不満を残してはおりますものの、
日本経済全体の進行には、これは
生産とか
貿易とか
輸出とかいう面でございますけれ
ども、直接に大きな悪い
影響を持たなかったのはどういう
理由であろうか。これが
物価問題に対する
注意をいままで一般的にそらしており、また
政府についても、
物価問題について十分に真剣になれなかった
理由だと思うのですけれ
ども、どうしてそうだろうかということを考えてみますと、
一つには
消費者物価の
上昇によるところの
国民生活への
圧迫、つまり家計への
圧迫というのが、非常に高い
成長による
所得の
増加によって相当埋められていたということでございます。
たとえば
昭和三十六年から今日まで、大体五・五%ないし六%近い
消費財の
物価騰貴を続けてきてもう八年以上になっておるのですけれ
ども、その間に物が高い物が高いという不平はずうっとあるのですけれ
ども、それが爆発的な大きな力にならなかった
理由は何だろうかということを考えてみますと、やっぱりそう言いますものの、他面では
所得がふえているということだろうと思うのです。
所得がふえているから
物価騰貴はかまわぬということでは決してございません。それは分配の問題もございますし公平の問題もございますし、その問題を入れますというと、
所得増加は必ずしも
物価騰貴ほど公平にはまいりません。
物価騰貴は非常に公平にいくわけです。あらゆる
消費者階級にほとんど同時にいくんですけれ
ども、
所得増加のほうはそうはまいりません。その間の
ギャップがございますから、
所得増加があったら
物価騰貴があってもかまわぬということではございませんけれ
ども、しかしこんなに長い高い
消費財物価の
上昇が続きながら、なおかつ、あんまり大きな声としてはなかなかならなかったという
理由は、私は、どうも一面において
成長が
所得増加をもたらしていたということであろうと思います。そしてその状態は今日もなお続いていると思います。
それからもう
一つの
理由は、最近では
事情が違ってまいりましたけれ
ども、それでもなお、
消費財物価の
値上がりにもかかわらず
卸売り物価がほとんど安定しておったということでございます。
卸売り物価と申しますのは、
先ほども申しましたように、これは
原材料、それから
生産手段、たとえば鉄鋼でありますとかあるいはセメントでありますとかいうような
生産手段の
物価がおもな
構成要因をなしております。そのことは、
ことばをかえて申しますと、
日本の
輸出物価を構成していると考えてよろしい。言いかえますというと、
消費財物価のここ八年以上の
騰貴にもかかわらず、
日本の
輸出品の
物価は上がらなかった。ところが、それと競争している
外国の
物価はどうかと申しますと、
外国では、
皆さん御
承知のように、
消費財物価とそれから
卸売り物価というものとはほとんど同じ
動きを示しております。一方が五%上がれば一方も五%上がる、一方が一%上がれば他方も一%上がるというふうに、完全に一致はしておりませんけれ
ども、大体において同じような
動きを示しております。そしてその
外国の
物価は、
日本のこの八年間の
卸売り物価の安定時に実は上がっております。つまり向こうの
物価は上がっているのに
日本の
物価は上がってないという形で
外国の市場では競争できた。これが
日本の
輸出が大体
世界の
輸出増加の倍の率でいままで伸びてきた
理由でびざいます。たとえば、
世界の
輸出の
増加が昨年は八%くらい、非常に伸びたのでございますけれ
ども、それに対して
日本は一六%というような、あるいは二〇%に近い大きな率で
輸出が伸びている。これはもう十年間くらい同じ
傾向でございますが、そういうような
傾向をなぜ持ち得たかということは、
日本の
卸売り物価が安定しておったということでございまして、これは非常に偶然の、
日本の
経済にまだ
弾力性がある、たとえば、
先ほど申しましたような
労働移動による
弾力性、それから
能率増加による
弾力性、そういうものが残っておったという
理由でございますけれ
ども、それが非常に
日本の
経済に幸いをしておった。
この
二つの
事情を一まとめにして考え直してみますというと、
日本は、
経済のいまの
基本をなしております
輸出の増進というものを達成するのに非常に有利な条件を利用することができた、つまり
チャンスをつかんだということでございます。その
チャンスをつかんだということは、これからそうは続きません。もう一度、もう二度というふうに繰り返して同じような
チャンスがあると考えることは私は非常に危険である。
第一に、
消費財物価の
値上がりは徐々に
卸売り物価を押し上げるようになってくる。これは私
どもがずいぶんもう数年前から言っておったことでございますけれ
ども、不幸にしてことしに入ってから半年の間の
実績は、
卸売り物価のほうがじりじり上がってきて、そして
消費者物価の
影響をまともに受けることを示しつつある。何とかしないというと、もう次の
チャンスというものをこのままで続けていくことができないのではないか。
私
ども、こういう
物価問題に取り組みましてから、これで大体もう六、七年になりましょうか、第一回は
昭和三十九年ごろでございますか、
物懇、
物価問題懇談会という形で、そのときにはさしあたり
公共料金の
ストップというのを旗じるしにして
物価問題に取り組みました。第二回の
物価問題懇談会では、特に米、麦というような
食糧品の中の大きなものをつかまえまして、そしてそれの
物価をどうするかというような
提言をいたしました。第三回の
物価に対する
会議は、御
承知の
物価安定推進会議というのでございましたが、これは四十二年から四十四年、ことしまで続いた二カ年間の
会議でびざいましたが、ここではもうちょっと
物価問題に深く入りまして、
制度とか
慣習とか、
日本の
物価を不合理に押し上げていると考えられるいろいろな
制度や
慣習や、そういうものに立ち入って、若干の
提言をしてまいりました。
以上の三つの場合を回顧いたしますと、第一には、三十六年以降数年間、非常な急ピッチで上がってまいりました
物価に対する緊急の
対応策を考えた。これが
公共料金の一年間
ストップという
対策にあらわれた。この場合にもそれで全部が済むとは決して思っていないので、あの答申をもし読んでいただく機会がございますれば、いろいろなことをいっておるのでございますけれ
ども、しかし要約して何が実際できたかということから考えますと、
公共料金の
ストップしかできなかった。そういう
緊急対策をやった。
それから第二の
物懇におきましても、あるいは
緊急輸入でありますとか、あるいは米や麦の価格の調整でありますとかいうような当面の問題についての緊急的な
提案が
中心でございました。あるいはその場合の
緊急提案の
一つには、
財政の規模を
経済成長の範囲にとどめてくれというような要求もありましたけれ
ども、みな緊急でありました。
そうして
推進会議に至って、どうやらもう少し根本的な
制度の点、たとえば
財政制度、それから
金融制度、これはごく最後に触れただけでございますけれ
ども金利の
制度、それからさかのぼりまして、米の
食管制度、これは
食管をまともに取り扱ったわけではございませんけれ
ども、
食管制度をめぐっての米価の問題に対する検討、同じような
意味で麦、それから公取の
関係では例の
再販制度の問題その他を取り上げまして、
日本の
物価に
関係のある
制度というようなものを
中心に取り上げてまいりました。
しかしこれもわずか二年のことで、ようやく緒についたというのが偽らざるところでございまして、今度いよいよこの十二日から、
物価安定政策会議という名前で新しい
会議が始まりますが、ここでは、私
どもいままでこの問題を手がけてまいりました仲間での
希望といたしましては、もう少し本格的に、恒常的に――何か
物価に関する
審議会とか
委員会というものが、何かこう手当たり次第に、そのときそのときの
事情で設けられては消えていくというような形ではなしに、もっと恒常的な、本格的なものにしたい、これが
希望でございまして、そしてそのためにひとつ、ややパーマネントな
調査機関をくっつけるという形でスタートをしたいと考えております。
と同時に、いろいろ
提言しました
政策のフォローアップ、どういうふうに
政府がそれを取り上げ、どういうふうに実行して、どういう成果をあげているかということを、これをもっと
調査的に、客観的にフォローしていくことをやりたい。
ことばをかえて申しますと、いままで三回の経験を全体として本格的に
物価問題に取り組むように再組織をしていきたい。そして、
先ほどから申し上げております
物価の
情勢というのは、まさにそういうような包括的な、系統的な、根本的な
取り扱い方を
物価問題に対してすることを要請しているように思うのでございます。
これだけのことを
最初に申し上げまして、御
質問に答えたいと思います。どうもありがとうございました。
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