○佐藤
公述人 私は経済研究所をやっております。経済研究所と特に経済というふうに銘打ってありますのは非常に大きな
意味があるわけでございます。と申しますのは、私
どもの経済研究所は国家経済と経営というものはどういうふうな結びつき方をすることが最も正しい
社会的なあり方であるかということを主眼にやっております。また、私の過去の概略の経歴を申し上げますと、
特許を取り組んできまして約十五年間、大
企業におったわけですが、経営者をやっておりました。そういう点からいろいろ鑑定いたしまして、今度の
改正案には絶対反対でございます。
その反対の
理由を申し述べます前に、三つの観点に問題を分けてお話ししたいと思います。
まず第一番目は、二、三分時間をお借りいたしまして、まず法律制定なりあるいは法律の改正なりをやる基本的な問題はどこにあるかということ、この
特許法の
改正案にも影響することでございますので、基本的にそれを解明してみたいと思います。その次にこの
特許法改正案の反対
理由を申し述べます。最後にまとめといたしまして、この改正をやらなくても十分にやっていける方法がある。これは簡単な方法でございます。それを解決したいと思います。
以上のポイントでお話ししていきますので、要点をそのようにとらえていただきたいと思います。
まず、これは私がちょうちょう申し上げるまでもございません。皆さん大先生ですし、よくおわかりのことだと思うのですが、新しい法律をつくる、または法律を改正するという基本的なものは何かといいますと、われわれが国際
社会に立ってどういうふうにわが国を位置づけていくか、あるいは将来わが国の歴史をどういうふうにしていくかということが一番基本的な問題になっていなければいけないと思います。次に、国家並びに
社会、国民経済、こういう問題に対してどういう影響があるのかということが重要な問題でなければならないと思います。それから、そのことによって経済動向がどういうふうに動いていくのかということを
考えなければいけないと思います。それは発展するものであるのか、あるいは萎縮するものであるのか、あるいは横ばいでいくものであるのかということが取り上げられなければならないと思います。それから、それによって産業構造、
社会の編成がどのように変わっていくのか、これが非常に大きな問題だと思います。次に第五番目といたしまして、経済の正常化ということが取り上げられなければならないと思います。経済の正常化というのは、要するに経済の民主化でございますね。民主化が行なわれなければ、法律の改正とかそういったものをやってもあまり
意味がない。こういう五つの観点に立って、私はこれから反対
意見を申し述べます。
まず、反対の第一
理由は、この
改正案の基本になっております
政府に対する答申でございますが、これは非常に哲学的な表現の文章であって、ちっとも具体性がございません。私が先ほど申し上げましたように理論経済学、それから厚生経済学、そういう点に照らしてとにかく表現が全然なっておりません。これが反対
理由の第一であります。序文において「最近における
出願の激増とその内容の高度化、複雑化によって
特許庁には未処理案件が累積し、
出願から
権利の確定までに、相当の長時間を要して」いる、こういうふうに述べてありますが、これは、私は先ほ
ども申し上げましたように、
特許とともに十五年間歩んできております。しかし十五年前と現在と、十五年前は
出願件数がものすごく少なかったわけですが、これが依然として変わっておりません。その当時でも三年ないし四年はかかっておりました。問題はどこにあるか、これはまたあとで説明いたしますが、これが反対
理由の
一つでございます。
それから第二番目の反対
理由は、
審議会の答申の骨子が序文の中にあるわけですが、序文の中にこういうふうに書かれてあります。「開放経済に移行したわが国にとって新しい
技術の開発と利用はいよいよ重要となり、この面より
工業所有権制度の適正かつ迅速な運用が強く要請されている。」これはまさにそのとおりであります。これが本来の趣旨であるならば、開放経済というものを一体どのように
考えているのかということでございますね。私の申し上げたいのはそれでございます。開放経済の
状況が
社会、経済並びに国民経済に及ぼすところが少しも解明されていない。
審議会の答申はしたがって前提になっていないというふうに私は断定してよろしいと思います。つまり自由化に対処するにあたって、わが国の産業界の事情はどういう事情にあるかといいますと、世界のビッグビジネス百のうち、わが国はわずか八社しかございません。トップ
企業でも世界の五十何番目ですか、一番目か二番目、そんなところでございますね。これに対して
アメリカ及び
アメリカ系のあれはトップからずっと上位にあるわけですが、六十九社ございます。これは皆さんよろしく御存じのことだと思うのですが、そうなりますと、わが国がこれから自由化を迎えて、この資本構成で世界の国と競争していく場合に、ほとんどの
企業が国際の競争力を持ってないと言って差しつかえないと思います。この点で私はいろいろ本を書いたり、それから論文を発表したりしておるわけですが、要するに、これに対処するのには、経営のユニット化とか生産のユニット化、これはつまりお互いに
技術提携をしてやるとか、
企業共同でやるとか、経営のむだを省いてやるということを提唱したのもこのためであり、それからたとえば三菱系であるとか、三井系であるとか、あるいはいま自動車会社で盛んに
——私は自動車会社にも警告状を発しましたのですが、要するに
自分の
企業を守るために外資系と結びついて
日本の経済を縦割りにするというようなことがあっては断じてならぬというふうに、要するにこれは国民経済を守るという
立場からそういうことを提案しておるわけです。こういった経済情勢に対処するためには、
特許制度によって裏打ちされた
工業所有権を資本に変えて、そして対処するほかないと私は思います。これに対して、本
改正案に見られるような、
特許等の
出願件数を大幅に処理件数を減らす、減殺しようとするような趣旨の本
改正案は、私は国民の一人として、また国家的な
立場から、非常に悪法であるというふうに断定せざるを得ないと思います。
それからこれは、時間がございませんので、
特許法の精神からいきましても、こういう安易な、処理を急ぐの余り、国家の財産を流出してしまうというようなことがあってはならない、私はこう思います。少ないわが国の資本をさらに過小に追い込むような危険性を持つ本
改正案は、この序文に述べられてあるわけです。この序文というのは、
審議会の序文に述べられてあるんですが、
工業所有権制度の適正なる運用ということばを使っております。これは一体何を
意味するのか、私はこのことばの解釈に苦しむわけですが、
工業所有権制度の適正なる運用ということは、要するに無体財産権を資本に変えてやっていくことがこの正しい運用だと思うのです。したがってこの序文が、
審議会の答申が何を書いているんだか、さっぱり私にはわかりません。
それから、これはもちろん
企業としても大切なことでありますし、国家的な面から見ても、これは非常に重要な問題だと思います。したがいまして、この改正によって安易な道を選んで国の方針を誤り、国民の生活をさらに悪化して追い込むような
改正案に、私はどんなあれがあっても反対するという
理由の
一つでございます。
それから、これは非常に重要な経済背景でございますが、これは皆さんも御存じの方があると思いますけれ
ども、いま
アメリカではどういうことが行なわれているかといいますと、いま
日本の
特許公報を盛んに集めまして、そしていろいろ
特許の公報を
分類しているわけです。そうしてその
分類をして、盲点があるものに対して、
日本に向かって大量に
出願をして、
日本の
市場を独占しよう、こういうことが行なわれているわけです。これは私の三井物産を通じて
調査網で調査したあれですから、これは絶対に間違いがございません。そういう大きな、おそるべき
状態にあるわけです。
これはどういうところから出発しているかといいますと、これは私が大
先生方を前に置いて言うのはおかしいのですが、
アメリカは大恐慌のあとを受けて、一九三四年に、互恵通商協定法というのをつくって、みずから関税を撤廃するかわりに、おまえのほうもとにかくやれ、これが今日の自由化の発端なんですが、その当時はラテン
アメリカ程度の
市場より確保できませんでした。それでアジアに目をつけて、そうしてアジアに進出したわけですが、この一環として起こったのが大東亜戦争でございます。これは私が三井におって、まだ当時若かったのですが、はだ身で感じたことなんですけれ
ども、要するに、
アメリカは戦争には勝ったけれ
ども、まだ東洋
市場というものは握っていないわけです。
アメリカの工業力は戦後やはり倍ぐらいになりまして、最近非常に指数が鈍化しております。どうしても東洋に進出しなければいけないということで、東洋に進出するといっても後進性の国が多いので、どうしても
日本を攻略しなければいけないということで、
アメリカの
企業家連中はもうあらゆる手を尽くして
日本を攻略しよう、こういう
状況にあるわけです。そのときにあたって、
特許の件数を減らすようなばかなことを何で行なわなければならぬのか、こういうことをよく御認識いただきたいと思うのです。
それから、いまのあれに関連して申し上げますと、大体
日本は世界に向かって、一年間に、これは
特許庁発行の「明日をひらく
特許」という書物に書かれてありますが、
日本の
外国向けの
出願は、一年間に約一万一千件でございます。
アメリカは十一万件と、
日本の十倍です。それから西
ドイツが約五・五万件で、
日本の五倍でございますね。ですから、
日本は
特許が非常に盛んになったとか多いとかいっても、向こうの国に比べたら問題にならないわけです。そういった点からも、私は反対をするわけでございます。
それから、次の反対
理由は、
審査請求制度で事務の促進をねらいとしておりますが、これはとんでもない間違いで、誤解だと思います。私たちが
企業者側に立ってあれした場合に、そういう
制度があれば、五千円料金が加算になろうが、七千円加算になろうが、これは初めからやります。したがって、そのことによって絶対件数は減りません。これは絶対減りません。時間がありませんので、具体的に申し上げたいことがまだあるのですが、こういう点も非常な勘違いで、幼稚で、問題にならないと思います。
それから、
特許によって
市場価格が独占化できるという問題があるわけですが、これは
日本の工業力が世界で二番目になった、しかし一人一人の所得が二十位ぐらいですか、という問題にも関連するわけですけれ
ども、もし現在の
特許法なりあるいは世界の
特許法が悪法であるならば、
市場の適正価格
——価格というものはどういうふうにきまるかというと、その商品の価値なら価値というものを貨幣という交換媒体を通じて、それで適正な値段できまるわけです。そこに
競争相手があらわれたり何かしてくると、
市場が乱れる。
日本の場合は特にそれが激しいわけですね。したがって、工業力では、
日本の総生産では二位でありながら、国民生活が二十位であるということは、そういうところに一番大きな原因があります。これは私ここで、数字も持ってきておりますが、時間がありませんから発表いたしませんけれ
ども、これはやはり議員の皆さんの非常に大きなお力をおかりしなければいけない。せっかくこういういい
特許法というものがあるのですから、それを活用することによってどんどん国民生活水準は上がります。それから、過当競争というものは決して
社会の秩序を維持していく上にいいことではなくて
——いい面もありますけれ
ども、
日本の置かれている現状から、まだまだ国民生活の水準を上げなければいかぬという点からいきますと、非常に大きな問題だと思います。そういう点からも私は反対でございます。
それから、これはたいへん口幅ったいことばでまことに申しわけないのでございますが、
審議会の方々をお選びになられる動機とかなんかということは私はよくわかりませんけれ
ども、たとえば内閣総理大臣は、国民経済並びに世界に置かれている
立場といったものをよく
考えて、世界の進運におくれないことを第一義として
審議会の構成メンバーを今後お選び願いたい、こういうことでございます。これは実に
審議会というものは、国民それから議会並びに国家、
社会並びに国民経済、それから産業に非常に大きな影響がありますので、そのメンバーの選定というものに対しては、学術経験者とか、そういったあれだけからじゃなくて、もっともっと深い、奥底のある、要するに経済理論とかいろいろな要素を持っておられる方々をとにかく対象にしていただくことが望ましいのじゃないかというふうに
考えるわけでございます。
それから
早期公開制の問題でございますが、これは私は逆説を持っております。
特許公報というものはこれは一連の
特許の
技術の古典だというふうに
考えていただきたいと思うのです。ということは、電気洗たく機というのは明治時代に
特許になっておった、それからヒントを得て今日の電気洗たく機があれされておるわけでございますね。したがって、そういった点からも非常に
特許公報というものは重要である。そういうふうなことを重視しなければならないという問題があると思うのです、
出願件数を減らすとか、あるいは料金を上げて一般
発明家の
出願を押えるとかいうようなことは、これは非常に国の将来を誤るのじゃないかというふうに
考えます。
それから、先ほど大
企業、
中小企業というお話が出ましたが、私は大
企業、
中小企業という
立場に立ってものを言っているわけじゃございませんので、問題は結局、今度のあれは
中小企業並びに一般の人の
出願を押えるというような要素も多分に含まれているんじゃないかというふうに受け取られるわけですけれ
ども、われわれとしては、
中小企業を育て上げなければ
日本の経済はもちろん持ちませんし、経済的に非常に大きな問題が起こる。特に今度は外資系の会社が
日本へ進出してまいります。そうしますと、彼らは
中小企業の優秀な頭脳を彼らのところへ吸収いたします。そういたしますと、
日本の経済
状態というものは、
中小企業にもいま優秀な方がたくさんおりますから、縦割り
状態になってしまう。したがって、
中小企業を育成するという
立場からも、
中小企業からもどんどん
出願ができるという
制度が望ましいんじゃないか。そういう点からも私は反対でございます。大
企業では
早期公開されましてもそんなに不便を感じません、人がたくさんおりますから。ところが
中小企業並びに一般の方々は、一年間に二十万件も出るわけです。これをどうやって見るのか。逆に参ってしまうと思うのです。そういった点からも
早期公開というものはもっと慎重に
考えなければいかぬ。
早期公開に私は反対しているわけじゃございません。しかし答申に見られるような内容のことでは反対である。ということは、あの中に重複研究ということばが使われております。しかし、重複研究というのはどういうことかというと、重複研究をすることによっていろいろなものが生まれるわけです。折り紙を使って折りヅルをつくるのは
一つの方法しかありませんけれ
ども、石油化学をやった場合に、同じ門から入ってもいろいろなものができるわけであって、そういう点からも
審議会の答申というものはなってないというふうに私は申し上げていいと思います。
まだ申し述べたいことが多少あるのですが、反対の趣旨は大体これくらいにいたしまして、それじゃどういうふうにしたらこの法律を改正しなくてもできるかという問題ですが、まず第一番に、これは皆さんあるいは御存じかどうか、私は元
特許庁長官の倉八さんに忠告論文を出したんですが、
特許庁の事務は非常にだらしがないのです。朝十時ごろ始めて、お昼ちょこちょことやって、二時ごろまではおりません。
特許庁へ行ってみたらわかりますが、もう机ががらあきです。そしてこれは時間外であってもいけないことですけれ
ども、時間内でも
企業側へ遊びに行ったり何かして、いろいろ内報をやったり、これはぼくは事実をつかまえております。ここで一々申し上げませんけれ
ども、そういうふしだらな勤務の
状態です。私はいろいろ官庁なんかも
関係がありますが、国鉄であるとか電電公社であるとか、そういうの現場を持っているところ、それから民間と接触の多い公社とか公団、そういうところに比べたら、まず三分の一より仕事をやってないと言って差しつかえないと思います。そういう点を抜きにしておいて、そして件数が多いからおれのほうはできないんだということは、これは
特許庁の長官は任期が少ないので、実際を掌握しておられずにいろいろな
意見を持ち出すんじゃないかというふうに考られるわけです。前の佐橋滋さんですか、あの方なんか非常に極端なことを言っているわけですが、おれは
特許庁の長官だけれ
ども、
特許庁の仕事をやりに来たんじゃない、おれはすぐよそへ行っちゃうんだ。これが民間の社長だったら一ぺんに首になっちまいますね。そういうことも平気で言うわけです。こういうことも非常に困ります。職員の士気にも影響するということがあります。それで、民間ベースでやった場合に、じゃどうかといいますと、これは十分に現在の三倍の能率をあげられます。そういうことが
一つですね。
それから次に、それじゃもっと能率をあげるにはどういう点をあれしたらいいかというと、申請の明細書がありますね。申請のときの明細書を全部タイプで打たせまして、タイプの小さい活字を使うわけです。一々活字を組んであれしなくても、それを写真で焼けば、すぐそれが明細書になってできますね。その
出願の要領と方法を変えれば
——私が経験したあれでは、許可になってから印刷に大体半年間もかかっております。それはいろいろ問題があると思うのですが、一々版を組みかえたり何かしておりますから、活字を小さくして、それをそういうふうに焼けばそういう明細書はすぐできる。そういう方法が
一つと、それから
審査官の方が、行ってみますと、いろいろ御
自分で書類をいじっておるわけですね。そうでなくて、ヘルプとして若い女の子でもつけて、これとこれとピックアップせよと言えば、これはどんどん能率があがるわけです。高い賃金でなくても、そういう方法があるということですね。
大体そういうことで、いまのあれは公社
制度にしてもよろしいでしょうし、もう時間がないので、まだ申し上げたいことがたくさんあるのですけれ
ども、大体そういう方法でいけば、何もこの法律を改正しなくても現状で十分いけるということでございます。
どうも御清聴ありがとうございました。(
拍手)