○前田
参考人 ただいまの御意見に対しましては、私は全く同感、非常な共感を持って伺っておりました。
私
どもの放送の波は、御
承知のようにラジオにおいては三波、テレビにおいては二波でございます。そのうちで、特にテレビの一波、中波の一波はすべてそういう方向に投じているわけですが、しかし、そういうわれわれの事業のセクションという
意味でなしに、私は、実は御
質問にもありましたように、今日の
日本の経済力あるいは文化、あるいは戦後の非常な自由な社会機構あるいは家族制度の根本的な改変という中で、私自身の立場から見ますと、NHKのテレビが二千百万に近い御世帯から支持されているということは、一方においては、ある
意味ではかなり非しむべき現象ではないか、それは自由な個々の人々の社会生活が貧困であることの
一つの反映ではないかということは、かねてから当
委員会でも御
質問いただく際に申し上げております。社会環境の中で、しかも二千百万世帯がNHKを支持してくださっているという事実を取り上げたときに、われわれの番組の編成の
方針、あるいはまた事実上の番組の制作というものが、全般的にいってもいかに社会的責任と直結しているかということを痛感いたしております。特に私がわれわれの同僚に語っていることは、私は、過去を問うよりも、むしろ未来に
日本の希望を発見しなければならないという点でございます。そういう点では、青少年、まあ幼稚園から青年に至るまでの
日本の
国民として、自由国家の一員として、民主社会の一員としてどう生きていくかをやはり私
どもは御協力してその道を開く資料を提供すべきではないかという
考え方であります。
したがいまして、従来も、たとえば学校放送等においてはもちろんやっておりますけれ
ども、一般番組の中でも、夏休みになりますと、一例でございますが、「中学生
世界の旅」というようなものも計画いたしました。当時はそれぞれの
関係方面から、ことに、中学生を海外に出すとは、という御意見もありましたけれ
ども、私としては、やはりそこから民主的な
日本人の目を開く方法を
考えるべきだということを
考えておりました。それからまた、同時にそれと関連して、私としては、たとえば五年前になるかと記憶いたしますが、皆さまの御支持をいただいて、全国どこにおっても働きながら高等学校の教育は受けられるという制度もつくったわけでございます。
そういう
考え方のもとに、一般的な番組の方向は何か、また、具体的にどういう番組があるかという問題になりますと、私は幾つかの方法を実は具体的にとっております。
一つは、やはり家庭とか、あるいは住んでいる地域という問題を離れて、青少年に明るい生活を期待するという
意味では、やはり私はスポーツ番組、ことにアマチュアのスポーツ番組が絶対に必要である。したがって、私
どもはプロ野球もやっておりますけれ
ども、年間を通じてスポーツ番組の経費の大部分はアマチュアスポーツに注いでいるというように申し上げられると思います。
それから、たとえばいろいろな芸術家の招聘その他がありました場合でも、若い人たちのために、特別の料金を取る場合でも一番安い料金を特別に設定しているというような行き方もいたしております。
また、具体的な番組で申しますと、教育番組以外の問題でございますが、子供のために、現在の民主社会と申しましても、何か共通の心のよりどころ、あるいは共通の生活の
態度が非常に乱れているという現状において、たとえば「海からきた平太」というような、
先生と生徒との
関係、生徒同士の
関係、上級生と下級生の
関係、両親と子供との
関係、これを明らかにしていく番組、あるいはまた「あねいもうと」というような番組もございますが、これは女のそういう年齢の方を中心として、家庭的にどのような方向にいくべきか、親の苦労と、それを取り巻く社会の苦労と本人との
関係を明らかにするような番組を連続してテレビでやっております。それから、また、現在は教育そのものについても、私の
考え方としては、たとえば環境がしいる教育が多過ぎはしないか、本人の素質とか、好みとかを無視したものが多過ぎはしないかというような
意味でも、番組上、たとえばこの間ごらんいただいたかどうか、「生活の知恵」の中で、いまの小学生以下の、あるいは中学まででしたが、子供たちがおとなとの間にどのような感覚の差異を持っているか、これはおもちゃであるとか、あるいはそういうものを通じて明らかにする番組、それから
先生とそういう
義務教育期間の児童との
関係、そこにギャップがないかというような問題を取り上げながらやっております。
私としては、同時に、この固定された社会の中から、それからまた、戦後非常に膨大化した経済機構の中でややもすれば失われていく人間性、この点を
考えながら、ことに青少年に望みを与えていく方法は何かということを
考えるわけです。これには教育の波ばかりでなしに、総合テレビにおきましても週何回か定期的に科学の
世界、それから実際生活と科学との
関係、それからまた、地域社会と個人との
関係、それを、
一つの新しい理想に向かっていく具体的な道筋、これらのことを総合して制作する番組をつくっております。もちろん、これらのことは一朝にしてその
目的を達成するわけにはいきませんが、御指摘のとおり、NHKという公共的な性格から
考えても、また、二千百万世帯が現実に支持してくださっているという点から
考えても、あらゆる種類の番組にこの精神を浸透さしていくことこそ、私は、単に法律上の責任という
意味でなしに、NHKの仕事をしている者の根本的な責任でもあり、またそれに努力すべきである、このように
考えております。