○斉藤(正)
委員 各位からかなり広範な質問がございまして、特に激甚
災害特別援助法の適用等については、概略的でありますけれ
ども、当局の御
答弁もあったわけでございます。幸いきょうは
電源開発株式会社、東北電力、
関西電力、電力
関係のお三方が
参考人として御
出席でございますので、まず、私は、
ダムの問題について基本的な質問をしてみたいと思うわけであります。各位から
ダムに関連をしたお尋ねもございました。しかし、根本的にわが国の電力開発の中で占める水力発電、この水力発電が特に国土総合開発の名のもとに戦後急速に進められた。総合開発といえば当時は水力発電だというまで言われたわけでありますけれ
ども、私は毎回の
災害対策特別
委員会で
ダムのあり方につき
建設省あるいは電力会社から見解を伺いました。どうしてもわからない点があったわけでありますけれ
ども、昨日ようやくそのわからない疑問点が明らかになりました。
それは、
昭和二十六年、中谷宇吉郎
先生がある論文を発表しているのでございますけれ
ども、この論文は主題が「
ダムの埋没」、副題が「これは日本の埋没にも成り得る」、こういうことでありまして、
ダムの埋没は即日本の埋没だ、こういう
考え方であります。
ダムには、中谷宇吉郎
先生に言わせれば二つの問題がある。その一つは合理的な
ダムの建設並びにその使用の合理化、それと
貯水池の埋没を防ぐことの二つである、こういうように言っているのであります。そして合理的な
ダムの建設並びにその使用の合理化については、まず
ダムに関連をする広域な地域の降水量の把握と降水時期の把握が絶対欠くことのできない条件だ。
ダムの埋没については、いろいろいわれているけれ
ども、これを放任する限り日本の埋没に連なる、こういう結論を出しておるわけであります。
そこで、
昭和二十六年当時、いわゆる只見水系の開発にあたって、当時の電源開発の総裁であった小坂順造氏、電力界の鬼といわれます松永安左衛門氏、これらが、私的の金であったか公的な金であったかは明らかにされておりませんけれ
ども、百六十万円をくれて、中谷宇吉郎
先生を主査とし、
河川学では現在日本の第一人者であるA博士、
砂防ではこれまた日本第一の学者でありかつ技術者たる参議院のA博士、N研究所の
理事長K氏、運輸研究所のH博士、人工放射能の専門学者、科学研究所のY博士、このほかに地質学者のH氏、治山に関心の深い
林野庁の〇〇
部長O氏、他に専門の電気技術者で信頼し得る二人の学者ということで、中谷宇吉郎
先生を含めて十人の
委員が選ばれて只見の科学的な
調査に入りました。そして、特に東北、北陸は御承知のように豪雪地帯でもありますので、降水量は雪がどれだけで水がどれだけかという
調査を始めたのであります。水につきましては、約百カ所に自動
雨量計を設置をし、雪につきましては、クマも通れないという山をかき分けて、三班を編成をし、三月十五日から奥只見の魔境と書いてありますけれ
ども、ここに入って悪戦苦闘、豪雪の
調査をやって、ほぼ陸についてはその実態をつかむことができた。かくして只見水系については、一応雪の
調査が終わり、雪が五・五に対し、雨が四・五であるという概算も生まれてきた。ところが、どういうことがあったか知りませんけれ
ども、「七月の中頃、事務局から書面が来た。あの
調査は電力会社の方で自分でやることにしたから、貴方の方はやらなくてもよろしいという意味の文面であった。メスの使い方は分ったから、手術はこちらでやるという危っかしい話である。三十年かかって出来なかったことは、一寸話を聞いたくらいではやはり出来ない。それくらいのことは、十分承知の上の話であろう。もともとこちらから頼んだ仕事ではないのだから、自由にされた方がいい。病人が治してもらひたくないというのだから、どうにも手のつけようがない。」ということを書いております。これが、いわゆる降水量の把握を水系全域にわたって科学的に検討し、そして
先ほど言いましたような合理的な
ダムの建設、合理的な
ダムの運営の資料にする、どうしてもやらなければならない基礎
調査だと中谷
先生は
考えておったわけでありますけれ
ども、ついに電力会社のほうからやめてもらいたいという通達がきてやめざるを得なかった、こういうことであります。
そういう合理的な
ダムの建設と合理的な
ダムの運営をやる科学的な基礎資料をつくることに、ときの資本がなぜ反対をしたのか、あるいはときの政府もまたそのときの科学的研究を押えたのかという点につきましては、ほぼ想像がつくわけであります。こういうことを言っております。「何故あのように必死になって、われわれの研究や
調査を妨害したか、その真意は甚だ不可解である。外からのぞかれたくない何ものかがあるのでないかという疑問が起きるのも、そうひどい邪推ではないであろう。その何ものかが、何であるかという点については、これ以上立ち入らない。ただそれは日本国土の総合開発を不成功に終らすものではなかろうかという心配はある。」こういうことを言っているのである。しかも最後に、「現在の
状態で総合開発をしたら必ず失敗すると、私は確信している。一億の人間が悠々暮せるくらいの資源がありながら、一部の人間のためにそれが資源化されないことは、如何にも残念なことである。
ダムの埋没はまだよい。それが日本の埋没にならないことを祈る次第である。」こういうことを言っているのでありまして、中谷
先生にしては、かなり激しい論文であり、かなり激しい主張だと私は思うわけでありますけれ
ども、要するに、さらに私が邪推をするならば、もしこういう事前の科学的
調査を綿密にやるならば、
ダムはつくってはならぬ、
ダムはつくるべきではないという結論にすら到達してしまう。一歩譲っても、
ダムをつくるのはよろしいけれ
ども、その
ダムは、あくまでも国民の生命、財産を守ることに主力を置き、発電は二の次、三の次だという結果になることをおそれて、この日本の権威を網羅した
調査委員会にストップを、時の資本と政府がかけたのではなかろうか、こういうふうにすら思われるわけであります。
ダムの問題に二つあると申しましたけれ
ども、実はもう一つの問題は、
先ほど言いましたように、
ダムの埋没の問題であります。この埋没につきましても、私も数回いろいろ伺いました。
ダムの埋没に関連をして
上流本川なり支派川の河床の上昇等についても、なぜ上がるのかという私の問いに対し、この前も申し上げましたけれ
ども、わかりません、鋭意これから検討をいたします、こういうことに終わっておるわけでありますけれ
ども、中谷
先生はこういうことを言っているのであります。
昭和二十六年ですよ。いま四十四年、十八年前。「次ぎは埋没防止に必要な基礎資料である。これが難問題であって、一体
洪水の場合に河底を移動する礫や岩塊の運動すら、まだほとんど分っていない現状である。これについては、安藝博士の有名な研究があるが、山間の渓流における急激な大
出水に伴う岩塊の移動については、まだ全く見当がついていない。山奥の
洪水の恐ろしさは、一度遭った人でないと、到底その姿をリアライズすることが出来ない。
洪水中は逃げるだけがせい一杯であって、測定どころのさわぎではない。それで
洪水中の岩塊の移動
状態及びその速度を測る何か新しい
方法を
考え出す必要がある。この目的にかなった巧い
方法が、この頃はある。それは人工放射能の同位元素を使うことである。原子爆弾の副産物として、いろいろな同位元素が出来るが、そのうちコバルトで非常に強いガムマ線を出すものがある。このガムマ線は、水を五米くらい通っても、容易に検出が出来る。ガムマ線は、ガイガー計数管が簡単に検出されるので、これを利用するに限る。」ということで、岩塊の移動は簡単に測定できるということが書いてありますし、また「磁歪
現象を利用した測器を作ればよいのである。特殊の成分をもった鉄で、圧力やねじを与えると、その磁性が変化するものがある。磁性の変化は簡単に電流に直すことが出来る。H博士がこの方面では熟達しているので、早速これを利用した水圧計を作ってくれた。水深を水圧で測るので、水底を一ぺんこの水圧計をひっぱると、それで断面がかけるわけである。H博士はその外に、同じく磁歪を利用して、水底に設置しておいて、その上にたまる
土砂の量だけを時間的に記録する測器も考案してくれた。試作品をみると、精度の高い見事な機械である。」こういうことで、
昭和二十六年、ロケットで月に行く今日いまから十八年前に、すでにこのコバルトを利用したり、あるいは磁石の利用によって土石の移動とかあるいは
ダムの埋没の量だとか質だとかいうものが、ほぼ見当がつく、こう言っておるのでありますよ。こういうことから
考えたときに、資本と政治は、このころから強い癒着を始めて、今日
ダム建設の前には、いやこの
ダムができれば
洪水は起こりません、この
ダムができれば水には事を欠きません、うまいことを言って
ダムをつくる、つくれば最後、居直り強盗のごとく居すわって、あの水ではどうしようもありませんでした、水は金であります、こういうことで、どのような水害を沿岸住民に与えようとも加害者意識はない、こういうようにしか
考えられないわけであります。
そこで
河川局長に伺いたいわけでありますけれ
ども、いま私が古い書物を引っぱり出して読み上げたわけでありますが、
昭和二十六年当時、いまは故人となっておられますけれ
ども、中谷
先生はこういう
調査の主査に任命をされて、しかも日本の権威を集めて研究に入った。ところがストップを食らった。ストップを食らったのは事実だからそれでしようがない。しかし、再三の私のお尋ねに対し、
洪水時の
洪水の断面についてはわかりません、こういう
答弁でありますけれ
ども、事務当局に伺いますと、
建設省もただふところ手をし、指をくわえて見ていたわけではない、あの手、この手でいろいろな研究をやっているけれ
ども、天下に公表し、実用する段階になっていないんだ、こういうようなことも聞いておるわけでありますが、
建設省は一体、こうした中谷
先生の主張を、いま私が申し上げたことを聞いて、さらに私が常々申し上げてあること等も関連をして、御見解を賜わりたい。同時に、三電力会社を代表して電源開発から、一番進んだ
考え方を性格上当然持っていなければならぬはずでございますから、設置前の科学的な総合
調査と、
ダムの埋没に対する科学的な
調査についてどのようにお
考えになり、どのようにおやりになっているのか、承りたいと思うわけであります。