○中野
政府委員 農地法の一部を改正する
法律案につきまして、提案理由を補足して御説明申し上げます。
本
法案を
提出いたしました理由につきましては、すでに提案理由説明において申し述べましたので、以下その内容の概略を御説明申し上げます。
まず第一に、
農地法の
目的に関する第一条の改正について御説明申し上げます。
現行の
農地法は、
農地改革の成果を維持し、いわゆる旧地主制に逆行することを防止するという使命をもって制定されたものでありますが、制定後今日までの十数年間にその使命を十分に果たしてきたものと評価されるのであります。しかしながら、最近における
農業技術の進歩や社会経済
事情の変化等から見ますと、さらに新しい時代の
農業の要請にこたえ、
農地がより
生産性の高い経営によって効率的に利用されるようにすることが必要となっておりますので、
農地法の
目的に「
土地の
農業上の効率的な利用を図るためその利用
関係を
調整すること」を追加することといたしております。
第二に、
農業生産法人の要件緩和に関する第二条の改正について御説明申し上げます。
現行の
農業生産法人の要件のうち、その法人の構成員以外の者からの借入地面積がその経営総面積の二分の一未満であること、その法人の常時従事者たる構成員が議決権の過半数を保有していること、その法人の必要労働力のうち雇用労働力の割合が一定率以下であること及び出資配当率が一定の割合を越えないことという要件を廃止いたしまして、それらの要件にかえて、その法人の
理事等業務の執行に当たる者の過半がその法人への
農地等の提供者であり、かつ、その法人の
農業経営に必要な農作業に常時従事する構成員でなければならないことといたしております。この改正は、集団的
生産組織の育成と
土地の効率的利用に資するためのものであります。
第三に、
農地等の権利移動の
制限に関する第三条の
規定の改正について御説明申し上げます。
その一は、
農地等の権利を取得する場合の上限及び下限の面積
制限の改正であります。これは、近年における
農業技術の進歩、兼業化の進行等の情勢の変化に対応して、
農地がより
生産性の高い経営によって利用されるよう配慮したものであります。
まず、現行法では
農地等の権利取得の結果、
農地についていえば、北海道では十二ヘクタール、都府県では平均三ヘクタールをこえることとなる場合には、権利取得者またはその世帯員が主として自家労働力により効率的に
農業を行なうことができると認められるときでなければ
許可できないこととしているのを改め、
農地等を取得しようとする者またはその世帯員がその取得後において
農業の用に供すべき
農地等のすべてについてみずから
農業を行ない、かつ、その
農業に必要な作業に常時従事すると認められる場合には、面積及び雇用労働力についての
制限をせずに
許可できることといたしております。
次に、いわゆる下限面積
制限については、現行
制度では
農地等の取得前における
農地または
採草放牧地の面積のいずれかが三十アール以上なければならないことになっておりますのを、その取得後五十アール以上の規模になれば、取得前の面積いかんにかかわらず、
農地等の取得を
許可できることといたしております。なお、
地域の実情に応じて、都道府県の区域を分けてこの面積の特例を定めることができる旨の現行の
規定は、存続させることにしております。
その二は、国から売り渡しを受けた
農地等については、現行
制度では永久に貸し付けることが禁止されておりますが、売り渡し後相当の年数がたちますと
事情も変わりますので、これを改め、売り渡し後十年を経たものについては、その効率的利用がはかられるよう貸し付けができることといたしております。
その三は、
農地等の取得者に対してその
土地を効率的に利用すべき旨の要請を強めることとし、通作距離等から見て、
農地等の取得後においてそれを効率的に利用して
農業を行なうことができると認められない場合には、
許可しないことといたしております。
その四は、
農業協同組合法の一部改正
法案において、
農業協同組合が委託を受けて
農業経営を行なうことができることといたしていることに対応して、その場合に
農業協同組合が
農地等の権利の取得をすることができることといたしたのであります。なお、
農業経営の委託に伴う
農地等の権利の取得は、
農業協同組合が委託を受ける場合に限り認めることとし、それ以外の場合にはこれを認めない旨の
規定を設けることといたしております。
その五は、
農業経営の規模の拡大、
農地の集団化等をはかるため
農地保有合理化促進
事業を行なう非営利法人が、
農地等の権利を取得する場合には
許可できることといたすとともに、その法人が
農地保有合理化促進
事業のために
農地等を転貸する場合にも
許可できることといたしております。
なお、以上のほか、
農地等の権利移動の
制限に関しましては、現行
制度では小作地等はその
土地の小作農等以外の者に譲渡できないことになっているのを改め、小作農等の同意がある場合には、その
土地が
農地等の買い受け資格を有する第三者に譲渡されることを認め、差し押えまたは仮差し押えを受けた自作地等については、その後それが貸し付けられて小作地等となっても、
強制執行等によりその小作農等以外の者へ所有権が移転されることを認めることといたしております。
また、
農地等の権利移動についての
許可権限につきましては、実情に即して
整備することとし、
農地等の権利を取得しようとする個人が、その住所のある
市町村内の
農地等について権利を取得しようとする場合には
農業委員会を
許可権者とし、その他の場合、すなわち他
市町村内の
農地等の権利を取得する場合とか、権利を取得する者が法人である場合等においては、都道府県
知事を
許可権者といたしております。
第四に、小作地等の所有
制限の例外を定めております第七条の
規定の改正について御説明申し上げます。
その一は、一定の要件のもとに、住所のある
市町村の区域の外にある小作地の所有を認めることといたしておることであります。すなわち、現行
制度では住所のある
市町村の区域の外にある小作地につきましては、その所有を認めていないのでありますが、
農地の
所有者及びその世帯員が耕作の
事業に供すべき
農地のすべてについて耕作の
事業をやめ、他の
市町村へ住所を移した場合に、それらの者が
農業をやめたときに、住所を有していた
市町村内にある小作地で
農業をやめる前それらの者等が一定の期間所有していた
農地については、北海道では四ヘクタール、都府県では平均一ヘクタールまで不在村者として小作地を所有できることといたしております。また、その
農業をやめたときのその小作地の
所有者からその小作地を承継した一般承継人についても、その小作地の所有を認めることといたしております。これはいわゆる旧地主制の復活を
意味するものではなく、他産業に従事しようとする農家が他
市町村へ住所を移しやすくし、
農地が効率的に利用されるよう配慮したものであります。
その二は、従来
農業生産法人が耕作の用に供している小作地につきましては、
農業生産法人の常時従事者である構成員が所有する
農地であって、その者の住所のある
市町村内にあるものをその法人に貸し付ける場合に限り、小作地の所有
制限をしないこととしておりますのを、
農業生産法人の構成員であれば、その法人に貸し付けている
農地については、その所在地がその構成員の住所のある
市町村の区域内にあるものであっても、またその区域外にあるものであっても、小作地の所有
制限をせずその所有を認めることとして、
農地の効率的な利用に資することといたしております。その三は、
農業協同組合が
農業経営の委託を受けて耕作の
事業に供している小作地及び
農業協同組合の共同利用
施設の用に供している小作地については、それぞれその
所有者に対し、その小作地の所有
制限をせずその所有を認めることといたしております。
その四は、
農地保有合理化促進
事業を行なう非営利法人に貸し付けられている小作地につきましては、その
所有者に対し小作地の所有
制限をせずにその所有を認めることといたしまして、この法人が
農地を借りやすくし、
農地保有の合理化に資することといたしております。
その五は、
都市計画法による
市街化区域内の小作地につきましては、あらかじめ
転用のため届け出をして取得したものは所有
制限をしないこととなっておりますが、
市街化区域の性格にかんがみまして、届け出の有無にかかわらず所有
制限をしないことといたしております。
その六は、近年
農業経営における
採草放牧地のになう
役割りが変化してきたことにかんがみて、小作
採草放牧地につきましては、その所有
制限を廃止することといたしております。
第五に、
農地等の賃貸借の解約等の
制限を定めております第二十条の
規定の改正について御説明申し上げます。
現行
制度では、
農地等の賃貸借の解除、解約または更新の拒絶をしようとするときは、民事
調停法による農事
調停によって合意解約が行なわれる場合及び信託
事業にかかる信託財産につき解約の申し入れ等が行なわれる場合のほかは、当事者は都道府県
知事の
許可を受けなければならないこととされておりますが、この規制を緩和いたしまして、
農地等の
所有者が
農地等を貸しやすくするため、次の場合には
許可を要しないことといたしております。
その一は、
農地等の賃貸借につきその
農地等を引き渡すこととなる期限前六カ月以内に
成立した合意で、その旨が書面において明らかであるものに基づいて賃貸借の解約をしようとする場合であります。
その二は、十年以上の期間の定めのある賃貸借につき、その期間満了の一年前から六カ月前までの間にその更新をしない旨の通知をする場合であります。
その三は、水田裏作を
目的とする賃貸借につきその更新をしない旨の通知をする場合であります。
第六に、小作料の規制を定めております第二十一条から第二十四条までの
規定の改正について御説明申し上げます。
農業者の経済的、社会的地位が向上し、また雇用の機会が増大した現在では、当事者の自由な契約にゆだねても戦前のような高額の小作料が発生する余地は一般的にはないものと判断されること、最近において
農業生産、
農業経営が多様化してきたこと等の理由により、これらの
規定を改正して、従来のような画一的な
農地一筆ごとの小作料の最高額統制
制度を廃止することとし、これに関連して小作料の規制に関する所要の
規定を
整備することといたしたのであります。
その一は、
農業委員会が
農地一筆ごとの小作料の最高額を定める旨を
規定した第二十一条を廃止するとともに、この統制額に違反する契約については、その統制額を小作料の額と定めたものとみなすこととされている第二十二条を廃止し、これらの
規定にかえて、小作料は定額全納で契約すべき旨及びこれに違反する定めはその効力を生じない旨の
規定を設けることといたしております。
その二は、小作料の増額または減額の請求権の
規定を設けることとしたことであります。これは、小作料の額が農産物の価格や
生産費の上昇もしくは低下その他の経済
事情の変動により不相当となったとき、または近傍類似の
農地の小作料の額に比較して不相当となったときは、当事者は小作料の額の増減を請求することができることとし、増額について協議がととのわないときは、増額の請求を受けた耕作者はみずから相当と認める額の小作料を支払うことをもって足りることとし、減額について協議がととのわないときは、減額の請求を受けた
土地所有者はみずから相当と認める額の小作料の支払いを請求することができることといたしております。そして、増額または減額を正当とする裁判が確定した場合には、すでに支払った小作料の額との過不足額に年一割の割合による利息を付して精算すればよいことといたしております。
その三は、
農業委員会による小作料の標準額の設定及び小作料の減額の
勧告の
制度を設けることとしたことであります。まず、
農業委員会は、その区域内の
農地につき、たとえば田畑別、上中下別等必要な区分をいたしまして、その区分ごとの
農地につき経営規模、経営能力等において通常の
農業経営が行なわれたとした場合における
生産量、
生産物の価格、
生産費等を参酌し、耕作者の経営の安定をはかることを旨として小作料の標準額を定めることができることといたしております。そして、その小作料の標準額に比較して著しく高額であると認められる小作料を定めた契約があるときは、
農業委員会は当事者に対してその小作料の減額を
勧告することができることといたしております。
その四は、以上のような小作料の規制についての改正を行なうにあたり、現存の小作地の小作料につきましては、その小作農の経営に急激な変化を与えることを避けるため、この
法律の施行の日から十年をこえない範囲内において政令で定める日まではなお小作料の最高額統制に関する
制度を継続することとし、その最高額の基準については、農林大臣が毎年検討を加えて、必要があるときはその変更を行なうことといたしまして、附則第八項及び第九項にこの旨の経過
規定を設けることといたしております。
第七に、国からの
農地または
採草放牧地の売り渡しについて定めております第三十六条の
規定の改正について御説明申し上げます。
これは、現行
制度では
市町村、
農業協同組合等の団体に売り渡すことのできる
土地は、共同利用することが適当な
採草放牧地に限定されておりますのを草地としての
土地の利用の効率化が進んでまいっておりますことを考慮いたしまして、共同利用することが適当な
農地についても団体に対し売り渡すことができることといたしております。
第八に、和解の仲介
制度について第二章に一節を設けることとしておりますので、この
制度につき御説明申し上げます。
これは、
農地等の利用
関係の紛争が民事
調停または裁判によらなくても簡便に解決できるように、当事者の双方または一方から
申し立てがあったときは、
農業委員会が和解の仲介を行なうことといたしたものであります。この和解の仲介は、
農業委員会の
委員のうちから
農業委員会の会長が事件ごとに指名する三人の仲介
委員により行なうこととし、都道府県
知事の
許可を要することとされる事項について和解の仲介を行なう場合には、仲介
委員は都道府県の小作主事の意見を聞かなければならないものとしております。
なお、
農業委員会が和解の仲介を行なうことが困難または不適当であると認めるときは、都道府県
知事による和解の仲介ができることといたしております。第九に、開拓財産である道路、水路等の譲与に関する第七十四条の二の
規定について御説明申し上げます。
開拓財産である道路、水路、ため池等につきましては、現在有償で売り渡すこととなっておりますのを改めまして、これらの財産の性格にかんがみ、その用途を廃止したときは、これを無償で国に返還することを
条件として、
市町村、
土地改良区等に無償で譲与することができることといたしております。
第十に、草地利用権設定
制度について第三章に一節を設けることといたしておりますので、この
制度の概要について御説明申し上げます。
これは、畜産物に対する
需要の増加に対応して飼料の
生産基盤の拡大強化をはかるための
制度であります。
まず、
市町村または
農業協同組合は、その
住民または組合員の共同利用に供するため、牧草の栽培またはこれに付随して家畜の放牧を行なうことを
目的とする
土地についての賃借権を取得する必要があるときは、都道府県
知事の承認を受けて、その
土地の
所有者等に対し、草地利用権の設定に関する協議を求めることができることといたしております。この場合に都道府県
知事が承認できるのは、その
土地が自作農の創設に供されるとするならば、国による未墾地買収の対象と
なり得る
土地である等一定の要件に適合するものである場合に限ることとしております。
次に、この承認を受けた
市町村または
農業協同組合は、
土地所有者等と草地利用権の設定に関する協議をすることと
なりますが、これがととのわない場合等には、都道府県
知事の裁定を申請することができることといたしております。この場合には、都道府県
知事は、
土地所有者等に意見書を
提出する機会を与え、その
土地の利用の状況、利用
計画等を考慮してもなお草地利用権の設定を望む
市町村または
農業協同組合が、共同利用に供することのほうが国土資源の利用に関する総合的見地から必要かつ適当であると認めるときは、草地利用権を設定すべき旨の裁定をするものといたしております。
なお、草地利用権は設定の初めから通算して二十年をこえない範囲内で更新することができることといたしております。
また、草地利用権の存続期間が三年以上にわたるときは、その
土地の
所有者等は、都道府県
知事に対し、草地利用権を有する者がその
土地等を買い取るべき旨の裁定を申請することができることといたしており、草地利用権を有する者が正当な事由がなく引き続き二年以上草地利用権が設定されている
土地をその
目的に供しなかった場合には、草地利用権を解除することができることとしているほか、草地利用権の譲渡等の禁止の
規定等を設けることといたしております。
最後に、第八十三条の二におきまして、
農地等の無
許可転用者または
転用許可の
条件に違反している者等に対し、農林大臣または都道府県
知事は工事の停止命令等違反を是正するための必要な
措置をとるべきことを命ずることができることといたしております。
以上をもちまして、
農地法の一部を改正する
法律案についての補足説明を終わります。