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板川委員 民間の団体、
交通科学協議会という団体がありまして、ここで
交通訴訟の追跡調査をして、報告があります。その報告によりますと、判決をもらっても全く一銭ももらえないというのが二八・五%、和解が成立しても四・八%は全く一銭ももらえないという調査があります。それで、判決をもらっても一銭ももらえないというのは二八・五ですが、ちょっと払ってあとはすぐだめになったというのを加えますと三五、六%になるようであります。こういうようにせっかく判決をもらっても三分の一は一銭ももらえないという状況だということを私は念頭に置いて議論してみたいのでありますが、裁判所——これは裁判所のことを法務大臣に聞くのもあるいは多少筋違いがあるかもしれません。しかし、お互いに司法行政に
関係しておることですから、裁判所の判定がどうこうとかという
意味で言うのじゃないのです。
国民の正当な権利者が法のもとに救済されなくちゃならぬという
考え方で私は伺うのでありますが、裁判所というのは、判決を下せばそれが払われたか払われないかは、それは私のほうの知ったことではない、どうも現状はそうなっておるようであります。司法の使命というのは正当な権利者を擁護するということにあるのじゃないだろうか。そうしますと、いま裁判の結果というのが実は正当な権利者を擁護できないという現状を何らかの形で私どもはこれを検討し、反省をし、必要な
措置を
考えなくちゃならぬのじゃないだろうかと思うのです。最高裁判所を呼べばいいのですが、きょうは呼べないようですから。で、いまの裁判の制度というのは、昔、
自動車が一部の富裕階級だけの持ちものであった、そして大衆というのは人命の評価というのが非常に低くて、事故を起こしても、大体金持ちが車を持っているのですから、また安い金で、示談かあるいは裁判があっても支払われたのでありますから、そこでまあ問題がなかったように思うのです。そういう制度の中に今日の裁判制度というのは踏襲してきていると思うのです。ところが、いま
自動車所有台数が千五百万台、免許証を持つ者が三千万人、年間に百万人の死傷者が出る今日、旧来の裁判、司法行政の
概念では司法のほんとうの使命というものが果たせないという変化を来たしておるんじゃないだろうか。大学問題で、大学の総長なり教授の権威ということばかり
考えておっても、実質的にはその権威がいま崩壊しつつあるのと同じように、いまのままでいったんでは法の権威というのが
国民から守られない状態になるんじゃないだろうかというふうに私は思うのです。
そこで、判決を担保して
被害者の正当な権利を保障する何らかの制度が必要だ、法の権威を守るためにも今日の
社会において必要だと私は思います。たとえば、これは
運輸大臣の
関係ですが、自賠責の限度を大幅に引き上げて、保険の
範囲というものを拡張して担保する機能を持たせるということも
一つあると思います。これは
一つの例であります。特別に判決を担保する国の
機関というものを置くこともあってもいい。そういう方法もある。
外国の例を調べてみますと、判決の金額を特別な
機関で担保している例がある。たとえばフランスでは、強制保険料というのが年額一台について十二万六千円というふうに非常に高くて、そして保険会社は裁判所の命令した金額を支払うということになっておるそうです。保険に入ってない車が事故を起こした場合には、政府が立てかえをして加害者に請求するという制度がフランスにあるそうであります。それから米国のかなりの州では、未賠償判決基金という制度があるそうであります。判決の金額が支払われなかったときに、これは完全に百%というんじゃないようですが、一定限度までは基金から支払い、基金は加害者にその支払い額に利息をつけて返済をさせる、その返済が済むまでは運転免許証の停止をするという制度があるそうであります。またスウェーデンでは、最近保険金の限度を、死んだ場合の限度ですが、七千万から一億五百万というふうに五割方引き上げて、そして実質的には裁判の命令が出ても払えるような状況にある、そういうことだそうであります。
こういう外国の例があるように、いま非常に
自動車が多くなって、
交通事故がわれわれ身辺にも相次いで起こるような状況下にあっては——従来の、裁判所が三千万判決を下した、しかし払う者は左官屋の五十五歳のおやじさんと小僧だ。それでも三千万払うことが正当である、また
被害者の正当な権利を擁護してそういう判決を下した。それは裁判所の決定は、裁判が独立しておりますから自由ですが、しかし、これを補完して、裁判の命令、裁判所の判決をほんとうに守り得るような制度をとる必要があるんじゃないだろうか。いまのままで、出しなさい、ないそでは振れないという式であったら、
被害者も救済されないし、法の権威というのもますます失墜していくだろうと私は思うのですが、司法行政を担当しておる法務大臣としてこういう見解をどうお持ちでありましょうか。