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杉林参考人 本日は、当
委員会に
参考人としてお呼び出しをいただきましたことを光栄に存じます。
私が勤務しております
日本大学法学部では、四月より四年生、五月より一年生、六月より二年生、ただいま三年生の授業をそれぞれ開始しまして、全学年生が授業を行なっておるのでありまして、ただいま二時間目の授業中途で参りまして、四時間目の授業がありますので、定刻より遅参をお認め願いました当
委員会に対して心より感謝を申し上げます。
連日
特許法等の一部
改正法律案に対して当
委員会におかれましては
審議を行なわれておりますことを議事録によりまして存じておりますが、多くの貴重な議論とそうして質疑応答が行なわれておりますので、私ごとき者が申し上げるまでもございません。ただ工業所有権に
関係しております一人として、工業所有権の
制度にたいへん関心は持っておるのでございます。
ただいま世界的な傾向を見てまいりますと、工業所有権は一国内の
制度にとどまらず、世界的な中においての
制度であります。それは皆さまも御承知のことと存じます。そういう中でひとつ
制度を見てまいりますと、これには二つの大きい流れを持っておるのでありまして、直ちに
技術を
公開するという無
審査制度、御承知のようにこれはフランス法系の国々でありまして、
早期に
出願を
公開をしていく、こういう
考え方のようであります。ところがフランスにおきましても、一六九九年の王室
科学技術院の規則では、最初は
審査主義をとっておったのでありますが、途中から無
審査主義に変わりまして、そして長い歴史を持っておるのでありますが、戦後における
発明といいますか、
技術の質の向上、そうして
促進の度合いが早まってまいりましたので、単に無
審査だけで
公開するということは、後における
権利の安定性というものに重大であり、また企業化にたいへん支障を来たすということで、最近になりましてその
改正を
審議した結果、一九六九年、ことしの一月から一部
審査を行ないます。そうしてさらには新規性について
意見を付して登録するという
制度をとってまいったのであります。すなわち、無
審査主義から
審査主義へと若干歩み寄ってまいっておるのがフランス法系の国々で、まず第一にフランスがそれを実行してまいったのであります。
もう
一つは御承知のように
審査主義であります。わが国は長い間
審査主義をとっておるのであります。ここでは一がいに
審査主義と申し上げましても、不完全な
審査をして
公開していく
制度と、完全なる
審査をして
公開していくという二つの
制度に分かれているかと思います。前者の不完全
審査主義をとるのがイギリスでありまして、わが国の工業所有権
制度、なかんずく
特許制度がイギリスのスタティスティックモノポリーから始まるといわれるくらいでありますが、この国は不完全
審査主義をとっております。それはなぜかといいますと、先ほ
ども参考人の
方々からいろいろな御発言があったと思いますが、現在一九六八年の
調査によりますと、この
発明を
特許していいかどうかという、新規であるかどうかの
調査に
技術文献として約三百万件あるといわれております。これが十年たつとその倍になるといわれております。そういう多くの
技術資料を集めて、そうしてそれをよくそしゃくし、新たなこの
出願の
内容をそしゃくし、そうして
審査官イグザミナーがイグザミネーションをするということは、これはたいへんな
仕事であります。そういう
関係からもイギリスでは五十年間の刊行物を
審査する、それ以外は見ないという、ある程度不完全な
審査をしまして、そうして
一般に
出願を
公開していくのでありますが、それに対して
出願公開制度というものがございます、
日本にもあるのでありますが。これは一八五二年から
出願公告
制度というものを初めてとった国であります。それは不完全
審査を担保する
意味であろうと思っております。
もう
一つは、イギリスもやはり
発明をたくさんする国でありますし、優秀な
発明も生まれますが、その際における
審査を、不完全
審査ながらもどうして早く
審査をし
技術を
公開していくかということについてたいへん腐心をしたようであります。そこで
一つ案出されたことはこういうことなのであります。
まず
発明者が企業化していく場合、はたしてこの
発明が市場性を持つかどうか、その
調査期間が必要であります。これは。ハリ同盟条約でも優先
期間を十二カ月としたのはそこにいわれがあるといわれておりますが、最近はそれでは短いというので十八カ月に伸ばそうという案がたびたび出ているのであります。そういう
意味である一定の
期間内に
出願人すなわち
発明者はその市場性なりあるいはほんとうに
審査をしてもらおうという意思を判断する
一つの
期間を
考えた。そこで手続としては仮明細書、すなわちプロビジョナル・スペシフィケーションズという仮明細書の
制度をつくってある。いうならば
発明の本質的なものだけを一応ペーパーに書いて出しなさい、その後一定
期間を経て完全なる、コンプリートなスぺシフィケーションズ、完全明細書を出しなさい。ここに
一つの繰り延べ
審査ということを
考えたのであります。長い間この
制度をとってきたのでありますけれ
ども、最近の
情報によりますと、やはりイギリスもなかなか
審査がうまくいかない。これを何とかしなければならないというので、最近は
特許制度に対する
審査促進、
技術の
公開を早くする、そうして自国の産業の発展を期させようというので、いろいろ寄り寄って
委員会なりを設けて
研究されている由であります。
もう
一つは完全
審査主義でありまして、御承知のようにその典型的なのが一八六三年アメリカがとった
制度であります。したがいまして、アメリカではイギリスのような
出願公告
制度をとらないので、国家みずからの手によって完全に
審査をして差し上げます、こういった
制度をとっておりますのですが、これも戦後間もなくやはり
制度改正という問題を試みまして、草案まででき、そして議会まで提案されたのですが、目下それは通過せず、別な角度からやはり
特許制度を
改正しようという試みが行なわれているのであります。それは、いかに現在の
制度を維持しながらすみやかに
発明を
公開できるかどうかという、これに集中点が置かれておるのであります。そういう
意味では、各国ともこういった
一つの
制度をとりながら、それをいかに調和していこうか、こういうことに腐心をいたしております。またドイツも御承知のように一九六八年十月に
改正をいたしまして、
日本と同じ
制度、すなわち完全
審査主義に
出願公開制度というものを一八七七年からとったのでありますが、やはりそこにも
技術の
公開がおくれるということから、ここに
一つの名案をつくりまして、刊行物の
審査をして、そして一応早く
出願の
内容を
公開していこうという
制度に乗りかえたわけです。もちろんわが国の旧法はこのドイツ法を母法としておるといわれておるわけであります。
さらにオランダは、特につとに早く一九六四年にやはりこれも
早期公開ということで、ただ
早期公開では困る、ある程度予備
審査ということを言っておりますが、やはりこれは新規性の
審査をすることになると思います。こういう
制度をとりながらまいっておりますし、また御存じのように、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、ノルウェーという四カ国が統一
特許法をつくりまして、
発明の
技術公開を早くしょうという
制度に乗りかえてきておりますし、御承知のようにEECが一九六二年に条約草案を発表しておりますが、まだ実施の運びになっておりませんが、この
制度が後に先ほど申し上げましたドイツ、オランダ、ノルディック、それらの国々に
一つの影響を及ぼしたことは、このEECの草案がやはり
技術の
早期公開ということを
考えておった。それでその
特許制度をとった。すなわち御承知のようなオランダにIIBがありますが、ここではたいへん
発明の新規性というものの
調査が世界一といわれておりますが、そこで最も信用が置けるこういった機関に
調査を依頼しまして、登録の日から五年以内にあらためて
審査を請求するという
制度をとった。これが世界における
一つの先がけかと思います。
いずれにしましても、世界の
特許法は互いに従来の
制度からお互いの
制度へと歩み寄ったという傾向を示しておるのであります。したがいまして、わが国の
特許法も国内
特許法だけで済まないで、国際性を持った
権利でありますので、やはりここに
一つ歩み寄りを示していかなければならないようになってきたのは必然的なんだろうと思います。時期のいかんはともかくといたしまして、やはり
技術の
早期公開ということが、各企業におかれましても強い要望があるようであります。
かようにしまして、やはり
審査資料がたいへん膨大になっておる。ここで国際的にもPCTを通じてこれから総合的にそういう
資料を集めて、総合的に
審査をしていこうというふうな
考えが出ておるのでございます。
また一方、この無
審査主義国におきましても、
権利の安定性ということを先ほど申し上げましたが、企業化の
促進というようなことがありまして、
審査主義に移行せざるを得ない状態になってきておるわけです。この
法案もやはり完全
審査主義を貫くたてまえはとっておられるように私は
考えておりますが、十八カ月という
期間にこれを行なおうとするのですが、これはいま申し上げました各国の事情からしても、とうてい不可能なんじゃなにかと思いますが、一応そういった短い
期間に
審査を完了しようという
考え方はまことにけっこうと存じます。ただし、この
期間を過ぎたものについては
出願公開をしてしまおうというのでありますが、この
出願公開にあたっては若干の手当てをして、すなわち六十五条の二の第二項で若干の手当てをして、そして各国のように
早期公開をしていこう。ただ各国の場合は、ここに新規性をある程度国家機関の手によって行なっていこうというのと、若干の相違があるわけです。そういう点で、私はいささか幾つかの杞憂の念があるのであります。というのは、完全
審査に基づいて十八カ月以内に
審査を行なうというたてまえはこの
法案でも踏襲されていくのだろうと思いますが、それはたいへん喜ばしいことであります。企業におかれましても、
早期公開を早くということを熱望されておるわけです。ただし
現状の
審査期間から見ますと、たいへん長くかかっているようであります。ものによりますと十八カ月以内にすでにイエスかノーかの回答をもらっている種類のものもあるのでありますが、そうでないものもあるわけであります。そういう
意味で、われわれが
法案で期待する効果が薄い面もあるのではないか、こういうぐあいに思うだけのことであります。
ただここで老婆心ながら、こういうことをひとつ。従来のように
審査期間が長くかかっておりますと国民が不安でありますから、そういう不安を解消するとか
特許庁に対する国民の信頼にこたえる
意味で
現行の四十七条がありますが、ここで
審査の
期間とかあるいは
審査のやり方とか、そういったものを法律の中でこまかくきめる必要はございませんので、あるいは政令か何かにゆだねるような一項を置いていただけば、いろいろな
方々の不安もまたここで一応は解消するんじゃないかというような気もしておるのであります。
もう
一つは、やはり
発明の質の高度化なんです。この
審査をする
方々、それからその
発明者の手足となって代理をなさる弁理士の
方々、こういった
方々にも質の向上ということがたいへん大切なことではなかろうか。
出願がふえることは当然なんです。人口がふえる、頭脳が発達する、そこで
発明の数量が多くなるのはあたりまえのことであります。しかし、その質の高い
発明をいかにわれわれが
審査していくかということでありますから、
審査をするたてまえをとる以上は、どうしてもその
審査に携わる人々または
発明者の手足となって働く弁理士の方の質の向上ということが必要になってまいります。ただいまでは
特許庁におかれましては
審査官に対して研修
制度があります。ところが弁理士については、弁理士試験に合格しましても研修
制度がないのであります。最近では弁理士会におかれましても総力をあげて、弁理士試験に合格した若き人々あるいは年寄りもおりますけれ
ども、研修教育を施してまいっておるのであります。私は、願わくは司法
制度におけるような研修
制度を、国家の手で、この
特許庁へ採用なさる新規の採用者並びに弁理士試験に合格するこれらの人々を一丸とした研修
制度を確立し、そして拡充強化されることにおいて、弁理士さんの質を向上することにおいていい質の
特許出願がなされる、適正なそして迅速な
審査が行なわれていくのではなかろうか、こういうぐあいに一応は思っておるのであります。
一例を申し上げますと、こういうこともあります。ドイツ
特許庁におきましては、
技術関係の
方々は、実務経験すなわち会社の現場において実際の
技術を身につけてそれから
特許庁へ入ってくる、こういった
関係の
制度をとっていられる国もある。ということは、学校を卒業しましてすぐ
特許庁へ入りますと、現場のことがわからない。
一般技術屋が知っている
技術というものあるいはノーハウというものがあると思います。からだで教わる
技術あるいは当業者が容易に知っている
技術、そういうものは現場へ行かないとわからないのであります。そういったことを知ることが
特許明細書を読む上においてずいぶん効果があると思うのであります。そういったことも
考えられないこともないと思うのであります。たとえば
特許法二十九条の二項を運用する場合、そういう知識があると、
出願人を説得する力があると私は
考えております。そういったこともひとつ
考えていただきたいと思います。
時間もたってまいりますが、この
改正案は大てい予算を伴うものであります。その予算は国民の税金からまかなわれると承知しておりますが、
公開公報と
特許公報が重複しないような配慮をしていただきたい。でき得るならばそのようにしていただきたいものだ、こういうぐあいに私は
考えるのであります。必要限度にとどめていただきたい。ややもしますと重複して公告されることがあり得るのではなかろうかという心配があるわけであります。
もう
一つは、
改正案の中にありますが、完全
審査主義をたてまえとされる以上は、国民に対して
特許出願をすると
審査をしてもらえるということが約束されておるわけです。特に
審査請求することについてお金を取るということがどうも私はふに落ちないのであります。そうじゃなくて、完全
審査主義はやめたんだ、
早期公開だけでいくんだ、そこでいろいろな問題があったらあらためて
審査請求をするんだというならば理屈が合う、そういうようにも
考えられます。
出願料を取り
審査請求料を取る、二重に取る必要はない。
技術の
資料がたくさんあって、どうしても新規性を判断するという上においてはたいへんな労力が要る、
資料の整備も要るんだ、したがってそこにお金も要るんだというならば、
出願料を値上げなさったらどうかという気もするのであります。しかしこれも
発明の奨励という問題があるので、なかなかむずかしい問題ではあろうかと思いますが、そういった点をお
考え願えないものだろうか、こういうぐあいにも思っておるのであります。しかし、世界では、いま申し上げました
出願公開制度をとるときに、この
審査請求をするときにはやはり料金を徴収しているのであります。だから世界的傾向から見ますと、
改正法案は何ら逸脱しているところはございません。しかしわれわれが国内的に見まして、どういった費用をまかなうために取ったらよろしいか。
特許制度は国民あげて奨励し、そして育てていくものである。もうける必要は
一つもありません。国家が
投資していくものであり、その
投資によって企業が活動をし、そして国民の経済に大きい祝福をもたらしてくれるものでありますので、あまり
特許制度は国民から金を吸い上げることをお
考えにならぬほうがいい。アメリカの
特許予算もそうでございます。そういうことを
一つ、私の老婆心ながら思いついたことを申し上げてたいへん恐縮に存ずるのであります。
もう
一つ、
審査前置主義という百六十一条の二、これも拒絶査定に対する不服の道として現在は公告審判
制度が百二十一条に規定されておりますが、いままでの経験で見ますと、拒絶査定に対する審判請求で原審を、
審査官の判断を支持するというのが大体五割くらいあるとか聞いておりますが、確かな
数字ではありません。そしてあとの原審との
関係におきまして
審査官が再度
審査をする、こういうことになりますが、議事録を見てみますと、
特許庁長官もしばしば
審査官に対して
出願人にああせい、こうせいといろいろな指示をするようにということを督励されておるようでありますが、実際はたくさんの
審査官がおりますので、なかなかその訓令が届かないのだろうと思いますが、アメリカの
審査官はクレームを読んでみまして、これこれとよく似ているからおまえよく
考えてこい、そして最後にこういうぐあいにクレームを直したら
特許を許すと、こう言ってくるのであります。そうすると、わりあいそれにひっかかってくればいいのでありますが、しかし御承知のように
発明者はなかなかそうは
考えないで、
審査官の
考え方は間違っておるというので、なかなか訂正をしてこない事件もなきにしもあらず。そういった点をなるたけ先にやった
審査官にやらしたほうが早いという
考え方で、
一つの
考え方としてはなるほど
審査は早くいくでありましょう。しかし、われわれが予期するほどの効果をあげるかどうかは、これはやはり将来の問題である。そういう
意味で、一応は査定に対する不服の道が講じられておるということであります。手続的な
考え方であろうかと思います。
最後にお願いしたいことはこういうことかと思いますが、
改正法案がたとえ通過したとしても、この
新規性調査機関というのはなかなかもって難物でございまして、これは各国におきましても悩んでおりまして、国際的にこれを
検討しておるわけであります。わが国におきましてもこの新規性
調査というものを国をあげてやるかあるいは民間に委譲し、民間がやるか、いずれにしましても国家の援助を得て、この
新規性調査機関を確立する必要があろうかと思う。これは企業の側にとっては特に重要な問題であろうかと思います。こういう
意味で私は、特に当
委員会におかれましても、
新規性調査機関の設置ということを切実にお願いしたいと存じます。
たいへん長くなりまして、つたない
意見を申し上げまして恐縮に存じますが、御清聴いただきましてありがとうございました。(
拍手)