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1969-05-29 第61回国会 衆議院 農林水産委員会 第32号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十四年五月二十九日(木曜日)     午前十時五十九分開議  出席委員    委員長 丹羽 兵助君    理事 安倍晋太郎君 理事 仮谷 忠男君   理事 藤本 孝雄君 理事 三ツ林弥太郎君    理事 湊  徹郎君 理事 兒玉 末男君    理事 森  義視君       大野 市郎君    金子 岩三君       小山 長規君    佐々木秀世君       菅波  茂君    瀬戸山三男君       田澤 吉郎君    中尾 栄一君       中垣 國男君    野原 正勝君       八田 貞義君    藤波 孝生君       松野 幸泰君    伊賀 定盛君       石田 宥全君    佐々栄三郎君       永井勝次郎君    芳賀  貢君       美濃 政市君   米内山義一郎君       神田 大作君    斎藤  実君       樋上 新一君  出席政府委員         農林政務次官  小沢 辰男君         農林省農地局長 中野 和仁君  委員外出席者         参  考  人         (全国農業会議         所専務理事)  池田  斉君         参  考  人         (全日本農民組         合連合会中央常         任委員)    梅原  昭君         参  考  人         (全国町村会経         済農林部長)  大久保毅一君         参  考  人         (京都大学名誉         教授)     桑原 正信君         参  考  人         (日本銀行政策         委員会委員)  東畑 四郎君         参  考  人         (慶応大学教         授)      常盤 政治君        専  門  員 松任谷健太郎君     ————————————— 五月二十八日  委員白浜仁吉君、田澤吉郎君、中垣國男君及び  藤波孝生辞任につき、その補欠として小川平  二君、黒金泰美君、佐藤洋之助君及び橋口隆君  が議長指名委員に選任された。 同日  委員小川平二君、黒金泰美君、佐藤洋之助君及  び橋口隆辞任につき、その補欠として白浜仁  吉君、田澤吉郎君、中垣國男君及び藤波孝生君  が議長指名委員に選任された。     ————————————— 五月二十七日  自主流通米に関する請願羽田武嗣郎紹介)  (第七六九二号)  国有林野活用に関する法律案成立促進に関  する請願外一件(小笠公韶君紹介)(第七六九  三号)  同外四件(大石武一紹介)(第七六九四号)  同(久保田円次紹介)(第七六九五号)  同(竹内黎一君紹介)(第七六九六号)  同(秋田大助紹介)(第七七八四号)  同外二件(吉川久衛紹介)(第七七八五号)  同外六件(羽田武嗣郎紹介)(第七七八六  号)  同外六件(増田甲子七君紹介)(第七七八七  号)  農山村住民及び林業労働者の生活安定に関する  請願安宅常彦紹介)(第七六九七号)  同外一件(永井勝次郎紹介)(第七六九八  号)  同(永井勝次郎紹介)(第七七八八号)  農業者年金制度確立に関する請願石川次夫君  紹介)(第七六九九号)  農地法の一部を改正する法律案成立促進に関  する請願外一件(大石武一紹介)(第七七〇  〇号)  同(久保田円次紹介)(第七七〇一号)  同(佐々木義武紹介)(第七七〇二号)  同(西岡武夫紹介)(第七七〇三号)  同外一件(藤田義光紹介)(第七七〇四号)  同外二件(吉田重延紹介)(第七七〇五号)  同外二件(有田喜一紹介)(第七七八九号)  同(二階堂進紹介)(第七七九〇号)  同外一件(松野頼三君紹介)(第七七九一号)  同外二件(早稻田柳右エ門紹介)(第七七九  二号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  農地法の一部を改正する法律案内閣提出第一  四号)      ————◇—————
  2. 丹羽兵助

    丹羽委員長 これより会議を開きます。  農地法の一部を改正する法律案を議題といたします。  この際、暫時休憩いたします。    午前十一時休憩      ————◇—————   〔休憩後は会議を開くに至らなかった〕      ————◇—————   〔参照〕 昭和四十四年五月二十九日(木曜日)  農林水産委員打合会    午前十一時一分開会
  3. 丹羽兵助

    丹羽委員長 これより農林水産委員打合会を開会いたします。  本日は、農地法の一部を改正する法律案について意見を聴取するため、全国農業会議所専務理事池田斉君、全日本農民組合連合会中央常任委員梅原昭君、全国町村会経済農林部長大久保毅一君、京都大学名誉教授桑原正信君、日本銀行政策委員会委員東畑四郎君及び慶応大学教授常盤政治君、以上六名の方々に御出席を願っております。  この際、各位に一言ごあいさつ申し上げます。  各位には御多用中にもかかわらず、本委員打合会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。本日は、農地法の一部を改正する法律案について、忌憚のない御意見をお聞かせいただきたいと存じます。  なお、はなはだかってではありますが、御意見開陳はおおむね一人十五分ないし二十分程度にお願いすることとし、その後委員からの質疑があれば、これにお答えいただくことにいたしたいと存じます。  それでは、まず池田君にお願いいたします。池田君。
  4. 池田斉

    池田斉君 本日は、目下当委員会におきまして審議中の農地法につきまして、私より意見を申し上げる機会を得まして、特に農業委員会系統の頂点にある団体に所属いたしております私といたしましては非常にありがたく、感謝を申し上げるわけでございます。  時間も制限をされておりますので、簡潔に申し上げたいと思いますが、そのために、お手元にあるいは配付になっておるかと思いますが、きょう私がここで申し上げたい内容につきまして、一応刷りものにして御配付するように委員部のほうにお願いをいたしておきましたので、おひまなときにひとつごらんを願うということにいたしまして、これから申し上げたいと思います。  農地法改正の問題につきましては、御案内のように、末端で農地行政を担当いたしておりますのは市町村農業委員会でございます。そういう意味でこの法律改正には、市町村農業委員会は非常に重大な関心を持っておるわけでございまして、特に数年以前から、いわるゆ現行農地法が世の中の情勢変化との対応におきまして、どうしても改正を推進しなければならない、こういうような認識に立ちまして、すでに私ども組織におきましては、特別委員会あるいは専門委員会等昭和四十一年以来設置をいたしまして、全農業委員会組織の検討を積み上げまして、昭和四十二年の九月に、農林大臣構造政策に関する諮問に対する答申という姿におきまして、実は改正点要望を申し上げたわけでございます。政府は、私ども考え方を一応骨子といたしまして今度の農地法改正案を作成し、当委員会の御審議をわずらわしている、こういうような経過がございまして、そういう意味におきまして、私どもはこの法案が、結論といたしましては、一日も早くひとつ今国会におきまして通過をすることを念願いたしておるわけでございます。そういう立場に立ちまして、若干問題点あるいは希望を申し上げたいと思います。  第一の問題は、農業委員会が、先ほど申しましたように、この法律に基づきまして農地行政を所掌いたしておるわけでございますけれども、現在の農地法におきましては、ほんとうに確信をもってこれを励行するという自信を失っておるわけでございます。したがいまして、何とか農地法実態に即応し、また将来のわが国農業構造改善、そういう問題に対応いたしまして、自信確信をもってひとつ農地法を新しい姿において励行する、こういうことを切望いたしておるわけでございます。  法と現実がきわめて大きく今日遊離しておるということは、各委員も御案内のとおりでございまして、たとえば一、二の例を申し上げますと、最近御承知のように、請負耕作あるいはやみ小作が非常にたくさん横行をいたしております。本来ならば、これは現行農地法に基づきましては、当然取り締まらなければならない性質のものであると思います。しかしながら、現実農業経営が行なわれておる農村実態から申し上げますと、これをもし取り締まるというようなことをいたしますと、土地所有者貸し付けを渋るということに当然なるわけでございまして、そのことが結局は荒らしづくりという、いわゆる土地利用という面から見まして、きわめて不経済な現象が起こるかと思うわけでございます。  また、一方におきましては、やはり現在の農家の中におきましては、できるだけ経営規模を拡大いたしたい、こういう農家かなり多数存在することは御案内のとおりでございます。この辺の立場から見ますと、この問題を法律の面から取り締まるということになりますと、規模拡大を目ざす農家にとりましては、その希望を閉ざすというようなことにつながるかと思うわけでございます。現在の統制小作料よりもかなり高い地代でございましても経営が成り立つ、そういう限りにおきましては、やはり請負耕作なりやみ小作というものを阻止するということは、実情にそぐわないというふうに考えるわけでございます。  また、転用の問題につきましても、現在の農地法におきましては転用規制をいたしておりますけれども、これを十分事後措置としてはっきり取り締まるというような問題につきまして、法の制定の中身において欠けている点があるわけでございます。こういうような問題につきましても今度の改正法案におきましては、そういう問題の規制をさらに明確化させるというようなことを、従来から私どもも念願をいたしておったわけでございますが、そういうような問題等を含めまして、現在の農地法は、実情に即応した問題からかなり大きく遊離し、これを法に基づいて取り締まるということは困難な実態にあり、そのこと自体がまた今後の農業経営発展に対しましてそぐわない、そういう姿になっておるということを考えざるを得ないわけでございます。そういう意味からも、今回の農地法改正を強く私ども要望いたしておるわけでございます。  第二の問題は、第一の問題につながるわけでございますけれども、今日のような農地法の秩序の乱れ、これをこれ以上放任することはできない段階になったのではないか。世論におきましては、農地法は必ずしもこれを改正しろというような強い要望というものが、それほどほうはいとしてわいていないのではないか、こういう御批判も一部では聞きますが、そのことは先ほど申しましたように、現在の農地法それ自体の矛盾という問題につきまして、これを行政の場面におきまして、法の厳粛なる執行というものをある程度眠らせるというような形におきましてこれを放任せざるを得ない、こういうような姿が、いま申し上げましたような農地法に対するほうはいとした改正要求につながっていないというような問題になっているのではないかという考え方もできるわけでございます。もし現在の農地法を、現在の法律の中で強く、きびしく取り締まるということになりましたならば、先ほど申しました農業現実の推移、実態農家対応というような問題から、当然現在の農地法に対するほうはいとした改正要求というものが、農民そのものから非常に大きな力で出てくるんではないかという感じさえ持っております。それだけに今日の農地法は、いわゆる権威をある程度失墜している。私どもは、このまま放置いたしますならば、農地法は自然に消滅する、こういう運命にあるのではないかという感じがいたすわけでございます。  いやしくも農業基本である農地制度に対しましてそういう措置をとることは、厳にこれは戒めていかなければならない問題であるというふうに考えるわけでございまして、農地法の今後の改正におきましては、現状の追認というような性格もございますけれども、積極的にわが国農業構造改善を志向するという方向におきましての土地問題の今後のあり方、そういう問題に触れて改正をしなければならない。私どもは、今日の改正案におきまして、不十分ではあると思いますけれども、そういう方向を一応志向した形におきましての改正が盛られておるというふうに考えるわけでございます。  それから第三の問題は、農地改革の成果、これを維持するということが今日までの農地法基本的な精神でございましたけれども、今回の農地法改正というものが、これらとの関係におきまして後退をするのではないか、こういうような批判がございます。今回の改正におきまして、統制小作料あるいは賃借権小作地所有制限、それぞれの規制を緩和する、そうして借地による農地流動化への道をも開く、こういうようなことが一つの重点に相なっておりますけれども、そういう問題を含めまして、いわゆる農地改革で築き上げた原則を修正あるいは後退をする、こういう批判がございます。このことは、戦前小作農民運動やあるいは戦後に農地改革に情熱を傾けられました方々にとりましては心情的に割り切れない、こういう感情が残るということは十分理解できるわけでございます。しかしながら、農地改革の真の目的というものは、やはり当時の半封建的な地主制、その束縛から農業者を解放する、そうして農業発展の基礎をつくる、こういうところに中心の問題があったわけでございまして、農地改革によって実現いたしました土地所有の姿を、経営とは無関係にそのまま固定化するというような精神ではなかったというふうに考えるわけでございます。  その後、経済成長のいろいろな発展の中におきまして、農業の中におきましてもいろいろな構造的な変化が出ております。これらに対応いたしまして、今後のあるべき農地制度というものは、その目標は、あくまでもそういう情勢との対応におきましてそれが改善に結びつく、農業らしい農業をつくる、そういう問題に結びつく、こういうところに目標を置かなければならないというふうに考えるわけでございます。もちろん農地改革精神のように、自作地形態農地流動化をできるだけ促進し、これが規模拡大につながるということが望ましいことはもとよりでございますけれども、今日の実情、先ほど申し上げましたような姿ににおきましては、いわゆる小作地形態における流動化、こういうものを含めまして併存の形で規模拡大を実現する、こういう方向は、今日の実情あるいは若干長期の展望に対しましても、そういう姿がわが国農業経営形態としてあるべき方向であるというふうに考えるわけでございます。自作地におきますところの流動化もとより望ましいわけでございますけれども、今日の地価の問題あるいは財産的保有という農家土地に対する執着の問題、これらの現実を勘案いたしますと、やはり両者併存におきますところの規模拡大というような問題が最も現実的であり、最もとるべき姿の方向ではないかというふうに考えるわけでございます。西ドイツにおきましても、御案内のように、借地による流動化促進というような姿で農地法改正を行ない、いわゆる構造政策土地基盤制度的に改善をするという方向で進んでおることは御案内のとおりでございます。  問題は、私どもがこういう問題を考える場合に一番心配なのは、いわゆる寄生地主制が再び復活するのではないか、こういう問題にあるかと思います。しかし、今日のいろいろな経済情勢の中におきましては、私どもは、結論としては、大勢としてはそういう心配は今後ない、こういう認識に立っておるわけでございます。  その理由といたしましては、今日の労働力がやはり今後も継続をして農村では減少する、こういう状態の中におきましては、不当な条件に甘んじて小作をする、こういうような状態というものは今後起こらないという一つ認識に立つわけでございます。  それから、戦前とは違いまして現在は、むしろ貸し付け者の主流をなすものは兼業層であり、これを借りて経営をするという方向の主流というものはむしろ専業農家である。いわゆる従来の、戦前寄生地主制の当時とはその位置が逆転をいたしておる、これが今日の現状の姿であり、今後も経済成長との関係におきましてはこの姿というものは続く。こういうような問題を考えますと、いわゆる寄生地主制の復活という心配は、もはや今日はそういう心配は、一つの杞憂にすぎないという客観情勢変化を考えてみる必要がある、こういうふうに考えておるわけでございます。  今日、土地問題で一番大事な問題は、そういうことではなくて、農業外資本農地進出をする、こういうかまえがあるわけでございます。これをどう阻止して、いわゆる耕作をする者に土地を利用させる、この辺の歯どめをどうするか、こういうことがむしろ基本の問題ではないか。農業を営む同士が土地流動化を行なう場合に、それほど、戦前のような寄生地主的なそういう心配を含めて考える時代は過ぎたのではないかというふうに考えるわけでございます。今回の改正案におきましても、特に農業外資本から土地を守るという問題は、従来どおり存続されておりますし、また、場合によれば通作等のいろいろな問題等を含めましてそういう問題をさらに強く規制する、こういう方向になっておりますので、農業外からの資本農地進出をする、こういう心配につきましては、今度の改正法案十分歯どめを行なっておるという認識に立っております。  第四番目は、小作料統制方式の変更の問題で、これは非常に議論のあるところではないかというふうに見ております。先ほどのような状態から、現行統制小作料をそのままの姿で存続をするということは、もはや現状にそぐなわいということは、再び申し上げる必要はないかと思います。しかし、これを完全に青天井にして野放しにするというような問題につきましても、問題が残るところであると思います。いまや小作料につきましては、全国律一な姿ではなくて、地域、地帯のいろいろな状態に応じた小作料をどういうふうに現実との関係で策定をしていくか、こういう問題を法律的にどういうふうに規制をするか、こういうことが基本的な問題であると思います。  しかし、実際の姿におきましては、今度の改正法案におきましては、農業委員会標準小作料を策定し、もし、あまりにも標準小作料に背離したような高額な小作形態が行なわれる場合にはこれに勧告をする、こういうようなことに相なっております。その辺の問題につきまして、一まつの不安を私どもは持っておるわけでございます。したがいまして、小作料統制は、いまのような形態はやめなければならないという前提に立ちますけれども標準小作料というものをつくるという問題につきまして、特にこれは農業委員会が行なうというような問題になっております。この点につきましては、もう少し何らかのくふうをこらしまして、この標準小作料権威を保つ、こういうような方向で、今度の改正法案の御審議に際しまして、これは特に皆さま方お願いを申し上げる一点でございまして、その辺の問題につきまして、十分ひとつ御勘案の上、善処方お願いいたしたいと思うわけでございます。  第五番目は、農業構造改善の問題と農地法改正問題でございますけれども、この点につきましてはいまさら申し上げる必要はないと思いますが、農業基本法が成立して七年に相なります。政府はいろいろいっておりますけれども、私どもは、構造改善政策につきましては、基本的な問題につきましてはいまだ見るべきものがない、こういう認識に立っておるわけでございます。  今回、農地法改正を行ない、農業振興地域法制定を行ない、農協法の一部改正を行ない、さらに国有林活用法案制定を行ない、さらに今後農業者年金制度の創設を行ない、言うならば、初めてここに構造政策に対する基本姿勢の具体的な施策を、法制的にも実際の施策におきましても行なう、また第二次の構造改善事業を、いわゆる経営構造改善に結びつけて行なう、こういうような問題が初めてここで出そろってくる、こういうような状況を私どもは非常に喜んでおるわけでございます。特に農地法は、これは一連の構造政策関連施策根底をなす問題であるというふうに考えておるわけでございます。  そういう意味におきまして、農地法改正が行なわれないでほかのいろいろな政策がかりに出ましても、これは画竜点睛を欠くことになるわけでございまして、農地法はそういう意味におきまして、構造政策をこれから本格的に展開をする一つ根底になる、そういう基盤をつくり上げる法律であるというふうに認識をいたしておるわけでございます。それだけに、農地法に対するわれわれの期待は大きいわけでございまして、先ほども申し上げましたように、単に現状変化を追認するだけではなくて、構造改善を前向きに今後やっていく、そういう面での積極的な意図的な内容が、今度の改正法案に盛られておることは御案内のとおりでございます。そういう意味におきまして、今度の改正法案につきましては、十分ひとつ慎重審議の上、結論的には、ひとつこの法案を通過さしていただきたいということを念願いたすわけでございます。  最後に、この法律改正によりまして、農業委員会は非常に重要な使命をさらにになうことに相なるわけでございます。農業委員会につきましては、世間でとかくの批判もございます。そういう問題につきましては、私ども十分自粛自戒をいたしまして、構造政策基盤を、農地法を軸として、いろいろな政策に対しまして正しく対応するような農業委員会に、十分皆さま方の御期待にこたえるような積極的な姿勢を出さなければならないというふうに考えておるわけでございまして、この辺の問題との関係におきまして、今後とも農業委員会制度あるいは財政的な面につきましても、ひとつ十分な御配慮をお願い申し上げまして、これで、農地法改正に対する私の意見開陳を終わりたいと思います。  御清聴ありがとうございました。(拍手)
  5. 丹羽兵助

    丹羽委員長 次に梅原君にお願いいたします。梅原君。
  6. 梅原昭

    梅原昭君 初めに、農地法改正案が持っておりますところの工業政策的な側面について申し上げてみたいと思います。  御承知のように農地法は、農民の中からかなり部分が離農し、そして都会集中をするということに期待を寄せ、これを誘導するようにして、その前提において農業経営規模を拡大するということを考えているわけであります。このような農民を離農させ、そして都会集中させるという構想のもとに出発をしております政策は、農地法だけではなしに、現在しきりに議論が進められております食管制度改廃の問題を含めて、そのとおりであります。  御承知のように、食管制度改廃議論はいろいろな角度からなされておりますけれども、その主たるねらいとするところは、農産物の価格、とりわけ米の価格を現在のままに据え置くか、あるいはさらに引き下げるかというような状態にいたしまして、それによって農業経営が困難になっていく部分、そういう者が離農することを期待し、そうして都会労働者として集中することを期待する、そういうものを一つ中心課題とした政策であるということがいえると思うのであります。このようなかなり農民都会集中をさせていくような政策が、とりわけ基本法農政以来実施されてきておるわけでありますけれども、その結果どのような状態が生まれておるかと申しますと、都会資本労働力集中をいたしました結果、いましきりに新聞などをにぎわしておりますように、すでに都会というものは空気も水もよごれ切って、もはや人間の住むことがきわめて困難になってまいった。そういうところから、いわゆる都市問題というものがここに発生せざるを得なくなってきたという背景は、先ほど申し上げたような政策と無関係ではないのであります。  そのような都市問題というものが発生をしてきたが、それが農民にとって無関係かと申しますと、そうではなしに、御承知のように、間もなく新都市計画法なるものが実施に移されるわけであります。これの農民関係をする部分だけを申し上げますならば、新都市計画法の施行区域の中のかなり部分が市街化区域ということになりまして、これは平たく言いますと、十年以内にこの区域に入ったならば、まあ何が何でも農業はやめていただく、こういうことを志向する地域であります。したがいまして、この区域の中に入りますと、御承知のように、いま農地法の中で農地転用規制して、これは知事が許可をするというのが農地法の中でも一つのかなめになっているわけですけれども、新都市計画法が成立した場合に、御承知のように、新都市計画法は建設省が中心になってこれを推進してまいった法律でありますけれども、この建設省が推進をした新都市計画法の関連において、市街化区域の中の農地については、転用の際に知事の許可は要らない、届け出さえすればよろしいのだ、このような重要な変更が、もうすでに新都市計画法の中で改正をされてしまっておるというところにあらわれるがごとく、農地法というものが、すでに農業以外の部分のほうから大きく規制をされ、変化を迫られているということが一声えると思うのであります。  しかも、先ほど申し上げました市街化区域のほかに、もう一つ市街化調整区域というのができるわけでありますけれども、これについて農林省などは、農業を保護する区域であるというような意味の説明をしておりますけれども、実はそうではなくて、これは同じように都市計画区域の中に含まれております市街化区域の予備区域でありますから、いつ市街化区域に変更されて、そして農業からの強制的な離脱を迫られるかわからない、こういうふうな状態になるわけであります。しかも、市街化区域、調整区域両方合わせますと、実に日本の農地の約三〇%にも及ぶ、こういう膨大なものでありまして、こういうものが農業に対して大きな影響を与えないはずはないわけであります。  こうなってまいりますと、都会の近郊におきましては、先ほど申し上げました市街化区域の中の農業というものは、すでに近い将来において存立が許されないような状態になってまいります。私、大阪におるわけでありますけれども、一般の常識に反しまして、大阪市というような大阪府のどまん中にあるところで、農家の専業率が大阪府下で一番高い、こういう一見常識に反するような状態があらわれているわけであります。しかも、収益率もその大阪市内の専業農家が一番高い、こういうふうな結果が統計数字で出ておるわけであります。こういうような優秀な農家というものが、この新都市計画法によればまっ先に追放させられる、こういうふうなことになるわけであります。その追放をされた場合に、一体その農家はどういうふうになっていくのかというと、かなり遠いところに耕作に行かなければならない、こういうふうな運命に当然なってくるわけです。  それで、今度の農地法改正案によりますと、通作距離その他の条件を勘案して、土地が効率的に使用されないという一般的なばく然たる基準に基づきまして、農地を取得することを拒否されるというような可能性すら出てくるわけでありまして、いま言いましたように、片方からは新都市計画法によって追い立てられていく、それで周辺部に移ろうとした場合に、その受け入れ体制というものは、今度の農地法改正案によりまして断わられていくという危険性をはらんでいるというふうに考えるわけであります。  私、いま都市近郊の問題についてだけ触れたわけでありますけれども、反面、山村などにおきまして農村人口がどんどん流出をしていったために、もう農業としての形態をなさなくなっている。農業どころか社会として存在することが不可能になりつつあるという、いわゆる過疎問題が発生をしているということは御承知のとおりであります。  したがいまして、いままで申し上げましたことを要約いたしますならば、農村から人口を流出させるということについて、従来無反省にそれが行なわれてきたけれども、それは農業にとってどういうふうな意味を持ってきたかといいますと、都市近郊における農業をつぶすという役割り、それから山村における農業をつぶすという役割り、そういうふうな役割りを果たしてきたのではなかろうか。であるとするならば、このような政策というものは農業政策といえるものではなくて、農村人口を都会集中し、部会の企業の必要性に従属させるという意味しか持たない、工業政策にほかならないのではないかということを申し上げたいわけであります。  それならば、いま申し上げましたような都市近郊の農業に対して打撃を与え、山村の農業に対して打撃を与えるというような、かなり大きな被害をもたらしながら、反面、それにかわるべき新しい利益というものが、農地法改正案によって得られていくのだろうかということを、次に述べてみたいと思うわけであります。  先ほど申し上げましたように、農業基本法が成立をいたしましてからすでに十年近くたとうとしているわけですが、その十年ほどたった間に、一体何が行なわれてきたかと申しますと、確かに農村の人口は減っていった。しかし、その減っていった農村においてはどういう農業があらわれてきたのか。これもよく新聞などで問題にされておりますように、肝心の農村の青年、将来の農村をになうべき青年が都会に出ていってしまい、残るのはおもに婦人であり、しかも老人である、いわゆる三ちゃん農業が残った。こういうことであっては、農村の人口が減るということが直ちに農業経営規模を拡大したり、あるいは農業発展させるということにはつながらないというふうに思うわけであります。  しかも、この農地法改正案の前にありました農地理事業団、この構想というものは、農地の売買を活発にすることによって、零細規模の農家農地を比較的規模の大きな農家集中させていく、こういう構想で法律案が国会に出され、そのような構想というものは無意味であるという立場によりまして、国会で成立を見なかったわけであります。そこで、引き続きまして、農地の売買を通じて経営規模の拡大をはかるという構想が不可能であるならば、それにかわって賃貸借を拡大することによって経営規模の拡大をはかるということはどうだろうか、このような立場から農地法改正案が出されてまいったわけであります。つまり、農地の売買ではだめだけれども、賃貸借ならいけるだろう、こういう構想が前提としてあるわけであります。  ところで、御承知のように、いまの賃貸借、小作農家数あるいは面積というものはどのように変わっていっているかといいますと、委員会で配付された資料などによりましても、昭和三十年に農地の九%を占めておりました小作地の面積が、十年後の昭和四十年に約五%ということで、半分に低下をしておるわけであります。つまり、年々歳々小作地は減っていっているわけであります。この年々減っていく小作地というものを、この農地法改正案というものが、この傾向を逆転させるだけの威力をはたして持つものであろうかという点については、はなはだ疑問に感ぜざるを得ないわけであります。  昭和四十二年に小作料の改定が行なわれました。とりわけ田につきましては、御承知のように四倍という非常に大幅な値上げが行なわれました。このことの是非はともかくといたしまして、小作料が四倍というように大幅に上がったならば、それによって、小作地がだんだん減少をするその傾向を逆転させるというところまではいかなくても、減少する傾向を食いとめることがはたしてできたのか、残念ながらまだ統計資料がそこまで出ておりませんので、断定的なことは申し上げられませんけれども、私は、この減少傾向を食いとめておることにはおそらくなっていないだろうと思います。しかも、大幅な小作料値上げというのが二年ほど前にあったわけですから、そういうことの結果、それが小作地流動化というものについてどのような影響を与えたのかということを確認もしないでおいて、小作地流動化中心とする農地法改正案議論を進めるということは、はなはだ早計なのではなかろうかというふうに考えるわけであります。  しかも、このように農地法改正案によりまして小作地流動化経営規模の拡大というものがあまり期待できないといたしますならば、法律をせっかくつくったけれども、あまり意味はなかったというそれだけのことでとどまるのかといいますと、私はそういう面だけではとどまらないと思います。それにつきまとってマイナスの面が出てくると思うわけであります。  一つは、小作料の問題でありまして、御承知のように、今度の法律案によりますと、いままでの小作地とそれから今後の小作地とについて、二本立ての小作料制度がとられることになります。言うならば統制小作料が一本あって、もう一つは自由な小作料という制度がある。こういう自由な小作料統制小作料と二本立てになった場合にはどういう結果が生まれるか。われわれはすでにこの経験を地代家賃統制令において持っているわけでありまして、そういう場合には統制地代、統制小作料というものが名目だけのものになってしまうということはすでに経験済みでありまして、統制小作料制度が大混乱を起こしてくるということは明らかであります。  もう一つの問題は、すでに農村で出ているわけでありますけれども農地法改正案が通りましたならば小作地を自由に取り上げることができるんだ、こういうような話が農村の中ですでに始まっているわけです。法律案それ自体がそういうふうなことを認めているかどうかということ、これは別の問題といたしましても、とにかく農地法改正案農村でどのように理解されておるのかといえば、改正案が通るならば、小作地はいままでに比べてずっと取り上げやすくなるのだというふうなうわさ、雰囲気というものが生まれているわけであります。農村社会におきましては、法律それ自体ということも大事でありますけれども、それ以上に、その法律というものがどのように農民の中で理解をされておるかということがきわめて大事なわけでありまして、法律で何と書いてあろうとも、取り上げるのが自由にできる、やりやすくなったというふうに理解されておりますならば、今度賃貸借の解約におきまして、まさに変わろうとしているその点、いままでも合意解約というものが、小作地解約の九割以上を占めているわけでありますけれども、そういうものについては、知事の許可が要らなくなったということを幸いとして、合意解約という名のもとに、自由なる土地の取り上げが行なわれるというような弊害が必ず出てまいると思うわけであります。  いままで申し上げたこと全体を要約して申し上げますならば、農地法改正案というものは、単にその農民の要請、農業内部だけの要請から発生したものではなくて、むしろそれは農村労働力を必要としている外部からの要請によってこういうものが生まれてきたものだということが第一であります。第二の問題は、それでは農村社会にどのような影響を与えるのかといいますと、これは小作地流動化、ひいてはそれを通じての経営規模の拡大ということにはならないであろう、ならなくて、しかもマイナスの面だけを発生させるであろうということが、私のいままで申し上げました要点であります。したがって、このように弊害のきわめて多い農地法改正案に対しては、反対であるという私の意見を申し上げて終わることにいたしたいと思います。(拍手)
  7. 丹羽兵助

    丹羽委員長 次に大久保君にお願いいたします。大久保君。
  8. 大久保毅一

    大久保毅一君 大久保でございます。農地法改正の問題につきまして意見を申し述べる機会を与えられまして、感謝申し上げる次第でございます。  最初に、この法案についての結論を申し上げたいと思います。今回の改正は、最近急激に変化する諸条件の中で、農家農地に関して現実に即した対応のしかたをとりつつありまして、この実態を踏まえての改正であるという立場で、賛意を表するものであります。  理由の第一として考えます点は、かつて農地改革当時に、並行して農業改革が必要であるといわれておりました。そこで、いかにしてわが国農業の宿命である零細農耕制を脱皮するかということが、日本農政の大きな課題であるとされておったと思います。しかしながら、当時はこの農業改革を進める条件が成熟していなかったために、その実施が見られなかったわけでございますが、今日の段階では、それを進める諸条件がおおむね整ってきたのではないかと考えるのでございます。  たとえば、農外雇用が拡大をしてまいりまして過剰就業が解消する。また、職業選択がきわめて自由になってきた。それから農業の内部でも、農業の技術革新が進んでまいりまして、農業の省力化が促進をされてまいっております。また、農業者自体も所得均衡に対する意識が非常に強くなって、これが職業選択の自由と結びついてまいっております。さらに外的な要因としては、貿易の自由化等が漸次拡大をしてまいりまして、これを完全に防止することは、今日の段階ではもはや不可能でございますが、こうした国際競争力を十分に農業の中でたくわえなければならない、こういうことも考えられると思います。  それから理由の第二としては、農業者経営意識が非常に向上してまいりまして、機械力を積極的に導入するとか、特に経営規模拡大の意欲が高まっておりまして、現行農地法の中におきましても、現実農家はいろいろなくふうをやっております。たとえば、請負耕作でございますとか、技術信託であるとか、集団栽培であるとか、協業組織であるとか、法人化といった問題が全国的に広がっております。さらに、後継者の意見をいろいろ聞いてみますと、青年層の間では、経営規模拡大に対する非常に強い意欲が見られるということでございます。そういう点から見まして、今日改正法の中に盛られておりますことは、現在の時点において最も必要な点であろう、このように考えるわけでございます。  しかしながら、今後の農業の近代化、合理化を進めるにあたりましては、農地法改正のみでは達成せられるものではございません。農地制度の新しいレールの上に新しい農業経営を走らせるためには、総合農政の諸施策を十分に肉づけをしていただかなければならないと思います。したがって、この点を特に御要望申し上げる次第でございます。  それからなお、農地問題の今後の課題として、二、三の点を申し上げてみたいと思います。  第一点は、農業者の階層分化が進んでおりまして、農家の中では、農業経営を拡大して前向きに前進しようという志向を持つ階層と、むしろ農業を縮小撤退しようとする階層がだんだんはっきりとしてまいっております。特に、通勤兼業地帯におきましては、恒久的に前進型と撤退型とが混在した姿で進んでいくのではないかと思いますし、通勤困難の地帯におきましては、撤退型はやがて農業から離脱のやむなきに至るのではないかと考えられます。したがって、都市に近い地域におきましては、兼業安定という問題と、その地域における農業生産力の拡大というものをどのように調整させるかという課題が出てまいります。それからまた山間地帯では、農業から離脱する人がふえるということは過疎問題を引き起こすわけでございまして、この過疎問題の中で農業生産力を拡大し、農業経営を拡大するための施策というものが考えられなければならないと思います。  第二点は、土地基盤の整備でございますが、経営規模の拡大を実現するためには、何より土地基盤の整備が大前提となると考えます。大型機械や近代化施設を積極的に導入することと、土地の高度利用を促進するためには、新しい角度から基盤整備を進める必要があるのではないかと思います。この場合、特に山間部が平たん部よりは立ちおくれないように、基盤整備を進めるべきであろうと考えます。  第三点は、先ほど申しましたように、貿易の自由化に伴って国際競争がだんだん進んでまいると思いますが、農業の中で競争力を付与するための一つの課題として、土地資本について検討をお願いいたしたいと思います。わが国の場合には土地に対する仮需要であるとか、投機的な投資が行なわれまして、そのために地価の上昇が非常に著しいわけでございます。このことが、せっかく経営規模を拡大しようといたしましても、土地資本を非常に過重にして経営を圧迫する結果を招くと同時に、相続税、贈与税等の税制面でも非常に困難な問題を提起しているわけでございます。  また、これから促進をされる牧野造成等を見ますと、生産者の固定資本部分が非常に増大する傾向が見られるわけでございます。特に畜産におきましては、国際化が一そう進むというふうに見ておるわけでございますが、そうなってまいりますと、価格競争の場合においてのわが国の畜産の土地資本部分の重圧という問題は、あらためて検討を要するのではないだろうか。したがって、土地資本の適正化をどうすべきかということにつきましては、早急に御検討をお願いいたしたいと思います。  最後に、一言申し上げたいと思いますが、農業を積極的に進めようと志向しておる農業者は、真剣に今日の経済社会の変化に適応するために努力をしておりまして、これらの変化が非常に激しく、いわば農業改革ともいえるような時期でありますだけに、農業者が真剣に取り組んでおります農業経営上の創意くふうにつきましては、今後とも十分にくみ取っていただいて、諸制度の強力的な運用を進めていただきたい、このように考えるわけでございます。  これで終わります。御清聴ありがとうございました。(拍手)
  9. 丹羽兵助

    丹羽委員長 次に桑原君にお願いいたします。桑原君。
  10. 桑原正信

    桑原正信君 農地法改正の問題につきまして、細部の点にわたりましては、御専門の参考人の皆さんから御意見があるようでございますので、私は、この改正は今後の日本の農政あるいは農業のあるべき姿に対して、どのように位置づけて考えなければならぬかというような点について意見を申し上げてみたいと思うのであります。  戦後いろいろの農業政策がとられたわけでありますが、基本になる点は、価格政策構造政策という二つになると思うのであります。終戦後の全般的な食糧不足の状態の中で、その対策は増産対策であり、したがって、それに対してとられた政策価格政策でございました。米をはじめとしてほとんど、あげてみれば農産物の全面にわたって、強さについては強弱の差はありますけれども、きわめて広範に価格政策がとられておるわけであります。何ゆえに価格政策がこのようにとられたかということを考えてみますと、これはいま一つ構造政策とのいわば政策効果という点で、かなり質的な違いを持っているというところにあるのではなかろうかと思うのであります。  と申しますのは、価格政策はきわめて即効的であり、また総花的な性質を持っておる。したがって、行政の面からいいますならば、緊急の増産ということに対処するためには、やはり即効的効果をねらう価格政策というものが出てきたわけでありますし、さらに総花的な政策につきましては、政治の面においてのバックアップといいますか、支持が非常に強かったのではないかというふうに考えられるのであります。しかし価格政策は、子の必要性を、私は日本のような零細な農業においては十分に認めますけれども、これにはおのずから限界があり、すでに今日、米をはじめとしていろいろその矛盾があらわれていることは申し上げるまでもないわけであります。そしてそのような状態から一転して、今日農産物はかなり需給が緩和され、いわば過剰ムードともいわれるような状態が起こっておるわけでありますが、こうなりますと、やはり価格政策というものが従来のような方向で進められていいかどうかは非常に問題になってくるのではなかろうかと思うのであります。  ところが、これに対する構造政策はどうかといいますと、戦後において構造政策らしいものはほとんどとられていないと言って差しつかえないかと思うのであります。基本法は、その中に構造の問題をはっきりと取り出しておるのでありますけれども、これに対する具体的政策というのは、わずかに廃案になりました農地理事業団法案が出たくらいのものであって、具体的には何らの施策もなかった。したがって、基本法農政は失敗だという意見がありますが、私はその評価以前の問題であって、政策を行なってみて失敗したというのじゃなくて、行なわなかったというところに問題があるのじゃないかというふうに思うわけであります。  そういたしますと、やはりいまの段階としましては、一方で価格政策をとるとともに、これまでゼロにひとしかった構造政策にウエートを置いてその政策を進めるという、その両方の政策の並進というものが必要になってきているのではないかというふうに思うわけであります。  そういう情勢の中で、いま問題になっております農地をめぐる農業側の事態を考えてみますというと、農地法の第一条に「耕作者」ということばがありますが、これは普通農民というようなことばでいっておりますけれども農民なり耕作者というものは、今日において、私は一義的にそれをつかむことができないほど実は変質しているのではないかというふうに思うのであります。  と申しますのは、農地改革の行なわれました当時の農業者というのは、その中にも兼業農家はありましたけれども、兼業農家にしてもやはりその土地を生産の基盤と考えて、その上でいかに農業所得を高めるかという努力を払ったのであります。ところが今日においては、農業者という名の中には、いわば農業に背中を向けている農業者というものが出てきておる。言いかえれば、土地は所有しておるけれども経営はしないあるいは経営はしたくないという農業者が出てきておる。小作が減少しているということからこれを取り上げられる説もありますけれども、しかし、これは今日においては、単なる公式的な小作の数だけで考えるべきじゃなくて、現実やみ小作と俗にいわれる請負耕作という形のものがいかにたくさん出ておるか。言いかえれば、実質的な小作というものがどうなっているかということを考えなければならぬのではないかと思うのであります。そういうわけで、農地改革によって所有と経営というものを一体化されたその状態が、今日においては所有と経営が分離するという方向かなり強く進んでいるということは、私は客観的な事実ではないかというふうに思うわけであります。  それをめぐって、いわゆる農地法がざる法だといわれるような事態が起こっておることも申し上げるまでもないわけでありますが、これに対しまして、私はよく、日本の農業を端的に申せば、三日月農業だと言っていいのではないかということを申すのでありますが、確かに暗い面は面積としては広くあるわけでありますけれども、反面において非常に光っておる。現にわれわれの狭い見聞の範囲でありますけれども、トップを行っているようなものにおいては、農業においてすら一億という粗収益をあげているような農家も現に日本ではあるということ、こういうことを考えますと、やはり数は少なくても意欲に燃え、能力を十分に発揮している農家群が、いわゆる三日月の光る部分として存在しているという事実もまた認めなければいけないのじゃないかというふうに思うわけであります。そういう面においては、ここでは逆に土地の問題が一つの隘路となってきておるわけでありまして、したがって、兼業あるいは零細の側における土地の問題、あるいはいま言ったような意欲的な農家の側における土地の問題、こういうことで、結局問題は土地の問題にからんで、いま混迷を続けているというのが実情ではなかろうかと思うのであります。  こういう事態を踏まえて考えますというと、やはりこの際農地制度あるいは農地法のあり方に対して、一部はもちろんこの事実を吸収して、それをどうして法律の中でこなしていくかという問題になりましょうから、その意味では事実追認式な面を持たざるを得ないわけでありますけれども、同時にその中に、私がいま申し上げるような発展的、意欲的農家が伸び得るような条件というものを設定するということは、この際必要ではなかろうかというふうに思うわけであります。  そこで、こういう局面に立って考えますと、やはりいま申しましたような、いわば袋小路に追い詰められたような状態を脱却するためには、いろいろの問題を考えなければなりませんけれども、とにかく農業の問題においては、農地制度あるいはそのあり方というものが基本的だと考えなければならぬでありましょうから、この点において、やはり農地法というものを現状に即し、また、将来の展望を踏まえて改正していくということが、適当なのではなかろうかというふうに考えるわけであります。  もちろん、構造の形態につきましては、あるいは自作型の自立経営というものもありましょうし、あるいはまた借地農的な自立経営というものもありましょうし、あるいは協業集団的な経営形態というものも考えられましょう。これはもちろん私は、一義的にこうでなければならぬという規定のしかたをすべきじゃないと思いますけれども、ともかく何らかそういう発展的な方向に向かって農地の問題を処理していくことが、当面取り上げられなければならぬ事柄ではなかろうかと思うのであります。  よく、農地法改正してみたところで、何もできるものじゃないというような意見も聞くわけでありますが、もちろん私も、農地法を今度の程度改正してみたところで、それで日本の農業問題が根本的にばっさりと解決されるものだとは毛頭考えません。しかし、やはり土台になるものについて、そのあり方をあるべき方向に向けていくということが必要なのであって、それを土台として、いわば関連する諸政策を考えて結びつけていくということで進まなければいけないのではなかろうかと思うわけであります。その意味において私は、今度の農地法改正というのは、いわば、少なくともということでありまして、あるいはせめてもというふうに言ってもいいかと思いますが、そのような意味で、とにかく現在の段階で、その改正すべき最小限度の必要なものではなかろうかというふうに考えるのであります。  しからば、その次に何があるかということが問題になるかもしれませんが、これは私は、農地法の問題を含めまして、日本の農業を今後考えていく上に、むしろ私自身にみずから教えている問題が二つありますので、御参考までに申し上げておきたいと思うのであります。  その一つは、私がこの程度の改正ではと申しますのは、たとえていいますならば、私はこれは東海道線の改修工事程度のものだというふうに考えています。東海道線をどのように改修してみても、結局、新幹線というものができなければ東海道の輸送力を強化することはできなかったと同じような意味で、私は今度の改正は、いわば東海道線の改修のようなものだと思う。  しかし、それはそれなりにおいて、いま申し上げましたように必要なものだと思うのでありますが、ここで考えなければならぬのは、いまのような事態になって、言いかえれば、東海道線改修という手法は、いわば一種のものの考え方としては連続的な考え方なんです。しかし、今日の状態においては、ことに農業においては、連続的な考え方というものでは、もはやそれだけでは解けない問題が出ているのじゃないか。いわゆる非連続の考え方というものが必要になってくるんじゃないか。その意味において、新幹線農業というような構想を出すことが今日必要なのじゃないか。そういう意味において、私なども、従来いわゆる東海道路線で考えてきた自分の頭のかたさを、いまつくづく反省し、そこにいわゆる新幹線農業の路線というものを、何とか発見したいというふうに考えておるわけでありますが、皆さま方の御論議の中においても、私は、今後やはりそういう考え方が必要になってくるのではないかというように考えられる意味で申し上げたわけであります。  それから、いま一つの問題は、後世の歴史家がどう名をつけるかわかりませんが、私は現在の国の政策、あるいはその中においての国民の行動、生活というのは、いわば所得狂時代、いわゆる所得マニア時代といってもいいほどの時代じゃないかと思うのであります。一切が所得がどうなればどうなるということで、そこですべての問題が解決できるような考え方をしておるのではないかと思うのであります。いまの場合土地の問題、それを通じて、農民の所得というものを考える——終局的には考えざるを得ないわけでありましょうから、その一面が必要であるということは私は十分認めますけれども、しかしながら、決してわれわれはエコノミックアニマルではない。経済的動物だけのものでもなければ経済的機械でもない、やはりそこには人間というものがあるのではないか。  そういう意味であらゆる政策というものが、その根底に人間というものを踏まえて考えられていく必要があるのじゃないか。そういう意味からしましても、たとえば、私は端的にいって、貧しい農民に縛りつけておくよりは、豊かな労働者に育て上げていくことができるならば、それはやはり一つの人間を踏まえた政策なりものの考え方だというふうに考えていいのではないかというように思うわけでありまして、そういう意味において、やはりあらゆる政策根底に、人間不在の状態から脱却するような考え方というものが考慮されなければいけないのではなかろうか。そういう意味で、やはり農地法改正の問題というものも考えていかなければいけないのではなかろうかというように思うわけであります。  細部にわたりましては、いろいろ問題があるかと思いますけれども、私自身は、いまの段階では、少なくともという意味において、この農地法改正は必要なものであるというふうに考えておる次第でございます。  以上でもって終わります。(拍手)
  11. 丹羽兵助

    丹羽委員長 次に東畑君にお願いいたします。東畑君。
  12. 東畑四郎

    東畑四郎君 日本の農政は、御承知のように農業農村農民、これを同質的なもの、一体的なものとしてつかまえまして、中央から画一的な農政を展開してまいりましたことは御承知のとおりであります。したがいまして、農政の根幹となります諸制度も、おおむね中央画一的な同質的なものとしてこれを展開してきたことは御承知のとおりであります。  ことに農地法は、農地改革が敗戦後の当時急激に上から行なわれましたために、旧地主制というものが急激に、平和裏に耕作中心の新しい秩序に変わった。したがって、いつ地主制がまた復活するかもしれない。それを防衛するだけの農民の自主的な力が育成されてないという一つの懸念、これは真実でございますから、中央における行政府の介入というものが非常に強うございました。したがって農地法は、今日政府の権力といいますか、干渉といいますか、介入が非常に強く打ち立てられまして、そうして耕作中心の秩序をいつまでも維持していきたい、こういう法制の仕組みになっておると私は考えるのでございます。  ところが、昭和三十五年以後、われわれの想像以上に日本の経済の成長力が急激に伸びましたために、これが農村あるいは農民の生活、経営に非常に大きな変革を与えた。今日こそ農業を産業として考えろとか、農業を職業として考えろとかいうことがいわれますけれども、この農地法制定当時は、観念としてそういうことがございましたけれども現実農業は生活であり、常態である、こういうようにいえる段階であったと思います。  ところが、三十五年以後あまりにも急激なわが国の高度経済成長が押し寄せまして、一番大きく影響をいたしましたのが、やはり雇用機会の増大ということでございます。私、農林省におったのでございますが、私が農林省におりました当時は、農業労働力人口というものは一定不変である、農地面積も、若干の増減はしましたけれども一定不変である、こういう前提のもとに農政は展開してきたのでございますが、農業労働力人口というものが外国に例を見ないような急激な減少をしたということが、農民の意識というものを非常に変えていったということがございます。  同時に、地価というものが高度経済成長下において非常に上がった。これを、農地法があるから地価が上がったんだということが一時いわれましたけれども、私はそう思わない。これは農地法以外の、日本全体の経済構造のもたらした一つの悪い面が農業に押し寄せて、地価を非常に、不当に高くした。これは価格じゃなくて、値打ちを上げたと言うほうが正確だと思います。  したがいまして、本来農民が持っております資産保有者的な性格、経営者的な性格、あるいは勤労者的な性格のうちで、資産保有者としての性格というものが非常に強く出てまいった地帯がございます。これは都市近郊の農村地帯、ここの農家というものは、資産保有者的な意欲というものが非常に強くなってきて、どちらかといえば、農民の勤労者的な意欲というものが減ってきたのは当然の一つ方向だと思います。こういう一つの条件が急激に出てまいりましたというようなことは、農地法制定当時はもちろん、農業基本法制定当時ですら、こんなに地価が急激に上がるというのは想像もしなかった事態である。  そういう一つの日本の経済成長のもたらしました客観的条件の変化と、また農村変化というものと、今日の農地法というものと考えますると、そこに非常に大きな矛盾がある。農地法自体は、御承知のように、日本の農地改革を実行したものを維持していくという非常に大きな意味のある制度であるし、私は、やはり農政上の非常にりっぱな根幹であると思いますけれども、これを今日の条件に照らしてどう修正をし、適応していくかということを、非常にむずかしい問題でありますけれども、われわれは考えなければならぬし、中央集権的な画一的な政策からもっと地方分権的な、農民自体の生産力を農民組織で伸ばしていくというような、そういう過程の中における農地法という問題と、真剣に取り組むべき段階に来たのではないか、私はこういうように考えるのでございます。  その中で、一番むずかしい地価問題というものはどうするか、あるいはこれをどういう形で、いわゆる最近いわれる規模拡大方向と調整していくかという問題は、残念ながら今回の農地法改正ではほとんど触れていない。そこで、規模拡大をしたいという一つ方向から考えるのが、いまの農地法改正に盛られている一つの新しい芽であろうと私は思う。  それで、先ほどもお話がございましたが、賃借権という一つのむずかしい問題をつかまえますると、農地改革あるいは農地法精神というものは耕作中心制度でございますから、どちらかといえば耕作権の保護、賃借権の保護というものを非常に強く打ち出しておる。農業自体でございますから、耕作権というものはやはり保護し、これを安定させるということは、いかなる時代においても重要な制度である。よく請負、請負ということがいわれますけれども、請負というものは、およそ農地制度の中の制度にはならないのではないか。請負というものは非常に不安定な耕作権であるし、あるいはゼロの耕作権かもしれない。そういうゼロの耕作権をもって、土地の生産力を上げたり経営の安定をはかるということは、私は過渡期の存在で、いまの農地制度の矛盾というものを破る一つの過渡的な、やみといいますか、そういう形でこれが行なわれておるのであって、これを制度として根幹にするということは誤りである。賃借権というものはあくまでこれは安定をし、耕作権というものは保護をしていくというのが、日本のみならず世界共通の一つの原理原則である。  ところが、これがあまりにも強うございますと、所有者というものがその土地を賃借させて、耕作中心のためにこれを貸したいということがあっても、あまりにも強い賃借権でございますと、やはり土地は本気で耕さなくても、これを所有したほうが安全であるという形にならざるを得ない。今日の日本の農地法は、まさしくそういう点に若干の欠陥があるのではないか。要するに、あまりにも耕作権が強過ぎるために、その土地を貸して農業からリタイアしたい人までも、資産的価値というものを強くさせるために手放しできない、こういう面があると思います。したがいまして、そういうむずかしい問題について、今回の農地法賃借権の更新であるとか、解除であるとか、あるいは小作料という問題に思い切った政策転換をやったことは、私は賛成であります。  これは、耕作者自身の条件というものが非常に変わったということではないかと思います。要するに、職業選択の自由というか、他の面に雇用の規模が拡大してきておるという条件で、土地にしがみついて、農民同士が競争をして小作料の値上げをしたり、解除を求められたときに、頭を下げてでもたのんで土地を耕すというような過去の条件と、今日の条件とは、およそ変わってきたのではないか。むしろ耕作者が強くて、所有者のほうがなるたけ放さないのを、この条件をある程度緩和すれば、むしろ若干は賃借に出させるという可能性も、私は地域と場所によっては大いにあるのではないかと思う。そういう面からいいますと、今回の賃借権の緩和というようなことは、これはやっても、決して昔の地主制が復活するとか、そういう危険は全然ないのではないか。条件が変わったのではないか。この際踏み切ってそこまでやるのが、私は非常に時宜に適するのではないかというように考えるのであります。  小作料の問題につきましては、ただ既得権という問題がございます。この既得権というものは、いかなる場合にも守る必要があるのではないか。過去における小作料小作地というものと、これからの小作料小作地というものに違う面がございましても、やはりその人たちが生命をその土地に持って、既得権を守っておるという人については、これは別個に保護してやる必要がある。しかし、新しい流動化をはかるための小作料等につきましてはこれを自由にして、問題を新しく展開していくという時期に来たのではないか。  農業委員会等が標準小作料をこしらえたり、これを勧告するという制度ができたのでありますが、こういうことにつきましても、なるべくは国家介入を避ける、ほんとうに農民同士がその地域におって話し合いをして、そこで相互に話がついてできた、いわゆる農民的、合理的な小作料というものを全体として守っていくというような制度、これをどういう形で守るかということについては、ある面において私は強制が要るのではないかと思う。物の販売についても、ある規格をつくって、ある技術を公開してつくった商品というものを共同で売る、もしその共同販売について違反をする農民があった場合はこれを排除してしまう、いわゆる三分の二強制といいますか、そういう強制をして同じ品質、同じ規格のものを売ることによって、全農民が流通改善をできるんだ、こういう制度が最近諸外国で行なわれておると同じ意味において、小作料等についても、すべて国が介入をして、一筆一筆のたんぼの小作料統制するというようなことはやめて、これからは農民自体組織によって、みずからが合理的なものをもたらす、それを農民同士の強制によってこれを強化して、国家はなるたけ介入を避けていく、こういうむしろ地方分権的な考え方を導入するのが、私は前向きの方向ではないかというように考える。そういう点について、今回の農地法改正案は、従来の中央集権的な考え方からいえば、非常に思い切った面を一つ持っておるということについて、私は敬意を表しておるのでございます。  それからもう一つ、これは皆さん方がお触れにならなかったのでありますが、未墾地の利用権の設定、賃借権の設定というような問題を今回は取り上げておる。これも一つの非常に重要なことであるし、私権というものについて、ある場合においては強制的に賃借権を設定するというようなことは、これはたいへんなことでございます。こういうようなことについても、非常に慎重な考慮がなされておる。公共団体、あるいは農業協同組合、あるいは目的を畜産というように非常に限定をし、しかも、未墾地買収を予定されておる地域にこれを限定をして、しぼって、そこに強い利用権の設定をやる、あるいは入り会い権等についてもこれは設定できる、こういうことは、畜産の発展という将来から見まして一つの進歩であるし、この制度は今後大いに活用をすべきではないかというように考えるのであります。  なおもう一つ農地制度研究会等で議論をしなかった問題で、今回新しく入れられた非常に重要な制度があるように思います。それは、農地保有合理化の公的機関をつくってもいいのだという制度であります。この実態が一体どういうものであるか、法案を読みましてもなかなかわかりにくいし、また、どういう方向でこれを運用するかも、どうも私、不勉強で読み取れないのでありますけれども考え方としては非常におもしろいのではないか。従来の農政というものは、いつでも中央集権的であり、中央画一的であって、農地理事業団またしかりであったのでありますけれども、これを、あるいは市町村、府県、そういう地域実態に即した形において、公的機関の介入というものを考えてもいいんだというようなことは、従来の農政になかった一つの新しい行き方である。残念ながらこの内容というものはどうもはっきりいたしませんけれども、そういう一つ考え方によって、これからほんとうに下からの、農民からの組織、また農民からの要望による公的機関というものが育成されるようなことは、今後の農政の一つの指針となって、おもしろいのではないかというような気がいたします。  ただ、一番初めに申し上げましたように、地価問題という問題に全然触れていない。そのこと自体が、この農地法改正によって農業構造の改革が思い切ってできるかということについて、桑原先生もお述べになりましたが、私も、これは一歩前進であって、二歩の前進ではないと思うのです。  そこで、一番むずかしい地価問題をどうするかということは、私自身にもなかなか考える案がございませんが、これは全くの思いつきでございますけれども、たとえば農村で、農家が離農をしたい、引退をしたい、しかし資産として土地を持っておりたいんだ、こういう一つ考え方、これはあり得る。その資産として土地を持っておりたい人に、その土地にかわる金というものを渡す仕組みというものを考えられないかどうか。これを財政で持てば、率直にいうと、これは地価の二重価格ということになる。農民経営として必要な地価というものと、資産的価値としての地価というものとはおよそ違う。それを、資産的価値として土地を手放した人にはそれで渡して、経営者には安い農地を渡すということになりますと、これはものすごい二重価格になり、その二重価格による財政負担というのはたいへんであるけれども、これをいろいろな年金制度によって、経済政策としての年金制度で考えられないかどうか。要するに、農地証券あるいは公債というようなものを——元本まで返さなくてもいい場合もある。国の財政が豊かなときに返したらいいのであって、国の財政の困難なときは利子だけ返せばいいのではないか。こういう一つの何か新しい考え方で、土地は資産的価値としてこれは大事なものなんだ、しかし、その土地を最も効率的に、有効的に利用するということがより大事なんだという、一つの哲学といいますか、考え方というものを、私はもっと日本においては植えつける必要があるのではないか。そういう一つの植えつけ方と同時に、それに対する経済保障というものをある程度めんどうを見てやるんだ、そして土地を持っているのと、そういう一つの国家の債券を持っているのとは同じことではないか、こういう何か仕組みというものを、ひとつわれわれも皆さんとともに考えて、この資産的価値がだんだん高くなって、資産として土地を持っておって経営の対象にしないという、こういう一つの矛盾というものを解決することが、次の農地法の大きな問題である。  賃借権の安定というものと流動化というものとの妥協をはかった農地法に、もう一つそれに触れて養老年金制度、社会保障的な年金制度、これもいろいろ考えておられますけれども、経済政策としての年金制度、これをもっとわれわれは農政として考える必要があるのではないかという点が一点であります。  もう一点は、家族自作農主義という一つの主義というものと、これから起こる非農業面の急激な高度経済成長に基づく巨大なる産業組織というものとが、どうもなかなかバランスが合いにくいのではないか。農業対非農業の所得均衡という問題が盛んにいわれておりますけれども、実はこれからがいよいよ農業対非農業の所得不均衡が本格的に来るのではなかろうか。いままでそういうものがあったのは、一つは兼業所得という兼業化の問題で、農家所得の増大という問題が一つ。  もう一つは、何といいましても農産物に対する不足といいますか、米価があらわすような一つの不足、こういう一つの形が各所得政策によって農業の所得をふやしていったのでございますけれども、これからの農業というものは、どうも肉以外はだんだんと過剰の方向にいくのではないか。そうなりますと、農業対非農業の所得が均衡するということは、これはまことに容易ではない。したがって、構造政策というものを進めなければいかぬということがいわれますけれども、先進国における生産構造政策というものは、もうすでに現実に存在しているものをいかに拡大し、またいかに整理するかという、そういう問題が生産構造政策であるのでございますけれども、わが日本では、残念ながら構造政策といわれ、経営改革といわれ、農業革命といわれるその実態というものは、これからつくり出さなければいかぬ。新しくつくり出してそれを保護していく。ところが、これがなかなか農業外の人に説得力がない。現実にあるものというものは、若干の芽はあっても、一つの完結したものとしてはないということ、そこに他の部門の説得力の要る非常にむずかしい問題がある。  そこで、これは個々の農民及びその組織、あるいは国の役割り、こういうようなものを一体として経営の改革をやっていく必要があるのではないか。例をあげますと、たとえば酪農についても、ある農家がその酪農経営を一人で全部完結をするのだという、西欧における、あるいはアメリカにおけるような酪農経営というものはなかなかむずかしいのではないか。育牛部門は山でやる。山でやる主体は、一体国がやるのか、県がやるのか、農業団体がやるのか。その育牛部門と、それから肥育部門あるいは搾乳部門は、これをどういう組織でやって、全体として日本独特の酪農経営があって、その土地というものは一体国の場合はどうする、私有権の場合はどうする、こういうような全体を考えて組織化をはかる。米についても大いに機械化をしてやるが、収穫をしこれを精米する過程においては相当の投資も要るし、相当の面積も踏まえなければならない。そういう一つの流通面と農民の個々の経営というものをどう組織化して結びつけていくか、その中における農地制度はどうあるべきかというような関係において、他の部門の非常に急激な、巨大な、また世界一のような会社ができてくる、そういう一つ組織というものと農業組織というものとを、どうしてバランスを合わせていくかということについては、従来のような家族自作農主義、協業化というような抽象論じゃなくて、個々の経営についてもっと掘り下げて組織化をはかるべきである。これを地域により作目により考えるべきではないか。その間においての国の役割り、県の役割り、農業団体の役割り、個々の農民の役割り、それが総合的一体となってりっぱな酪農経営が伸びたり、肉牛経営が伸びたり、水田が伸びていく、こういうようなことを考える必要があるのではないか。  そういう一つの線に沿って今日の農地法を見ますると、これはまことに積極性がないということがいえると思います。農地法について、これは改革したってもうおそい、これは安楽死を待つほかないのだ、こういう説もちらほらと聞く。あるいはもう完全にこんなものは撤廃してしまって、全く自由の風に当てたほうがもっと合理的なものができるのではないかという説も実はございますけれども、私はそういう飛び離れた議論は、日本農業の今日の構造を現実から見るとなかなか取り得ない。やはり少なくとも一歩一歩前進をしていく以外にはないのだ。今日の政府案であれば、積極性というものは非常に欠けておりますけれども、この農地法ですらなかなか変わらないのだということは、これはやはり構造政策を前向きに持っていこうということについての非常にネックになる。どうかそういう意味において、はなはだ積極味はない農地法改正案でありますけれども、せめてこれだけくらいはスタートとして切って、その上で、私が先ほど言いましたいろいろな問題を大きくつかまえて、他の産業部門とのバランスをいかに合わすかということを、ほんとうに農政としては考えなければいかぬというのが私の意見でございます。  御清聴ありがとうございました。(拍手)
  13. 丹羽兵助

    丹羽委員長 次に常盤君にお願いいたします。常盤君。
  14. 常盤政治

    常盤政治君 常盤でございます。時間が限られているということなので簡潔にまとめてまいりましたが、二つの観点から申し述べたいと思うわけであります。  一つは、農地法改正がなされなければならないということに関する、いわば認識論上の問題であります。端的に申しますと、農地法規模拡大との関係についての疑問であります。もう一つのほうは、そのことを踏まえまして、今回提案されております改正案の中で、気にかかる若干の問題点というふうなことを申し述べさせていただきたいと思います。  まず最初に、認識論上の問題でありますが、この改正案のねらいが、農地流動化を促進して経営規模を拡大し、農地の効率的な利用をはかるにあるということが提案理由の中にうたわれておるわけでありますが、こういった提案理由が掲げられているということは、農業経営規模の拡大が農業基本法以来うたわれてきながら、実は十分に展開されていないというのは、現行農地法というものが存在するからなんだ、その規定があるので妨げられているのだ、こういう認識があるからだろうというふうに思うのでありますが、はたしてそういう認識基本的な意味で正しいかということを、私は常々疑問に思っておるところであります。  確かに現行制度では、耕作権が非常に強くて、一度貸すとなかなか返してもらえないとか、また貸しても、四十二年に四倍程度に上がりましたけれども、それでも四、五千円程度ではどうにもならぬというような事情があって、流動化が妨げられているというふうな点が否定できないことは確かであります。しかし、こうした事情に基づく農地流動化の阻害を規模拡大の進まない原因としてつかまえるということは、私は二つの意味で誤りではないかというふうに申し上げたいわけであります。  一つは、いかに法律によって押しとどめられていようとも、経済法則的な必然性というものがもしあるならば、必ずそこには農地流動化というようなものが出てくるはずだということであります。それは、たとえば戦争中や終戦直後、いろいろなやみ物資の取り締まりというようなことがあったわけでありますけれども、しかし、これはどんなに法律規制しても、出てくるものは出てきたわけでありますし、公定価格で押えようとしても、やみ価格は必然的に形成されるということが、如実にそれを物語っていると思うのであります。  ですから、いかに現行農地法農地流動化を妨げているとしても、流動しなければならない経済法則を持つならば、必ず流動するということであります。事実上のやみ小作と見られる請負耕作の発生ということが、まさに如実にそれを物語っているというふうに思うのであります。いただきました参考統計資料の二九ページに、請負耕作というのが出ておるわけでありますけれども、ここでもかなり農家請負耕作関係に入っておる。二万戸以上、この数字にあらわれたのではその程度でありますが、事実上はおそらくもっと広がっているというふうに見て差しつかえなかろうと思うわけであります。こういうようにたくさんの農家請負耕作関係の中に入っておるということは、農地法規制のも芝でも、農地というものが流動しなければならないならば流動するのだということを、端的に示しているということであります。現行農地法の存在によって妨げられているという点を、決して過大に評価するということはできないということであります。  第二は、農地流動化しさえすれば、経営規模の拡大が行なわれるということにはならないということであります。つまり、農地流動化規模拡大ということとは、直接的に必ずしも結びつかないということであります。両者はいわば二つの別の事柄である。  そのことは、たとえば参考統計資料の三二ページに、経営農地規模別に見た自作地有償所有権移転の状況が示されておりますが、かなり農地移動が行なわれております。それが決して自立経営的な——自立経営農家というものを一体どこに求めるのかということがありますけれども、最上層の規模拡大になっていないということであります。むしろ零細規模層相互間での農地移動というものが、相当数あるということを示しておるわけであります。  そのことは、またこれも統計資料の二三ページにあるわけでありますが、昭和三十年から三十五年、それから三十五年から四十年のそれぞれ五年間における経営耕地規模別の階層間移動に示されておりますように、一ヘクタール以上層では、すべて下層に移動した農家戸数のほうが多いということの中にもそういうことがうかがえるかと思うのであります。つまり、農地の流動というものは、必ず規模拡大に結びつくのではなくて、規模が縮小するような形でも農地移動というものは行なわれるのだということを示すものではないかと思うのであります。つまり、経営規模拡大ということと、農地流動化ということとは一応別の事柄なんであって、規模拡大ということはそれなりの固有の経済法則があるのでありまして、単なる農地流動化促進によって、直ちに行なわれ得るものではないと思うのであります。  それでは、その規模拡大の固有の法則というのは一体どういうものかというようなことは、これはまた別個の問題でありますので、ここで申し上げることは差し控えたいと思いますが、そういうわけで、別の事柄だというふうに申し上げたいと思うのであります。  したがいまして、提案理由から推察されますような認識、つまり、現行農地制度経営規模拡大を阻害しているというふうな認識は、そういう意味で過大評価だというふうに申し上げたいわけであります。したがいまして、私は農地法改正によっては、提案理由に掲げられているようなねらいは、あまり期待できないというふうに評価するものであります。こういう改正によりまして、むしろマイナス点のほうが出てくるということをおそれるわけであります。それについて二、三の点を申し上げたいと思います。  たとえば、農地取得の下限の面積を、取得前の三十アールから取得後の五十アールに改めておる点でありますが、これは五十アール以上の農家の増大に寄与し得るということになるかもしれませんけれども、しかしそれ以下の、たとえば四十アール未満層の農家というふうなものの、いわば農地の取得の権利を剥奪するということになりはしないかというふうに思うのであります。  これも、先ほどあげました統計参考資料というものを見てみますというと、〇・三ヘクタール、三十アールから五十アール層では、自作地の移動の面積では、譲り受けのほうが譲り渡しを下回っておりますけれども、件数で見ますというと、買う農家のほうが売る農家を上回っておるわけであります。つまり、零細な単位で多くの農家かなり農地を買っているということであります。この権利を奪うことになるわけであります。規模拡大方向づけからいって、やむを得ないんだというふうに言い切るわけにはいかないだろうと思うのであります。と申しますのは、五十アールの農家が、決して三十アールないし四十アールの農家よりも、隔絶して合理的な大規模経営だとはいえないということからも明らかであります。規模拡大化のための農地流動化ということは、五十アールや一ヘクタール程度の農家をつくろうというふうなものではなかったはずであります。  農業所得による家計費の充足率一〇〇%というふうなことをメルクマールにとりますというと、これも参考資料にございますが、二ヘクタール以上でなければなりませんし、充足率八〇%というものを目安としても、最低一ヘクタール以上ということになるわけであります。つまり、五十アールで切らなければならないという根拠は薄弱であります。  第二に、農地保有の合理化促進事業を行なう非営利法人というものの性格が、非常に不明確だということであります。これはかつて昭和三十九年に出されました、先ほどもちょっと出ましたけれども農地理事業団構想のいわば地方自治体版かと思われますが、当時問題とされました先買い権の問題だとか、あるいは農地の取得転貸し等に関する運営などがはっきりしておりませんので、そういう点が気になるわけでありますが、その法人の運営上の判断には、むろん県や市町村の協議会のようなものが参画するんでありましょうが、しかし、それが一部の農家群の利益擁護に利用されないという保証がない。そういうわけで、総じてこの農地理事業団の場合と同じような危惧が持たれるわけであります。  それから最後に、第三点といたしまして、これもいわば係争点のようなところでありますけれども、挙家離村、離農を促進するという目的で、離農者及びその相続人に限って在村者と同じように、北海道四ヘクタール、都府県平均一ヘクタールというふうな限定つきでありますけれども、不在地主の小作地所有を認める。そういうことは旧地主制の復活を意味しないということが、理由説明でも補足説明でも非常に強調されておるわけでありますけれども、これは現在の農地制度のもとで起こっております、いわば高度経済成長下での農外雇用の増進というものを前提とした、その線上で考えられたものだということは、いままでの御発言の中からもわかるわけでありますが、地域によっては、また経済事情が変化することによって、地主制が絶対復活しないというふうな保証が、これもまたないといわなければならぬと思うのであります。これは地域とか条件のいかんによっては、自作農主義がくずれるという糸口になりかねないということをおそれるものであります。  特に現在の制度では、小作地などは、その土地小作農等以外の者に譲り渡しできないということになっておりますけれども、これを今度は、小作農などの同意があればという条件つきでありますけれども、第三者にこれを譲り渡すことができるようになるとか、あるいは強制執行などによる小作農等以外の者への所有権の移転が認められることとか、あるいは市街化区域内での小作地所有制限をしないというふうなことなどと一緒になりますと、自作農主義がくずれてくるという危険性が非常にあるというふうに思うのであります。  それでは、自作農主義というものをどうしても固執すべきだというふうに私は申し上げるかといいますと、別にそういうわけではないのでありまして、もちろん自作農主義でなくてけっこうなんでありますが、ただ、それが経営規模の拡大というものの——現在経営規模が拡大されている。私は先ほどから請負耕作が出てきているということを指摘したわけでありますけれども、それの出方を見てみますと、最上層が、地価が高いので、高い地価のものを買って伸ばしていくということは限界がある。だからそれを借地に求めるという形で、最上層がどんどんそういう形で借地を求めて拡大しているというならば、これは非常によくわかるわけでありますけれども、先ほどもあげました請負耕作についての二九ページの資料を見てみましても、一番この比率が多いのは、請け負っているほうの農家のパーセンテージが一番多いのは、〇・五ヘクタールから一ヘクタールまでであります。それが三三・五%でありまして、それから一ヘクタールから一・五ヘクタールまでが二六・五%というので、大体これだけでもって六〇%を占めているので、つまり、総体的に請負耕作というのが非常に多いわけなんであって、最上層がどんどん伸びていくという系列の中で請負耕作が行なわれているわけではない。大勢からいいますと、そういういわば明らかに自立経営農家といえない層の中での、つまり家族労働力が総体的に余っているので、それを埋めるというふうな形での請負耕作関係というものが、非常に支配的だということがうかがわれるということから、やはり借地制度というふうなものを発達させることによって、構造改善を行なうのだというふうなことは期待できないわけであります。  そこで、法律によって経済法則ということを促進するというふうなことは、もちろん限定つきでできるわけでありますけれども、しかし問題は、そういう経済法則的にいかにこの経営規模の拡大が行なわれるかというそういう農業政策、経済政策としての農政の問題が重要なんであって、農地法改正によってそれができるというふうには思えないということを申し上げて、私の意見を終わりたいと思います。  御清聴ありがとうございました。(拍手)
  15. 丹羽兵助

    丹羽委員長 以上で御意見開陳は一応終わります。     —————————————
  16. 丹羽兵助

    丹羽委員長 これより質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。湊徹郎君。
  17. 湊徹郎

    ○湊委員 ただいままで参考人の皆さんからちょうだいしました御意見等については、非常に参考になったことをまず御礼申し上げます。  二、三の点について、この機会にお尋ねしたいと思うのでありますが、最初に桑原先生にお願いをいたしたいと思います。  非常に奇抜な着想と発想を交えながら、私ども伺いまして非常に裨益するところが多かったのでありますが、第一番目に、現状に即して、今回の農地法改正は、いわばあな埋めのような形でやっている、しかしながら、ほんとうならば将来の展望を踏まえて、ここで思い切った政策をやはり展開すべきじゃないか、ちょうど新幹線農政をひとつやったらどうか、こういう御提案がございました。それでいろいろな経営の形、これについてはいわゆる自立経営あり、あるいは借地経営あり、さらには協業形態農業経営も予定されるが、これをいずれも発展的な方向に持っていくように、ひとつ意欲的にねらったらどうであろうか、こういう御意見のようでございましたが、もう少し具体的に、先ほどほかの参考人からもお話がございましてけれども、地価の問題については、今回の農地法は触れていない、また規模拡大という、そういう積極的な方向を志向するにはまだ不十分である、また、一面生じておる兼業の問題等についてどういうふうに対処するか、いろんな問題があるわけでありますが、その発展的な方向に今後進めていく場合に、具体的にどういうふうなことをお考えになっていらっしゃるか、方向だけでもけっこうでございますから、お聞かせ賜わりたいと思います。
  18. 桑原正信

    桑原正信君 たいへん乱暴なことを申し上げて御質問いただいたのですが、私が申し上げましたのは、端的に申しますと、従来の考え方というのは、いわば既存の農家を土台にしまして、それをどういうふうに年輪的に拡大していくか、いわば連続した形で発展というものを考えておったわけです。もちろん私は、いろいろの秩序を持っている古い農村において、それは一つの道ではあると思いますけれども、いま一つの私が考えております事柄は、日本においても現在問題になっておりますような未墾地、これは東畑先生も若干お触れになりましたが、その利用という問題、これは国有林などの問題も含めまして、かなりのものがあるんじゃないか。  その場合に、それをいわゆる個人の比較的零細な地区に分断して利用するということではなくて、むしろそういう土地についての所有権は公的なものが持つ。言いかえれば、国であるとか、あるいは府県であるとか、町村であるとかいう、そういう所有権は公的なものが持って、そこに最も適当する利用者に利用権を与えていく、こういう形で、いわば農村の中で新しい土地を求めている意欲的な農家というもの、農業に対してからだを張っていくという者が十分に経営能力をふるい得る、そういうものを新たな路線として考えることはできないだろうか、こういう問題であります。  土地の買い上げにつきましては、ほかに例もあるかもしれませんが、京都府では過疎地帯で疎開しまして、いわば買い手のない土地を府で買い上げるということを、先年来進めておるわけでありますが、これをどうして利用するかということは、今後の問題ではありましょうけれども、そういうものも含めまして、やはり相当膨大な未墾地に対しては、従来とは違った構想でひとつ路線を考えてみてはどうであろうかということです。  それから、その場合に、私はそういうところにおいては、従来の日本の農家では、何十アール耕作しているとか、何ヘクタール耕作しているとか申しましても、それは適宜分割する可能性を持っておりましたわけですが、それに対してやはり一つの、今後農業も多分に資本投下が大きくなるわけですから、その土地資本との調和した形においての一体のもの、言いかえれば、それを農場とでもいうならば、農場というようなユニットで育てていくことを考えてはどうであろうか、こういうことが私のきわめて大ざっぱな考え方なんです。  なお、先ほど東畑先生が最後のところで、新しい考え方をお出しになりましたが、それもすべて私の言う、いわゆる新幹線路線で考えられることなんじゃないかというふうに拝聴したのです。という意味は、たとえば、従来の農家の生産というものは、大体自己完結的な生産ということで考えておった。しかし、それをいま言ったような農家間においての分担、したがって社会的な生産機能から見れば、それらが共同されなければならぬわけでありますけれども、とにかく個人の単位においては分担するという機能をずっと結びつけていくというような考え方、これは従来の考え方に対しては、私は新しい一つの路線として考えていくべき問題じゃないかというふうに思いますし、また、国あるいは地方の府県、町村などの段階においての機能分担というような問題も、先ほど御指摘があったような中央集権的な政策立場からすれば、まさにやはり新しい路線として考えられる。そういうものを結びつけて進めていく一面を持ってもいいのではなかろうかというようなことを、ただ一つのことばで申し上げたわけでございまして、具体的には、私自身がまだこまかい点まで十分突き詰めて考えておるわけではありませんけれども、およその考え方方向といいますか、それだけ御了承いただければ幸いだと思っております。
  19. 湊徹郎

    ○湊委員 次に、梅原さんにお尋ねしたいと思うのでありますが、先ほどからの各参考人の御意見等お伺いしまして、それぞれ現状に対する認識については、かなりニュアンスの違ったお考えのようでございましたが、梅原さんは、現在の農地法に対してどういう評価をなすっていらっしゃるか、最初にお聞かせいただきたいと思います。
  20. 梅原昭

    梅原昭君 お尋ねが非常に簡略に行なわれておりますので、どういう角度から申し上げてよろしいか、ちょっと戸惑うわけでありますけれども基本的に申しまして、農地改革という非常に重大な仕事を日本が仕上げまして、それを完結させ、維持させるという意味におきまして、非常に大きな役割りを果たしてきた、こういうふうに考えておるわけです。  ただその中で、現在の時点において、それがそのまますべて現実農村社会の問題と適合しておるというところまで申し上げるつもりはありませんけれども基本的なそういうふうな役割りというものが、ややもしますと、そういうものはもはや今後必要はないのだ、農地改革の成果というものを維持するという必要はもはやないのだというふうな、非常に極端な議論がよく行なわれるわけですけれども、私はそういうふうには考えておりません。やはり基本的な農地法の根幹といいますか、そういうものは守っていく必要がある、そういうふうな考え方でおります。
  21. 湊徹郎

    ○湊委員 そこで、先ほどお伺いしました主たる観点は、工業政策的な側面、特に都市問題と関連をして、そういう側面が今度の農地法に非常に強く出ておる。特に、最近施行されんとしておる新都市計画法、これとの関連から見ても、都市の農民にいわば強制離農をさせるというふうな面、また山村のほうの農民に追い出しをかける、両者通じて農業をつぶす役割り、こういうものが非常に多いというふうな御意見のようでございました。そういう面が一部ありますことは私どもも否定するわけじゃございませんが、逆に申しまして、先ほどほかの参考人の皆さんからもございましたように、産業構造がまるっきり変わり、特にここ数年ほかの産業と農業との格差が問題になっておりますときに、やはり農業だけでめしを食うのだという農業、そういう農業は、最近私どものほうの米地帯で見ますというと、かつて一町五反といわれたそれが、もう二町段階、二町三反から二町五反くらい、このくらいになれば他産業とバランスし得る経営であるというふうに、もう年ごとに実は動いておる現状であります。そういうときに、やはり土地制度というものを固定的に考えてくぎづけしていくというととは、どうしても逆に農家自身の首を絞める、こういうふうな感じすらするわけでありますが、その点に対する見解が第一点。  それからもう一つは、持つということよりもいかに使うか、いかに利用するか、こういうことが非常に大事な時代にいまなってきておるように感じます。これは当たるか当たらぬかは別として、戦後行なわれた農地改革が、古い地主制度からの解放であるとするならば、むしろ今日土地からの束縛をやはり解放していく、こういう必要性も、先ほどどなたかおっしゃられましたように、人間性の回復というふうな観点からも、必要な面が出てきておるというふうに思いますが、その二点に対する御見解を承りたいと思います。
  22. 梅原昭

    梅原昭君 私が先ほど申し上げたかった点は、農業政策というものは、それは農民のためにあるいは農業のため政策が立案され施行されているのだ、こういうふうに常識的に考えられておることが、案外別なところに、目的としてかあるいは結果としてかという問題はありますけれども、非常に大きくそちらのほうに引きずられているというふうな面があるのではなかろうかということを申し上げたかったわけです。  先ほど来ちょくちょく土地価格の問題が出ておるわけですけれども、その問題に例をかりてちょっと申し上げてみたいと思うのですが、たとえば、農地価格が非常に高くなって、そのために農業発展させることが困難になっておるということは、そこまではもはや常識の問題になっておるわけですが、それが農業の生産力、土地の生産力が高くなったために、それに伴って土地の値段が上がったのだというのであれば、これは何も問題がないわけでありますけれども、それを越えて土地の値段が高くなっている。それは、農業内部に原因があるのではなくて、都会へ人口なり産業なりが集中をしてきて、そのために都市近郊の農地というものの値段が高くなってくる、それがだんだん波及をしていって、直接非農地化する可能性のないような地域にまでもそれが波及をしていく、その辺のところに原因があるのだろうということがいわれておるわけです。  そうしますと、そういうような農地の値段が高くなっていくというふうなことは、いままでの農業政策関係なしにそういうふうな結果があらわれたのかというと、私はそうではないと思うのです。農業政策が実は農地価格を上げるというのに一役演じておったといいますのは、さっき申し上げた点に戻るわけでありますけれども基本法農政といわれるものが、農村における、とりわけ零細な農家都会に送り出していく。さっき御発言がありましたけれども、私も都会に送り出すこと自体に別に反対をしているわけではないわけですけれども都会に送り出すそのことによって資本と——これは資本だけでは活動ができないわけでありまして、同時に労働力を必要とするわけでありますから、都会農村からの人口を送り出すということが、都会における経済活動を、活発にするということばを使えば非常にていさいがいいわけでありますけれども、そのために土地に対する需要がどんどんふえていく、そのために需要と供給の関係からいって土地の値段が上がる、それが農村にまで波及をしてくる、こういうふうな因果関係をたどっておるわけでありますから、私は、基本法農政というものは農地価格を値上げするための、すべての原因であるとは申しませんけれども、一役を演じておると思います。したがって、農政、農政ということで、農民のため農業のためだけだと思っておることが、案外なところに役割りを果たしておるというふうなことを申し上げたかったわけであります。  したがって、農地法につきましても、農地法についての評価というのは、農業内部から賛成意見もあり反対意見もあるわけでありますけれども、さらに広い角度から、この農地法というものを見る必要があるのではなかろうか。そういうふうな角度から見ました場合には、農業内部でいろいろな点で改善をしていくということよりも、農業外部に対していろいろな役割りを果たしていく面のほうが大きいのではなかろうか、こういうふうなことを申し上げておるわけであります。
  23. 湊徹郎

    ○湊委員 おっしゃる意味はよくわかるわけでありますが、先ほどから申しましたように、産業構造全体、経済全体が非常に大きく変動しておる。簡単に申しますと、終戦直後の農地改革は、土地資本と労働、その中で労働と資本がほとんど役割りを持たないような形で生産されておるような生産構造を前提にして、つまり停滞社会というか、発展はしておるけれども非常に歩度のゆるい、そういう単純再生産に近いような状態前提にして、固定化政策というふうなかっこうでつくられておる。  ところが、いまはテンポが非常に早くなってピッチが上がってくる、こういうことになれば、それに対する対応ということを当然考えなければいけないと思うのです。その場合に、先ほどのように農業以外のサイドからするいろいろな農業に対する影響が、あるいは打撃が非常に強い、こういう御意見で、そういう面もあろうかと思いますが、逆にそれに対して、しからば農業のサイドからどういうふうに対応していったらいいか。手放しでもってそういうものをほっておいてはいかぬというならば、農業の側からひとつやるとすれば、どういう種類のどういう性格の法律が必要なのか、そういうことについて御意見を承らしていただきたいと思います。
  24. 梅原昭

    梅原昭君 どういう種類の法律とまではまいりませんけれども基本的な考え方を申し上げてみたいと思うのです。  いまとられている各種の農業政策基本をなしているものは、いままで農業に対して、かなり甘やかし過ぎていたという考え方前提になっていると思うのです。いわゆる保護農政を脱皮してこの国際環境の中で耐え得るような、きびしい環境の中で耐え、そして発展できるような農業というものをつくり上げなくてはならないのだというふうな考え方前提としてあると思うわけです。したがって、たとえをかりますならば、獅子の子供を谷底に一度落としてみろ、たよりのない子供であるならばそこで死んでしまう、ほんとうに獅子らしい獅子になり得るものであるならば谷底からはい上がってくるはずだ、こういうふうなことばがあるわけでありまして、そのことばどおりに大体いまの農政というものが志向しようとしておるのではなかろうか。  したがって、その中で耐え得る農家の問題と耐え得ない農家の問題と、やはり両方の側面から対策と申しますか、考えていく必要があると思うのですけれども、耐え得る農家のほうから申し上げてみまして、経営規模の大きいものがそれに耐え得ていくかとなりますと、必ずしもそういうふうにならないわけであります。どうも不安定な側面だけを申し上げて恐縮でありますけれども、最近最も強く感ずるのは、二、三年前までは最も経営が安定しているといわれておりましたミカン作農家のことを思い出すわけです。ちょくちょくそちらのほうを見てまいるわけですけれども土地を売らないで、農業経営それ自体の中から、自分の住む鉄筋コンクリートの家を建てることができるというのは、まさにミカン作の農家だけであったわけです。ところが、その農家もことしぐらいからは、御承知のように、価格の面からして非常に暴落して先行きの見通しがない。こういうふうな問題になっておりますので、いま米に対する対策をどうするかということが最も問題になっておるわけですけれども、米がほかの作物に転換をしていった場合に、ミカンのように最も前途有望であると思われていたものが、数年たつといまのような状態になってくる、こういう見通しのもとで、米作農家をほかの作物をつくる農家のほうに転換するということを奨励してみても、はたしてそれが落ちついてそういう方向に行けるだろうかというふうな感じを持つわけです。  まして、これが競争に耐え得ないほうの農家になりますと、家をあげて都会に移るということのできる、そういうふうな条件のある農家はまだましだと思います。そこまでいかないために、いま非常に不健全な形で出てきておりますのが、出かせぎというものの非常に膨大な発生ではないかと思います。はっきりした統計がないわけですからわかりませんけれども、百万人をこすのではなかろうかといわれる出かせぎ農家が生じておる。こういうふうなことは、日本の農業からいって非常に不健全な状態です。じゃ出かせぎというふうなものも、いま議論になっております農地法改正されるならば、その出かせぎ農家というのは、自分の家をたたんで東京なり大阪なりというところに引っ越しをするような条件があるのかということになりますと、私は、必ずしもそういうことにはならぬだろうというふうに考えるわけです。  ですから、いろいろ申し上げましたけれども、競争に耐え得る農家にとっても、事はなかなか重大問題でありますし、まして競争に耐え得ないでそこから落後せざるを得ないその農家に対して、一体どのように対策を持っていくのかという、その辺の前提になる事柄について施策が必要なのではなかろうか、こういうふうに考えているわけであります。
  25. 湊徹郎

    ○湊委員 次に、常盤先生にお尋ねをしたいのでありますが、経営規模の拡大と流動化というものは別に直接のかかわり合いはないので、別の事柄なんだというふうな御趣旨のお話でございまして、規模拡大をはかるためには、固有の経済法則、これが働かなければなかなか進行しないので、農地法自体でもってそれを促進するという点は、たいした効果は期待できぬというふうな御趣旨のお話のように承りましたが、その固有の経済法則、つまり、どういう条件が整ってきたならば規模拡大ないし自立経営というものは可能なのか、また、日本の場合はそういう条件というのはなかなかできにくいのか、また、やろうとしてもこれは無理なのか、そこら辺のところ、ちょっとお聞かせいただきたいと思います。
  26. 常盤政治

    常盤政治君 結論から申し上げますと、固有の経済法則と申しましたのは、つまり、現在の規模拡大化ということが行なわれている場合のその規模拡大というのは、確かに、たとえば五反が六反になれば規模拡大だということはいえるわけでありますけれども、そういうふうな形での規模拡大は、これは他方ではたくさん行なわれているわけですね。実はそれがこの資料の中にもいろいろな形で出てきておりますけれども、大ざっぱに見まして、大体三町歩ぐらいのところまではわりあいに伸びていくのです。これは大ざっぱに申し上げているわけで、いろいろな土地条件とか、あるいは地域的な条件、あるいは家族労働力の条件だとか、いろいろなことで動くものでありますけれども、しかし、大まかに申しまして、やはり家族労働力というものによって、大体現在の規模拡大の上限というものは法則的には画されている、それによって区切られている。それ以外の、雇用労働を入れてまで規模を拡大するというふうな形のものは、法則としては出てきていないということを申し上げたかったわけであります。  そういうわけで、規模拡大といっても一定の限界があるけれども、これが先進的な米作地帯といわれるような、中型トラクターや何かが入ってきているところでは、かなりこの限界が打ち破られて大きくなってきている。たとえば、私も若干現場へ行ったところですと、六町歩とか七町歩ぐらいまでは——人によって評価は違いますけれども、七、八町歩ぐらいまでは家族労作経営的にトラクターを入れてやるのだというふうなことをいっているところもあるわけで、私も、事実三町歩以上に伸びているような農家をたずねたこともあるわけでありまして、そういう技術的な条件というものはある程度出てきておると思うのです。しかしながら、基本的には、やはりそういう場合にも家族労作経営という点に限られているというふうに考えるべきだ。それに機械力がどういうふうに入ってくるのかということによって、いままでは三町歩限界だったものが、それを上回って六町歩限界というふうなところにまで行き得るかもしれませんけれども、しかし、そういう意味で家族労作経営的な規模拡大だというふうに、現在のところ私は見ているわけであります。  そういうわけですが、それではどういうふうな条件が整ったらということに対してお答えいたしますと、いわば雇用労働力を入れても採算が合うような農業経営という、そういう条件というふうに、抽象的にいえばそういうことだと思います。たとえば、私の少ない経験でありますけれども、そこで触れたところですと、中型トラクターを入れまして、五年ぐらいの間に一町二、三反ぐらいふやしているという農家が新潟にあったわけです。それで、家族労働力でもってふやして伸ばしていくと、一体どのくらいまでいきますかという質問をしたわけでありますけれども、そうすると、技術的には家族労働力だけで六町歩まではいくというふうな答えだったのです。そうすると、おたくは四町ちょっとだから、まだまだこれから伸ばしていきますかという質問をしましたところが、いや、もうだめだと言うわけですね。それは何だというと、やはり地価がもうこう高くてはどうにもならぬということを言っておったわけであります。そういう点で、それが借地という形で一体伸びていくのかという点については、意見を聞くことができなかったわけですけれども、しかし、新潟の調査をやっておられる人の報告書なんかを見てみましても、やはりそういう形で大きく伸びているというふうな報告は、私の管見でありますけれども、そんなに見当たらないように思うわけです。  そういうふうに考えますと、やはり現在の条件では、そして先ほど地価の問題が出ましたけれども、私はこれは一口に申しまして、インフレーションというものが進む限り、地価の上昇というものは、これ自体まさに人間がつくり出すことのできない財貨であるだけに、これはインフレーションが進む限りどうしても阻止することのできない、いわば宿命的なものだというふうに考えざるを得ないと思います。  そういうふうな条件を考えますというと、私は現在の条件の中では、遠い将来なら別でありますけれども、当面、ここ十年以内くらいの間には、まだそんなに家族経営を打ち破って規模を拡大していく、イギリスにおけるファーマーの展開というふうな形での借地農業経営というものが、成立する条件はないというふうに見ております。
  27. 湊徹郎

    ○湊委員 それじゃ以上で終わります。
  28. 丹羽兵助

    丹羽委員長 石田宥全君。
  29. 石田宥全

    ○石田(宥)委員 もう時間もないのでやめます。
  30. 丹羽兵助

    丹羽委員長 以上で質疑は終了いたしました。  各位には、御多用中のところ長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼申し上げます。  これにて、農林水産委員打合会を終了いたします。    午後一時二十一分散会