○森
委員 私は日本社会党を代表いたしまして、
農業協同組合法の一部を改正する
法律案に対し、反対の討論を行なおうとするものであります。
現在、わが国の農業と農政は大きな転換期を迎えております。それだけに、わが国農村の中核的団体である農業協同
組合の持つ使命と責任は、まことに重大なものであります。
しかるに、最近の
農協の運営状況を見ますと、
農協本来の使命と遊離し、もうかることなら何にでも触手を伸ばすという方針で、安易な仕事のみと取り組む営利追求団体であるとの批判が
各地に高まっております。また、役員の選挙にあたっては、供応、買収は公然化しており、さらに零細
農民から集めた
農協資金にかかわる不正事件は、農林省が把握したものだけでも、昭和四十二年度において百一件、その金額は四十億円にのぼり、これが昭和三十四年以降の数字は、不正件数が実に千八百七十九件、その金額は約百億となっており、この種事件はなおその
あとを断たない実情にあります。
このような
農協の現状に対し、内外からきびしい批判がなされるのは当然であり、特に農村の青年層は、
農協の現状に大きな不満と失望を抱いているのであります。端的にいって、現在の
農協は
組合員の意思が十分に反映される運営がなされていないと
指摘せざるを得ないのであります。
また、
政府が食管法を無視して、いわゆる
自主流通米制度の発足に踏み切ったことに対して、
農民は
食管制度がなしくずしに崩壊するのではないかと大きな不安と動揺を来たしているのでありますが、中央
農協幹部の一部が、このような
農民の意向を無視して
自主流通米制度の発足を容認したことなどは、まさに、
組合員の意思を無視した幹部の独断的な行為といわざるを得ません。これらのことは、法改正以前の問題として、
政府において
指導を行ない、適切な
措置がなされるべきものであると思うのであります。
われわれも、最近の農業や農村の変貌に対応して、
農協法の改正を行なう必要性を認めているわけでありますが、今回の改正案は、われわれの期待するものとは大きな差異があり、質疑の過程で明らかになったように、農村、
農民の要望とかけ離れた御都合主義的な法案であります。
具体的には、まず、農業協同
組合連合会の会員に対して、一会員一票制の原則に対して特例を設けようとしていますが、たとえそれが例外的
措置であるといたしましても、特定の会員に議決権等が過度に集中するなどの事態を招き、はたして連合会の民主的管理運営が確保されるかいなかについて、危惧の念を抱かざるを得ないのであります。
またこの改正案は、今後の
組合運営に関して、総会にかわる総代会の権限を大幅に拡大しようとしておりますが、このことはまことに重大な問題でありまして、
農協運営と
組合員の意向が遊離しつつある現状にますます拍車をかけることになり、その運用を誤ると、
農協は一部有力者のための団体となり、
農民から孤立化することが懸念されるところであります。したがって、このような
農協の基本的理念に毛とるような改正には、断じて同意することができないのであります。
また、改正案の中でさらに検討の余地があると考えられるのは、農業経営委託の点であります。
現在の
農協に、はたして農業経営受託能力があるかどうかが問題であります。
農協に大型機械施設が整備されず、農地の基盤整備等が不十分なまま、ただ
政府のかけ声だけで無理に推し進めようとすれば、これは農業経営を混乱におとしいれるだけで、受託経営による農業
生産力増大等はとうてい及びもつかないところであります。
政府は昭和三十七年に
農協法の改正を行ない、
農協の農地信託
制度を創設したのでありますが、この結果について見れば、実施以降、約六百ヘクタール程度が信託されたにすぎず、当初
政府が意図した経営規模の拡大等には一向結びつかず、ただ単に農林省の机上の作文に終わっている現状であります。
このことは、
政府が農業経営並びに
農協等の実態を十分把握することなく、またこの
事業に対する見通しが甘く、積極的な助成を行なわなかった結果によるものでありまして、今回の農業経営の受託
事業につきましても、農林省の確固たる
指導と助成
措置がなされない限り、単なる画餅に終わる可能性が非常に強いのであります。われわれはこの点を質疑の過程で
政府に強くただしたのでありますが、建設的な
回答が得られず、単に
農協請負耕作の追認
措置でしかないことが明確になったのであります。
次に、現在、
農協の弱点とされている販売
事業体制等の強化については、
政府は、当初この点に対し、専属
利用契約の強化をはかることによって問題の解決をはかる姿勢を示したのでありますが、法案作成の過程において、公取等の反対
意見があったために、何ら
措置がされ得なかったのであります。
専属
利用契約の強化について、社会党は、事あるごとに
政府にその改善策を要望し、今面の法改正でも最も強く期待してきたのでありますが、農林省が公取等
関係機関に対し十分納得させることができなかったことは、われわれはもとより、
農協関係者の期待を全く裏切ったものであり、農林省の熱意を疑わざるを得ないのであります。
以上見てきたように、今回の
政府改正案は、
農協の組織管理、
事業運営の強化に何ら改善が加えるものではなく、われわれの期待に全く反したものであることが明白であります。
政府がもしこのような改正
措置で最近の混乱した
農協の改善策としてこと足りると考えるならば、これは全く
農協の実態を知らないとしかいえず、今後ますます
農協が
農民から遊離した官僚的組織となり、不祥事件等もひんぱんに起こることは明らかなところであります。
政府が当面行なわなければならないことは、まず
農協の実態を十分把握すること、
農協をして
農民に対する最大の奉仕機関たるべき本来の姿に返るよう
指導することにあります。
このように見てきますと、法改正の基礎ともいうべき
農協の実態の把握と、必要な
指導を行なう
政府の責任は放置されたままであり、このままで法改正を行なうことは、地盤の弱い土地の建物の上に、基礎づくりしないまま、さらに建て増しをするのにも似て、利少くして弊害のみ多く、所期の
目的を達成し得られるとは考えられないのであります。
かかる観点から、この法改正については、日本社会党としては断じて賛成し得ないものであります。
ここに、
政府の猛省を促して、私の反対討論を終わります。(拍手)