○
吉國(二)
政府委員 来年度の
税制改正という問題は、やはり来年度の
景気調整、経済成長、財政規模というものと関連をいたしますので、来年度の具体的な問題として申し上げるよりも、
景気調整機能が
税制においてどの
程度果たされるかという観点からお答え申し上げたほうがいいかと思います。
御
承知のように、わが国の
所得税、法人税の中にはいわゆるビルトイン・スタビライザーとしての調整機能を強く含んでおるように思われるわけでございます。
所得税自身が弾性値が二・三というような
数字を持っておりますし、法人税自身が比例
税率であるにかかわらず相当大きな上下の弾力性を持っております。これは御
承知のとおり、わが国におきましては付加価値と純利益の相関
関係というのが非常に浮動をいたします。ことにわが国の場合は、いわゆる荒利益と申しますか、営業利益の中で金融損益の占める割合、つまり支払い金利の占める割合がかなり高いわけであります。そういたしますと、景気動向によっていわゆる営業利益が拡大をする、利益率が上がるという場合には、営業利益の増加以上に純利益が増加をするという現象を生むわけでございます。また逆に、景気が下降いたしまして、利益率が下がって営業利益そのものが減る場合には、
利子の支払い額というものはかなり一定しておりますから、純利益は営業利益の減る以上の割合で減るという結果になります。法人税が営業利益というものではなくして、純利益を
対象として
課税されるということから、法人税そのものが比例
税率であるにかかわらず、景気の動向によって大きな弾性値を持つという結果が見られるわけでございます。
そういう
意味で私
どもは、法人税、
所得税の
景気調整機能というものが相当大きいのではないかということを考えるわけでございますが、この機能がそのままもし持続されていくようであれば、既成の
税制によっても
景気調整は果たされるわけでございますけれ
ども、これによってたとえば景気のいい場合に、増収があった場合に、それに対応して財政規模をふくらましてしまえば
景気調整機能は相殺されてしまうわけであります。結局
税制だけで
景気調整をはかるということは実は無理な面があると思われますので、財政全般として歳出歳入を通じて
景気調整をはかる必要があるのではないか。その場合の用具として法人税、
所得税というものはかなり大きな用具として働くけれ
ども、その
効果を生かすような財政運営が行なわれないと、その結果は生きてこないということが言えるかと思います。そういう
意味から申しますと、わが国のように毎年
税制改正をいたしておりますところでは、ある
程度の中期的な景気動向を考慮いたしまして、毎年の
税制改正によって
法人税率なりあるいは
所得税
改正というものを行なっていけば、十分
景気調整機能を果たし得るものではないか。このような点から申しますと、毎年の
税制改正においては常にやはり景気動向というものを考えた処置が必要であろうか、かように思います。
よくいわれておりますように、ドイツでは政令の作用によって
税率を調整するというような
制度をとろうとしているとか、あるいはイギリスにおいて間接税について上下一〇%の幅で勅令による
税率の調整ができるとかいう
制度があるようにいわれます。そういう
制度を日本でも採用したらどうかという意見もございますけれ
ども、いま申しましたように、法人税自身の景気による弾性値というものは非常に大きいわけでございます。はたしてそのような
制度が必要かどうかは私
どもは疑問に思っておりますし、また、短期的にそのような
法人税率の上げ下げをやるということが、一年決算後に法人税が課せられるといういまの
制度の上ではたして実行可能であるか。現在のような景気指標の見方、三カ月でまるっきり反対の結果が出てくるような景気予測の段階では、私
どもは、その
税率を変えることによって多額の税収を生むという結果を考えますと、まだそこまで踏み切る段階ではないのではないか、かように考えております。
なお、先ほど御
指摘がございました
財政金融統計月報の
主計局長の論文でございますけれ
ども、これは
主計局長が財政の歳出面、歳入面両面において
景気調整を今後考えていく必要があるのではないかということを述べておるのでございまして、抽象論としては私
どもも同じ
考え方でございますけれ
ども、なお、そこに書いてございます法人税の
一つのシュミレーションの結果が出ております。このモデルはいろいろの
前提をとっておりまして、私
どもはその
前提自体かなり問題があると考えております。もちろん、こういう研究が必要なことは当然でございますし、
主税局としてもいろいろ検討いたしておりますけれ
ども、何ぶんにも法人税というのは非常にむずかしいこまかい規定がございまして、簡単にモデル化するのは非常にむずかしいものがございます。
たとえば、よくいわれておりますように、四十年代になって法人税が急激に減っておる、これが景気を刺激したのではないかということを内田論文などでいっておりますけれ
ども、四十年代になって法人税が下がったという実証が、法人税収だけを見ておりますけれ
ども、その間に四十年代には
利子配当の
源泉徴収税率が五%から一〇%、一〇%から一五%に上がっております。したがって、その分は法人税であるにかかわらず
所得税で先に取られて、法人税
課税の場合にはそれが控除されておりますから、法人税収が減ったということと、ほんとうの
意味の法人
所得に対する法人税が減ったということは全然別個のことなんでございますが、そういう点を見落とされているとかいろいろな問題もあるようでございます。しかし、こういう研究を今後やっていく必要があることは私
どもも十分考えているところでございます。
なお、
中山先生が言われました点は、これは
政策論としては当然と申しますか、
考え方としてあり得ると思いますが、私
どもといたしましては、
物価が上がった場合に
国民が受ける影響というものは
納税者も
非課税者もいずれもひとしくこれを受けていると思いますので、
物価騰貴分だけを
減税で取り返すというようなことは、これは実は
非課税者にとっては非常に不公平な結果になる。むしろ私
どもが考えておりますのは、
非課税者にはない特殊な重荷が
納税者にかかるかどうかという点だと思います。つまり、
物価騰貴がある分だけ税負担として重くなるかどうか、この点は、
昭和三十八年の
税制調査会で明らかにいたしましたように、累進
課税をとっております
所得税では、
物価騰貴があれば同じ
実質所得であっても実効
税率が上がるという研究がございますが、これは少なくとも調整をしないと、
納税者だけがこうむる特殊な被害という
考え方があると思います。そういう
意味である
程度物価騰貴が続けば、たとい
課税最低限が相当の高さに立っておっても、数年に一ぺんくらいはいわゆる調整
減税というものをしないと、
非課税者に比べて
納税者は税があるというために
物価騰貴の影響を二重に受けるという結果になるかと思います。
税制の固有の問題として
物価としてぶっつけてこれを考えてみました場合には、いま私が申し上げたような点が理論的には問題になり得るか、かように考えるわけであります。